憲法ゼロから憲法#56

勤労の権利と労働基本権

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27条1項(勤労の権利)

2つの側面

定義勤労の権利には、2つの側面があります。

  • 自由権的側面:働くことを、国に妨げられない権利です。
  • 社会権的側面:働く意思と能力があるのに機会を得られない人が、国に労働の機会の提供を求める権利です。それが不可能なら、代わりの保護を求められます。

結論重点は、社会権的側面にあります。

理由自由権的側面は、22条1項の職業選択の自由と重なり、独自の意味が薄いからです。

具体例代わりの保護には、失業給付があたります。

注意27条1項後段の勤労の義務は、教育・納税と並ぶ国民の義務の一つです。

27条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。

22条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

就労請求はできない

結論27条1項を直接の根拠にして、就労を請求することはできません。

理由条文に「権利」とあるだけでは、誰に、どんな仕事を、いくらの賃金で用意させるのかが決まらないからです。

法律が具体化して初めて、裁判で使える形になります。

具体例線の内側と外側は、次のとおりです。

  • 内側:国が職業紹介の窓口を置き、働き口を紹介する仕組みを整えることです。
  • 外側:裁判所に「あの会社に雇わせる判決を出せ」と求めることです。
  • 具体化する法律:職業安定法・雇用保険法などです。職業安定法は、国が職業紹介の仕組みを作り、働き口を探す人と結びつける法律です。

注意「就労を請求できない」は、判例ではなく通説です。

判例は、この点を正面から述べていません。

27条と28条の分かれ目

結論27条と28条は、相手が誰かで分かれます。

  • 27条1項:相手は国です。国に働く場を用意させる条文です。
  • 28条:相手は使用者です。会社と対等に向き合う力の条文です。

27条2項・3項(勤労条件の基準と児童酷使の禁止)

27条1項の相手は、あくまで国でした。
2項と3項は、それぞれ誰に向けられているのでしょうか。

勤労条件の基準(2項)

結論賃金・就業時間・休息などの勤労条件の基準は、法律で定めます。

これを受けて作られたのが、労働基準法です。

理由働く条件を契約自由に任せると、力の差がそのまま契約の中身になるからです。

そこで憲法は、最低限の基準を法律で作るよう国に命じ、契約自由に外から枠をはめました。

注意力の差をそのままにしないという発想は、28条と同じ問題意識です。

27条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)2項:賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。

児童酷使の禁止(3項)

結論3項は、私人間に直接適用される数少ない規定の一つです。

理由児童を酷使するのは国ではなく雇う側で、侵害してくる相手がはじめから私人だからです。

国に禁じても意味が無いことを、憲法自身が見込んでいます。

注意原則として、憲法は国に向けられた規範で、私人どうしには民法などを通して間接的に及びます。

27条の中で、相手が使用者になるのは3項だけです(28条への橋)。

27条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)3項:児童は、これを酷使してはならない。

28条の趣旨と条文の文言

27条3項で、はじめて相手が使用者になりました。
28条は、なぜ労働者が集まることを権利として保障したのでしょうか。

条文は2つ、講学上は3つ

結論条文の文言は、「団結する権利」と「団体交渉その他の団体行動をする権利」の2つです。

講学上は、団結権・団体交渉権・団体行動権の3つに分けて整理します。

理由条文がひとまとめに書いた「団体交渉その他の団体行動」から、交渉の場面だけを取り出して団体交渉権と名づけたからです。

注意3分類は講学上の整理で、条文そのものではありません。

短答で条文の文言を問われたら、2つで答えます。

28条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。

28条の趣旨(三井美唄炭鉱労組事件)

結論28条は、経済上の弱者である労働者のために、労働基本権を保障したものです。

理由労働者が一人で企業者に対立しても、経済的実力に圧倒され、対等の立場で利益を主張し貫徹することは困難だからです。

多数で団結して交渉することで、はじめて対等の立場に立てます。

具体例一人で賃上げを求めても、断られれば辞めるしかなく、会社は代わりの人を探せます。

全員が同時に手を止めれば、会社は代わりを立てられず、話し合いに応じます。

注意目指しているのは労働者の優遇ではなく、対等にすることです。

三井美唄炭鉱労組事件最高裁判所大法廷判決二十八条の趣旨(経済的実力に圧倒される)労働者がその労働条件を適正に維持し改善しようとしても、個々にその使用者たる企業者に対立していたのでは、一般に企業者の有する経済的実力に圧倒され、対等の立場においてその利益を主張し、これを貫徹することは困難である。……憲法二八条は、この趣旨において、企業者対労働者、すなわち、使用者対被使用者という関係に立つ者の間において、経済上の弱者である労働者のために、団結権、団体交渉権および団体行動権(いわゆる労働基本権)を保障したものであり

28条が守るもの

結論28条が守っているのは、労働条件について、使用者と対等に交渉する力です。

28条がどう効くかも、権利がどこで切れるかも、この力から出てきます。

注意各論点では、対象がこの力からどれくらい離れているかを見ます。

近ければ守られ、遠ければ守られません。

勤労者

定義勤労者とは、自分の労働力を提供し、その対価で生活している人です。

労働者とほぼ同じ意味です。

注意いま雇われている人だけでなく、職を失っている人も含まれます。

公務員には、法律で争議行為が禁じられています。

28条は公務員にも及びますが、大きく制限されます。

28条の3つの側面(刑事免責・民事免責・不当労働行為の救済)

28条が守るのは、使用者と対等に交渉する力です。
ストライキをした人に来る追及を、28条はどう止めるのでしょうか。

ストをした人に来る三方向の追及(①国が刑罰で追及する/②会社が損害の賠償を請求する/③会社が不利益に扱う)

刑事免責(自由権的側面)

結論国に対して「刑罰で潰すな」と求めるのが、自由権的側面です。

これを法律の形にしたのが、労働組合法1条2項の刑事免責です。

理由刑法35条(法令または正当な業務による行為は罰しない)を、組合の正当な行為にも適用するからです。

具体例大勢で業務を止めても、正当なストなら威力業務妨害になりません。

注意ただし書により、暴力の行使は、どんな場合でも正当な行為とは扱われません。

1条|労働組合法 第一章 総則(1〜4条)2項:刑法(明治四十年法律第四十五号)第三十五条の規定は、労働組合の団体交渉その他の行為であつて前項に掲げる目的を達成するためにした正当なものについて適用があるものとする。但し、いかなる場合においても、暴力の行使は、労働組合の正当な行為と解釈されてはならない。

民事免責(私人間への直接適用)

結論28条は、私人である使用者に対しても直接効きます。

これを法律の形にしたのが、労働組合法8条の民事免責です。

理由私人による侵害を、憲法自身が正面から見込んだ規定だからです(27条3項と同じ理由)。

賠償を求めてくるのも不利益に扱ってくるのも、国ではなく会社です。

具体例働く約束を守らなかったとして、会社が損害賠償を請求することはできません。

注意免責されるのは損害賠償の責任だけです。

働かなかった時間の賃金は、原則としてもらえません。

同盟罷業は、ストライキの法律上の言葉です。

8条|労働組合法 第二章 労働組合(5〜13条)使用者は、同盟罷業その他の争議行為であつて正当なものによつて損害を受けたことの故をもつて、労働組合又はその組合員に対し賠償を請求することができない。

不当労働行為の救済(社会権的側面)

定義不当労働行為とは、使用者が組合の活動そのものを弱らせにくる行為です(労働組合法7条)。

結論国に「守る仕組みを作れ」と求めるのが、社会権的側面です。

救済の仕組みは、労働組合法27条以下が置いています。

救済にあたるのは、裁判所ではなく、労働委員会という行政の機関です。

理由裁判より早く動ける仕組みを、別に用意しています。

具体例不当労働行為には、次のようなものがあります。

  • 配置転換:ストの中心になった人を、遠くの事業所へ配置転換します。
  • 昇進差別:組合員だけを昇進させません。
  • 団交拒否:話し合いを求められても、理由なく応じません。

注意労働組合法27条は救済の手続で、憲法27条(勤労の権利)とは別の法律の別の条文です。

法律の名前とセットで覚えます。

3つの側面の関係

28条の三つの側面(自由権的側面=相手は国・刑事免責/私人間への直接適用=相手は使用者・民事免責/社会権的側面=相手は国・不当労働行為の救済)

結論3つは並列の知識ではなく、対等に交渉する力を実際に働かせるための三点セットです。

理由1つでも欠けると、力が働かないからです。

  • 刑事免責が無い:ストを呼びかけた時点で捕まります。
  • 民事免責が無い:要求が通っても、賠償で取り返されます。
  • 救済の仕組みが無い:中心になった人から順に潰されます。

注意28条は、国に対する顔と使用者に対する顔を同時に持ちます。

  • 「社会権の章にあるから国に対する権利だ」と読むと、民事免責が説明できません。
  • 「私人に直接効く特別な条文だ」と言い切ると、国が作る救済制度が説明できません。

団結権①(ユニオン・ショップ協定)

28条が守る中身は、団結権・団体交渉権・団体行動権です。
団結権のもとで、組合に入らない人を解雇する約束は許されるのでしょうか。

団結権とユニオン・ショップ協定

定義2つの言葉の意味は、次のとおりです。

  • 団結権:労働者が団体を作る権利(労働組合結成権)です。作る自由と入る自由の両方を含みます。
  • ユニオン・ショップ協定:組合に入らない人や、組合から除名された人を、会社が解雇するという約束です。

消極的団結権

定義消極的団結権とは、組合に入らない自由です。

結論通説は、消極的団結権を28条の保障に含めません。

そのため、ユニオン・ショップ協定は有効と整理されます。

理由抜ける人が増えるほど、組合の交渉する力そのものが落ちるからです。

組合を強くする方向の縛りは、対等に交渉する力の中心にあります。

注意これは通説で、判例はこの点を正面から判断していません。

労働組合法7条1号ただし書

条文ユニオン・ショップ協定には、労働組合法7条1号ただし書という実定法上の根拠もあります。

注意組合が労働者の過半数を代表することが要件です。

少数の組合が同じ約束をしても、この規定では守られません。

7条(1号ただし書)|労働組合法 第二章 労働組合(5〜13条)ただし、労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合において、その労働者がその労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約を締結することを妨げるものではない。

三井倉庫港運事件

三井倉庫港運事件の関係図(①会社Bと元の組合Cの協定/②運転手たちAがCに脱退届/③Aが新組合Dに加入しBに通告/④CがBに解雇要求/⑤BがAを解雇)

事案会社と組合の間に、ユニオン・ショップ協定がありました。

  • 脱退:運転手たちが、ある日の朝、組合に脱退届を出し、即刻別の組合に加入しました。
  • 通告:40分ほど後に、その旨を会社に通告しました。
  • 解雇:元の組合は同じ日に解雇を求め、会社は同じ日の夕方に運転手たちを解雇しました。

結論解雇は無効です(原審の判断を維持し、会社の上告を退けました)。

理由労働者には、自らの団結権を行使するため労働組合を選択する自由があります。

協定を結んでいない他の労働組合の団結権も等しく尊重されるべきです。

そのため、組合選択の自由と他の組合の団結権を侵害する加入の強制は、許されません。

注意解雇したのは、組合ではなく会社です。

組合には、人を解雇する権限はありません。

三井倉庫港運事件最高裁判所第一小法廷判決なぜ加入の強制に限界があるのか労働者には、自らの団結権を行使するため労働組合を選択する自由があり、また、ユニオン・ショップ協定を締結している労働組合(以下「締結組合」という。)の団結権と同様、同協定を締結していない他の労働組合の団結権も等しく尊重されるべきであるから、ユニオン・ショップ協定によって、労働者に対し、解雇の威嚇の下に特定の労働組合への加入を強制することは、それが労働者の組合選択の自由及び他の労働組合の団結権を侵害する場合には許されないものというべきである。無効になる部分と、その解雇したがって、ユニオン・ショップ協定のうち、締結組合以外の他の労働組合に加入している者及び締結組合から脱退し又は除名されたが、他の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成した者について使用者の解雇義務を定める部分は、右の観点からして、民法九〇条の規定により、これを無効と解すべきである(憲法二八条参照)。

入らない自由と選ぶ自由

結論潰す対象によって、結論が分かれます。

  • 組合に入らない自由を潰す:組合を強くするための手段として許されます。
  • 別の組合を選ぶ自由を潰す:許されません。

理由別の組合も、同じ28条に守られているからです。

28条を使って28条を潰すことになり、自己矛盾になります。

二段構え(一部無効と解雇の無効)

三井倉庫港運事件の二段構え(協定そのものは有効→第一段=解雇義務を定める部分は民法90条により無効→第二段=解雇も解雇権の濫用として無効)

結論判決は、次の三段で結論を出しています。

  • 協定:協定そのものは有効です。
  • 第一段:他の組合に加入している者などについて使用者の解雇義務を定める部分は、民法90条により無効です。
  • 第二段:解雇義務が生じていないのにされた解雇は、解雇権の濫用として無効です。

条文無効の根拠は、民法90条(公序良俗)です。

理由会社と組合の協定は、私人どうしの契約だからです。

28条が直接効くとはいえ、無効の判断は民法の一般条項を通しています。

注意無効になる部分の対象は、次の人たちです。

  • 他の組合に入っている人
  • 脱退または除名の後に、別の組合に入った人
  • 脱退または除名の後に、新しい組合を作った人

第二段では、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇として無効になります。

90条|民法 第一編 総則 第五章 法律行為 第一節 総則(90〜92条)公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

団結権②(統制権)

組合を強くする縛りは、対等に交渉する力の中心にあります。
では、組合が組合員を処分する力は、どこから来るのでしょうか。

統制権の根拠

定義統制権とは、組合が組合員を規律し、違反した人に処分をする力です。

結論三井美唄炭鉱労組事件は、組合の統制権は、一般の組織的団体のそれと異なり、28条の精神に由来するとしました。

28条による団結権保障の効果として認められます。

そのため、21条の結社の自由にもとづく一般の団体の統制権より強くなります。

理由普通の団体なら、方針が嫌なら抜ければ済みます。

団結は、一人が抜けると残った人の力まで落ちるので、内部を縛る必要が強いのです。

注意一般論は「目的を達成するために必要であり、かつ、合理的な範囲内において」です。

幅があるので、限界が問題になります。

三井美唄炭鉱労組事件最高裁判所大法廷判決統制権はどこから来るのか憲法上、団結権を保障されている労働組合においては、その組合員に対する組合の統制権は、一般の組織的団体のそれと異なり、労働組合の団結権を確保するために必要であり、かつ、合理的な範囲内においては、労働者の団結権保障の一環として、憲法二八条の精神に由来するものということができる。

21条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

統制権の限界(三井美唄炭鉱労組事件)

事案組合が決めた統一候補ではない組合員が、立候補しようとしました。

組合は立候補をやめるよう求め、やめなかったので処分をしました。

結論勧告・説得までは許されますが、処分は違法です。

  • 勧告または説得:その限度では、組合の政治活動の一環として許されます。
  • 処分:勧告または説得の域を超え、統制違反者として処分するのは、統制権の限界を超え違法です。

理由立候補するかどうかは労働条件の問題ではなく、その人が市民として決めることだからです。

説得は最後の決定を本人に残しますが、処分は決定そのものを組合が奪います。

具体例組合員への要求は、中身で扱いが逆になります。

  • 組合が決めたストの日に持ち場を離れないよう求める:従う義務があり、破れば処分もできます。
  • 特定の候補者を応援しろと求める:従う義務はなく、処分もできません。

注意候補者を一本化する目的自体は正当です。

目的が同じでも、手段で結論が分かれます。

三井美唄炭鉱労組事件最高裁判所大法廷判決統制権の限界統一候補以外の組合員で立候補しようとする組合員に対し、立候補を思いとどまるように勧告または説得することも、その限度においては、組合の政治活動の一環として、許されるところと考えてよい。

組合員の協力義務(国労広島地本事件)

処分ができるということは、組合員に命令に従う義務があるということです。
では、組合員の協力義務は、どこまで及ぶのでしょうか。

事案

事案組合が、組合員から臨時に集めようとしたお金の納付義務が争われました。

実際に争われたのは、次の3つです。

  • ①他組合の闘争支援:他の組合が行っている企業整備反対闘争を支援する資金です。
  • ②被処分者の救援:安保反対闘争で民事上または刑事上の不利益処分を受けた組合員を救援する資金です。
  • ③選挙運動の資金:組合出身の立候補者の選挙運動を応援するため、その所属政党に寄付する資金です。

いずれも、組合員一人あたり数十円から数百円です。

活動が許されることと協力義務は別

結論組合の活動として許されるというだけで、組合員の協力義務を無条件で肯定することは相当でないとされました。

  • 活動範囲:経済的活動を超え、政治的・社会的・文化的活動など、組合員の生活利益に関係する事項に広く及びます。
  • 判断方法:活動の内容・性質と、組合員に求められる協力の内容・程度・態様等を比較考量します。
  • 観点:多数決で動く組合活動の実効性と、組合員個人の基本的利益の調和を図り、協力義務の範囲に合理的な限定を加えます。

注意「組合がその活動をしてよいか」と「組合員に協力を強制できるか」は、別の問いです。

国労広島地本事件最高裁判所第三小法廷判決許された活動であることと、協力義務は別今日においては、その活動の範囲が本来の経済的活動の域を超えて政治的活動、社会的活動、文化的活動など広く組合員の生活利益の擁護と向上に直接間接に関係する事項にも及び、しかも更に拡大の傾向を示しているのである。……労働組合の活動として許されたものであるというだけで、そのことから直ちにこれに対する組合員の協力義務を無条件で肯定することは、相当でないというべきである。……問題とされている具体的な組合活動の内容・性質、これについて組合員に求められる協力の内容・程度・態様等を比較考量し、多数決原理に基づく組合活動の実効性と組合員個人の基本的利益の調和という観点から、組合の統制力とその反面としての組合員の協力義務の範囲に合理的な限定を加えることが必要である。

3つの資金の結論

国労広島地本事件の結論(①他組合の闘争援助=協力義務あり/②被処分者の救援=協力義務あり/③選挙運動の資金=協力義務なし)

結論①と②には協力義務があり、③にはありません。

理由それぞれの理由は、次のとおりです。

  • ①他組合の闘争支援:組合員の経済的地位の向上は、自分の組合だけでは実現せず、他の組合との連帯した行動が予定されているからです。
  • ②被処分者の救援:共済活動として、被処分者の生活上の不利益を経済的に助けるもので、処分の原因たる行為のいかんにかかわらないからです。
  • ③選挙運動の資金:どの政党や候補者を支持するかは、投票の自由と表裏をなすものだからです。組合員各人が、市民としての個人的な政治的思想、見解、判断ないしは感情等に基づいて自主的に決めるべき事柄です。

注意③は、金額が小さくても同じです。

額の問題ではなく、個人が決める領域かどうかの問題です。

国労広島地本事件最高裁判所第三小法廷判決選挙運動の資金(投票の自由と表裏)政党や選挙による議員の活動は、各種の政治的課題の解決のために労働者の生活利益とは関係のない広範な領域にも及ぶものであるから、選挙においてどの政党又はどの候補者を支持するかは、投票の自由と表裏をなすものとして、組合員各人が市民としての個人的な政治的思想、見解、判断ないしは感情等に基づいて自主的に決定すべき事柄である。

安保反対闘争そのものと救援

結論安保反対闘争そのものへの協力は、強制できません。

しかし、その闘争で処分を受けた人の救援資金には、協力義務があります。

理由政治的要求に賛成するか反対するかは、各人が国民の一人としての立場で決めるべきことだからです。

一方、救援は、闘争を支持・助長することを直接の目的とせず、生活を支える助け合いです。

注意安保反対闘争そのものへの協力の話は、救援資金を判断する前提として、理由の中で述べた一般論です。

独立の徴収項目ではありません(実際の項目は3つ)。

ただし、判示事項としては掲げられています。

国労広島地本事件最高裁判所第三小法廷判決安保反対闘争そのものと、被処分者の救援いわゆる安保反対闘争のような活動は、究極的にはなんらかの意味において労働者の生活利益の維持向上と無縁ではないとしても、直接的には国の安全や外交等の国民的関心事に関する政策上の問題を対象とする活動であり、このような政治的要求に賛成するか反対するかは、本来、各人が国民の一人としての立場において自己の個人的かつ自主的な思想、見解、判断等に基づいて決定すべきことであるから、それについて組合の多数決をもつて組合員を拘束し、その協力を強制することを認めるべきではない。

注意すべき区別

注意次の点を混同しないようにします。

  • 反対意見:協力義務ありとされた側について、反対意見があり、全員一致ではありません。
  • 「表裏」の語:立候補の自由の根拠を述べる場面(選挙権の自由な行使と表裏)とは別です。この事件の「表裏」は、協力義務の限界の理由です。
  • 税理士会の寄付の事件:強制加入の団体が政治団体に寄付した事件は、団体がその行為をそもそもできるかを問うものです。この事件は、活動はできるとしたうえで、協力を強制できるかを問うものです。

団体交渉権

団結権は、交渉する力を作る権利でした。
では、その力を実際に使う団体交渉権は、どのように保障されるのでしょうか。

団体交渉権

定義団体交渉権とは、労働者の団体が、使用者と労働条件について話し合う権利です。

団結権が力を作る権利なら、団体交渉権はその力を使う権利です。

具体例組合が来年の賃上げを申し入れ、会社が「ここまでなら出せる」と答えます。

この申し入れと回答のやりとりそのものが、団体交渉です。

労働協約

定義労働協約とは、話し合いの結果として結ぶ取り決めです。

結論書面に作成し、両当事者が署名し、又は記名押印することで効力を生じます(労働組合法14条)。

理由口約束だと言った言わないになり、交渉の成果が消えてしまうからです。

形を要求するのは、成果を確実に残すためです。

14条|労働組合法 第三章 労働協約(14〜18条)労働組合と使用者又はその団体との間の労働条件その他に関する労働協約は、書面に作成し、両当事者が署名し、又は記名押印することによつてその効力を生ずる。

団体交渉の拒否

結論使用者が正当な理由なく団体交渉を拒むことは、不当労働行為にあたります(労働組合法7条)。

拒まれたら、労働委員会に救済を求められます。

具体例申し入れても日時を決めない、決めても担当者が来ない、という対応です。

注意中身に入る前に止めるのも、拒否にあたります。

団体行動権と争議権(政治スト)

団体交渉で要求を通すには、それを支える行動が要ります。
団体行動権と争議権はどういう関係にあり、政治ストはなぜ正当な争議行為から外れるのでしょうか。

団体行動権と争議権の包含関係(団体行動権の中に、争議行為〈同盟罷業・怠業〉と争議行為でない団体行動〈ビラ配り・集会〉がある)

団体行動権と争議権

定義用語の意味は、次のとおりです。

  • 団体行動権:労働条件を実現するために、労働者が団体として行動する権利です。
  • 争議行為:団体行動の中心で、代表は同盟罷業(全員で仕事を止める)と怠業(仕事を続けながら能率を落とす)です。
  • 争議権:争議行為をする権利です。

結論団体行動権のほうが広く、その中に争議権が入っています。

具体例ビラ配りや集会は、争議行為にあたらない団体行動です。

注意この包含関係が、試験で問われます。

政治スト

定義政治ストとは、労働条件の改善と直接つながらない政治目的のストです。

ある法律の成立に反対して一斉に仕事を止める場合が、これにあたります。

結論政治ストは、正当な争議行為の限界を超えます。

理由争議行為は、交渉を有利に進めるための手段だからです。

会社は法律を作ることも廃止することもできず、相手が折れても要求が通りません。

求めている中身が、交渉の対象になりません。

具体例線は、相手が応じられるかどうかで引かれます。

  • 賃上げの要求:「うちの職場の賃金を上げてほしい」は、会社が決められるので、交渉の対象になります。
  • 法律の廃止の要求:「ある法律を廃止してほしい」は、会社にはどうにもできないので、交渉の対象になりません。

注意動機が政治的かどうかではなく、相手が解決できる問題かどうかで決まります。

この結論は講学上の整理です。

この理由づけが引かれる判決は、公務員の争議行為を扱ったものです。

生産管理(しないことと奪うこと)

政治ストは、目的の面で正当な争議行為から外れました。
では、手段の面で、生産管理という争議手段は認められるのでしょうか。

生産管理の事件(山田鋼業事件)

定義生産管理とは、組合が工場や設備を管理下に置き、使用者の指図を外して自分たちで経営を回すことです。

事案労働者側が生産管理を始め、工場や設備を占有下に置きました。

  • 持ち出し:争議中の賃金の支払などに充てるため、会社の許可を得ずに鉄板を工場の外に運び出して売ろうとしました。
  • 起訴:窃盗罪で起訴されました。
  • 弁護側の主張:争議権は憲法上の権利なので、財産権に優先すると主張しました。

結論最高裁は、弁護側の主張を退け、窃盗罪の成立を認めました。

  • 規範:憲法は、争議権が他の基本的人権に対して絶対的優位を有することを認めているのでもないとされました。基本的人権と労働者の権利との調和を破らないことが、争議権の正当性の限界です。
  • 当てはめ:生産管理は、この限界を超え、正当な争議行為とはいえません。

理由刑事免責(労働組合法1条2項)は、無条件ではなく、正当なものにしか及ばないからです。

生産管理の事件最高裁判所大法廷判決争議権の正当性の限界(調和を破らないこと)憲法は勤労者に対して団結権、団体交渉権その他の団体行動権を保障すると共に、すべての国民に対して平等権、自由権、財産権等の基本的人権を保障しているのであつて、是等諸々の基本的人権が労働者の争議権の無制限な行使の前に悉く排除されることを認めているのでもなく、後者が前者に対して絶対的優位を有することを認めているのでもない。寧ろこれ等諸々の一般的基本的人権と労働者の権利との調和をこそ期待しているのであつて、この調和を破らないことが、即ち争議権の正当性の限界である。

同盟罷業との違い

同盟罷業と生産管理の比較表(同盟罷業=働かないこと・債務不履行となるにすぎない/生産管理=企業経営の権能を権利者の意思を排除して非権利者が行う)

結論同盟罷業と生産管理は、しないことと奪うことの違いです。

  • 同盟罷業:財産権の侵害は生じますが、労働力の給付が債務不履行となるに過ぎません。
  • 生産管理:企業経営の権能を、権利者の意思を排除して非権利者が行います。

理由生産管理は、経営という権限そのものを権利者から取り上げ、使用者の財産権を侵すからです。

対等に交渉するための手段の範囲を、はみ出しています。

生産管理の事件最高裁判所大法廷判決同盟罷業との違いなるほど同盟罷業も財産権の侵害を生ずるけれども、それは労働力の給付が債務不履行となるに過ぎない。然るに本件のようないわゆる生産管理に於ては、企業経営の権能を権利者の意思を排除して非権利者が行うのである。

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