外国人の人権と在留制度(前編)
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設例

今日は、在留中の外国人が、地域の問題で署名を集めたことを理由に、在留資格を取り消される事例を取り上げます。この取消しの根拠になった法律は、憲法21条に違反するか。外国人にその自由が及ぶかを先に測り、及んでも、国は在留制度の枠内だと反論してきます。この反論がどこまで届くかを測って、答案を最後まで書き切ります。在留を許された立場だから取消しも仕方ない、という見方が正しいかどうかは、事実を一つずつ当てて決まります。まず事実を丁寧に見ます。Aは、Y国籍の外国人です。適法な在留資格で、S市の物流会社に勤めています。在留期間は5年で、S市に住んで9年になります。今の在留期間の満了まで、あと1年8か月です。前回の更新は許可され、法令に違反した経歴はありません。Aの子Eは、S市立の保育園に通っています。在留中の外国人の政治的活動に関する法律、以下、本法が制定されました。架空の法律です。

条文を読みます。1条。この法律は、本邦に在留する外国人の政治的活動について、国内の政治的意思決定の公正を確保するために必要な措置を定めることを目的とする。2条。この法律において政治的活動とは、国若しくは地方公共団体の政策の決定若しくは実施又は公職の選挙に関し、賛成又は反対の意思を、集会、署名、文書の配布その他の方法により、公然と表明し、又は他の者に求める活動をいう。3条1項。法務大臣は、本邦に在留する外国人が、在留期間中に政治的活動を行ったときは、その在留資格を取り消さなければならない。2項。前項の規定により在留資格を取り消された外国人は、取消しの日から三十日を経過した後は、本邦に在留することができない。この法律には、取消しの際に、活動の内容や在留の年数、家族の状況を考慮する定めがありません。取消しをしない場合を認める定めも、取消しの前に警告や是正を求める定めもありません。ここが、あとで効いてきます。

施行後1年間の運用です。法務大臣が3条1項で取り消したのは、31件。そのうち25件は、地域の施設や暮らしに関する、署名や意見書の提出が理由でした。残る6件は、公職の選挙で投票を呼びかける活動が理由です。この数字も、あとで使います。

ここで、Aの行動です。S市が、市立保育園2園を廃止する計画を発表しました。Eの通う園も含まれます。Aは、保護者らと、廃止に反対する署名を集めました。署名した人の大半は、日本国籍の保護者です。署名と意見書を市議会に提出し、市民集会で意見を述べました。廃止を決めるのは、市議会です。そのあと、S市長選挙の前に、Aは、保育園を廃止する現職の市長には、次の選挙で投票しないでほしい、とSNSに投稿しました。法務大臣は、署名運動、意見書の提出、集会での発言、投稿の、いずれも2条の政治的活動にあたるとして、3条1項により、Aの在留資格を取り消しました。取消しの日から30日を経過した後は在留できない、という通知つきです。関係を図にします。国、法務大臣がB、外国人がA、署名に加わった保護者らがC、S市がDです。BからAへ、在留資格の取消し。AからDへ、署名と意見書。CからAへ、署名です。
Aは、3条1項が憲法21条1項に違反すると主張します。問いは一つです。本法3条1項は、憲法に違反するか。Aの立場で、3条1項を争います。
骨格

骨格を通します。入口は、何の自由が保障されるか。Aの署名運動は、国や自治体の政策への意見を、公然と表明する行為です。
条文日本国憲法21条1項
憲法第21条1項 第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
署名を集め、意見書を出し、集会で意見を述べることは、表現の自由に含まれます。ただし、Aは外国人です。憲法第3章は、表題が、国民の権利及び義務、となっています。そこで、保障の中身を見る前に、この自由が外国人に及ぶのか、という問いが先に立ちます。次に制約です。3条1項は、政治的活動をすれば、在留資格を取り消すと定めます。政治についての表現の自由、つまりAの政治活動の自由の制約にあたります。入口と制約は、これで足ります。ここで復習です。前の論文回で、制約が中身の面で正当かを審査する実質的正当化では、どのくらい厳しく見るかという目盛りを、何と何で決めましたか?
権利の重要性と、制約の強さ、でした。ただ、今日は、目盛りに入る手前に、もう一つ関門があります。形式的正当化は、法律の根拠と明確性という、形の面を確かめる段でした。3条1項は国会が制定した法律なので、法律の根拠はあります。答案では、法律の留保を満たす、と書きます。明確性は、別に検討します。ここから先が本番です。本番の流れは、四段です。一段目、外国人に及ぶか。二段目、政治活動のうち、どこまでが保障されるか。三段目、国の言う在留制度の枠内が、この取消しにまで及ぶか。四段目、及ばないなら、審査の目盛りを決めて、目的と手段に事実を当てます。
享有主体性
図:問い|Aは外国人、21条1項はAに及ぶか、何を問えばよいか
ここで一つ確かめます。外国人の人権を扱った回で見た性質説は、何を基準に、外国人に人権が及ぶかを決めるのでしたか? 少し考えてみてください。問いは、Aは外国人で、21条1項はAに及ぶか。答案では、何を問えばよいでしょうか。答えを見ます。

上の段に問題提起、真ん中に規範、下にあてはめがあります。真ん中の規範を、区切って読みます。1つ目の区切りは、「権利の性質上」です。条文が、何人も、と書くか、国民は、と書くか、では決めません。書き分けで決めると、22条2項の、何人も、国籍を離脱する自由まで、もともと日本国籍のない外国人に保障されることになり、筋が通らないからです。その権利が何のためにあるか、で決めます。2つ目の区切りは、「日本国民のみを対象としていると解されるものを除き」です。国民主権に関わる権利のように、国民だけが担う前提の権利が、ここに入ります。そして「除き」。原則は、及ぶ。例外が、国民のみです。ですので、答案では、権利ごとに、この権利は例外にあたるか、を問います。外国人にも人権は及ぶ、の一文で終えてはいけません。この権利に当てて、はじめて規範です。
判例最大判昭和53年10月4日(大法廷)
マクリーン事件(性質説と政治活動の自由) 「憲法第三章の諸規定による基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、わが国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものと解すべきであり、政治活動の自由についても、わが国の政治的意思決定又はその実施に影響を及ぼす活動等外国人の地位にかんがみこれを認めることが相当でないと解されるものを除き、その保障が及ぶものと解するのが、相当である。」
この判決の一文は、性質説が、政治活動の自由にそのまま当てられているところです。前半が、権利一般の話。後半が、政治活動の自由に当てた話です。次の段で、この後半を使います。
政治活動への当てはめ

あてはめに入ります。まず、権利の性質です。政治活動の自由は、表現の自由の一環です。精神的自由権は、前国家的、自然権的な権利です。国家が与えるから生まれる権利ではないので、国籍で切り分ける理由が乏しい。しかも、外国人が政治的な意見を述べることは、日本の民主主義にとっても、有益でありえます。住んでいる地域の問題に、そこで暮らす人の声が届くからです。したがって、権利の性質上、日本国民のみを対象とするものではなく、外国人にも保障が及びます。ただし、それで全部の政治活動が保障される、とは言えません。政治活動の中には、国民が行う意思決定そのものに近い働きをするものがあります。保障の線を、どこに引くか。

線は、この規範で引きます。上の段に問題提起、真ん中に規範、下にあてはめです。1つ目の区切りは、「わが国の政治的意思決定又はその実施に影響を及ぼす活動」です。意見を述べること自体ではありません。意思決定の仕組みの中で、結果を左右する働きを指します。投票や選挙運動のように、参政権を行使する形が、ここに入ります。2つ目の区切りは、「外国人の地位にかんがみ」です。国民主権の下で、決定の主体は国民です。選挙権が外国人に憲法上保障されないのも、同じ理由でした。その決定に、外国人は主体として加わる立場にない、ということです。そして、ここでも「除き」。原則は保障が及び、除かれるのが例外です。あてはめでは、この二つの言葉で事実を拾います。政治的意思決定又はその実施に影響を及ぼす活動か。外国人の地位にかんがみ、認めることが相当でないか。

Aの行為は四つです。署名運動、署名と意見書の提出、集会での発言、そして投稿。保障が及ぶ側と外れる側は、どう分かれるでしょうか。まず、前の三つから見ます。署名運動、署名と意見書の提出、集会での発言を、まとめて署名運動等と呼びます。廃止を決めるのは、S市の市議会です。署名した人の大半は、日本国籍の保護者です。集まった声の多くは、国民自身の声です。Aは、投票や議決で決定に加わったわけではありません。意見を示して、決める人の判断を促したにとどまります。したがって、署名運動等は、国民が投票で行う意思決定の主体としての関与にあたる働きをもちません。外国人の地位にかんがみ、認めることが相当でない活動ではない。保障される側です。では、投稿はどうでしょうか。保障される側でしょうか、外れる側でしょうか。少し考えてみてください。
意見の表明という性質があることは、確かです。反対方向の事情として、答案でも触れます。ただ、投稿の中身を見てください。現職の市長には、次の選挙で投票しないでほしい、です。署名運動等は、決める人に意見を届けるものでした。この投稿は、国民が投票で行う意思決定の、結果そのものを左右しようと呼びかけるものです。答えを見ます。

投稿は、参政権の行使に近い働きをもちます。意見の表明という面はあるものの、投票結果を左右しようとする呼びかけである点を、重く見ます。したがって、外国人の地位にかんがみ、認めることが相当でない活動にあたり、保障は及びません。結論です。署名運動等は保障される。投稿は、保障が及ばない。以後は、保障が及ぶ署名運動等を中心に検討します。一点、注意してください。投稿の判定は、境目にあります。逆に、保障される、と書く答案にも、理由があれば成り立ちます。大切なのは、署名運動等との違いを、決める人に意見を届けるのか、結果を左右しようと呼びかけるのか、という事実で言うことです。
制約と国の反論
図:問い|署名運動等は保障される、それでも在留の地位を失わせてよいか
署名運動等は、保障されます。まず制約です。署名運動等をすれば、在留の地位を失う。表現行為をすれば、不利益を受けるのですから、行為を思いとどまらせる効果があります。したがって、3条1項は、Aの政治活動の自由を制約します。ここで問いです。保障される、制約もある。それでも、在留の地位を失わせてよいのでしょうか。国は、どう反論してくるでしょうか。少し考えてみてください。国の反論は、次のとおりです。在留の許否は、国の裁量にゆだねられる。外国人の人権の保障は、在留制度の枠内で与えられているにすぎない。だから、取消しは憲法上の問題を生じない。答えの板を見ます。

真ん中の規範を、区切って読みます。1つ目の区切りは、「外国人在留制度のわく内で与えられているにすぎない」です。保障は、在留制度という枠の中でだけ与えられる。保障される、で話が終わらないのです。2つ目の区切りは、「在留の許否を決する国の裁量を拘束するまでの保障」です。許否の判断そのものを縛るような保障は、与えられていない、ということです。3つ目の区切りは、「在留期間の更新の際に消極的な事情として」です。消極的な事情とは、更新を認めない方向に働く事情のことです。ここに、問題とされた場面が書き込まれています。更新のときの判断です。この限定を、次の段で、射程を見極める足場にします。この言葉を落として、在留の判断材料にされうる、とだけ書くと、答案で短絡します。
判例最大判昭和53年10月4日(大法廷)
マクリーン事件(在留制度の枠内) 「外国人の在留の許否は国の裁量にゆだねられ、わが国に在留する外国人は、憲法上わが国に在留する権利ないし引き続き在留することを要求することができる権利を保障されているものではなく、ただ、出入国管理令上法務大臣がその裁量により更新を適当と認めるに足りる相当の理由があると判断する場合に限り在留期間の更新を受けることができる地位を与えられているにすぎないものであり、したがつて、外国人に対する憲法の基本的人権の保障は、右のような外国人在留制度のわく内で与えられているにすぎないものと解するのが相当であつて、在留の許否を決する国の裁量を拘束するまでの保障、すなわち、在留期間中の憲法の基本的人権の保障を受ける行為を在留期間の更新の際に消極的な事情としてしんしやくされないことまでの保障が与えられているものと解することはできない。」
判例最大判昭和53年10月4日(大法廷)
マクリーン事件(更新の判断での扱い) 「在留中の外国人の行為が合憲合法な場合でも、法務大臣がその行為を当不当の面から日本国にとつて好ましいものとはいえないと評価し、また、右行為から将来当該外国人が日本国の利益を害する行為を行うおそれがある者であると推認することは、右行為が上記のような意味において憲法の保障を受けるものであるからといつてなんら妨げられるものではない。」
判決が述べているのは、更新のときの話です。在留期間の更新の際に、保障される行為を、消極的な事情として考慮することは妨げられない。続く文は、更新の判断で、法務大臣が行為を評価し、将来を推認することも、妨げられないと述べています。ですが、ここで止めてはいけません。国の反論は、この枠が、本件の取消しにまで及ぶ、というものです。この枠は、どこまで及ぶ枠なのか。次の段で、事実で見極めます。
枠の射程

ここが、今日いちばん厚く書くところです。問いです。マクリーンの枠内は、更新のときと、法が行為そのものを取消事由にするときで、同じように及ぶでしょうか。比べる軸は、いつか、どう判断されるか、失うものの三つです。判定欄は伏せてあります。少し考えてみてください。更新のときと違い、在留期間の途中である点が、出発点です。まず、判決の場面を確かめます。
判例最大判昭和53年10月4日(大法廷)
マクリーン事件(期間経過と更新の裁量) 「上陸を許された外国人は、その在留期間が経過した場合には当然わが国から退去しなければならない。」 「……法務大臣は、在留期間の更新の許否を決するにあたつては、」 「……申請者の申請事由の当否のみならず、当該外国人の在留中の一切の行状、国内の政治・経済・社会等の諸事情、国際情勢、外交関係、国際礼譲など諸般の事情をしんしやくし、時宜に応じた的確な判断をしなければならないのであるが、このような判断は、事柄の性質上、出入国管理行政の責任を負う法務大臣の裁量に任せるのでなければとうてい適切な結果を期待することができないものと考えられる。」
判決の場面は、こうです。外国人は、期間が経過すれば、当然に退去する地位にあります。更新は、法務大臣が、在留中の一切の行状や、国内外の諸事情を総合して、裁量で判断します。そこで、更新のときに、保障される行為を消極的な事情として考慮することまでは、妨げられない。本件は、この場面と、三つの点で違います。一つ目、いつか。二つ目、どう判断されるか。三つ目、失うものです。事実で見ます。

一つ目、いつか。Aは、適法に与えられた在留期間の途中にいます。満了まで、あと1年8か月です。Aが求めているのは、更新の許否を決める国の裁量を、縛ることではありません。与えられた期間の中の地位を、保障される行為を理由に失わされないこと、です。二つ目、どう判断されるか。更新では、在留中の一切の行状など、諸般の事情を総合して判断し、行為は、考慮される事情の一つにとどまります。ところが、3条1項は、行為の類型を法律で定めて、該当すれば、法務大臣の評価の余地なく、必ず取り消します。行為が事情の一つとして考慮されるのではありません。行為そのものが、類型的に不利益の対象にされているのです。三つ目、失うものです。更新が認められなければ、期間の満了で在留が終わります。これに対して、本件の取消しは、Aが築いてきた勤務先、住居、そして子どもの保育園での生活を含む生活基盤を、期間の満了を待たずに、一律に失わせます。不利益の重さが違います。
判決が、法律で行為を理由に取り消すことを許さないと言った、と読むのは誤りです。そこは、慎重に区別してください。判決が述べたのは、更新のときに、保障される行為を消極的な事情として考慮することまでです。法律が、行為そのものを在留中の取消事由にする場合については、判決は答えていません。ですので、ここは答案の立論です。判決が、禁止や処罰はできない、と言い切った、と書いてはいけません。答案では、判決の言葉どおり、更新の際の消極的な事情、で線を引きます。更新の場面と本件の事実がこれだけ違う、だから枠は当然には及ばない、と自分で理由を立てるのです。国の反論への答えは、こうなります。国の言う枠は、更新のときの個別の裁量判断で、保障される行為が考慮されることまでを許すものです。法律が、保障される行為を類型的に取消事由として、在留の地位を失わせる仕組みにまでは、当然には及びません。したがって、枠を理由に、直ちに合憲とはいえません。審査に進みます。反対方向の事情も言っておきます。外国人の在留を管理することについて、国に一定の裁量があること自体は、否定できません。ですが、それを理由に、枠の段で止めてしまうのではありません。この裁量は、次の審査の目盛りを決める段で、考慮します。

結論が動く境目を、一つ見ます。事実を一か所だけ変えます。3条1項が、取り消すことができる、と定め、活動の内容、在留の年数、家族の状況を総合して判断せよ、と求めていたとします。すると、二つ目の、どう判断されるか、が更新の判断に近づきます。行為は、考慮される事情の一つになるからです。枠の及ぶ範囲が広がり、審査の結論も動きます。必ず取り消す、という書き方だから、更新の場面から離れる。この一点を、事実で言い当ててください。
審査

枠で止まらないと決めたので、審査に進みます。目盛りの決め方は、前の論文回の型どおりです。この事案で、何を理由に決めるかだけを見ます。一つ目、権利の重要性。政治活動の自由は、表現の自由の一環で、民主主義にとって重要です。二つ目、制約の強さ。取消しは、在留の地位と生活基盤を失わせる、強い制約です。したがって、厳格な審査が出発点になります。ただし、外国人の出入国と在留の管理には、国に一定の裁量が認められます。枠の段で触れた事情を、ここで使います。そこで、一段緩めて、中間審査基準を置きます。目的が十分に重要であり、手段が目的との間に実質的関連性を有し、より制限的でない他の選びうる手段がないこと、を求める基準です。国は、国家主権の問題であり、極めて広い裁量がある、と言うでしょう。この主張には、目盛りの段で応えます。広い裁量は、保障される行為を類型的に取消事由とする仕組みの審査を、合理性の基準にまで緩める理由にはなりません。在留の管理に裁量があることは、一段緩める理由になります。でも、その仕組みが、保障される表現を一律に取り消す形になっているときは、そこまで緩めることはできません。

あてはめます。一つ目、目的。本法の目的は、国内の政治的意思決定の公正の確保です。1条にあります。国民主権の下で、政治的意思決定は国民が行います。その結果を、外国人が左右することを防ぐ目的は、十分に重要です。二つ目、手段が、目的との間に実質的関連性を有するか。2条は、政策や選挙について、賛否を公然と表明し、又は他の者に求める活動を、広く含みます。署名運動等は、署名した人の大半が日本国民で、決めるのは市議会です。外国人の意見の表明が、意思決定の結果を左右する関係にありません。運用でも、取消し31件のうち、25件が署名や意見書の提出でした。選挙で投票を呼びかける活動が理由のものは、6件です。したがって、3条1項は、目的との関連性を欠く部分が大きい。三つ目、より制限的でない他の選びうる手段がないか。取消事由を、結果を直接左右しようとする活動に限る。警告や是正を経て、改まらないときに限る。活動の内容、在留の年数、家族の状況を考慮して、取消しをしない場合を認める。こうした手段があれば、目的は相当程度、達成できます。ところが、3条には、いずれの定めもありません。必ず取り消さなければならない。したがって、手段として過度です。国の反論を受けます。一つ目。国は、在留を認めるかは国の自由であり、取消しは重い不利益ではない、と主張するでしょう。切り返しは、取消しが、与えられた在留期間の途中で、生活基盤全体を失わせる点です。軽くはありません。
二つ目。国は、政治的意思決定の公正のためには、外国人の政治的活動を一律に抑える必要がある、と主張するでしょう。切り返しは、公正を損なうのは、意思決定の結果を左右しようとする活動に限られる点です。署名運動等まで、一律に取り消す必要は、示されていません。結論です。3条1項は、手段が目的との間に実質的関連性を欠き、より制限的でない他の手段もあります。過度な制約として、21条1項に違反します。
結論

違憲とする対象を選びます。この欠陥は、保障が及ぶ活動と及ばない活動を区別せず、必ず取り消す、という3条1項の仕組みそのものに由来します。Aの事情にかかわらず、同じ仕組みで、他の外国人も取り消されます。だから、3条1項は合憲のまま、Aへの取消しだけを違憲とする処分違憲には落としません。3条1項そのものを違憲とします。法令違憲です。Aに対する取消しも、根拠を失って、違法になります。なお、保障が及ばない活動だけを対象とする規定に、絞って解釈できるかは、別に検討します。今日は、そこには入りません。流れを確認します。入口で、権利ごとに、性質上国民のみを対象か、を問う。政治活動のどこまでが保障されるかを、事実で分ける。制約を確認する。国の枠内の反論を、更新の場面との違いで見極める。枠で止まらないなら、目盛りを決めて審査する。そして、違憲の対象を選ぶ。この順です。
変形

最後に、同じ物差しを、別の場面に当てる型を、二つ見ます。一つ目は、権利を替える場合です。たとえば、13条の自己決定権に替えても、入口で、その権利が性質上、国民のみを対象か、を問う順は変わりません。在留制度の枠を見極める段も、今日の型で書きます。自己決定権が保障されるか自体は、別の回で扱います。二つ目は、社会権です。別の短い設例を置きます。T市は、規則で、市立小学校に在籍する外国籍の児童の保護者に、月額1万8千円の授業料を課し、2か月滞納したときは、登校を認めないと定めます。T市で生まれ育ち、日本語で授業を受けている児童Eの保護者Aは、滞納を理由に登校を止められ、26条1項に違反すると主張します。
条文日本国憲法26条1項
憲法第26条1項 第二十六条 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
26条1項は、すべて国民は、と定めます。Eは外国人ですから、この保障がEに及ぶかが問題になります。規範は、今日の一文です。権利の性質上、日本国民のみを対象としていると解されるものを除き、外国人にも人権保障が及びます。一般論として、社会権は、その人が国籍を持つ国に求めるべき権利なので、性質上、日本国民のみを対象とします。この一般論に従えば、26条1項は社会権の一つなので、Eには憲法上及びません。法律で外国人に及ぼすことは、財政上の支障がない限り、許されます。ここで、立ち止まります。この一般論が、教育を受ける権利に、そのまま妥当するでしょうか。26条1項は、子どもが人として成長し、人格を発達させるために学習する権利、学習権を背景にもちます。学習は、子どもが国籍に関係なく必要とするもので、所属する国の財政に依存する給付とだけは説明できない面があります。Eは日本で生まれ育ち、日本語で授業を受け、他の児童と同じ学校で学んでいます。国籍だけを理由に保障を切り離す理由は乏しい。そこで、学習権を背景とする教育を受ける権利は、外国人にも及ぶ、と書くこともできます。
どちらの答案も成り立ちます。一般論どおり、及ばない、と書く答案と、学習権を背景に、及ぶ、と書く答案です。大切なのは、どちらの結論でも、理由を書くことです。
完成答案
図:完成答案|第1の1 保障、問題の所在と規範
ここまでを、答案の形にしました。こちらが完成答案です。動画を止めて見てみてください。最初の板は、外国人に及ぶかを問題提起して、規範を置く段です。
図:完成答案|第1の1 あてはめ、署名運動等と投稿
今日の本番の前半です。保障される側の署名運動等と、外れる側の投稿の線を、事実に当てる段です。
図:完成答案|第1の2 制約、第2 形式的正当化、第3の1と2 国の反論と規範
制約を簡潔に通し、国の反論を、規範で受ける段です。
図:完成答案|第3の3 枠が及ぶ場面と本件との違い
今日の本番の中心です。更新の場面と本件の違いを、時点、判断の仕方、失うものの三点で立てて、枠で止めずに審査へ渡す段です。
図:完成答案|第3の3 小括
違いを3つ並べたうえで、枠は本件に及ばないと小括する段です。
図:完成答案|第4の1と2 問題の所在と審査基準
目盛りの決め方の段です。厳格が出発点で、国の裁量で一段緩め、中間審査基準に至ります。
図:完成答案|第4の3 目的と手段のあてはめ
目的と手段のあてはめと、国の反論への切り返しの段です。
図:完成答案|第4の小括と結論、第5 違憲の対象
最後に、法令違憲として結論を書く段です。
図:完成答案|第6 別の設例、社会権の一般論
社会権の一般論を置く段です。
図:完成答案|第6 学習権から問い直す
学習権を背景に問い直す、両立ての段です。ご自身の答案と見比べてみてください。今回は、国の言う在留制度の枠が、更新の場面で止まり、法が行為そのものを類型的に不利益にする場面には、当然には及ばないことを見ました。では、国籍によって区別される場面では、どう書くのでしょうか。
参照条文
- 日本国憲法21条1項
- 日本国憲法26条1項