刑法ゼロから刑法 論文

教唆犯内の錯誤と未遂の教唆の書き方

2つの事例で、唆した甲と実行した乙の罪責を答案に書き切る回。事例1は、乙が人違いでAではなくBを殺した場合。正犯の乙から先に、客体の錯誤を法定的符合説で処理して殺人罪とし、甲は共同正犯を否定して教唆犯の3要件(①教唆行為②教唆の故意③被教唆者の決意と実行)に当て、②で教唆犯内の錯誤を問題提起して、乙の項の規範を教唆犯の故意に及ぼし、殺人罪の教唆犯を導く。事例2は、甲がマットがあるからAは死なないと思い込んで乙に殺害を唆した未遂の教唆。乙の殺人未遂罪を確かめたうえで、教唆犯の処罰根拠から実行認識説の規範を3つの文で立て、乙が実行に出ることの認識で教唆の故意を認め、正犯に従属して殺人未遂罪の教唆犯とする。

印刷用PDFを開く

ゼロから刑法 論文/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

事例1

甲と乙とAとBの関係 図:甲と乙とAとBの関係

2つの事例を、それぞれ答案として最後まで書き切ります。まず、1つ目です。釣具店を営む乙は、友人の甲に、仕入れ先の会社の社長Aに取引を打ち切られ、店が立ち行かなくなったと打ち明けました。甲は同情して、「Aさえいなくなれば取引は元に戻る。Aを殺してしまえ」と持ちかけます。そのうえで、Aが毎朝6時半ごろ、白いミニバンで会社の従業員用駐車場に出勤してくることを教えました。乙は、甲の言葉に背中を押されて、Aを殺すことを決意しました。乙は、Aと電話で話したことがあるだけで、顔は知りませんでした。数日後の朝、ゴルフクラブを持って駐車場の物陰に潜み、午前6時半ごろ、白いミニバンから降りてきた男を、Aだと思い込みます。乙は殺意をもって、その男の頭部をゴルフクラブで数回殴りつけました。ところが、男はAではありませんでした。同じ会社の営業担当のBで、Aの車と同じ型、同じ色の社用車で出勤してきたところでした。Bは頭蓋内出血で死亡しました。甲は犯行の場におらず、乙から見返りを受ける約束もしていません。

問いは、これだけです。甲および乙の罪責を論じなさい。

乙の罪責 199条

答案の頭の順、正犯から先に 図:答案の頭の順、正犯から先に

答案では、先に実行した乙の罪責を書き終えてから、唆した甲に移ります。教唆者の罪は、正犯の罪のうえに成り立つからです。最初に、1つ確認です。前に見た法定的符合説は、行為者が認識した事実と現実に発生した事実を、何のレベルで一致させれば足りるとする立場でしたか?答えは、構成要件のレベル、でした。この問いを頭に置いて、乙の罪責に入ります。検討するのは、殺人罪です。

条文刑法199条

刑法199条(殺人)
人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の拘禁刑に処する。

これが199条です。要件は、実行行為、結果、因果関係、そして故意です。上から順に見ます。実行行為です。ゴルフクラブで頭部を数回殴る行為は、人が死ぬ現実的な危険のある行為ですから、殺人の実行行為にあたります。結果は、Bの死亡です。因果関係は、頭部への殴打で頭蓋内出血が起き、そのまま死亡していますから、殴打の危険が結果になったといえて、認められます。問題が立つのは、故意です。乙は、Bを、Aだと思い込んで殴りました。認識した客体と、現実に侵害した客体が食い違う、客体の錯誤です。

規範|具体的事実の錯誤 図:規範|具体的事実の錯誤

⭐ 論文で書く規範:具体的事実の錯誤と故意
故意の本質は、規範に直面して反対動機を形成できたのに、あえて行為を選んだ点に向けられる強い道義的非難にある。
そして、規範は構成要件として類型化されているから、認識していた事実と発生した事実が構成要件的評価として符合すれば、故意が認められると解する(法定的符合説)。
(規範(法定的符合説))

規範は、前に見た具体的事実の錯誤のときと同じです。あてはめも短く済ませます。殺人罪が守っているのは、「人」の生命であって、Aという特定の人ではありません。乙は、およそ「人」を殺そうとして、「人」を殺しています。AでもBでも、「人を殺すな」という命令に直面していた点は変わりません。ですから、認識した事実と発生した事実は、殺人罪の構成要件的評価として符合し、乙に殺人罪の故意が認められます。乙は、殺人罪の罪責を負います。Aは、その場にいません。乙の行為は、Aに何の危険も及ぼしていませんから、Aに対する罪は問題になりません。ここで錯誤論を書いたことが、次の甲の項で効いてきます。覚えておいてください。

甲の罪責 教唆行為

教唆犯の成立要件 図:教唆犯の成立要件

次に、甲の罪責です。甲は犯行の場におらず、見返りの約束もなく、乙に持ちかけて決意を促したにとどまります。自分の犯罪として行う意思がありませんから、共同正犯は成立しません。そこで、教唆犯を検討します。

条文刑法61条1項

刑法61条1項(教唆)
人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。

教唆犯の成立要件は、3つです。①教唆行為、②教唆の故意、③被教唆者が教唆に基づいて犯罪を決意し、実行したことです。教唆犯を学んだ回では、故意を最後の④に数えましたが、答案では当てる順に、故意を②に置きます。順に当てます。①の教唆行為です。甲は、乙に「Aを殺してしまえ」と持ちかけたうえで、Aの出勤時刻と車の特徴まで教えました。この行為は、乙に殺人罪の実行を決意させるに足りますから、教唆行為にあたります。そして、客観面の①を済ませたこの次、主観面の②の入口で、問題が立ちます。

問題提起

②教唆の故意で、認識と事実がずれる 図:②教唆の故意で、認識と事実がずれる

条文刑法38条1項

刑法38条1項(故意)
罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。

38条1項本文は、罪を犯す意思がない行為は罰しない、と定めています。教唆犯も故意犯ですから、教唆の故意が問われます。甲が認識していたのは、乙にAを殺させることです。ところが、乙が現に殺したのは、Bです。甲の認識した事実と乙の実現した事実が、食い違っています。乙の側から見れば、客体の錯誤です。ただ、甲から見れば、Aに向けて乙を送り出したのに、結果がBに出たのですから、方法の錯誤ともいえます。もっとも、法定的符合説は、客体の錯誤でも方法の錯誤でも、構成要件のレベルで比べますから、結論は変わりません。そこで、答案では、甲に教唆犯の故意が認められるか、教唆犯内の錯誤の取扱いが問題となる、と書き出します。共犯の錯誤のうち、教唆犯の故意が、同じ構成要件の範囲の中でずれる場合のことです。

規範

規範カード|教唆犯内の錯誤 図:規範カード|教唆犯内の錯誤

規範を立てます。さきほどの、乙の項の規範を、教唆犯の故意に及ぼしたものです。

⭐ 論文で書く規範:教唆犯内の錯誤と教唆犯の故意
故意の本質は、規範に直面して反対動機を形成できたのに、あえて行為を選んだ点に向けられる強い道義的非難にあり、規範は構成要件として類型化されている。
そこで、教唆者の認識した事実と正犯の実現した事実が構成要件的評価として符合すれば、教唆犯の故意が認められると解する。
(規範(法定的符合説))

故意を強く非難できるのは、「人を殺すな」という命令に直面して、やめようと思えたのに、あえてやったからでした。その命令は、構成要件という形で示されています。この筋は、実行した乙でも、唆した甲でも変わりません。甲も、人を殺させてはならないという命令に直面して、それでも乙に殺させようとしたのです。だから、比べる相手を、乙の認識から、甲の認識に置き換えます。甲の認識した事実と、乙の実現した事実が、構成要件的評価として符合するかを見ます。そして、乙の項ですでに錯誤論を書いていますから、答案では、次のように短く受けます。

⭐ 論文で書く規範:乙の項で錯誤を書いたあとの受け方
前述のとおり、認識した事実と発生した事実が構成要件的評価として符合すれば故意は認められるところ、この理は教唆犯の故意にも妥当する。そこで、教唆者の認識した事実と正犯の実現した事実が構成要件的評価として符合すれば、教唆犯の故意が認められると解する。
(規範(法定的符合説))

乙の項で書いていれば、この受け方です。書いていなければ、さきほどのカードの形で、単独で書きます。どちらも、同じ道筋です。なお、教唆者の認識と正犯の実現が、別の構成要件にまたがる場合は、重なり合う限度で教唆犯が成立します。本事例は、殺人罪の中で完結していますから、別の型です。

あてはめ

何と何を比べるか 図:何と何を比べるか

あてはめです。ここが、この事例の山場で、いちばん厚く書きます。最初に、1つ考えてください。甲が認識していた事実と、乙が実現した事実。この2つを、何のレベルで比べればよいでしょうか?答えは、構成要件的評価として、です。AとBという名前で比べると食い違いますが、名前のレベルではなく、殺人罪の構成要件的評価のレベルで比べます。

生の事実を拾う 図:生の事実を拾う

生の事実を拾います。甲は、乙に「Aを殺してしまえ」と持ちかけました。さらに、出勤時刻と白いミニバンという車の特徴まで教えています。乙がAを待ち伏せして殺す筋道を、甲は分かっていたことになります。ところが、乙が現に殺したのは、同型同色の社用車から降りてきた男、Bでした。殺させる相手の特定が、現実とずれただけで、人を殺させようという意思そのものは、固まっていました。評価します。殺人罪が保護しているのは、「人」の生命であって、Aという特定の人の生命ではありません。甲は、「人」を乙に殺させようとしていました。殺させようとした相手が、AであってもBであっても、「人を殺させてはならない」という命令に直面していた点に、差はありません。

要件に当てる 図:要件に当てる

要件に当てます。甲は、およそ「人」を殺させようとして、「人」を殺させました。甲の認識した事実と乙の実現した事実は、殺人罪の構成要件的評価として符合します。ですから、甲に、殺人罪の教唆犯の故意が認められます。境界のすぐ外の例を挙げます。たとえば、甲が乙に、店の商品を盗んでこいと唆したのに、乙が店員に刃物を突きつけて商品を奪った場合です。甲の認識は窃盗、乙の実現は強盗で、同じ構成要件の中のずれではありません。この形は、構成要件をまたぐ錯誤として、重なり合う窃盗の限度で甲に教唆犯が成立する、という別の型になります。

要件③と結論

本事例1の結論 図:本事例1の結論

最後の要件、③です。乙は、甲の持ちかけに背中を押されて殺害を決意し、現に殺人罪を実行しています。教唆と決意、実行の間に、つながりがあります。要件③は、落としてはいけません。教唆犯は、正犯が決意して実行して、はじめて成立します。③を落とすと、唆しただけで罰する考え方になってしまいます。結論です。乙には殺人罪が成立します。甲には、殺人罪の教唆犯が成立します。教唆の故意は、乙が殺す相手を間違えても、消えません。

事例2

甲と乙とAの関係 図:甲と乙とAの関係

次は、2つ目の事例です。事例1とは別の事案で、登場人物の名前を使い回しますが、別の人です。甲は、同じ町で解体工事業を営む乙を、刑務所に入れて商売から追い出したいと考えていました。甲は、乙が、元請会社の現場監督Aに見積りを突き返されて、恨んでいることを知っていました。そこで、乙に、「Aを殺せ。ビルの解体現場の足場の上なら、事故に見せかけてやれる」と持ちかけます。甲は、前日に、足場の4階の端の真下へ、自分で、厚さ約30センチメートルの緩衝マットを敷いていました。甲は、「あのマットがあるから、Aが落ちても死ぬことは絶対にない。乙が手を出せば、現行犯で捕まる」と思い込んでいました。ただ、マットのことは、乙には話していません。

乙は、甲の言葉でAを殺す決意を固め、翌日の午前、足場の4階の端で作業中のAの背中を、殺意をもって突き落としました。ところが、当日の朝、別の作業員が資材搬入のためにマットを片づけており、甲はそれを知りませんでした。Aは、地上約10メートル下のコンクリートの上に落ち、全治約半年の骨盤骨折の重傷を負いました。しかし、救急搬送されて手術を受け、一命を取り留めます。甲は現場にはおらず、乙から見返りを受ける約束もしていません。問いは同じです。甲および乙の罪責を論じなさい。

乙の罪責 203条

殺人未遂罪の要件 図:殺人未遂罪の要件

事例1と同じ順です。正犯の乙から書きます。ここは、結論の確認にとどめます。

条文刑法203条

刑法203条(未遂罪)
第百九十九条及び前条の罪の未遂は、罰する。

203条は、殺人罪の未遂を罰する、と定めています。要件は、殺人罪の実行に着手したのに、これを遂げなかったことです。乙は、Aを殺す意思で、地上約10メートルの足場の端から、作業中のAの背中を押して落下させました。この行為は、コンクリートの上に人を落とすもので、人が死ぬ現実的な危険があります。ですから、殺人罪の実行に着手したといえます。43条本文の、実行に着手して、というところです。下にマットがあると甲が思っていたことは、乙の実行の着手には関係しません。マットは、すでに片づけられていました。乙の行為の危険は、実際にコンクリートの上に落ちた事実で決まります。そして、Aは重傷を負いましたが、死亡していません。乙は、殺人罪を遂げていません。乙には殺人未遂罪が成立します。この、乙が未遂にとどまる点を、あとで甲の結論に使います。

甲の罪責 教唆行為

教唆犯の成立要件 図:教唆犯の成立要件

次は、甲です。甲は現場におらず、見返りもなく、乙を逮捕させる目的で持ちかけたにとどまります。自分の犯罪として行う意思がありませんから、共同正犯は成立しません。教唆犯を検討します。①の教唆行為です。甲は、乙に「Aを殺せ。足場の上なら事故に見せかけてやれる」と持ちかけました。この行為は、乙に殺人罪の実行を決意させるに足りますから、教唆行為にあたります。

問題提起

②教唆の故意で、結果の認識が欠ける 図:②教唆の故意で、結果の認識が欠ける

次が、②の教唆の故意です。ここで、事例1とは違う種類の問題が立ちます。甲は、マットがあるからAが死ぬことは絶対にない、と思い込んでいました。甲は、殺人の結果が発生することを、認識していません。このように、結果が生じないと思いながら唆す場合を、未遂の教唆といいます。事例1は、甲の認識と、乙の実現した事実の、どちらにも「人の死」があって、その相手がずれていました。今回は、ずれていません。甲の認識の中に、結果の発生そのものが、無いのです。正犯の故意は、結果発生の認識です。そこで、答案では、教唆犯の故意には結果発生の認識までが含まれるのか、教唆犯の故意の内容が問題となる、と書き出します。未遂の教唆の回で見た、実行認識説と結果認識説が分かれる所です。結果発生の認識まで必要とする結果認識説に立てば、教唆の故意が欠けて、甲は罰せられません。

規範

規範カード|未遂の教唆 図:規範カード|未遂の教唆

規範を立てます。3つの文でできています。1文ずつ、なぜ次の文が出るのかを見ていきます。

⭐ 論文で書く規範:未遂の教唆と教唆犯の故意
教唆犯が処罰されるのは、正犯の実行行為を介して、間接的に法益を侵害し、またはその危険を生じさせるからであると解する。
そうだとすれば、未遂の教唆であっても、正犯が実行に出れば、その時点で法益侵害の危険は間接的に生じている。
したがって、教唆犯の故意としては、自分の唆しによって被教唆者が特定の犯罪の実行を決意し、現に実行に出ることを認識していれば足り、結果の発生まで認識している必要はないと解する。
(規範(実行認識説))

1つ目の文は、教唆犯がなぜ罰せられるかです。教唆者自身は手を下しません。それでも罰せられるのは、正犯の実行行為を介して、間接的に、人の生命などの法益を侵害し、または危険にさらすからです。そこで2つ目の文です。理由がそうなら、正犯が実行に出た時点で、危険はもう間接的に生じています。結果が出る前から、処罰の理由は満たされているわけです。処罰の理由を、結果を引き起こしたことに置く結果認識説とは、ここで分かれます。3つ目の文は、そこから故意の中身を決めます。処罰の理由が、正犯が実行に出ることで満たされるなら、教唆者が分かっていなければならないのは、自分の唆しで、被教唆者が犯罪の実行を決意し、現に実行に出ることです。結果の発生まで認識している必要は、ありません。

あてはめ

何を認識していれば足りるか 図:何を認識していれば足りるか

あてはめです。ここも、厚く書きます。最初に、1つ考えてください。甲は、結果の発生を認識していません。それでも教唆の故意が認められるためには、何を認識していればよいでしょうか?答えは、乙が殺人を決意して、実行に出ること、です。規範の3つ目の文のとおりです。

生の事実を拾う 図:生の事実を拾う

生の事実を拾います。甲は、乙に「Aを殺せ」と持ちかけ、足場の上なら事故に見せかけられる、とまで述べました。そして、乙が手を出せば現行犯で捕まる、と考えていました。つまり、乙が実行に出ることを、狙っていたのです。一方で、甲は、マットがあるからAは死なないと思い込み、そのことを乙には話していません。評価します。甲は、結果の発生は認識していません。しかし、乙が殺人を決意して、突き落としという実行に出ることは、まさに甲が意図し、見通していたことです。そして、乙が実行に出れば、甲の持ちかけを介して、Aの生命に危険が生じます。処罰の理由は、満たされています。結果の発生の認識は、要件ではありません。

要件に当てる 図:要件に当てる

要件に当てます。甲は、自分の持ちかけによって、乙が殺人罪の実行を決意し、現に実行に出ることを認識していました。ですから、甲に、教唆犯の故意が認められます。境界のすぐ外の例を挙げます。たとえば、甲が酒の席で冗談のつもりで「Aなんて殺してしまえ」と言い、乙が本気にして実行した場合です。甲は、乙が実行に出ることすら、見通していません。この場合は、実行に出ることの認識が無く、教唆の故意は欠けます。今回の甲は、実行に出ることを、はっきり狙っていました。そこが違います。

要件③と結論

本事例2の結論 図:本事例2の結論

③です。乙は、甲の持ちかけでAの殺害を決意し、現に実行に着手しています。③も満たします。ただし、Aは死亡せず、乙は殺人未遂にとどまります。教唆犯は、正犯の実行に従属して成立します。61条1項は、犯罪を実行させた者に正犯の刑を科すとしていますから、教唆犯の罪は、正犯が実際にどこまで実現したかに合わせて決まります。ですから、甲が負うのは、殺人罪の教唆犯ではなく、殺人未遂罪の教唆犯です。正犯が未遂なら、教唆犯も未遂です。結論です。乙には殺人未遂罪が成立し、甲には殺人未遂罪の教唆犯が成立します。

まとめ

2つの事例、②の位置と中身 図:2つの事例、②の位置と中身

2つの事例を並べます。どちらも、教唆犯の要件のうち、②の教唆の故意で問題が立ちました。位置は同じです。違うのは、食い違っているものです。事例1は、甲の認識した事実と、乙の実現した事実でした。事例2は、甲の認識が、結果の発生にまで及ぶかでした。結論は、事例1が殺人罪の教唆犯、事例2が殺人未遂罪の教唆犯です。どちらも、正犯の乙から先に書き、そのうえで甲に移りました。③を落とさず、乙の罪名に、甲の罪名を揃えています。

完成答案

完成答案:第1 事例1における乙の罪責 図:完成答案:第1 事例1における乙の罪責

こちらが完成答案です。問題の所在から結論までを、ここまでの節の順のまま並べています。乙を先に置くのは、教唆者の罪が正犯の罪のうえに成り立つからでした。1枚目は、事例1の乙の罪責のうち、問題の所在(客体の錯誤)と規範(法定的符合説)です。

完成答案:第1 事例1における乙の罪責(続き) 図:完成答案:第1 事例1における乙の罪責(続き)

乙の罪責の続きです。「人」の生命という保護法益から構成要件的符合を認め、殺人罪の成立を導きます。

完成答案:第2 事例1における甲の罪責 図:完成答案:第2 事例1における甲の罪責

続いて、事例1の甲の罪責です。共同正犯を否定して教唆犯に入り、①教唆行為を認めたうえで、②教唆の故意について教唆犯内の錯誤を問題提起し、乙の項の規範を受けて立てます。

完成答案:第2 事例1における甲の罪責(続き) 図:完成答案:第2 事例1における甲の罪責(続き)

甲の罪責の続きです。あてはめの最初の項、②教唆の故意がこの事例の山場です。構成要件的符合で故意を認め、③乙の決意と実行を確かめて、殺人罪の教唆犯を導きます。

完成答案:第3 事例2における乙の罪責 図:完成答案:第3 事例2における乙の罪責

事例2の、乙の罪責です。突き落としで殺人罪の実行に着手し、Aが一命を取り留めたので、殺人未遂罪にとどまります。

完成答案:第4 事例2における甲の罪責 図:完成答案:第4 事例2における甲の罪責

最後に、事例2の甲の罪責です。前半は、①教唆行為を認めたうえで、結果発生を認識していない甲の②教唆の故意を問題提起し、実行認識説の規範を3つの文で立てます。

完成答案:第4 事例2における甲の罪責(続き)・第5 結論 図:完成答案:第4 事例2における甲の罪責(続き)・第5 結論

甲の罪責の続きと、全体の結論です。乙が実行に出ることの認識で②教唆の故意を認め、③を確かめたうえで、正犯が未遂にとどまる以上、甲が負うのは殺人未遂罪の教唆犯であることを導きます。

参照条文

  • 刑法38条1項
  • 刑法43条
  • 刑法61条1項
  • 刑法199条
  • 刑法203条

刑法 全体ロードマップへ →