検閲と事前抑制(前編)
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設例

今日は、公開前の記録映画を県が止める条例を取り上げます。この条例は憲法21条に違反するか。検閲にあたるかを先に測り、あたらなくても、事前に止める規制として許されるかを測る。この二段で、答案を最後まで書き切ります。検閲かどうかは、印象では決まりません。定義の要素に、事実を一つずつ当てて決まります。ですので、まず事実を丁寧に見ます。H県で公開された映像作品をきっかけに、県産農産物の取引を見合わせる動きが出た、という苦情が、県に相次ぎました。過去3年で41件です。H県議会は、H県映像作品上映適正化条例、以下、本件条例を制定しました。架空の条例です。

施行後1年間の運用です。届出が480件。申出が27件。審査が行われたのは、この27件だけです。そして、中止命令は4件でした。この数字は、あとで効いてきます。覚えておいてください。

次に、Aの事情です。Aは記録映画の監督です。県内の農業用水の汚染疑惑をめぐり、住民、県の担当者、施設を運営する事業者へのインタビューで、作品を構成しました。県の調査結果がまだ公表されていないことも含めて、確認できた事実のとおりに伝える作品です。まだ、どこでも公開されたことがありません。県内で映画館を営む会社が、Cです。Cの映画館で、この作品の県内初公開が決まりました。公開予定日を、X日とします。X日の40日前に、Aは届出をし、県は作品名と公開予定日を公表しました。30日前に、県民Dが、県産農産物への風評被害を招くおそれがある、として、審査を申し出ました。16日前に、審査会が、1回の会議で作品を視聴して審査しました。Aは招かれず、意見を述べる機会はありませんでした。8日前に、県は公開の中止を命じました。命令書の理由欄には、県民の平穏で安全な生活環境を著しく損なうおそれのある内容を含むため、と、条文の文言を記しただけで、作品のどの部分がどのような害を生むのかは、書かれていません。
Aは、この仕組みが憲法21条に違反し、中止命令も違法だと争っています。

関係を図にします。県がB、監督がA、映画館を営む会社がC、申出をした県民がDです。BからAへ、中止命令と罰金。DからBへ、審査の申出。AからCへ、上映の予定です。

条文を読みます。1条。この条例は、映像作品の公開によって県民の平穏で安全な生活環境が損なわれることを防ぐことを目的とする。2条。この条例において上映作品とは、県内の映画館その他の興行施設で公開する目的で制作された映像作品をいう。3条1項。上映作品を県内で初めて公開しようとする者は、公開予定日の三十日前までに、作品名その他規則で定める事項を知事に届け出なければならない。2項。知事は、前項の届出があったときは、作品名及び公開予定日を公表する。4条。何人も、前条第一項の届出に係る上映作品が県民の平穏で安全な生活環境を著しく損なうおそれのある内容を含むと考えるときは、知事に対し、その作品の審査を申し出ることができる。5条。知事は、前条の申出があったときは、H県映像作品審査会、知事の附属機関に、当該作品の内容を審査させ、その意見を聴いた上で、当該作品が県民の平穏で安全な生活環境を著しく損なうおそれのある内容を含むと認めるときは、その公開の中止を命ずることができる。6条。前条の規定による命令に違反して上映作品を公開した者は、五十万円以下の罰金に処する。この条例には、審査の期限の定めも、審査会が作り手の意見を聴く定めも、命令の前に理由を知らせる定めもありません。ここも、あとで効きます。問いは一つです。本件条例5条は、憲法21条に違反するか。Aの立場で、5条の仕組みを争います。
骨格

骨格を通します。入口は、何の自由が保障されるか。Aの記録映画は、事実と意見を公衆に伝える表現行為です。
条文日本国憲法21条
憲法第21条 第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。 ② 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
1項が表現の自由を保障します。映画館で作品を公開して上映する自由は、一切の表現の自由に含まれます。そして2項前段が、検閲の禁止です。今日の主役は、この2項前段と、1項です。次に制約です。5条は、知事が公開の中止を命ずることができるとし、6条が罰金で担保します。Aが作品を公開する自由の制約にあたります。保障と制約は、これで足ります。ここで復習です。形式的正当化では、何を検討しましたか?法律の根拠と、明確性でした。本件は、住民の代表である県議会が定めた条例なので、法律の留保は満たします。94条です。明確性の面、つまり5条の文言が曖昧ではないかは、別に検討します。今日は、そこには入りません。ここから先が本番です。この制約は、発表の前に止めるものだ、という点です。時期に着目して、二段で測ります。一段目、検閲にあたるか。あたれば、絶対的に禁止されるので、実質的正当化に入らずに決着します。二段目、検閲にあたらなくても、事前抑制として許されるか。ここでは、審査を通常より厳しくして、実質的正当化に入ります。
検閲にあたらなければ普通の表現規制と同じ、と考えるのは、答案で落としやすい点です。検閲でなければ安全、ではありません。検閲にあたらなくても、事前に止める規制は、事前抑制として、一段厳しく見ます。
検閲の定義
図:問い|5条の中止命令は検閲にあたるか、あたると何が起きるか
ここで一つ確かめます。検閲が絶対的に禁止される、そのかわりに、定義はどうなっていましたか? 少し考えてみてください。絶対禁止を成り立たせるために、定義が狭くなっている。この性質が、今日のあてはめ全体を決めます。問いです。5条の中止命令は、検閲にあたるでしょうか。あたると、何が起きるでしょうか。答えを見ます。

上の段に問題提起、真ん中に規範、下にあてはめがあります。真ん中の規範を、区切って読みます。1つ目の区切りは、「検閲とは、行政機関が主体となって、思想内容等の表現物につき」です。誰が、何を対象にするか。主体と対象の二つです。2つ目の区切りは、「網羅的、一般的に、発表前にその内容を審査した上、不適当と認めるものの発表を禁止すること」です。審査の広がり、時期、そして禁止の効果が並びます。解説の回では、網羅的一般的な審査と、発表の禁止を目的とすることを一つにまとめて、四つの要素と数えました。答案では、外れる一つを言い当てやすいように、審査の広がりと、発表の禁止を分けて当てます。3つ目の区切りは、「その特質として備えるものをいう」です。これらが全部そろって、はじめて検閲です。一つでも欠ければ、検閲にあたりません。答案では、全部の要素に事実を当てて、外れる要素を一つ特定して言います。そして最後の一文です。検閲は絶対的に禁止されており、公共の福祉による例外も許されません。あたれば、実質的正当化には入らずに、違憲で決着します。
判例最大判昭和59年12月12日(大法廷)
税関検査事件(検閲の定義) 「……憲法二一条二項にいう「検閲」とは、行政権が主体となつて、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査した上、不適当と認めるものの発表を禁止することを、その特質として備えるものを指すと解すべきである。」
検閲該当性のあてはめ

あてはめに入ります。要素ごとに、本件の事実を拾います。判定欄は、まだ伏せてあります。まず、主体です。審査を行うのは、知事の附属機関である審査会です。中止命令を発するのは、知事です。したがって、主体は行政機関です。満たします。次に、対象です。審査されるのは、作品の内容そのものです。Aの作品は、農業用水をめぐる行政や事業者の対応を問う記録映画で、思想内容等の表現物にあたります。満たします。次に、時期です。中止命令は、公開予定日の8日前に出されました。作品は、まだどこでも公開されていません。発表前に、内容を審査しています。満たします。そして、発表の禁止です。中止命令は作品の公開を禁じ、違反すれば罰金が科されます。不適当と認めたものの発表を、禁止しています。満たします。残る要素が、審査の広がりです。ここで一度、止めて考えます。
図:問い|5条は検閲の要素のどれで外れるか
5条は、検閲の要素のどれで外れるでしょうか。少し考えてみてください。答えを見ます。

外れるのは、網羅的、一般的な審査の要素です。5条は、届出のあった作品の全部を審査する仕組みではありません。審査が始まるのは、4条の申出があった作品に限られ、申出のない作品は、審査されません。施行後1年間で、届出480件のうち、申出は27件、中止命令は4件にとどまります。審査は、申出で取り上げられた個々の作品に向けられた、個別のものです。一定の表現物を、網羅的、一般的に審査するものとは、いえません。実質は全部の作品が審査に服している、という見方も成り立ちます。答案では、この反対方向の事情にも、触れて結論します。全作品に届出が義務づけられ、作品名と公開予定日が公表され、何人も申出ができます。審査の中身も、作品の内容の当否を判断するものです。ですので、すべての作品が審査を受けうる状態にある、という見方も、ありえます。けれど、検閲は絶対的に禁止されます。例外が一切ない以上、その要素は、字句に即して厳格に判断すべきです。作品が審査に進むかどうかは、申出という個別の契機にかかっています。したがって、網羅的、一般的な審査とはいえません。結論は、5条は検閲にあたらない、です。ただし、ここで書き終えてはいけません。公開前に内容を審査して、公開を禁ずる点で、事前の規制であることは否定できません。そこで、事前抑制として21条1項に反しないかを検討する。こう書いて、次の段に渡します。
外れた要素を特定して、反対方向の事情にも触れて、次の段へ。この三つで一組です。

結論が動く境目を、一つ見ます。事実を一か所だけ変えます。5条が、届出のあった全作品を審査会に審査させ、不適当と認めた作品の公開を禁ずる、という形だったとします。すると、主体、対象、時期、発表の禁止に加えて、審査の広がりも満たされます。すべての要素がそろって、検閲にあたります。絶対的に禁止されるので、実質的正当化には入らずに、違憲です。申出制か、全件審査か。この一点で、絶対禁止かどうかが分かれるのです。もう一つ、外れる要素の型を見ておきます。審査が発表の後に行われるなら、時期の要素で外れます。公開そのものを妨げず、別の形での発表はできるなら、発表の禁止の要素で外れます。解説の回で見た教科書検定は、教科書として使えるかを審査する仕組みで、不合格でも、同じ本を一般の図書として出版することはできます。検閲にあたらないとされるのは、一般図書としての発行を妨げないからで、この型です。どの要素で外れるかを、事実で言う。これが答案の作法です。
事前抑制
図:問い|検閲でないなら公開前に止めてよいか
ここからが、二段目です。問いです。検閲でないなら、公開前に止めてよいのでしょうか。少し考えてみてください。整理すると、こう分かれます。検閲は、絶対に禁止です。検閲にあたらなくても、事前に止める規制は、厳しい条件のもとでのみ、許容されうるにとどまります。答えの板を見ます。

解説の回でも分解した一文です。答案で使う形で、この板も区切って読みます。1つ目の区切りは、「表現物がその自由市場に出る前に抑止して、その内容を読者ないし聴視者の側に到達させる途を閉ざし又はその到達を遅らせてその意義を失わせ、公の批判の機会を減少させる」です。出る前に止められた表現は、誰にも見えません。批判の機会そのものが、減ってしまいます。2つ目の区切りは、「事前抑制たることの性質上、予測に基づくものとならざるをえないこと等から、事後制裁の場合よりも広汎にわたり易く、濫用の虞がある」です。まだ世に出ていない表現について、害が出るかを先読みして決めます。外れやすく、広く止めがちになります。3つ目の区切りは、「実際上の抑止的効果が事後制裁の場合より大きい」です。処罰の可能性があるだけで、作り手は、先回りして内容を控えます。そして結論の区切りが、「表現行為に対する事前抑制は、厳格かつ明確な要件のもとにおいてのみ許容されうる」です。要件が厳しく、しかも誰が見ても分かる形で定まっていて、はじめて許されます。検閲のような絶対禁止ではありませんが、簡単には許されません。一点、注意してください。この厳格かつ明確な要件は、審査の物差しの段階、つまり厳格、中間、合理性という段階とは、別の言葉です。混ぜないでください。事前に止める規制では、通常より厳しく見ます。
判例最大判昭和61年6月11日(大法廷)
北方ジャーナル事件(事前抑制の一般論) 「表現行為に対する事前抑制は、新聞、雑誌その他の出版物や放送等の表現物がその自由市場に出る前に抑止してその内容を読者ないし聴視者の側に到達させる途を閉ざし又はその到達を遅らせてその意義を失わせ、公の批判の機会を減少させるものであり、また、事前抑制たることの性質上、予測に基づくものとならざるをえないこと等から事後制裁の場合よりも広汎にわたり易く、濫用の虞があるうえ、実際上の抑止的効果が事後制裁の場合より大きいと考えられるのであつて、表現行為に対する事前抑制は、表現の自由を保障し検閲を禁止する憲法二一条の趣旨に照らし、厳格かつ明確な要件のもとにおいてのみ許容されうるものといわなければならない。」
事前抑制にあたるかは、この判決の理由づけを、本件の事実に当てて判断します。

一つ目、出る前に止めるか。中止命令は、公開予定日の8日前に、作品が県民に届く前に、公開そのものを禁じます。作品は、農業用水をめぐる行政と事業者の対応を問うもので、公の議論に関わります。県民に届く途を閉ざし、公の批判の機会を減らします。二つ目、予測に基づくか。命令は、まだ誰にも見られていない作品について、将来の風評被害のおそれ、という予測で下されます。要件は、おそれがあれば足りますし、申出は何人でもできます。だから、広汎にわたりやすく、濫用の虞があります。三つ目、抑止的効果です。届出と公表を経て、申出と命令に至りうる仕組みは、作り手に、公開前から内容の自己規制を促します。事後に責任を問われる場合より、抑止的効果は大きいといえます。
判例最大判昭和59年12月12日(大法廷)
税関検査事件(事前規制の側面と、事前規制そのものでない理由) 「……これらの点において、税関検査が表現の事前規制たる側面を有することを否定することはできない。」「しかし、これにより輸入が禁止される表現物は、一般に、国外においては既に発表済みのものであつて、その輸入を禁止したからといつて、それは、当該表現物につき、事前に発表そのものを一切禁止するというものではない。また、当該表現物は、輸入が禁止されるだけであつて、税関により没収、廃棄されるわけではないから、発表の機会が全面的に奪われてしまうというわけのものでもない。その意味において、税関検査は、事前規制そのものということはできない。」
比べておくべき判決が、これです。税関検査は、事前規制の側面は否定できないが、事前規制そのものではない、とされました。理由は二つです。輸入が禁止されるのは、国外で既に発表済みの表現物で、発表そのものを一切禁止するわけではない。そして、没収や廃棄はされないので、発表の機会が全面的に奪われるわけでもない。本件は、ここが違います。県内で初めて公開される作品の、公開そのものを禁じます。他の地域での公開や配信が、法的に妨げられないとしても、作品の主たる受け手である県民に届く途が、閉ざされます。したがって、5条は事前抑制にあたります。そして、ここでは、事前抑制一般について、原則として許されない、とは書きません。その言葉は、解説の回で見た、公務員や選挙の候補者への批判を、裁判所が事前に差し止める場面についてのものです。今日の対象は、厳格かつ明確な要件のもとでのみ許容されうる、までです。
事前抑制の審査
図:問い|事前抑制として5条の何をどの順に確かめるか
ここが、今日いちばん厚く書くところです。問いです。事前抑制として、5条の何を、どの順に確かめるでしょうか。少し考えてみてください。目的と要件を見る方向は、そのとおりです。もう一つ、誤って止めないための手続も確かめます。答えを見ます。

答案では、こう置きます。本件の仕組みを、通常より厳しく、三点から検討する。一つ目、目的。事前に止める必要があるかも、この目的の物差しで、最後に確かめます。二つ目、中止命令の要件が、厳格かつ明確に限定されているか。三つ目、誤って止めることを防ぐ手続が、備わっているか。三つ目の手続は、さきほどの二つ目の区切り、予測で決めるので外れやすい、という理由から出てきます。要件の文言をいくら絞っても、当てはめるのは予測なので、外れれば、事実を伝える作品まで止まります。だから、判断の前に作り手の言い分を聴き、理由を示すといった、誤って止めないための手続があるかも、確かめるのです。

一つ目、目的です。5条の目的は、風評被害などから、県民の生活環境を守ることにあります。正当です。ただ、作品の公開を事前に禁ずる以上、それを正当化できるのは、害の発生が具体的に見込まれ、事前に止めなければ防げない場合に限られます。ここを、あとの検討の物差しにします。二つ目、要件の厳格さと、明確さです。5条は、県民の平穏で安全な生活環境を著しく損なうおそれのある内容、と定めるだけです。害の種類も、程度も、発生の蓋然性も、限定していません。作品の内容が事実かどうか、公共の利害に関わるかどうかを、考慮する定めもありません。申出ができる者も、利害関係の有無を問わず、何人でもよい。これでは、おそれという予測だけで、事実を伝える作品も止められます。したがって、要件は、厳格でも明確でもありません。ここで見たのは、事前に止める条件として、絞り込まれ、はっきり定まっているかです。文言が曖昧で、一般の人が何を禁じられているか読み取れないか、という明確性の問題は、明確性を扱った回の物差しで、これとは別に検討します。三つ目、誤って止めることを防ぐ手続です。ここが、いちばん厚く書くところです。事実を、四つ拾います。一つ目、審査の期限の定めがありません。二つ目、審査会が作り手の意見を聴く定めがなく、Aは招かれず、意見を述べる機会がありませんでした。三つ目、命令書の理由は、条文の文言の引き写しで、作品のどの部分が、どのような害を生むのかが、示されていません。作り手は、何を直せば公開できるのかも、分かりません。
四つ目、命令を裁判で争うとしても、命令は公開予定日の8日前に出されます。争っている間に、公開の機会が失われるおそれがあります。以上から、誤って止めることを防ぐ手続の保障を欠きます。ここでいう手続は、行政手続法の聴聞の要件そのものの話には入りません。架空の条例の手続が、事前に止める仕組みとして足りているかを、事実で書く場面です。期限、意見、理由。この三つの欠落を、拾えば足ります。最後に、必要性です。三点とは別の四つ目ではなく、一つ目の目的のところで置いた物差しに、戻って当てます。風評被害が、事実に反する内容から生じるのであれば、公開後に、その内容について責任を問う、事後の手段があります。事前に公開を止めなければ防げない害が、具体的に示されていません。

県の反論を受けます。一つ目。県は、審査会という第三者が審査するので、濫用のおそれはない、と主張するでしょう。審査会は、知事の下に置かれ、知事の判断のために審査する機関です。知事から独立した第三者ではありません。切り返しは、審査会が知事の附属機関で、作り手が反論する機会が、手続として保障されていない点です。慎重さは担保されません。この反論は採れません。二つ目。県は、風評被害は取り返しがつかない、と主張するでしょう。切り返しは、具体的な害の見込みが、要件に書かれておらず、命令書にも示されていない点です。取り返しがつかない、という言葉だけでは、事前に止める理由にはなりません。結論です。5条は、厳格かつ明確な要件のもとにあるとはいえず、21条1項に反します。結論が動く境目を、一つ見ます。5条が、害の種類、程度、蓋然性を具体的に限定し、作り手の意見を聴く手続と、審査の期限を置いていたとします。すると、要件と手続の欠落が埋まって、結論が動く余地が出ます。ただし、目的と必要性の検討は、残ります。
結論

結論です。5条は、検閲にはあたりません。しかし、事前抑制として、21条1項に違反します。違憲とする対象を、選びます。要件の緩さも、手続の欠落も、5条の定めそのものに由来します。Aの事情にかかわらず、同じ仕組みで、他の作り手も止められます。だから、処分違憲に落とさず、5条そのものを違憲とします。法令違憲です。Aに対する中止命令も、根拠を失って、違法になります。
変形

最後に、同じ物差しを、別の仕組みに当てる場面を、型だけ見ます。一つ目、許可制です。全作品が、許可を受けなければ公開できないなら、網羅的、一般的な審査の要素が満たされうるので、検閲該当性が、正面から問題になります。許可基準の曖昧さは、明確性を扱った回の物差しで、別に測ります。二つ目、発表後の規制です。すでに流通している図書を有害と指定するのは、発表前の審査ではないので、検閲にも、事前抑制そのものにも、あたりにくいです。三つ目、事業者への削除命令です。すでに掲載された投稿を削除させるのか、掲載を事前に阻むのか。ここを区別します。掲載を事前に阻むなら、事前抑制として、今日の二段目と同じ物差しで測ります。すでに掲載された投稿の削除なら、発表後の規制です。四つ目、教科書検定です。さきほど見たとおり、一般図書としての発行を妨げないので、発表の禁止の要素で外れます。いずれも、検閲の要素のどれで外れるか、そして、事前に止めるものか、を問う型です。
完成答案
図:完成答案|第1 保障と制約、第2の1 検閲の問題の所在と規範
ここまでを、答案の形にしました。こちらが完成答案です。動画を止めて見てみてください。最初の板は、保障と制約を簡潔に通し、検閲に当たれば正当化の余地がない、という分岐を置く段です。
図:完成答案|第2の3 検閲の要素のうち満たす四つ
満たす四つの要素を、事実を拾って、短く判定する段です。
図:完成答案|第2の3 網羅的一般的な審査、第2の4 結論
今日の本番の前半です。外れる要素を一つ特定し、反対方向の事情にも触れて、事前抑制へ渡す段です。
図:完成答案|第3の1 事前抑制の問題の所在、第3の2 規範と三点の枠組み
検閲でなくても事前抑制として検討する、という切り替えの段です。規範と、答案の三点の置き分けを見てください。
図:完成答案|第3の3 事前抑制にあたること、目的
事前抑制にあたる理由を事実に当て、税関検査との違いを言う段です。
図:完成答案|第3の3 要件と手続と必要性
今日の本番の後半です。要件と手続を厚く書く段です。
図:完成答案|第3の3 県の反論、第3の4 結論、第4 結論
県の反論を切り返し、法令違憲で閉じる段です。ご自身の答案と見比べてみてください。今回は、検閲の要素の一つが外れるかどうかで、絶対禁止かどうかが分かれることを見ました。外れても、事前抑制として、審査は厳しくなります。では、行政ではなく、裁判所が出版を事前に止める場面は、どう書くのでしょうか。
参照条文
- 日本国憲法21条