表現内容規制(前編)
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ゼロから憲法 論文/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
設例
図:事例の時系列|駅前広場のビラ配布、条例の制定、起訴まで
今日は、1つの事例を、答案として最後まで書き切ります。駅前でビラを配っていた市民団体の代表が、罰金を科されそうになる。この条例は憲法に違反しないか、という事例です。駅前のビラ配りで、罰金ですか。まず事例です。X市が管理する駅前広場は、利用客や通勤客が日に約2万人通る場所です。市民団体の代表Aは、市内を流れる川の水質汚染を告発しています。県の調査で、食品加工会社Pの工場の排水が基準を超えていたことが、一度確認されました。Pは改善を約束しています。Pは、X市が誘致した企業で、従業員は約800人です。Aは月に2回、広場の一角で、Pの名を挙げたビラを配ってきました。「県の調査で排水の基準超過が確認された。操業の改善を求める」と記したビラです。拡声器は使わず、通行を妨げたこともありません。内容に虚偽はありません。
ここで、条例が作られます。制定前の1年間に、広場での通行妨害の苦情は3件ありました。いずれも別の団体の勧誘が原因で、Aのビラについての苦情はありません。
図:設例の条文|駅前広場の秩序保持条例の1条、3条、4条、7条(架空の条例)
X市議会が制定したのは、駅前広場の秩序保持条例です。設例のために作った、架空の条例です。審議で、提案した議員はこう発言しました。「P社を名指しで攻撃するビラが続けば、企業が撤退しかねない。駅前から排除したい」。板の条文を見てください。1条は、広場の利用者の平穏と円滑な通行の確保、そして事業者の営業の円滑を、目的に掲げます。3条は、広場で、特定の企業の名称を挙げて、その事業活動を非難する内容の文書を配布してはならない、と定めます。4条は、事業活動を紹介したり称賛したりする文書の配布は妨げない、と定めます。7条は、3条に違反した者を20万円以下の罰金に処する、と定めます。
非難する文書は禁止で、称賛する文書はいいんです。その差が、あとで効いてきます。
図:関係図|X市Bが3条でAの配布を禁じて起訴し、Aは企業Cの排水を告発する
関係を図にします。X市がB、企業PがCです。Bが3条でAの配布を禁じて起訴する。AはCの排水を告発する。この2本の線が、今日の登場人物のすべてです。話を進めます。条例の施行後も、Aは従来どおりビラを配りました。市の職員が中止を求めても従わず、検察官は3条違反でAを起訴しました。Aは、自宅のポストやインターネットなら、配布を続けられます。しかし、Pの従業員を含む通勤客に届くのは、広場だけです。市は「条例は、広場という場所での配布を規制するにすぎない」と主張しています。Aは、3条が憲法に違反すると主張しました。問いは1つです。条例3条は、憲法に違反するか。
入口と制約と形式的正当化

答案の骨格は、総論の回で見たとおりです。入口の特定、制約、形式的正当化、実質的正当化、違憲とする対象の選択。このうち、入口と制約と形式的正当化は、型どおりに短く通します。入口です。Aの具体的自由は、駅前広場で、Pの名を挙げて排水問題を告発するビラを配布する自由です。
条文日本国憲法21条1項
集会・結社・表現の自由 第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
ビラの配布は、意見や事実を他の人に伝える行為ですから、「その他一切の表現」に入ります。入口は通過です。次に制約です。3条と、罰金を定める7条がありますが、制約の本体は、告発のビラを配ること自体を名指しで止める3条です。表現を止めること自体を狙った規制で、解説の回で見た間接的・付随的な規制、つまり、別の目的の規制がたまたま表現に及ぶものとは違います。罰金で担保されてもいます。直接的かつ強度な制約にあたります。形式的正当化です。3条は条例で、法律そのものではありません。けれど、憲法94条は、地方公共団体が法律の範囲内で条例を定めることを認めていて、条例は、住民が選んだ議会が定めるものです。ですから、法律の留保は満たします。対象も「企業の名称を挙げて事業活動を非難する文書」で、配る側にも見当がつきます。明確性も欠きません。
この事例の分かれ目は、ここから先の3つです。規制が表現の何に着目しているか。なぜそれを厳しく見るのか。厳しく見たうえで、目的と手段をどう当てるか。この順に書いていきます。
内容規制か内容中立規制か
図:振り分け|禁止するかどうかを、何で決めているか(問い)
最初の分かれ目は、この規制が、表現の何に着目しているか、です。市は、場所の規制にすぎない、と言っています。本当にそうでしょうか。問いです。この条例は、配布を禁止するかどうかを、何で決めているでしょう。板には、見る観点だけを並べました。少し考えてみてください。

条例の条件を見ます。同じ広場で、同じ企業の名を挙げる文書でも、3条は、非難する内容のものだけを禁じます。4条は、紹介や称賛は妨げません。可否を分けているのは、場所でも、時間でも、配り方でもありません。中身が、非難か称賛かです。広場の外で配れても、広場の中で何が禁じられるかが中身で決まることは、変わりません。表現内容中立規制は、中身とは無関係に、時・場所・方法を区切るものです。たとえば、広場で通行を妨げる配り方を、中身を問わず禁じる規定なら、非難のビラも称賛のビラも同じに扱われます。この条例は、そうなっていません。もう1つあります。「名称を挙げて非難する」という要件は、一見すると外形的です。けれど、企業の問題を告発するビラは、必ずこの形になります。解説の回で見たとおり、法文の形ではなく、現実に何が起きるかを見ると、3条には、告発のビラを狙い撃ちにする働きがあります。
見解規制と主題規制です。ここでは、特定の企業という主題のうち、非難という特定の見解だけを禁じて、称賛は許しています。ですから、見解規制です。主題規制も、原則として内容規制にあたります。もし3条が、企業の名を挙げる文書を、非難でも称賛でも一律に禁じていたら、主題規制でした。見解規制は、主題規制からさらに絞り込んだ、内容規制の典型です。結論です。条例3条は、表現内容規制、とりわけ見解規制にあたります。
厳しく見る理由と目盛り
図:厳しく見る理由|なぜ内容規制を厳しく見るのか、その理由は本件で現実か(問い)
内容規制と決めたら、次は、なぜ厳しく見るのかを、答案に一文で書く作業です。問いです。内容規制を厳しく見る理由は何でしょう。そして、その理由は、この事例で現実になっているでしょうか。

理由は、こう書きます。表現内容規制は、政府が特定のメッセージを思想の自由市場から排除して、その市場をゆがめる強度の制約であり、何を排除するかを政府が内容を見て決めるため、政府に都合の悪い表現を狙う動機も入りやすい。前半の市場の理由は、解説の回で見たものです。後半の動機の危険も並べて書くのは、本件の事実が、ちょうどそこに当たるからです。思想の自由市場とは、さまざまな意見が出そろって競り合うなかで、よい意見が残る、という考え方でした。政府が特定の意見だけを取り除くと、その競り合いそのものが成り立たなくなります。この理由は、本件で、事実として現実になっています。提案議員は「駅前から排除したい」と発言しました。しかもX市は、Pを誘致した当事者です。批判を排除することについて、中立の立場にありません。ですから、原則として、厳格に審査します。目盛りを決める前に、総論の回の復習です。審査基準を決めるとき、制約の強度と掛け合わせて見るのは、権利の何でしたか?
権利の重要性です。重要性と強度を測り、そこに裁量を加えて、目盛りを決めます。
図:目盛りの決定|重要性は高く、強度は強く、緩める裁量なし、よって厳格審査基準
重要性です。このビラは、川の水質汚染という、住民の生活に関わる公共的事項について、県の調査で確認された事実を伝えて、改善を求めるものです。政治的な意思決定に必要な情報を、住民に届ける表現です。重要性は高いと書けます。強度です。広場は、Pの従業員を含む通勤客が日常的に通る場所で、広場以外では、その人たちにビラが届きません。しかも、違反には罰金が科されます。告発を、受け手に届く場所で封じるものですから、強度は強いと書けます。裁量です。内容規制は、特定の意見の排除を伴う疑いがありますから、立法府の判断を尊重して基準を緩める理由にはなりません。市は誘致者でもあり、批判の排除について中立でもありません。
目盛りは、厳格審査基準です。厳格審査基準は、目的がやむにやまれぬ必要不可欠な公共的利益であること、手段が必要最小限度であること、つまり、目的を達するのにどうしても必要な範囲にとどまることを求めます。
図:規範と答案の型|表現内容規制の審査(内容規制か、厳しく見る理由、厳格審査基準)
ここまでの流れを、一枚にまとめます。中身が非難か称賛かで可否を分ける見解規制、だからこそ厳しく見て、厳格審査基準。この基準に、事実を当てていきます。
厳格審査のあてはめ(目的)
図:目的|条例1条の2つの目的は、やむにやまれぬ必要不可欠な公共的利益か(問い)
ここからが、今日の本番です。いちばん厚く書くところです。まず目的です。厳格審査基準では、目的が、やむにやまれぬ必要不可欠な公共的利益でなければなりません。条例1条の目的は、2つありました。広場の利用者の平穏と円滑な通行の確保、そして、事業者の営業の円滑です。それぞれ、そこまでいえるでしょうか。板の左側に、拾える事実を並べました。少し考えてみてください。

1つ目の、通行の確保から見ます。これは、重要な公共の利益です。しかし、条例制定前の1年間の苦情は3件で、いずれも別の団体の勧誘が原因でした。Aのビラについての苦情は、ありません。通行の妨げは、配り方の問題で、文書の内容とは関係がありません。これでは、非難の文書だけを禁じる必要を、説明できません。やむにやまれぬ必要不可欠な利益とまでは、いえません。通行の確保は、たしかに大事な目的です。けれど、目的が大事だということと、非難の文書だけを禁じる必要があるということは、別の話です。答案では、そこを分けて書きます。2つ目の、営業の円滑です。名誉や営業を不当に害する表現から事業者を守ることには、正当な面があります。しかし3条は、内容が真実のビラも禁じます。Aのビラは、県の調査で確認された事実を記したものです。真実の批判から事業者を守る目的は、やむにやまれぬ必要不可欠な公共的利益とはいえません。しかも、提案議員の発言は、批判を駅前から排除する意図を示しています。ですから、目的の段階で、基準を満たしません。ただ、ここで止めずに、仮に目的が認められるとしても、と一歩進めます。手段でも足りないことを、続けて書きます。目的の評価に別の見方があっても、結論が支えられるからです。
厳格審査のあてはめ(手段)
図:手段|3条より制限的でない、他の選びうる手段は何か(問い)
手段に進む前に、確認です。厳格審査基準で、手段に求められるのは何でしたか?必要最小限度であること、です。必要な範囲を超えていないかは、もっと軽い手段で目的を達せないかを考えると、確かめられます。では、問いです。通行の確保と、事業者の保護。この目的を達するために、3条より制限的でない手段は、何があるでしょう。考えてみてください。

3つ挙げられます。1つ目は、文書の内容とは無関係に、通行を妨げる配り方や拡声器の使用を、一律に禁じる規制です。苦情の原因は、こちらで防げます。2つ目は、配布の位置を指定する規制です。3つ目は、名誉や営業を不当に害する内容への、既存の刑事や民事の制度です。3条は、通行を妨げない配り方のビラも、真実の告発も、内容が非難であるというだけで、一律に、罰金をもって禁じています。Aは、拡声器を使わず、通行を妨げたこともありません。先ほどの3つの手段で、目的は達成できます。ですから、3条は、必要最小限度を超えています。
結論と違憲の対象
図:結論|条例3条は21条1項に反し違憲、違憲とする対象は条例3条そのもの
結論です。条例3条は、憲法21条1項に反し、違憲です。違憲とする対象は、総論の回で見たとおり、2つから選びます。3条そのものを違憲とするか、3条は残して、Aへの適用だけを違憲とするかです。3条は、内容が非難であれば、一律に配布を禁じる規定です。軽い措置を選ぶ余地がありません。選ぶ余地があれば、問題は選び方にあり、適用だけを止めれば足ります。3条には、その余地がありませんから、どう当てても同じ禁止になります。ですから、運用の問題ではなく、条例3条そのものが違憲です。
変形 虚偽表現の規制

ここで、規制の中身を変えて、もう1つ見ます。虚偽の表現を規制する条例です。Y県の健康情報適正化条例です。これも、設例のための架空の条例です。10条は、食品による健康被害の発生について、虚偽の事実を、真実であるものとして公表してはならない、と定めます。11条は、知事が、健康情報審査会の意見を聴いて、公表した者に、訂正を命じられると定めます。12条は、命令に違反した者を10万円以下の罰金に処する、と定めます。故意の定めはありません。Fは、自分で発行する地域のニュースレターに、食品Qを食べた直後に家族が体調を崩した経験を挙げて、「Qは健康被害を起こす」と書き、配布しました。Qと家族の症状の因果関係は、専門家の間でも、結論が出ていません。知事は、審査会の意見を聴いて、この記述を虚偽と認め、訂正を命じました。
虚偽の事実なら、そもそも表現の自由では守られない、と書けば終わりではないんですか。そこが、最初の分かれ目です。入口から審査基準の設定までを、どう書くか。この事例では、そこまでを書きます。

板に、観点だけを並べました。保障の入口で切ってよいか。内容規制か。厳しく見る理由は何か。基準は何か。順に考えてみてください。

入口です。虚偽の事実でも、自己の経験を踏まえて、他の人に事実を伝える行為であることは変わりません。虚偽だから保護されない、と入口で切ることはしません。真偽は、審査のなかで扱います。表現の価値が低そうに見えても入口では切らない、という向きは、解説の回で見たとおりです。振り分けです。10条は、公表された事実が虚偽かどうかに着目して、公表を禁じています。事実の真偽は、表明された内容そのものです。ですから、10条は表現内容規制です。厳しく見る理由です。虚偽かどうかの線を政府が引くことは、政府が真偽を決めて、市場から排除することにつながります。とくに本件のように、因果関係が専門家の間でも未確定の領域では、虚偽と認定されるのを恐れて、真実かもしれない主張まで控える萎縮が生じます。思想の自由市場が、ゆがみます。また、知事が虚偽と認定する仕組みですから、政府に都合の悪い情報を、虚偽として排除する動機も入りえます。
虚偽の事実の表明は、価値が低いという見方はないんですか。あります。虚偽の事実の表明は、真理への到達や、政治的な意思決定に加わる自己統治に資する度合いが小さく、権利の重要性を下げる方向に働きます。ただ、食品の安全は公共的事項です。そして、真偽の線引きが不安定な領域で萎縮が生じる点で、制約の強度は強いです。ですから、厳格審査基準を出発点とします。この先の目的と手段は、先ほどの運びと同じです。ここで一言だけ。10条には故意の定めがなく、真偽が未確定の事項も対象に入ります。これは、手段が必要最小限度を超える方向に働きます。
営利的言論
図:事例|V県の学習塾広告条例3条と8条、合格実績の水増しと苦情30件、Dのチラシ
ここまでは、内容規制は原則として厳しく見る、という運びでした。ただ、内容規制でも、厳格審査がそのまま当たらない表現があります。短い事例を2つ見ます。1つ目は、営利的言論です。V県には、学習塾の広告に関する条例があります。設例のために作った、架空の条例です。3条は、学習塾を営む者は、広告に、入学試験の合格者の数その他の合格実績を表示してはならない、と定めます。8条は、3条に違反した者を、10万円以下の罰金に処する、と定めます。背景があります。体験授業を受けただけの子を合格者に数えるなど、合格実績の水増しが相次ぎ、県への苦情が、1年間で30件ありました。県の審議では、虚偽の表示だけを禁じる案も出ました。でも、取締りが難しいとして、合格実績の表示を全面的に禁じる3条が制定されました。学習塾を営むDは、チラシに、ある高校の名前を挙げて、今春の合格12人、と記して配布しました。12人は全員、1年以上Dの塾に在籍した生徒で、合格通知の写しで確かめられます。検察官は、Dを3条違反で起訴しました。Dは、3条が憲法に違反すると主張します。問いは、条例3条は、憲法に違反するか、です。
図:関係図|V県Bが条例3条でDの広告を禁じて起訴する、Dは真実の合格実績を表示する
関係を図にします。V県がB、学習塾の経営者がDです。Bが3条でDの広告を禁じ、Dは真実の合格実績を表示する。この2本の線だけです。

入口です。Dの具体的自由は、学習塾のチラシに、真実の合格実績を表示して配布する自由です。営利を目的とする広告でも、受験生や保護者に、塾を選ぶための情報を提供して、その自律的な選択に資します。ですから、21条1項の「その他一切の表現」に入ります。営業の面もあります。けれど、情報を伝えるという面があるかぎり、表現の自由の保障を受けます。営利を目的とするから保障の外、とは書きません。制約です。3条は、合格実績を表示すること自体を禁じ、違反には罰金があります。直接的かつ強度な制約です。形式的正当化は、県議会が制定した条例で、法律の留保を満たします。「合格者の数その他の合格実績」という文言から、何が禁じられるかも明らかです。通過します。振り分けです。3条は、広告の内容が合格実績であることに着目して、表示を禁じます。表現内容規制です。原則は、厳格審査基準でした。

ただし、営利的言論には、目盛りを下げる理由があります。解説の回で見た営利広告の特徴のうち、ここでは3つを使います。1つ目。自己統治の価値を持たないこと。政治的な意思決定に資する表現ではありません。2つ目。内容の真偽の判定が容易なこと。合格者の数は、在籍期間や合格通知で、事実かどうかを確かめられます。3つ目。営利の動機があるので、規制されても萎縮しにくいこと。この理由で、目盛りが下がります。厳格審査基準を、やや緩和した基準で見ます。目的が十分に重要であること。手段が、目的との間に実質的関連性、つまり、しっかりとしたつながりを持つこと。より制限的でない他の選びうる手段があるなら、そちらを使うべきだったとして、このつながりは認められません。中身は、総論の回で見た中間審査基準と同じ形です。厳格審査と比べて緩むのは、まず目的です。やむにやまれぬ必要不可欠な利益までは求めず、十分に重要であれば足ります。手段も、必要最小限度かまでは問わず、しっかりとしたつながりがあるかを見ます。
図:規範と答案の型|営利的言論の規制の審査
一枚にまとめます。真偽の判定が容易で、萎縮しにくいから、緩和した基準で見る。ただし、基準が緩んでも、手段が過剰でないかは見ます。
図:目的|合格実績の水増しから受験生と保護者を守る、苦情は1年間で30件
目的です。条例3条の目的は、合格実績の水増しから、受験生と保護者を守ることです。苦情は、1年間で30件に上りました。目的は、十分に重要です。
図:手段|全面禁止の代わりに、水増しを抑える手段は何か(問い)
手段です。問いです。合格実績の表示を全面的に禁じる代わりに、水増しを抑える手段は、何があるでしょう。板に、事実を並べました。少し考えてみてください。

虚偽または誇大な表示だけを禁じれば、足ります。合格実績の真偽は、在籍期間や合格通知の写しで判定できます。Dの12人は、全員が1年以上在籍していて、合格通知で確かめられます。県はそう言いました。けれど、真偽が容易に判定できるのなら、取締りの難しさは、真実の表示まで禁じる理由になりません。真偽の判定が容易なことは、目盛りを下げる理由でした。その同じ事実が、手段の段では、虚偽の表示だけを狙えば足りる、という方向に働きます。3条は、虚偽でも誇大でもない真実の表示まで、一律に罰金で禁じています。虚偽または誇大な表示だけを禁じる手段で、目的を達成できます。ですから、3条は、目的との間に実質的関連性を欠き、21条1項に反して違憲です。違憲の対象は、条例3条そのものです。3条は表示を一律に禁じていて、軽い措置を選ぶ余地がありません。最後に、最高裁の判断との関係です。あん摩師等に関する法律の、適応症、つまり、その施術が効くとされる病気や症状の、広告の制限について、最高裁は、こう述べています。
判例最高裁判所大法廷判決・昭和36年2月15日
あん摩師等法の広告制限事件 「本法があん摩、はり、きゆう等の業務又は施術所に関し前記のような制限を設け、いわゆる適応症の広告をも許さないゆえんのものは、もしこれを無制限に許容するときは、患者を吸引しようとするためややもすれば虚偽誇大に流れ、一般大衆を惑わす虞があり、その結果適時適切な医療を受ける機会を失わせるような結果を招来することをおそれたためであつて、このような弊害を未然に防止するため一定事項以外の広告を禁止することは、国民の保健衛生上の見地から、公共の福祉を維持するためやむをえない措置として是認されなければならない。されば同条は憲法二一条に違反せず、同条違反の論旨は理由がない。」
患者が適時適切な医療を受ける機会を失うことを、未然に防ぐ。国民の保健衛生の見地から、広告の制限が是認された、という判断です。この判断は、適時適切な医療を受ける機会という、生命や身体に関わる広告についてのものです。医療の広告が虚偽や誇大に流れると、治療の機会を逃すという、取り返しのつかない害が生じます。だから、未然に防ぐために、広く禁じることも是認されました。学習塾の合格実績の広告は、生命や身体に関わらず、真偽も合格通知で確かめられます。この判断は、そのままでは本件に及びません。文言が似ているかではなく、事案がどこまで及ぶかで考えます。
せん動
図:事例|渇水対策法5条1項、7条、12条、13条、Eの投稿、約2か月後の給水制限
2つ目は、せん動です。渇水対策法という法律を考えます。設例のために作った、架空の法律です。5条1項は、渇水により給水の継続が困難となるおそれがあるとき、都道府県知事が、一世帯一日あたりの水道水の使用量の上限を告示できる、と定めます。7条は、上限を超えて使った者を、1万円以下の過料に処する、と定めます。問題の条文は12条です。何人も、上限を超えて水道水を使用するよう、他人をあおり、またはそそのかしてはならない。13条は、違反した者を、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金に処する、と定めます。大規模な渇水で、X県の貯水量が平年の4割に落ちました。県の試算では、このまま推移すれば、約2か月後に給水制限が必要になります。知事は、5条1項に基づいて、上限を告示しました。Eは、フォロワー約2万人のSNSに、こう投稿します。「上限は農業用水と大企業を優先して、家庭にだけ我慢を強いる不公平な政策だ。上限は守らなくてよい。今夜、みんなで一斉に風呂を沸かして抗議しよう。」投稿は、約5000回共有されました。投稿の後、上限を超えた世帯は、県の調べで3世帯にとどまり、県の水道に支障は出ませんでした。県の試算でも、一斉に使用が増えたとして、今夜の給水が止まることはありません。検察官は、Eを12条違反で起訴しました。Eは、12条が憲法に違反すると主張します。問いは、法12条と13条は、憲法に違反するか、です。

関係を図にします。X県がB、投稿したのがEです。Bが12条でEの呼びかけを禁じ、Eは上限への抗議を呼びかける。この2本の線だけです。入口です。Eの具体的自由は、SNSで、水道水の使用量の上限を批判しつつ、上限を超えて使うよう呼びかける自由です。ここで、解説の回でも見た、せん動についての最高裁の事件を、答案の側から読み直します。
判例最高裁判所大法廷判決・昭和24年5月18日
食糧緊急措置令違反事件 「国民が政府の政策を批判し、その失政を攻撃することは、その方法が公安を害せさる限り、言論その他一切の表現の自由に属するであらう。」……「政府の政策を批判し、その失政を攻撃するに止るものではなく、国民として負担する法律上の重要な義務の不履行を慫慂し、公共の福祉を害するものである。されば、かゝる所為は、新憲法の保障する言論の自由の限界を逸脱し、社会生活において道義的に責むべきものであるから、これを犯罪として処罰する法規は新憲法第二一条の条規に反するものではない。」
判決は、政府の政策を批判することは、表現の自由に属しうる、としました。そのうえで、義務の不履行を慫慂すること、つまり、義務を果たさないよう勧めることは、公共の福祉を害し、言論の自由の限界を逸脱するとして、処罰する法規を認めています。ただ、答案では、せん動を一律に保障の外には置きません。せん動は、政策の批判と一体になって行われることが多いからです。一律に外に置くと、政策批判を含む政治的な主張まで、控えようという萎縮が生じます。ですから、Eの投稿も、21条1項の保障を受けると書きます。処罰してよいかは、審査のなかで見ます。

制約です。12条は上限を超える使用をあおることを禁じ、13条は拘禁刑まで科します。Eの投稿を処罰の対象とするので、直接的かつ強度な制約です。形式的正当化です。12条は、国会が制定した法律で、法律の留保を満たします。「あおり、またはそそのかし」という文言は、一般の人にも意味が通じます。明確性も欠きません。

目盛りです。重要性から見ます。Eの投稿は、水道水の使用量の上限という、公共的な事項への抗議と一体です。自己統治に資する表現として、重要性は高い。強度です。違反には拘禁刑まで科されます。強度は強い。重要性が高く、強度も強いので、厳しく見るほうへ引っ張られます。そこで、せん動の性質です。せん動は、聞き手が従って、はじめて害悪が生じます。ですから、処罰は、害悪の危険が大きい場合に限って許される、と書きます。中身は、3つの要素です。重大な害悪を発生させる蓋然性が明白であること。その害悪が時間的に切迫していること。規制手段が、害悪を避けるのに必要不可欠であること。明白かつ現在の危険の基準です。
図:規範と答案の型|せん動の処罰の審査
一枚にまとめます。営利的言論のように、目盛りを一段緩める話ではありません。害悪の危険の大きさで、処罰してよい範囲を絞る話です。目的です。12条の目的は、渇水時に給水を確保することです。生活用水の安定は、重要な公共の利益です。目的は、問題ありません。

手段です。12条は、害悪の危険の大小を問わず、上限を超えて使うようあおり、またはそそのかしたすべてを処罰します。条文そのものに、危険の大きい場合に限る絞りがありません。本件でも確かめます。問いです。3つの要素は、それぞれ満たされているでしょうか。板に、事実を並べました。考えてみてください。

1つ目、蓋然性です。投稿の後、上限を超えた世帯は3世帯にとどまり、水道に支障は出ませんでした。一斉に使用が増えたとしても、今夜の給水は止まりません。給水に支障が出る蓋然性は、明白ではありません。2つ目、切迫性です。給水制限が必要になるのは、約2か月後です。害悪は、時間的に切迫していません。3つ目、必要不可欠性です。上限を超えて使った本人には、刑罰ではない、1万円以下の過料しか科していません。それなのに、その呼びかけには、刑罰である拘禁刑まで科しています。使った本人より、呼びかけた人をはるかに重く罰する必要は、説明できません。必要不可欠とはいえません。
12条は、3つの要素を満たさない場合まで処罰するもので、21条1項に反します。違憲の対象です。12条は、処罰の範囲を、害悪の危険が大きい場合に限っていません。限定して解釈する、つまり、処罰の範囲を危険の大きい場合だけに絞って読めれば、条文を残せます。けれど、12条の文言には、その手がかりもありません。ですから、12条と、これを罰する13条が、違憲です。
完成答案
図:完成答案|第1 入口の特定、第2 制約、第3 形式的正当化
ここまでを、答案の形にしました。こちらが完成答案です。動画を止めて見てみてください。
図:完成答案|第4 実質的正当化、審査基準の定立
審査基準の定立の答案です。まず、振り分けと、厳しく見る理由までです。
図:完成答案|第4 実質的正当化、審査基準の定立
続いて、重要性、強度、裁量、そこから決まる審査基準です。
図:完成答案|第4 実質的正当化、目的
目的の答案です。
図:完成答案|第4 実質的正当化、手段と結論、第5 違憲とすべき対象の選択
手段と結論、そして違憲とする対象の選択の答案です。
図:完成答案|変形 虚偽表現の規制、入口から審査基準の設定まで
続いて、虚偽表現の規制の答案です。
図:完成答案|営利的言論、第1 入口の特定、第2 制約、第3 形式的正当化
営利的言論の答案です。まず、入口から形式的正当化までです。
図:完成答案|営利的言論、第4 実質的正当化、審査基準の定立と目的
続いて、実質的正当化のうち、審査基準と目的です。
図:完成答案|営利的言論、第4 手段と結論、第5 違憲とすべき対象の選択
そして、手段と結論、違憲とする対象の選択です。
図:完成答案|せん動、第1 入口の特定、第2 制約、第3 形式的正当化
せん動の答案です。まず、入口から形式的正当化までです。
図:完成答案|せん動、第4 実質的正当化、審査基準の定立と目的
続いて、せん動の実質的正当化のうち、審査基準と目的です。
図:完成答案|せん動、第4 あてはめ、第5 違憲とすべき対象の選択
最後に、あてはめと、違憲とする対象の選択です。ご自身の答案と見比べてみてください。内容規制なら、原則として厳格審査。営利的言論やせん動では、その目盛りの置き方を見ました。では、内容規制で、対抗する言論が働きにくい表現は、どう審査するのでしょうか。
参照条文
- 日本国憲法21条1項