憲法ゼロから憲法 論文

プライバシー権(前編)

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ゼロから憲法 論文/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

設例

事例の時系列|Y市の災害時見守り名簿条例、Aの聞き取り、登載の通知、自治会Cへの提供、不掲載の届出

今日は、1つの事例を、答案として最後まで書き切ります。Y市が、災害のときの避難支援のために、要介護の人などの名簿を作り、地域の自治会に渡しました。その名簿に載った住民が、この措置は憲法13条に違反すると言えるのか、という事例です。避難支援の名簿が役に立つ場面は、たしかにあります。ただ、名簿に何が書かれ、誰の手に渡るのかで、答案の分かれ目が決まります。まず事実を見ます。Y市は、人口が約12万人の市です。災害時見守り名簿条例で、要介護認定3以上、または身体障害者手帳1級か2級の人、市全体で約3,000人の名簿を作ると定めました。条例の要点は4つです。1つ目、市長は、名簿を作るため、介護保険担当課と障害福祉担当課が持っている情報を、本人の同意なく使える。2つ目、市長は、避難支援等の実施に必要な限度で、名簿の情報を、自治会などの避難支援等関係者に提供できる。3つ目、名簿を見られるのは福祉部と防災部の職員だけで、見るたびに記録を残す。4つ目、登載の要件を失った人の情報は、遅滞なく消す。

名簿の項目|氏名、住所、生年月日、性別、電話番号、疾病名または障害の種別と程度、要介護度、必要な支援の内容

名簿の項目は、氏名、住所、生年月日、性別、電話番号、疾病名または障害の種別と程度、要介護度、必要な支援の内容です。必要な支援の内容は、福祉部の職員が登載者の自宅を訪ねて、聞き取ります。歩行の介助、服薬の管理、医療機器の有無などです。

提供の運用|毎年4月、地区の登載者全員の全項目を紙で自治会へ、同意は求めず事前に知らせる手続もない、受領者の守秘義務も保管の定めもない

提供の運用です。毎年4月、地区ごとに、その地区の登載者全員の名簿を、全項目、紙で自治会に渡します。本人の同意は求めません。渡す前に本人へ知らせる手続も、ありません。市の要綱は、受領者について、名簿を適切に管理し、避難支援以外の目的に用いないよう努めるものとする、と定めるだけです。受領者に守秘義務を課す定めは、条例にも要綱にもありません。保管場所、複写、保管期間、返却の定めも、ありません。もう1つ、同意に関する定めがあります。登載を望まない人は、不掲載の届出ができます。ただし、届出をした人は、個別の避難計画の作成と、指定避難所での優先的な配慮という、市の避難支援の対象から外れます。

関係図|Y市Bが住民Aの情報を集約し自治会Cへ名簿を提供、Aは不掲載の届出で避難支援から外れる

関係を図にします。Y市がB、名簿に載った住民がA、Aの住む地区の自治会がCです。Cは、会員が約400世帯で、役員は15人です。Bは、Aの情報を集めて名簿にします。そして、Cへ名簿を渡します。Aは、不掲載の届出をすると、避難支援から外れます。Aは、50代で、要介護認定3、在宅で療養しています。約10年前に、神経系の難病を発症しました。病名や介助の必要の程度は、家族と、主治医、ケアマネジャー以外には、伝えてきませんでした。近所には、持病がある、とだけ話しています。

経過の時系列|11月に聞き取り、1月に登載の通知書、4月に自治会Cへ全項目を提供、5月に届出、Cは回収されない

経過です。昨年11月、福祉部の職員がA宅を訪ねて、必要な支援の内容を聞き取りました。Aは、避難のための確認、と説明されて答えました。情報の提供先についての説明は、ありませんでした。今年1月、市はAを登載して、通知書を郵送しました。通知書には、名簿は避難支援のため、地域の支援者に提供することがあります、と書かれているだけで、提供先と、提供する項目は書かれていません。今年4月、市は、Aの全項目を含む名簿を、Cに提供しました。Cは、名簿を役員15人に1部ずつ配り、各役員が自宅で保管しています。5月、AはCの役員からの連絡で、提供を知りました。Aは不掲載の届出をしました。市は、来年度以降の名簿からAを除くが、すでにCに渡した名簿は回収しない、と答えました。Aは、避難支援の対象から外れました。問いは1つです。Y市が本件名簿を作成し保有し、これを自治会Cに提供した措置は、Aとの関係で、憲法13条に違反するか。条例と他の法令との関係は、今日は検討しません。

入口

答案の進め方|入口は短く通し、保有と提供の置き分けと、他の手段と態様のあてはめを厚く書く

答案の骨格は、総論の回の型どおりです。入口、制約、正当化の順に進みます。正当化のうち、法律の根拠と文言の明確さを見る段は、条例と他の法令との関係を今日は問わないので、実質的な審査に時間を使います。13条に固有の分かれ目は、3つあります。入口の要件を、どう当てるか。情報の性質と、扱い方の態様で、審査の目盛りをどう決めるか。そして、情報を持つことと、渡すことを、どう置き分けるか。今日は、この3つに時間を使います。とくに、渡す場面の他の手段と態様を、いちばん厚く見ます。入口です。Aが主張する具体的な自由は、自己の疾病や介助の必要に関する情報を、同意なく市に集約し保有されず、地域の自治会に提供されない自由です。以下、本件自由と呼びます。

条文日本国憲法13条

幸福追求権 第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

条文には、プライバシーという言葉が、ありません。そこで、本件自由が、13条後段の幸福追求権から、憲法に明文のない新しい人権として、保障されるのか、という問題が出ます。13条後段は、書かれていない権利の受け皿として読まれています。問題は、どこまでを入れるかです。解説の回で見た、2つの説があります。人格的利益説は、個人の人格的生存に不可欠な利益を内容とする権利の総体を保障する、と考えます。一般的行為自由説は、あらゆる生活領域の行為の自由を保障する、と考えます。答案では、この対立に深入りしません。設例の利益が、狭いほうの説でも入るなら、どちらの説でも保障される、と言い切れるからです。Aの事実を拾います。病名と、介助の必要の程度は、Aが家族と医療介護の関係者にだけ明かしてきた情報です。誰に知られ、誰が持つのかを、自分で決められなくなれば、Aの人格的自律、つまり、自分のことを自分で決めて生きていくことが、害されます。だから、人格的生存に不可欠な利益にあたり、人格的利益説で入ります。人格的利益説で入るのですから、一般的行為自由説でも、当然入ります。

規範と答案の型|新しい人権の入口 人格的生存に不可欠な利益は13条後段で保障 Aの病名と介助の程度は人格的自律に関わり人格的利益説でも一般的行為自由説でも保障

この板の真ん中の規範を、区切って読みます。1つ目の区切りは、「人格的生存に不可欠な利益にあたるものは、憲法13条後段により保障される」です。入口の要件を、人格的利益説の形で置いています。2つ目の区切りは、「自分の情報が本人の知らないところで集められ使われると、人格的自律が損なわれる」です。ここが、情報の場面に引き寄せる橋です。情報化が進んだ現代では、情報が、本人の知らないところで集められ、使われます。そのとき害されるのが、人格的自律だ、と言います。3つ目の区切りは、「自分の情報の取扱いを自ら決める利益としてのプライバシーは、人格的生存に不可欠な利益にあたる」です。下の段のあてはめです。Aが家族と医療介護の関係者にだけ明かしてきた情報で、取扱いを自分で決められなくなれば、人格的自律が害される。この事実で、人格的生存に不可欠な利益にあたる、と言います。そして、あらゆる生活領域の行為の自由を保障する説に立っても、入ります。

判例最大判昭44・12・24 刑集23巻12号1625頁

京都府学連事件の判決(13条から私生活上の自由を導く) 「憲法一三条は、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と規定しているのであつて、これは、国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものということができる。そして、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されない自由を有するものというべきである。」

この判決は、警察官による写真撮影の事案です。Aの場面は、撮影ではなく、情報の取扱いです。ただ、13条から、公権力に対しても保護される私生活上の自由を導き、その一つとして、個別の自由を取り出す形は、同じです。注意が1つあります。この判決は、新しい人権の要件を、定式化していません。判決は、13条から個別の自由を導く形の手本として、引きます。

保障の範囲

問い|単体では要保護性の低い氏名や住所などの情報も保障の対象に含める理由は何という働きか

次は、保障の範囲です。その前に、解説の回の復習を1問、挟みます。氏名や住所のように、単体では要保護性の低い情報、いわゆるプライバシー外延情報も、保障の対象に含めるのは、何という働きがあるからでしたか?少し考えてみてください。

答え|外延情報は他の情報に辿り着く鍵になる、マスターキーの働き 図:答え|外延情報は他の情報に辿り着く鍵になる、マスターキーの働き

答えは、マスターキーです。氏名や住所は、それだけなら軽い情報です。しかし、それを手がかりに、その人の他の情報を探し出し、つなぎ合わせることができます。その、鍵としての働きがあるので、外延情報も、保障の外には出しません。この働きを、名簿の項目に当てはめるのが、この節です。

判例最判平20・3・6 民集62巻3号665頁

住基ネット事件の判決(13条から導かれる自由と、情報の性質の評価) 「憲法13条は,国民の私生活上の自由が公権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものであり,個人の私生活上の自由の一つとして,何人も,個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有するものと解される。」……「このうち4情報は,人が社会生活を営む上で一定の範囲の他者には当然開示されることが予定されている個人識別情報であり,」……「これらはいずれも,個人の内面に関わるような秘匿性の高い情報とはいえない。」

この判決の語を、確認します。13条から導かれたのは、個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由、です。権利という名前の付いた大きな枠ではなく、情報を第三者に開示、公表されないという自由として、言っています。この判決を答案で引くときは、この語のまま書きます。解説の回で見た、自己情報コントロール権、つまり、自己に関する情報をコントロールする権利を、この判決が認めた、と書き換えると、判決が言っていないことを答案に書くことになります。判決は、氏名、生年月日、性別、住所の4情報を、個人識別情報と呼び、個人の内面に関わるような秘匿性の高い情報とはいえない、と評価しました。この評価の物差しが、情報の秘匿性です。

秘匿性が高くないからといって、保障されないとは言えません。次の判決を見ます。

判例最判平15・9・12 民集57巻8号973頁

江沢民講演会名簿提出事件の判決(単純な個人識別情報でも法的保護の対象) 「学籍番号,氏名,住所及び電話番号は,……個人識別等を行うための単純な情報であって,その限りにおいては,秘匿されるべき必要性が必ずしも高いものではない。」……「しかし,このような個人情報についても,本人が,自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくないと考えることは自然なことであり,そのことへの期待は保護されるべきものであるから,本件個人情報は,上告人らのプライバシーに係る情報として法的保護の対象となるというべきである。」

上告人らとは、講演会に参加した大学の学生たちです。学生の名簿を、大学が警察に渡した事案です。見てほしいのは、「しかし」です。前半は、単純な情報で、秘匿されるべき必要性が必ずしも高くない、と言います。ところが、「しかし」で反転して、それでも法的保護の対象になる、と結論します。前半だけを写して、要保護性が低い、と書くと、判決を逆に使うことになります。この判決は、どの段の手本か。保障の範囲で、単純な情報だから外れる、と書かないための手本です。

判例最判昭56・4・14 民集35巻3号620頁

前科照会事件の判決(名誉、信用に直接かかわる情報、報告の範囲) 「前科及び犯罪経歴(以下「前科等」という。)は人の名誉、信用に直接にかかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有するのであつて、市区町村長が、本来選挙資格の調査のために作成保管する犯罪人名簿に記載されている前科等をみだりに漏えいしてはならないことはいうまでもないところである。」……「このような場合に、市区町村長が漫然と弁護士会の照会に応じ、犯罪の種類、軽重を問わず、前科等のすべてを報告することは、公権力の違法な行使にあたると解するのが相当である。」

市が、本人の前科を弁護士会に回答した行為が、違法とされた事案です。見てほしいのは、情報の性質です。前科は、人の名誉、信用に直接かかわる。秘匿性の高い側の、手本です。また、犯罪の種類、軽重を問わず、前科等のすべてを報告した点が、問題にされています。この、すべてを渡した、という点は、あとで、提供の範囲を見るときに使います。

保障の範囲の流れ|名簿の項目を固有情報と外延情報に分け、外延情報は固有情報と並ぶとマスターキーにもなり、名簿全体の秘匿性は高い

では、名簿の項目を、事実で分けます。疾病名、要介護度、必要な支援の内容は、心身に関する基本的な情報です。個人の道徳的な自律に直接かかわる、プライバシー固有情報にあたります。人の心身の状態は、他人に知られたくないと考えるのが通常です。秘匿性は高い、と言い切ります。氏名、住所、生年月日、性別、電話番号は、個人識別情報です。単体では、秘匿性は高くありません。ただ、この名簿では、固有情報と同じ紙に、一体として書かれています。氏名と住所を見れば、その人が、どの病気で、どんな介助が要るのかに、辿り着けます。マスターキーです。だから、外延情報も、保障の外には出ません。名簿全体で見ると、秘匿性は高い情報です。ここで、もっと軽い情報、たとえば氏名と住所だけの名簿なら、人格にかかわる度合いが下がるので、目盛りは、下がる方向に動きます。それでも、鍵の働きがある以上、保障の外には出ません。情報の性質を事実で言い切るとは、こういうことです。

規範と答案の型|13条は個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を保障 識別情報も法的保護の対象 疾病名と支援の内容は秘匿性が高く名簿全体の秘匿性は高い

この板の真ん中の規範を、区切って読みます。1つ目の区切りは、「個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由」です。2つ目の区切りは、「個人の私生活上の自由の一つとして」です。13条から、公権力に対しても保護される私生活上の自由を導く、という、京都府学連の判決と同じ形です。下の段のあてはめです。疾病名、要介護度、支援の内容は心身の基本情報で、秘匿性が高い。氏名などは、識別情報でも、同じ名簿で結び付き、マスターキーにもなる。いずれも本件自由の対象になり、名簿全体の秘匿性は高い。ここまでが、保障の範囲です。

制約の特定

保有と提供の区別|Y市がしたのは、聞き取りと集約と保管(持つ)と、自治会への提供(渡す)の二つ

次は制約です。公権力が何をしたのかを、事実から特定します。Y市がしたことは、2つあります。1つ目は、聞き取りと、既存の情報の集約で名簿を作り、保管して持つこと。2つ目は、その名簿を、自治会Cに渡すことです。この2つは、分けて書きます。金庫にしまった書類と、手渡した封筒の違いです。金庫の書類は、まだ誰にも見られていません。見られる危険があるかどうかは、鍵の管理で決まります。手渡した封筒は、もう相手の手にあります。見られる危険を問う段階は、過ぎています。使う判例も、分かれます。持つ場面、つまり管理、利用の場面には、住基ネットの判決の物差しを使います。渡す場面、つまり第三者への開示は、前科照会や江沢民講演の判決を、事実の拾い方の手本にして、目盛りを決めて、目的と手段を審査します。

問い|住基ネットは具体的な危険がないから合憲だった、本件の自治会への提供にも同じ具体的な危険の物差しを当てて判断できるか

問いです。住基ネットは、制度に不備がなく、情報が第三者に開示される具体的な危険は生じていないから、合憲でした。本件の自治会への提供にも、この、具体的な危険があるか、という物差しを、そのまま当てて判断できるでしょうか。少し考えてみてください。

答え|提供はすでに第三者への開示そのものなので危険を経由せず制約にあたる、物差しは開示されそうな危険を見る場面のもの

答えは、当てられない、です。提供は、すでに第三者への開示そのものです。開示される危険があるかを問うまでもなく、開示は現にされています。この物差しは、持っている情報が、これから第三者に開示されそうな危険を見る場面のものです。したがって、提供は、危険を経由せず、本件自由に対する制約にあたります。しかも、Aは同意しておらず、提供の前に、その機会もありませんでした。

作成と保有

作成と保有の判断|条例の根拠と避難支援の目的、閲覧の制限と記録、職員の守秘義務と罰則、消去の定め

まず、名簿の作成と保有から、検討します。

判例最判平20・3・6 民集62巻3号665頁

住基ネット事件の判決(管理、利用の物差し) 「また,前記確定事実によれば,住基ネットによる本人確認情報の管理,利用等は,法令等の根拠に基づき,住民サービスの向上及び行政事務の効率化という正当な行政目的の範囲内で行われているものということができる。住基ネットのシステム上の欠陥等により外部から不当にアクセスされるなどして本人確認情報が容易に漏えいする具体的な危険はないこと,受領者による本人確認情報の目的外利用又は本人確認情報に関する秘密の漏えい等は,懲戒処分又は刑罰をもって禁止されていること,……本人確認情報の適切な取扱いを担保するための制度的措置を講じていることなどに照らせば,住基ネットにシステム技術上又は法制度上の不備があり,そのために本人確認情報が法令等の根拠に基づかずに又は正当な行政目的の範囲を逸脱して第三者に開示又は公表される具体的な危険が生じているということもできない。」

判例最判平20・3・6 民集62巻3号665頁

住基ネット事件の判決(同意がなくても侵害しない) ……「行政機関が住基ネットにより住民である被上告人らの本人確認情報を管理,利用等する行為は,個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表するものということはできず,当該個人がこれに同意していないとしても,憲法13条により保障された上記の自由を侵害するものではないと解するのが相当である。」

被上告人らとは、住民たちです。原審で勝っていた側です。判決は、合憲の判断でした。構造を、順に見ます。法令等の根拠があるか。正当な行政目的の範囲内か。そのうえで、システム技術上、または法制度上の不備があり、そのために、情報が第三者に開示、公表される具体的な危険が生じていないか。この3点を満たせば、本人が同意していないとしても、侵害しない、と言います。ただ、射程には、気をつけてください。この判決が扱ったのは、秘匿性の高くない4情報と、制度的措置が整った管理です。情報の性質や、制度の手当てが違えば、結論は動きます。使えるのは、物差しです。合憲という結論は、使えません。

規範と答案の型|管理利用は法令等の根拠と正当な行政目的の範囲内で制度上の不備による具体的な危険がなければ同意がなくても自由を侵害しない

この板の真ん中の規範を、区切って読みます。1つ目の区切りは、「法令等の根拠に基づき、正当な行政目的の範囲内」です。管理が、権限の外に出ていないか、という確認です。2つ目の区切りは、「システム技術上又は法制度上の不備があり、そのために……第三者に開示又は公表される具体的な危険が生じている」です。不備があるか、だけではなく、不備のために、具体的な危険が生じているか、まで見ます。3つ目の区切りは、「当該個人がこれに同意していないとしても」です。同意が無いことは、それだけでは、侵害の理由になりません。管理の場面の特徴です。下の段のあてはめです。条例の根拠と、避難支援という目的があります。閲覧は福祉部と防災部の職員に限られ、記録が残ります。職員には、条例に書かれていなくても、地方公務員法によって当然に守秘義務があり、違反には罰則もあります。登載の要件を失えば、遅滞なく消されます。聞き取りも、避難のための確認として行われました。名簿の情報は、秘匿性が高いものです。それでも、作成と保有は、市の内部の管理にとどまり、こうした手当てがあります。だから、市の内部に不備はなく、第三者に開示される具体的な危険は生じていません。作成と保有は、Aが同意していなくても、本件自由を侵害しません。補足です。保有を、後で見る目盛りで書く道も、あります。同じ事実で、合憲に着地します。ここでは、判例の構造で処理しました。

提供の判断

審査基準の考え方|重要性は高い、強度は強い、災害対応は裁量を認める事情、厳格審査が出発点で一段緩めて中間審査

ここからが、今日の本番です。自治会への提供を、審査します。審査の目盛りを、総論の回と同じ三つの枠で決めます。権利の重要性、制約の強度、そして裁量です。権利の重要性は、保障根拠との距離で見ます。本件自由の根拠は、自己に関する情報の取扱いを自分で決め、人格的自律を保つことです。提供される情報には、心身の基本情報が含まれます。前科が、人の名誉、信用に直接かかわるのと同じく、他人に知られたくない度合いが高い。解説の回で見た、情報が人格にどれだけ深くかかわるかと、鍵として他の情報と結び付けられやすいかも、ここで拾います。病名は前者で重く、氏名と住所は後者で効きます。だから、重要性は高いです。制約の強度は、取扱いの態様で見ます。同意を求めていません。不掲載の届出をすれば、避難支援から外れるので、Aが提供を拒む選択は、事実上できません。範囲は、地区の登載者全員の全項目で、平時から一括です。受領者は、私人である自治会の役員15人で、各自が自宅で保管します。守秘義務も、保管の定めもありません。強度は、強いです。

避難支援が命に関わるからこそ、審査を緩めてよいのかが問われます。そこが、3つ目の枠です。避難支援は、地域の実情に応じた専門的な判断が要り、住民の生命、身体の保護にかかわります。市の判断を、ある程度尊重する必要があり、裁量が認められます。ただし、本件は、心身の基本情報を、管理の定めなく私人に渡す強い制約です。手段の選び方を、白紙で委ねるほどの幅では、ありません。

規範と答案の型|重要性が高く強度が強いと厳格審査が出発点、裁量があれば一段緩めて中間審査、目的が十分に重要で手段に実質的関連性があり他の手段がないこと

この板の規範を、区切って読みます。1つ目の区切りは、「厳格審査基準が出発点」です。重要性が高く、強度も強いので、まず、この基準を考えます。2つ目の区切りは、「裁量が認められるときは一段緩め、中間審査基準による」です。厳格審査は、目的が必要不可欠で、手段が必要最小限であることまで求めます。合理性の基準は、目的が正当で、手段が目的と一応つながっていれば足ります。災害対応の裁量があるので、厳格審査までは上げません。けれど、権利が重く、制約も強いので、合理性の基準までは下げません。最後の区切りです。「①目的が十分に重要であり、②手段が目的との間に実質的関連性を有し、より制限的でない他の選びうる手段がない」です。目的、手段の関連性、他の手段、という順に、当てはめます。ここで、判例の位置づけを確認します。前科照会や江沢民講演の判決は、この基準の出典では、ありません。情報の性質、同意を求める容易さ、管理といった、重要性と強度の事実を拾うときの、手本です。

目的と関連性|災害時の避難支援は生命と身体を守る目的で十分に重要、平時から支援者が把握すれば発災時に動けるため関連性あり

目的です。提供の目的は、災害時の避難支援です。過去の水害で、要介護の人の避難が遅れた、という事情があります。人の生命、身体を災害から守る目的で、十分に重要です。手段の関連性です。平時から、地域の支援者が一人ひとりの状況を知っていれば、発災時にすぐ動けます。名簿の提供は、目的の達成に資します。実質的関連性は、認めます。認めるべきところを争って、答案の信用を落とさないためです。

問い|他の手段で目的はどこまで達成できるか、項目を絞る、同意した人にだけ平時に提供、受領者に管理の定め

問いです。他の手段を3つ挙げます。名簿の項目を、避難に要るものに絞る。同意した人にだけ、平時に提供して、その他の人には、発災のおそれのあるときに限って提供する。受領者に守秘義務を課して、保管の定めを置く。それぞれ、目的をどこまで達成できるでしょう。少し考えてみてください。

答え|項目の限定は目的をほぼ達成、同意者への平時提供は相当程度達成、受領者の管理の定めは漏えいの危険を下げる

1つ目は、提供項目の限定です。避難支援に要るのは、歩行に介助が要る、医療機器を使っている、といった、支援の内容です。病名や要介護度までは、要りません。氏名、住所、必要な支援の内容に絞っても、避難支援の目的は、ほぼ達成できます。玄関の鍵の場所を伝えれば足りるのに、診療の記録ごと渡している、ということです。2つ目は、同意した人への平時の提供です。市は、すでに登載者の自宅を訪ねて聞き取り、通知書も郵送しています。提供の前に承諾を求めることは、容易です。それが困難な特別の事情も、うかがわれません。同意した人にだけ平時に渡し、同意しない人には、発災のおそれのある時に限って渡す。それでも、避難支援の目的は、相当程度達成できます。3つ目は、受領者の管理の定めです。守秘義務を課し、保管場所を決め、複写を禁じ、保管期間を区切り、返却を定める。これで、漏えいの危険を下げられます。これは、市の内部にはすでに整っている手当てを、提供先にも及ぼすだけです。他の手段を挙げるときは、効き具合まで書きます。他にも手段があります、とだけ書いても、答案になりません。

確実さでは、全項目を渡すほうが上回ります。ただし、判断の尺度は、目的を十分に達成できるか、であって、最大限に達成できるか、では、ありません。病名がなくても、介助の内容が分かれば、支援者は動けます。

態様|任意に提供した情報への適切な管理の期待、提供先の説明なし、不掲載の届出は避難支援を失う二者択一、全項目を役員15人が自宅で期限なく保管

次は、態様です。ここは、規範の最後の区切り、より制限的でない他の選びうる手段がない、の続きです。他の手段で目的を達成できると分かったら、次に、市が実際に選んだ渡し方が、それよりどれだけ踏み込んでいるかを、提供の仕方の事実で示します。同じ事実は、目盛りを決めるときにも使いました。そこでは、審査をどれだけ厳しくするかの材料でした。ここでは、選んだ手段が過度だ、と言うための材料です。

判例最判平15・9・12 民集57巻8号973頁

江沢民講演会名簿提出事件の判決(同意を求める容易さ、適切な管理への合理的な期待) 「……開示について承諾を求めることは容易であったものと考えられ,それが困難であった特別の事情がうかがわれない本件においては,……上告人らに無断で本件個人情報を警察に開示した同大学の行為は,上告人らが任意に提供したプライバシーに係る情報の適切な管理についての合理的な期待を裏切るものであり,……」

同大学とは、学生の名簿を集めた私立大学です。上告人らは、その学生たちです。大学という私人の不法行為の判断で、13条は引かれていません。公権力の事案では、ありません。だから、ここから引くのは、規範ではなく、事実の拾い方です。承諾を求めることが容易だったか、任意に提供した情報の適切な管理への期待を、裏切っていないか、という見方です。本件に当てます。Aは、避難のための確認、と説明されて、自分の支援の内容を答えました。任意に提供した情報について、適切に管理される、という合理的な期待を持っていたはずです。ところが、提供先の説明は、ありません。通知書にも、提供先と項目は書かれていません。不掲載の届出をすれば、避難支援を失うので、提供を受け入れるか、避難支援を失うか、の二者択一を迫られます。そのうえ、病名を含む全項目が、守秘義務のない役員15人の自宅に、期限の定めなく置かれています。前科照会の判決が、犯罪の種類、軽重を問わず、すべてを報告した点を問題にしたのと、同じ形です。市の内部には、閲覧の制限も、記録も、守秘義務も、消去の定めも、あります。その手当てが、提供先の手前で、切れています。ここが、保有の場面と、提供の場面の、決定的な違いです。

態様の表|事情と、A・Cの事実と、行き過ぎへの効きを並べた表、説明なし、二者択一、全項目、守秘義務なし、期限なし

板に、事情と、事実と、手段の行き過ぎへの効きを、並べました。同意の機会が実質的にないこと。全項目を、平時に一括で渡すこと。受領者の管理の定めがないこと。提供先の説明がないこと。以上の4つが、どれも、選んだ手段が他の手段より踏み込んでいる方向に働きます。判例との違いも、一言で置きます。住基ネットは、制度的措置が整った管理でした。本件の提供は、そこが欠けています。住基ネットの結論は、持ち込めません。以上を合わせます。他の手段で、目的を相当程度達成できます。それなのに、同意を求めず、全項目を管理の定めなく渡しています。より制限的でない他の選びうる手段があるので、規範の最後の区切りを満たさず、手段として過度です。したがって、本件の提供は、本件自由を侵害します。提供でも、合憲に書く道は、あります。災害の切迫性と、目的の重さを厚く見る書き方です。ただ、他の手段と態様の事実を拾うと、結論は、違憲に着地します。

結論と対象|条例は必要な限度でと限定しており合憲、必要な限度を超えて全項目を管理の定めなく提供した本件提供措置が違憲

違憲とする対象を選びます。総論の回で見たとおり、規定そのものを違憲とする場合と、規定は残して、それに基づく措置だけを違憲とする場合があります。条例は、名簿の提供を、避難支援等の実施に必要な限度で行える、と定めています。この文言があれば、市長は、提供する項目を絞り、同意を得て、管理の条件を付けて提供できます。条例を、限定して運用する道が、残っています。違憲の原因は、規定の中身ではなく、運用の選び方にあります。したがって、条例自体は合憲で、違憲となるのは、必要な限度を超えて、全項目を管理の定めなく提供した、本件提供措置です。結論です。名簿の作成と保有は、13条に違反しません。自治会Cへの本件提供措置は、本件自由を侵害し、13条に違反して違憲です。

完成答案

完成答案|第1 入口の特定 図:完成答案|第1 入口の特定

ここまでを、答案の形にしました。こちらが完成答案です。動画を止めて見てみてください。この板は、入口の段の前半です。具体的な自由を設定し、保障の根拠となる規範を立てる運びを見てください。

完成答案|第1 あてはめ、結論、第2 保障の範囲の問題提起 図:完成答案|第1 あてはめ、結論、第2 保障の範囲の問題提起

どちらの説でも保障される、と言い切る結論から、保障の範囲の問いに入ります。

完成答案|第2 情報の性質の規範とあてはめ 図:完成答案|第2 情報の性質の規範とあてはめ

この板は、固有情報、外延情報、マスターキーで、情報の性質を事実から言い切る運びです。

完成答案|第2 結論、第3 制約、保有の規範 図:完成答案|第2 結論、第3 制約、保有の規範

保有と提供を置き分け、保有には判例の物差しを立てます。

完成答案|第3 保有のあてはめと小括 図:完成答案|第3 保有のあてはめと小括

この板は、保有を判例の物差しで当てる段です。内部の手当てを、事実で一つずつ拾う運びに注目してください。

完成答案|第3 提供、第4 権利の重要性 図:完成答案|第3 提供、第4 権利の重要性

今日の本番の前半です。提供を制約と置いたうえで、重要性から目盛りを決めていきます。

完成答案|第4 制約の強度、裁量、審査基準 図:完成答案|第4 制約の強度、裁量、審査基準

重要性、強度、裁量の3つから、目盛りを決める段です。

完成答案|第4 目的、手段の関連性、他の手段 図:完成答案|第4 目的、手段の関連性、他の手段

今日の本番の後半です。他の手段を、効き具合まで書く段に注目してください。

完成答案|第4 他の手段の続き、態様、小括 図:完成答案|第4 他の手段の続き、態様、小括

この板は、態様で、市の内部の手当てが提供先の手前で切れていることを拾う段です。

完成答案|第4 違憲とする対象、第5 結論 図:完成答案|第4 違憲とする対象、第5 結論

最後に、違憲とする対象の選択と、結論です。ご自身の答案と見比べてみてください。今回は、情報を、持たれ、渡される場面を見ました。では、情報ではなく、自分の生き方や身体のことを、自分で決める自由は、13条で守られるのでしょうか。

参照条文

  • 日本国憲法13条

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