刑法 ゼロから刑法 論文

正当防衛の要件のあてはめ(成立要件・36条1項)

正当防衛(36条1項)の3要件を実際の事例に当てはめて結論を出す実演回。①急迫不正の侵害②防衛の意思③やむを得ず(必要最小限度)を順に検討。受験生がつまずく③相当性のあてはめを厚く扱う。

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ゼロから刑法 論文/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

「正当防衛とは何か」は分かった。答案の書き方(事案→問題提起→規範→あてはめ→結論の型)も別動画でやった。では実際の事例で、正当防衛の3要件を一つずつ当てはめて結論を出す——このノートはそこだけを実演します。題材は成立要件(36条1項)の基本形。受験生が一番つまずく③相当性(やむを得ず)のあてはめを厚く扱います。自招侵害・過剰防衛(2項)・誤想防衛は射程外で、理解回 正当防衛②とセットの別の論文回で扱います。


事例 〔主役事例〕

夜道で帰宅中のXに、見知らぬ大柄の男Aが因縁をつけ、いきなり胸ぐらをつかんで拳で殴ってきた。Xは後ずさったが塀に追い詰められ、逃げ場がない。Aがなお殴り続けるので、Xはとっさに自転車のかごにあった金属製の水筒をつかみ、Aの肩を1回叩いた。Aがひるんだ隙にXは逃げた。Aは肩に軽い打撲(全治数日)を負った。

問い:Xの反撃(傷害行為)について、正当防衛(36条1項)が成立し、違法性が阻却されるか。

出発点は今日の一文——「正は、不正に屈する必要はない。」 正当防衛は「正 対 不正」だから、緊急避難(正 対 正)と違って逃げ道を優先する必要がなく、要件がゆるい。この一文を相当性のあてはめまで効かせます。

規範を立てる 〔36条1項の3要件〕

刑法36条 全文+条文の言葉→答案の3本柱マップ

条文をそのまま引きます。刑法36条1項——「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。」 要件は条文の言葉そのもので、3本の柱にまとめます。

規範カードv2|★コア規範+復元キー

正当防衛(36条1項)は、①急迫不正の侵害に対し、②防衛の意思をもって、③やむを得ずにした行為であれば違法性が阻却される。①「急迫」は侵害が現に存在しまたは間近に切迫していることをいい、侵害を予期しその機会を利用して積極的加害意思で臨んだ場合は急迫性を欠く(最決昭52・7・21)。②防衛の意思は必要だが、攻撃の意思が併存しても失われない(ただし専ら攻撃の意思に出た場合は防衛の意思を欠く=最判昭50・11・28)。③「やむを得ず」は防衛手段として必要最小限度をいい、緊急避難と異なり補充性・厳格な法益権衡は不要。

逐語で覚えるのは太字の言葉——積極的加害意思必要最小限度——だけ。あとは条文と趣旨から戻せます。ここから、3本の柱に事実を当てていきます。

あてはめ① 急迫不正の侵害

あてはめの公式|事実→評価→結論

あてはめの公式は「事実を拾う → 規範のことばで評価する → ○か×」。よくある失敗は、事実を書いて終わり(評価が抜ける)です。①からやります。

  • 事実:Aは胸ぐらをつかみ、拳で殴り、なお殴打を続けている。
  • 評価:法益(身体)に対する侵害が現に存在し、しかも違法(暴行罪にあたる不正)な侵害である。
  • 結論:「急迫不正の侵害」にあたる(①○)。

※Xは侵害を待ち構えていたわけではないので、積極的加害意思で急迫性が否定される場面ではありません(その論点は急迫性を「欠く」方向の話。本件は素直に①○)。

あてはめ② 防衛の意思

  • 事実:Xは塀に追い詰められ、逃げ場のない中で、身を守るためとっさに反撃した。
  • 評価:自己の身体を防衛する意思が認められる。Xに攻撃の意思はうかがえず、専ら攻撃の意思だった事情もない。
  • 結論:「(権利を)防衛するため」の行為といえる(②○)。

※ポイントは、攻撃の意思が併存しても防衛の意思は失われないこと。アウトになるのは「専ら攻撃の意思」だけのときです(昭50)。

あてはめ③ やむを得ず=相当性 〔ここが本番〕

ここが受験生の関門。やむを得ず=必要最小限度であって、武器が対等かどうかは問わない——これを事実で示します。本件は「素手のAに、Xが金属の水筒(硬い道具)で反撃」しており、一見すると過剰に見える。だからこそ、状況の事実を積んで「必要最小限度」と評価しきります。

  • 事実:(i) Aは大柄で体格差がある。(ii) Xは塀に追い詰められ逃げ場がない。(iii) Aは殴打を執拗に継続している。(iv) Xは手元にあった物をとっさにつかみ、肩を1回叩いて逃げたにとどまる(結果も全治数日の軽い打撲)。
  • 評価:素手の相手に硬い道具を用いてはいるが、武器の対等までは要らない。体格差と逃げ場のなさ、侵害の執拗さからすれば、肩を1回叩いて離脱した程度の反撃は、防衛手段として必要最小限度といえる。
  • 結論:「やむを得ずにした行為」にあたり、相当性を満たす(③○)。

コツ:③では必ず両側の事実を並べる——「①攻撃の危険性(相手の体格・執拗さ・逃げ場のなさ)」と「②反撃の程度(手段・回数・結果)」。この対比があると、武器が不対等でも「必要最小限度」と評価しきれます。

✍️ 完成答案(フル全文・主役事例)

【事例】 夜道で、大柄の男Aが帰宅中のXに因縁をつけ、いきなり胸ぐらをつかんで拳で殴打した。Xは塀に追い詰められ逃げ場がない中、Aがなお殴打を続けたため、とっさに自転車のかごの金属製水筒でAの肩を1回叩き、その隙に逃げた。Aは肩に全治数日の軽い打撲を負った。

1 問題提起 Xの反撃はAに傷害を負わせており、傷害罪(204条)の構成要件に該当する。もっとも、正当防衛(36条1項)が成立し、違法性が阻却されないかが問題となる。

2 規範 正当防衛(36条1項)は、①急迫不正の侵害に対し、②防衛の意思をもって、③やむを得ずにした行為であれば成立し、違法性が阻却される。①「急迫」とは法益侵害が現に存在しまたは間近に押し迫っていることをいい、侵害を予期していたにとどまらず、その機会を利用し積極的加害意思で侵害に臨んだ場合は急迫性を欠く。②防衛の意思は必要だが、攻撃の意思が併存しても失われない(もっとも、専ら攻撃の意思に出た場合は防衛の意思を欠く)。③「やむを得ずにした」とは、防衛手段として必要最小限度であることをいい、緊急避難と異なり補充性・厳格な法益権衡は不要である。

3 あてはめ

(1) ①急迫不正の侵害 Aは胸ぐらをつかんで拳で殴打し、なお殴打を継続しており、Xの身体に対する侵害が現に存在する。これは暴行罪にあたる違法な侵害であるから、急迫不正の侵害にあたる(①充足)。

(2) ②防衛の意思 Xは塀に追い詰められ逃げ場のない中で、身を守るためとっさに反撃しており、防衛の意思が認められる。Xに攻撃の意思はうかがえず、専ら攻撃の意思に出た事情もない(②充足)。

(3) ③やむを得ず(相当性) Xは素手のAに対し金属製の水筒を用いてはいるが、武器の対等までは要しない。大柄のAとの体格差、塀に追い詰められて逃げ場がない状況、Aの執拗な殴打に照らせば、手元の物でとっさに肩を1回叩いて離脱した程度の反撃は、防衛手段として必要最小限度といえ、相当性を満たす(③充足)。

4 結論 よって、Xの反撃には正当防衛(36条1項)が成立し、違法性が阻却される。Xに傷害罪(204条)は成立しない。


📌 ★コア規範(逐語で覚えるのはここだけ)

正当防衛(36条1項)は、①急迫不正の侵害に対し、②防衛の意思をもって、③やむを得ずにした行為であれば違法性が阻却される。①「急迫」は侵害が現に存在しまたは間近に切迫していることをいい、侵害を予期しその機会を利用して積極的加害意思で臨んだ場合は急迫性を欠く。③「やむを得ず」は防衛手段として必要最小限度をいい、緊急避難と異なり補充性・厳格な法益権衡は不要。

🔑 復元キー(趣旨から再構成する鎖)

  1. 要件=①急迫不正の侵害 ②防衛の意思 ③やむを得ず(=条文を引くだけ)。
  2. 急迫=現在・切迫/予期+積極的加害意思は急迫性を否定(昭52)。
  3. 防衛の意思=必要だが攻撃意思の併存では失われない/専ら攻撃はアウト(昭50)。
  4. ③相当性=必要最小限度(武器対等まで不要)。あてはめは「攻撃の危険性 ↔ 反撃の程度」の対比で書く。
  5. 緊急避難と違い補充性・厳格な権衡は不要(正対不正だから)。

短答ひっかけ

  • 侵害を予期しただけでは急迫性は失われない(積極的加害意思=昭52)。
  • 攻撃の意思が併存しても防衛の意思はある(専ら攻撃ならアウト=昭50)。
  • ③相当性は必要最小限度であって武器対等は不要(攻撃性の高い手段でも状況次第で相当)。
  • 正当防衛は緊急避難と違い補充性も厳格な法益権衡も不要

参照条文:刑法36条(e-Gov 現行正文)/最決昭52・7・21(積極的加害意思)・最判昭50・11・28(防衛の意思・攻撃意思の併存)

📝 論文の型

  • この回全体が論文の型の演習です。正当防衛(36条1項)の3要件(①急迫不正の侵害→②防衛の意思→③やむを得ず)を順に当てはめ、完成答案を組み立てる流れがそのまま論文の型となっています。

今日の地図(保存版)

  • テーマ:正当防衛(36条1項)の3要件を主役事例に当てはめ、完成答案を導く実演。
  • ★コア規範:①急迫不正の侵害、②防衛の意思、③やむを得ず(必要最小限度)。
  • ①急迫性:侵害が現に存在または間近に切迫している状態。侵害を予期+積極的加害意思で臨んだ場合は急迫性を欠く(最決昭52・7・21)。
  • ②防衛の意思:必要だが攻撃の意思が併存しても失われない。専ら攻撃の意思に出た場合だけアウト(最判昭50・11・28)。
  • ③相当性(やむを得ず)=必要最小限度
    • 緊急避難と異なり補充性・厳格な法益権衡は不要(正対不正だから)。
    • 武器の対等は不要。体格差・逃げ場のなさ・侵害の執拗さ vs 反撃の手段・回数・結果の対比で評価。
  • あてはめの公式:事実を拾う → 規範のことばで評価する → ○か×。
  • 主役事例の結論:X は正当防衛(36条1項)が成立し傷害罪は不成立。

これで刑法シリーズ(論文編を含む)は完結です。

参照条文

  • 刑法36条

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