憲法ゼロから憲法 論文

知る自由(中編)

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ゼロから憲法 論文/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

設例

場面1の登場人物|A、38歳、傷害の罪で起訴されK拘置所に勾留、入所から9か月。B、K拘置所の長 図:場面1の登場人物|A、38歳、傷害の罪で起訴されK拘置所に勾留、入所から9か月

前編の最後に、問いを置きました。観る側の自由が、ほかの利益とぶつかるとき、物差しをどう変えるのか。中編は、そのうち二つの場面を、一つずつ答案にします。最初は、特別な関係です。刑事施設の中の、雑誌の話から始めます。登場人物は二人です。Aは38歳で、傷害の罪で起訴されて、K拘置所に勾留されています。入所から9か月です。Bは、K拘置所の長です。

場面1の時系列|施設の状況、Aの行状、過去6号と今月号、Bの処分 図:場面1の時系列|施設の状況、Aの行状、過去6号と今月号、Bの処分

まず、K拘置所の様子です。直近3年間、被収容者による集団での抗議行動や暴行の事案は、起きていません。収容人員は、定員の約8割です。次に、Aの行状です。入所以来、懲罰を受けたことはありません。二か月前に、同室の被収容者と口論になって、職員から口頭で注意を受けたことが、一度あります。暴力はありませんでした。雑誌です。Aは、全国の書店で売られている月刊の格闘技専門誌を、自弁、つまり自分の費用で、毎号購読してきました。過去6号は、いずれも閲覧を許されて、受け取っています。今月号も、試合の写真、選手のインタビュー、技の解説という構成で、過去6号と変わりません。処分です。Bは今月号について、「暴力的な写真や技の解説が多く、他の被収容者を刺激して所内の秩序を乱すおそれがある」として、閲覧を禁止しました。禁止の期間は定めていません。過去6号を許したことについて、Bは何も説明していません。

Aは、この禁止は21条1項に違反する、と主張しています。

関係図|BがAに今月号の閲覧の禁止を行う 図:関係図|BがAに今月号の閲覧の禁止を行う

関係は、BからAへの、閲覧の禁止の一本です。Bが根拠にしたのは、刑事収容施設法の70条1項1号です。条文を二つ、板に出します。

条文刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律69条

刑事収容施設法第69条 第六十九条 被収容者が自弁の書籍等を閲覧することは、この節及び第十二節の規定による場合のほか、これを禁止し、又は制限してはならない。

69条は、原則を定めます。この節などに定める場合を除いて、被収容者が自弁の書籍を閲覧することを、禁止も制限もしてはならない、という条文です。

条文刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律70条1項

刑事収容施設法第70条第1項 第七十条 刑事施設の長は、被収容者が自弁の書籍等を閲覧することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、その閲覧を禁止することができる。 一 刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生ずるおそれがあるとき。 二 被収容者が受刑者である場合において、その矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがあるとき。 三 被収容者が未決拘禁者である場合において、罪証の隠滅の結果を生ずるおそれがあるとき。

70条1項は、例外です。長は、閲覧によって一定の場合に当たるときは、禁止することができます。今回、Bが使ったのは一号で、規律及び秩序を害する結果を生ずるおそれがあるとき、です。二号と三号は、矯正処遇や罪証の隠滅を理由にする号で、今回の処分には使われていません。問いは一つです。Bが今月号の閲覧を禁止した処分は、Aの閲読の自由との関係で、21条1項に違反するか。

出発点

二場面の出発点|受け手の自由は21条1項で保障される、入口、制約、形式的正当化、実質的正当化、違憲とする対象の選択

中編の二場面は、同じ出発点から入ります。受け手の自由、知る自由は、21条1項で保障される、ということです。前編の鎖を、一言で通します。21条1項は、文言上は送り手の自由を書いています。ところが、マスメディアが発達した情報化社会では、送り手と受け手が分離・固定化して、受け手は受動的な立場にあります。受け手が情報を入手できなければ、表現の自由は機能しません。だから、表現の自由は、受け手の自由、つまり知る自由をも保障する。答案には、この鎖を短く書いて、先へ進みます。

条文日本国憲法21条1項

集会・結社・表現の自由 第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

書きます。ただ、解説し直すのではなく、入口で一言で通します。答案の骨格も、総論の型のままです。入口、制約、形式的正当化、実質的正当化、違憲とする対象の選択。中編の本番は、実質的正当化です。同じ受け手の自由でも、向かい合う相手によって、目盛りが変わります。場面は二つです。閲覧の禁止と、メモの禁止。順番に、見ていきます。

被収容者の閲読

場面1の入口|Aの自由は自弁の雑誌の今月号を閲覧して情報を入手する自由、受け手の自由にあたる

場面1の入口です。Aの具体的自由は、自弁で購読する月刊の格闘技専門誌の今月号を閲覧して、情報を入手する自由です。雑誌という媒体で情報を受け取る自由ですから、出発点の鎖のとおり、知る自由にあたり、21条1項で保障されます。

判例最大判昭和58年6月22日(大法廷)

よど号事件の判決(閲読の自由の位置づけ) 「およそ各人が、自由に、さまざまな意見、知識、情報に接し、これを摂取する機会をもつことは、その者が個人として自己の思想及び人格を形成・発展させ、社会生活の中にこれを反映させていくうえにおいて欠くことのできないものであり、また、民主主義社会における思想及び情報の自由な伝達、交流の確保という基本的原理を真に実効あるものたらしめるためにも、必要なところである。それゆえ、これらの意見、知識、情報の伝達の媒体である新聞紙、図書等の閲読の自由が憲法上保障されるべきことは、思想及び良心の自由の不可侵を定めた憲法一九条の規定や、表現の自由を保障した憲法二一条の規定の趣旨、目的から、いわばその派生原理として当然に導かれるところであり、また、すべて国民は個人として尊重される旨を定めた憲法一三条の規定の趣旨に沿うゆえんでもあると考えられる。」

刑事施設の中の閲読が問題になった大法廷判決も、同じ結論です。新聞紙や図書の閲読の自由は、憲法上保障される。しかも、19条や21条の趣旨から導かれるだけでなく、13条の趣旨にも沿う、と言いました。被収容者の人権の回で見た、よど号事件です。拘置所の長が、被収容者が購読する新聞の記事の一部を、抹消して渡した事件です。答案での置き場所は、鎖で根拠を書いたあとに、同じ結論の判例として添える位置です。制約です。Bの禁止で、Aは今月号を閲覧できません。情報を入手する手段を断たれますから、Aの自由に対する制約です。

形式的正当化|70条1項1号は文言上ゆるやかなおそれ、判例は旧監獄法の定めを一定の要件と範囲でのみ制限を許すと限定して解釈し合憲、答案も1号を同じく限定して読む、争う対象は処分

形式的正当化です。Bの処分は、70条1項1号に基づきます。ただ、一号は「おそれ」と書くだけです。これを文字どおりに読めば、ごくゆるやかな要件で、閲覧を禁止できてしまいます。

判例最大判昭和58年6月22日(大法廷)

よど号事件の判決(法令の読み方) 「これらの規定を通覧すると、その文言上はかなりゆるやかな要件のもとで制限を可能としているようにみられるけれども、上に述べた要件及び範囲内でのみ閲読の制限を許す旨を定めたものと解するのが相当であり、かつ、そう解することも可能であるから、右法令等は、憲法に違反するものではないとしてその効力を承認することができるというべきである。」

この判決も、同じ問題に当たりました。当時の監獄法の定めは、文言上はゆるやかでした。そこで、一定の要件と範囲内でのみ制限を許す定めだと限定して読み、憲法に違反しないとしたのです。「監獄」は、判決当時の語で、今の刑事施設と読みます。答案でも、閲読の自由の重要性に照らして、一号の「おそれ」を、実質的正当化で見る限度で禁止を認める趣旨と、限定して読みます。そう読む限り、法律の定め自体は21条1項に反しません。争うのは、Bの処分です。違憲とする対象の選択は、処分になります。ここで一問、前回の内容を思い出してください。青少年の規制の目盛りを緩める理由は、規制態様と、もう一つは何でしたか?

権利の性質です。未成年者は、情報を自分で選び分ける力が十分に育っていないので、手厚く保障する理由がそのままは当てはまらない部分がある、でした。場面1は、緩める理由ではなく、守る理由が出てくる場面です。Aは未決拘禁者で、一般市民としての自由が原則として保障される者です。次の判決文を見てください。

判例最大判昭和58年6月22日(大法廷)

よど号事件の判決(未決勾留者の地位) 「しかしながら、未決勾留は、……当該拘禁関係に伴う制約の範囲外においては、原則として一般市民としての自由を保障されるべき者であるから、監獄内の規律及び秩序の維持のためにこれら被拘禁者の新聞紙、図書等の閲読の自由を制限する場合においても、それは、右の目的を達するために真に必要と認められる限度にとどめられるべきものである。」

未決勾留で拘禁された人は、拘禁に伴う制約の範囲外では、原則として一般市民としての自由を保障される者だ、と言います。ですから、規律及び秩序のために閲読の自由を制限する場合も、真に必要と認められる限度にとどめる。Aは起訴されて勾留されている未決拘禁者で、この判決の中心の場面にあたります。受刑者の閲読について、この判決がそのまま答えを出したわけではありません。受刑者の場合は、先ほどの70条1項2号、受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがあるとき、という事由が加わります。ここは、未決拘禁者の場面だと押さえて、先へ進みます。

場面1の問い|Bが暴力的だから危ないと言うだけで閲覧を禁止してよいか、足りないとしたら何が足りないか

問いです。Bは、暴力的だから危ない、と言って、今月号を禁止しました。この理由だけで、禁止してよいでしょうか。足りないとしたら、何が足りないでしょう。少し考えてみてください。

規範と答案の型|被収容者の閲読の制限(一般的、抽象的なおそれでは足りない、相当の蓋然性、必要かつ合理的な範囲、長の認定の合理的な根拠) 図:規範と答案の型|被収容者の閲読の制限

答えの板を、そのまま映しておきます。真ん中の規範を、四つに区切って読み解きます。最初の区切りは、「一般的、抽象的なおそれ」のところです。判決は、これだけでは足りない、と言います。危なそうだ、という懸念だけでは、足りないということです。例えば、Bの理由は、格闘技の専門誌なら、どの号にも当てはまります。どの号にも当てはまる理由では、今月号を禁止する理由になりません。これが、下限の線です。次の区切りは、「具体的事情のもとにおいて」です。何を拾うかが、判決の中で指定されています。被拘禁者の性向、行状。監獄内の管理、保安の状況。当該図書等の内容。この三つが、あてはめの見出しになります。設例に置き換えると、Aの行状、K拘置所の状況、今月号の内容です。三つ目の区切りは、「放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性」と、「必要かつ合理的な範囲」です。関門は二つあります。一つ目は、障害が生じうる、では足りず、放置できない程度の障害が、相当の蓋然性をもって生ずることです。蓋然性とは、そうなる見込みのことです。前編の補足意見も、相当の蓋然性と言いました。あちらは、有害図書が青少年の非行などの害悪を生む見込みを、規制全体について見るものでした。ここは、この号を読ませると、放置できない程度の障害が生ずる見込みを、具体的事情から見ます。同じ言葉でも、何の見込みかと、何から示すかが違います。

一つ目を通れば、閲覧を全部禁止しても、いいんですか。違います。二つ目の関門があります。蓋然性が認められた場合でも、制限の程度が、障害の発生を防ぐために必要かつ合理的な範囲にとどまっているかを、別に見ます。最後の区切りは、「長の認定に合理的な根拠があり」です。内部の実情に通じた長の判断は、尊重されます。ただ、尊重するには出発点が要ります。蓋然性がある、とした認定に、どんな根拠があるのか。根拠が示されなければ、尊重する出発点がありません。審査では、この認定の根拠を見ます。四つの区切りを、判決の一続きの文で、通して見ておきます。

判例最大判昭和58年6月22日(大法廷)

よど号事件の判決(規範) 「当該閲読を許すことにより右の規律及び秩序が害される一般的、抽象的なおそれがあるというだけでは足りず、被拘禁者の性向、行状、監獄内の管理、保安の状況、当該新聞紙、図書等の内容その他の具体的事情のもとにおいて、その閲読を許すことにより監獄内の規律及び秩序の維持上放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があると認められることが必要であり、かつ、その場合においても、右の制限の程度は、右の障害発生の防止のために必要かつ合理的な範囲にとどまるべきものと解するのが相当である。」……「障害発生の相当の蓋然性があるとした長の認定に合理的な根拠があり、その防止のために当該制限措置が必要であるとした判断に合理性が認められる限り、長の右措置は適法として是認すべきものと解するのが相当である。」

場面1の規範の流れ|一般的、抽象的なおそれでは足りない、具体的事情、相当の蓋然性、必要かつ合理的な範囲、長の認定の合理的な根拠

流れを、一枚にします。足りない線を引く。具体的事情を拾う。放置できない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があるか。あるとしても、制限は必要かつ合理的な範囲か。そして、長の認定に根拠があるか。この順に、事実に当てていきます。

場面1のあてはめ|判決が挙げた事情と設例の事実を並べる表、Aの行状、K拘置所の状況、今月号の内容

あてはめです。判決が挙げた事情の順に、設例の事実を拾います。Aの行状から。入所以来9か月、懲罰はありません。口論で口頭の注意を受けたのは一度で、暴力はありませんでした。他の被収容者を刺激して秩序を乱す、と見込む材料は乏しいです。施設の状況です。K拘置所は、直近3年間、集団での抗議行動や暴行が起きていません。定員の約8割で、切迫した事情もありません。雑誌の内容です。今月号は、写真、インタビュー、技の解説という、過去6号と同じ構成です。過去6号は、いずれも許されていました。今月号にだけ固有の危険がある、と言える事情が見当たりません。Bの理由は、格闘技専門誌という雑誌の性質から、一般に想定される懸念にとどまります。過去6号を許しながら今月号だけを禁止する理由の説明も、ありません。Bの認定には、根拠がなく、相当の蓋然性は認められません。仮に蓋然性が認められるとしても、禁止の期間を定めず、今月号の全部を閲覧できなくする点は、障害の発生の防止との対応が示されておらず、必要かつ合理的な範囲といえません。結論です。Bの処分は、Aの自由の制約として正当化されません。70条1項1号は、限定して読む限り21条1項に反しませんから、違憲となるのは、その適用であるBの処分です。処分違憲です。

事実を一か所変える|K拘置所で3週間前に被収容者12人が職員の指示に集団で従わない事案、今月号に集団で職員に抵抗する方法を詳しく解説する記事

事実を、一か所だけ変えます。K拘置所で、3週間前に、被収容者12人が職員の指示に集団で従わない事案が起きていた。そして、今月号に、集団で職員に抵抗する方法を詳しく解説する記事が載っていた、とします。この場合は、Bの認定に、根拠が出てきます。施設の状況と雑誌の内容の両方が、危険を具体的に指しているからです。結論が動きうる、境目です。ただ、そのときも、制限の程度が必要かつ合理的な範囲か、は別に見ます。

法廷でメモを取る自由

場面2の登場人物|C、21歳の大学生、ゼミの課題で傷害事件を傍聴。D、裁判長 図:場面2の登場人物|C、21歳の大学生、ゼミの課題で傷害事件を傍聴。D、裁判長

場面2に移ります。登場人物は、新しい二人です。Cは、21歳の大学生で、ゼミの課題で、L地方裁判所の傷害事件の刑事公判を傍聴しました。Dは、その法廷の裁判長です。

場面2の時系列|前回期日の中断、次回期日の冒頭でDがメモを禁止、Cは廷吏に制止されて取らなかった

傍聴席には、Cを含めて11人がいて、いずれも学生です。被告人とも被害者とも、面識はありません。事件は、飲食店での口論から起きた暴行で、高校生の被害者、16歳が負傷した事案です。次回期日に、その被害者の証人尋問が予定されています。前回期日です。別の証人、被害者の同級生の17歳の尋問中に、傍聴席でメモを取る音に気づいた証人が、証言を止めて、うつむいて黙り込みました。尋問は、約10分中断しました。次回期日です。Dは冒頭で、傍聴人に、「証人尋問の間は、傍聴席でメモを取ることを禁止します。尋問が終われば、メモを取ってかまいません」と告げました。Cは、尋問の間にメモを取ろうとしましたが、廷吏に制止されて、取りませんでした。Cは、このメモの禁止は21条1項に違反する、と主張しています。

関係図|DがCに尋問の間のメモの禁止を行う 図:関係図|DがCに尋問の間のメモの禁止を行う

関係は、DからCへの、メモの禁止の一本です。問いは一つです。Dが証人尋問の間のメモを禁止した措置は、Cの筆記行為の自由との関係で、許されるか。始まりは同じです。ただ、この場面は、82条1項から禁止の当否まで、判断の流れを4段に分けて見ます。板で見ましょう。

場面2の判断の流れ|一つ目は82条1項の答え、二つ目は情報等に接し摂取する自由の派生、三つ目は筆記行為の尊重、四つ目は制限の可否

一つ目は、82条1項の答え。二つ目は、21条1項から、情報等に接し摂取する自由が導かれること。三つ目は、筆記行為の自由の位置づけ。四つ目が、制限できるかどうか、です。法廷でのメモですから、まず、裁判の公開を定めた82条1項が、メモを取る権利を与えているかを確かめます。条文と判決を見ます。

条文日本国憲法82条1項

裁判の公開 第八十二条 裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。

判例最大判平成元年3月8日(大法廷)

レペタ事件の判決(82条1項の答え) 「憲法八二条一項の規定は、裁判の対審及び判決が公開の法廷で行われるべきことを定めているが、その趣旨は、裁判を一般に公開して裁判が公正に行われることを制度として保障し、ひいては裁判に対する国民の信頼を確保しようとすることにある。裁判の公開が制度として保障されていることに伴い、各人は、裁判を傍聴することができることとなるが、右規定は、各人が裁判所に対して傍聴することを権利として要求できることまでを認めたものでないことはもとより、傍聴人に対して法廷においてメモを取ることを権利として保障しているものでないことも、いうまでもないところである。」

この判決は、裁判の公開の回で見たレペタ事件です。傍聴人が、法廷でメモを取る許可を求めて認められず、国家賠償を求めて争いました。前編で知る自由の根拠に使ったのも、この判決です。82条1項は、裁判を公開して、公正な裁判を制度として支える規定です。国民の信頼も、そこで確保されます。メモを取る権利を、傍聴人に与える規定ではありません。判決は、傍聴人に対して、メモを取ることを権利として保障しているものでない、と明言しました。二つ目は、場面1と同じ出発点です。21条1項から、情報等に接し、これを摂取する自由が導かれます。ここは、前編の一言で足ります。三つ目が、この場面の中心です。判決の文を見ます。

判例最大判平成元年3月8日(大法廷)

レペタ事件の判決(筆記行為の自由の位置づけ) 「さまざまな意見、知識、情報に接し、これを摂取することを補助するものとしてなされる限り、筆記行為の自由は、憲法二一条一項の規定の精神に照らして尊重されるべきであるといわなければならない。裁判の公開が制度として保障されていることに伴い、傍聴人は法廷における裁判を見聞することができるのであるから、傍聴人が法廷においてメモを取ることは、その見聞する裁判を認識、記憶するためになされるものである限り、尊重に値し、故なく妨げられてはならないものというべきである。」

ここで、言葉の強さが変わります。場面1では、閲読の自由が、憲法上保障される、でした。ここでは、筆記行為の自由は、21条1項の規定の精神に照らして、尊重される、です。保障ではなく、尊重です。しかも、条件が付いています。情報等の摂取を補助するものとしてなされる限り、です。傍聴人のメモも、見聞する裁判を認識、記憶するためになされる限り、尊重に値します。例えば、Cのメモは、ゼミの課題として、傍聴する裁判を記憶するためのものです。だから、尊重に値します。逆に、傍聴席で関係のない作業をしているだけなら、この条件を満たしません。尊重に値するかは、何のために取るメモかで決まります。ただし、Cのメモは、21条1項が直接守る表現の自由そのものではありません。この差が、次の物差しの目盛りに効いてきます。

場面2の制約と形式的正当化|Dの禁止でCは尋問の間にメモを取れない、法廷警察権の根拠は裁判所法71条2項と刑事訴訟法288条2項

制約です。Dの禁止で、Cは尋問の間にメモを取れません。Cの自由に対する制約です。形式的正当化です。法廷の秩序を維持する権限、法廷警察権が根拠になります。条文を二つ出します。

条文裁判所法71条2項

裁判所法第71条第2項 2 裁判長又は開廷をした一人の裁判官は、法廷における裁判所の職務の執行を妨げ、又は不当な行状をする者に対し、退廷を命じ、その他法廷における秩序を維持するのに必要な事項を命じ、又は処置を執ることができる。

条文刑事訴訟法288条2項

刑事訴訟法第288条第2項 2 裁判長は、被告人を在廷させるため、又は法廷の秩序を維持するため相当な処分をすることができる。

裁判長は、法廷の秩序を維持するのに必要な事項を命じ、処置を執ることができます。刑事訴訟法も、法廷の秩序を維持するため相当な処分をすることを認めます。Dの禁止は、この法廷警察権に基づきます。ですから、法律の根拠を欠くものではありません。

場面2の問い|メモの禁止を許す特段の事情は何を見て決まるか 図:場面2の問い|メモの禁止を許す特段の事情は何を見て決まるか

問いです。メモの禁止を許す特段の事情は、何を見て決まるでしょう。少し考えてみてください。

規範と答案の型|法廷でメモを取る自由の制限(規定の精神に照らして尊重、故なく妨げられてはならない、厳格な基準は要求されない、特段の事情のない限り傍聴人の自由に任せる) 図:規範と答案の型|法廷でメモを取る自由の制限

答えの板を映します。長い規範ですから、四つに区切って読み解きます。最初の区切りは、「憲法二一条一項の規定の精神に照らして尊重されるべきである」です。先ほどの、保障ではなく尊重、がここに置かれています。次の区切りは、「故なく妨げられてはならない」です。向きは、原則として自由です。妨げるには、理由、つまり「故」が要ります。三つ目の区切りは、「厳格な基準が要求されるものではない」です。なぜ緩むのか。板の文が、理由を置いています。直接保障された表現の自由そのものとは別のものだから、です。ですから、表現の自由を制約するときの厳格な基準は、ここでは使いません。

厳格な基準を使わないなら、裁判長はなんでも禁止できるんですか。違います。尊重される以上、原則は自由です。そこで、四つ目の区切りです。「特段の事情のない限り」。原則は自由で、禁止できる例外が、特段の事情です。この板の文には、もう一つ足りない部分があります。禁止できる場合の、判決の言い方です。

判例最大判平成元年3月8日(大法廷)

レペタ事件の判決(妨げる場合) 「してみれば、そのメモを取る行為がいささかでも法廷における公正かつ円滑な訴訟の運営を妨げる場合には、それが制限又は禁止されるべきことは当然であるというべきである。」

いささかでも、公正かつ円滑な訴訟の運営を妨げる場合には、制限や禁止は当然だ、と言います。法廷は、公正な裁判を実現する場で、訴訟の運営は、メモを取ることに比べれば、はるかに優越する法益だからです。厳格な基準を使わないことの、実際の現れです。そのうえで判決は、メモが妨げになることは、通常はあり得ない、と言っています。だから、原則は自由で、特段の事情があるときだけ、禁止できます。ここまでの四つの区切りを、判決の一続きの文で、通して見ておきます。

判例最大判平成元年3月8日(大法廷)

レペタ事件の判決(規範) 「さまざまな意見、知識、情報に接し、これを摂取することを補助するものとしてなされる限り、筆記行為の自由は、憲法二一条一項の規定の精神に照らして尊重されるべきである」……「傍聴人が法廷においてメモを取ることは、その見聞する裁判を認識、記憶するためになされるものである限り、尊重に値し、故なく妨げられてはならないものというべきである。」……「右の筆記行為の自由は、憲法二一条一項の規定によつて直接保障されている表現の自由そのものとは異なるものであるから、その制限又は禁止には、表現の自由に制約を加える場合に一般に必要とされる厳格な基準が要求されるものではないというべきである。」……「傍聴人のメモを取る行為が公正かつ円滑な訴訟の運営を妨げるに至ることは、通常はあり得ないのであつて、特段の事情のない限り、これを傍聴人の自由に任せるべきであり、それが憲法二一条一項の規定の精神に合致するものということができる。」

では、特段の事情は、何を見て決まるのか。次の判決文が、見る場所を示します。

判例最大判平成元年3月8日(大法廷)

レペタ事件の判決(見る事情) 「メモを取る行為が意を通じた傍聴人によつて一斉に行われるなど、それがデモンストレーシヨンの様相を呈する場合などは論外としても、当該事件の内容、証人、被告人の年齢や性格、傍聴人と事件との関係等の諸事情によつては、メモを取る行為そのものが、審理、裁判の場にふさわしくない雰囲気を醸し出したり、証人、被告人に不当な心理的圧迫などの影響を及ぼしたりすることがあり、ひいては公正かつ円滑な訴訟の運営が妨げられるおそれが生ずる場合のあり得ることは否定できない。」

メモを取る行為そのものが、証人に不当な心理的圧迫を与えるなどして、訴訟の運営が妨げられるおそれが生ずるか、を見ます。設例に置き換えると、拾う事実は三つです。事件の内容、証人の年齢、傍聴人と事件との関係。そして、前回の中断のような、具体的な事実です。

判例最大判平成元年3月8日(大法廷)

レペタ事件の判決(裁判長の判断の扱い) 「その行使の要否、執るべき措置についての裁判長の判断は、最大限に尊重されなければならないのである。」……「特に具体的に公正かつ円滑な訴訟の運営の妨げとなるおそれがある場合においてのみ、法廷警察権によりこれを制限又は禁止するという取扱いをすることが望ましいといわなければならないが、事件の内容、傍聴人の状況その他当該法廷の具体的状況によつては、傍聴人がメモを取ることをあらかじめ一般的に禁止し、状況に応じて個別的にこれを許可するという取扱いも、傍聴人がメモを取ることを故なく妨げることとならない限り、裁判長の裁量の範囲内の措置として許容されるものというべきである。」

裁判長の判断は、最大限に尊重されます。法廷で訴訟を妨げる行為は、場面ごとに形を変えて現れるので、その都度すぐに対応しなければなりません。その場の状況を一番よく分かっていて、訴訟の進行に全責任を負うのが、裁判長です。場面1でも、実情に通じた長の判断は尊重されました。比べてみると、憲法上保障される閲読では、蓋然性の認定に根拠があるかまで見ました。尊重にとどまるメモでは、そこまでは見ず、裁判長に広く任せます。同時に、望ましい形も示されています。具体的に妨げとなるおそれがある場合に限って禁止する、という取扱いです。あらかじめ一般的に禁止して、状況に応じて個別に許可する取扱いも、故なく妨げることにならない限りは許されます。逆に言えば、故なく妨げることになれば、許されません。この線は、あとで事実を変えるときに使います。

場面2のあてはめ|判決が挙げた事情と設例の事実を並べる表、事件の内容、証人の年齢、前回期日の中断、傍聴人と事件との関係、禁止の範囲

あてはめです。特段の事情を、判決が示した事情の順に拾います。事件の内容です。飲食店での口論から起きた暴行で、被害者が負傷した事件です。次回期日に尋問される証人は、その被害者です。年齢は16歳です。前回期日では、別の17歳の証人が、傍聴席でメモを取る音に気づいて、証言を止め、うつむいて黙り込みました。尋問は約10分中断しました。若い証人の年齢と、前回の中断という具体的な事実から、尋問の間のメモは、証人に不当な心理的圧迫を及ぼして、訴訟の運営が妨げられるおそれが具体的に生じます。特段の事情があります。

Cたちが学生で、被告人とも被害者とも面識がないという点は、Cに有利な事情として、先に拾います。傍聴席の11人は、いずれも学生で、被告人とも被害者とも面識がなく、メモがデモンストレーションの様相を呈する事情もありません。ただ、前回の中断は、メモを取る音そのものから生じました。傍聴人と事件との関係が薄いことは、おそれを否定する事情になりません。最後に、禁止の範囲です。Dの禁止は、証人尋問の間に限られています。尋問が終われば、Cはメモを取れます。Cが裁判を見聞すること自体は、妨げられていません。メモを取ることを故なく妨げるものとはいえず、裁判長の裁量の範囲内の措置です。結論です。Dの禁止は、Cの自由に対する制約として正当化されます。21条1項の規定の精神に反せず、許されます。許されると考えるので、違憲とする対象の選択は、問題になりません。

事実を一か所変える|前回の中断などの具体的事実がなく、少年の事件だからとだけ言って全期日にわたり一般的に禁止し、申出があっても一切許可しない

事実を、一か所変えます。前回の中断のような具体的な事実はなく、Dが、少年の事件だから、とだけ言って、全期日にわたってメモを一般的に禁止し、申出があっても一切許可しないとします。この場合は、特段の事情を欠きます。具体的に妨げとなるおそれがない以上、原則の自由に戻ります。申出があっても一切許可しない点でも、メモを故なく妨げることになり、許されません。最後に一つ。この判決では、上告は退けられました。ただ、それは国家賠償の請求についての結論です。今回の問いは、措置が許されるかですから、規範を事実に当てて、答えを出しました。

二場面の物差しの違い

二場面の問い|二つの場面とも受け手の自由は出発点だった、物差しの形が違うのは何のためか

二つの場面を並べます。問いです。二つの場面とも、受け手の自由は出発点でした。それでも、物差しの形が違いました。何のためでしょう。少し考えてみてください。

二場面の一覧|被収容者の閲読と法廷でメモを、位置づけ、向かい合う利益、物差し、拾う事実、判断者の扱いで並べる表

答えは、向かい合う相手と、受け手の自由の位置づけの強さです。表の左から順に見ます。閲読は、憲法上保障されます。向かい合うのは、施設の規律及び秩序です。物差しは、相当の蓋然性と、必要かつ合理的な範囲です。拾うのは、行状、施設の状況、内容。長の判断は、認定に合理的な根拠がある限り、尊重されます。メモは、保障ではなく、尊重です。向かい合うのは、公正かつ円滑な訴訟の運営です。厳格な基準は要求されず、特段の事情がない限り自由です。拾うのは、事件の内容、証人の年齢、傍聴人と事件との関係。裁判長の判断は、最大限に尊重されます。並べると、保障と尊重で、位置づけの強さが違います。判断する人の扱いも、違います。保障される閲読では、実情に通じた長に任せつつ、認定の根拠まで見ます。尊重にとどまるメモでは、その場ですぐ対応する裁判長に、最大限に任せます。

例えば、メモの場面で相当の蓋然性を探したり、閲読の場面で特段の事情を探したりすると、答案の軸が外れます。向かい合う相手を先に見て、物差しを選びます。

完成答案

完成答案|第1の1、入口の特定 図:完成答案|第1の1、入口の特定

ここまでを、答案の形にしました。こちらが完成答案です。動画を止めて見てみてください。最初の板は、入口です。前編の鎖を一言で通して、閲読の自由が21条1項で保障されることを示す段です。

完成答案|第1の2と3、制約、形式的正当化 図:完成答案|第1の2と3、制約、形式的正当化

次は、制約と形式的正当化です。Bの禁止で、Aが今月号を閲覧できなくなることで制約を認め、70条1項1号の「おそれ」を限定して読む段を見てください。

完成答案|第1の4の1と2、実質的正当化の問題の所在と規範 図:完成答案|第1の4の1と2、実質的正当化の問題の所在と規範

規範を、要件と、長の判断の仕方の二つに分けて書く段を見てください。

完成答案|第1の4の3のアとイ、あてはめ 図:完成答案|第1の4の3のアとイ、あてはめ

場面1の本番です。判決が挙げた事情を、設例の事実で拾って、Bの認定の根拠を見る段を見てください。

完成答案|第1の4の3のウと4、第1の5、制限の程度と結論と違憲とする対象の選択 図:完成答案|第1の4の3のウと4、第1の5、制限の程度と結論と違憲とする対象の選択

仮に蓋然性があったとしても、期間を定めず全部を禁止する点が、必要かつ合理的な範囲か、を見る段です。そこから結論と、違憲とする対象へ進みます。

完成答案|第2の1、入口の特定 図:完成答案|第2の1、入口の特定

場面2の入口です。82条1項では保障されず、21条1項の精神に照らして尊重される、という運びを見てください。保障と尊重の差を、文として書き分けている段です。

完成答案|第2の2と3、制約と形式的正当化 図:完成答案|第2の2と3、制約と形式的正当化

法廷警察権の根拠を、裁判所法71条2項と、刑事訴訟法288条2項で置く段です。

完成答案|第2の4の1と2のアとイ、実質的正当化の問題の所在と規範 図:完成答案|第2の4の1と2のアとイ、実質的正当化の問題の所在と規範

場面2の本番です。厳格な基準は要求されない、原則は自由、という順で書いている段を見てください。

完成答案|第2の4の2のウと3のアとイ、特段の事情の見方とあてはめ 図:完成答案|第2の4の2のウと3のアとイ、特段の事情の見方とあてはめ

判決の見る事情を、設例の事実で拾い、Cに有利な事情も拾う段です。

完成答案|第2の4の3のウと4と5、禁止の範囲と結論と違憲とする対象の選択 図:完成答案|第2の4の3のウと4と5、禁止の範囲と結論と違憲とする対象の選択

禁止が尋問の間に限られる点で、故なく妨げていない、と結ぶ段です。ご自身の答案と見比べてみてください。

今日の地図(保存版)

締めの問い|受け手の自由は出発点、物差しは向かい合う相手と位置づけの強さで選び、結論は事実で決まる、他人のプライバシーとぶつかる場面が残っている

中編をまとめます。受け手の自由は、どの場面でも出発点です。物差しを選ぶのは、向かい合う相手と、受け手の自由の位置づけの強さです。結論を決めるのは、それを設例の事実から拾えるかです。では、向かい合う相手が、ほかの人のプライバシーだったら、物差しはどうなるでしょう。

参照条文

  • 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律69条
  • 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律70条1項
  • 日本国憲法21条1項
  • 日本国憲法82条1項
  • 裁判所法71条2項
  • 刑事訴訟法288条2項

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