憲法ゼロから憲法#56

勤労の権利と労働基本権——ストは、なぜ罪にならないのか

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第3章 人権各論 #56/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

二十七条一項——「働かせろ」と言える権利ではない

勤労の権利の中身(自由権的側面=働くことを国に妨げられない権利。ただし二十二条一項の職業選択の自由と重なるので独自の意味は薄い/社会権的側面=働く意思と能力があるのに機会を得られない者が、国に労働の機会の提供を求め、それが不可能なら代わる保護を求める権利/二十七条一項を直接の根拠として就労を請求することはできない〈通説であって判例ではない〉/具体化する法律=職業安定法・雇用保険法など) 図:勤労の権利の中身

  • 自由権的側面=働くことを国に妨げられない権利。ただし二十二条一項の職業選択の自由と重なるので独自の意味は薄い
  • 社会権的側面=働く意思と能力があるのに機会を得られない者が、国に労働の機会の提供を求め、それが不可能なら代わる保護を求める権利
  • 二十七条一項を直接の根拠として就労を請求することはできない〈通説であって判例ではない〉
  • 具体化する法律=職業安定法・雇用保険法など

まず、二十七条の一項から見ましょう。

条文日本国憲法 27条1項

日本国憲法 第二十七条第一項 すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。

今日は前段の権利のほうだけを見ます。二つの顔があります。前回までと同じ整理ですね。一つは、働くことを国に妨げられないという自由権的な顔です。ただ、この顔にはほとんど出番がありません。職業選択の自由を思い出してください。二十二条一項です。好きな職業を選ぶ自由は、すでにそちらで守られています。重なっている以上、独自の意味は薄くなります。重点は、もう一つの顔にあります。社会権的な顔です。働く意思も能力もあるのに、働く場がない。そういう人が、国に働く機会を用意してくれと求める権利です。そして、それが用意できないなら、代わりの保護を求められます。

失業給付のイメージで合っています。さて、ここでいちばん引っかかるところに行きましょう。私は働きたい、だから雇わせてください、と裁判で言えるでしょうか。雇わせろとは言えません。二十七条一項を直接の根拠にして、就労は請求できません。生存権の回で見た形と同じです。覚えていますか。条文に権利と書いてあるだけでは、輪郭が出ません。誰に、どんな仕事を、いくらの賃金で用意させるのか。だから、法律が具体化して初めて、裁判で使える形になります。職業安定法や雇用保険法が、その役割を担っています。国が職業紹介の仕組みを作り、働き口を探す人と結びつける法律です。ここで一つ、はっきり分けておきましょう。この「請求できない」は、判例が述べたことではありません。

学説が通説として組み立てている中身です。判例は正面から述べていません。覚えるときは、出どころまで込みで覚えてください。線の内側と外側を、二つ並べておきます。裁判所に、私をあの会社に雇わせる判決を出せ、と求める。これは二十七条一項からは出てきません。線の外側です。国が職業紹介の窓口を置き、働き口を紹介する仕組みを整えること。これは、まさに二十七条一項が国に求めている中身です。ここで、今日の物差しを先取りしておきます。二十七条一項の相手は、あくまで国です。会社と向き合って条件を決める、という話ではありません。

二十七条と二十八条の分かれ目は、相手が誰かです。二十七条は、国に働く場を用意させる条文。二十八条は、会社と対等に向き合う力の条文です。この違いが、今日ずっと効いてきます。

基準は法律で決める、児童は酷使してはならない

二十七条二項・三項(二項=賃金・就業時間・休息その他の勤労条件に関する基準は法律で定める。これを受けたのが労働基準法/なぜ法律で定めるのか=契約自由に任せると力の差がそのまま契約の中身になるから、外から枠をはめた/三項=児童酷使の禁止は私人間に直接適用される数少ない規定の一つ/三項ではじめて相手が使用者になる=二十八条への橋) 図:二十七条二項・三項

  • 二項=賃金・就業時間・休息その他の勤労条件に関する基準は法律で定める。これを受けたのが労働基準法
  • なぜ法律で定めるのか=契約自由に任せると力の差がそのまま契約の中身になるから、外から枠をはめた
  • 三項=児童酷使の禁止は私人間に直接適用される数少ない規定の一つ
  • 三項ではじめて相手が使用者になる=二十八条への橋

二十七条には、二項と三項もあります。どちらも短い条文ですが、今日の橋渡しになります。

条文日本国憲法 27条2項

日本国憲法 第二十七条第二項 賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める

これを受けて作られたのが労働基準法です。契約は本来、当事者が自由に決めるものでしたね。では、働く条件を完全に自由に任せると、どうなるでしょうか。強いほうの言い分が、そのまま条件になりそうです。力の差が、そのまま契約の中身になります。だから憲法は、最低限の基準を法律で作れと国に命じました。そして、この発想が今日の後半につながります。力の差をそのままにしない。二十八条も、同じ問題意識から出ています。

条文日本国憲法 27条3項

日本国憲法 第二十七条第三項 児童は、これを酷使してはならない

短いですが、この条文には特別な性質があります。私人どうしの関係に、直接適用されるんです。私人間効力を扱った回で、直接適用される規定を並べました。この三項も、その一覧に入っていました。原則として、憲法は国に向けられた規範でした。でも、この三項は違います。なぜだと思いますか。直接適用の決め手はここです。侵害してくる相手が、はじめから私人なんです。国に禁じても意味がありません。憲法自身が、そこを見込んでいます。ここが橋です。二十七条の中で、三項だけが向きを変えています。そして次に見る二十八条は、その向きを大きく開きます。

二十八条の趣旨——なぜ「集まること」が権利になるのか

二十八条の趣旨と条文の文言(一人で交渉しても企業者の経済的実力に圧倒され、対等の立場で利益を主張し貫徹することは困難/多数で団結して交渉することではじめて対等の立場に立てる/勤労者=自分の労働力を提供し、その対価で生活している人/条文の文言は「団結する権利」と「団体交渉その他の団体行動をする権利」の二つ/講学上は団結権・団体交渉権・団体行動権の三つに分けて整理する) 図:二十八条の趣旨と条文の文言

  • 一人で交渉しても企業者の経済的実力に圧倒され、対等の立場で利益を主張し貫徹することは困難
  • 多数で団結して交渉することではじめて対等の立場に立てる
  • 勤労者=自分の労働力を提供し、その対価で生活している人
  • 条文の文言は「団結する権利」と「団体交渉その他の団体行動をする権利」の二つ
  • 講学上は団結権・団体交渉権・団体行動権の三つに分けて整理する

いよいよ二十八条です。まず条文を見ましょう。

条文日本国憲法 28条(項の区切りはなく、この一文だけ)

日本国憲法 第二十八条 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。

一文だけの条文です。ここで一つ、気づいてほしいことがあります。教科書では、二十八条の保障は三つに分けて説明されます。では、条文にはいくつ書いてありますか。数のずれが大事です。条文は二つ、教科書は三つ。ずれではなく、整理の仕方です。条文は「団体交渉その他の団体行動」と、ひとまとめに書いています。その中から交渉の場面だけを取り出して名づけたのが、団体交渉権です。三分類は講学上の整理であって、条文そのものではありません。短答で条文の文言を問われたら、二つで答えることになります。では、この条文はなぜ置かれたのでしょうか。想像してみてください。あなたが一人で会社に賃上げを求めます。

あとは辞めるしかありません。一方、会社の側は、代わりに働く人を探せます。力の差がそこです。契約の建前は対等でも、実際の力は対等ではありません。では、どうすれば力が釣り合うでしょうか。みんなで求めることが二十八条の発想です。全員が同時に手を止めれば、会社は代わりを立てられません。そこではじめて、会社は話し合いのテーブルにつきます。最高裁も、この趣旨を正面から述べています。

判例最高裁判所大法廷判決・昭和四十三年十二月四日。……は判旨中略

三井美唄炭鉱労組事件①——二十八条の趣旨(経済的実力に圧倒される) 労働者がその労働条件を適正に維持し改善しようとしても、個々にその使用者たる企業者に対立していたのでは、一般に企業者の有する経済的実力に圧倒され対等の立場においてその利益を主張し、これを貫徹することは困難である。……憲法二八条は、この趣旨において、企業者対労働者、すなわち、使用者対被使用者という関係に立つ者の間において、経済上の弱者である労働者のために、団結権、団体交渉権および団体行動権(いわゆる労働基本権)を保障したものであり

判例は、契約の建前ではなく、実際の力関係を見ています。そして目指しているのは「対等の立場」です。対等にする点を正確に押さえてください。優遇ではありません。傾いている天秤を、水平に戻すための条文です。自分の労働力を提供して、その対価で暮らしている人のことです。労働者という言い方と、ほぼ同じ意味だと考えてください。今その状態にある人だけでなく、職を失っている人も含まれます。さて、ここで今日の物差しをお渡しします。二十八条が守っているのは、たった一つのものです。労働条件について、使用者と対等に交渉する力。これだけです。

そして、この一つから今日の全部が出てきます。条文がどう効くのかも、権利がどこで切れるのかも、ここから出ます。そのたびに、同じ問いを立ててください。いま見ているものは、対等に交渉する力から、どれくらい離れているか。その見取り図で進みます。実際に当てながら確かめましょう。

一つの条文が、三方向に効く

ストをした人には、三方向から追及が来る(中心=一斉に持ち場を離れた労働者とその組合/①国が刑罰で追及する〈大勢で業務を止めた=威力業務妨害だという言い分〉/②会社が損害の賠償を請求する〈働く約束を守らなかったという言い分〉/③会社がストの中心になった人を不利益に扱う〈遠くの事業所への配置転換など〉/この三つを全部止めないと、対等に交渉する力は働かない) 図:ストをした人には、三方向から追及が来る

  • 中心=一斉に持ち場を離れた労働者とその組合
  • ①国が刑罰で追及する〈大勢で業務を止めた=威力業務妨害だという言い分〉
  • ②会社が損害の賠償を請求する〈働く約束を守らなかったという言い分〉
  • ③会社がストの中心になった人を不利益に扱う〈遠くの事業所への配置転換など〉/この三つを全部止めないと、対等に交渉する力は働かない

冒頭の場面に戻りましょう。工場のラインが一斉に止まりました。この一つの出来事に対して、三つの方向から追及が来ます。一つ目は、国です。検察官が出てきて、刑罰で追及します。大勢で会社の業務を止めた。威力業務妨害だ、という言い分ですね。二つ目は、会社です。損害の賠償を請求してきます。働く約束をしていたのに働かなかった。損害を払え、という言い分です。三つ目も会社です。ストの中心になった人を、不利益に扱います。遠くの事業所へ配置転換する、といった形ですね。三つを全部止められるかが要点です。この三つを全部止めないと、力は働きません。そして二十八条は、三つとも止めます。向きを変えながら。一つ目から見ましょう。国の刑罰を、どう止めるか。二十八条は、国に対して「刑罰で潰すな」と言っています。これが自由権的な側面です。国に余計なことをするなと言う顔ですね。それを法律の形にしたのが、労働組合法の一条二項です。

条文労働組合法 1条2項

労働組合法 第一条第二項——刑事免責 刑法(明治四十年法律第四十五号)第三十五条の規定は、労働組合の団体交渉その他の行為であつて前項に掲げる目的を達成するためにした正当なものについて適用があるものとする。但し、いかなる場合においても、暴力の行使は、労働組合の正当な行為と解釈されてはならない。

法令または正当な業務による行為は罰しない、という規定です。正当な行為には犯罪が成立しない、という受け皿ですね。だから、正当なストは犯罪になりません。ただし、ただし書に注意してください。暴力は、どんな場合でも正当な行為とは扱われません。免責は無条件ではありません。ここは今日の最後にもう一度出てきます。二つ目です。会社からの損害賠償を、どう止めるか。二十八条には、ほかの条文に無い特別なところがあります。二十八条は、私人である使用者に対しても直接効きます。二十八条が直接適用される規定の一覧に入っていた理由は、一つです。私人による侵害を、憲法自身が正面から見込んだ規定だからです。

三項と同じ理由です。賠償を求めてくるのも、不利益に扱ってくるのも、国ではなく会社ですから。そして、それを法律の形にしたのが労働組合法の八条です。

条文労働組合法 8条

労働組合法 第八条——民事免責 使用者は、同盟罷業その他の争議行為であつて正当なものによつて損害を受けたことの故をもつて、労働組合又はその組合員に対し賠償を請求することができない

法律の言葉では同盟罷業と言います。ここで一つ、間違えやすい点があります。免責されるのは、損害賠償の責任です。働かなかった時間の賃金のほうは、原則としてもらえません。働いていない以上、賃金は発生しません。賠償と賃金は別扱いという分かれ目です。二つを一緒にしないでください。三つ目です。会社からの不利益な扱いを、どう止めるか。賠償とも刑罰とも違います。会社が、組合の活動そのものを弱らせにくる場面です。中心になった人を飛ばす。組合員だけ昇進させない。話し合いを求められても、理由なく応じない。こういう行為を、労働組合法は不当労働行為と呼んでいます。定めているのは、労働組合法の七条です。そして救済の仕組みを置いているのが、同じ法律の二十七条以下です。

番号が同じだけなので要注意です。数字が同じでも、別の法律の別の条文です。憲法の二十七条は勤労の権利。労働組合法の二十七条は救済の手続です。法律の名前とセットで覚えてください。救済にあたるのは、労働委員会という行政の機関です。裁判より早く動ける仕組みが、別に用意されているということです。細かい手続には、今日は立ち入りません。押さえてほしいのは、国が守る仕組みを作っている、という点です。二十八条が国に「守る仕組みを作れ」と求める。これが社会権的な側面です。

二十八条の三つの側面(自由権的側面=相手は国。刑罰を作るなと求める→刑事免責〈労働組合法1条2項〉/私人間への直接適用=相手は使用者。憲法が直接効く→民事免責〈労働組合法8条〉/社会権的側面=相手は国。守る仕組みを作れと求める→不当労働行為の救済〈労働組合法7条・27条以下〉/三つは並列の知識ではなく、対等に交渉する力を実際に働かせるための三点セット) 図:二十八条の三つの側面

  • 自由権的側面=相手は国。刑罰を作るなと求める→刑事免責〈労働組合法1条2項〉
  • 私人間への直接適用=相手は使用者。憲法が直接効く→民事免責〈労働組合法8条〉
  • 社会権的側面=相手は国。守る仕組みを作れと求める→不当労働行為の救済〈労働組合法7条・27条以下〉
  • 三つは並列の知識ではなく、対等に交渉する力を実際に働かせるための三点セット

三つ並べてみましょう。国に「刑罰を作るな」。使用者に「直接効く」。国に「守る仕組みを作れ」。一つの条文が三方向に効く、そこが今日の山です。では、なぜ三つも要るのでしょうか。一つでも欠けたところを想像してください。刑事免責が無ければ、ストを呼びかけた時点で捕まります。民事免責が無ければ、要求が通っても賠償で取り返されます。救済の仕組みが無ければ、中心になった人から順に潰されます。三つは並列の知識ではありません。対等に交渉する力を、実際に働かせるための三点セットです。ここで、よくある読み方を二つ潰しておきます。一つ目。二十八条は社会権の章にあるから国に対する権利だ、という読み方。

その読み方では民事免責が説明できません。会社は国ではありません。二つ目。逆に、私人に直接効く特別な条文だ、と言い切る読み方。それだと、不当労働行為の救済制度が浮いてしまいます。あれは国が作る仕組みです。求める相手は、やはり国ですから。二十八条にはどちらの顔もあります。二つの顔を同時に持つ、が正解です。一つの顔に決めようとすると、必ずどこかが説明できなくなります。

団結権①——組合に入らない人を解雇する、という約束

三井倉庫港運事件の関係図(A=海上コンテナトレーラーの運転手たち/B=会社/C=Aがはじめに入っていた組合。Bとの間でユニオン・ショップ協定を結んでいる/D=Aが新しく加入した別の組合。①B・C間=加入しない者および除名された者を解雇するという協定/②A→C 朝のうちに脱退届を提出/③A→D 即刻加入し、まもなくBに通告/④C→B 協定にもとづく解雇を同日中に要求/⑤B→A 同じ日の夕方に解雇) 図:三井倉庫港運事件の関係図

  • A=海上コンテナトレーラーの運転手たち/B=会社/C=Aがはじめに入っていた組合。Bとの間でユニオン・ショップ協定を結んでいる/D=Aが新しく加入した別の組合。
  • ①B・C間=加入しない者および除名された者を解雇するという協定
  • ②A→C 朝のうちに脱退届を提出
  • ③A→D 即刻加入し、まもなくBに通告
  • ④C→B 協定にもとづく解雇を同日中に要求
  • ⑤B→A 同じ日の夕方に解雇

ここから、二十八条が守る中身に入ります。まずは団結権です。労働者が団体を作る権利、つまり労働組合結成権ですね。作る自由と入る自由の両方を含みます。そして実務では、こういう約束が結ばれることがあります。この職場で働く人は、全員この組合に入ること。入らない人や、組合を追い出された人は、会社が解雇する。ユニオン・ショップ協定と呼ばれます。入らない自由の扱いが最初の論点です。組合に入らない自由を、憲法は守っているでしょうか。そう考える立場もあります。消極的団結権と呼ばれます。ただ、通説はこれを二十八条の保障には含めません。

物差しに当ててみてください。組合は何のためにあるのでしょうか。では、半分の人しか入っていない組合はどうでしょう。力の源はそこです。抜ける人が増えるほど、力そのものが落ちます。だから、組合を強くする方向の縛りは、力の中心にあります。権利の目的を守るための理解です。だから協定は有効と整理されます。ここも出どころに注意してください。就労請求のときと同じ形です。判例はこの点を正面から判断していません。通説がそう組み立てている、というところまでです。そして、実は憲法だけの話でもありません。法律にも根拠があります。労働組合法の七条一号に、ただし書が置かれています。

条文労働組合法 7条1号ただし書

労働組合法 第七条第一号ただし書——ユニオン・ショップ協定の実定法上の根拠 ただし、労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合において、その労働者がその労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約を締結することを妨げるものではない。

ただし、その組合が過半数を代表していることが要ります。過半数を要求する作りです。憲法だけで完結していないところが大事です。では、この協定はどこまで通るのでしょうか。そこを二段構えで切った判決があります。三井倉庫港運事件です。事実の流れが、とても速いんです。Aの運転手たちが、ある日の朝、Cの組合に脱退届を出しました。そして即刻、Dという別の組合に加入します。四十分ほど後には、会社であるBに、その旨を通告しています。Cの組合は同じ日に、協定にもとづく解雇を会社に求めました。そして会社は、同じ日の夕方に、Aの人たちを解雇しました。

半日で全部終わる速さがこの事件の生々しさです。誰が誰を解雇したのかも押さえてください。組合には、人を解雇する権限はありません。争ったのは解雇されたAの人たちで、原審は解雇を無効と判断しました。会社が上告し、最高裁がそれを退けた、という流れです。最高裁は、まず理由をこう置きました。

判例最高裁判所第一小法廷判決・平成元年12月14日

三井倉庫港運事件①——なぜ加入の強制に限界があるのか 労働者には、自らの団結権を行使するため労働組合を選択する自由があり、また、ユニオン・ショップ協定を締結している労働組合(以下「締結組合」という。)の団結権と同様、同協定を締結していない他の労働組合の団結権も等しく尊重されるべきであるから、ユニオン・ショップ協定によって、労働者に対し、解雇の威嚇の下に特定の労働組合への加入を強制することは、それが労働者の組合選択の自由及び他の労働組合の団結権を侵害する場合には許されないものというべきである。

組合を選ぶ自由と入らない自由の違いが決定的な区別です。二つ並べてみましょう。一つは、組合に入らない自由を潰すこと。もう一つは、別の組合を選ぶ自由を潰すこと。前者は、組合を強くするための手段として許されます。後者は、そもそも二十八条と正面からぶつかります。別の組合も、同じ二十八条に守られているからです。二十八条で二十八条を潰す、そこが自己矛盾です。だから、線はここに引かれます。では、具体的に何が無効になるのでしょうか。

判例最高裁判所第一小法廷判決・平成元年12月14日

三井倉庫港運事件②——無効になる部分と、その解雇 したがって、ユニオン・ショップ協定のうち、締結組合以外の他の労働組合に加入している者及び締結組合から脱退し又は除名されたが、他の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成した者について使用者の解雇義務を定める部分は、右の観点からして、民法九〇条の規定により、これを無効と解すべきである(憲法二八条参照)。 そうすると、使用者が、ユニオン・ショップ協定に基づき、このような労働者に対してした解雇は、同協定に基づく解雇義務が生じていないのにされたものであるから、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認することはできず、他に解雇の合理性を裏付ける特段の事由がない限り、解雇権の濫用として無効であるといわざるを得ない

三井倉庫港運事件の二段構え(協定そのものは有効/第一段=他の組合に加入している者、脱退または除名の後に他の組合に加入したり新たな組合を結成した者について使用者の解雇義務を定める部分は、民法90条により無効/第二段=その部分が無効である以上、使用者には解雇義務が生じていない。だから、それにもとづいてされた解雇も解雇権の濫用として無効) 図:三井倉庫港運事件の二段構え

  • 協定そのものは有効
  • 第一段=他の組合に加入している者、脱退または除名の後に他の組合に加入したり新たな組合を結成した者について使用者の解雇義務を定める部分は、民法90条により無効
  • 第二段=その部分が無効である以上、使用者には解雇義務が生じていない。だから、それにもとづいてされた解雇も解雇権の濫用として無効

そこを丸めないでください。無効なのは一部分です。他の組合に入っている人。抜けたあとで別の組合に入った人。抜けたあとで新しい組合を作った人。根拠は民法の九十条、公序良俗違反です。

条文民法 90条

民法 第九十条——公序良俗 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

会社と組合の約束は、私人どうしの契約です。直接効くとはいえ、無効の判断は民法の一般条項を通しています。そして、判決にはもう一段あります。ここは省かれがちです。協定のその部分が無効なら、会社には解雇する義務がありません。判決は、ここで解雇そのもののルールを当てています。客観的に合理的な理由があり、社会の常識から見て相当だと言えなければ、解雇は認められない。合理的な理由が消えた、そこです。だから、この解雇は解雇権の濫用として無効になります。そこまで下りないと、現実に何が起きたのかが見えません。解雇された人たちは、この一段があってはじめて職場に戻れます。

最後に物差しを当てておきましょう。組合を強くすることは、対等に交渉する力の中心です。だから協定は有効。しかし、組合を選ぶ道を塞ぐのは、力の作り方として行き過ぎです。目的が同じでもやり方で結論が変わる。そこが今日、何度も出てくる形です。

団結権②——統制権は、どこから来るのか

統制権の位置づけ(統制権=組合が組合員を規律し、違反した者を処分する力/二十八条による団結権保障の効果として認められる/一般の組織的団体の統制権と異なり、二十八条の精神に由来する。つまり二十一条の結社の自由にもとづく団体の統制権より強い/なぜ強いのか=普通の団体は抜ければ済むが、団結は一人が抜けると残った人の力まで落ちる/一般論=目的を達成するために必要であり、かつ、合理的な範囲内において) 図:統制権の位置づけ

  • 統制権=組合が組合員を規律し、違反した者を処分する力
  • 二十八条による団結権保障の効果として認められる
  • 一般の組織的団体の統制権と異なり、二十八条の精神に由来する。つまり二十一条の結社の自由にもとづく団体の統制権より強い
  • なぜ強いのか=普通の団体は抜ければ済むが、団結は一人が抜けると残った人の力まで落ちる
  • 一般論=目的を達成するために必要であり、かつ、合理的な範囲内において

立候補の自由を扱った回で残した宿題に戻りましょう。前に見た事件なので、事案は繰り返しません。今日は、あのとき見なかった側から見ます。あのときは、処分された組合員の側から見ました。立候補の自由という、個人の権利の側です。今日は、処分した組合の側から見ます。そもそも、なぜ組合に人を処分する力があるのでしょうか。この力を統制権と呼びます。組合が組合員を規律し、違反した人に処分をする力ですね。団体ならその力を持っています。サークルでも学会でも、規律と処分はあります。そういう団体の力は、結社の自由から出てきます。二十一条ですね。

ところが最高裁は、組合の統制権は違うと言っています。一般の組織的団体のものとは異なる、と。二十八条の精神に由来する、という言い方をしています。そして、根拠が違うと強さも違ってきます。

判例最高裁判所大法廷判決・昭和四十三年十二月四日

三井美唄炭鉱労組事件②——統制権はどこから来るのか 憲法上、団結権を保障されている労働組合においては、その組合員に対する組合の統制権は、一般の組織的団体のそれと異なり、労働組合の団結権を確保するために必要であり、かつ、合理的な範囲内においては、労働者の団結権保障の一環として、憲法二八条の精神に由来するものということができる。 この意味において、憲法二八条による労働者の団結権保障の効果として、労働組合は、その目的を達成するために必要であり、かつ、合理的な範囲内において、その組合員に対する統制権を有するものと解すべきである。

ここは理由まで下ろしておきましょう。普通の団体なら、方針が嫌なら抜ければ済みます。ところが団結は違います。一人が抜けると、残った人の力まで落ちます。一人抜けると力が落ちるからです。だから、内部を縛る必要が一般の団体より強い。抜ける自由に任せていたら、力そのものが成り立ちません。統制権は、団結を保つための道具です。だから、これも対等に交渉する力の中心にあります。一般論の言い方も押さえておきましょう。目的を達成するために必要であり、かつ、合理的な範囲内において。数字では決まりません。だから、限界が問題になります。そして、その限界を示したのが、あの事件でした。

判例最高裁判所大法廷判決・昭和四十三年十二月四日

三井美唄炭鉱労組事件③——統制権の限界 統一候補以外の組合員で立候補しようとする組合員に対し、立候補を思いとどまるように勧告または説得することも、その限度においては、組合の政治活動の一環として、許されるところと考えてよい。 しかし、当該組合員に対し、勧告または説得の域を超え、立候補を取りやめることを要求し、これに従わないことを理由に当該組合員を統制違反者として処分するがごときは、組合の統制権の限界を超えるものとして、違法といわなければならない。

今日は、なぜここに線が引かれるのかを見ます。物差しに当ててください。組合が候補者を一本化しようとする。目的自体は、たしかに正当です。しかし、求めている中身のほうを見てください。立候補するかどうかは、労働条件の問題でしょうか。労働条件かどうかが決め手です。立候補は、その人が市民として決めることです。対等に交渉する力から、いちばん遠いところにあります。だから、そこに処分という実力で踏み込んだ瞬間、線を越えます。説得は、最後に決めるのを本人に残しているからです。処分は、決定そのものを組合が奪いにいく行為です。

目的が同じでも手段で結論が分かれる。そこが今日、二度目に出てきた形です。ここで、二つ並べて輪郭を作っておきましょう。組合が決めたストの日に、持ち場を離れないでほしいと求める。従う義務があり、破れば処分もできます。もう一つ。特定の候補者を応援しろと求める。従う義務はありませんし、処分もできません。違いは、要求の中身が力の中心にあるか、個人の領域にあるかだけです。

協力義務は、どこで切れるか

国労広島地本事件の事案(組合が組合員から臨時に集めようとした費用の納付義務が争われた/実際に争われたのは三つ/①他の組合が行っている企業整備反対闘争を支援するための資金/②安保反対闘争によって民事上または刑事上の不利益処分を受けた組合員を救援するための資金/③組合出身の立候補者の選挙運動を応援するため、その所属政党に寄付する資金/いずれも組合員一人あたり数十円から数百円) 図:国労広島地本事件の事案

  • 組合が組合員から臨時に集めようとした費用の納付義務が争われた/実際に争われたのは三つ
  • ①他の組合が行っている企業整備反対闘争を支援するための資金
  • ②安保反対闘争によって民事上または刑事上の不利益処分を受けた組合員を救援するための資金
  • ③組合出身の立候補者の選挙運動を応援するため、その所属政党に寄付する資金/いずれも組合員一人あたり数十円から数百円

統制権の話を、もう一段だけ進めます。処分ができるということは、命令に従う義務がある、ということです。では、協力義務はどこまで及ぶのでしょうか。この問題を正面から扱ったのが、国労広島地本の事件です。あのとき、どこまで協力を求められるか、という問いだけ立てて、中身は今日に預けました。争われたのは、組合が臨時に集めようとしたお金です。目的を決めて、臨時に集めるお金ですね。三つありました。一つ目。他の組合が争議をしているので、それを支援するお金。二つ目。処分を受けた組合員を助けるためのお金。三つ目。組合出身の立候補者を応援するため、その政党に寄付するお金。

集める額は一人あたり数十円から数百円です。大きな額ではありません。そこも含めて、考えてみましょう。ここで一度、止まります。三つのお金のうち、払う義務があるのはどれだと思いますか?三つとも、多数決で決まったものです。しかも、組合の活動としては、どれも許されています。答えを出す前に、今日の物差しを当ててみてください。三つとも、同じ距離でしょうか。……選挙のお金は、遠い気がします。では、順に確かめましょう。最高裁は、まず組合の活動範囲を広く認めます。賃金や労働時間の話だけには、とどまらないと。しかし、そこで止めませんでした。

判例最高裁判所第三小法廷判決・昭和五十年十一月二十八日。……は判旨中略

国労広島地本事件①——許された活動であることと、協力義務は別 今日においては、その活動の範囲が本来の経済的活動の域を超えて政治的活動、社会的活動、文化的活動など広く組合員の生活利益の擁護と向上に直接間接に関係する事項にも及び、しかも更に拡大の傾向を示しているのである。……労働組合の活動として許されたものであるというだけで、そのことから直ちにこれに対する組合員の協力義務を無条件で肯定することは、相当でないというべきである。……問題とされている具体的な組合活動の内容・性質、これについて組合員に求められる協力の内容・程度・態様等を比較考量し、多数決原理に基づく組合活動の実効性と組合員個人の基本的利益の調和という観点から、組合の統制力とその反面としての組合員の協力義務の範囲に合理的な限定を加えることが必要である。

許されることと協力義務は別というのが判旨の急所です。二つの問いを分けています。組合がその活動をしてよいか。これが一つ目の問いです。そして、組合員に協力を強制できるか。これが二つ目の問いです。ここを一段にすると、必ず結論を外します。判例が使ったのは、比較考量です。二つを見比べます。一つは、その活動の中身と性質。もう一つは、組合員に求められる協力の中身と重さです。そのうえで、多数決で動く組合活動の実効性と、個人の利益を釣り合わせます。そして結論は、三つで分かれました。一つ目、他の組合の争議を支援するお金。これは義務があります。

理由を聞くと納得できます。組合の目的は、何でしたか。経済的な地位を上げることは、自分の組合だけでは実現しません。他の組合の争議が実を結べば、その業界の相場が動きます。巡り巡って自分たちに返ってくることが理由です。判例も、連帯した行動が予定されていると述べています。距離としては、近い側にあります。二つ目、処分を受けた組合員を助けるお金。これも義務があります。どこが引っかかりますか。判例は、そこを正面から切り分けています。救援の主眼は、その人の生活上の不利益を経済的に助けることにある。処分の原因になった行為が何であったかには関わらない、と。

仲間が困っているのを助ける、共済の活動として見ています。その共済という位置づけです。だから、これも協力を求められます。三つ目、選挙運動を応援するお金。これは義務がありません。理由を判例の言葉で見ましょう。

判例最高裁判所第三小法廷判決・昭和五十年十一月二十八日

国労広島地本事件②——選挙運動の資金(投票の自由と表裏) 政党や選挙による議員の活動は、各種の政治的課題の解決のために労働者の生活利益とは関係のない広範な領域にも及ぶものであるから、選挙においてどの政党又はどの候補者を支持するかは、投票の自由と表裏をなすものとして、組合員各人が市民としての個人的な政治的思想、見解、判断ないしは感情等に基づいて自主的に決定すべき事柄である。

どの政党を支持するかは、投票の自由と一体だということです。だから、市民として自分で決めるべき事柄になります。出させれば、支持していない立場に加担させることになります。投票の自由を、お金の側から曲げることになりますね。額の問題ではありません。個人が決める領域かどうかの問題です。ここで一つ、言葉の注意をしておきます。「表裏」という言葉は、前にも出てきました。あちらは、立候補の自由がどこから出てくるかの話でした。今日のほうは、どの政党を支持するかは投票の自由と表裏だ、という話です。混ぜないでください。片方は権利の根拠、もう片方は限界の理由です。そして、ここからが今日いちばん間違えやすいところです。

二つ目のお金には、名前がついていました。安保反対闘争にかかわるお金です。当時、安保条約に反対する大きな闘争がありました。そこに参加した組合員が、多数、処分を受けています。ここで判例は、二段階で述べています。まず一般論として、安保反対闘争そのものはどうか。政治的な立場そのものですね。判例は、そこへの協力は強制できないと述べます。

判例最高裁判所第三小法廷判決・昭和五十年十一月二十八日

国労広島地本事件③——安保反対闘争そのものと、被処分者の救援 いわゆる安保反対闘争のような活動は、究極的にはなんらかの意味において労働者の生活利益の維持向上と無縁ではないとしても、直接的には国の安全や外交等の国民的関心事に関する政策上の問題を対象とする活動であり、このような政治的要求に賛成するか反対するかは、本来、各人が国民の一人としての立場において自己の個人的かつ自主的な思想、見解、判断等に基づいて決定すべきことであるから、それについて組合の多数決をもつて組合員を拘束し、その協力を強制することを認めるべきではない。 労働組合が共済活動として行う救援の主眼は、組織の維持強化を図るために、被処分者の受けている生活その他の面での不利益の回復を経済的に援助してやることにあり、処分の原因たる行為のいかんにかかわるものではなく、もとよりその行為を支持、助長することを直接目的とするものではないから

ここまでが一般論です。しかし判例は、そのうえで、救援は別だと言いました。闘争と救援は別扱いです。同じ「安保」という言葉がついていても、中身が違います。闘争に参加せよと求めるなら、それは政治的立場の強制です。処分された人の生活を支えよと求めるなら、それは助け合いです。そこを取り違えると、結論が逆になります。もう一つ、構造も押さえてください。実際に集めようとしたお金は、三つです。安保反対闘争そのものへの拠出は、集められていません。救援のお金を判断する前提として、理由の中で述べたからです。表で四つ並んでいるのを見たら、思い出してください。三つが実際の項目、一つは理由の中の一般論です。

国労広島地本事件の結論(実際に徴収が争われたのは三つ/他の組合の闘争を援助する資金=協力義務あり。連帯と相互協力によってはじめて組合員の地位向上が実現されるから/被処分者を救援する資金=協力義務あり。共済活動であり、処分の原因たる行為のいかんにかかわらないから/選挙運動を応援し政党に寄付する資金=協力義務なし。投票の自由と表裏をなすから/※安保反対闘争そのものへの協力は強制できないというのは、判旨が理由の中で述べた一般論であって、独立の徴収項目ではない) 図:国労広島地本事件の結論

  • 実際に徴収が争われたのは三つ
  • 他の組合の闘争を援助する資金=協力義務あり。連帯と相互協力によってはじめて組合員の地位向上が実現されるから
  • 被処分者を救援する資金=協力義務あり。共済活動であり、処分の原因たる行為のいかんにかかわらないから
  • 選挙運動を応援し政党に寄付する資金=協力義務なし。投票の自由と表裏をなすから
  • ※安保反対闘争そのものへの協力は強制できないというのは、判旨が理由の中で述べた一般論であって、独立の徴収項目ではない

一つ補足します。この判決は、全員一致ではありません。反対意見があります。義務があるとされた側について、反対した裁判官がいます。反対意見が出た点は押さえておいてください。それだけ微妙な事案でした。そして、以前に見た系統と並べておきましょう。強制加入の団体が、政治団体に寄付をした事件でした。あのときの決め手は、会員が自分で決めるべき事柄かどうかでした。軸は同じです。ただ、問われている場面は違います。あちらは、団体がそもそもその行為をできるか、という話でした。こちらは、活動はできるとしたうえで、協力を強制できるかを問います。

そこだけ区別しておけば、混ざりません。最後に物差しです。他の組合の援助と救援は、労働者の地位と地続きでした。選挙運動は、個人が市民として決める領域でした。統制権の限界と、まったく同じ形をしています。

団体交渉権——力を実際に使う場面

団体交渉権と労働協約(団体交渉権=労働者の団体が使用者と労働条件について話し合う権利/団結権が力を作る権利なら、団体交渉権はその力を使う権利/話し合いの結果として結ばれるのが労働協約/労働組合法14条=書面に作成し、両当事者が署名し、又は記名押印することによってその効力を生ずる/使用者が正当な理由なく交渉を拒むことは不当労働行為にあたる〈労働組合法7条〉) 図:団体交渉権と労働協約

  • 団体交渉権=労働者の団体が使用者と労働条件について話し合う権利
  • 団結権が力を作る権利なら、団体交渉権はその力を使う権利
  • 話し合いの結果として結ばれるのが労働協約
  • 労働組合法14条=書面に作成し、両当事者が署名し、又は記名押印することによってその効力を生ずる
  • 使用者が正当な理由なく交渉を拒むことは不当労働行為にあたる〈労働組合法7条〉

二つ目の権利、団体交渉権に移ります。労働者の団体が、使用者と労働条件について話し合う権利です。集まったのは、この場面に立つためでした。団結権は力を作る権利。団体交渉権は、その力を使う権利です。たとえば、組合が会社に、来年の賃金をこれだけ上げてほしいと申し入れます。会社の応じ方が違います。全員が手を止められる相手なので、会社は席につきます。そのうえで、その額は無理だが、ここまでなら出せる、と答える。この申し入れと回答のやりとりそのものが、団体交渉です。文書にします。それを労働協約と呼びます。

条文労働組合法 14条

労働組合法 第十四条——労働協約の効力 労働組合と使用者又はその団体との間の労働条件その他に関する労働協約は、書面に作成し、両当事者が署名し、又は記名押印することによつてその効力を生ずる。

なぜだと思いますか。言った言わないになるからです。せっかく作った力の成果が、そこで消えてしまいます。形を要求するのは、成果を確実に残すためですね。もう一つ、大事な点があります。使用者が、正当な理由なく話し合いを拒んだらどうなるか。労働組合法の七条が、団体交渉の拒否を挙げています。申し入れても日時を決めない。決めても、担当者が来ない。中身に入る前に止めるのも、拒否にあたります。交渉を拒まれたら、労働委員会に救済を求められます。権利を並べて覚えるのではなく、線でつないでください。

団体行動権と争議権——政治ストは、なぜ外れるのか

団体行動権と争議権(団体行動権=労働条件を実現するために労働者が団体として行動する権利/その中心が争議行為。代表は同盟罷業〈ストライキ〉と怠業〈サボタージュ〉/争議行為をする権利が争議権/団体行動権のほうが広く、争議行為にあたらない団体行動もある。ビラ配りや集会などの日常の組合活動がその例/政治スト=労働条件の改善と直接つながらない政治目的のストは、使用者に求めても解決できず、交渉の対象にならない) 図:団体行動権と争議権

  • 団体行動権=労働条件を実現するために労働者が団体として行動する権利
  • その中心が争議行為。代表は同盟罷業〈ストライキ〉と怠業〈サボタージュ〉
  • 争議行為をする権利が争議権
  • 団体行動権のほうが広く、争議行為にあたらない団体行動もある。ビラ配りや集会などの日常の組合活動がその例
  • 政治スト=労働条件の改善と直接つながらない政治目的のストは、使用者に求めても解決できず、交渉の対象にならない

三つ目、団体行動権です。労働条件を実現するために、団体として行動する権利ですね。ストライキが中心です。法律の言葉では、争議行為と呼びます。代表が二つあります。同盟罷業と怠業です。全員で仕事を止めることですね。怠業のほうは、仕事は続けますが、わざと能率を落とします。そして、争議行為をする権利を争議権と呼びます。同じではないので正確に分けてください。争議権のほうが狭い言葉です。団体行動権のほうが広く、その中に争議権が入っています。争議行為でない活動もあります。組合がビラを配る。集会を開く。日常の活動ですね。仕事を止めてはいませんが、団体としての行動ではあります。

大きい輪に小さい輪が入るイメージで合っています。試験では、この包含関係が問われます。さて、ここからが論点です。政治ストという言葉があります。たとえば、ある法律の成立に反対して一斉に仕事を止める。これが正当な争議行為にあたるかどうかが、問題になります。どこが遠いと感じましたか。法律を変えられない点が核心です。もう一段、言葉にしてみましょう。争議行為は、交渉を有利に進めるための手段です。では、相手が折れても要求が通らない場合はどうでしょう。手段として成り立たないのがそこです。会社は法律を作れませんし、廃止もできません。求めている中身が、交渉のテーブルに載らないんです。

だから、正当な争議行為の枠からはみ出します。二つ並べて、線を確かめましょう。うちの職場の賃金を上げてほしい。これは会社が決められます。次に、ある法律を廃止してほしい。会社にできるかどうかが分かれ目です。相手が応じられるかどうかで決まります。動機が政治的かどうか、という話ではありません。ここは理由で覚えてください。一つ注意です。この結論は、講学上そう整理されているものです。この理由づけが引かれる判決は、公務員の争議行為を扱ったものです。公務員の労働基本権は、それ自体が大きな論点になります。今日は理由づけだけを持ち帰ってください。

生産管理——しないことと、奪うこと

同盟罷業と生産管理(同盟罷業=働かないこと。財産権の侵害は生ずるが、労働力の給付が債務不履行となるにすぎない/生産管理=組合が工場や設備を自分たちの管理下に置き、使用者の指図を外して経営を回すこと。企業経営の権能を、権利者の意思を排除して非権利者が行う/わが国の法律秩序は私有財産制度を基幹として成り立ち、経営と指揮命令の権限は資本家またはその代理人に属する/規範=諸々の基本的人権と労働者の権利との調和を破らないことが、争議権の正当性の限界) 図:同盟罷業と生産管理

  • 同盟罷業=働かないこと。財産権の侵害は生ずるが、労働力の給付が債務不履行となるにすぎない
  • 生産管理=組合が工場や設備を自分たちの管理下に置き、使用者の指図を外して経営を回すこと。企業経営の権能を、権利者の意思を排除して非権利者が行う
  • わが国の法律秩序は私有財産制度を基幹として成り立ち、経営と指揮命令の権限は資本家またはその代理人に属する
  • 規範=諸々の基本的人権と労働者の権利との調和を破らないことが、争議権の正当性の限界

最後の論点です。争議行為の限界を、もう一つ見ます。生産管理という言葉があります。組合が、工場や設備を自分たちの管理下に置きます。そして使用者の指図を外して、自分たちで経営を回してしまう。仕事は続けます。ただし会社の指示ではなく、自分たちの判断で。ストより痛いかもしれない点が論点になった理由です。この争議手段は認められるでしょうか。判断した判決があります。事案が具体的なので、先に見ましょう。労働者側が生産管理を始め、工場や設備を占有下に置きました。そのうえで、争議中の賃金の支払などに充てるお金が要ります。

会社の許可を得ずに、鉄板を工場の外に運び出して売ろうとしました。だから、これは刑事事件になりました。問われた罪名は、窃盗です。窃盗に至ったことがこの判決の重さです。憲法の議論が、そのまま刑事責任に直結します。弁護側は、こう主張しました。争議権は憲法上の権利だ。だから財産権に優先するはずだ、と。最高裁は、これを正面から退けています。

判例最高裁判所大法廷判決・昭和二十五年十一月十五日

生産管理の事件①——争議権の正当性の限界(調和を破らないこと) 憲法は勤労者に対して団結権、団体交渉権その他の団体行動権を保障すると共に、すべての国民に対して平等権、自由権、財産権等の基本的人権を保障しているのであつて、是等諸々の基本的人権が労働者の争議権の無制限な行使の前に悉く排除されることを認めているのでもなく、後者が前者に対して絶対的優位を有することを認めているのでもない。寧ろこれ等諸々の一般的基本的人権と労働者の権利との調和をこそ期待しているのであつて、この調和を破らないことが、即ち争議権の正当性の限界である

憲法上の権利どうしがぶつかっても、どちらかが自動的に勝つのではない。前に出てきました。公共の福祉の回です。人権どうしを調整する原理でした。ここで、それが戻ってきます。そして判決は、こう締めます。調和を破らないことが正当性の限界だ、と。争議権も、他の人権と並んで置かれています。並んでいる以上、他を全部押しのけることはできません。ストとの違いを、判決自身が説明しています。

判例最高裁判所大法廷判決・昭和二十五年十一月十五日(原文の旧字「勞」を常用漢字「労」に改めた)

生産管理の事件②——同盟罷業との違い なるほど同盟罷業も財産権の侵害を生ずるけれども、それは労働力の給付が債務不履行となるに過ぎない。然るに本件のようないわゆる生産管理に於ては、企業経営の権能を権利者の意思を排除して非権利者が行うのである。

二つの言葉を並べてください。まったく形が違います。同盟罷業は、自分がしないだけです。約束を守らない状態にとどまります。生産管理は、相手の権限を取り上げて、自分が使っています。しないことと奪うことが分かれ目です。日常の言葉に置き換えてみましょう。借りた道具を、約束の日に返さない。これは約束違反です。相手の家に入って、その道具を自分の判断で使い始める。同じ「相手が困る」でも、性質がまったく違います。生産管理は、経営という権限そのものを権利者から取り上げています。経営の権限を奪ったという理由づけです。そして、ここで前半の話が戻ってきます。

労働組合法の一条二項を、もう一度思い出してください。あれは、組合の行為なら無条件に罰しない、とは書いていませんでした。「正当なもの」という限定がそこです。正当でない争議行為には、免責は届きません。だから、この事件では窃盗罪の成立が認められました。冒頭の問いに、条件がついた形になります。物差しで締めましょう。生産管理は、使用者の財産権を侵します。対等に交渉するための手段の範囲を、はみ出しています。相手の立場を奪うかどうかが線です。

今日の地図(保存版)

二十七条と二十八条の役割分担(二十七条一項=相手は国。働く機会を用意させる。ただし直接の根拠として就労は請求できない/二十七条二項=相手は国。勤労条件の基準を法律で定めさせる/二十七条三項=相手は使用者。児童酷使の禁止は私人間に直接適用される/二十八条=相手は使用者であり、同時に国。刑事免責・民事免責・不当労働行為の救済の三方向) 図:二十七条と二十八条の役割分担

  • 二十七条一項=相手は国。働く機会を用意させる。ただし直接の根拠として就労は請求できない
  • 二十七条二項=相手は国。勤労条件の基準を法律で定めさせる
  • 二十七条三項=相手は使用者。児童酷使の禁止は私人間に直接適用される
  • 二十八条=相手は使用者であり、同時に国。刑事免責・民事免責・不当労働行為の救済の三方向

今日の内容を、まとめましょう。冒頭の問いは、ストはなぜ罪にならず、賠償も生じないのか、でした。そして、その法律がどこから来たのかを見ました。二十八条という一つの条文が、三つの方向に効いていました。三つそろって、はじめてストが実行できます。二十七条のほうは、相手が国でした。働く機会を用意させ、条件の基準を法律で定めさせる条文です。三項が二十八条への橋でした。

対等に交渉する力からの距離(力の中心=ユニオン・ショップ協定は有効〈通説〉/統制権は認められる/他の組合の闘争を援助する資金は協力義務あり/被処分者を救援する資金は協力義務あり|力の作り方として行き過ぎ・個人の領域=他の組合に加入している者などについて解雇義務を定める部分は民法90条により無効。それにもとづく解雇も無効/立候補の取りやめを要求して処分することは統制権の限界を超え違法/選挙運動の資金は協力義務なし|交渉の対象にならない・調和を破る=政治ストは正当な争議行為の限界を超える〈講学上の整理〉/生産管理は違法) 図:対等に交渉する力からの距離

  • 力の中心=ユニオン・ショップ協定は有効〈通説〉
  • 統制権は認められる
  • 他の組合の闘争を援助する資金は協力義務あり
  • 被処分者を救援する資金は協力義務あり|力の作り方として行き過ぎ・個人の領域=他の組合に加入している者などについて解雇義務を定める部分は民法90条により無効。それにもとづく解雇も無効
  • 立候補の取りやめを要求して処分することは統制権の限界を超え違法
  • 選挙運動の資金は協力義務なし|交渉の対象にならない・調和を破る=政治ストは正当な争議行為の限界を超える〈講学上の整理〉
  • 生産管理は違法

そして今日は、ずっと一つの物差しを当ててきました。並べ直してみましょう。組合を強くすること。団結を保つこと。これは力の中心でした。次に、他の組合の援助と、仲間の救援。この二つは労働条件と地続きでした。では、遠い側はどうだったでしょうか。どれも、その人が市民として決める領域です。そして、政治ストと生産管理。どちらも、交渉という枠の外に出ています。今日の持ち帰りを、一文にします。二十八条が守っているのは、対等に交渉する力です。その力を作るためなら、組合は個人をある程度まで縛れます。しかし、その力から離れた領域に踏み込んだ瞬間、線を越えます。

一つの物差しで説明できるのが今日の急所です。論点名を並べて覚えても、出てきません。それが今日いちばんの収穫です。最後に、宿題を二つ残します。今日の話は、民間の会社で働く人の話でした。公務員は大きく違います。公務員には、争議行為が法律で禁じられています。二十八条は公務員にも及びます。ただし、大きく制限されます。もう一つ。今日は二十七条一項の後段を飛ばしました。勤労の義務は、教育と納税の義務と並ぶ国民の義務の一つです。それでは、また、お会いしましょう。

参照条文

  • 日本国憲法 27条1項
  • 日本国憲法 27条2項
  • 日本国憲法 27条3項
  • 日本国憲法 28条(項の区切りはなく、この一文だけ)
  • 労働組合法 1条2項
  • 労働組合法 8条
  • 労働組合法 7条1号ただし書
  • 民法 90条
  • 労働組合法 14条

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