刑法ゼロから刑法 論文

承継的共同正犯(前編)の書き方

商店街の中古カメラ店で、甲が店主Vを殴り蹴って動けなくしたあと、電話で誘われた乙が、動けないVのそばでカメラを運び出し、Vの傷害は乙が加わる前に生じていた事例で、乙の罪責を答案に書き切る回。共同正犯の処罰根拠から、後行者は加わる前の結果には原則として責任を負わず、先行者の行為と結果を自己の犯罪遂行手段として利用する意思で現に利用したときだけ例外とする規範を立て、続いていた反抗抑圧状態を使った乙には強盗罪の共同正犯が成立し、既に固定された傷害の結果は使っていないので強盗致傷罪の共同正犯は成立しないと、結果ごとに分けて結論を出す。事実を変え、傷害だけの場合は、加わる前の傷害は負わず加わった後の蹴りで生じた分だけを負う点を、最決平24・11・6で確かめる。

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ゼロから刑法 論文/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

事例

中古カメラ店での経過 図:中古カメラ店での経過

平日の夜、午後8時20分ごろです。商店街の外れにある、小さな中古カメラ店の中です。床に、店主の男性が倒れています。左の脇腹を押さえてうずくまり、立ち上がることができません。そのすぐそばで、若い男が、ショーケースからカメラとレンズを取り出して、段ボール箱に詰めています。男は、倒れている店主に手を出していません。ただ黙って、箱を詰め続けています。この場面に至るまでを、順に見ます。舞台は、商店街の外れの、路面の1階にある小さな中古カメラ店です。出入口は1か所で、ショーケースに中古のカメラとレンズが並んでいます。店内に、ほかの客はいません。登場するのは3人です。無職で30代の甲。甲の知人で、アルバイトをしている20代の乙。そして、この店の店主で、60代の男性のVです。

午後8時5分ごろ、甲は、店のカメラとレンズを奪う目的で、閉店作業中のVの店に入りました。「商品を出せ」と言い、断ったVの顔面を拳で1回殴ります。そして、倒れたVの左脇腹を、足で3回蹴りました。Vは床にうずくまり、立ち上がれなくなります。甲が「騒ぐな」と言うと、Vは声も出せないまま、床に倒れて動けませんでした。8時10分ごろ、甲は乙に電話をかけます。「店主を殴って動けなくした。店の中古カメラを運び出す。軽自動車で来て手伝え。売った金は折半だ」。乙は「店主が動けないなら、今のうちに運べるな。分かった、すぐ行く」と答えました。

乙は、甲がカメラを奪う目的でVを殴って動けなくしたこと、Vが負傷して抵抗できないことを、分かっていました。8時20分ごろ、乙は軽自動車で店に着いて、中に入ります。Vが床にうずくまり、左の脇腹を押さえてうめいているのが、乙の目に入りました。乙は、加わる前にVが傷を負ったことも、分かっていました。8時20分ごろから35分ごろまで、乙は、ショーケースのカメラとレンズ計15点を、段ボール箱2つに詰めて、軽自動車に積み込みました。時価で、合わせて約60万円です。甲は、戸口に立って、外の様子を見ていました。Vは、そのあいだずっと、床に倒れたまま、立ち上がることも、声を出すこともできませんでした。乙は、Vに暴行も脅迫も加えていません。甲も、乙が着いてからは、Vに手を出していません。8時35分ごろ、二人は、カメラを積んだ軽自動車で立ち去りました。鑑定の結果もあります。Vの傷害は、左の肋骨2本の骨折で、全治約6週間です。この傷害は、すべて、8時5分ごろの甲の蹴りで生じたものでした。乙が加わったあとに、新しい傷害は生じていません。

甲と乙とVの関係 図:甲と乙とVの関係

関係を、図で整理します。甲は、Vを殴り、蹴りました。そして、乙を電話で誘います。乙は、Vのそばでカメラを運び出しました。骨折は、乙が加わる前に生じています。問いは、これだけです。乙の罪責を論じなさい。ただし、建造物侵入の点と、甲の罪責は除きます。

罪名と条文の特定

答案は、乙が何をしたかから書き出します。乙がしたのは、カメラとレンズを運び出すことだけです。Vに、暴行も脅迫もしていません。この行為だけを切り出すなら、他人の財物を、暴行や脅迫なしに持ち去る、窃盗にとどまります。ところが乙は、甲がVを殴って動けなくしたあとに、甲と意思を通じて、つまり、一緒にやると示し合わせて、運び出しています。甲の暴行を含めて見るなら、暴行によって相手の抵抗を抑えて財物を奪う罪、つまり強盗になります。条文を見ます。

条文刑法236条1項

刑法236条1項(強盗) 暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、五年以上の有期拘禁刑に処する。

236条1項は、暴行または脅迫を使って、他人の財物を強取した者を、強盗として処罰する規定です。強取とは、暴行や脅迫で相手の抵抗を抑え込んで、財物を奪うことです。刑は5年以上の有期拘禁刑で、窃盗よりもはるかに重くなっています。成立要件は、条文どおりです。暴行または脅迫を用いること、そして、他人の財物を強取したこと。この2つです。乙自身に暴行がないところを埋めるのが、共同正犯の規定です。

条文刑法60条

刑法60条(共同正犯) 二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。

二人以上で共同して犯罪を実行すると、全員が正犯、つまり、犯罪を実行した本人として扱われます。自分では直接やっていない部分についても、共同した全体について責任を負います。乙は、強盗のうち、財物を運び出す部分を、自分の手で分担しています。乙が、甲と共同して強盗を実行したと言えれば、甲の暴行は乙のものとして扱われて、乙は強盗になりえます。財物と強取の要件は、あとで確かめます。傷害の結果は、別に考えます。

問題提起と、検討の順

乙の罪責の検討の順 図:乙の罪責の検討の順

236条1項の要件を、乙に当てていきます。財物を持ち去ったことは、乙自身がしたことです。けれども「暴行又は脅迫を用いて」という部分は、乙がしたことではありません。加わる前の、8時5分ごろの甲の暴行です。この事例の問題提起を、言葉にします。乙は、加わる前の甲の行為や、それによる結果についてまで、60条の共同正犯として責任を負うのか。途中から加わった者が、加わる前の分まで引き受けるかという問題で、承継的共同正犯の成否といいます。先に行為を始めた甲を先行者、あとから加わった乙を後行者と呼びます。条文には、後行者が加わる前の分まで負うかどうかは、書かれていません。そこで、基準を立てて判断します。検討の順を決めます。乙自身の行為は、窃盗にとどまります。まず、強盗罪の共同正犯が成り立つかを見ます。次に、強盗致傷罪の共同正犯です。傷害の結果は、加わる前に生じていますから、強盗罪とは別に考えます。厚く書くのは、この2つのあてはめです。

規範

規範に入る前に、共犯の処罰根拠を確かめます。共犯の処罰根拠は、結果に対して、どのような点にあるのか。相互利用補充関係のもとで、結果に物理的または心理的な因果性を及ぼす点、です。この処罰根拠から出発して、基準を立てます。これは、解釈で立てる規範です。条文から読み取る成立要件とは違います。

⭐ 論文で書く規範:承継的共同正犯の成否 共同正犯の処罰根拠は、相互利用補充関係のもと、結果に対して物理的・心理的因果性を及ぼす点にある。 そうだとすれば、後行者は、加担前の先行者の行為による結果には因果性を及ぼしえないから、原則として、これについて共同正犯の責任を負わない。 もっとも、先行者の行為および結果を、自己の犯罪遂行手段として利用する意思のもと、現にこれを利用した場合には、相互利用補充関係が認められ共同正犯が成立すると解する。 (規範(通説で立てる))

規範カード|承継的共同正犯の成否 図:規範カード|承継的共同正犯の成否

1つ目の文から見ます。相互利用補充関係とは、お互いの行為を自分の計画に組み込んで、補い合う関係です。物理的な因果性とは、実際に力を貸して、結果に結びつけること。心理的な因果性とは、励ましたり安心させたりして、犯行を後押しすることです。共同正犯が、自分で直接やっていない部分まで責任を負うのは、こうして結果に因果性を及ぼしているからです。2つ目の文は、その裏返しです。因果性は、時間をさかのぼりません。乙が電話を受ける前に起きたことには、力の貸しようがありません。ですから、加わる前の結果については、原則として責任を負いません。

3つ目の文が例外です。先行者の行為や結果を、自分が犯罪をやり遂げるための手段として使う意思があり、現に使った場合です。過去の暴行そのものに、あとから力を貸すことはできません。けれども、暴行が残したものが今も続いていて、それを自分の手段として使えば、そこから先の結果には、自分の行為が結びつきます。乙でいえば、Vが動けないという状態を使ってカメラを運び出せば、カメラが奪われるという結果に、乙の行為が結びつきます。甲から見ても、乙の運び出しで、奪う目的が遂げられます。お互いの行為を計画に組み込んで補い合う関係が、ここで成り立ちます。だから、共同正犯が成立します。

使えるものには、限りがあるのか。なんでも使えるわけではありません。使えるのは、今も残っていて、これからの結果に結びつけられるものだけです。そこで、先行者が作ったものを、2種類に分けます。今も続いている状態と、既に起きて終わった結果です。続いている状態は、あとから来た人も使えます。終わって固定された結果は、手を加える余地がなく、ふつうは使えません。たとえば、点いたままの照明は、あとから入った人も、その明かりで作業ができます。けれども、既に割れた窓は、あとから来た人が割ったことにはなりません。割れ方を変えることもできません。

強盗罪の共同正犯——乙が使ったもの

ここからが、答案の山場です。乙は、加わる前の甲の暴行を含めて、強盗罪の共同正犯の責任を負うか。原則は負いません。例外にあたるかを、事実で確かめます。まず、甲が作ったものを特定します。甲は、カメラを奪う目的で、Vを殴り、蹴りました。その結果、Vは、床から立ち上がれず、声も出せない状態になりました。暴行や脅迫で、相手が抵抗できなくなった状態を、反抗抑圧状態といいます。この状態は、乙が8時10分ごろ意思を通じた時点でも続いていました。そして、乙が運び出しを終えるまで、続いていました。乙が加わった時点は、8時10分ごろの電話です。乙は、甲がしたことと、Vが動けないことを知ったうえで、運び出しを引き受けました。ここで、甲と意思を通じたことになります。店に着いてからの運び出しは、この意思の連絡に基づく行為です。加わる前とは、この電話より前の、8時5分ごろの暴行を指します。では、乙は、甲の暴行のうち、どの部分を使ったのか。観点だけを、図に示します。

乙が使ったものを拾う観点 図:乙が使ったものを拾う観点

左は、乙が加わったときの、Vの状態です。真ん中は、乙がしたこと。右は、それぞれの評価です。

乙が使ったものを事実で拾う 図:乙が使ったものを事実で拾う

加わったときのVの状態から拾います。Vは、床に倒れて立ち上がれず、「騒ぐな」と言われて、声も出せません。この状態が、運び出しの間ずっと、続いていました。次に、乙がしたことです。電話で、「店主が動けないなら、今のうちに運べる」と考えて、引き受けました。店に着いてからも、床にうずくまるVを見ています。そして、Vに暴行も脅迫もせず、抵抗されないまま、運び出しました。評価します。甲の暴行で生じた反抗抑圧状態は、乙が加わったとき、まだ続いていました。乙は、この状態を、財物を運び出す手段として使っています。

「動けないなら、今のうちに運べる」と、ちょっと口にしただけでも、使う意思になるのか。短いひと言でも、使う意思は認められます。使う意思とは、先行者が作ったものを、自分が犯罪をやり遂げるために使おう、という意思です。乙は、Vが動けないことを分かったうえで、だから運べる、と考えて引き受けました。動けない状態に目をつけて、それを手段にしようとしています。ただし、考えただけでは足りません。現に使ったかどうかも、別に確かめます。乙は、暴行も脅迫もなしに、抵抗されないまま運べました。動けない状態を、実際に使ったといえます。自分では暴行をしていない乙が強盗になるのは、重すぎないか。乙は、何もしていないわけではありません。動けない相手を前にして、その状態をそのまま使って、財物を持ち出しました。乙の運び出しは、その状態を通じて、カメラが奪われるという結果に結びついています。結びついた分について責任を負うのは、処罰根拠のとおりです。反対に、使っていない部分には、責任を負いません。たとえば、電話で引き受けたあと、乙が店に着くまでの間に、Vが自力で起き上がって、助けを求めに店の外へ出てしまっていたなら、どうでしょうか。抵抗できない状態は、もう残っていません。乙が使えるものがありませんから、例外にはあたらず、加わる前の甲の暴行についての責任は負いません。今回は、状態が続いていたから、使えたのです。以上から、乙と甲の間には、相互利用補充関係が認められます。ですから乙は、加わる前の甲の暴行を含めて、強盗罪の共同正犯としての責任を負います。強盗の他の要件も、確かめておきます。運び出したカメラとレンズ計15点は、時価で合計約60万円で、Vの店の商品です。乙は、これを売って、代金を甲と折半するつもりでした。甲の暴行でVの反抗は抑えられ、乙は、抵抗されることなく運び出しています。ですから、他人の財物を強取した、といえます。ここは争いがなく、答案では短く通す場所です。

強盗罪の結び 図:強盗罪の結び

結びです。暴行も脅迫もしていない乙を強盗にする根拠は、今も続いていた反抗抑圧状態を使った、この1点です。

強盗致傷罪の共同正犯——加わる前の傷害

甲と乙とVの関係 図:甲と乙とVの関係

乙は、強盗罪の共同正犯の責任を負う、と書けました。では、Vの傷害は、どうでしょうか。Vの左肋骨2本の骨折、全治約6週間は、乙が加わる前の8時5分ごろに、甲の蹴りで生じました。乙が加わってから、新しい傷害は生じていません。条文を見ます。

条文刑法240条

刑法240条(強盗致死傷) 強盗が、人を負傷させたときは無期又は六年以上の拘禁刑に処し、死亡させたときは死刑又は無期拘禁刑に処する。

240条は、強盗が人を負傷させたときの罪で、強盗致傷罪といいます。刑は、無期または6年以上の拘禁刑で、強盗罪よりずっと重くなります。ここでは、負傷の場合だけを見ます。強盗罪の共同正犯になるからといって、傷害の結果まで当然に負うわけではありません。強盗罪の責任を負うことと、傷害の結果について責任を負うことは、別に判断します。乙が責任を負うのは、乙が因果性を及ぼした範囲です。強盗罪を負うのは、続いていた状態を使ったからでした。傷害の結果にも、同じ規範を当てます。Vの傷害は、乙が加わる前に、既に生じていました。規範のとおり、乙は、加わる前の結果には因果性を及ぼせず、原則として責任を負いません。例外にあたるのは、乙が傷害という結果を、手段として使った場合です。乙が使ったのは、続いていた反抗抑圧状態、つまり、Vが抵抗できない状態でした。傷害という結果そのものを、カメラを奪う手段として使ったわけではありません。

抵抗できないのはけがをしたからであって、けがと状態は同じことではないか。抵抗できない状態と、けがは、結びついていますが、分けて考えられます。抵抗できない状態は、乙が加わったときも、店に着いてからも続いていて、乙が使えるものでした。けがは、乙が加わる前に、既に起こって終わった結果です。骨が折れたこと、全治約6週間という中身は、乙が加わった時点で定まっていて、乙が手を加える余地がありません。乙は、倒れて動けないVを前にして、その状態を使いました。けれども、骨が折れたという事実そのものを、自分の手段として使ったのではありません。乙が、Vの傷を知っていたことも、結論を変えません。傷を知っていることと、その傷を手段として使うことは、別のことだからです。

先行者の行為が生んだものと、乙の責任 図:先行者の行為が生んだものと、乙の責任

整理します。甲の暴行が生んだものは、2つです。反抗抑圧状態と、傷害の結果です。反抗抑圧状態は、乙が加わった時点でまだ続いていたので、使えました。乙は、その分の責任を負います。傷害の結果は、既に固定されていたので、ここでは使えません。乙は、その分の責任を負いません。同じ乙でも、使った部分は負い、使っていない結果は負わない。結果ごとに分けて、結論を出します。ですから、傷害の結果について、相互利用補充関係は認められません。乙には、強盗致傷罪の共同正犯は成立しません。なお、乙が加わってから新しい傷害は生じていませんので、乙が傷害罪の共同正犯の責任を負うこともありません。

結論

乙の罪責の結論 図:乙の罪責の結論

結論です。乙は、甲の暴行でできた反抗抑圧状態を、使いました。ですから、強盗罪の共同正犯、刑法60条と236条1項が成立します。傷害の結果は、使っていません。ですから、強盗致傷罪の共同正犯は成立しません。甲は、自分でVに傷害を負わせていますから、強盗致傷罪、240条前段の罪責を負います。乙と甲は、強盗罪の限度で、共同正犯になります。

成立する罪と刑 図:成立する罪と刑

強盗罪にとどまるか、強盗致傷罪まで負うかで、何が変わるのか。刑を並べます。乙の強盗罪の刑は、5年以上の有期拘禁刑です。甲の強盗致傷罪の刑は、無期または6年以上の拘禁刑です。下限が5年と6年で違い、強盗致傷罪には無期もあります。どちらの罪に問われるかで、刑は大きく変わります。使っていない結果にまで責任を負わせないために、結果ごとに分けて考えます。

事実を1か所変える——傷害だけの場合

変形の事実 図:変形の事実

事実を1か所変えて、結論が動く場面を見ます。規範は、変わりません。同じ店、同じ3人です。ただし今度は、甲がVを殴った理由が違います。カメラを奪うためではなく、買い取りの値段をめぐる口論の腹いせです。午後8時5分ごろ、甲は、腹を立てて、Vの顔面を拳で1回殴りました。そして、倒れたVの左脇腹を、足で3回蹴ります。Vは床にうずくまり、立ち上がれなくなりました。8時10分ごろ、甲は乙に電話をかけます。「店主を殴って倒した。お前も以前、買い取りを断られて頭にきていただろう。来て、お前も蹴ってやれ」。乙は「分かった、行く」と答えました。8時20分ごろ、乙は店に着きます。Vが床にうずくまり、左の脇腹を押さえているのを見て、倒れたVの左脇腹を、足で2回蹴りました。甲は、乙が着いてからはVに手を出さず、見ていました。乙は、カメラを運び出していません。目的は、Vを痛めつけることだけです。乙は、甲がVを殴って倒したこと、Vが倒れて動けず負傷していることを、分かって加わりました。鑑定です。Vの傷害は、左の肋骨3本の骨折で、全治約8週間です。1本目と2本目の骨折、つまり全治約6週間の分は、8時5分ごろの、甲の蹴りによるものです。3本目の骨折と、全治期間が約6週間から約8週間に延びた分の約2週間は、8時20分ごろの、乙の蹴りによるものです。どの蹴りで生じた傷害かが、確定しています。問いは、乙の罪責を論じなさい。ただし、建造物侵入の点と、甲の罪責は除きます。観点を、図に示します。

乙の責任を傷害ごとに拾う観点 図:乙の責任を傷害ごとに拾う観点

列は、加わる前の甲の蹴りで生じた傷害と、加わった後の乙の蹴りで生じた傷害の2つです。横の並びは、傷害の中身と、乙の責任です。

乙の責任を傷害ごとに事実で拾う 図:乙の責任を傷害ごとに事実で拾う

この場合、乙は傷害のどこまで責任を負うのか。加わる前に生じた傷害と、加わった後に生じた傷害に分けて見ます。加わる前から見ます。左肋骨2本の骨折、全治約6週間の分は、乙が加わる前に、甲の蹴りで生じた傷害です。規範のとおり、乙は、加わる前の結果に因果性を及ぼせません。乙は、Vが倒れて動けず、負傷していると分かって加わりました。けれども、目的は蹴ることだけで、傷害の結果を何かの手段として使ったのではありません。ですから、この部分に責任は負いません。加わった後です。3本目の骨折と、全治約2週間の延びは、乙自身の蹴りで生じています。甲との共謀、つまり意思の連絡に基づく乙の蹴りが、傷害の発生に寄与した部分です。寄与とは、その蹴りによって、傷害が生じた、または重くなった、という関係です。この分については、傷害罪の共同正犯の責任を負います。

倒れて動けないVを見て、乙は蹴っています。その状態を使った、とは言えないのか。乙が、Vの動けない状態を使って蹴った、と言えたとしても、加わる前の傷害を負う理由にはなりません。1本目と2本目の骨折は、乙が蹴る前に出来上がっていて、乙がVの動けない状態を使っても使わなくても、変わらないからです。この点を、最高裁の決定で確かめます。今回は、事実のどこを拾うかと、結論が分かれる境目を見るために使います。事案は、先行者らが被害者2人に暴行を加えたあと、途中から被告人が加わって、さらに暴行を加えたものです。原判決、つまり最高裁の1つ前の裁判所の判決は、被告人が先行者らの行為と結果を、制裁を目的とする暴行という、自分の犯罪の手段として積極的に利用する意思で加わり、現に利用したと認めました。そして、加わる前の暴行による傷害も含めた全体について、承継的共同正犯としての責任を負うとしました。最高裁は、この判断を、刑法60条と204条の解釈適用を誤った法令違反としました。ただし、量刑、つまり言い渡された刑の重さは不当とはいえないとして、上告は棄却しています。法令違反は認めたものの、刑の重さには響かないとして、原判決は取り消さなかった、ということです。決定が判断したのは、傷害罪の共同正犯についてだけです。強盗の場合まで述べたものではありません。

判例最決平24・11・6 刑集66巻11号1281頁

傷害罪の共同正犯の成立範囲を示した決定 被告人は、共謀加担前にAらが既に生じさせていた傷害結果については、被告人の共謀及びそれに基づく行為がこれと因果関係を有することはないから、傷害罪の共同正犯としての責任を負うことはなく、共謀加担後の傷害を引き起こすに足りる暴行によってCらの傷害の発生に寄与したことについてのみ、傷害罪の共同正犯としての責任を負うと解するのが相当である。 …… そのような事実があったとしても、それは、被告人が共謀加担後に更に暴行を行った動機ないし契機にすぎず、共謀加担前の傷害結果について刑事責任を問い得る理由とはいえないものであって、傷害罪の共同正犯の成立範囲に関する上記判断を左右するものではない。

読むのは、2か所です。1つ目は、最初の段落です。共謀に加わる前に、先行者らが生じさせていた傷害の結果には、被告人の共謀とそれに基づく行為が、因果関係を持つことはない。だから、その部分に責任は負わず、加わったあとの暴行で傷害の発生に寄与した部分についてだけ、責任を負う。これが、結論です。2つ目は、最後の段落です。「そのような事実」とは、原判決が重く見た事情、つまり、被害者らが負傷して、逃げることも抵抗することも難しくなっている状態を利用して、さらに暴行に及んだことです。そのような事実があったとしても、それは、加わったあとにさらに暴行を加える、動機やきっかけにすぎません。加わる前の傷害について、責任を問う理由にはならない、としています。

決定が挙げた事実 図:決定が挙げた事実

決定が挙げた事実は、2つです。1つ目は、被告人が現場に着く前に、被害者らが流血して負傷していたこと。2つ目は、被告人が、被害者らの逃走や抵抗が困難であることを認識しながら、先行者らと共謀して、さらに強度の暴行を加えたことです。決定は、この2つの事実のもとで、加わる前の傷害には責任を負わない、としました。ここが、結論の動く境目です。最決平24の事案の被告人も、被害者らが逃げたり抵抗したりするのが難しい状態にあると分かったうえで、加わっています。抵抗が難しい相手だと分かって加わった点は、乙と同じです。ところが傷害では、逃げることも抵抗することも難しい状態を利用して暴行に及んだとしても、それは動機やきっかけにすぎない、とされました。強盗との違いは、状態を使って生じるものにあります。強盗では、Vが動けない状態を使って生じるのは、カメラが抵抗なく持ち出されるという、加わった後の結果です。傷害では、動けない状態を使って乙が蹴っても、生じるのは、乙の蹴りによる新しい傷害だけです。加わる前の傷害には、届きません。動けないことは、暴行に及ぶきっかけにとどまり、傷害を生む手段になっているのは、乙自身の蹴りです。だから乙は、加わる前の傷害は負わず、加わった後の蹴りで生じた分だけを負います。もう1つだけ。どの蹴りから生じた傷害か分からないときは、207条、同時傷害の特例の問題になります。この事例は、鑑定で、どの蹴りで生じたかが確定していますので、207条には入りません。

完成答案

完成答案:問題の所在、規範 図:完成答案:問題の所在、規範

こちらが完成答案です。1枚目は、問題の所在と、規範です。

完成答案:あてはめ、その他の要件 図:完成答案:あてはめ、その他の要件

2枚目は、強盗罪の共同正犯のあてはめと、その他の要件です。

完成答案:強盗致傷罪の共同正犯、結論 図:完成答案:強盗致傷罪の共同正犯、結論

3枚目は、強盗致傷罪の共同正犯と、結論です。

参照条文

  • 刑法60条
  • 刑法236条
  • 刑法240条

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