内容中立規制(後編)
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設例

今日は、1つの事例を、答案として最後まで書き切ります。市が、歩道でのビラ配りに中止を命じる。条例は憲法に違反しないか、という事例です。歩道でのビラ配りも、規制の対象になりえます。まず事例です。Y市の中心部を、市道の中央通りが東西に通っています。全長は約1.2キロメートルで、両側に幅約4メートルの歩道があります。この歩道では、古くから、署名集めや演説、ビラ配りが日常的に行われてきました。市は、使用を制限する掲示も規則も、置いてきませんでした。通りのほぼ中ほどに、市営バスの停留所「市役所前」があります。平日の朝夕は、バスを待つ列が歩道の車道側にはみ出します。昨年、平日の朝夕に、この停留所の前後で、印刷物を配る人の周りに人がたまりました。バスを待つ列と交差して、車いすやベビーカーが通れなくなる。はみ出した人が自転車と接触する。こうした事故が、合わせて3件起きました。
図:設例の条文|Y市歩道通行確保条例の1条から4条(架空の条例)
そこで市議会が制定したのが、Y市歩道通行確保条例です。設例のために作った、架空の条例です。板の条文を見てください。1条は、歩行者の安全かつ円滑な通行の確保を目的に掲げます。2条は、停留所から東西それぞれ30メートルまでの区間、これを対象区間と呼びますが、その歩道上で、通行人に印刷物を配ることを禁じます。3条は、市長が、2条に違反した者に、中止を命じることができる、と定めます。4条は、命令に違反した者を、20万円以下の罰金に処します。禁止と、命令と、罰金の3段なんです。その3段が、あとで効いてきます。
図:関係図|Y市長BがAに中止を命じる、AはバスS線の利用者Cにビラを手渡す
Aは、市営バスS線の廃止に反対する住民団体の代表です。S線は、市北部の住宅地と市役所前を結ぶ路線で、利用者の多くは高齢者です。Aは月に1回、日曜の午前10時から1時間、市役所前の停留所の脇の歩道で、S線の利用者に、廃止反対のビラを配ってきました。この場所は、対象区間の中です。その時間の歩道は、1分間に通る人が10人前後で、幅4メートルの半分以上が空いています。バスを待つ列も、はみ出していません。Aは歩道の建物側の端に立ち、近づいてきた人にだけビラを手渡します。呼び込みも、拡声器も使いません。関係を図にします。市長がB、S線の利用者がCです。Bが条例に基づいてAに中止を命じる。AはCにビラを手渡す。この線だけです。条例の施行後、市の職員が中止を求めましたが、Aは従いませんでした。そこで市長Bは、3条に基づいて、Aに中止を命じました。これを本件命令と呼びます。Aが命令にも従わなければ、4条の罰金を科されえます。Aは、条例も本件命令も、憲法に違反すると主張しました。問いは1つです。条例は、憲法に違反するか。また、本件命令はどうか。
入口と制約と形式的正当化

答案の骨格は、これまでの回で見たとおりです。入口、制約、形式的正当化、実質的正当化、違憲とする対象の選択。この事例の分かれ目は、実質的正当化のなかの、場所という事情です。そこへ向かうまでは、型どおりに短く通します。入口です。Aの具体的自由は、停留所の脇の歩道で、日曜の午前に、S線の利用者へ廃止反対のビラを手渡す自由です。
条文日本国憲法21条1項
集会・結社・表現の自由 第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
ビラの配布は、自分の意見を他の人に伝える行為です。「その他一切の表現」に入ります。制約です。本件命令は、ビラの配布そのものを止めます。4条の罰金が、その実効性を支えます。直接的かつ強度な制約にあたります。形式的正当化です。条例は、住民が選んだ議員でつくる市議会が定めたもので、憲法94条も、条例の制定を認めています。2条は区間と行為が書いてあり、何が禁じられるかも明確です。次が、実質的正当化です。2条は、何を配るかを問わず、場所と行為に着目して禁じています。内容中立規制です。解説の回で見たとおり、内容を問わない規制なら、ほかの時・場所・方法で表現する余地が残り、思想の自由市場を直接はゆがめません。ただ、表現の機会は失われます。ですから、厳しすぎず、緩めすぎもしない、中間審査基準で見ます。その余地が本当に残るかは、手段の審査で、事実から確かめます。規制の目的が重要であって、かつ、その目的を達成する手段が効果的で、過度でない場合に限り、合憲とする。この物差しは、前の回で立てました。この回は、場所という事情が、目盛りをどちらへ動かすかを、厚く書きます。
場所の性質を目盛りに入れる

問いです。事例の事実のうち、中央通りの歩道が、表現のために開かれてきたことを示しているのは、どれでしょう。反対に、通行を保つという管理の目的が前に出ることを示しているのは、どれでしょう。板に、事実を並べました。少し考えてみてください。

仕分けます。表現のために開かれてきたことを示すのは、署名集め、演説、ビラ配りが日常的に行われてきたこと。そして、市が掲示も規則も置いてこなかったことです。管理の目的が前に出ることを示すのは、停留所の前後で列が歩道にはみ出し、人がたまって事故が3件起きたことです。どちらの顔も、目盛りを動かします。向きが逆です。1つ目。解説の回でも見たとおり、道路や公園のように、一般公衆が自由に出入りでき、本来の目的のほかに、表現の場としても役立ってきた場所があります。こうした場所での表現は、通りかかる人に直接届く、簡便な手段です。別の場所へ移すと、同じ相手に届かなくなりやすい。だから、そこでの表現の重要性は高いと数えます。その結果、手段が過度でないかを、具体的な事実に即して、厳しく見ることになります。目盛りを、厳しい側へ動かします。2つ目。その場所には、本来の利用目的があります。道路なら、通行の安全と円滑です。管理する側から見れば、これが管理の目的です。表現がこの目的を妨げる程度が大きいほど、規制の必要は高まります。すると、手段が効果的であることは、認められやすくなります。こちらは、緩い側へ動かします。

- 目盛りの図|中間審査基準を中央に、開かれてきた場所なら手段を厳しく見る側へ、管理の目的が前に出るなら手段の効果を認めやすい側へ動く
- 時間や態様で量る
どちらか一方に固定しません。ここが大事な点です。同じ道路でも、時間や態様によって、管理の目的を妨げる程度は違います。この事例なら、平日の朝夕と、日曜の午前です。朝夕は列がはみ出して事故が起きました。日曜の午前は、歩道の半分以上が空いています。場所の性質は、1つの結論を言うための札ではありません。事実で量る事情です。天秤の重りを置くようなものです。開かれてきた事実は、一方の皿に。管理の目的を妨げる事実は、もう一方の皿に。その日、その時間の事実を見て、傾きを読みます。傾いた側へ、目盛りが動きます。
図:規範と答案の型|場所に着目する内容中立規制の審査
ここまでの流れを、一枚にまとめます。内容中立規制でも中間審査基準で見る。そして、場所が開かれてきたほど手段を厳しく見る。管理の目的を妨げる程度が大きいほど、手段の効果は認められやすい。この基準に、目的と手段の事実を当てていきます。
目的と手段のあてはめ
図:手段の審査へ|前の回の振り返り、代替的な伝達手段は何を見て評価するか(問い)
ここで、前の回で見たことを思い出してください。内容中立規制の手段の審査で、ほかの時・場所・方法で表現できる余地、つまり代替的な伝達手段は、何を見て評価しましたか?別の時間や場所があるかではなくて、同じ相手に届くかを見ました。この事例では、その見方が、そのまま使えます。

まず条例そのものの審査です。目的です。条例1条の目的は、歩行者の安全かつ円滑な通行の確保です。停留所の前後で、事故が3件起きています。目的は、重要です。手段の効果です。事故は、配布する人の周りに人がたまることから起きました。対象区間での配布を禁じれば、人だまりは防げます。効果的です。次に、過度でないか。開かれてきた道路ですから、厳しく見ます。対象区間は、停留所から東西30メートルずつ、約60メートルだけです。全長1.2キロメートルの通りの残りでは、配れます。禁じられるのも、通行人への印刷物の配布だけです。演説も、署名集めも、掲示も、禁じていません。罰金は、中止命令に従わなかった場合に限られます。
2条の禁止は、日曜の閑散時の配布にも及びます。ただ、3条は、市長が「中止を命ずることができる」と定めているだけです。命令を出すかどうかの判断の余地が、市長に残されています。その余地で、支障のない場合を外せます。ですから、2条が区間内の配布を一律に禁じていても、過度とまではいえません。条例は、合憲です。
図:本件命令の審査|本件命令が止めたのは、いつの、どんな配布か(問い)
次が、本件命令です。条例が合憲でも、その適用が憲法に反することはあります。同じ基準を当てます。ただし、見る対象が変わります。条例ではなく、命令が止めたものです。問いです。本件命令が止めたのは、いつの、どんな配布でしょう。板に、事実を並べました。考えてみてください。

止められたのは、日曜の午前10時から1時間の配布です。歩道を通る人は1分間に10人前後で、幅4メートルの半分以上が空いています。Aは、歩道の端に立ち、近づいてきた人にだけ手渡します。呼び込みも、拡声器もありません。目的は、条例のときと同じ、通行の安全と円滑です。重要です。手段の効果です。この時間の配布では、人がたまることも、バスを待つ列と交差することもありません。通行を妨げる事実が、ありません。止めても、通行の安全と円滑には、ほとんど役立ちません。効果的とはいえません。次に、過度でないか。同じ相手に届く手段を見ます。

Aが伝えたい相手は、S線の利用者です。利用者の乗り降りは、市役所前の停留所に集中します。対象区間の外の歩道では、停留所から離れるので、S線の利用者かどうかの見分けがつきません。受け取る人も少ない。インターネットは、利用者の多くが高齢者で、使わない人が多いので、届きません。沿線への全戸配布の郵送は、約40万円かかります。団体の年間予算の約半分です。あることと、同じ相手に届くことは、別です。ここでは、届く手段が乏しい。本件命令は、Aの伝達の機会を、実質的に奪います。しかも、より制限的でない手段がありました。支障が出る平日の朝夕に限って命じ、支障のない日曜には命じない。それで、目的は達成できます。ですから、手段は過度です。Bは、市道の管理者として、道路の使い方を決める管理権を主張するかもしれません。この点は、次の判例のところで見ます。ここでは、Aの配布は、管理の目的である通行の安全と円滑を、害していない、と結びます。結論です。目的は重要ですが、手段が効果的でなく、過度です。本件命令は、憲法21条1項に反し、違憲です。命令が違憲である以上、これに違反したことを理由に、罰金を科すこともできません。

違憲とする対象を選びます。条例は、3条で、命令を出すかどうかの判断を市長に委ねていて、命令の出し方に幅があります。条例そのものは、先ほど見たとおり、合憲です。問題は、その幅の中から、支障のない日曜の閑散時の配布に、中止の命令を選んだ点にあります。ですから、条例ではなく、本件命令が違憲です。
ビラ配布の2つの判例
図:判例へ|法令は合憲でも、特定の命令を違憲とする場合を何と呼んだか(問い)
判例に進む前に、総論の回の要点を、一問だけ。法令は合憲なのに、特定の命令を違憲とする場合を、何と呼びましたか?処分違憲です。いま書いたのが、まさにそれでした。では、ビラ配布を一般的な規定で処罰した事案を、最高裁は、どう判断したのか。この事例の答案を書く、事実の拾い方の手本として、2つ見ます。

1つ目は、私鉄の駅構内のビラ配布です。被告人らは、駅の構内で、乗降客にビラを配り、演説をしました。駅の管理者から退去を求められても従わず、約20分とどまりました。鉄道営業法の、係員の許諾なく駅構内で物を配り演説する罪と、刑法の不退去罪に問われた事案です。最高裁は、この処罰を、憲法21条1項に反しないとしました。判決の言葉は、こうです。
判例最判昭59・12・18 刑集38巻12号3026頁
私鉄駅構内ビラ配布事件 「憲法二一条一項は、表現の自由を絶対無制限に保障したものではなく、公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を是認するものであつて、たとえ思想を外部に発表するための手段であつても、その手段が他人の財産権、管理権を不当に害するごときものは許されないといわなければならない」……「構造上同駅駅舎の一部で、A線又はC線の電車を利用する乗降客のための通路として使用されており、また、同駅の財産管理権を有する同駅駅長がその管理権の作用として、同駅構内への出入りを制限し若しくは禁止する権限を行使している」
読み取るのは、2つです。表現の手段であっても、他人の財産権、管理権を不当に害するものは許されない。そして、この駅構内は、駅舎の一部で、乗降客の通路であり、駅長が出入りを制限する権限を行使している場所でした。駅長が出入りを制限していた場所だった、という事実です。ここが、この判決の拾った事実です。
判例最判昭59・12・18 刑集38巻12号3026頁(伊藤正己裁判官補足意見)
私鉄駅構内ビラ配布事件 「ビラ配布の規制については、その行為が主張や意見の有効な伝達手段であることからくる表現の自由の保障においてそれがもつ価値と、それを規制することによつて確保できる他の利益とを具体的状況のもとで較量して、その許容性を判断すべきであり、形式的に刑罰法規に該当する行為というだけで、その規制を是認することは適当ではないと思われる。そして、この較量にあたつては、配布の場所の状況、規制の方法や態様、配布の態様、その意見の有効な伝達のための他の手段の存否など多くの事情が考慮されることとなろう。」……「一般公衆が自由に出入りできる場所は、それぞれその本来の利用目的を備えているが、それは同時に、表現のための場として役立つことが少なくない。道路、公園、広場などは、その例である。これを「パブリツク・フオーラム」と呼ぶことができよう。」……「パブリツク・フオーラムたる性質は必ずしも強くなく、むしろ鉄道利用者など一般公衆の通行が支障なく行われるために駅長のもつ管理権が広く認められるべき場所であるといわざるをえず」
こちらは、伊藤正己裁判官の補足意見です。結論は法廷意見と同じ駅構内の処罰の是認ですが、そこへ至る較量の要素を、はっきり並べています。形式的に刑罰法規に該当する、というだけでは是認しない。配布の場所の状況、規制の方法や態様、配布の態様、他の手段の存否を考慮して、較量する。道路、公園、広場のように、一般公衆が自由に出入りでき、表現の場として役立つ場所が例に挙げられています。本件の駅構内は、そうした性質が強くなく、通行が支障なく行われるための管理権が広く認められる場所だ、と位置づけられています。使い方は、こうです。道路や公園には、表現の場としての重みがある。駅構内には、管理が前に出る事実がある。場所の事実で、重みの置き場所が変わる、という使い方です。

2つ目は、自衛隊の宿舎のビラ配布です。被告人らは、政治的な意見を書いたビラを、宿舎の各室のドアの新聞受けに入れる目的で、宿舎の共用部分と敷地に立ち入りました。管理権者の意思には反していました。刑法の住居侵入の罪に問われた事案です。
判例最判平20・4・11 刑集62巻5号1217頁
自衛隊官舎ビラ配布事件 「確かに,表現の自由は,民主主義社会において特に重要な権利として尊重されなければならず,被告人らによるその政治的意見を記載したビラの配布は,表現の自由の行使ということができる。しかしながら,憲法21条1項も,表現の自由を絶対無制限に保障したものではなく,公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を是認するものであって,たとえ思想を外部に発表するための手段であっても,その手段が他人の権利を不当に害するようなものは許されないというべきである」
まず、表現の自由にも限界がある、という一般論を置いています。そのうえで、この事件で何が問われているのかを、次のように言い分けます。
判例最判平20・4・11 刑集62巻5号1217頁
自衛隊官舎ビラ配布事件(続き) 「本件では,表現そのものを処罰することの憲法適合性が問われているのではなく,表現の手段すなわちビラの配布のために「人の看守する邸宅」に管理権者の承諾なく立ち入ったことを処罰することの憲法適合性が問われているところ,本件で被告人らが立ち入った場所は,防衛庁の職員及びその家族が私的生活を営む場所である集合住宅の共用部分及びその敷地であり,自衛隊・防衛庁当局がそのような場所として管理していたもので,一般に人が自由に出入りすることのできる場所ではない。たとえ表現の自由の行使のためとはいっても,このような場所に管理権者の意思に反して立ち入ることは,管理権者の管理権を侵害するのみならず,そこで私的生活を営む者の私生活の平穏を侵害するものといわざるを得ない。したがって,本件被告人らの行為をもって刑法130条前段の罪に問うことは,憲法21条1項に違反するものではない。」
この判決は、処罰の対象を、はっきり言い分けています。問われているのは、表現そのものの処罰ではない。表現の手段、つまりビラの配布のために、管理権者の承諾なく立ち入ったことの処罰だ、と。そして、立ち入った場所は、職員とその家族が私的生活を営む集合住宅の共用部分と敷地で、一般に人が自由に出入りすることのできる場所ではない。立入りは、管理権の侵害にとどまらず、私生活の平穏の侵害でもある。ここが、結論の決め手でした。内容ではなく、立ち入った場所と、そこで侵害されたものが、理由です。

3つの場所を並べます。駅構内は、駅舎の一部で、駅長が出入りを制限していました。宿舎は、自由に出入りできない場所で、住む人の私生活の平穏がありました。中央通りの歩道は、誰でも自由に出入りできます。市は掲示も規則も置いていません。管理の目的は、通行の安全と円滑にとどまります。そしてAの配布は、日曜の午前、その通行を害していません。判決が処罰を是認する理由に拾った事実は、本件の歩道には欠けています。場所の事実が変われば、結論は動きます。答案では、こう置きます。Bが市道の管理者として管理権を主張しても、その場所は、一般公衆が自由に出入りでき、管理の目的が通行にとどまり、Aの配布がそれを害していない。ですから、管理権を不当に害するとはいえません。ここで答案が拾うのは、結論ではなく、事実の見方です。管理が前に出る場所だったか。それを、事実で見分けます。
変形 公園の夜間使用の制限

ここまでは、場所を見ました。次の変形では、時間を見ます。目盛りを動かす事情の見え方が、変わります。今度は別の市、V市の事例です。V市立のZ公園は、面積約3ヘクタールで、住宅地に接しています。広場、遊具、ベンチ、街灯があります。出入口に門扉はなく、昼夜を問わず出入りは自由です。夜間も、犬の散歩やジョギングの人が訪れます。広場では、市民団体が集会を開くことも、珍しくありませんでした。市内には市立公園が全部で4か所あり、いずれも同じ作りです。近隣の住民Eらから、夜間の花火、飲酒、騒音、ごみの苦情が相次ぎました。市議会は、V市公園夜間利用制限条例を制定します。これも、設例のために作った、架空の条例です。1条は、近隣の静穏及び公園施設の保全を目的とします。2条は、午後10時から翌日の午前5時までの間、市立公園に立ち入ってはならない、と定めます。3条は、違反者を3万円以下の罰金に処します。深夜に働く人の待遇改善を求める団体の代表がDです。介護施設、タクシー、コンビニエンスストアなどで働く人たちです。Dの団体は、毎月第1金曜の午後10時から午前0時まで、Z公園の広場で集会を開いてきました。参加者は約30人です。拡声器も火も使わず、プラカードを掲げて静かに立ちます。参加者の多くは夜勤の仕事をもち、昼間は仕事や睡眠のために集まれません。深夜に仕事の前後で通りかかる、同じ立場の人にも、訴えることができます。
条例の施行後、Dは、午後10時以降は公園に立ち入れず、集会を開けなくなりました。市内の公共の屋内施設は、午後9時に閉まります。市内の歩道は幅が狭く、30人が集まれる広さはありません。Dは、条例2条が憲法に違反すると主張しました。問いは、条例2条は、憲法に違反するか、です。

入口、制約、形式的正当化は、型どおりです。Dの具体的自由は、午後10時から午前0時に、Z公園の広場で、プラカードを掲げて静かに集会を開く自由です。21条1項の「集会」と「その他一切の表現」にあたります。2条と3条の罰金で、Dの集会は開けなくなります。直接的かつ強度な制約です。条例は、市議会が定めたもので、時間と立入りも明確です。2条は、何を訴えるかを問わず、時間と場所に着目するので、内容中立規制です。中間審査基準で見ます。目盛りを動かす事情です。Z公園は、昼夜を問わず出入り自由で、広場は集会にも使われてきました。開かれてきた場所です。手段を、厳しく見ます。他方、管理の目的は、近隣の静穏と公園施設の保全です。Dの集会は、拡声器も火も使わず、静かです。この目的を妨げる程度は、小さい。ここで問いです。この条例は、夜は閉めるけれど、昼は使えます。それなら、代替的な伝達手段はあると言ってよいでしょうか。
板に、事実を並べました。考えてみてください。

まず目的です。夜間の花火、飲酒、騒音、ごみの苦情が相次いでいます。近隣の静穏と施設の保全は、重要です。手段の効果です。夜間の立入りを禁じれば、花火も、飲酒も、騒音も防げます。効果的です。過度でないか、です。2条が禁じるのは、立入りそのものです。静穏を害さない利用や表現まで、含まれてしまいます。苦情の原因は、花火、飲酒、騒音、ごみです。火気や飲酒の禁止、拡声器の禁止、巡回、ごみの持ち帰りの義務づけなど、原因に即した規制で、目的は達せられます。より制限的でない手段があります。そして、代替的な伝達手段です。問いに戻ります。昼に開けるか。
参加者は、昼は仕事や睡眠で集まれないんでしたね。伝えたい相手は、夜勤の人たちです。昼間に開いても、同じ相手には届きません。夜に通りかかる同じ立場の人にも、夜でなければ訴えられません。別の場所はどうか。市内の公園4か所は、いずれも同じ時間帯に立入りが禁じられています。屋内施設は午後9時に閉まり、歩道は30人が集まれる広さがありません。夜に同じ相手に届く手段は、乏しい。主設例では、別の場所が同じ相手に届くかを見ました。今回は、別の時間が同じ相手に届くかを見ました。見る軸は違っても、問うことは同じ、届くかどうかです。ですから、手段は過度です。2条は、静穏を害さない表現のための立入りまで一律に禁じる点で、憲法21条1項に反し、違憲です。

最後に、違憲とする対象です。主設例のときは、どうだったでしょう。条例は合憲で、命令が違憲でした。命令を出すかどうかに、余地があったからです。ところが、2条は「立ち入ってはならない」と一律に禁じています。表現のための立入りを除く文言もありません。命ずるかどうかを市長が判断する余地もありません。違憲の原因は、表現のための立入りまで区別せずに禁じる、2条の一律の定め方そのものにあります。ですから、2条そのものが違憲です。法令そのものを違憲とするので、法令違憲と書きます。措置に幅がある条例なら処分違憲。一律の条文なら法令違憲。事実で、選び分けます。
完成答案

ここまでを、答案の形にしました。こちらが完成答案です。動画を止めて見てみてください。
図:完成答案|市道の歩道でのビラ配布、第4 実質的正当化、審査基準の定立
審査基準の定立の答案です。
図:完成答案|市道の歩道でのビラ配布、第4 実質的正当化、審査基準の定立
審査基準の定立の続きです。
図:完成答案|市道の歩道でのビラ配布、第4 実質的正当化、条例の合憲性
条例の合憲性の答案です。
図:完成答案|市道の歩道でのビラ配布、第4 実質的正当化、本件命令の合憲性
本件命令の合憲性の答案です。
図:完成答案|市道の歩道でのビラ配布、第4 実質的正当化、本件命令の手段
本件命令の手段の続きです。

判例との関係と、違憲とする対象の選択の答案です。

公園の夜間使用の制限の答案です。まず、入口から形式的正当化までです。
図:完成答案|変形 公園の夜間使用の制限、第4 審査基準の定立
審査基準の定立です。
図:完成答案|変形 公園の夜間使用の制限、第4 条例2条の合憲性
条例2条の目的と手段の答案です。
図:完成答案|変形 公園の夜間使用の制限、第5 違憲とすべき対象の選択
違憲とする対象の選択です。ご自身の答案と見比べてみてください。場所の性質は、一行で結論を出す理由ではなく、事実で量る事情です。内容中立規制の2本で、その量り方が、答案に書けるようになりました。
参照条文
- 日本国憲法21条1項