事後強盗罪への途中関与(後編)
前編の設例を変え、窃盗に関与していない乙が甲の求めに応じて自らVを押さえつけた場合の罪責を答案の順に書く後編。甲は窃盗の機会の継続中の暴行として強盗傷人罪。乙については、事後強盗罪を窃盗犯人の身分による真正身分犯と解したうえで、身分のない者も身分者の行為を利用して保護法益を侵害できることから65条1項の「共犯」には共同正犯も含まれると解し、共同実行の意思・事実と傷害結果の帰責をあてはめて強盗傷人罪の共同正犯とする。最後に完成答案で通し、事後強盗罪の見方で乙の罪名が変わることを比べる。
印刷のコツ
プリンターでは次の設定がおすすめです。
- 用紙:A4 / 向き:縦
- 拡大縮小:「実際のサイズ」(フィット縮小しない)
- 両面印刷:オン、とじ方は「長辺をとじる」(左綴じ)
- モノクロ印刷OK(強調は色でなく太字なので白黒でも読めます)
ゼロから刑法 論文/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
事例
図:甲・乙とVの経緯
深夜の無人のコインランドリーで、甲は両替機のドラム缶に入った小銭の袋を盗み出しました。窃盗は既遂です。異音に気づいた経営者Vが自宅から飛び出し、立ち去る甲の後ろ姿を見て追跡を始めます。甲は袋を抱えて全力で走り、Vは大声を上げながら追い続けました。途中で甲が暗い路地に入り、Vは一瞬甲の姿を見失いかけます。けれども路地の先の街灯の下ですぐに甲を見つけ直し、追跡を続けました。追いつかれそうになった甲は、自転車で通りかかった旧知の乙に出くわします。甲が「盗みがばれて追われている」と話すと、乙は甲が逮捕を免れようとしていると察しました。乙は荷台の工具袋からスパナを取り出し、甲に手渡します。ここから先が、今回の事例の分かれ目です。そこへVが追いつき、甲の上着をつかみました。甲が乙に「押さえてくれ」と叫ぶと、乙はうなずいてVの背後に回り、Vの両腕を後ろから抱え込んで押さえつけます。
甲は身動きのとれなくなったVの肩をそのスパナで殴打し、加療2週間の傷害を負わせました。甲と乙は、その場から逃走しています。問いは1つです。甲と乙の罪責は。
第1 甲の罪責
図:甲には強盗傷人罪が成立する
まず甲です。甲の罪責は、乙がどう関わったかによって変わりません。小銭の袋を盗んだ行為は窃盗罪、235条にあたり、既遂です。そのあとの暴行については、次の2つの条文で考えます。
条文刑法238条
刑法238条(事後強盗) 窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。
条文刑法240条
刑法240条(強盗致死傷) 強盗が、人を負傷させたときは無期又は六年以上の拘禁刑に処し、死亡させたときは死刑又は無期拘禁刑に処する。
事後強盗罪が成立すれば「強盗として論ずる」ので、240条の「強盗」にあたります。238条の主体・目的・暴行の程度は、すぐに当てはまります。甲は窃盗犯人で、逮捕を免れるために、金属のスパナでVの肩を殴っています。強盗として扱う以上、暴行も相手の反抗を抑圧するに足りる程度が要ります。スパナでの殴打は、これにあたります。引っかかるのは、Vが一瞬甲を見失いかけた点です。規範は前回と同じです。事後強盗罪が「強盗として論ずる」とされるのは、窃盗と暴行・脅迫とが一体として強盗と同視しうるからである。そこで、本罪の暴行・脅迫は、窃盗の機会の継続中、すなわち被害者等による発見・財物の取返し・逮捕がなお可能な状況の下で加えられたことを要すると解する。本件でVが見失いかけたのは一瞬で、追跡は途切れていません。Vはなお、甲を捕まえ、小銭を取り返せる状況にありました。甲の暴行は窃盗の機会の継続中に加えられています。よって甲には事後強盗罪が成立し、Vを負傷させていますから強盗傷人罪、240条前段が成立します。窃盗罪はこれに吸収されます。
乙との共同は、甲の罪責には書かず、乙の側で書きます。乙の罪責が決まったところで、甲と乙は共同正犯になる、と最後に結びます。
第2 乙の罪責——問題提起
図:窃盗に関与していない乙に、事後強盗罪の共同正犯が成立するか
次に乙です。乙は甲の窃盗が終わったあと、暴行の段階から甲と意思を通じ、自分でVを押さえつけています。だから問いの立て方が変わります。窃盗に関与していない乙に、窃盗を前提とする事後強盗罪、つまり強盗傷人罪の共同正犯が成立するかが問題となります。
条文刑法60条
刑法60条(共同正犯) 二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。
これが60条です。ただ、共同正犯の要件に入る前に決めることがあります。事後強盗罪を結合犯と解すれば承継的共犯の問題になり、身分犯と解すれば65条の問題になります。結合犯と見るなら、窃盗と暴行を合わせたものが1つの実行行為です。乙はその後半にだけ加わったので、先に終わった窃盗の分まで負うのかが問われます。身分犯と見るなら、窃盗犯人という立場のある者だけが犯せる罪です。その立場のない乙の扱いを決めている65条の問題になります。法的性質によって乙の処理が異なるので、まず事後強盗罪の法的性質が問題となります。
乙の罪責——事後強盗罪の法的性質
⭐ 論文で書く規範:事後強盗罪の法的性質 事後強盗罪を結合犯と解すると、窃盗に着手しただけで本罪の未遂が成立しかねず、妥当でない。 238条は「窃盗が」と主体を限定しているから、窃盗犯人であることは本罪の身分にあたる。 そして、本罪は財産犯であって暴行罪・脅迫罪の加重類型ではないから、窃盗犯人の身分によって構成される真正身分犯と解する。 (規範(有力説で立てる))
図:規範と答案の型|事後強盗罪の法的性質
前回と同じ規範です。3文を短く確かめます。1つ目の文。さきほどのとおり、結合犯なら窃盗も実行行為の一部です。すると、窃盗に手をつけた時点で本罪の実行が始まり、まだ誰も殴っていないのに未遂になってしまいます。2つ目の文。238条は「窃盗が」と書いていますから、窃盗犯人という立場が身分です。3つ目の文。身分があって初めて罪になるのが真正身分犯、身分によって刑が重くなったり軽くなったりするだけなのが不真正身分犯です。事後強盗罪は、窃盗と同じ章に置かれた財産犯で、暴行罪を重くしたものではありません。だから、窃盗犯人という身分があって初めて成り立つ真正身分犯と見ます。答案はこの真正身分犯の立場で書きます。
ただ今回は、乙に65条1項を当てるときに、もう1つ考えることが出てきます。
65条1項の「共犯」に共同正犯は含まれるか
図:65条1項の「共犯」で争いがあるのは、共同正犯のときだけ
前回の乙は、スパナを渡しただけでした。そのとき、65条1項の「共犯」に幇助が含まれることには争いがない、と確かめました。では、争いがあるのは、どんな関わり方をしたときでしたか?自分も実行に加わったとき、つまり共同正犯のとき、でした。今回の乙は、まさにそれにあたります。条文をもう一度見ます。
条文刑法65条
刑法65条 1項「犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても、共犯とする。」 2項「身分によって特に刑の軽重があるときは、身分のない者には通常の刑を科する。」
1項は、身分によって構成される犯罪に加わった身分のない者を「共犯とする」と定めます。2項は、身分によって刑の重さが変わる犯罪の規定で、最後にもう一度使います。幇助は、身分のある甲の実行を手伝うだけで、自分では実行行為をしません。身分のない人が手伝うことに無理はないわけです。ところが共同正犯は、自分も正犯として実行する形です。事後強盗罪の実行行為は、「窃盗が」行う暴行・脅迫です。窃盗犯人でない乙に、それを実行することができるのか。ここで疑問が生まれます。
図:非身分者が身分者と共同して真正身分犯を実行した場合
答案ではこう立てます。乙は幇助にとどまらず、甲と意思を通じて自らVを押さえつけ、暴行を分担している。そこで、非身分者が身分者と共同して真正身分犯を実行した場合、65条1項により真正身分犯の共同正犯が成立するか。同項の「共犯」に共同正犯が含まれるかが問題となる。
⭐ 論文で書く規範:65条1項の「共犯」と共同正犯 この点、真正身分犯において非身分者による実行行為は考えられないから、65条1項の「共犯」は教唆犯・幇助犯に限られるとする見解がある。 しかし、身分のない者も、身分のある者の行為を利用することによって真正身分犯の保護法益を侵害することは可能である。 そこで、65条1項の「共犯」には、教唆犯・幇助犯のみならず共同正犯も含まれると解する。 (規範(判例で立てる))
図:規範と答案の型|65条1項の「共犯」と共同正犯
以前見た論点を、答案の3文で確かめます。1つ目の文は、否定する見解です。真正身分犯では、身分のない者が実行行為をすることは考えられない。だから「共犯」は教唆犯と幇助犯に限る、という考え方です。2つ目の文で、これに切り返します。身分のない者も、身分のある者の行為を利用すれば、真正身分犯の保護法益を侵害できる。この事例で確かめてみましょう。かりに乙が甲とは無関係に、たまたまVを押さえつけただけだとしたら、どんな罪の問題になりそうですか?甲と無関係に押さえつけただけなら、窃盗犯人でない乙の暴行は、事後強盗罪の問題にはなりません。ところが今回の乙は、窃盗犯人である甲と組んで押さえつけています。甲の暴行と合わさることで、窃盗犯人が逮捕を免れるために暴行する、という事態を現に作り出しています。侵されているのは、Vの身体の安全と、小銭を取り返す機会の両方です。事後強盗罪が守ろうとしているこの2つを、乙は甲の行為を利用して侵害しているわけです。
だから3つ目の文で、「共犯」には共同正犯も含まれると解します。判例も、身分のある者の行為を利用して保護法益を侵害できる、という同じ理由で、65条1項による共同正犯の成立を認めています。
図:65条1項により、乙にも事後強盗罪の共同正犯が成立しうる
ですから本件では、65条1項により、乙にも事後強盗罪の共同正犯が成立しえます。「成立しうる」で止めるのは、なぜですか。65条1項は、身分のない乙にも共同正犯の道を開くだけだからです。乙が本当に共同正犯といえるかは、次に60条の要件で確かめます。
共同正犯の成立
図:共同実行の意思と共同実行の事実
60条の「共同して犯罪を実行した」は、共同実行の意思と共同実行の事実に分けて当てます。まず意思です。甲が「押さえてくれ」と叫び、乙はうなずいてVを押さえつけています。事前の打合せがなくても、犯行の現場で意思を通じれば足ります。しかも乙は、スパナを渡した時点で、甲が窃盗犯人で逮捕を免れようとしていると知っていました。その場で互いの意思が通じ合っていれば足ります。乙は甲の目的まで分かったうえで、それに応じています。次に事実です。乙はVの両腕を後ろから抱え込んでいます。これは、事後強盗の暴行の一部を乙自身が受け持ったということです。意思も事実もそろいますから、乙は正犯として加わっています。
傷害の責任
図:傷害は甲の一撃から生じた。乙も責任を負うか
ここで1つ考えてみてください。Vにけがをさせたのは、甲のスパナの一撃です。押さえていただけの乙も、このけがの責任を負うのでしょうか?共同正犯は、互いの行為を利用し合って1つの犯罪を実現します。だから、一部を実行した者も全体の責任を負います。以前見たとおり、これは結果的加重犯でも同じです。240条前段も、強盗から傷害という重い結果が出たときに重く罰する結果的加重犯です。基本犯の共同正犯が成立していれば、共犯者の一人がその機会に生じさせた重い結果は、ほかの共犯者にも及びます。判例もそう解しています。この事例の基本犯は、事後強盗の暴行です。乙がVを動けなくしたからこそ、甲の一撃は確実に当たりました。乙の押さえつけと甲の殴打は、一体の暴行です。傷害はその暴行から生じていますから、乙にも及びます。
判例は、重い結果である傷害についての過失は要らないとします。基本犯の暴行と傷害の間に因果関係があれば足りる、という立場です。一方、過失が要るという立場では、共同正犯の場面なので、前に見たとおり、2人に傷害を避けるべき共同の注意義務があり、それに共同して違反したかを問います。乙は、甲がスパナを手にしていると知りながらVを押さえつけています。2人とも傷害の発生を予見でき、避けるべき立場にありながら、一緒に暴行を加えています。ここまで書いておけば、過失が要るという立場からも足ります。乙1人の予見可能性を書けば足りた、前回の幇助とはここが違います。
結論
図:乙には強盗傷人罪の共同正犯が成立する
よって、乙には強盗傷人罪の共同正犯が成立し、甲と乙は強盗傷人罪の共同正犯となります。条文は、65条1項、60条、240条前段、238条です。身分の根拠、関与の形、罪、その前提、の順です。幇助の62条1項が、共同正犯の60条に入れ替わっただけです。
完成答案
図:完成答案:第1 甲の罪責
こちらが完成答案です。まず甲の罪責です。窃盗罪から、窃盗の機会の規範とあてはめ、強盗傷人罪の結論までが書かれています。動画を止めて、見てみてください。
図:完成答案:第2 乙の罪責(1)
次は乙の罪責です。問題の所在と、事後強盗罪を真正身分犯と解する規範が書かれています。止めて、確かめてください。
図:完成答案:第2 乙の罪責(2)
続いて、65条1項の「共犯」に共同正犯が含まれるかの問題提起と規範、そしてあてはめです。ここも止めて、見てみてください。
図:完成答案:第2 乙の罪責(3)
最後は、共同実行の意思と事実、傷害の責任、そして結論です。こちらも止めて、確かめてください。
事後強盗罪の見方で、乙の罪名が変わる
図:事後強盗罪の見方で、乙の罪名が変わる
最後に、事後強盗罪をどう見るかで乙の結論がどう変わるかを、1枚で確かめます。1行目が、今回の答案の立場です。真正身分犯と見れば65条1項に入り、乙は強盗傷人罪の共同正犯になります。2行目は不真正身分犯説です。事後強盗罪を暴行罪の加重類型と見るので、65条2項に入ります。2項の文言は「通常の刑を科する」ですが、判例・通説は、2項が罪の成立と刑をまとめて定めていると読みます。ですから、身分のない乙には最初から通常の罪、つまり暴行罪の共同正犯が成立します。そこから傷害が生じていますから、傷害罪の共同正犯になります。
3行目は結合犯説です。窃盗も実行行為の一部と見るので、乙は後半だけに加わったことになります。すでに終わった窃盗の分まで責任を負うのか、という承継的共犯の問題です。乙は共同正犯として加わっていますから、承継的共同正犯の問題になり、罪名はその成否で決まります。今回の答案は、1行目の道を最後まで書き切りました。
参照条文
- 刑法60条
- 刑法65条1項
- 刑法238条
- 刑法240条