住居侵入罪の「侵入」の書き方
借金に困った甲が、現金を盗む目的を隠して「お茶でも」とV宅に上がり、同じ日に財布を盗む目的で一般開放日の区立体育館に入った事例で、住居侵入罪・建造物侵入罪(130条前段)の「侵入」を答案に書き切る回。V宅は、目的を隠して得た承諾は真意に出たものではなく無効(最大判昭24・7・22)=知っていたら入れなかったかが決め手。体育館は、誰でも入れる場所でも、外観が普通でも、立入りの目的からみて管理権者が容認していないと合理的に判断できれば侵入にあたる(最判昭58・4・8・最決平19・7・2)。立入りの時点で盗む目的がない場合・運動目的の場合は不成立になることを、事実を1か所ずつ変えて確かめる。
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事例
図:土曜の2つの立入り
土曜の午前10時ごろです。30代の会社員の甲が、近所の一軒家の玄関に立っています。借金の返済に困っている甲は、この家に一人で住む70代の女性、Vの居間の簞笥に、現金があることを知っています。甲は、玄関でVに言いました。「近くまで来たので、お茶でも飲みに寄らせてください」。Vは笑顔で答えます。「どうぞ上がって」。甲は、玄関から居間に上がりました。甲は、機会があれば簞笥の現金を持ち出そうと考えていて、それをVには隠しています。Vは、甲の近所に住む顔見知りです。Vは、のちに、こう述べています。甲が現金を盗むつもりだと知っていたら、家には上げなかった。午前10時40分ごろ、Vがお茶を入れに台所へ立った間に、甲は簞笥から現金10万円を取り出して、上着に入れます。「急用を思い出した」と告げて、帰りました。
図:甲とVと館長の関係
午後2時ごろ、甲は、区立の体育館に入ります。土曜は運動や見学のための一般開放日で、区民に限らず、誰でも無料で入れます。入口に受付はありません。職員が館内に常駐していて、閉館後は施錠されます。入口と更衣室には、「ロッカーの貴重品は必ず施錠してください。盗難にご注意ください」という掲示があります。甲は、運動用のシャツと短パン姿で、そのまま入館しました。様子は、ほかの利用客と変わりません。職員は、甲に声をかけませんでした。けれども甲は、他の利用客のロッカーから財布を盗む目的で入っています。館長は、のちに、こう述べています。財布を盗む目的の人を入館させるつもりはなかった。
Vは笑顔で通し、職員は声をかけませんでした。どちらの場面でも、止められていないのに、本当の目的を知っているのは甲だけです。午後2時20分ごろ、甲は、更衣室の、施錠されていないロッカーから、他の利用客の財布を取り出して持ち去りました。問いは次の1つです。甲の罪責のうち、V宅に上がった行為と体育館に入った行為について、住居侵入罪、建造物侵入罪の成否を論じなさい。ただし、現金や財布を取った行為は除きます。
検討の順番
図:甲とVと館長の関係
立入りは2つあります。時間の順に、V宅、体育館の順で見ます。V宅は、Vが「どうぞ」と承諾している場面です。承諾があっても、本当の意思に反していれば侵入になる、という形を、ここで先に押さえます。体育館では、館長は一人ひとりに承諾を出していませんが、誰でも入れる、という許可を出しています。V宅で押さえた形の、承諾のところを、その許可に置き換えれば、体育館も同じ形で考えられます。ですから、承諾から見ます。どちらの立入りも、まず、どこに入ったのか、つまり客体を確かめます。そのうえで、「侵入」といえるかを検討します。問題として立つのは、どちらも、「侵入」のところです。
客体
図:甲とVと館長の関係
客体を確かめる前に、前に確認したことを思い出してください。「住居」とは、どんな場所のことでしたか?人が起臥寝食に使っている場所です。寝起きして、食事をして暮らしている場所のことです。では、条文を見ます。
条文刑法130条
刑法130条(住居侵入等)
正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金に処する。
成立要件は条文どおりで、正当な理由がないのに、人の住居、または人の看守する建造物に、侵入したことです。後半の、退去しなかった場合は、今回は扱いません。条文の言葉のうち、客体の意味を確かめます。
⭐ 論文で書く規範:客体の確定
「住居」とは、人の起臥寝食に使用されている場所をいう。「人の看守する」とは、事実上管理・支配するための人的・物的設備を施すことをいい、「建造物」とは、住居・邸宅にあたらない建造物をいう。
(定義(客体の確定))
V宅は、Vが一人で暮らしている自宅です。人の起臥寝食に使用されている場所ですから、人の住居にあたります。体育館は、居住用ではない区立の建物です。人が住むための建物でも、空き家のように、いま住居として使われていないものが、邸宅です。体育館は、人が住むための建物ではありませんから、住居にも邸宅にもあたらないので、建造物にあたります。館長が、この建物を管理する権限を持つ管理権者として、職員を置き、閉館後は施錠しています。人的にも物的にも設備を施して、事実上管理・支配していますから、人の看守する建造物にあたります。
「看守する」は、見張りを立てることに限りません。職員を置く、鍵をかける、といった、管理するための人や物の備えがあればよいのです。体育館には、そのどちらもあります。ですから、どちらも客体は問題になりません。ここで時間を使わず、争点の、「侵入」に進みます。
立入り1 目的を隠して得た承諾
図:甲とVと館長の関係
V宅から見ます。Vは、「どうぞ上がって」と言っています。承諾があるのに、「侵入」といえるのか。甲は、現金を盗む目的を隠していました。承諾が、目的を隠して得られたものでも、「侵入」にあたるのか。ここが問題になります。規範は、こうです。
⭐ 論文で書く規範:「侵入」の意義(錯誤に基づく承諾)
「侵入」とは、住居権者の意思に反する立入りをいう。そして、住居権者の承諾は、真意に出たものであることを要するから、欺かれて与えた承諾は無効であり、これに基づく立入りは「侵入」にあたると解する。
(規範(最大判昭24・7・22 ほか参照))
図:規範カード|「侵入」の意義(錯誤に基づく承諾)
第1文は、侵入の定義です。住居権者の意思に反する立入り。住居権者とは、その住居に誰を入れるかを決められる人で、ここではVです。Vの意思に反していれば、侵入になります。Vは承諾していますから、普通に考えれば、意思に反してはいません。第2文が、その見方を変えます。承諾は、真意に出たものであることを要する。ですから、欺かれて与えた承諾は無効で、無効な承諾に基づく立入りは、侵入にあたる、と続きます。最高裁の大法廷は、次のように述べています。
判例最大判昭24・7・22 刑集3巻8号1363頁
目的を隠した承諾を扱った大法廷判決
強盗の意図を隠して「今晩は」と挨拶し、家人が「おはいり」と答えたのに応じて住居にはいつた場合には、外見上家人の承諾があつたように見えても、真実においてはその承諾を欠くものであることは、言うまでもないことである。
外見上は承諾があるように見えても、真実はその承諾を欠く。では、なぜ「真実は承諾を欠く」といえるのか。承諾は、本人が、事情を知ったうえで与えるから意味があります。目的を偽って引き出した「どうぞ」は、相手の本当の意思に出たものではありません。そこで、カードの第2文のように、欺かれて与えた承諾は無効、と考えます。決め手は、1つです。本当の目的を知っていたら、入れたか。入れなかったといえるなら、その承諾は、真意に出たものではありません。事実を拾って、確かめましょう。観点だけを、表にして示します。
図:承諾について拾う観点
左は、承諾を得た経緯。真ん中は、知っていたら入れたか。右は、Vの承諾です。
図:承諾について事実で拾う
承諾を得た経緯から。甲は、「お茶でも飲みに寄らせてください」と言いました。その裏で、簞笥の現金を盗む目的を隠しています。Vが、「どうぞ上がって」と応じたのは、この言葉を聞いたからです。Vは、甲に欺かれて、承諾を与えています。次に、知っていたら入れたか。Vは、甲が現金を盗むつもりだと知っていたら、家に上げなかった、と述べています。入れなかった、といえます。ですから、Vの承諾は、真意に出たものではなく、無効です。甲が上がった行為は、住居権者Vの意思に反する立入りで、「侵入」にあたります。甲は、そこまで分かっていたんでしょうか。分かっていました。甲は、盗む目的を知られれば、Vが自分を上がらせないと分かったうえで、目的を隠しています。故意があります。盗むための立入りですから、正当な理由もありません。
立入り2 誰でも入れる場所に違法な目的で入った
図:甲とVと館長の関係
体育館です。土曜は、誰でも自由に入れます。館長は、来る人ひとりひとりに許可を出す代わりに、前もってまとめて許可を出しています。これを、包括的同意と言います。甲は、入館のとき、運動用の姿で、見た目は一般の利用客と変わりませんでした。それでも、他の利用客の財布を盗む目的で入った甲の立入りは、「侵入」にあたるのか。規範は、こうです。
⭐ 論文で書く規範:「侵入」の意義(一般に立入りが許された場所)
「侵入」とは、管理権者の意思に反する立入りをいう。もっとも、一般に公開された場所については、通常の態様の立入りである限り、管理権者の包括的同意の範囲内にある。したがって、このような立入りは「侵入」にあたらない。
(規範(包括的同意の考え方で立てる))
図:規範カード|「侵入」の意義(一般に立入りが許された場所)
第1文の定義は、V宅と同じ形ですが、主語が、管理権者に変わっています。第2文の包括的同意が、さきほどの、前もってまとめた許可です。誰でも入れる、と開いている場所なら、管理権者は、通常の態様、つまり、ほかの利用客と同じような姿で入る人を、あらかじめ認めています。ですから、第3文のとおり、そうした立入りは、侵入にあたらない、と続きます。見た目だけで、決めてはいけません。入口を通る姿が、外から見て普通なら、包括的同意の範囲内だ、とみる立場があります。以前の回で見た、2つ目の立場です。第3文は、この立場の言い方です。これに対して判例は、外観が普通でも、目的からみて管理権者の意思に反することが明らかなら、侵入にあたるとします。答案は、判例の側で書きます。運動しに来た人のように、目的も普通の立入りなら、3文のとおり侵入にあたりません。ですから、この3文は原則として残し、そのあとに、ただし、と判例の線を続けます。最高裁は、次のように述べています。
判例最判昭58・4・8 刑集37巻3号215頁
管理権者が容認していないと合理的に判断されるときの判決
刑法一三〇条前段にいう「侵入シ」とは、他人の看守する建造物等に管理権者の意思に反して立ち入ることをいうと解すべきであるから、管理権者が予め立入り拒否の意思を積極的に明示していない場合であつても、該建造物の性質、使用目的、管理状況、管理権者の態度、立入りの目的などからみて、現に行われた立入り行為を管理権者が容認していないと合理的に判断されるときは、他に犯罪の成立を阻却すべき事情が認められない以上、同条の罪の成立を免れないというべきである。
この判決は、まず、侵入を、管理権者の意思に反して立ち入ることと定義しています。カードの第1文と同じです。意思が基準ですから、管理権者が、入るな、とはっきり言っていなくても、構いません。場所の性質、使用目的、管理状況、管理権者の態度、立入りの目的などからみて、管理権者が容認していないと、合理的に判断できるなら、意思に反する立入りになります。もう1つ。外観が普通でも、どうなのかを述べた決定です。
判例最決平19・7・2 刑集61巻5号379頁
外観が普通でも侵入にあたるとした決定
以上の事実関係によれば、被告人らは、現金自動預払機利用客のカードの暗証番号等を盗撮する目的で、現金自動預払機が設置された銀行支店出張所に営業中に立ち入ったものであり、そのような立入りが同所の管理権者である銀行支店長の意思に反するものであることは明らかであるから、その立入りの外観が一般の現金自動預払機利用客のそれと特に異なるものでなくても、建造物侵入罪が成立するものというべきである。
この決定が、理由に挙げているのは、2つです。立入りの目的。そして、その立入りが管理権者の意思に反することが明らかであること。この2つがそろえば、外観が一般の利用客と特に異なるものでなくても、侵入にあたります。外観が普通だから侵入ではない、とは、いえません。侵入かどうかを決めるのは、管理権者の意思です。外観は、その意思に沿っているように見える、というだけで、意思そのものではありません。V宅で、「どうぞ」という言葉があっても、承諾を欠いたのと同じです。ここまでの考え方を、事実を拾うための物差しにまとめます。
⭐ 論文で書く規範:公開された場所での判断の物差し
①その場所は、どんな趣旨で開かれているか。②立入りの外観・態様は、通常か。③立入りの目的や、その場所の性質・管理状況・管理権者の態度からみて、管理権者が容認していないと合理的に判断できるか。
(事実を拾う手がかり)
事実を拾って、確かめましょう。観点だけを、表にして示します。
図:包括的同意について拾う観点
左は、開放の趣旨と管理の状況。真ん中は、甲の目的と外観。右は、包括的同意の範囲です。
図:包括的同意について事実で拾う
開放の趣旨から見ます。体育館は、誰でも運動や見学ができるように、一般開放日に無料で開いている施設です。入口と更衣室には、盗難に注意するよう呼びかける掲示もあります。館長が包括的に同意しているのは、この利用目的に沿った立入りです。甲は、他の利用客の財布を盗む目的で入りました。外観は、一般の利用客と変わりません。けれども、他人の財布を盗む目的の立入りは、体育館を開いた趣旨に沿いません。盗難への注意を掲示で呼びかけている館長が、容認するものでもありません。館長自身も、財布を盗む目的の人を入館させるつもりはなかった、と述べています。ですから、甲の入館は、包括的同意の範囲に入っていません。外観が一般の利用客と変わらなくても、館長が容認していないと合理的に判断できます。管理権者の意思に反する立入りで、「侵入」にあたります。
甲は、その点を分かっていたんでしょうか。分かっていました。盗む目的の者を体育館が受け入れないと分かったうえで、他の利用客を装って入館しています。故意があります。財布を盗むための立入りに、正当な理由はありません。
事実を1か所ずつ変える
図:変形の事実
事実を1か所ずつ変えて、結論が動く場面を見ます。V宅から。甲は、Vの現金を盗むつもりなど、ありませんでした。ただ、お茶を飲みに寄らせてほしいと思って、玄関で声をかけ、Vの承諾を得て上がります。居間で話すうちに、Vが台所に立った間、簞笥の現金が目に入り、はじめて、持ち出そうと考えました。体育館は、甲が、運動をするために入館した場合です。入館時の様子は、基本事例と同じです。観点を、表にして示します。
図:変形で拾う観点
左は、承諾や同意の内容。真ん中は、立入りの時点の目的。右は、侵入罪の成否です。上下には、2つの場面を並べています。
図:変形で事実を拾う
見るのは、どちらも、立入りの時点です。侵入にあたるかは、立入りの時点で、承諾が真意に出たものか、包括的同意の範囲内か、で決まります。V宅から。甲は、立入りの時点で、盗む目的を隠していません。そもそも、盗む目的がありませんでした。Vの承諾は、真意に出たもので、無効にはなりません。Vの意思に反する立入りとはいえず、住居侵入罪は成立しません。侵入は、入るという行為が、その時点の住居権者の意思に反するかを問うものです。上がった時点で、甲は何も隠しておらず、Vは本当の意思で承諾していました。あとから生じた盗む気持ちは、さかのぼって、入った行為を変えません。それは、現金を持ち出した行為のほうの問題で、今回の問いの外です。体育館です。運動のための立入りは、館長が体育館を開いた趣旨に、そのまま沿っています。館長が容認していないと合理的に判断できる事情は、ありません。通常の態様の立入りで、包括的同意の範囲内です。建造物侵入罪は成立しません。4つの場面を、1枚の表に並べて整理します。
図:4つの場面の整理
V宅の線は、立入りの時点で、目的を隠して承諾を得たか。言い換えると、知っていたら入れたか、です。体育館の線は、立入りの目的が、開いた趣旨からみて、管理権者が容認しないと合理的に判断できるか、です。基本事例は、どちらも、線を越えています。変形は、どちらも、線の手前です。
結論
図:甲の罪責の検討結果
結論です。甲には、V宅に上がった行為について住居侵入罪、体育館に入った行為について建造物侵入罪が成立します。どちらも、刑法130条前段で、法定刑は、3年以下の拘禁刑、または10万円以下の罰金です。別の機会に別の場所へ立ち入った行為ですから、2つは別個に成立します。そのあとの窃盗は、今回の問いの外です。
完成答案
図:完成答案:V宅の客体と侵入の規範
こちらが完成答案です。V宅を第1、体育館を第2、結論を第3に置いています。1枚目は、第1のV宅です。客体を確かめ、侵入について、さきほど、ここが問題になります、と立てた問いを問題提起として書き、規範を続けます。
図:完成答案:V宅のあてはめ
2枚目は、V宅のあてはめです。さきほど、承諾について事実で拾った表の中身を、文章にしています。最後に、正当な理由と故意を添えています。
図:完成答案:体育館の客体と侵入の問題提起
3枚目からは、第2の体育館です。客体を確かめ、侵入の問題提起を立てています。
図:完成答案:体育館の侵入の規範
4枚目は、体育館の規範です。カードの3文を原則に置き、ただし、と判例の線を続けた、2段で書いています。
図:完成答案:体育館のあてはめ
5枚目は、体育館のあてはめです。包括的同意について事実で拾った表の中身を、文章にしています。
図:完成答案:体育館の正当な理由・故意と結論
6枚目は、正当な理由と故意を添えて、結論で閉じています。
参照条文
- 刑法130条