国会の権能——法律はどう作られ、国民投票は許されるか
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第4章 統治 #61/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
国会の権能の地図——七つと、この回の守備範囲
図:七つの権能一覧
- ①立法権41条
- ②憲法改正の発議権96条
- ③条約承認権73条3号・61条
- ④内閣総理大臣の指名権67条
- ⑤行政の監督66条3項
- ⑥財政の監督86条・90条等
- ⑦弾劾裁判所の設置64条/今日じっくり扱うのは①と⑦、
- ③は骨組みだけ
まず、国会には何ができるのか、七つの権能を一覧にしましょう。一つ目は、立法権です。四十一条にありましたね。今日はこの立法権を中心に、法律ができる手順や、国民投票の可否まで見ていきます。二つ目は、憲法改正の発議権です。九十六条にあります。憲法改正の案を、国民に提案することです。中身は、改正を扱う回でじっくり見ます。三つ目は、条約承認権です。七十三条三号や、六十一条にあります。この骨組みだけは、今日の終わりに扱います。四つ目は、内閣総理大臣の指名権です。六十七条にあります。国会が、内閣のトップを誰にするかを決める権限です。
中身は、衆議院の優越を扱う回に回します。五つ目は、行政の監督です。六十六条三項が根拠です。内閣が国会に対して連帯して責任を負う、という関係を、国会の側から見た権限です。六つ目は、財政の監督です。八十六条や九十条などが根拠です。国のお金の使い道を国会が事前に決め、使われ方をあとから確かめる権限です。どちらも、内閣や財政を扱う回で、詳しく見ます。七つ目は、弾劾裁判所の設置です。六十四条にあります。これは、今日の終盤で丁寧に扱います。残りは名前だけ押さえて、それぞれの回に送ります。
図:国会の権能と議院の権能の違い
- 42条=両議院で構成
- 七つは国会全体の権能
- 議院自律権・国政調査権は各議院自身の権能で次回扱う
ここで、もう一つ大事な区別を立てておきましょう。四十二条を見ると、国会は衆議院及び参議院の両議院でこれを構成する、とあります。ただ、二つの議院からできているという事実が、大事な区別を生みます。今の七つは、国会全体が決められることでした。ですが、それぞれの議院が自分のことを自分で決められる権能も、別にあります。それぞれの議院が、自分の内部ルールを決める議院自律権や、証人を呼んで調べる国政調査権です。この二列を立てておくと、この先の四本が全部この上に乗ります。議院の権能、二院制、会議の原則、議員の特権の四本です。
もう一つだけ、念のため確認しておきます。国会が最高機関と呼ばれるのは、この一覧が長いからではありませんでしたね。最高機関という言葉に、特別な法的意味は無い、ということでしたね。ですから、権能の数が多いことと、最高機関であることは、別の話です。では、この七つのうち、まずは立法権——法律がどうやってできるのかを見ていきましょう。
法律ができるまで①——誰が出し、どう成立するか
図:発議の要件
- 国会法56条1項=衆議院20人以上・参議院10人以上、予算を伴う法律案は衆議院50人以上・参議院20人以上
- 趣旨は発議の濫用防止
法律案は、誰が国会に出すのでしょうか。ただし、議員なら誰でも一人で出せるわけではありません。国会法という法律に、発議に必要な人数が決められています。
条文国会法 56条1項
国会法 第五十六条第一項 議員が議案を発議するには、衆議院においては議員二十人以上、参議院においては議員十人以上の賛成を要する。但し、予算を伴う法律案を発議するには、衆議院においては議員五十人以上、参議院においては議員二十人以上の賛成を要する。
この条文を引くときは、必ず「国会法」と法令名まで言ってください。よく似た号数の憲法の条文と、あとで混同しやすいんです。それは、少しあとで一緒に確認しましょう。まず、この数字の意味を見ておきましょう。衆議院なら二十人、参議院なら十人の賛成がないと、議案として発議できません。一人の思いつきで法律案が乱発されると、審議が回らなくなります。一定の賛成を求めることで、発議の濫用を防いでいるんです。予算を伴う法律案だと、さらに人数が増えて衆議院五十人、参議院二十人になります。なお、法律案を出せるのは、国会議員だけではありません。内閣にも法律案の提出を認めるのが、通説でしたね。
内閣の法律案提出権を認める理由は、前回のまま思い出してもらえれば十分です。では、法律案が国会に出されたあと、どうすれば法律になるのでしょうか。
条文日本国憲法 59条
日本国憲法 第五十九条 1項 法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。 2項 衆議院で可決し、参議院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の三分の二以上の多数で再び可決したときは、法律となる。 3項 前項の規定は、法律の定めるところにより、衆議院が、両議院の協議会を開くことを求めることを妨げない。 4項 参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。
この一項が、法律ができる大原則です。両議院で可決すれば、それだけで法律になります。ただし、ここで一つ、混同しやすい罠があります。法律案を可決するには、実は二つの数字の条件があります。一つは、そもそも議事を開いて議決するための、最低限の出席人数です。もう一つは、可決するために必要な、賛成の割合です。発議の人数は、法律案を国会に出すための条件でした。これから話すのは、出された法律案を実際に可決するための条件です。可決の条件は、国会法ではなく憲法五十六条に書かれています。
図:「五十六条」が二つある——法令名で区別する
- 国会法56条1項=発議要件・衆20人参10人
- 憲法56条1項2項=定足数・表決数、総議員の3分の1の出席・出席議員の過半数
さっきの発議の人数は国会法五十六条一項、こちらの出席人数と賛成の割合は憲法五十六条です。数字が同じだからこそ、必ず法令名を付けて区別してください。憲法五十六条の中身は、総議員の三分の一の出席や出席議員の過半数という話です。そちらは、国会の運営を扱う回で詳しく見ます。今日押さえてほしいのは、発議の要件と可決の要件は、そもそも根拠になる法律が違う、という一点です。では、両議院が可決すれば、それで終わりでしょうか。実は、参議院が違う議決をした場合の話が、まだ残っています。次はそこを見ていきましょう。
法律ができるまで②——参議院が反対したらどうなるか
図:参議院が異なる議決をしたら
- 衆議院で出席議員の3分の2以上の多数で再可決すれば法律となる
- 両院協議会は任意的
- 60日以内に議決しないと衆議院はみなすことができる
参議院が、衆議院と違う議決をしたら、どうなるでしょうか。参議院と食い違っても、法律案はそこで終わりではありません。さっきの五十九条二項に道が残っています。衆議院で可決し、参議院がこれと異なる議決をした法律案は、衆議院で出席議員の三分の二以上の多数で再び可決すれば、法律になります。三分の二の母数は、総議員ではなく出席議員です。ここは要注意です。なぜ、通常の過半数ではなく、三分の二という高いハードルにしているんでしょうか。参議院の判断をひっくり返す以上、通常より強い民主的な正統性を求めているんです。
この対比、覚えておいてください。九十六条一項の憲法改正の発議は、総議員の三分の二です。ここは、混同しないでください。では、衆議院で三分の二の多数が取れなかったら、どうなるでしょうか。その前に、両院協議会という場を開くこともできます。五十九条三項にありましたね。両院協議会では、衆議院と参議院から選ばれた委員が集まって、妥協できる案を作れないかを話し合います。ただし、この両院協議会は開かなければならないものではありません。任意です。開くかどうかは、衆議院の判断にゆだねられています。ただし、予算や条約、内閣総理大臣の指名では、両院協議会を必ず開かなければならない場合があります。そちらは、衆議院の優越を扱う回で、詳しく整理します。
最後に、もう一つのルートがあります。参議院が衆議院から法律案を受け取ったあと、国会が休んでいる期間を除いて六十日以内に議決しなかった場合です。この場合、衆議院の側で、参議院はこの法律案を否決した、とみなすことができます。そこも、要注意です。六十日が経てば自動的に否決扱いになるのではありません。衆議院が「みなす」という行為を、自分でしなければならないんです。では、なぜ六十日という期限を置いているんでしょうか。参議院が議決しないまま放置すれば、法律はいつまでも成立しません。その店晒しを防ぐための期限が、六十日なんです。
図:数字と趣旨の対応
- 発議の人数=発議の濫用防止
- 再可決の3分の2=参議院の判断を覆すための民主的正統性の上乗せ
- 60日=参議院による店晒しの防止
ここで一度、今日出てきた数字を趣旨と一緒に振り返っておきましょう。二十人や十人という発議の人数は、発議の濫用を防ぐためでした。三分の二という再可決の割合は、参議院の判断を覆すための民主的な正統性の上乗せでした。そして、六十日という期限は、参議院による店晒しを防ぐためでした。もう一度、確認しておきましょう。参議院が法律案を六十日間放っておいたら、法律は自動的に成立するんでしたっけ?違います。衆議院が「みなす」という行為をして初めて否決とみなされるんでした。自動ではありません。では、法律が成立したあと、実際に効力を持つまでの話に進みましょう。
成立してから効くまで——公布・施行・署名連署
図:三つの日の時系列
- 成立の日→公布の日→施行の日
- 実際に人を縛る力が出るのは施行の日
- 公布と施行が同じ日でもよい
法律が成立してから、実際に効力を持つまでには、いくつかの段階があります。まず、法律が「できた日」を分けて考えましょう。一つ目は、成立の日。両議院で可決した日です。二つ目は、公布の日。天皇が国民に知らせる日です。三つ目は、施行の日。実際に効力が生まれる日です。この公布について、条文を見てみましょう。
条文日本国憲法 7条柱書・1号
日本国憲法 第七条(柱書・第一号) 天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。 一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
天皇の国事行為の一つとして、法律の公布があります。天皇が国民のために行う行為のうち、内閣の助言と承認にもとづくものでしたね。具体的には、官報という国の広報誌に、法律の内容が掲載されます。ただし、ここで注意してほしいことがあります。私たちを実際に縛る力が出てくるのは、成立した日でも、公布された日でもないんです。施行の日です。公布と施行が同じ日であってもかまいません。ただ、必ずしも一致するとは限らない、ということです。法律ごとに、施行の日は個別に定められます。
図:74条の反転
- 署名・連署は法律の執行責任(73条1号前段)を明示する規定であって成立要件ではない
- 欠けても法律は有効
もう一つ、成立の手続きについて気をつけてほしい条文があります。
条文日本国憲法 74条
日本国憲法 第七十四条 法律及び政令には、すべて主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連署することを必要とする。
法律や政令には、担当する国務大臣の署名と、内閣総理大臣の連署が必要だと書かれています。サインが無いと法律にならない、と誤解されがちですが、そうではありません。この署名と連署は、法律の執行に責任を持つ人をはっきりさせるためのものです。つまり、法律を成立させるための条件ではありません。署名や連署が欠けていても、その法律は有効です。七十四条は、成立要件ではなく執行責任を示す規定だと理解してください。では、法律ができる手順は、ここまでで見えました。次は、今日いちばんの問題——法律の制定を国民投票で決められるか、に進みましょう。
法律を国民投票で決められるか——論証40
図:二段構えの入り口
- 国民投票制の可否を測る二つの関門
- ①国会単独立法の原則との関係
- ②代表民主制の原則との関係
ここからが、今日の山場です。一つ、仕組みを考えてみましょう。国会が議決すれば、その法律案を国民投票にかけられる。そして、賛成が多数なら、それだけで法律として成立する。こういう仕組みを、法律で作ったとします。この仕組みは、憲法上許されるでしょうか。この問題を考えるには、実は二つの関門を順番に通す必要があります。一つ目の関門は、国会単独立法の原則です。二つ目の関門は、代表民主制の原則です。この二つを一段で考えると、答案が壊れます。一つずつ、順番に見ていきましょう。まず一つ目、国会単独立法の原則との関係です。形式的に見れば、国会以外の者——国民が法律の成立に関わっています。
そこから、単独立法の原則に反する、とまず考える人が多いです。ですが、思い出してください。国会単独立法の原則、その趣旨は何でしたか。国会は国民の代表機関で、そこに立法権を独占させ、民主的なコントロールを及ぼすことです。その結果として、国民の権利や自由をできる限り保障することでしたね。では、国民投票で法律を決める仕組みは、この趣旨をどうしていますか。あっ、民主的コントロールを弱めるどころか、強めていますね。趣旨に照らせば、国民投票制はむしろその趣旨に合致しています。だから、国会単独立法の原則には反しません。
ここまでは、直感どおりの結論です。国民投票制は、四十一条後段には反しないんでしたね。では、もう憲法上は問題ないと言えるでしょうか?いい感覚です。実は、別の原則がここで問題になります。
図:代表民主制の趣旨
- ①近代国家では直接民主制の実行が困難
- ②十分な審議討論には代表制が適する
- ③プレビシットの危険の回避
問題になるのは、代表民主制の原則です。前文一項や、四十三条一項に定められた原則です。日本国憲法は、国民が直接に物事を決めるのではありません。選挙で選んだ代表者を通じて決める仕組みを、原則としています。なぜ、代表制を原則にしたのでしょうか。理由は三つあります。一つ目は、近代国家では国民全員が一堂に会して決める直接民主制の実行が、不可能か、少なくとも困難だからです。二つ目は、十分な審議や討論を通じて統一した国家の意思を作るには、代表民主制のほうが適しているからです。三つ目は、プレビシットの危険を避けるためです。
ある案への賛否を問う形をとりながら、実際には権力者個人への信任を問う投票のことです。歴史上、ナポレオンが皇帝の地位を確立する際に国民投票という手続きを使いました。形の上では政策の賛否を問う投票でも、実際には自分を支持するかどうかを国民に突きつける道具になり得るんです。危険性のない普通の国民投票のことは、レファレンダムと呼んで区別します。プレビシットは、代表制を飛び越えて権力者と国民を直結させてしまう。この危険を避けるために、日本国憲法は代表民主制を原則としているんです。憲法が自分で定めた原則ですから、それを破る仕組みを、法律で勝手に作ることはできません。だからこそ、直接民主制的な制度は憲法に明文がある場合に限って認められます。
図:明文で認められた直接民主制的な制度
- 79条2項=最高裁判所裁判官の国民審査
- 95条=地方特別法の住民投票
- 96条1項=憲法改正の国民投票
明文があるのは三つです。一つ目は、最高裁判所の裁判官に対する国民審査です。七十九条二項ですね。二つ目は、地方特別法についての住民投票です。九十五条ですね。ただし、ここでは文脈が違います。前回は、「国会だけの議決では足りない」という単独立法の例外として見ました。今日は、「国民が直接に関わる制度が明文で認められている」という代表民主制の例外として見ています。二つの一覧を混ぜないでください。そして三つ目が、憲法改正の国民投票です。九十六条一項ですね。ここで、一つ数字の対比をしておきましょう。九十六条一項の三分の二は、総議員の三分の二です。さきほどの五十九条二項の三分の二は、出席議員の三分の二でした。
ここは、短答で狙われる対比です。
図:例外
- 諮問的レファレンダム=国家意思形成の参考にする趣旨で行う国民投票
- 法的拘束力を持たせない
- 代表民主制の趣旨と矛盾しないため例外的に許される
さて、ここで終わりにしたいところですが、もう一段あります。「直接民主制は明文がある場合に限る」で止めてしまうと、一つ落とす例外があります。参考にする趣旨で行う国民投票、諮問的レファレンダムと呼ばれる制度です。投票の結果に、法的な拘束力を持たせない、ということです。あくまで、国家の意思を決めるときの参考にするだけです。最終的に決めるのが国会である以上、代表民主制の趣旨とは矛盾しません。だから、諮問的レファレンダムは明文が無くても例外的に許されます。つまり、明文を求めていたのは、代表民主制の趣旨とぶつかる制度のほうなんです。
そう捉えてもらって大丈夫です。では、冒頭の仕組みに戻りましょう。国会が議決すれば国民投票にかけられ、賛成多数ならそれだけで法律として成立する。この仕組みは、投票結果に法的拘束力を認めていますか。はい、賛成多数なら、それで法律になってしまいます。これは、諮問的レファレンダムではありません。法的拘束力を持つ、直接民主制的な制度です。だから、この仕組みは違憲です。そこが、今日いちばんの反転です。通った関門と、落ちた関門が違うんです。「四十一条に反するから違憲」と書いてしまうと、理由づけと結論が矛盾します。
弾劾裁判所の設置——国会がするのは設置まで
図:設置と裁判の分離
- 国会=弾劾裁判所を設置する
- 弾劾裁判所=実際に裁判を行う、両議院の議員で組織
次は、七つの権能のうち、七つ目——弾劾裁判所の設置です。条文を見てみましょう。
条文日本国憲法 64条
日本国憲法 第六十四条 1項 国会は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける。 2項 弾劾に関する事項は、法律でこれを定める。
弾劾裁判所とは、裁判官に一定の事由があるとき、その裁判官を辞めさせる権限を持つ特別な裁判所です。条文にある「訴追」は、この裁判官を弾劾裁判にかけてほしい、と申し立てることを指します。しかも、組織するのは衆議院と参議院、両方の議員です。ここで、よく出る引っかけ問題を一つ確認しましょう。「弾劾裁判は、国会の権能である」——これは正しいでしょうか。一見、正しそうに見えます。ですが、これは誤りです。国会がするのは、弾劾裁判所を設置するところまでです。実際に裁判を行うのは、設置されたあとの弾劾裁判所であって、国会そのものではありません。
この分離を、必ず押さえてください。
図:弾劾事由は二つ
- ①職務上の義務違反・職務怠慢
- ②裁判官としての威信を失う非行/どちらも裁判官弾劾法2条
どんなときに弾劾の対象になるのか。裁判官弾劾法という法律の二条が、二つの事由を定めています。
条文裁判官弾劾法 2条
裁判官弾劾法 第二条 弾劾により裁判官を罷免するのは、左の場合とする。 一 職務上の義務に著しく違反し、又は職務を甚だしく怠つたとき。 二 その他職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があつたとき。
一つ目は、裁判官としての務めを大きく外れた場合です。二つ目は、仕事の場面かどうかを問わず、裁判官として信頼を保てないような行いがあった場合です。一つ目なら、担当した事件を長いあいだ放置して、判決を出さないまま置いてしまうような場合です。なお、裁判官の身分保障や司法権の独立の中身は、また別の回で丁寧に見ていきます。今日は、設置と裁判が分かれていること、これだけ押さえておいてください。では、最後の権能——条約承認権に移りましょう。
条約の承認権と、まとめ
図:条約承認権の骨組み
- 締結=内閣、73条3号本文
- 承認=国会、原則事前・時宜により事後
三つ目に挙げた、条約承認権です。まず、条約を結ぶこと自体は、誰の仕事でしょうか。条約を締結するのは、国会ではなく内閣です。七十三条三号にあります。ただし、そのただし書きに、国会の承認が必要だと書かれています。原則として事前に、場合によっては事後に、国会の承認を経ることが必要です。条約は、国民の生活に大きな影響を与えます。だからこそ、立法と同じように民主的なコントロールを及ぼす必要があるんです。条約の意味や締結の詳しい手続きは、内閣を扱う回でじっくり見ます。条約が国内でどんな効力を持つかも、同じ回に回します。条約が違憲かどうかを審査できるかどうかも、また別の回に回します。
もう一つだけ、対照的な例を挙げておきます。皇室の財産をやり取りするときの議決は八条にありますが、これは衆議院と参議院が対等です。衆議院の意見が優先される場面ではない、ということです。この、二つの議院の力関係の違いは、二院制を扱う回で詳しく見ていきます。では、今日の内容を一つにまとめましょう。
図:今日の到達点
- 国会の権能は七つ、中心は立法権
- 59条1項=両議院の可決で成立、2項=出席議員3分の2の再可決
- 7条1号=公布・効力発生は施行の日
- 74条=署名連署は成立要件でない
- 国民投票制=単独立法には反しないが代表民主制から原則違憲、諮問的レファレンダムは例外
- 弾劾裁判は国会の権能でなく設置のみ
国会の権能は七つあって、その中心は立法権でしたね。参議院が異なる議決をしても、衆議院で出席議員の三分の二以上の多数で再可決すれば、法律になります。署名や連署は、執行責任を示すためのもので成立の条件ではありませんでした。そして今日の山場——法律の制定を国民投票にかける制度は、国会単独立法の原則には反しませんが、代表民主制の原則から、憲法に明文がある場合を除いて許されません。最後に、国会が行うのは弾劾裁判所の設置までです。弾劾裁判そのものは、国会の権能ではありませんでしたね。二十人、十人、三分の二、六十日。どれも、何かを防ぐための数字でした。では、国会全体が何を決められるかは、これで見えました。次に気になるのは、それぞれの議院が自分のことをどこまで自分で決められるか、です。
それでは、また、お会いしましょう。
参照条文
- 国会法 56条1項
- 日本国憲法 59条
- 日本国憲法 7条柱書・1号
- 日本国憲法 74条
- 日本国憲法 64条
- 裁判官弾劾法 2条