憲法ゼロから憲法 論文

内容中立規制(前編)

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ゼロから憲法 論文/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

設例

事例の時系列|福祉センターの廃止計画、自動音声の電話、条例の制定、起訴まで 図:事例の時系列|福祉センターの廃止計画、自動音声の電話、条例の制定、起訴まで

今日は、1つの事例を、答案として最後まで書き切ります。地区の施設の廃止に反対する住民団体の代表が、電話での呼びかけで罰金を科されそうになる。この条例は憲法に違反しないか、という事例です。電話の呼びかけで、罰金ですか。まず事例です。W市は、北部地区にある市立の地区福祉センターを廃止する計画を決めて、住民への公聴会を来月開くと公表しました。北部地区は約5000世帯で、世帯主の約4割が65歳以上です。高齢の住民は、健康教室や食事会、相談の場として、このセンターに頼っています。住民団体の代表Aは、廃止に反対しています。会員は12人、年間の活動費は約30万円です。Aは、センター廃止の問題点と公聴会の日時を知らせるため、録音した音声を自動で流す電話を、地区の固定電話と携帯電話に一斉にかけてきました。時間帯は昼間の午前10時から午後5時。1回の録音は約30秒で、1回に約5000件です。内容は、「センター廃止は撤回を。公聴会は○月○日です。ご参加ください。」という趣旨です。

ここで、条例が作られます。制定前の1年間に、市へ寄せられた自動音声の電話の苦情は36件でした。内訳は、商品の売り込みや投資の勧誘が28件、政治や社会運動の呼びかけが8件で、そのうち3件がAの団体です。苦情の中身は、承諾していないのに突然かかってくること、出たら録音だったこと、早朝や深夜にもかかることで、呼びかけの主張の中身に触れたものはありません。

設例の条文|W市迷惑電話防止条例の1条、3条、7条と施行後の中止要請の内訳(架空の条例) 図:設例の条文|W市迷惑電話防止条例の1条、3条、7条と施行後の中止要請の内訳

W市議会が制定したのは、迷惑電話防止条例です。設例のために作った、架空の条例です。提案した議員は、提案理由の説明で、「センターの廃止をめぐり、特定の団体による電話が続いたことが、条例案を急ぐ契機になった」と述べました。板の条文を見てください。1条は、市民の私生活の平穏と、電話の円滑な利用を保持することを、目的に掲げます。3条は、あらかじめ承諾を得ていない者に対して、自動音声装置を用いて電話をかけ、音声を流してはならない、と定めます。7条は、3条に違反した者を、10万円以下の罰金に処する、と定めます。施行後の半年間に、市が3条違反として出した中止要請は15件です。商品の売り込みや勧誘が12件、政治や社会運動が3件で、そのうち1件がAです。

関係図|W市Bが3条でAの電話を禁じて起訴し、Aは住民Cに電話で呼びかける 図:関係図|W市Bが3条でAの電話を禁じて起訴し、Aは住民Cに電話で呼びかける

関係を図にします。W市がB、電話を受けた住民がCです。Bが3条でAの電話を禁じて起訴する。AがCに電話で呼びかける。この2本の線が、今日の登場人物のすべてです。条例の施行後、Aは、公聴会の2週間前に、承諾を得ないまま、従来と同じ録音を約5000件にかけました。市の職員が中止を求めても従わず、検察官は3条違反でAを起訴しました。Aが同じ住民に伝える、ほかの方法はあります。郵送は1回で約40万円、印刷費と切手代です。会員12人での戸別訪問は、公聴会までに5000世帯を回りきれません。回覧板は、自治会員、加入率にして約3割にしか載りません。インターネットは、高齢の世帯に届きにくいです。市は、「条例は、電話という方法を規制するにすぎない」と主張しています。Aは、3条が憲法に違反すると主張しました。問いは1つです。条例3条は、憲法に違反するか。

入口と制約と形式的正当化

答案の進め方|入口、制約、形式的正当化は短く通し、この類型に固有の分かれ目を厚く書く

答案の骨格は、総論の回の型どおりです。入口、制約、形式的正当化は短く通して、この類型に固有の分かれ目に時間を使います。入口です。Aの具体的自由は、承諾を得ていない住民に、自動音声の電話で、センターの廃止に反対する意見と公聴会の日時を伝える自由です。

条文日本国憲法21条1項

集会・結社・表現の自由 第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

録音した音声を電話で流すのは、意見や事実を他の人に伝える行為です。「その他一切の表現」に入りますから、入口は通過です。制約です。3条と、罰金を定める7条がありますが、制約の本体は、電話で意見を伝える行為そのものを区切る3条です。罰金で担保されてもいますから、直接的かつ強度な制約にあたります。形式的正当化です。表現を罰で止めるなら、住民の代表が決めたルールで、しかも何が禁じられるかが読み取れなければなりません。読み取れなければ、人は許された表現まで控えてしまいます。3条は、住民の代表である市議会が定めた条例で、法律の留保を満たします。憲法94条が、地方公共団体の条例制定を認めています。「自動音声装置を用いて」「あらかじめ承諾を得ていない者」という文言から、何が禁じられるかは明らかです。明確性も欠きません。

この事例の分かれ目は、ここから先です。規制が表現の何に着目しているか。なぜ審査を緩めるのか、それでもなぜ緩めすぎないのか。そのうえで、目的と手段をどう当てるか。この順に書いていきます。

内容規制か内容中立規制か

振り分け|禁止するかどうかを、何で決めているか、方法の規制と言えるか(問い) 図:振り分け|禁止するかどうかを、何で決めているか、方法の規制と言えるか(問い)

最初の分かれ目は、この規制が、表現の何に着目しているか、です。市は、電話という方法の規制にすぎない、と言っています。一方で、提案した議員は、特定の団体による電話が続いたことが契機だ、と言いました。問いです。この条例は、電話を禁止するかどうかを、何で決めているでしょう。そして、方法の規制と言えるでしょうか。板には、見る観点だけを並べました。少し考えてみてください。

振り分け|承諾の有無と自動音声という方法で区切る、契機の発言は主張の中身を理由にしていない、よって表現内容中立規制(答え)

条文から見ます。3条が禁じるかどうかを決めているのは、相手の承諾の有無と、自動音声装置という方法です。商品の売り込みでも、政策への意見でも、賛成でも反対でも、承諾のない自動音声の電話なら、同じに禁じられます。主張の中身を問う文言は、どこにもありません。団体の電話が契機と聞くと、その団体の主張を狙った規制に見えてきて、ここは一度迷うところです。ただ、契機の発言は、電話が続いた事実を説明したものです。その団体の主張の中身を、禁止の理由にしたとは言っていません。決め手になるのは、現実に何が起きているかです。解説の回で見たとおり、法文の形ではなく、現実の働きを見ます。条例の制定前の苦情36件は、28件が売り込みや勧誘で、苦情の中身は、承諾のない着信と時間帯でした。主張の中身に触れた苦情は、ありません。施行後の中止要請15件も、12件は営業の売り込みです。特定の主張だけを市場から締め出す働きは、見当たりません。

逆に、中立の形をしていれば必ず中立、とも言えません。形だけ中立で、実は特定の主張を狙う事情があれば、内容規制に戻します。たとえば、苦情の多くが廃止反対の主張そのものへの反発で、中止要請もAの団体の電話にばかり出ていたなら、内容規制に戻して、厳格に審査します。条文と運用と苦情の中身を見て決める、というのが答案での書き方です。結論です。条例3条は、表現の内容に着目せず、時・場所・方法を区切る規制で、表現内容中立規制にあたります。前の論文の回の復習です。内容規制を厳しく見る理由は、何でしたか?政府が特定のメッセージを思想の自由市場から排除して、その市場をゆがめるから、でした。今回は、その反対側を書きます。

緩める理由と下げない理由

緩める理由と下げない理由|内容規制ほど厳しくしない理由は何か、それでも合理性の基準まで下げない理由は何か(問い)

内容中立規制と決めたら、答案に、理由を二文で書きます。1つ目は、内容規制ほど厳しくしない理由。2つ目は、それでも、目的が正当で、手段に一応のつながりがあれば足りる、いちばん緩い合理性の基準まで下げない理由です。問いです。それぞれの理由は何でしょう。少し考えてみてください。

緩める理由と下げない理由|思想の自由市場を直接ゆがめないから厳格審査は不要、表現の機会が失われるから合理性の基準でもない、よって中間審査基準(答え)

1つ目です。内容中立規制は、表現の内容そのものを理由とするものではありません。ですから、思想の自由市場を直接ゆがめるものではない。内容規制のように、厳格に審査する必要はありません。解説の回で見たとおり、時・場所・方法を区切るだけなら、ほかの時・場所・方法で意見を出す余地が残り、意見が出回って選ばれる場、つまり思想の自由市場から、締め出されはしません。ただ、その余地が本当に残っているかは、事案ごとに違います。そこは、手段が過度でないかのところで、事実から確かめます。2つ目です。表現の自由は、自己実現と自己統治に資する重要な権利です。内容中立規制であっても、表現の機会が失われることに変わりはありません。ですから、合理性の基準まで下げることもできません。

両方書くのがこの類型の答案です。しかも、2つ目は、本件の事実で支えます。Aの電話は、市の福祉施設の存廃という公共の政策への意見を住民に伝えるものです。選挙や政策への意見で政治に関わる、自己統治に資します。違反には罰金が科され、受け手に届く機会も失われます。ここから、基準が決まります。規制の目的が重要であって、かつ、その目的を達成する手段が効果的で、過度でない場合に限り合憲、という基準です。中間審査基準です。総論の回で、目的が十分に重要、手段が目的と実質的関連性、と言った基準と、中身は同じです。答案では、目的が重要か、手段が効果的か、過度でないか、と書きます。

規範と答案の型|表現内容中立規制の審査(内容中立か、緩める理由と下げない理由、中間審査基準) 図:規範と答案の型|表現内容中立規制の審査

ここまでの流れを、一枚にまとめます。承諾の有無と方法で区切るから内容中立、思想の自由市場は直接ゆがめないが表現の機会は失われる、だから中間審査基準。この基準に、事実を当てていきます。中間審査基準が見るのは、目的と手段の2つです。目的が重要か。手段が効果的で、しかも過度でないか。過度でないかを見る材料は、2つあります。同じ相手に届くほかの時・場所・方法が残っているか。そして、より制限的でない他の手段があるか。次から、事実で拾います。

中間審査のあてはめ(目的)

目的|条例1条の私生活の平穏と電話の円滑な利用は、重要な目的か(問い) 図:目的|条例1条の私生活の平穏と電話の円滑な利用は、重要な目的か(問い)

ここからが、今日の本番です。いちばん厚く書くところです。まず目的です。条例1条の目的は、2つありました。市民の私生活の平穏の保持と、電話の円滑な利用の保持です。それぞれ、重要と言えるでしょうか。拾える事実を、板に並べました。少し考えてみてください。

目的|私生活の平穏は苦情36件と早朝深夜の着信で重要、電話の円滑な利用は回線混雑の事実がなく重みなし(答え)

1つ目の、私生活の平穏です。承諾のない着信は、受け手の時間と平穏を奪います。早朝や深夜の着信は、睡眠も妨げます。実際に、苦情が1年間で36件寄せられています。重要な目的です。2つ目の、電話の円滑な利用です。回線が混み合って、電話が使えなくなったという事実は、設例にありません。この目的は、目的の重要性を支える重みを持ちません。2つ目は、書かなくていいですか。書きます。ただし、重みは小さいと書きます。事実が無いのに、目的として大きく取り上げると、答案が事実から離れてしまうからです。小括です。3条の目的は、私生活の平穏の保持という、重要なものです。手段に進む前に、総論の回の復習です。手段の審査で、より制限的でない他の手段があれば、どう判断するのでしたか?

そちらを使うべきだったとして、手段と目的のつながりは認められない、でした。中身は同じで、今日の基準では、それを、手段が過度だ、と書きます。まず、効果から見ます。

中間審査のあてはめ(手段)

手段の効果|承諾のない自動音声を禁じれば、苦情の大半を占める売り込みと勧誘の着信は減る

承諾のない自動音声の発信を禁じれば、苦情の大半を占める売り込みや勧誘の着信は、減ります。3条は、効果的です。次が、過度でないか、です。ここで、答案が分かれます。

手段|Aが同じ相手に、同じ時期に、同じ費用で伝える、ほかの方法は残っているか(問い) 図:手段|Aが同じ相手に、同じ時期に、同じ費用で伝える、ほかの方法は残っているか

問いです。Aが、同じ相手に、同じ時期に、同じ費用で伝える、ほかの方法は、残っているでしょうか。板に、4つの方法を並べました。少し考えてみてください。

手段|郵送は費用超過、戸別訪問は間に合わず、回覧板は3割、ネットは届きにくい、代替手段は残らない(答え)

他の時・場所・方法で表現できる余地を、代替的な伝達手段と言います。1つずつ、同じ相手、同じ時期、同じ費用で見ます。伝えたい相手は、北部地区の約5000世帯の住民です。伝えたい時期は、公聴会の前です。郵送は、1回で約40万円かかります。年間の活動費が約30万円ですから、費用が超えます。戸別訪問は、会員12人で5000世帯を、公聴会までに回りきれません。回覧板は、自治会員にしか載りません。インターネットは、世帯主の約4割が65歳以上の地区では、届きにくいです。答案に、ほかの方法がある、と書くだけでは足りません。ほかの方法が、名前としてあるだけではだめなのです。同じ相手に、同じ時期に、同じ費用で届くかを、事実から拾います。本件では、そのどれも満たしません。3条は、Aの表現の機会を、ほぼ奪っています。もう1つの材料が、より制限的でない他の手段です。

手段|早朝深夜の発信の禁止、名乗りと受信拒否の窓口、拒否した相手への再発信の禁止、既存の法令、3条より軽い(答え)

私生活の平穏を守るなら、3つで足ります。早朝と深夜の発信の禁止。発信者の名乗りと、受信を拒否する窓口の義務づけ。拒否を申し出た相手への、再発信の禁止です。売り込みの不当な部分は、電話での勧誘を取り締まる、特定商取引法などの既存の法令で対処できます。Aの録音は、昼間の約30秒です。受け手が切れば、負担は小さいです。確かに、最初の1回の負担は残ります。けれど、録音は約30秒で、受け手は切れます。拒否を受けたら止める仕組みがあれば、続く負担は防げます。承諾のない着信を、例外なく罰金で禁じるところまでは、要りません。あてはめです。3条は、営利か非営利か、公共の政策への意見か、昼間か夜間か、拒否の申出があったかを問わず、一律に罰金で禁じています。これらの軽い手段で目的は達成でき、他方で、Aには代替的な伝達手段がほとんど残っていません。ですから、3条は、手段が過度です。

結論と違憲の対象

結論|条例3条は21条1項に反し違憲、違憲とする対象は条例3条そのもの 図:結論|条例3条は21条1項に反し違憲、違憲とする対象は条例3条そのもの

結論です。条例3条は、憲法21条1項に反し、違憲です。違憲とする対象は、総論の回で見たとおり、2つから選びます。3条そのものか、Aへの適用だけか。総論の回の大祭の事例では、法律に軽い措置を選ぶ余地があったので、最も重い措置を選んだ命令だけが違憲でした。3条は、承諾のない自動音声の電話を、例外なく一律に禁じる規定です。軽い措置を選ぶ余地がありません。どう当てても同じ禁止になりますから、運用の問題ではなく、条例3条そのものが違憲です。

間接的・付随的規制

短い事例|W市屋外火気規制条例の1条、3条、5条、火災12件、指導30件、Dのキャンドル(架空の条例)

ここまでの3条は、電話で意見を伝える行為そのものを区切る規制でした。表現に向いた規制です。では、火災の防止のように、別の目的の規制が、行為を通じて表現に及ぶときは、どう審査するのでしょうか。短い事例で見ます。W市には、屋外火気規制条例があります。これも、設例のための架空の条例です。1条は、屋外における火災を防止し、市民の生命と財産を守ることを、目的に掲げます。3条は、何人も、屋外において、裸火を用いてはならない、と定めます。ただし、調理など、市長が定める生活上必要な用途は除きます。5条は、3条に違反した者を、5万円以下の罰金に処する、と定めます。過去3年間に、屋外の火が原因の火災が12件あり、原因は、落ち葉焼き、花火、たき火でした。施行後の1年間に、市が3条違反として出した中止の指導は30件です。廃材と落ち葉の焼却が21件、花火が6件、意見を示すためにキャンドルを灯したものが3件でした。図書館の廃止に反対する市民Dは、支援者の空き地に、図書館の形に並べたキャンドル約200本を灯し、「図書館を残して」と記した横断幕を掲げました。消防が火を消し、検察官はDを3条違反で起訴しました。問いは、火気条例3条は、どの基準で審査するか、です。

解説の回で見たとおり、言葉によらず、行動で主張を外に出すのが、象徴的言論です。意見を表明するために行われ、受け手もそう理解している場合は、「その他一切の表現」に入ります。Dの行為は、図書館の廃止に反対する意見の表明で、横断幕と並べ方から、受け手も意見を理解できます。入口は、通過です。

振り分けと二つの例外の確認|火の使用か否かだけに着目、表現の規制が実際の目的か、規制される行為の多くが表現行為か(問い)

次は、振り分けと、規制の向きです。板に、見る観点を並べました。3条は何に着目しているか。そして、表現の規制が実際の目的になっていないか。規制される行為の多くが、表現行為になっていないか。少し考えてみてください。

振り分けと二つの例外の確認|内容中立、火災12件の原因は焼却と花火とたき火、指導30件のうちキャンドルは3件、よって間接的・付随的規制、中間審査基準(答え)

振り分けです。3条は、裸火を用いるか否かだけに着目して、どのような意見を示すために用いるかを問いません。表現内容中立規制です。次に、内容とは別の軸、規制の向きです。3条の目的は、火災の防止で、表現を規制することを目的としていません。間接的・付随的規制とは、解説の回で見たとおり、人権の行使を規制することを目的とせず、別の目的の規制が、間接的・付随的な効果として負担を与えるものでした。ただし、例外が2つあります。表現の規制が実際の目的である場合。そして、規制される行為の多くが表現行為である場合。この2つなら、直接的規制として扱います。この2つでは、表現そのものを狙っていないから緩める、という理由が使えないからです。1つ目の確認です。過去の火災12件は、落ち葉焼き、花火、たき火が原因です。表現の規制が実際の目的だとは、いえません。2つ目の確認です。指導30件のうち、キャンドルは3件です。規制される行為の多くが、表現行為だともいえません。ですから、3条は、間接的・付随的規制のままです。表現そのものを狙っていない分、内容中立規制と同じく、中間審査基準で審査します。

規範と答案の型|間接的・付随的規制の審査(二つの例外の確認、中間審査基準) 図:規範と答案の型|間接的・付随的規制の審査(二つの例外の確認、中間審査基準)

一枚にまとめます。この先は、主設例と同じ運びです。目的は、屋外の火による火災の防止で、市民の生命と財産を守るものですから、重要です。裸火を禁じれば、火災のおそれは減りますから、効果的です。過度でないかです。灯りを電気式のものに替えても、図書館の形に並べて横断幕を掲げれば、Dの意見は、同じ相手に同じように伝わります。代替的な伝達手段が残っています。ですから、手段は過度でなく、火気条例3条は、合憲です。

屋外広告物の判例

屋外広告物の条例|大阪市の事件と大分県の事件、貼付けの場所と物件、判決の結論を並べて見る

ここで、判例を見ます。広告物の内容を問わずに、掲出の場所や方法を規制する条例を、最高裁は早くから扱ってきました。屋外広告物の条例です。解説の回の軽犯罪法のビラ貼りは、他人の財産を守る規制が表現に及んだ、間接的・付随的規制の例でした。屋外広告物の条例は、広告物を出す場所そのものを区切る、表現に向いた規制です。1つ目は、大阪市の事件です。ビラ26枚を、橋柱、電柱、電信柱の13か所に、のりで貼った被告人2人に、条例の貼付禁止の規定が適用され、罰金が科されました。上告は棄却されています。

判例最大判昭和43年12月18日(大法廷)

大阪市屋外広告物条例事件 「被告人らのした橋柱、電柱、電信柱にビラをはりつけた本件各所為のごときは、都市の美観風致を害するものとして規制の対象とされているものと認めるのを相当とする。そして、国民の文化的生活の向上を目途とする憲法の下においては、都市の美観風致を維持することは、公共の福祉を保持する所以であるから、この程度の規制は、公共の福祉のため、表現の自由に対し許された必要且つ合理的な制限と解することができる。従つて、所論の各禁止規定を憲法に違反するものということはできず」

都市の美観風致とは、街並みの見た目の美しさと趣のことです。判決は、それを守ることが公共の福祉にあたり、この程度の規制は、表現の自由に対し許された必要且つ合理的な制限だ、としました。2つ目は、大分県の事件です。街路樹2本の支柱に、プラカード式のポスターを1枚ずつ、針金でくくりつけた被告人の事件で、上告は棄却されました。

判例最判昭和62年3月3日(第三小法廷)

大分県屋外広告物条例事件(法廷意見) 「国民の文化的生活の向上を目途とする憲法の下においては、都市の美観風致を維持することは、公共の福祉を保持する所以であり、右の程度の規制は、公共の福祉のため、表現の自由に対し許された必要かつ合理的な制限と解することができるから」……「憲法二一条一項に違反するものでないことは、前記各大法廷判例の趣旨に徴し明らかであつて」

法廷意見は、先ほどの大阪市の判決の趣旨に徴して明らかだ、として、短く結論を述べています。一方で、この判決には、伊藤正己裁判官の補足意見があります。補足意見は、法廷意見ではなく、一人の裁判官の意見です。

判例最判昭和62年3月3日(第三小法廷・伊藤正己裁判官補足意見)

大分県屋外広告物条例事件(伊藤正己裁判官の補足意見) 「本条例の定める一定の場所や物件が広告物掲出の禁止対象とされているとしても、これらの広告物の内容を適法に伝達する方法が他に広く存在するときは、憲法上の疑義は少なくなり、美観風致の維持という公共の福祉のためある程度の規制を行うことが許容されると解されるから、この点も検討に値する。」……「もし本条例が思想や政治的な意見情報の伝達にかかる表現の内容を主たる規制対象とするものであれば、憲法上厳格な基準によつて審査され、すでにあげた疑問を解消することができないが、本条例は、表現の内容と全くかかわりなしに、美観風致の維持等の目的から屋外広告物の掲出の場所や方法について一般的に規制しているものである。この場合に右と同じ厳格な基準を適用することは必ずしも相当ではない。」

補足意見は、結論は是認しつつ、広告物の内容を適法に伝達する方法が他に広く存在するときは、憲法上の疑義は少なくなる、と述べています。そして、表現の内容と全くかかわりなしに、場所や方法を一般的に規制するものに、厳格な基準を適用することは、必ずしも相当ではない、とも述べています。今日の答案の考え方に近い、と感じた方も多いと思います。この判決の理屈をそのまま当てて、Aの事件を合憲とすることはできません。判決の物差しは、「この程度の規制」です。電柱や街路樹に貼る行為を、場所と物件で禁じた条例についての判断です。Aの3条は、同じ相手に同じ時期に伝えるほかの方法がほとんど残らない、罰金つきの一律の禁止です。ですから、判決の言葉で合憲と書くのではなく、答案では、目的と手段を事実で当てて、結論を出します。文言が似ているかではなく、事案がどこまで及ぶかで考えます。

変形 覆面の禁止

変形の事例|W市集団行進条例の1条、3条、4条、6条、S社の従業員の行進、平穏に終わった行進、起訴(架空の条例)

最後に、方法の規制でも、強度の見方が変わる事例を見ます。集団行進での、覆面の禁止です。W市の集団行進条例です。これも、設例のための架空の条例です。1条は、集団行進における違法行為を防止し、違法行為があったときに行為者を特定できるようにして、市民の安全を確保することを、目的に掲げます。3条は、行進する者に、主催者の氏名、参加予定人数、経路の届出を求めます。4条は、参加者が、覆面などで顔の全部または大部分を隠して行進してはならない、と定めます。気象の状況など、やむを得ない事情があるときは除きます。6条は、4条に違反した者を、5万円以下の罰金に処する、と定めます。S社は、業績の悪化を理由に、組合の活動に参加してきた従業員を中心に、配置転換と解雇を重ねています。S社の現従業員Eは、同僚約10人と、元従業員約20人とともに、S社の対応を訴える行進を、市道で行うことにしました。S社には、組合の集会に出た従業員が、翌月に遠隔地の事業所へ配置転換された例があります。現従業員の約10人は、顔が知られると同じ不利益を受けるおそれがあるとして、目出し帽やマスクで顔を隠して参加します。元従業員は、顔を出します。W市は、昨年、他の団体の行進で、覆面をした一部の参加者が店舗の窓ガラスを割って立ち去り、特定できなかった事件を受けて、この条例を制定していました。行進は、3条の届出を経て、経路どおりに約1時間、平穏に終わりました。警察官が随行して、行進の様子を撮影していました。Eは、覆面をして参加したとして、4条違反で起訴されました。

問いは、行進条例4条は、憲法に違反するか、です。

関係図|W市Bが4条でEの覆面参加を禁じて起訴し、Eは行進でS社に訴える 図:関係図|W市Bが4条でEの覆面参加を禁じて起訴し、Eは行進でS社に訴える

関係を図にします。W市がB、S社がFです。Bが4条でEの覆面参加を禁じて起訴し、Eは行進でFに訴える。この2本の線だけです。入口です。Eの具体的自由は、顔を隠して行進に参加する自由、つまり、匿名で表現する自由です。集団行進は、多数の人が集まった姿そのもので意見を伝える表現です。そして、匿名で参加できることは、不利益を恐れずに意見を述べるための条件です。これを欠けば、不利益を恐れる人が、意見を述べること自体を控える、萎縮が生じます。ですから、匿名で表現する自由も、21条1項の保障を受けます。制約です。4条は、顔を隠さなければ参加できないEの表現を、直接止める強度な制約です。形式的正当化は、市議会が制定した条例で、文言も明らかですから、通過します。振り分けです。4条は、顔を隠して行進するか否かに着目して、行進で何を訴えるかは問いません。表現の方法に着目した、内容中立規制です。

現実に出にくくなるのは確かです。けれど、これは主張の内容による選別ではなく、参加の態様による区切りの結果です。ですから、内容規制に戻すのではなく、次の強度の評価で拾います。

強度の評価|覆面の禁止は、顔を出せば不利益を受ける人にとって何を失わせるか(問い) 図:強度の評価|覆面の禁止は、顔を出せば不利益を受ける人にとって何を失わせるか

問いです。覆面の禁止は、顔を出せば不利益を受ける人にとって、何を失わせるでしょう。そして、それを、審査のどこに入れるでしょう。少し考えてみてください。

強度の評価|行進という表現の機会そのものを失わせる、基準は中間審査のまま、手段の過度を慎重に見る(答え)

基準は、中間審査基準のままです。4条も、何を訴えるかを問いませんから、思想の自由市場を直接ゆがめる規制ではありません。緩める理由は、ここでも残ります。S社の例のように、顔を出せば同じ不利益を受けるおそれがある人にとって、4条は、行進という表現の機会そのものを失わせます。ただ、下げない理由は、ここでいっそう強まります。そこで、強度の評価は、手段の審査の重みとして使います。手段が過度でないかを、より制限的でない他の手段の有無を、慎重に見て判断する、と書きます。

規範と答案の型|覆面の禁止の審査(匿名で表現する自由、内容中立規制、強度の評価) 図:規範と答案の型|覆面の禁止の審査(匿名で表現する自由、内容中立規制、強度の評価)

一枚にまとめます。目的です。違法行為の防止と、あったときの特定で、市民の安全を確保します。窓ガラスの事件もありました。重要な目的です。効果もあります。覆面を禁じれば、特定は容易になります。

手段の比較|4条と、限定した禁止、違法行為そのものの処罰、届出による主催者の把握 図:手段の比較|4条と、限定した禁止、違法行為そのものの処罰、届出による主催者の把握

過度でないかです。まず、代替的な伝達手段。署名やインターネットでの匿名の発信は、できます。けれど、多くの人が、自らの身をもって集まった姿を、市民とS社に示す行進の代わりには、なりません。次に、より制限的でない他の手段。違法行為そのものの処罰。3条の届出による、主催者の把握。さらに、違法行為が現に生じ、または具体的に予想される行進に限って、覆面を禁じることもできます。本件の行進は、届出を経て、平穏に終わりました。それなのに4条は、違法行為のおそれの有無を問わず、すべての行進で、覆面を一律に禁じています。例外も、気象の状況などに限られます。軽い手段で目的は達成でき、他方で、Eらは、匿名でなければ表現の機会を失います。ですから、4条は、手段が過度で、21条1項に反して違憲です。違憲の対象は、4条そのものです。一律の禁止で、例外も限られ、軽い措置を選ぶ余地がありません。

完成答案

完成答案|第1 入口の特定、第2 制約、第3 形式的正当化 図:完成答案|第1 入口の特定、第2 制約、第3 形式的正当化

ここまでを、答案の形にしました。こちらが完成答案です。動画を止めて見てみてください。

完成答案|第4 実質的正当化、審査基準の定立(表現内容中立規制か) 図:完成答案|第4 実質的正当化、審査基準の定立(表現内容中立規制か)

審査基準の定立の答案です。まず、表現内容中立規制かどうかです。

完成答案|第4 実質的正当化、審査基準の定立(審査基準) 図:完成答案|第4 実質的正当化、審査基準の定立(審査基準)

続いて、審査基準の答案です。

完成答案|第4 実質的正当化、目的 図:完成答案|第4 実質的正当化、目的

目的の答案です。

完成答案|第4 実質的正当化、手段 図:完成答案|第4 実質的正当化、手段

手段の答案です。

完成答案|第4 結論、第5 違憲とすべき対象の選択 図:完成答案|第4 結論、第5 違憲とすべき対象の選択

結論と、違憲とする対象の選択の答案です。

完成答案|短い事例 間接的・付随的規制、第1 入口の特定から第3 形式的正当化まで

続いて、火気条例の答案です。

完成答案|短い事例 間接的・付随的規制、第4 実質的正当化 図:完成答案|短い事例 間接的・付随的規制、第4 実質的正当化

火気条例の答案の、実質的正当化です。

完成答案|変形 覆面の禁止、第1 入口の特定から第3 形式的正当化まで 図:完成答案|変形 覆面の禁止、第1 入口の特定から第3 形式的正当化まで

覆面の禁止の答案です。まず、入口から形式的正当化までです。

完成答案|変形 覆面の禁止、第4 実質的正当化、審査基準の定立 図:完成答案|変形 覆面の禁止、第4 実質的正当化、審査基準の定立

次に、審査基準の定立です。

完成答案|変形 覆面の禁止、第4 目的と手段(効果、代替的な伝達手段) 図:完成答案|変形 覆面の禁止、第4 目的と手段(効果、代替的な伝達手段)

続いて、目的と、手段の効果、代替的な伝達手段です。

完成答案|変形 覆面の禁止、第4 手段(より制限的でない他の手段、あてはめ)、結論、第5 違憲とすべき対象の選択 図:完成答案|変形 覆面の禁止、第4 手段

  • より制限的でない他の手段、あてはめ
  • 結論、第5 違憲とすべき対象の選択

最後に、より制限的でない他の手段とあてはめ、結論、違憲とする対象の選択です。ご自身の答案と見比べてみてください。今回は、規制が表現の中身ではなく、方法に向くときを見ました。では、規制が表現の場所に向くときは、その場所の性質で、目盛りをどう動かすのでしょうか。

参照条文

  • 日本国憲法21条1項

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