背任罪②後編——財産上の損害〔論証53〕・図利加害目的〔最決平10・11・25〕・既遂時期・他罪との関係(詐欺優先)
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第12章 財産に対する罪 ⑮/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
247条 損害・目的の文言を再確認 〔短答・論文〕

条文の、要件を、もう一度見ます。後編で詰めるのは、この二語です。一つ目。本人に、財産上の損害を加えたとき。二つ目。利益を図り、損害を加える目的で。懲役じゃなくて、拘禁刑。覚え直しを。では、財産上の損害から、掘ります。
結果=財産上の損害——まず「全体財産罪」を思い出す 〔短答・論文〕

一つ目の要件、財産上の損害です。背任は、結果犯。損害の発生が要ります。まず、前編の軸を思い出してください。窃盗や横領みたいな、個別財産罪じゃない。だから、特定の物が減っただけでは、足りません。本人の財産が、トータルで減ったか、を見ます。これが、全体財産の減少。二種類あります。積極的損害と、消極的損害。既にある財産が、減ること。現金が出ていく、とか。入るはずの利益が、入らないこと。大判大正11・9・27が、これを含めました。どちらも、全体財産を減らしますから。
つまづきの核——同額の債権があるのに、なぜ損害? 〔短答・論文〕

ここからが、最大のつまづきです。設例を。銀行の支店長Aが、Bに1000万円を貸し付けた。ただし、回収の見込みも、担保も、ありません。銀行は、現金1000万円を、失いました。同時に、1000万円の債権を、取得しています。ここで、引っかかるんです。差し引き、ゼロに見えませんか。そう考えるのが、法的見地。権利の名目額で測る。でも、もう一つの見方があります。経済的見地。財産の、実質の価値で測るんです。回収できない相手への債権って、価値ありますか。1000万円の現金と、紙きれ。同じ価値ですか。だから、貸した瞬間に、財産は実質減ってるんです。それが、経済的見地の損害。
法的見地 vs 経済的見地 対比表 〔短答・論文〕

表で、二つの見地を、並べます。列は、測り方と、設例の評価と、損害の有無。権利の、名目額で測る。1000万と1000万。経済的見地は、実質の価値で測る。現金1000万の方が、価値が高い。判例・通説は、こっち。経済的見地です。最高裁の、決定。判決じゃなくて、決定です。この一枚で、なぜ損害が出るか、腑に落ちます。
既遂時期——損害が出た「その時」 〔短答・論文〕

損害の話の、締めに、既遂時期を。答えは、シンプル。損害が発生した時です。さっきの不良貸付なら、いつでしょう。だから、貸した瞬間に、既遂です。そこが、経済的見地のキモ。貸付時点で価値は減ってる。逆に、損害がまだ出てなければ。損害発生時イコール既遂時。一本の線です。
目的=図利加害目的——背任は目的犯 〔短答・論文〕

二つ目の要件、図利加害目的です。背任は、目的犯。故意だけじゃ、足りません。3つの目的の、どれか一つが必要です。一つ目。自己図利目的。自分の利益を図る。二つ目。第三者図利目的。第三者の利益。三つ目。本人加害目的。本人に損害を加える。この3つを、まとめて図利加害目的といいます。逆に、これを欠くと、どうなると思いますか。客観要件が全部そろっても、不成立です。目的犯だから。動機が要件なんです。
つまづき(ア)——「利益」は財産だけじゃない 〔短答・論文〕

目的の中身を、3つ補強します。まず、利益の意義。そこが、つまづきポイント。お金だけじゃ、ないんです。地位の保全、信用、面目の維持。これを、身分上の利益といいます。判例は、財産に限定しないんです。図利目的は、犯罪の動機にすぎないから。そういうことです。例を出しましょう。支店長が、自分の体面を守るため、無理な貸付を続けた。これも、自己図利目的にあたります。最決昭和63・11・21が、これを認めました。
つまづき(イ)——本人図利目的と併存したら? 〔論文〕

二つ目の補強。これが、目的の最大の山です。設例を。支店長Aが、会社Bへの貸付を続けた。このときAの心には、目的が二つ、同居します。一つ。過去の自分の不適切な貸付が、バレるのを防ぎたい。もう一つ。Bを倒産させず、投入した資金を回収したい。本人=銀行の利益を図る。本人図利目的です。ここで問題。本人図利目的があると、背任は。いい感覚です。だから、こう決めます。主従で。自己図利が主なら、背任成立。本人図利が主なら、背任不成立。同じ貸付継続でも、心の主役で割れるんです。最決平成10・11・25。これも、決定です。
図利加害目的+本人図利併存 主従判定フロー 〔論文〕

フローで、目的の判定を、整理します。ステップ1。図利加害目的が、あるか。あれば、ステップ2へ。本人図利目的が、併存してるか。併存してなければ、そこで背任成立です。ステップ3。いずれが、主たる目的か。図利加害が主なら、成立。本人図利が主なら、不成立。最後に、吹き出しを一つ。認識の程度。図利・加害は、未必的認識で足ります。確定的認識や、意欲までは、要りません。最決昭和63・11・21。利益の意義と、同じ判例です。
未遂——250条 全文カード 〔短答・論文〕

三つ目のテーマ、未遂です。条文を全文で。「この章の罪の未遂は、罰する」。これだけです。背任を含む、この章の罪の未遂を、処罰します。論点6で、やりました。財産上の損害の発生で。さっきの一本の線が、ここに効きます。だから、損害を論じれば、未遂も決まります。
他罪との関係——欺罔が絡めば詐欺優先 〔短答・論文〕

最後に、他罪との関係。詐欺と、背任です。任務に背く行為が、本人を騙すことを含むときに、重なる。騙して、本人に財物や利益を交付させた場合。詐欺罪のみ、成立します。背任は、立ちません。設例を。会社AとBの、立木の売買です。Aの係員Xが、立木の数を、過大に報告した。それで、Aに買わせて、損害を与えた。詐欺罪のみ。大判昭6・2・29、最判昭28・5・8です。騙して交付させる方が、悪質でしょう。詐欺で、全部評価できる。だから背任は重ねません。前編でやった区別に、送ります。領得か、背信か。960条。刑法各論の、射程外。一言だけにします。
短答ひっかけ

整理します。①財産上の損害。判断は、経済的見地。無担保不良貸付は、貸付時に損害。出てなければ、未遂250です。自己図利、第三者図利、本人加害の、どれか。本人図利と併存したら、主従で決める。④欺罔して交付させたら、詐欺優先。全体の軸は、損害は経済的見地、目的は主従。
📝 論文の型

論文の型です。財産上の損害の、判断基準。太字だけ。全体財産に対する罪、全体財産の減少。法的見地ではなく経済的見地から、貸付の時点で。①背任は全体財産罪。だから全体の減少が損害。③回収見込みのない債権は、経済的価値が低い。この四ステップで、組み立てられます。

答案の型です。1000万円の、無担保貸付の設例。現金を失う一方、同額の債権を取得=損害ありや。あてはめは、経済的見地で。だから債権の、経済的価値が低い。形式の差引でなく、実質の価値で、当てはめる。
今日の地図(保存版)

まとめます。前編で、背任とは何かを固めました。後編は、残り2要件。損害と、目的。全体財産罪だから、全体の減少。経済的見地で測る。②既遂は、損害発生時。未発生なら未遂250。自己・第三者・本人加害の、どれか。利益は身分上も含む。認識は、未必で足りる。これで、背任罪が、完結です。長い財産罪の章、お疲れさまでした。盗品等に関する罪、256条です。財産罪のあと始末を、扱う罪です。257条。お疲れさまでした。