憲法ゼロから憲法 論文

明確性の原則と合憲限定解釈

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ゼロから憲法 論文/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

設例

事例の時系列|迷惑動画の相次ぐ投稿、400店の調査で来店客が減ったと答えた店は38店、D県が条例を制定、審議で営業妨害に限る修正案が否決され課長がマナー違反全般を含める趣旨と答弁

今日は、表現を規制する条文そのものを、書きぶりだけで無効にできるか。この答案を、最後まで書き切ります。題材は、動画の公開を禁じる条例です。目的が正当に見えても、禁じる範囲の書き方しだいで、守られるべき表現まで巻き込むことがあります。条例の目的の良し悪しを争う話ではありません。条文の書きぶりを、事実で測っていきます。まず事実です。D県内では、飲食店や小売店の店内で、客が食器をなめる、商品を床に投げるといった様子を撮影した動画が、相次いで投稿されました。来店客が減る店も出ました。D県が県内の飲食店と小売店400店に調査したところ、動画の拡散で来店客が減ったと答えた店は、38店でした。D県議会は、D県営業施設迷惑動画防止条例、以下、本件条例を制定しました。架空の条例です。審議では、県議会の委員会に、3条の対象を営業を妨害する行為に限る、という修正案が出されました。けれど、否決されました。県の担当課長は、マナー違反全般を対象に含める趣旨である、と答弁しています。

本件条例の条文|1条は営業施設を安心して利用できる環境を守る目的、2条は営業施設の定義、3条は社会の良識に反する行為を撮影した動画のインターネット上の公開の禁止、4条は30万円以下の罰金

条文を読みます。1条。この条例は、営業施設における秩序を保つことにより、県民が安心して営業施設を利用できる環境を守ることを目的とする。2条。この条例において営業施設とは、飲食店、小売店その他営業の用に供する施設をいう。3条。何人も、営業施設内における社会の良識に反する行為を撮影した動画を、インターネットを通じて公開してはならない。4条。前条の規定に違反した者は、三十万円以下の罰金に処する。

Aの事情|C社のレストランのサラダに虫、取り合わない店員、虫の入ったサラダとやり取りを撮影してSNSに公開、虫もやり取りも事実のとおり、3条違反で起訴

次に、Aの事情です。Aは30歳の会社員です。C社のレストランで注文したサラダに、虫が入っているのを見つけ、店員に申し出ました。店員は、うちでは入るはずがない、と取り合わず、料理代の支払いを求めました。Aは店内で、虫の入ったサラダとこのやり取りを撮影し、C社のレストランでこう対応された、と添えて、自分のSNSに公開しました。虫が入っていたのも、やり取りの内容も、事実のとおりです。D県警はAを3条違反の疑いで捜査し、検察官は、Aを4条により起訴しました。Aは、3条が憲法21条1項に違反し、無効だと主張しています。

事実のとおりでも処罰されうるかどうか。それが、今日の入口です。Aが争うのは、自分の動画が保護されるかどうかではありません。3条という条文の書きぶりそのものです。

関係図|D県のBがAに3条による公開の禁止と4条の罰金、AからC社のCへ動画で対応を公開

関係を図にします。D県がB、動画を公開したのがA、レストランを営む会社がCです。BからAへ、3条による動画の公開の禁止と、4条の罰金。AからCへ、Cの対応を、動画で公開しています。問いは一つです。本件条例3条は、憲法21条1項に違反するか。訴訟の形は刑事事件ですが、罰則を伴う点は、31条の面として一言触れるにとどめます。

骨格

骨格|保障と制約は簡潔に、形式的正当化の中でまず条文の書きぶりを問う文面審査、無効なら目的と手段の審査には入らない

骨格を通します。入口は、何の自由が保障されるか。Aが公開した動画は、事実を他人に伝える表現行為です。

条文日本国憲法21条

憲法第21条 第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。 ② 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

1項が、表現の自由を保障します。動画をインターネットで公開する自由も、一切の表現の自由に含まれます。2項は検閲で、別の論文回で扱います。次は制約です。3条が動画の公開を禁じ、4条が罰金で担保しています。Aの動画を公開する自由の、制約にあたります。保障と制約は、ここまでの簡潔な運びで足ります。ここで復習です。総論の回で見た答案の骨格で、形式的正当化では、何を検討しましたか?法律の根拠と、明確性でした。総論の回では、形の面を確かめるのを形式的正当化、目的と手段を確かめるのを実質的正当化と呼びました。今日は、その形式的正当化の中の、条文の書きぶりを測る部分を、厚く書きます。本件条例は、住民の代表である県議会が制定した条例で、法律の留保は満たします。94条です。ここから先が、今日の本番です。問うのは、条文の書きぶり、文面です。

文面で無効にできれば、Aの動画の当否も、目的と手段の審査にも、入らずに決着するからです。条文そのものを無効にするのが、文面上無効です。条文を残したまま、Aへの適用だけを違憲にする、適用違憲とは、違う道です。実質的正当化の目盛りは、別の回に譲り、今日は文面上無効になるところで閉じます。今日は、三つの段で測ります。一つ目、基準が読み取れるか。二つ目、読めた範囲に、本来規制してはならない表現が含まれていないか。三つ目、読み方を絞って救えるか。救えなければ、文面上無効です。

明確性の原則

問い|社会の良識に反する行為は誰の理解で何ができれば明確といえるか 図:問い|社会の良識に反する行為は誰の理解で何ができれば明確といえるか

一つ目の段です。問いです。3条の、社会の良識に反する行為は、誰の理解で、何ができれば、明確といえるでしょうか。少し考えてみてください。良識は誰にでも分かるものか。その見立てが、答案で試されます。答えを順に見ます。

明確性の原則|萎縮効果を理由に表現を規制する法令は明確でなければならない、通常の判断能力を有する一般人の理解で判断を可能ならしめる基準が読み取れるか、徳島市公安条例事件

上の段に問題提起、真ん中に規範、下にあてはめがあります。真ん中の規範を、区切って読みます。1つ目の区切りは、「表現の自由を規制する法令の文言が不明確であると、規制対象でない表現まで自粛させる萎縮効果を生じさせる」です。規制されるかどうか分からない人は、安全のために、規制されない表現までやめてしまいます。やめた人は、誰にも見えません。事後の個別の救済では、治せないのです。だから、根拠はここに置きます。2つ目の区切りは、「そこで、表現の自由を規制する法令は、その規制内容が明確でなければならない」です。これが明確性の原則です。罰則との関係を、取り違えないでください。罰則は、明確性の要件ではありません。罰則の無い表現規制でも、萎縮効果は生じます。だから、21条1項の面で、明確性は要求されます。罰則があれば、そこに罪刑法定主義、31条の面が加わります。

条文日本国憲法31条

憲法第31条 第三十一条 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。

31条は、刑罰を科す手続を、法律で定めることを求めます。何が処罰されるのかを前もって分かるようにしておく、という要請も、ここから出てきます。本件は4条で罰金を科すので、この面も加わる、と一言添えれば足ります。3つ目の区切りは、「通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的な場合に当該行為がその適用を受けるかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読み取れるか否かによって決する」です。ここが、明確かどうかを分ける言葉です。三つの語を、順に見ます。一つ目は、「通常の判断能力を有する一般人の理解において」。測る主語は、一般人です。実際に動画を公開した本人ではありません。本人を基準にすると、お前は分かっていたはずだ、で、条文がいつも救われてしまうからです。二つ目は、「基準が読み取れるか」。見るのは、文言の字面が抽象的かどうかではありません。条文、趣旨、典型例から、判断の基準を引き出せるかどうかです。抽象的でも、読み取れれば、明確です。三つ目は、「具体的な場合に当該行為が」。一般的な印象ではなく、現実の行為、ここではAの動画が当たるかを、判断できるかを問います。

判例最大判昭和50年9月10日(大法廷)

徳島市公安条例事件(明確性の判断基準) 「……ある刑罰法規があいまい不明確のゆえに憲法三一条に違反するものと認めるべきかどうかは、通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読みとれるかどうかによつてこれを決定すべきである。」

解説の回でも見たこの事件は、刑罰法規が不明確かどうかを、31条の面から測りました。答案では、この物差しを、21条1項の明確性にも使います。

判例最大判昭和50年9月10日(大法廷)

徳島市公安条例事件(基準の読み取り方) 「……本条例三条が、集団行進等を行おうとする者が、集団行進等の秩序を保ち、公共の安寧を保持するために守らなければならない事項の一つとして、その三号に「交通秩序を維持すること」を掲げているのは、道路における集団行進等が一般的に秩序正しく平穏に行われる場合にこれに随伴する交通秩序阻害の程度を超えた、殊更な交通秩序の阻害をもたらすような行為を避止すべきことを命じているものと解されるのである。そして、通常の判断能力を有する一般人が、具体的場合において、自己がしようとする行為が右条項による禁止に触れるものであるかどうかを判断するにあたつては、その行為が秩序正しく平穏に行われる集団行進等に伴う交通秩序の阻害を生ずるにとどまるものか、あるいは殊更な交通秩序の阻害をもたらすようなものであるかを考えることにより、通常その判断にさほどの困難を感じることはないはずであり、……」

読み取り方の手本です。「交通秩序を維持すること」という抽象的な言葉を、条例の趣旨から読みました。集団行進に伴う通常の阻害を超えた、殊更な阻害を避けよ、という意味だ、と。そして、一般人は、自分の行為がそれにあたるかを、考えて判断できる、としました。手本から拾うのは、二つです。一つ目は、抽象的な言葉でも、趣旨から読み取れる場合がある、ということ。二つ目は、読み取れた先に、典型的な行為を思い浮かべられるから、判断に困難がない、ということです。射程も、一言。この判決は、明確だと認めて、条例を無効にしていません。条文の書き方を立法措置として著しく妥当を欠く、と述べつつ、救いました。無効にした判例ではありません。これを、答案では、基準の読み取り方の手本として使います。

明確性のあてはめ|社会の良識に反する行為は評価概念で例示も考慮事情もない、1条は目的を一般的に述べるだけ、2条は営業施設の定義だけ、営業妨害に限る修正案の否決と課長の答弁、虫の混入か店員の対応か撮影そのものかが判然としない

あてはめです。順に事実を拾います。一つ目、文言そのものです。社会の良識に反する行為は、評価を含む概念です。何があたるかは、人や世代、場面によって幅があります。そして3条は、考慮すべき事情も、典型的な行為の例示も、置いていません。二つ目、基準を読み取る手がかりを、探します。1条は、安心して利用できる環境を守る、という目的を一般的に述べるだけで、行為の範囲を絞りません。2条は、営業施設を定義するだけで、社会の良識に反する行為には触れません。しかも審議では、営業を妨害する行為に限る修正案が否決され、課長は、マナー違反全般を含める趣旨だと答弁しています。審議の経緯そのものは、一般人が目にするものではありません。けれど、1条の目的を狭く読む余地が無いことを、裏づけます。絞り込む基準は、読み取れません。

Aの動画への当てはめは、三つ目です。虫が入っていたこと、取り合わない店員の対応、撮影そのもの。どれが、社会の良識に反する行為として撮影したものにあたるのか、判然としません。通常の判断能力を有する一般人は、自分の公開しようとする動画が3条の適用を受けるかどうか、判断できません。

反論と再反論|県の反論は社会通念で判断できる、再反論は徳島市の条項は趣旨から殊更な阻害と読み取れ典型例も思い浮かんだが3条には社会通念に形を与える手がかりがない

県は、こう反論するでしょう。社会の良識は社会通念で定まるから、判断できる。切り返しは、徳島市の手本との比較です。あの条項は、集団行進を前もって届け出させる届出制の下で、通常の阻害は許し、殊更な阻害を避けよ、と趣旨から読み取れました。典型的な行為も、思い浮かびました。3条には、そのように、社会通念に具体的な形を与える手がかりが、見当たりません。だから、この反論は採れません。結論です。3条は、基準が読み取れず、明確性の原則に反します。

過度の広汎性

問い|仮に3条が明確だとしてもまだ無効といえるか 図:問い|仮に3条が明確だとしてもまだ無効といえるか

二つ目の段です。問いです。仮に3条が明確だとして、まだ、無効といえるでしょうか。少し考えてみてください。大丈夫とは、限りません。読み取れることと、範囲が適切なことは、別の軸です。

明確性と過度の広汎性の対比|明確性は基準が読み取れるかという文言の問題、過度の広汎性は読めた範囲に保護される表現が含まれるかという範囲の問題、Aの動画での現れ方

対比します。明確性は、基準が読み取れるか、という文言の問題です。過度の広汎性は、読めた範囲に、本来規制してはならない表現が含まれていないか、という範囲の問題です。たとえば、危険なものは持ち込み禁止、とだけ書いた貼り紙は、文言が不明確です。他方、刃物はすべて持ち込み禁止、とはっきり書いてあっても、料理人の包丁まで含めてしまえば、範囲が広すぎます。文言が明確でも、範囲が広すぎることはあります。実際には、同時に起きやすい欠陥です。けれど、答案では、分けて書きます。範囲の広さと聞くと、目的と手段の審査の話に見えるかもしれません。けれど、問うのは条文がどこまでを禁じているかです。答案では、明確性と同じく、書きぶりの段で書きます。

過度の広汎性|本来規制してはならない表現行為まで対象に含むと憲法上保護に値する表現行為をしようとする者を萎縮させる、過度に広汎な規制は文面上無効

この板も、区切って読みます。1つ目の区切りは、「表現の自由を規制する法令が、本来規制してはならない表現行為までその対象に含んでいると」です。問うのは、文言の読みやすさではなく、規制の範囲です。2つ目の区切りは、「憲法上保護に値する表現行為をしようとする者までも萎縮させ、表現の自由を不当に制限する」です。憲法上保護に値する、というのは、規制してよい表現とそうでない表現を、中身で分けるための言葉です。Aの動画のような、事実を伝える告発は、保護に値する側です。3つ目の区切りは、「過度に広汎な規制は、文面上無効と解する」です。広すぎる部分だけでなく、条文ごと無効にします。部分的に救う道は、次の段の限定解釈です。なぜ条文ごとか。広すぎる部分を、事件のたびに裁判所が切り分けるのでは、それまでの間、どこまでが許されるのか誰にも分からず、萎縮が続くからです。そして、問うのは条文の書きぶりなので、Aは、自分の動画の当否とは別に、他の人の表現が萎縮することを理由に、3条の無効を主張できます。

過度の広汎性のあてはめ|3条は撮影した者と公開の目的と内容の真実性を問わず一律に禁止、含まれる動画は悪質な迷惑行為の動画と事実のとおり注意を促す動画と報道、前者は規制し得る、後二者は保護に値する

あてはめです。3条は、撮影した者も、公開の目的も、内容が真実かどうかも、問いません。営業施設内の、社会の良識に反する行為を撮影した動画の公開を、一律に禁じます。規制の対象に入る動画を、類型で挙げます。一つ目は、悪質な迷惑行為を、見せ物のように公開する動画。これは規制し得ます。二つ目は、営業施設の不適切な対応を事実のとおり伝え、消費者や社会に注意を促す動画です。Aの動画が、ここです。三つ目は、報道機関による報道です。後の二つは、消費者が情報を共有し、営業施設のあり方を社会が論じるための表現です。憲法上保護に値します。3条が防ごうとする被害は、一つ目から生じるもので、後の二つを禁じる必要は乏しいです。ところが3条は、これらを区別せず、一律に禁じています。結論です。3条は、本来規制してはならない表現行為までその対象に含んでおり、過度に広汎です。ちなみに、次の段で見る税関検査の判決も、基準の広汎や不明確のために、規制が本来許されるべき表現にまで及ぶことがないよう、配慮が必要だ、と述べています。判決は、不明確と広汎を、一体で扱います。答案では、書き分けます。

合憲限定解釈

問い|3条を営業を妨害する行為を撮影した動画と読めば救えるか、救えるのはどんなときか

三つ目の段です。ここが、今日いちばん厚く書くところです。問いです。3条を、営業を妨害する行為を撮影した動画、と読めば、救えるでしょうか。救えるとしたら、どんなときでしょう。少し考えてみてください。裁判所が自由に書き換えられるなら、条文の意味を、裁判所が決めてしまいます。だから、限定解釈には、歯止めが要ります。解説の回で見たとおり、合憲限定解釈とは、言葉どおりに読むと違憲になりかねない、幅広い法文の意味を絞り込むことで、違憲になる余地を消し、法令の効力を救済する解釈です。この段で、前の二つの欠陥が、読み直しで消せるかを見ます。

合憲限定解釈が許される場合|規制の対象となるものとそうでないものが明確に区別され、合憲的に規制し得るもののみが対象と明らかにされ、一般国民の理解で基準を規定から読みとれる場合に限る、税関検査事件

この板も、区切って読みます。1つ目の区切りは、「規制の対象となるものとそうでないものとが明確に区別され」です。絞ったあとの線が、引けること。線がぼやけるなら、絞る意味がありません。2つ目の区切りは、「合憲的に規制し得るもののみが規制の対象となることが明らかにされ」です。絞った結果、残る範囲が、合憲に規制できるものだけになること。1つ目と2つ目は、かつ、でつながる一つの要件の、前半と後半です。この後半は、絞った範囲を禁じてよいかの審査、つまり実質的正当化につながります。3つ目の区切りは、「一般国民の理解において、具体的場合に当該表現物が規制の対象となるかどうかの判断を可能ならしめるような基準をその規定から読みとることができる」です。限定した読み方を、一般の人が条文から読みとれること。裁判所が理屈で絞れても、一般の人にそう読めないなら、救えません。ここで、限定の根拠は、条文の外の思いつきではありません。規定の文言、その目的、関連する法令に求めます。さっきの、刃物はすべて持ち込み禁止、の貼り紙でいえば、料理人の包丁は除く、と読み直せるのは、同じ建物の規約に、調理の道具は別に定める、と書いてあるときです。そういう材料が無いのに、読む側が書き換えることはできません。最後の一文は、答案の結論です。この場合にあたらないときは、その規定は文面上無効と解します。

判例最大判昭和59年12月12日(大法廷)

税関検査事件(限定解釈の要件と理由) 「……表現の自由を規制する法律の規定について限定解釈をすることが許されるのは、その解釈により、規制の対象となるものとそうでないものとが明確に区別され、かつ、合憲的に規制し得るもののみが規制の対象となることが明らかにされる場合でなければならず、また、一般国民の理解において、具体的場合に当該表現物が規制の対象となるかどうかの判断を可能ならしめるような基準をその規定から読みとることができるものでなければならない……。けだし、かかる制約を付さないとすれば、規制の基準が不明確であるかあるいは広汎に失するため、表現の自由が不当に制限されることとなるばかりでなく、国民がその規定の適用を恐れて本来自由に行い得る表現行為までも差し控えるという効果を生むこととなるからである。」

この判決は、表現の自由を規制する規定の、限定解釈の要件を述べています。理由も、はっきりしています。歯止めを付けないと、基準が不明確か広汎に失して、表現の自由が不当に制限されるからです。

判例最大判昭和59年12月12日(大法廷)

税関検査事件(限定できた理由) 「……「風俗を害すべき書籍、図画」等というときは、性的風俗を害すべきもの、すなわち猥褻な書籍、図画等を意味するものと解することができるのであつて、この間の消息は、旧刑法……が「風俗ヲ害スル罪」の章の中に書籍、図画等の表現物に関する罪として猥褻物公然陳列と同販売の罪のみを規定し、また、現行刑法上、表現物で風俗を害すべきものとして規制の対象とされるのは一七五条の猥褻文書、図画等のみであることによつても窺うことができるのである。……猥褻性の概念は刑法一七五条の規定の解釈に関する判例の蓄積により明確化されており、規制の対象となるものとそうでないものとの区別の基準につき、明確性の要請に欠けるところはなく、……憲法上保護に値する表現行為をしようとする者を萎縮させ、表現の自由を不当に制限する結果を招来するおそれのないものということができる。」

限定できた理由の手本です。風俗を害すべき書籍、という広い言葉を、性的風俗を害するもの、つまり猥褻なものに絞りました。根拠は、刑法の沿革と、判例の蓄積です。つまり、絞る手がかりは、その条文の中だけでなく、関連する法令にも、ありうるのです。手がかりの型を、他の判決も並べて整理します。

限定の手がかりの型|税関検査は刑法の沿革と判例の蓄積、福岡県は規定の趣旨と文理、広島市は目的規定と他の規定と施行規則の総合、本件は手がかりがなく立法の経緯は限定を拒む方向

税関検査は、刑法の沿革と、判例の蓄積でした。

判例最大判昭和60年10月23日(大法廷)

福岡県青少年保護育成条例事件(規定の文理による限定) 「……また、前記「淫行」を目して単に反倫理的あるいは不純な性行為と解するのでは、犯罪の構成要件として不明確であるとの批判を免れないのであつて、前記の規定の文理から合理的に導き出され得る解釈の範囲内で、前叙のように限定して解するのを相当とする。」

福岡県の条例の事件です。淫行という言葉を限定して読みました。限定の根拠は、規定の趣旨と文理、つまり条文の言葉の並びから、合理的に導き出され得る範囲、でした。これも、31条の事件です。限定の根拠の拾い方だけを見ます。

判例最判平成19年9月18日(第三小法廷)

広島市暴走族追放条例事件(条例全体の趣旨と施行規則による限定) 「……なるほど、本条例は、暴走族の定義において社会通念上の暴走族以外の集団が含まれる文言となっていること、禁止行為の対象及び市長の中止・退去命令の対象も社会通念上の暴走族以外の者の行為にも及ぶ文言となっていることなど、規定の仕方が適切ではなく、本条例がその文言どおりに適用されることになると、規制の対象が広範囲に及び、憲法21条1項及び31条との関係で問題があることは所論のとおりである。しかし、……このような本条例の全体から読み取ることができる趣旨、さらには本条例施行規則の規定等を総合すれば、本条例が規制の対象としている「暴走族」は、本条例2条7号の定義にもかかわらず、暴走行為を目的として結成された集団である本来的な意味における暴走族の外には、服装、旗、言動などにおいてこのような暴走族に類似し社会通念上これと同視することができる集団に限られるものと解され、……」

解説の回でも見た広島市の条例の事件は、21条1項と31条の事件です。文言どおりなら範囲が広すぎると認めたうえで、条例全体から読み取れる趣旨と、条例を実施するための細かな決まりである、施行規則の規定などを総合して、本来的な意味の暴走族とそれに類する集団に限りました。目的規定、他の規定、施行規則を、材料にしています。ただ、この二つの判決には、反対意見がついています。福岡県では裁判官3名、広島市では2名です。限定が可能かどうか自体が、争われたのです。限定解釈は、簡単に認められるものではありません。

限定解釈のあてはめ|営業を妨害する行為に限る読み方は3条の文言から導けない、1条と2条に手がかりがない、修正案の否決と課長の答弁は限定を採らなかったことを示す、業務妨害罪とは結びついていない、一般国民は文言から限定を読みとれない

あてはめです。まず、絞れるか。営業を妨害する行為に限る、という読み方を、3条の文言から導けるか。3条の文言は、社会の良識に反する行為です。営業の妨害という限定を読み込む根拠は、条文の中にありません。1条にも2条にも、手がかりはありません。むしろ、審議の経緯が、限定を排除しています。営業を妨害する行為に限る修正案が否決され、課長が、マナー違反全般を含める趣旨だと答弁しました。刑法には、233条と234条の業務妨害罪があり、営業の妨害にあたる行為を、一定の範囲で画しています。けれど、3条は、これと結びつけて定められていません。税関検査の刑法のように、条文の背後にある関連法令が、3条の読み方を支えているとは、いえません。限定する読み方を支える材料が無ければ、どこに線を引くかが決まりません。したがって、限定したあとに、規制の対象となるものとそうでないものとが明確に区別されるとは、いえません。1つ目の要件の前半で止まります。後半の、合憲的に規制し得るもののみか、には、進めません。次に、3つ目の区切りの、一般国民の理解です。仮に営業を妨害する行為に限ると読んでも、社会の良識に反する行為という文言から、そのような限定を一般国民が読みとることは、期待できません。条文を読む人は、自分の動画が規制の対象かどうかを判断する基準を、条文から得られないのです。結論です。3条に、規制の対象を絞り込む合憲限定解釈を施すことは、できません。

事実を1か所変える|1条が刑法の業務妨害罪にあたる悪質な行為を撮影した動画の拡散から営業を守ると書き4条の前にも前提の規定があれば限定の手がかりが出る、要件の前半は通りうる、後半は目的と手段の審査へつながる

結論が動く境目を、一つ見ます。事実を一か所だけ変えます。1条が、刑法の業務妨害罪にあたるような悪質な行為を撮影した動画の拡散から営業を守る、と書いていたとします。さらに、4条の前に、営業を妨害する行為を撮影した動画については、店が県に削除の働きかけを求めることができる、という規定があったとします。すると、3条を、営業妨害にあたる行為に限る読み方に、手がかりが出てきます。条例の他の規定が、営業の妨害を前提に組まれていると読めるからです。広島市の、目的規定を材料にした場面に近づきます。要件の前半は、通りうるのです。後半の、絞った範囲を禁じてよいか、は、目的と手段の審査、つまり実質的正当化と接続します。手がかりの有無で、結論が動きます。位置づけも、確認します。限定解釈を検討するのは、不明確や広汎という欠陥を認めたあとに、その欠陥が、条文の読み直しで消せるかを見るためです。消せなければ、文面上無効です。

違憲とする対象

結論の鎖|明確か、広すぎないか、読み方を絞れるか、絞れなければ文面上無効で法令違憲、実質的正当化には入らない

結論です。鎖を、通して確認します。3条は、明確性の原則に反します。かつ、過度に広汎です。そして、合憲限定解釈でも救えません。だから、文面上無効です。違憲とする対象を、選びます。総論の回で見たとおり、違憲とする対象には、法令そのものを違憲とする法令違憲と、法令を残したまま、処分や適用だけを違憲とする処分違憲、適用違憲があります。本件の欠陥は、条文の書きぶりにあります。Aの動画に当てはめる以前の問題なので、適用違憲に落とさず、3条そのものを無効にします。法令違憲です。Aは3条で処罰されません。そして、実質的正当化には入りません。Aの動画が保護されるか、3条が目的と手段の面で正当化されるかは、検討するまでもなく、決着するのです。

変形

同じ物差しを別の文言へ|表現規制でない刑罰法規は31条で明確性を問う、許可や指定や命令の基準が曖昧なときも基準の文言と趣旨と考慮要素から手がかりを探す

最後に、同じ物差しを、別の文言に当てる場面を二つ見ます。一つ目。表現の規制ではない刑罰法規は、31条で明確性を問います。徳島市と福岡県の事件も、31条で明確性を判断しました。基準は同じです。通常の判断能力を有する一般人の理解において、基準が読み取れるか、です。二つ目は、許可や指定の基準が曖昧な場合です。許可の基準、指定の基準、命令の基準が曖昧なとき、物差しは同じです。許可の基準なら、申請する人が、自分の申請が通るかを、基準から予測できるかを問います。たとえば3条が、社会の良識に反しない動画に限って公開を許可する、という形だったとしても、申請する人には、通るかどうかが読めません。基準を読み取る手がかりを、基準の文言、条例の趣旨、考慮要素から探します。許可制そのものが、検閲や事前抑制にあたるかは、別に検討します。

完成答案

完成答案|第1 保障と制約、第2 形式的正当化の入口 図:完成答案|第1 保障と制約、第2 形式的正当化の入口

ここまでを、答案の形にしました。こちらが完成答案です。動画を止めて見てみてください。最初の板は、保障と制約を簡潔に通し、形式的正当化の入口で、文面を先に問うと置く段です。

完成答案|第2の1 明確性の原則、問題の所在と規範 図:完成答案|第2の1 明確性の原則、問題の所在と規範

根拠と、一般人の理解で測る規範の段です。罰則があれば31条の面も加わる、という置き方を見てください。

完成答案|第2の1 明確性の原則、あてはめと結論 図:完成答案|第2の1 明確性の原則、あてはめと結論

今日の本番の前半です。基準を読み取る手がかりを探して、無いと言い切る段と、県の反論への切り返しを見てください。

完成答案|第2の2 過度の広汎性 図:完成答案|第2の2 過度の広汎性

明確性とは別の軸で書く段です。規制の範囲に含まれる表現を、類型で挙げる運びを見てください。

完成答案|第2の3 合憲限定解釈の可否、規範とあてはめ 図:完成答案|第2の3 合憲限定解釈の可否、規範とあてはめ

今日の本番の後半です。限定する読み方を支える手がかりが無いと言い切る段です。

完成答案|第2の3 一般国民の理解、第3 結論 図:完成答案|第2の3 一般国民の理解、第3 結論

一般国民が条文から限定を読みとれるかを確かめ、文面上無効、法令違憲で閉じる段です。ご自身の答案と見比べてみてください。今回は、条文の書きぶりを、明確か、広すぎないか、絞れるか、の順に測りました。絞れなければ、文面上無効です。では、許可制そのものが、検閲や事前抑制にあたるかは、どう検討するのでしょうか。

参照条文

  • 日本国憲法21条
  • 日本国憲法31条

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