憲法ゼロから憲法 論文

外国人の公務就任権(後編)

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ゼロから憲法 論文/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

設例

時系列の流れ|U市が条例で職員を採用、在住8年のAが情報システム職の受験を申し込もうとする、窓口が国籍要件を理由に拒否、出訴

前編は、在留の枠の話でした。今日は、国籍を理由に、公務員になる道そのものを閉ざす仕組みを取り上げます。国籍要件は、憲法に違反するか。答案では、公務員を二つに分けて職ごとに当てはめ、さらに管理職への昇任では、判例を知ったうえで事実を拾って結論を分けます。最後まで書き切ります。公務員と一口に言っても、仕事の中身はさまざまです。その済ませ方が通るかどうかは、事実を当てて決まります。まず前半、市の職員採用試験の事例から見ます。

条例と職務規程|U条例5条は日本の国籍を有する者でなければ受験できない例外なし、職務規程3条は区分ごとの職務、4条は他の区分に配置換えしない

U市は、条例で職員を採用します。以下、U条例です。5条。職員採用試験は、次の各号のいずれにも該当する者でなければ、受験することができない。1号、日本の国籍を有する者であること。2号、18歳以上であること。例外を認める規定はありません。区分ごとの職務は、U市職員の職務規程、以下、職務規程の3条が定めます。税務職は、課税額の決定と、財産の差押えを含む滞納処分を、自ら行います。福祉職は、給付の支給と不支給の決定、そして措置の決定を、自ら行います。図書館司書職は、資料の収集、整理、貸出と、利用者の相談への対応です。情報システム職は、庁内の情報システムの運用、保守、改修です。この二つは、住民に対する決定の権限がなく、市の施策を決める会議の構成員でもありません。そして4条は、職員は、採用区分と異なる区分の職務に配置換えしない、と定めます。

採用区分|今年度の採用予定40人の内訳は税務職10人と福祉職12人と図書館司書職6人と情報システム職12人、国籍要件は4区分すべてに同じように適用

今年度の採用予定は、40人です。税務職10人、福祉職12人、図書館司書職6人、情報システム職12人。5条1号の国籍要件は、この4つの採用区分すべてに、同じように適用されます。Aは、Y国籍で、適法に在留し、U市に住んで8年になります。大学で情報工学を学び、民間企業で、庁内のシステムに似た業務を5年担当しました。国籍を除けば、受験資格はすべて満たします。Aは、今年度、情報システム職の受験を申し込もうとしましたが、窓口は、5条1号を理由に、申込みを受け付けませんでした。U市は、国籍要件を置く理由を、こう説明します。職員が将来、公権力の行使に当たる職に就く可能性を、採用の段階で排除し、国民主権との抵触を避けるため。他方、近隣のT市は、10年前から、図書館司書職と情報システム職に限って国籍要件を置いておらず、運営上の支障は生じていません。

関係図|U市のBがAの受験を拒否、AはBに受験を申し込む 図:関係図|U市のBがAの受験を拒否、AはBに受験を申し込む

関係を図にします。U市がB、外国人がAです。BからAへ、受験の拒否。AからBへ、受験の申込みです。Aは、受験資格の確認を求めて出訴し、5条1号が憲法22条1項に違反すると主張します。問いは一つです。U条例5条1号の国籍要件は、憲法に違反するか。Aの立場で争います。

根拠と享有主体性

問い|公務員になる自由はどの条文で保障されるか、Aは外国人だが保障は及ぶか 図:問い|公務員になる自由はどの条文で保障されるか、Aは外国人だが保障は及ぶか

骨格の最初です。問いです。公務員になる自由は、どの条文で保障されるでしょうか。Aは外国人ですが、その保障は、Aに及ぶでしょうか。少し考えてみてください。条文は22条1項で、そのとおりです。外国人に及ぶかは、及ばないと一言で済ませると危ない。答えを見ます。

答え|公務就任権は公務員という職業を選択する自由として22条1項により保障される、外国人には権利の性質上日本国民のみを対象とするものを除き保障が及ぶ、そのうえで公務員を二つに分ける

条文日本国憲法22条

憲法第22条 第二十二条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。 ② 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。

公務就任権とは、公務員に就任する権利のことです。公務員という職業を選択する自由として、22条1項により保障されます。条文は、職業選択の自由です。公務員を選ぶ自由も、その一つと書きます。解説の回では、14条1項から導く見方も見ました。今日は、Aの主張に合わせて、22条1項で組みます。次に、Aは外国人です。憲法第3章は、表題を、国民の権利及び義務、と定めます。そこで、外国人にも公務就任権が保障されるかが、問題になります。ここで確かめます。前編で、性質説は、何を基準に、外国人に人権が及ぶかを決めるのでしたか?

規範|前編の規範の呼び戻し、権利の性質上日本国民のみを対象としていると解されるものを除き外国人にも及ぶ、公務就任権は職ごとに性質を確かめる

権利の性質で決める、でした。前編の一文を、そのまま呼び戻します。権利の性質上日本国民のみを対象としていると解されるものを除き、外国人にも人権保障が及ぶ。ただし、公務就任権をこの一文に当てるとき、公務員の中には、外国人に及ぶ職と、及ばない職があります。一括りに、及ぶ、及ばない、と書くと、どこかが崩れます。ですので、答案の順序は、根拠の22条1項、性質説の一文、そして公務員の種類を分ける、です。

公務員の二分

問い|税務職と情報システム職は国民主権との関係で同じ扱いでよいか 図:問い|税務職と情報システム職は国民主権との関係で同じ扱いでよいか

ここから、今日の本番の前半です。問いです。税務職と情報システム職。国民主権との関係で、同じに扱ってよいでしょうか。少し考えてみてください。二つの職で扱いを変えたくなるのは、仕事の中身が違うからです。その違いを、答案の言葉にします。分けるための物差しが、規範です。先に二分を立てる点に注意して、聞いてください。

公務就任権の根拠と公務員の二分の規範カード|22条1項で保障、政策の遂行に関わる点で参政権的側面も有する、公権力行使等地方公務員と補助的技術的職務の公務員に分け、前者は外国人に及ばず後者は及ぶ

上の段に問題提起、真ん中に規範、下にあてはめがあります。真ん中の規範を、区切って読みます。1つ目の区切りは、「政策の遂行に関わる点で参政権的側面も有する」です。公務員の仕事は、政策を実際に動かします。ですので、公務就任権には、職業の自由だけでなく、政治に関わる面もあります。この面があるから、国民主権との関係が出てきます。2つ目の区切りは、公務員を二つに分ける点です。①は、住民の権利義務を直接形成する公権力の行使に当たる行為を行い、又は重要な施策に関する決定に参画することを職務とする公務員で、公権力行使等地方公務員と呼びます。②は、補助的・技術的職務を行うにとどまる公務員です。「参画する」に、注意してください。決定する権限をもつ人だけではありません。決定に加わる職も、①に入ります。これが入らないと、管理職を①に取り込めず、のちの管理職の場面が書けません。3つ目の区切りは、①の扱いです。①の職務は、住民の権利義務や法的地位の内容を定めます。国民主権原理に照らし、原則として日本国籍を有する者が就任することが想定されている。国民主権の下では、統治の在り方について、最終的な責任を負うのは国民です。①は、その統治を、住民に直接及ぼす職です。だから、①は国民が就く前提で制度が組まれている。これが「想定されている」の意味です。したがって、①への就任権は、権利の性質上日本国民のみを対象としているといえ、外国人には及びません。

4つ目の区切りは、②の扱いです。②に外国人が就任しても、国民主権原理に抵触しません。したがって、②への就任権は、日本国民のみを対象とはいえず、外国人にも保障が及びます。性質説の一文との関係も、確かめます。①と②に分けるのは、性質説の例外、つまり日本国民のみを対象とするものに当たるかを、職ごとに判定した結果です。①は例外に当たるので及ばない、②は当たらないので及ぶ、と書きます。答案では、この二分で書き、職ごとに①か②かを当てます。なぜ先に分けるのか。分けずに書くと、税務職を外す理由も、情報システム職を認める理由も、どちらも国民主権になって、答案が読めなくなります。同じ国民主権でも、①では国民が就く想定の話、②では抵触しない話です。当てる職が違うので、先に二分して、そのあとに職を当てます。

判例最大判平成17年1月26日(大法廷)

東京都管理職選考事件(公権力行使等地方公務員の定義と原則) 「地方公務員のうち,住民の権利義務を直接形成し,その範囲を確定するなどの公権力の行使に当たる行為を行い,若しくは普通地方公共団体の重要な施策に関する決定を行い,又はこれらに参画することを職務とするもの(以下「公権力行使等地方公務員」という。)については,次のように解するのが相当である。」……「国民主権の原理に基づき,国及び普通地方公共団体による統治の在り方については日本国の統治者としての国民が最終的な責任を負うべきものであること(憲法1条,15条1項参照)に照らし,原則として日本の国籍を有する者が公権力行使等地方公務員に就任することが想定されているとみるべきであり,」

この判決は、解説の回でも見た、東京都の管理職選考の事件です。ここで、一点だけ区別してください。この判決が判断したのは、14条1項の区別が合理的かどうかです。公務就任権が憲法上保障されるか、ではありません。ですので、最高裁が22条1項で保障した、と書いてはいけません。借りるのは、定義と、国民が就く想定、の二つです。

職務の評価|税務職と福祉職は住民の権利義務を直接形成する決定を自ら行うので公権力行使等で外国人に及ばない、図書館司書職と情報システム職は決定の権限も会議への関与もなく配置換えもないので補助的技術的で外国人にも及ぶ

あてはめです。職務規程3条の事実を拾って、評価して、当てます。税務職は、課税額を決め、差押えを含む滞納処分を、自ら行います。福祉職は、給付の支給と不支給、措置を、自ら決めます。どちらも、住民の権利義務を直接形成する、公権力の行使に当たる行為です。したがって、①です。就任権は外国人に及びません。U条例5条1号をこの二つの区分に適用して、外国人の受験を認めなくても、22条1項の問題は生じません。図書館司書職と情報システム職は、どうでしょうか。住民に対する決定の権限はありません。市の施策を決める会議の構成員でもなく、重要な施策に関する決定に参画する職でもありません。しかも、職務規程4条で、他の区分に配置換えされないので、将来、①の職に就く道もありません。したがって、②です。外国人が就任しても、国民主権に抵触せず、保障が及びます。Aが受験を求めた情報システム職への就任権は、Aに及ぶ、と書きます。

以後は、保障が及ぶ、図書館司書職と情報システム職の区分を中心に検討します。

審査の目盛り

問い|②への就任権に国籍要件を課す、審査の目盛りは何と何で決めるか、下げる要素と上げる要素

次は制約です。5条1号は、日本の国籍を有しない者に、採用試験の受験を一切認めません。受験できなければ採用されず、公務員になる道そのものを閉ざされます。したがって、5条1号は、Aの公務就任権、つまり22条1項を制約します。次に、形式的正当化です。5条1号は、議会が制定した条例なので、根拠を欠くとはいえません。ここから先が、実質的正当化です。ここで復習です。前の論文回で、実質的正当化、つまり制約の中身を審査する段で、どれくらい厳しく疑うかという目盛りは、何と何で決めましたか?権利の重要性と、制約の強さ、でした。それに、規制する側の裁量を加えて決めます。この型を、今日の事案に当てます。問いです。②への就任権に国籍要件を課す。目盛りは、何と何で決めるでしょうか。目盛りを下げる要素と、上げる要素です。少し考えてみてください。

下げる事情と上げる事情の向きは、合っています。規範の言葉で見ます。

国籍要件の審査基準の規範カード|たしかに行政組織権に基づく判断に委ねられる面がある、しかし職を得る機会を国籍のみで一律に奪う、そこで目的が重要で手段が効果的かつ過度でない場合に限り合憲

上の段に問題提起、真ん中に規範、下にあてはめです。区切って読みます。1つ目の区切りは、「たしかに」です。いかなる職を設け、いかなる資格要件を課すかは、地方公共団体の行政組織権に基づく判断に委ねられる面がある。審査を緩める方向の事情です。前の論文回の、裁量にあたる事情です。2つ目の区切りは、「しかし」です。外国人に保障が及ぶ②への就任権は、参政権的側面が希薄で、その実質は、職を得る機会にあります。そして国籍要件は、適性を個別に判断することなく、国籍のみを理由に、その機会を一律に奪います。適性を個別に判断することなく、とは、本人の能力を見ない仕組みだ、ということです。権利の重要性と、制約の強さにあたる、審査を厳しくする方向の事情です。3つ目の区切りは、「そこで」です。規制の目的が重要であり、その手段が効果的であり、かつ過度でない場合に限り合憲、と解します。効果的とは、手段が目的に役立つこと。過度でない、とは、必要以上に広く奪っていないことです。本件で勝負になるのは、後者です。この基準を、中間審査基準と呼びます。前編では、手段が目的との間に実質的関連性をもち、より制限的でない手段がないこと、と書きました。効果的かで目的とのつながりを、過度でないかでより穏やかな手段で足りないかを見る点で、同じ段の基準です。下げの事情だけを書けば、合理性の基準に流れます。上げの事情だけを書けば、厳格審査に流れます。両方を置いてから、その中間に落とす。これが、この書き方です。

使わない根拠も、言っておきます。国民主権は、①を外す場面と、このあとの目的の重要性で、もう使いました。目盛りでも使うと、同じ事情を二重に評価することになります。公務員関係の自律性、つまり、憲法が予定する公務員関係を保つために、公務員の権利を制約できる、という根拠も使いません。本件は、誰をどの職に就けるかという任用の設計の話で、U市の採用試験を受けるAは、まだ公務員関係の中にいないからです。

目的と手段

審査のあてはめ|目的は①の職を日本国民が担うことの確保で重要、効果性は税務職と福祉職には役立つ、司書職とシステム職は決定の権限も配置換えもなく不要で4区分一律例外なし、T市は支障なし

あてはめます。目的から。U市の目的は、職員が将来、公権力の行使に当たる職に就く可能性を、採用の段階で排除し、国民主権との抵触を避けることです。国民主権は、民主主義の根幹です。①の職を日本国民が担うことを確保する目的は、重要です。次に手段です。まず、効果的か。国籍要件は、①にあたる税務職と福祉職の区分では、目的の達成に役立ちます。勝負は、過度でないかです。図書館司書職と情報システム職は②で、住民への決定の権限も、施策を決める会議への関与もありません。しかも、職務規程4条で配置換えされないので、①の職に就く可能性は生じません。この区分で外国人を排除することは、国民主権との抵触を避けるのに、必要ありません。それなのに、5条1号は、4つの区分すべてに同じ要件を課し、例外もありません。より穏やかな手段もあります。国籍要件を、①の区分に限る。採用区分ごとに、要件を定める。近隣のT市は、図書館司書職と情報システム職に限って国籍要件を置かず、10年前から、運営上の支障も生じていません。それなのに、Aのように、情報工学を学び、民間企業で5年の経験をもつ人が、適性を個別に判断されることなく、国籍のみを理由に、受験の機会を一律に奪われます。したがって、この二つの区分に国籍要件を課すのは、手段として過度です。

反論と再反論|U市の反論は採用段階で将来の可能性を排除する必要、再反論は職務規程4条で配置換えなく可能性が生じない、U市の反論は行政組織権の裁量、再反論は裁量は職の設計までで目盛りで考慮済みで国籍のみで道を閉ざすことは正当化しない

U市は、こう反論するでしょう。採用の段階で、将来の可能性を排除する必要がある。切り返しは、職務規程4条です。これらの区分から、①に就く可能性は生じません。もう一つ。行政組織権に基づく裁量がある。切り返しは、裁量は職をどう設計するかに及ぶもので、目盛りを決める段で、すでに考慮した、です。職種に関わりなく、国籍のみで公務員への道を閉ざすことまで、裁量は正当化しません。結論です。5条1号は、①にあたる区分には、合憲に適用できます。欠陥は、区分を問わず一律に課す点です。したがって、図書館司書職と情報システム職の区分に及ぶ限りで、22条1項に違反します。Aの受験の拒否も、違法です。条例全体を無効とすべきか、限定して解釈できるかは、別の論点で、今日は入りません。違憲とする対象は、後半と合わせて、最後に選びます。

管理職への昇任

町長が定めるV規則と任用管理の2系統|8条は日本の国籍を有する職員でなければ課長級への昇任選考を受けられない例外なし、12条は総合系統は全課の課長級職を通じて配置換え、13条は専門系統は図書館課か情報政策課の課長級職にのみ就く

ここから後半です。V町の、課長級への昇任の事例に移ります。V町には、町長が定める、職員の昇任に関する規則、以下、V規則があります。8条。課長級への昇任選考は、日本の国籍を有する職員でなければ、受けることができない。例外を認める規定はありません。V町は、採用試験の受験資格に国籍要件を置いておらず、外国籍の職員も在職しています。任用管理は、2つの系統に分かれます。総合系統は、一般事務職です。12条は、総合系統の課長級職員は、全課の課長級職を通じて配置換えを行う、と定めます。専門系統は、図書館司書職と情報システム職です。13条は、専門系統の職員は、課長級に昇任した後も、図書館司書職は図書館課、情報システム職は情報政策課の課長級職にのみ就き、他の課へ配置換えしない、と定めます。

課の分類|総合系統の課長が就く6課は町民課と税務課と福祉課が処分を専決、企画課が政策会議の構成員、総務課と会計課はどちらもなし、専門系統の図書館課と情報政策課もどちらもなし

総合系統の課長が就く課は、6つです。町民課、税務課、福祉課の課長は、住民票の処理、課税、給付の決定を専決します。処分の権限をもつ、ということです。企画課の課長は、町の重要施策を決める政策会議の構成員です。総務課と会計課の課長は、処分の権限も、政策会議への出席もありません。専門系統が就く、図書館課と情報政策課の課長も、処分の権限も、政策会議への出席もありません。

過去10年の実績|総合系統は昇任26人のうち22人が町民課税務課福祉課企画課のいずれかの課長を経験し4人は総務課か会計課の課長のまま退職、専門系統は昇任6人の全員が退職まで同じ課の課長

過去10年の実績です。総合系統から課長級に昇任した職員は、26人。うち22人は、課長級の在任中に、町民課、税務課、福祉課、企画課のいずれかの課長を務めました。残る4人は、総務課か会計課の課長のまま退職しました。専門系統から昇任した職員は、6人です。全員が、退職まで、同じ課の課長のままでした。

関係図|V町のBがAとCの昇任選考の受験を拒否 図:関係図|V町のBがAとCの昇任選考の受験を拒否

Aは、Y国籍で、総合系統の一般事務職として採用後9年です。Cは、Z国籍で、専門系統の情報システム職として採用後11年です。二人とも、課長級の昇任選考を受けようとしましたが、V町は、8条を理由に申込みを受け付けませんでした。V町は、昇任選考の入口で国籍を要件にしておくことが、人事の適正な運用に必要だと説明します。関係を図にします。V町がB、職員がAとCです。BからAへ、BからCへ、いずれも昇任選考の受験の拒否です。二人は、8条が22条1項に違反すると主張します。問いは一つです。V規則8条の国籍要件は、憲法に違反するか。枠組みは、前半と同じです。二分は、そのまま使います。課長級の職のうち、公権力行使等に当たる職は、①、当たらない職は②です。総合系統の6課のうち、町民課、税務課、福祉課、企画課の課長は、①。総務課と会計課の課長は②。専門系統の、図書館課と情報政策課の課長も、②です。②への就任権には、外国人にも保障が及びます。制約です。8条は、日本の国籍を有しない職員に、課長級の昇任選考の受験を一切認めません。②にあたる課長級職への昇進の機会も、国籍のみで奪います。AとCの公務就任権の制約です。形式的正当化です。V規則は、町長が定めた規則です。町長は、職員を任命する権限をもつ、任命権者です。昇任選考の受験者の範囲を定めることは、その任命の権限に含まれます。ですので、8条は、根拠を欠くとはいえません。ここから先が、実質的正当化です。

審査の目盛りも、前半と同じです。規範の中の、職を得る機会を、管理職に昇進する機会に置き換えるだけです。たしかに行政組織権、しかし昇進の機会を国籍のみで一律に奪う、そこで中間審査基準です。目的も同じで、①にあたる課長が日本国民であることを確保し、国民主権との抵触を避けることです。重要です。勝負は、手段です。

判例の前提事実

問い|最高裁は日本国民に限って管理職に昇任できる措置を許した、AとCの結論は同じか、判定欄は伏せる

ここが、今日いちばん厚く書くところです。問いです。最高裁は、日本国民に限って管理職に昇任できる措置を、許しました。では、AとCの結論は、同じでしょうか。判定欄は伏せてあります。少し考えてみてください。Cの課に決定の権限がない点が、出発点です。判例の結論をそのまま当てられるかが、ここで問われます。判決の文を見ます。

判例最大判平成17年1月26日(大法廷)

東京都管理職選考事件(一体的な管理職の任用制度) 「そして,普通地方公共団体が,公務員制度を構築するに当たって,公権力行使等地方公務員の職とこれに昇任するのに必要な職務経験を積むために経るべき職とを包含する一体的な管理職の任用制度を構築して人事の適正な運用を図ることも,その判断により行うことができるものというべきである。そうすると,普通地方公共団体が上記のような管理職の任用制度を構築した上で,日本国民である職員に限って管理職に昇任することができることとする措置を執ることは,合理的な理由に基づいて日本国民である職員と在留外国人である職員とを区別するものであり,上記の措置は,労働基準法3条にも,憲法14条1項にも違反するものではないと解するのが相当である。」

最高裁は、公権力行使等地方公務員の職と、これに昇任するために経るべき職とを包含する、一体的な管理職の任用制度を組むことを、地方公共団体の判断でできるとしました。そして、その制度のもとで、日本国民に限って管理職に昇任できるとする措置は、合理的な理由に基づく区別で、14条1項に違反しない、としています。見てほしいのは、その制度が一体的だと言えたのは、どんな事実があったからか、です。次の部分です。

判例最大判平成17年1月26日(大法廷)

東京都管理職選考事件(事実のあてはめと若干の管理職) 「当時,上告人においては,管理職に昇任した職員に終始特定の職種の職務内容だけを担当させるという任用管理を行っておらず,管理職に昇任すれば,いずれは公権力行使等地方公務員に就任することのあることが当然の前提とされていたということができるから,上告人は,公権力行使等地方公務員の職に当たる管理職のほか,これに関連する職を包含する一体的な管理職の任用制度を設けているということができる。」……「原審がいうように,上告人の管理職のうちに,企画や専門分野の研究を行うなどの職務を行うにとどまり,公権力行使等地方公務員には当たらないものも若干存在していたとしても,上記判断を左右するものではない。」

ここで、判決の使い方を決めます。規範の出典ではありません。あてはめで、どの事実を拾うかの手本です。判決が拾ったのは、管理職に昇任すれば、いずれ公権力行使等地方公務員に就くことが、任用管理上の前提とされていたか、です。判決が判断したのは、14条1項の、合理的な理由に基づく区別でした。答案の目盛りは、22条1項のカードです。物差しが別なので、判決の言葉と、答案の言葉を、混ぜません。ただ、判決が拾った前提事実は、入口で国籍要件を置く必要があるかを決める事実です。ですので、22条1項の、手段が過度かの判断にも、そのまま使えます。答案では、設例にこの前提事実があるかを、系統ごとに拾います。

A総合系統の事実|12条は全課の課長級職を通じて配置換え、26人中22人が①の課の課長を経験、昇任すればいずれ①に就くことが任用管理上の前提、4人は②の課長のままでも判断を左右しない

まず、Aの総合系統です。V規則12条は、全課の課長級職を通じて配置換えを行う、と定めます。実績でも、26人のうち22人が、①の課の課長を務めました。つまり、課長級に昇任すれば、いずれ①に就くことが、任用管理上の前提とされています。判決が拾った事実と、同じ型です。そうすると、昇任選考の入口で国籍要件を置かなければ、外国籍の職員が①の課の課長に就く事態を避けられません。国籍要件は、目的の達成に役立ち、必要でもあります。昇進の機会を奪うことも、過度ではありません。反対方向の事情も、見ます。26人のうち4人は、②の課の課長のまま退職しました。判決は、公権力行使等に当たらない管理職が若干いても、判断を左右しない、と述べています。この4人は、その若干にあたります。結論は動きません。Aは、こう主張するでしょう。総務課や会計課のように、②の課長もあるのだから、職ごとに昇任選考を分けるべきだ。切り返しは、総務課や会計課の課長も、同じ課長級として、全課を通じた配置換えの対象だ、です。昇任選考の時点で、昇任後に①に就くかどうかを、分けることはできません。結論です。Aに対する8条の適用は、手段として過度ではなく、合憲です。

C専門系統の事実|13条は図書館課か情報政策課の課長級職にのみ就き配置換えしない、6人全員が同じ課の課長のまま、両課の課長は処分も政策会議もなく②、昇任してもいずれ①に就くことは前提でなく判例の前提事実を欠く

次に、Cの専門系統です。V規則13条は、図書館課と情報政策課の課長級職にのみ就き、他の課へ配置換えしない、と定めます。実績でも、6人全員が、退職まで同じ課の課長のままでした。この二つの課の課長は、処分の権限も、政策会議への出席もなく、②です。つまり、昇任しても、いずれ①に就くことは、任用管理上の前提とされていません。判決が拾った前提事実を、欠いています。この判決の射程の外です。そうすると、国籍要件で守るべき一体的な制度が、専門系統にはありません。国籍要件を課すことは、国民主権との抵触を避けるのに、必要ありません。それなのに、Cは、11年勤めた職員でありながら、適性を個別に判断されることなく、国籍のみを理由に、昇進の機会を一律に奪われます。総合系統についてだけ国籍要件を課す、という手段でも、目的は達成できます。したがって、過度です。V町の反論を受けます。昇任選考の入口で、国籍要件を統一しておくことが、人事の適正な運用に必要だ。切り返しは、13条です。専門系統は、一体的な制度の外にあり、統一する必要の根拠がありません。もう一つ。将来、規則を改正して、専門系統にも配置換えを行うかもしれない。これも、現行の規則と運用に基づかない仮定の改正です。仮定で、現在の制約を正当化することはできません。結論です。Cに対する8条の適用は、手段として過度で、22条1項に違反します。

AとCの対比表|系統は総合と専門、配置換えは全課を通じて行うとなし、実績は26人中22人が①の課を経験と6人全員が同じ課、昇任すればいずれ①に就くことが任用管理上の前提かはありとなし、結論はAは合憲でCは違憲

表で並べます。総合系統は、全課を通じて配置換え、26人中22人が①の課を経験、前提はあり、結論は合憲。専門系統は、配置換えなし、6人全員が同じ課、前提はなし、結論は違憲です。二つの書き方が、どちらも事実を拾っていません。判例を知らずに、一律の国籍要件は過度で違憲、と書く。判例が合憲としたのだから合憲、と決め打ちする。どちらも、設例の事実を見ていません。分かれ目は、結論ではなく、前提事実が設例にあるかどうかです。

結論と違憲の対象

結論の鎖|根拠は22条1項と性質説、公務員の二分、制約、目盛り、目的は重要で手段が勝負、違憲の原因は規定の中身、前段は司書職とシステム職の区分に及ぶ限度で違憲、後段は専門系統の職員に及ぶ限度で違憲、いずれも法令違憲

結論をそろえます。前半、5条1号は、税務職と福祉職の区分には合憲、図書館司書職と情報システム職の区分に及ぶ限りで違憲です。後半、8条は、総合系統の職員には合憲、専門系統の職員に及ぶ限りで違憲です。違憲とする対象を選びます。どちらの規定も、文言が、区分や系統を分けずに、一律に国籍要件を課しています。欠陥は、規定の中身そのものにあります。AやCの事情にかかわらず、同じ区分や系統の外国籍の人は、誰でも同じように閉め出されます。だから、規定は合憲のまま、拒否だけを違憲とする処分違憲には落としません。規定そのものを、前半は図書館司書職と情報システム職の区分に、後半は専門系統の職員に、及ぶ限度で違憲とします。法令違憲です。①の区分や総合系統への適用は、合憲のままです。

変形

問い|外国人に地方の選挙権が憲法上保障されないことと、法律で与えてよいかは同じ問いか

最後に、同じ型を、別の場面に当てます。短い設例です。国会が、付与法で、永住の許可を受けた外国人で、引き続き3年以上、同じ市町村の区域内に住所を有するものに、その市町村の長と議会の議員の選挙権を与えました。S市に住む日本国民のDは、付与法が93条2項に違反すると主張します。問いです。外国人に地方の選挙権が憲法上保障されないことと、法律で与えてよいかは、同じ問いでしょうか。少し考えてみてください。保障されないことと、法律で与えると違憲になることを、混ぜないでください。保障されないことと、与えると違憲になることは、別の問いです。選挙権の解説の回で見た、三つの層です。憲法が保障する層、禁止する層、立法政策に委ねる層。順に見ます。

条文日本国憲法93条

憲法第93条 第九十三条 地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。 ② 地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。

判例最判平成七年二月二十八日(第三小法廷)

定住外国人地方参政権訴訟(住民の解釈) 「憲法九三条二項にいう「住民」とは、地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味するものと解するのが相当であり、右規定は、我が国に在留する外国人に対して、地方公共団体の長、その議会の議員等の選挙の権利を保障したものということはできない。」

一つ目の問い、保障の有無です。93条2項は、長や議員を、その地方公共団体の住民が選挙する、と定めます。判決は、この住民を、地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民と解しました。国民主権と、公務員を選び、やめさせるのは国民固有の権利だ、とする15条1項の趣旨に加え、地方公共団体も、国の統治の仕組みに欠かせない一部だからです。したがって、93条2項は、外国人に地方の選挙権を保障したものではありません。

判例最判平成七年二月二十八日(第三小法廷)

定住外国人地方参政権訴訟(法律による付与) 「憲法第八章の地方自治に関する規定は、民主主義社会における地方自治の重要性に鑑み、住民の日常生活に密接な関連を有する公共的事務は、その地方の住民の意思に基づきその区域の地方公共団体が処理するという政治形態を憲法上の制度として保障しようとする趣旨に出たものと解されるから、我が国に在留する外国人のうちでも永住者等であってその居住する区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められるものについて、その意思を日常生活に密接な関連を有する地方公共団体の公共的事務の処理に反映させるべく、法律をもって、地方公共団体の長、その議会の議員等に対する選挙権を付与する措置を講ずることは、憲法上禁止されているものではないと解するのが相当である。しかしながら、右のような措置を講ずるか否かは、専ら国の立法政策にかかわる事柄であって、このような措置を講じないからといって違憲の問題を生ずるものではない。」

二つ目の問い、法律で与えてよいか。この部分は、傍論です。事件の結論を出すのに必須ではない部分、という意味です。国政の選挙権は、国民主権から、法律で外国人に与えることも禁止される、というのが通説です。地方は、国民主権とのかかわりの程度が国政と違います。国政は、国の統治の在り方そのものを、最終的に決める場だからです。第8章は、住民の日常生活に密接な公共的事務を、住民の意思で処理する政治形態を、制度として保障しています。判決は、永住者等で、その地方公共団体と特段に緊密な関係をもつに至った外国人に、法律で選挙権を与えることは、憲法上禁止されていない、としました。

変形の答え|保障の有無は93条2項の住民は日本国民で保障されない、法律による付与は永住の許可と3年以上の住所で特段に緊密な関係といえ禁止されない、短期在留者へ広げる改正案は射程外

あてはめです。付与法の対象は、永住の許可を受け、引き続き3年以上、その市町村の区域内に住所を有する外国人です。その区域の地方公共団体と、特段に緊密な関係を持つに至った、といえます。したがって、付与法は、93条2項に違反しません。射程も一つ。仮に、在留期間が1年に満たない外国人にまで与える改正案があるなら、特段に緊密な関係を言えるかが、別の問いになります。この判決の射程の外です。与えるかどうかは、専ら国の立法政策です。

完成答案

完成答案|第1の1(1)(2) 根拠と性質説 図:完成答案|第1の1(1)(2) 根拠と性質説

ここまでを、答案の形にしました。こちらが完成答案です。動画を止めて見てみてください。最初の板は、22条1項から入り、性質説の一文を置く段です。

完成答案|第1の1(2) 公務員の二分 図:完成答案|第1の1(2) 公務員の二分

公務員を二つに分ける段です。

完成答案|第1の1(3) 税務職と福祉職、図書館司書職と情報システム職 図:完成答案|第1の1(3) 税務職と福祉職、図書館司書職と情報システム職

今日の本番の前半です。職務規程の事実を拾って、①と②に分ける段です。

完成答案|第1の2と3(1)(2) 制約と審査基準と目的 図:完成答案|第1の2と3(1)(2) 制約と審査基準と目的

制約を簡潔に通し、たしかに、しかし、そこで、で目盛りを決める段です。

完成答案|第1の3(3) 効果性と過度でないか、U市の反論 図:完成答案|第1の3(3) 効果性と過度でないか、U市の反論

手段の過度性を事実で言い、反論を切り返す段です。

完成答案|第1の3(4)と4 小括、結論と違憲の対象 図:完成答案|第1の3(4)と4 小括、結論と違憲の対象

小括を置いて、法令違憲で閉じる段です。

完成答案|第2の1と2 問題の所在と保障の及ぶ範囲 図:完成答案|第2の1と2 問題の所在と保障の及ぶ範囲

V町の事例で、①と②を課ごとに分ける段です。

完成答案|第2の3と4(1)(2) 管理職への置き換え 図:完成答案|第2の3と4(1)(2) 管理職への置き換え

職を得る機会を、管理職に昇進する機会に置き換える段です。

完成答案|第2の4(3)アとイ 判例の前提事実と総合系統 図:完成答案|第2の4(3)アとイ 判例の前提事実と総合系統

今日の本番の中心です。判例の前提事実を総合系統から拾い、②の課長が若干いても左右されない、と書く段です。

完成答案|第2の4(3)ウとエ 専門系統とV町の反論 図:完成答案|第2の4(3)ウとエ 専門系統とV町の反論

専門系統は前提事実を欠き、射程の外として過度と結ぶ段です。

完成答案|第2の4(4)と5 小括、結論と違憲の対象 図:完成答案|第2の4(4)と5 小括、結論と違憲の対象

小括を置き、法令違憲として結論を書く段です。

完成答案|第3の1と2 設例と憲法上の保障 図:完成答案|第3の1と2 設例と憲法上の保障

変形の設例と、憲法上の保障を書く段です。

完成答案|第3の3と4 法律による付与の可否と結論 図:完成答案|第3の3と4 法律による付与の可否と結論

法律による付与の可否と、結論を書く段です。ご自身の答案と見比べてみてください。今回は、同じ国籍要件でも、公務員のどの職に、どの昇任に課すかで、結論が分かれることを見ました。判例の結論を知ったうえで、前提事実が設例にあるかを拾う。これが、答案の分かれ目です。

参照条文

  • 日本国憲法22条
  • 日本国憲法93条

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