憲法ゼロから憲法 論文

知る自由(前編)

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ゼロから憲法 論文/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

設例

事例の時系列|県の調査と専門家の意見、補導件数、条例の制定、施行後1年の指定 図:事例の時系列|県の調査と専門家の意見、補導件数、条例の制定、施行後1年の指定

今日は、1つの事例を、答案として最後まで書き切ります。駅前の公衆無線LANで動画を観ていた高校生が、その動画を観られなくされた。県の条例は憲法に違反しないか、という事例です。今日の争う人は、その2者ではありません。観る側の高校生です。この点は、答案の中で一度だけ、はっきり書きます。まず事実です。K県の審議会は、県内の中学生と高校生3000人にアンケートをしました。暴力的な動画を週に1回以上観る人は約600人、2割です。そのうち約300人は、駅前や商業施設の公衆無線LANで観ることがあります。審議会が意見を聴いた専門家は、全部で5人です。4人は、暴力的な映像に長く接すると攻撃的な言動が強まる可能性を示す研究は複数あるが、因果関係を確定した研究はない、と述べました。残る1人は、影響は限定的だ、と述べました。県内の少年による暴行の補導件数は、3年間で340件から410件に増えました。県議会では、駅前の公衆無線LANで暴力的な動画を観る若者が目立つ、という発言も出ました。

設例の条文|K県青少年健全育成条例の1条、6条、9条、15条(架空の条例) 図:設例の条文|K県青少年健全育成条例の1条、6条、9条、15条(架空の条例)

K県議会が制定したのは、青少年健全育成条例です。設例のために作った、架空の条例です。以下、本件条例と呼びます。板の条文を見てください。1条は、18歳に満たない者を、健全な育成を阻害するおそれのある情報から守ることを、目的に掲げます。6条は、人を傷つけ、または殺す行為を、殊更に詳細かつ娯楽的に描写している動画で、青少年の健全な育成を阻害するおそれがあると知事が認めるものを、審議会の意見を聴いて、有害動画として指定し、告示する、と定めます。9条は、公衆無線LANを県内で提供する者に、指定された有害動画に接続できないようにすることを義務づけます。15条は、違反した者には、知事が是正を命じます。その命令にも従わなければ、罰金に処する、と定め、上限は50万円です。

関係図|K県Bが9条で事業者Cに遮断を義務づけ、Cの公衆無線LANを高校生Aと会社員Dが使う

関係を図にします。K県がB、公衆無線LANを提供する事業者がC、動画を観る高校生がA、会社員がDです。Bが9条でCに遮断を義務づける。Cの公衆無線LANを、AとDが使う。この線で、登場人物のすべてです。県内には、公衆無線LANが約400か所あります。どこにも、利用者の年齢を尋ねる仕組みはありません。Cは、利用者が青少年か成人かを区別できませんから、遮断は全利用者に及びます。

Aの事情|17歳、月3ギガバイトの携帯、固定回線は夜だけ、観られなくなった5本 図:Aの事情|17歳、月3ギガバイトの携帯、固定回線は夜だけ、観られなくなった5本

施行後の1年間に、知事は168本の動画を有害動画に指定しました。事業者は全て遮断で対応し、是正の命令は出ていません。指定された動画は、自宅の固定回線や携帯電話のモバイル回線では、引き続き観られます。Aは17歳です。携帯電話の契約は月3ギガバイトまでで、超えると通信が遅くなります。自宅には家族共用の固定回線がありますが、Aが自由に使えるのは夜だけです。Aは、放課後に駅前の公衆無線LANで、格闘技やアクションの動画を観るのが日課でした。Aが観ていた動画のうち5本が指定され、そこでは観られなくなりました。Aは、本件条例9条は自分の知る自由を侵害する、と主張しています。Dは28歳の会社員です。昼休みに乗換駅の公衆無線LANで観ていた動画のうち2本が指定され、そこでは観られなくなりました。Dの自宅の固定回線では観られます。Dは、あとで出てきます。問いは1つです。本件条例9条は、憲法21条1項に違反するか。

入口と骨格

答案の進め方|入口、制約、形式的正当化は短く通し、受け手の側に固有の分かれ目を厚く書く

答案の骨格は、総論の回の型どおりです。入口、制約、形式的正当化を短く通して、受け手の側と、青少年の保護に固有の分かれ目に時間を使います。入口です。Aの具体的自由は、駅前の公衆無線LANを通じて、知事が有害動画に指定した動画を観て、情報を入手する自由です。

条文日本国憲法21条1項

集会・結社・表現の自由 第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

条文を読むと、ここに書かれているのは、言論、出版、つまり、情報を発する側の自由です。観る側のAの自由が、ここに入るのか。入口で最初に引っかかるのは、この点です。形式的正当化は、一言で通します。総論の回で見た、法律の根拠と、明確性を確かめる段です。本件条例は、住民の代表である県議会が制定した条例です。憲法94条は、地方公共団体が法律の範囲内で条例を制定できる、と定めていますから、法律の根拠の要請は満たします。指定の基準の明確性と、指定が検閲にあたるかは、それぞれ独立に論じうる論点です。答案では、別に検討する、と一言書いて先へ進み、時間を、受け手の側の分かれ目に回します。そして、もう1つ、ここで置いておきます。本件条例は、動画の内容、つまり、暴力を詳細かつ娯楽的に描いているかで指定します。内容に着目する規制です。ですから、本来は厳しく見る規制です。この点は、あとで、目盛りの節に戻ってきます。

知る自由の根拠

根拠|21条1項は文言上、誰の自由を書いているか、受け手の自由はどんな理由で入ってくるか(問い)

問いです。21条1項は、文言上、誰の自由を書いているでしょう。そして、観る側の自由は、どんな理由で、そこに入ってくるでしょう。板には、見る観点だけを並べました。少し考えてみてください。

根拠|文言は送り手の自由、分離と固定化、受け手は受動的、入手できなければ表現の自由は機能しない、よって受け手の自由も保障(答え)

答えは、一続きの鎖です。文言は送り手の自由。ところが、今の社会では、情報の送り手と受け手が分かれて、固まっています。受け手は受け身の立場です。その受け手が情報を入手できなければ、送り手の表現の自由は働きません。だから、受け手の自由も、21条1項の保障に入る。この鎖で書きます。受け手に情報が届かない状態を、表現の自由として放っておけない、というのが、この鎖の中身です。この鎖を、一枚にまとめました。

規範と答案の型|知る自由の保障根拠(分離と固定化、入手できなければ表現の自由は機能しない) 図:規範と答案の型|知る自由の保障根拠

板を、そのまま映しておきます。上の段に問題提起、真ん中に規範、下にあてはめがあります。真ん中の二文を、区切って見ていきます。1つ目の区切りは、「情報の送り手と受け手が分離・固定化し、受け手は受動的立場にある」です。分離・固定化とは、送り手と受け手が入れ替わらず、役割が固まっていることです。自分では情報を作れず、入手に頼るしかない。だから、「受動的」と書きます。2つ目の区切りは、「情報を入手できなければ表現の自由は機能しない」です。ここが、この鎖の核です。受け手が受け取れなければ、送り手の表現は、誰にも届かず、空洞になります。実質的に保障する、とだけ書くと、この中身が抜けます。この一文は、必ず書いてください。3つ目の区切りは、「受け手の自由(知る自由)をも保障する」の、「も」です。送り手の自由に加えて、という意味です。21条1項の文言が変わるのではなく、読み方を、受け手の側にも広げます。この知る自由は、解説の回で見た、知る権利のうち、自由権的側面にあたります。最後の区切りは、「解する」です。条文には書いていません。ですから、これは解釈で立てる基準だと、文末で示しています。下の段のあてはめも見ておきましょう。Aが主張する、公衆無線LANで動画を観て情報を入手する自由は、情報の受け手の自由、つまり知る自由にあたります。ですから、21条1項で保障される。この3行が、答案の第1の骨になります。

判例最大判平成元年3月8日(大法廷)

レペタ事件の判決(知る自由の根拠づけ) 「憲法二一条一項の規定は、表現の自由を保障している。そうして、各人が自由にさまざまな意見、知識、情報に接し、これを摂取する機会をもつことは、その者が個人として自己の思想及び人格を形成、発展させ、社会生活の中にこれを反映させていく上において欠くことのできないものであり、民主主義社会における思想及び情報の自由な伝達、交流の確保という基本的原理を真に実効あるものたらしめるためにも必要であつて、このような情報等に接し、これを摂取する自由は、右規定の趣旨、目的から、いわばその派生原理として当然に導かれるところである。」

判例も、同じ結論です。レペタ事件の大法廷判決は、情報等に接し、これを摂取する自由は、21条1項の規定の趣旨、目的から、いわばその派生原理として当然に導かれる、と言いました。

受け手の自由の制約

制約|9条の名宛人は事業者C、遮断でAは公衆無線LANで指定動画に接続する手段を失う

次は、制約です。ここにも、受け手の側に固有の問題があります。9条が直接に義務づけるのは、事業者のCです。Aには、観てはいけない、とは何も課していません。それなら、Aの自由は制約されていない、とならないんですか。そこが、落とし穴です。名宛人が誰かではなく、Aに現実に何が起きるかを見ます。Cが遮断すれば、Aは、駅前の公衆無線LANで指定動画に接続する手段を失います。入手の手段が奪われるのですから、Aの知る自由の制約です。ここで、誰の自由を主張する答案かが、はっきりします。答案では、入口で具体的自由を書くところに、一度だけ書きます。Aは、観る本人として、自分の自由を主張します。動画の投稿者やCの自由は援用しません。この一文を入れると、あとの検討が、全部Aの自由に揃います。もう1つ、ここで評価しておきます。止まるのは、公衆無線LAN経由の接続です。入手方法の一部が止まる、という強さの制約です。この評価は、次の節で、そのまま使います。

目盛り

目盛り|前の論文回の復習、内容規制を厳しく見る理由 図:目盛り|前の論文回の復習、内容規制を厳しく見る理由

目盛りに入る前に、前の論文の回の復習です。内容規制を厳しく見る理由は、何でしたか?政府が特定のメッセージを思想の自由市場から排除して、その市場をゆがめるから、でした。本件条例は、動画の内容で指定しますから、本来は、その厳しい見方の対象です。それでも、審査を緩める理由があるのか。あるとすれば、いくつ、どこにあるのか。それを書いて、どの厳しさの基準で審査するか、つまり目盛りを決めるのが、この節です。

目盛り|審査を緩める理由は、規制の側と権利の側で、それぞれ何か(問い) 図:目盛り|審査を緩める理由は、規制の側と権利の側で、それぞれ何か(問い)

問いです。未成年者にも、知る自由は保障されます。それでも、審査を緩めてよい理由は、規制の側と、権利の側で、それぞれ何でしょう。少し考えてみてください。

規制態様|自宅の固定回線とモバイル回線では観られる、入手方法の一部の制限にとどまる、ただしこれだけでは緩める理由として足りない(答え)

規制の側の理由から見ます。規制態様です。止まるのは公衆無線LANだけで、自宅の固定回線や携帯電話のモバイル回線では、引き続き観られます。指定動画の入手方法を、一部制限するにとどまります。例えば、Aは夜に自宅の固定回線で、指定動画を観られます。規制態様は弱い、と書けます。ただし、規制態様が弱いだけでは、審査を緩める理由として足りません。もし、権利の中心を貫く規制なら、態様が弱くても、厳しく見るからです。例えば、政治についての意見を述べる動画を止めるなら、他の回線で観られても、厳しく見ます。ですから、緩める理由が、もう1つ必要です。Aの場合、それは権利の側にあります。次の板が、その権利の側の理由です。

規範と答案の型|未成年者の保護を目的とする規制の審査(権利の性質、ややゆるやかな審査、中間審査基準) 図:規範と答案の型|未成年者の保護を目的とする規制の審査

この板も、そのまま映しておきます。冒頭の「他方、」は、さっき見た規制態様を受けて、権利の側の理由を続ける接続詞です。ここから、区切って読みます。最初の区切りは、「知る自由は、個人が自らの人格を形づくり、民主的な政治過程に参加するための前提となるものであって、一般論としては重要な権利である」です。まず、知る自由は重要だ、と一般論を置きます。いきなり、未成年者だから軽い、とは書きません。次の区切りが、「しかし、未成年者は、受け取った知識や情報を自分で選び分ける力が十分に育っておらず、未成年者との関係では知る自由を手厚く保障する理由がそのままは当てはまらない部分がある」です。知る自由は、情報を自分で選んで、人格形成に生かす力が前提です。未成年者は、その前提が十分ではない。だから、手厚く保障する理由が、そのままは及ばない部分がある、と書きます。

未成年者には、知る自由がない、と書いてもいいですか。違います。「ない」ではなく、「そのままは当てはまらない部分がある」です。未成年者にも知る自由は保障されます。ただ、成人と同じ手厚さで保障する理由が、そのままは及ばない部分がある、というだけです。3つ目の区切りは、「未成年者が精神的に未熟であるがゆえに受ける害から本人を守るための規制」です。かっこ書きのパターナリスティックな規制とは、本人のために本人の自由を制限する規制のことです。公共の福祉の回で見た、バイクのヘルメット着用義務と同じ発想です。なぜ、これだと緩めてよいのか。さっきの、選び分ける力が十分に育っていない、という点を、まさに補うための規制だからです。手厚く保障する理由が当てはまらない部分に、ちょうど向けられています。他人の権利との調整のための規制なら、違います。Aの未熟さとは関係なく、他人を守るために止めるのですから、権利の性質の理由は、緩める理由になりません。本件条例は、1条が青少年を守ることを目的に掲げていますから、これにあたります。4つ目の区切りは、「合憲性の審査をややゆるめてよい」です。「やや」ですから、合理性の基準までは、下げません。板の最後の段が、基準そのものです。「規制の目的が重要であり、その目的を達成する手段が効果的で、しかも過度でないときには、上記の制約は正当化される」です。目的は、「正当」ではなく、「重要」です。そして、手段は、効果的か、過度でないか、の2つに分けて見ます。この2つが、次の節の骨組みになります。中間審査基準です。総論の回で、目的が十分に重要、手段が目的と実質的関連性、と言った基準と、中身は同じです。

Aは17歳で、未成年者です。規制態様は弱く、権利の性質も、緩める理由が使える。2つが揃いましたから、この基準で審査します。

あてはめ(目的)

目的|1条の青少年の健全な育成は、重要な目的か、補導件数と動画の描写(答え) 図:目的|1条の青少年の健全な育成は、重要な目的か、補導件数と動画の描写(答え)

ここからが、今日の本番です。いちばん厚く書くところです。まず目的です。1条の目的は、青少年の健全な育成です。青少年は精神的に未熟です。人を傷つけ、または殺す行為を、詳細かつ娯楽的に描く動画に、繰り返し接すれば、健全な育成が阻害されるおそれがあります。例えば、Aが放課後に観ていた格闘技の動画のうち、指定された5本が、そうした動画です。事実も拾います。県内の少年による暴行の補導件数は、3年間で、340件から410件に増えました。県が青少年の暴力に対応する必要は、具体的です。この件数の増加を、動画のせいだと、決めつけて書く必要はありません。事実として置けば、足ります。ですから、目的は重要です。

あてはめ(効果性)

効果性|専門家5人の意見は割れ、因果関係の確定はない、そう言われたらどう切り返すか(問い)

次は、手段の効果性です。ここで、反対の立場からの声が出ます。問いです。「暴力的な動画が青少年に悪影響を与えることは、科学的に証明されていない」と言われたら、どう切り返しますか。板に、審議会が聴いた専門家5人の意見を並べました。少し考えてみてください。

効果性|害は取り返しがつかず確定を待てない、専門家の多数が悪影響の可能性を指摘、公衆無線LANで観る約300人の視聴機会を減らす、よって効果的(答え)

まず、反対の事情を、正面から一度立てます。専門家5人のうち4人は、因果関係を確定した研究はない、と述べました。残る1人は、影響は限定的だ、と述べました。因果関係は、科学的な裏付けを得ているとはいえません。答案に、これを書かずに押し切ると、一番の弱点を放置したことになります。そのうえで、切り返します。理由は2つです。1つ目は、青少年の成長への影響は、害が現れてから取り返すことが難しい、という点です。因果関係の確定を待つ余裕はありません。2つ目は、専門家の多数が、悪影響の可能性を指摘している、という点です。4人は、攻撃的な言動が強まる可能性を示す研究が複数あると述べています。おそれがあること自体は、社会の共通の認識といえます。

証明までは要らない、という書き方です。ただし、安易に認めるのではなく、取り返しのつかなさと、可能性の指摘という、事実に支えられた理由を添えます。もう1つ、反対論が出ます。遮断は公衆無線LANだけで、モバイル回線では観られるから、効果が薄いのではないか、という声です。切り返しは、調査の数字です。週に1回以上観る約600人のうち、約300人は、公衆無線LANで観ることがあります。遮断は、その視聴の機会を、一定程度、減らします。完全に防げなくても、効果的といえないとまでは、いえません。ですから、手段は、効果的です。

あてはめ(過度性)

過度性|入手の困難、規制の範囲と指定の仕方、罰則の相手方を、設例の事実から拾う表 図:過度性|入手の困難、規制の範囲と指定の仕方、罰則の相手方を、設例の事実から拾う表

最後が、過度でないか、です。拾う材料は3つです。入手の困難の程度。規制の範囲と指定の仕方。罰則の相手方。どれも、設例の事実から拾います。1つ目、入手の困難です。遮断されるのは、公衆無線LANでの接続だけです。自宅の固定回線とモバイル回線では、指定動画を観られます。ただし、Aの事情も、正直に書きます。携帯電話の契約は月3ギガバイトまでで、固定回線を自由に使えるのは夜だけです。放課後に駅前で観られなくなった不便は、小さくありません。それでも、結論は動きません。Aが観られなくなったのは、指定された5本にとどまります。他の動画は観られますし、指定された動画も、夜に自宅で観られます。入手の方法が全て奪われたわけではなく、困難は限られます。2つ目、規制の範囲と指定の仕方です。指定は、動画ごとに、審議会の意見を聴いて行い、告示します。暴力的な動画をまとめて止めるのではなく、1本ずつ選んで、誰でも確かめられる形で公にする仕組みです。施行後1年間の指定も、168本にとどまります。ですから、規制の範囲が不当に広がるおそれは、小さいです。3つ目、罰則の相手方です。罰金は、命令に従わない事業者に科されます。観ているAが処罰されることはありません。動画を投稿することや、公開することも、禁じられていません。

Dのような成人にも、遮断が及びますよね。それは、過度の判断に入らないんですか。入ります。ただ、その点は、次の節で、成人の側から見ます。ここでは、先送りします。

結論|目的は重要、手段は効果的で過度でない、よってAの知る自由の制約は正当化され合憲

結論です。目的は重要で、手段は効果的で、過度でもありません。Aの知る自由の制約は、正当化されます。本件条例9条は、Aとの関係で、21条1項に反せず、合憲です。合憲と考えるので、違憲とする対象の選択は、問題になりません。条例9条そのものを違憲とするか、Aへの適用だけを違憲とするかを選ぶ段ですが、違憲でなければ、選ぶものがありません。この一言で、通します。

成年の知る自由

成年D|同じ遮断が成年にも及ぶとき、手段が過度かどうかは何を見て決めるか(問い) 図:成年D|同じ遮断が成年にも及ぶとき、手段が過度かどうかは何を見て決めるか(問い)

Aの答案は、ここまでで一通り書き切りました。同じ設例から、もう1人を取り上げます。成人のDです。問いです。同じ遮断が、成人のDの昼休みの視聴も止めます。手段が過度かどうかは、何を見て決めるでしょう。少し考えてみてください。

成年D|年齢を区別できず遮断は全利用者に及ぶ、成年には権利の性質の緩める理由が使えない、入手方法が残るかで過度性を見る(答え)

事実を拾います。公衆無線LANは年齢を区別できないので、遮断は全利用者に及びます。Dは、乗換駅で観ていた2本が、観られなくなりました。入手の便が失われますから、Dの知る自由も、制約されます。目盛りが、Aと違うところです。Aの場合、緩める理由は2つありました。規制態様と、権利の性質です。Dは成人です。取捨選択能力が乏しい、とはいえません。ですから、権利の性質の理由は、使えません。それでも、基準を一気に厳格に戻すわけではありません。規制態様の弱さは、Dにもそのまま当てはまります。Dも、自宅の固定回線で観られるからです。足りなくなったもう1つの理由を、Dでは、規制の狙いの側に見ます。内容規制を厳しく見るのは、政府が特定のメッセージを、受け手から遠ざけようとするからでした。ところが、条例が遠ざけようとしている相手は、青少年です。遮断がDに及ぶのは、青少年の保護に必要な規制に伴って、付随的に生じる効果で、Dの入手を狙った規制ではありません。だから、厳しく見る理由が、Dとの関係では弱まります。この2つを踏まえて、次の板の基準で見ます。

規範と答案の型|青少年の保護を目的とする規制が成年に及ぶ場合の審査(付随的な効果、入手方法の残存、全く封殺なら厳格) 図:規範と答案の型|青少年の保護を目的とする規制が成年に及ぶ場合の審査

この板も、そのまま映します。区切って読みます。最初の区切りは、「成年には、未成年者のように知る自由を手厚く保障する理由が当てはまらない部分があるとはいえない」です。青少年と成年では、緩める理由が違います。青少年には使えた、権利の性質の理由が、成年には使えません。次の区切りは、「青少年の保護に必要な規制に伴って付随的に生じる効果であり、成年の入手を狙うものではない」です。成年に及ぶのは、規制の狙いではなく、年齢を区別できないという、結果です。例えば、Dの昼休みの視聴が止まったのは、公衆無線LANが年齢を区別できないからで、Dを狙ったからではありません。この事情が、基準を厳格に戻さない理由になります。そして、基準です。「規制の目的が重要であって、かつ、その目的を達成する手段が効果的で、過度でない場合に限り、合憲」。ここは、青少年の場合と同じ、中間審査基準です。成年については、制約にあたるか、基準を青少年と同じにするか異にするかで、答案が分かれうる論点です。今日は、制約あり、中間審査基準、過度性で入手方法の残存を見る、で一本通します。4つ目の区切りが、この板の要です。「成年にその情報を入手する方法が残されていれば、手段が過度でないと評価できる」。過度性の判断で拾う事実は、ここです。最後の区切りは、「規制の実質的な効果が成年の知る自由を全く封殺するときは、厳格に審査する」です。ここまでいくと、緩めません。これが境目です。

あてはめです。Dは、自宅の固定回線で指定動画を観られます。止まったのは、昼休みの公衆無線LANでの視聴という、限られた場面です。成年の知る自由を全く封殺するものではありません。手段は、成年との関係でも過度ではなく、合憲です。

事実を1か所変える|Dの暮らす地区に公衆無線LAN以外の回線がなく指定動画を観る方法が実質的に残らないなら、規制の実質的な効果が知る自由を全く封殺し、厳格に審査

事実を、1か所だけ変えてみましょう。Dの暮らす地区に、公衆無線LAN以外の回線がなく、指定動画を観る方法が、実質的に残らないとします。その場合、遮断の実質的な効果が、Dの知る自由を、全く封殺します。さっきの境目を越えるので、厳格に審査します。同じ条例でも、入手方法が残るかどうかで、結論が動きます。ここまでを見せるのが、今日の範囲です。

岐阜県条例の判例

岐阜県青少年保護育成条例の事件|有害図書に指定された図書を自動販売機に収納することの禁止と罰則、結論は21条1項に違反しない

ここで、判例を見ます。岐阜県の青少年保護育成条例の事件です。条例は、知事が有害図書に指定した図書を、自動販売機に収納することを禁じ、違反に罰則を定めていました。収納した被告人が、起訴されました。最高裁は、上告を棄却して、憲法21条1項に違反しない、としました。この判決は、裁判官全員一致です。ただ、伊藤正己裁判官の補足意見が、付いています。法廷意見と補足意見は、答案では、帰属を分けて使います。まず、法廷意見です。

判例最判平成元年9月19日(第三小法廷)

岐阜県青少年保護育成条例事件(法廷意見) 「……有害図書が一般に思慮分別の未熟な青少年の性に関する価値観に悪い影響を及ぼし、性的な逸脱行為や残虐な行為を容認する風潮の助長につながるものであつて、青少年の健全な育成に有害であることは、既に社会共通の認識になつているといってよい。さらに、自動販売機による有害図書の販売は、売手と対面しないため心理的に購入が容易であること、昼夜を問わず購入ができること、収納された有害図書が街頭にさらされているため購入意欲を刺激し易いことなどの点において、書店等における販売よりもその弊害が一段と大きいといわざるをえない。……有害図書の自動販売機への収納の禁止は、青少年に対する関係において、憲法二一条一項に違反しないことはもとより、成人に対する関係においても、有害図書の流通を幾分制約することにはなるものの、青少年の健全な育成を阻害する有害環境を浄化するための規制に伴う必要やむをえない制約であるから、憲法二一条一項に違反するものではない。」

法廷意見は、悪影響があることを、社会共通の認識として扱いました。さらに、自動販売機は、書店等より弊害が一段と大きい、と言いました。そして、成人に対する関係でも、有害環境を浄化するための規制に伴う、必要やむをえない制約だ、として、21条1項に違反しないとしました。今日の答案と、つなげておきます。効果性の切り返しは、この法廷意見の、社会共通の認識に当たる事情でした。成年の節の結論は、成人に対する関係においても、という部分に当たります。

判例最判平成元年9月19日(第三小法廷・伊藤正己裁判官補足意見)

岐阜県青少年保護育成条例事件(伊藤正己裁判官の補足意見・青少年の知る自由) 「当裁判所は、国民の知る自由の保障が憲法二一条一項の規定の趣旨・目的から、いわばその派生原理として当然に導かれるところであるとしている……。そして、青少年もまた憲法上知る自由を享有していることはいうまでもない。」……「……知る自由の保障は、提供される知識や情報を自ら選別してそのうちから自らの人格形成に資するものを取得していく能力が前提とされている。青少年は、一般的にみて、精神的に未熟であって、右の選別能力を十全には有しておらず、その受ける知識や情報の影響をうけることが大きいとみられるから、成人と同等の知る自由を保障される前提を欠くものであり、したがつて青少年のもつ知る自由は一定の制約をうけ、その制約を通じて青少年の精神的未熟さに由来する害悪から保護される必要があるといわねばならない。……ある表現が受け手として青少年にむけられる場合には、成人に対する表現の規制の場合のように、その制約の憲法適合性について厳格な基準が適用されないものと解するのが相当である。」

ここから3枚は、伊藤正己裁判官の補足意見です。1枚目です。青少年もまた、憲法上、知る自由を享有している、と言います。そのうえで、青少年は、成人と同等の知る自由を保障される前提を欠く、と述べ、成人の場合のような厳格な基準は適用されない、としました。先ほどの、権利の性質の理由は、この補足意見の考え方と重なります。

判例最判平成元年9月19日(第三小法廷・伊藤正己裁判官補足意見)

岐阜県青少年保護育成条例事件(伊藤正己裁判官の補足意見・相当の蓋然性) 「……青少年保護のための有害図書の規制が合憲であるためには、青少年非行などの害悪を生ずる相当の蓋然性のあることをもって足りると解してよいと思われる。もっとも、青少年の保護という立法目的が一般に是認され、規制の必要性が重視されているために、その規制の手段方法についても、容易に肯認される可能性があるが、もとより表現の自由の制限を伴うものである以上、安易に相当の蓋然性があると考えるべきでなく、必要限度をこえることは許されない。しかし、有害図書が青少年の非行を誘発したり、その他の害悪を生ずることの厳密な科学的証明を欠くからといって、その制約が直ちに知る自由への制限として違憲なものとなるとすることは相当でない。」

2枚目です。補足意見は、害悪を生ずる相当の蓋然性があれば足りる、と言います。厳密な科学的証明を欠くからといって、直ちに違憲にはならない、とも言います。ただし、後半を読み落とさないでください。安易に相当の蓋然性があると考えるべきでなく、必要限度をこえることは許されない、とも述べています。科学的証明が無くても良い、は、何でも良い、ではありません。効果性の切り返しで、取り返しのつかなさや可能性の指摘という事実を添える理由が、ここにもあります。

判例最判平成元年9月19日(第三小法廷・伊藤正己裁判官補足意見)

岐阜県青少年保護育成条例事件(伊藤正己裁判官の補足意見・成人の知る自由) 「もし成人を含めて知る自由を本件条例のような態様方法によって制限するとすれば、憲法上の厳格な判断基準が適用される結果違憲とされることを免れないと思われる。そして、たとえ青少年の知る自由を制限することを目的とするものであっても、その規制の実質的な効果が成人の知る自由を全く封殺するような場合には、同じような判断を受けざるをえないであろう。しかしながら、青少年の知る自由を制限する規制がかりに成人の知る自由を制約することがあつても、青少年の保護の目的からみて必要とされる規制に伴って当然に附随的に生ずる効果であつて、成人にはこの規制を受ける図書等を入手する方法が認められている場合には、その限度での成人の知る自由の制約もやむをえないものと考えられる。」

3枚目です。成人の知る自由について、補足意見は、成人を含めて制限するなら厳格な判断基準が適用される、と言います。青少年を対象にしても、実質的な効果が成人の知る自由を全く封殺するなら、同じ判断を受ける、とも言います。しかし、成人に入手する方法が認められている場合には、その限度での制約は、やむをえない、と言います。先ほど見た、成年の節の目盛りは、この補足意見の考え方と重なります。封殺ならば厳格、入手方法が残るなら、やむをえない、という線です。

判例の使い方|成人には書店等での入手が残る自動販売機の事案で青少年にも成人にも合憲とした法廷意見はあてはめの手本、入手方法が残るかを境目にするのは補足意見の線

法廷意見と補足意見は、答案では同じようには扱えません。補足意見は、一人の裁判官の意見です。答案で引くなら、伊藤裁判官の補足意見である、と帰属を添えます。法廷意見の言葉として、書いてはいけません。この判例は、基準を教える判決として使うのではありません。あてはめの手本として使います。事案は、自動販売機への収納の禁止で、成人には書店等での入手は残っていました。法廷意見は、その事案で、青少年に対しても、成人に対しても、合憲としました。ただし、法廷意見が挙げた理由は、有害環境の浄化と、自動販売機の弊害の大きさです。入手方法が残ることを理由にしたのは、補足意見のほうです。射程も確認します。本設例も、公衆無線LANが止まるだけで、他の回線は残ります。入手方法が残っているかを、結論の動く境目として答案に書くときは、補足意見の線として書きます。事実を1か所変えた成年の場合と、同じ線です。

完成答案

完成答案|第1 入口の特定、具体的自由の設定と問題の所在 図:完成答案|第1 入口の特定、具体的自由の設定と問題の所在

ここまでを、答案の形にしました。こちらが完成答案です。動画を止めて見てみてください。この板は、入口の前半です。誰の自由を主張する答案かを、一度だけ書く段を見てください。

完成答案|第1 入口の特定、規範とあてはめ、第2 制約 図:完成答案|第1 入口の特定、規範とあてはめ、第2 制約

この板の見どころは2つです。根拠の鎖で、入手できなければ表現の自由は機能しない、と書く段。そして、名宛人が事業者でも、Aが入手手段を失うことで、制約を認める段です。

完成答案|第3 形式的正当化、第4 実質的正当化、審査基準の定立(内容規制、規制態様) 図:完成答案|第3 形式的正当化、第4 実質的正当化、審査基準の定立

形式的正当化は、短く通します。審査基準の定立は、内容規制であること、そして規制態様の書き方を見てください。

完成答案|第4 審査基準の定立、権利の性質と規範定立 図:完成答案|第4 審査基準の定立、権利の性質と規範定立

審査基準の定立の板の後半です。見どころは、権利の性質の段です。特に、「そのままは当てはまらない部分がある」という書き方と、最後の、基準を置く一文を見てください。

完成答案|第4 目的 図:完成答案|第4 目的

この板は、今日の本番の前半です。まず、目的を重要と書く段です。補導件数の増加は、県が対応する必要を示す事実として置いています。

完成答案|第4 手段(効果性)、反対論を先に立てる 図:完成答案|第4 手段(効果性)、反対論を先に立てる

次は、手段の効果性です。科学的な裏付けを得ていない、という反対論を、先に立てる段です。

完成答案|第4 手段(効果性)、切り返しと結論 図:完成答案|第4 手段(効果性)、切り返しと結論

前半の続きです。反対論への切り返しと、モバイル回線で観られるから効果が薄い、という2つ目の反対論に、数字で応える段を見てください。

完成答案|第4 手段(過度でないか)、結論、第5 違憲とすべき対象の選択 図:完成答案|第4 手段(過度でないか)、結論、第5 違憲とすべき対象の選択

この板は、今日の本番の後半です。入手の困難を、Aの月3ギガバイトと、固定回線は夜だけ、という事実で評価する段を見てください。不便を認めたうえで、観られなくなった範囲は限られる、と結ぶ運びです。

完成答案|第6 成年Dの知る自由との関係、問題の所在と保障と制約 図:完成答案|第6 成年Dの知る自由との関係、問題の所在と保障と制約

最後の2枚です。1枚目は、成年の問題の所在と、保障と制約です。

完成答案|第6 成年Dの知る自由との関係、審査基準とあてはめと結論 図:完成答案|第6 成年Dの知る自由との関係、審査基準とあてはめと結論

2枚目です。成年は、権利の性質の理由が使えない、という点。そして、過度性を、入手方法が残るかで見る段です。ご自身の答案と見比べてみてください。今回は、観る側の自由が、青少年の保護とぶつかるときを見ました。では、観る側の自由が、特別な関係や、法廷や、他人のプライバシーとぶつかるときは、物差しをどう変えるのでしょうか。

参照条文

  • 日本国憲法21条1項

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