刑法ゼロから刑法 論文

因果関係の規範と直接実現型のあてはめ(危険の現実化・集積型)

脇見運転で歩行者をはねた甲の事例で、通りかかった第三者が善意で被害者を移動させた介在事情があっても因果関係が認められるかを検討する実演回。危険の現実化(集積型)の規範を立て、あてはめの3類型のうち直接実現型を選び、完成答案まで書き切る。

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ゼロから刑法 論文/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

答案の全体像:争点を因果関係に絞る

板:過失運転致死罪の骨格と争点

甲の罪責を検討する前に、答案の骨格を先に見ておく。甲に過失運転致死罪が成立するかを検討する。条文はこちら。

条文 自動車運転死傷行為処罰法5条(過失運転致死傷)

条文どおりの成立要件は、①注意を怠ったこと、②それによって死傷させたこと。条文を読めばそのまま出てくる要件なので、逐語で覚える必要はない。過失も結果も、事例を見ればすぐ認定でき、争いはない。本当の勝負どころは、②の「よって」の部分である。甲の行為とVの死亡を結ぶ因果関係、ここに丙の介在事情が絡む。丙がVを動かしたという介在事情があると、条文を読むだけでは決められないからである。だから条文に書いていない判断基準——規範——を立てる必要がある。次はその規範を立てる。

因果関係の規範(集積型)

判例の集積から因果関係の規範を立てる。まず、因果関係という要件が何を決めているのかを押さえる。因果関係は、起きた結果をその実行行為のものとして帰してよいか——結果を実行行為に帰責できるか、という問題である。だから、条件関係だけで帰責を認めてしまうと、責任を負わせる範囲が広がりすぎる。なぜ条件関係だけでは帰責の基準として足りないのか。ドミノで考える。1番目を倒すと10番目まで倒れる。条件関係は「あれなければこれなし」の関係である。でも、10番目が倒れた原因をこれだけで探すと、範囲が広がりすぎる。「そもそもドミノを作った工場がなければ倒れなかった」も条件関係としては成り立つが、工場を罪に問う人はいない。だから条件関係を前提にしつつ、帰責してよい範囲に絞り込む基準がもう一つ要る。それが「行為の危険性が結果へ現実化したか」である。実行行為の危険が結果に現実化したといえてはじめて、その結果をその行為に帰責できる——これが絞り込みの中身である。

ただし、ここは慎重に言う必要がある。最高裁は「危険の現実化」という言い方を、一般論として判示していない。個別の事件ごとの判断が積み重なっているだけである。これを集積型の規範と呼ぶ。だから答案でも「判例は危険の現実化説を採る」と言い切ってはいけない。個別の判断の集積から規範を立てる、という書き方をする。

判例 大阪南港事件(介在事情があっても因果肯定の代表例)

大阪南港事件は、甲の暴行の後に別の暴行が介在した事案である。それでも、甲の暴行によってVの死因となる傷害がすでにできていたため、因果関係が認められた。

判例 治療拒否事件(被害者側の事情が介在しても因果肯定の代表例)

治療拒否事件は、被害者側の事情が介在した事案である。どちらの判例も、事案ごとの結論を示しただけで、共通の定式は述べていない。これらの積み重ねから、次の規範を立てる。

因果関係は、起きた結果を実行行為に帰責してよいかの問題であるから、条件関係を前提に、行為の危険性が結果へ現実化したといえる場合に認められる。そして、危険性の判断は、行為時の客観的事情を基礎とする。逐語で覚えるのは太字のキーワードだけである。「条件関係」「危険性」「現実化」——この核だけ押さえれば、あとは趣旨から復元できる。危険が現実化したかを見る前に、そもそも「あれなければこれなし」が無いと話にならないからである。条件関係は粗い網、危険の現実化はその後にかける細かい網、というイメージ。

あてはめの3類型:本問は直接実現型

「危険の現実化」のあてはめには、代表的な3つの型がある。ドミノでいうと、㋐は1番目の危険がそのまま10番目に現れる型で、これを㋐直接実現型と呼ぶ。もう一つ、1番目の倒れが別の人を驚かせ、別の連鎖を起こす型もある。最後に、1番目の倒れが危険な状況を作り、そこから結果が生じる型もある。本問がどれに当たるかを見る。

まず生の事実を拾う。甲のはねでVは頭部に致命傷を負い、丙が善意でVを路肩へ移動させ、Vはその傷害で死亡した。次に評価する。丙の移動は、Vが助かる機会を断っただけである。甲のはねがもともと持っていた死の危険を、別物に変えても大きくもしていない

最後に要件へ当てはめる。甲の行為の危険が、そのまま結果へ現実化したといえるか——○。丙は自分の意思で新しい危険を作ったのではなく、甲の危険の流れを遅らせただけだからである。結論として、因果関係は肯定される。

完成答案を通しで読む(フル論証)

規範とあてはめを答案の型に組み直して通して読む。型は【事例】→【問題提起】→【規範】→【あてはめ】の4ブロック。事例の要約から書き始めるのが基本の型である。大きな争点は「第1」「第2」。その中の骨組みが「1・2・3・4」——問題の所在・規範・あてはめ・結論。あてはめを割るときは「(1)(2)(3)」、さらに割るときは「ア・イ」を使う。

第1、甲の罪責——過失運転致死罪の成否である。まず、過失である注意義務違反と、Vの死亡という結果は、事例上明らかであるから、以下では争いのある因果関係だけを詳しく検討する。1、問題の所在。丙がVを移動させたという介在事情がある。この介在事情があっても、甲の行為とVの死亡を結びつけてよいかが問題である。2、規範。因果関係は、起きた結果を実行行為に帰責してよいかの問題であるから、条件関係を前提に、行為の危険性が結果へ現実化したといえる場合に認められる。そして、危険性の判断は、行為時の客観的事情を基礎とする。

完成答案②:あてはめと結論

3、あてはめ。(1) 生の事実。甲のはねでVは頭部に致命傷を負い、丙が善意でVを路肩へ移動させ、Vはその傷害で死亡した。(2) 評価。ここは二つの角度から見る。ア、危険の中身。丙の移動で、甲の行為が生んだ死の危険の中身が別物に変わったとはいえない。イ、危険の程度。移動で危険が新たに高まったのではなく、Vが助かる機会が断たれただけである。なお、丙の移動は、はねた後に生じた事情である。危険性はもともと行為の時点を基礎に判断するから、甲がはねた時点でVが負っていた致命傷の危険を軸に見れば足りる。(3) 要件への当てはめ。甲の行為の危険性が、そのまま結果へ現実化したといえる。直接実現型である。4、結論。よって因果関係は認められ、甲には過失運転致死罪が成立する。

まとめ

板:今日のまとめ

条件関係だけでは範囲が広すぎるので、危険の現実化という規範で絞り込む。この規範は判例が定式として言い切ったものではなく、集積型——判断の積み重ねである。だから出典は「ほか参照」で添え、「判例は…と解している」とは書かない。あてはめは、生の事実を拾い、評価し、要件に当てる三点セットで進める。ここまでが、危険の現実化で因果関係を判断する答案の骨格である。


★コア規範(逐語で覚えるのはここだけ)

因果関係は、実行行為に結果を帰責させることができるかという問題であるから、①条件関係を前提に、②行為の危険性が結果へと現実化したといえる場合に、因果関係が認められると解する。そして、危険性の判断は、行為時の客観的事情を基礎とする。

復元キー(趣旨から再構成する鎖)

  1. 因果関係=発生結果を実行行為に帰責してよいかの問題(条件関係だけでは遡りすぎる)。
  2. ①まず条件関係(あれなければこれなし)を前提に置く。
  3. ②絞り込み=行為の危険性が結果へ現実化したか(=帰責を根拠づける)。
  4. ③危険性の判断は行為時の客観的事情を基礎に。
  5. あてはめ=生の事実→評価(危険の中身・程度)→要件当てはめ(本問は㋐直接実現型)。
  6. 判例は定式を言い切らない=集積型(出典は「ほか参照」で添える)。

短答ひっかけ

  • 「危険の現実化」は集積型の規範であり、最高裁が一般論として言い切った定式ではない。「判例は危険の現実化説を採る」と書くのは誤り。
  • 介在事情(第三者の行為)があっても、それが危険を別物に変えたり大きくしたりしていないなら、直接実現型として因果関係は否定されない。
  • 危険性の判断基準時は行為時(本問では甲がはねた時点)であって、介在事情が生じた後の事情ではない。
  • 条件関係と危険の現実化は二段構え(粗い網→細かい網)であり、条件関係だけで因果関係を認めるのは誤り。

参照条文:自動車運転死傷行為処罰法5条(過失運転致死傷・e-Gov 現行正文)

論文の型

  • この回全体が論文の型の演習です。因果関係の規範(集積型)を立て、あてはめの3類型から本問に当たる直接実現型を選んで検討し、完成答案を組み立てる流れがそのまま論文の型となっています。

今日の地図(保存版)

  • テーマ:過失運転致死罪(自動車運転死傷行為処罰法5条)の因果関係を、危険の現実化(集積型)の規範で判断する実演。
  • ★コア規範:①条件関係を前提に、②行為の危険性が結果へ現実化したか(③危険性の判断は行為時の客観的事情を基礎に)。
  • 争点:第三者丙がVを路肩へ移動させたという介在事情があっても因果関係を認めてよいか。
  • あてはめの3類型:㋐直接実現型/㋑間接(誘発)実現型/㋒危険状況設定型——本問は㋐。
  • あてはめの公式:生の事実を拾う → 危険の中身・程度を評価する → 要件に当てる。
  • 事例の結論:甲には過失運転致死罪(自動車運転死傷行為処罰法5条)が成立する。

参照条文

  • 自動車運転死傷行為処罰法5条

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