憲法ゼロから憲法 論文

職業の自由(前編)

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ゼロから憲法 論文/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

設例

事例の時系列|ラフティング事業者の増加と料金の下落、事故、観光協会の要望、条例の制定

今日は、1つの事例を、答案として最後まで書き切ります。渓谷のラフティング、つまりゴムボートでの川下り事業に、県が許可制を敷きました。許可をもらえなかった元ガイドは、この制度が憲法に反すると言えるのか、という事例です。許可制そのものを争うのではありません。争うのは、許可の条件のうちの、ある1つです。そこまで絞り込む作業も、答案の一部です。まず事実です。K県のN渓谷には、K川の約12キロの区間があります。ラフティングができるのは、この区間だけです。ここでガイドが同乗する川下り事業の事業者は、5年前の7社から13社に増え、繁忙期の料金は約3割下がり、その間に2社が廃業しました。13の発着所は、区間の川沿いに、おおむね1キロ弱の間隔で並びます。民間の観光協会は県に、過当な料金競争が続けば安全に投資できない事業者が出る、として、新規の参入を抑えるよう求め、発着所は既存の発着所から2キロメートル以上離すこと、という案を示しました。K県議会は、この案の数字をそのまま採用して、条例を制定しました。

設例の条文|K県渓谷川下り事業条例の1条、3条、4条、5条から7条、15条、附則(架空の条例) 図:設例の条文|K県渓谷川下り事業条例の1条、3条、4条、5条から7条、15条、附則

設例のために作った、架空の条例です。以下、本件条例と呼びます。1条は、利用者の安全を確保するとともに、渓谷における観光の健全な発展を図る、と目的を掲げます。3条は、川下り事業を営もうとする者は、知事の許可を受けなければならない、と定めます。15条は、許可を受けずに事業を営んだ者を、50万円以下の罰金に処する、と定めます。4条が、許可の条件です。次の3つの全部に適合するときでなければ、許可されません。1号は、艇1隻につき1人以上、県の安全講習を修了した者をガイドとして置くこと。2号は、利用者の損害を賠償する保険に加入していること。3号は、発着所が、川に沿って測り、既存の許可事業者の発着所から2キロメートル以上離れていること。5条は、水位が県の定める基準を超えたときの出艇の禁止。6条は、救命胴衣の着用と、艇ごとのガイドの同乗。7条は、報告要求と立入検査、そして、5条か6条に違反した事業者への、是正命令と営業停止です。最後に附則です。施行の際に現に川下り事業を営んでいる者は、3条の許可を受けたものとみなす、と定めます。

事故の原因と県の資料|過去3年間の事故18件の原因の内訳、経営上の事情の記載なし、距離を検討した資料なし

県の調査では、過去3年間に、ガイド付き川下りの事故が18件あり、うち2件は死亡事故でした。事故報告書に記された原因は、増水時に出艇したものが7件、ガイドの救助技能が不十分だったものが6件、出艇が重なって艇どうしが接触したものが3件、その他が2件です。事業者の経営上の事情が原因と記されたものは、ありません。県は、事業者の収支と事故の関係を調べていません。廃業した2社にも、安全上の処分歴はありません。増水時に出艇を避ける基準は、条例の施行前は、県の要綱、つまり拘束力のない目安にとどまっていました。県が公表した逐条解説、つまり条文ごとの県の説明書は、4条3号を、艇の密集による事故を防ぐとともに、既存の事業者の経営の安定を図るもの、と説明しています。ただ、2キロメートルの根拠は、観光協会の案と同じ数字だという以外に、事故との関係で距離を検討した資料は、県に残っていません。

関係図|K県Bが4条3号を理由に元ガイドAを不許可、既存の事業者Cは附則で許可を受けたものとみなされる

関係を図にします。K県がB、許可を求めた元ガイドがA、すでに営業している事業者の1社がCです。Bは、4条3号に適合しないとして、Aを不許可にしました。Cは、附則によって、許可を受けたものとみなされています。この線が、登場人物のすべてです。

地図|約12キロの区間に13の発着所、各発着所から2キロメートルの帯が区間全体を覆い、満たせる場所がない

Aは元ガイドで、経験は10年。安全講習を修了し、保険の引受けも得ました。親族が持つ川沿いの土地に発着所を置いて事業を始めるため、許可を申請しました。予定地は、Cの発着所から、川に沿って約900メートルです。地図を見てください。施行後、区間内のどの地点も、いずれかの既存の発着所から、2キロメートル以内にあります。4条3号を満たす発着所を新しく置ける場所は、区間内にありません。Aは、4条3号は憲法22条1項に違反する、と主張しています。問いは1つです。本件条例4条3号は、憲法22条1項に違反するか。

入口と骨格

答案の進め方|入口と形式的正当化は短く通し、制約の強さの評価、目的の位置づけ、他の手段の挙げ方を厚く書く

答案の骨格は、総論の回の型どおりです。入口、制約、形式的正当化、実質的正当化、違憲とする対象の選択の順に進みます。形式的正当化は、一言で通します。本件条例は県議会が制定した条例で、憲法94条のもとで、法律の根拠の要請を満たします。4条3号は2キロメートルという数値で許否を決めていて、内容も明確です。ここは、別に論点にしません。今日の本番は、実質的正当化の中の3つです。制約の強さをどう評価するか。規制の目的をどう位置づけるか。他の手段を、どう挙げて切るか。この3つに、時間を使います。入口です。Aの具体的自由は、N渓谷で、川下り事業を営む自由です。

条文日本国憲法22条1項

職業選択の自由 第二十二条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

条文に書かれているのは、職業選択の自由、つまり職業を選ぶ自由です。Aが主張するのは、選んだ後の、事業を営む自由です。これが条文に入るのかどうか。入口で最初に引っかかるのは、この点です。

規範と答案の型|職業活動の自由の保障、選んだ職業を営めなければ職業選択の自由の実効性を確保できない

上の段に問題提起、真ん中に規範、下にあてはめがあります。真ん中の規範を、区切って見ていきます。1つ目の区切りは、「憲法22条1項は『職業選択の自由』を保障する」です。条文に書いてあることを、そのまま置きます。選ぶ自由は、文言どおり保障されます。2つ目の区切りは、「もっとも」から始まる理由です。「職業を遂行する自由が保障されなければ、職業選択の自由の実効性を確保しえない」。例えば、川下り事業を始める許可は下りたのに、出艇してよい日も時間も、行政が全部決めるとしたらどうでしょう。選べた意味が、ほとんど残りません。選んだ後を縛れば、選ぶ自由が空っぽになる。これが、条文にない自由を足す理由です。

足してよいのは、理由があるからです。選ぶ自由の保障を実のあるものにするために、必要な範囲だけを足しています。3つ目の区切りは、「営業の自由も同項により保障されると解する」です。条文に営業の自由とは書いていませんから、文末を「解する」として、解釈で立てる基準だと示しています。下の段のあてはめです。Aの自由は、川下り事業を営む自由で、営業の自由にあたります。だから、22条1項で保障される。ここまでが、答案の入口です。判例も、同じ結論です。薬局距離制限事件の判決は、22条1項について、次のように述べています。

判例最大判昭和五十年四月三十日(大法廷)

薬局距離制限事件の判決(職業活動の自由) 「このような職業の性格と意義に照らすときは、職業は、ひとりその選択、すなわち職業の開始、継続、廃止において自由であるばかりでなく、選択した職業の遂行自体、すなわちその職業活動の内容、態様においても、原則として自由であることが要請されるのであり、したがつて、右規定は、狭義における職業選択の自由のみならず、職業活動の自由の保障をも包含しているものと解すべきである。」

判決の言い方では、職業活動の自由です。選択した職業の遂行自体も原則として自由であることが要請されるから、22条1項は、職業活動の自由の保障をも包含している、と言います。

許可制という制約の強さ

制約|3条のもとでAは不許可となり事業を始められない、許可制は強力な制限、個々の許可条件は個別に審査

次は制約です。ここから本番の前半です。3条のもとで、Aは不許可になりました。許可なく営めば、15条の罰金です。事業を始められないのですから、Aの営業の自由は制約されています。問題は、この制約がどれくらい強いかです。強さは、あとで審査の厳しさを決める材料になります。まず、許可制そのものの評価です。薬局距離制限事件の判決は、こう述べています。

判例最大判昭和五十年四月三十日(大法廷)

薬局距離制限事件の判決(許可制は強力な制限) 「一般に許可制は、単なる職業活動の内容及び態様に対する規制を超えて、狭義における職業の選択の自由そのものに制約を課するもので、職業の自由に対する強力な制限であるから、その合憲性を肯定しうるためには、原則として、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要し、……許可制の採用自体が是認される場合であつても、個々の許可条件については、更に個別的に右の要件に照らしてその適否を判断しなければならないのである。」

許可制は、職業の自由に対する強力な制限です。だから、原則として、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることが要ります。そして、後半が大事です。許可制の採用自体が是認される場合でも、個々の許可条件は、さらに個別に、同じ要件に照らして審査される、と言います。本件でAが争うのは、許可制そのものではありません。Aが不許可とされた理由の、4条3号を、個別に見ます。4条1号と2号も、争いません。

問い|許可の条件が本人の努力で満たせるかどうかは、どんな事実で決まるか 図:問い|許可の条件が本人の努力で満たせるかどうかは、どんな事実で決まるか

問いです。許可の条件が、本人の努力で満たせるものかどうかは、どんな事実で決まるでしょう。4条の3つの条件を、板に並べました。少し考えてみてください。

答え|1号の講習と2号の保険は本人の努力で満たせる条件、3号は位置関係で決まり区間内に満たせる場所がない条件

1号の安全講習と、2号の保険は、Aが自分で動けば満たせます。実際にAは、どちらも満たしました。答案では、こうした条件を、主観的条件と呼びます。3号は違います。既存の発着所との位置関係だけで決まり、Aの経験も技能も努力も、関係ありません。こうした条件を、客観的条件と呼びます。解説の回で見た規制の強さの梯子では、いちばん強い段です。そこで、実態で評価します。文言の上では、発着所の場所の選び方で満たせるように見えます。しかし、区間内のどの地点も、既存の発着所から2キロメートル以内です。満たせる場所が、この区間の中には1か所もありません。区間の外では、そもそもラフティングができません。さらに附則です。既存の13社は、許可を受けたものとみなされ、3号は新しく入ろうとする者にだけ働きます。形の上では努力の余地があっても、実際には、新規の参入を一律に閉ざしています。この、形でなく実際で見る見方は、薬局距離制限事件の判決にもあります。開業場所の制限について、判決はこう述べています。

判例最大判昭和五十年四月三十日(大法廷)

薬局距離制限事件の判決(開業場所の制限の実質) 「薬局等を自己の職業として選択し、これを開業するにあたつては、経営上の採算のほか、諸般の生活上の条件を考慮し、自己の希望する開業場所を選択するのが通常であり、特定場所における開業の不能は開業そのものの断念にもつながりうるものであるから、前記のような開業場所の地域的制限は、実質的には職業選択の自由に対する大きな制約的効果を有するものである。」

特定の場所での開業の不能は、開業そのものの断念につながりうる。だから、開業場所の制限は、実質的には、大きな制約的効果を持つ、と言います。ここまでのまとめです。4条3号は、客観的条件であり、しかも区間内に満たす場所がなく、新規の参入を一律に閉ざします。制約の強度は、強い。この評価を、あとの目盛りで使います。

規制目的の位置づけ

目的を読む材料|1条、立法の経緯、規制の中身、逐条解説 図:目的を読む材料|1条、立法の経緯、規制の中身、逐条解説

次は、今日いちばん厚いところ、規制の目的です。目的をどう置くかで、審査の厳しさが動くからです。目的は、4つの材料から読みます。1つ目は条文です。1条は、安全の確保と観光の健全な発展を並べています。2つ目は立法の経緯です。観光協会が新規参入の抑制を求め、その案の2キロメートルが、そのまま採用されました。3つ目は規制の中身です。条例は、5条から7条にも安全の規定を置いています。4つ目は逐条解説です。密集による事故の防止と、既存の事業者の経営の安定、と説明しています。

判決の言葉と答案の枠組みの言葉を並べた2列の板|薬局距離制限事件と小売市場距離制限事件の判示、答案で使う目的の区分

目的を読む手がかりとして、2つの判決を見ます。薬局距離制限事件の判決は、規制が、経済や社会の政策を積極的に進めるためでなく、害を防ぐための消極的、警察的な措置であるときは、職業活動の内容や態様の規制では目的を十分に達成できないと認められることを要する、と述べました。小売市場距離制限事件の判決は、個人の経済活動への規制は立法府の政策的技術的な裁量に委ね、著しく不合理であることの明白である場合に限って違憲とできる、と述べました。前の判決は、手段まで踏み込んで審査します。後の判決は、立法府の裁量を広く認めます。この違いを、目的で整理したのが、板の右の列です。

規範と答案の型|規制目的による審査の整理、消極目的は厳格な合理的関連性の基準、積極目的は明白性の原則

真ん中の規範を、区切って読みます。1つ目の区切りは、「規制目的により審査基準を使い分ける」です。目的が決まれば基準が自動で決まる、という意味ではありません。目盛りを決める材料の一つとして使います。目的は、裁量の幅を通じて、目盛りに効きます。経済政策の目的なら裁量は広く、命や安全を守る目的なら狭くなります。2つ目の区切りは、消極目的規制です。国民の生命・健康・安全を守る規制で、理由は「政策的判断の余地が小さく、裁判所の審査能力が不十分とはいえない」こと。危険を防ぐ規制が効いているかは、裁判所にも見られます。だから、手段まで踏み込んで、厳格な合理的関連性の基準で審査します。

厳格、とありますけど、いちばん厳しい厳格審査基準のことですか。違います。三段の目盛りで言えば、真ん中の、中間審査基準の側です。目的は重要であれば足り、手段は、より緩やかな手段で足りないかまで見ます。目的を、厳格審査基準ほど絞りはしません。3つ目の区切りは、積極目的規制です。弱者保護や経済調整の規制で、理由は「裁判所の審査能力に制約がある」こと。経済政策の当否には専門的な分析が要り、裁判所には手に負えません。だから、立法府の裁量的判断を尊重して、明白性の原則、つまり、著しく不合理なことが明白な場合にだけ違憲とする、緩い基準で審査します。目盛りで言えば、いちばん下の、合理性の基準の側です。下の段のあてはめです。4条3号は、安全の確保に読める面と、経営の安定に読める面の、両方を持ちます。一方に決めるのは、まだ早いです。小売市場距離制限事件の判決は、こう述べています。

判例最大判昭和四十七年十一月二十二日(大法廷)

小売市場距離制限事件の判決(立法府の裁量の尊重) 「したがつて、右に述べたような個人の経済活動に対する法的規制措置については、立法府の政策的技術的な裁量に委ねるほかはなく、裁判所は、立法府の右裁量的判断を尊重するのを建前とし、ただ、立法府がその裁量権を逸脱し、当該法的規制措置が著しく不合理であることの明白である場合に限つて、これを違憲として、その効力を否定することができるものと解するのが相当である。」

この判決は、積極的な社会経済政策に基づく規制で、裁量を広く認めた例として使います。命と健康を守る規制の判断に、この緩い枠は持ち込みません。本件に戻します。4条3号は、利用者の安全を守る面、つまり消極目的の面と、既存の事業者の経営を安定させる面、つまり積極目的の面の、両方に読めます。そこで、Bはこう言うはずです。主な目的は経営の安定だから、小売市場の判決のとおり、緩く見るべきだ、と。反対に、Aは、主な目的は安全だから、薬局の判決のとおり、厳しく見るべきだ、と言いたくなります。

問い|目的が安全にも経営の安定にも読めるとき、どちらかに決めてから基準を選んでよいか

問いです。目的が、安全にも経営の安定にも読めるとき、どちらかに決めてから、審査の基準を選んでよいでしょうか。少し考えてみてください。

答え|決め打ちしない、主たる目的か副次的な目的かを認定し、決まらなければ規制の態様と併せて目盛りを決める

答えは、決め打ちしない、です。原告は消極目的、被告は積極目的、と言い合って終わる答案は、そこで止まります。まず、条文、立法の経緯、規制の内容から、2つの目的がそれぞれ主たるものか、副次的なものかを認定します。認定の手本が、薬局距離制限事件の判決です。薬局の適正配置規制の目的を、次のように認定しました。

判例最大判昭和五十年四月三十日(大法廷)

薬局距離制限事件の判決(主たる目的と副次的目的) 「この二点が右の適正配置規制の目的であるとともに、その中でも前者がその主たる目的をなし、後者は副次的、補充的目的であるにとどまると考えられる。これによると、右の適正配置規制は、主として国民の生命及び健康に対する危険の防止という消極的、警察的目的のための規制措置であり、そこで考えられている薬局等の過当競争及びその経営の不安定化の防止も、それ自体が目的ではなく、あくまでも不良医薬品の供給の防止のための手段であるにすぎないものと認められる。」

「この二点」とは、不良医薬品の供給の危険の防止と、無薬局地域等への開設の促進です。前者が主たる目的で、後者は副次的、補充的な目的にとどまる。過当競争や経営の不安定化の防止も、それ自体が目的ではなく、不良医薬品の供給を防ぐ手段にすぎない、と読みました。薬局では、主たる目的が決まりました。本件は、そうはいきません。1条、逐条解説、観光協会の要望、5条から7条の安全の規定を合わせても、どちらが専らの目的とは言えないからです。位置づけが決まらないときの書き方を、次の板で見ます。

規範と答案の型|複合する規制目的の扱い、決め打ちせず位置づけを認定、規制の態様と併せて審査の厳しさを決める

この板も、区切って読みます。1つ目の区切りは、「一方の目的に決め打ちせず、条文・立法の経緯・規制の内容から、それぞれの目的の位置づけを認定する」です。括弧の中は、主たる目的か、副次的な目的か、です。ここまでは、いま薬局の判決でやったことです。2つ目の区切りは、「位置づけが決まらない場合も、審査の厳しさは規制の態様の強さと併せて決め」です。目的だけで基準を決めない、という意味です。本件は、制約が強いのでした。客観的条件で、新規参入を閉ざすほどです。目的の位置づけが決まらなくても、この強さが、審査を厳しいほうへ引っ張ります。

目的が決まらないのに、厳しさは決められるんですか。決められます。審査の厳しさは、目的だけでなく、制約の強さや裁量の幅も合わせて決まるからです。目的が一つに決まらないときは、ほかの材料の比重が上がります。3つ目の区切りは、「いずれの目的との関係でも、効果的かつ過度でないかを検討する」です。目的ごとに手段を見ます。安全との関係で見て、経営の安定との関係でも見る。手段の審査で、そのとおりに進めます。

審査基準の決め方

目盛りの材料|権利の重要性、制約の強度、裁量 図:目盛りの材料|権利の重要性、制約の強度、裁量

基準を決める前に、総論の回の復習です。目盛りを決める三つの事情は、権利の重要性と、制約の強度と、あと一つは何でしたか?裁量、です。立法府や行政の判断を、どれくらい尊重するかの幅でした。解説の回で手がかりの一つに数えた立法の目的は、この裁量の幅に効いてきます。この3つを、順に当てます。まず権利の重要性。職業は、自分の個性を発揮する場で、人格と結びついています。Aは元ガイドとして10年の経験を持ち、川下り事業はAの職業の核心にあたります。重要性は高い。制約の強度は、さきほど見たとおり強い。この2つだけなら、厳格審査基準が出発点です。次は裁量です。ここで、薬局距離制限事件の判決の言葉を使います。

判例最大判昭和五十年四月三十日(大法廷)

薬局距離制限事件の判決(合理的裁量の広狭) 「具体的な規制措置について、規制の目的、必要性、内容、これによつて制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度を検討し、これらを比較考量したうえで慎重に決定されなければならない。……しかし、右の合理的裁量の範囲については、事の性質上おのずから広狭がありうるのであつて、裁判所は、具体的な規制の目的、対象、方法等の性質と内容に照らして、これを決すべきものといわなければならない。」

裁判所は、規制の目的、必要性、内容、制限される自由の性質と程度を、比較考量します。そのうえで、立法府の合理的裁量の範囲には、事の性質上おのずから広狭がある。目的、対象、方法の性質と内容に照らして、広いか狭いかを決める、ということです。本件に当てます。経営の安定の面は社会経済政策に関わるので、立法府の判断をある程度尊重すべきで、裁量が認められます。他方、安全の面は裁判所にも判断しやすく、裁量は狭いです。しかも、新規参入を閉ざす強い制約ですから、全体として、裁量の幅は広くありません。

目盛りの決定|重要性が高く強度が強いので厳格審査基準が出発点、経営の安定の面の裁量で一段緩めて中間審査基準、幅は広くなく合理性の基準までは下げない

解説の回で見たとおり、目盛りは上から三段です。厳格審査基準は、目的がやむにやまれぬ利益で、手段が必要最小限度であること。合理性の基準は、目的が正当で、手段が目的と一応つながっていれば足ります。中間審査基準は、その間です。目盛りを決めます。重要性が高く、強度が強いので、厳格審査基準が出発点です。経営の安定の面に裁量があるので、一段緩めて、中間審査基準にします。幅は広くありませんから、合理性の基準までは下げません。

規範と答案の型|審査基準の定立、権利の重要性、目的が重要で手段が効果的かつ過度でないときに正当化される

この板も、区切って読みます。1つ目の区切りは、職業は、その人が個性を発揮する場であり、人格的価値と切り離せない、というところです。権利の重要性が高い理由を、ここで置いています。2つ目の区切りは、「そこで」です。権利の重要性、制約の強度、規制目的を踏まえた結論へ、つなぐ接続詞です。3つ目の区切りは、「規制の目的が重要であり」と「手段が効果的で、しかも過度でないときには」です。目的は、正当ではなく、重要です。手段は、効果的か、過度でないか、の2つに分けて見ます。この2つが、あてはめの骨組みになります。「上記の制約」は、4条3号による制約のことです。下の段のとおり、Aの場合は、中間審査基準で見ます。

目的の重要性

目的|安全の確保は重要、経営の安定は参入を閉ざすほどの重要性を認めがたい 図:目的|安全の確保は重要、経営の安定は参入を閉ざすほどの重要性を認めがたい

ここから、本番の後半です。いちばん厚く書くところです。まず目的です。安全の確保は、利用者の生命・身体を守る目的です。過去3年間に、事故が18件、うち死亡が2件ですから、重要です。経営の安定は、観光の健全な発展に資する政策的な目的として、一定の正当性があります。ただ、廃業した2社に安全上の処分歴はなく、廃業は料金が下がる中で生じたというにとどまります。新規参入を事実上閉ざすことを支えるほどの重要性は、それ自体では認めがたいです。

手段の効果性

問い|距離を空ければ事故は減ると言われたら、どう切り返すか 図:問い|距離を空ければ事故は減ると言われたら、どう切り返すか

次は手段の効果性です。Bは、こう言います。発着所の間隔を空ければ、艇が密集せず、事故は減る、と。どう切り返しますか。事故18件の原因の内訳を、板に出しました。少し考えてみてください。

答え|密集に関わるのは3件、3号は新規の位置だけを縛る、距離と事故の資料なし、経営の不安定から事故への筋道は観念上の想定

事故の原因は、増水時に出艇したものが7件、ガイドの救助技能の不足が6件、出艇が重なった接触が3件、その他が2件です。密集に関わるのは、3件にとどまります。しかも3号は、新規の発着所の位置を縛るだけで、既存の13の発着所が並ぶ現状は変わりません。接触は、同じ時間帯に出艇が重なって起きます。発着所の位置の制限は、同時に川に出る艇の数を、直接には減らしません。距離と事故の関係を検討した資料も、県にはありません。安全の確保に資する程度は、小さいです。新規参入を止めれば、既存の事業者の競争は和らぎますから、経営の安定には資します。問題は、経営の不安定が事故につながる、という筋道です。事故報告書に経営上の事情の記載はなく、県は収支と事故の関係を調べていません。廃業した2社にも、処分歴はありません。薬局距離制限事件の判決は、これと同じ形の筋道を、次のように退けました。

判例最大判昭和五十年四月三十日(大法廷)

薬局距離制限事件の判決(立法事実の裏づけ) 「競争の激化―経営の不安定―法規違反という因果関係に立つ不良医薬品の供給の危険が、薬局等の段階において、相当程度の規模で発生する可能性があるとすることは、単なる観念上の想定にすぎず、確実な根拠に基づく合理的な判断とは認めがたいといわなければならない。」

競争の激化が経営の不安定を生み、それが法規違反と危険につながる。そうした危険が相当程度の規模で発生する可能性があるとするのは、単なる観念上の想定にすぎない、と言います。立法事実の裏づけを求めた、ということです。本件も、経営の不安定が事故につながるという想定は、観念上のものにとどまります。結局、安全の確保にはわずかしか資さず、経営の安定には資しても、目的の重要性に欠ける。手段は、効果的とはいえません。

規範と答案の型|手段審査の枠組み、目的の達成に資するか、より制限的でない他の手段で足りないか、他の手段は効き具合まで示す

この板は、手段の審査の枠組みです。1つ目の区切りは、「その手段が目的の達成に資するかを、立法事実に基づいて検討する」です。立法事実とは、規制を支える事実のことで、本件では、事故の原因の内訳や、県が調べたかどうかです。いま見た効果性が、この段でした。2つ目の区切りは、「より制限的でない他の手段によっても目的を十分に達成できるかを検討し、できる場合には、過度な手段として許されない」です。次に見るのが、この段です。3つ目の区切りは、「他の手段を挙げるときは、その手段が目的の達成にどこまで効くかまで示す」です。他に手段があります、とか、監督を強化すれば足ります、と書くだけでは、答案になりません。病院で、他にも治療法があります、とだけ言われても、処方にならないのと同じです。症状ごとに、どの薬がどこまで効くかを書いて、はじめて処方です。

手段の過度性

問い|事故の原因ごとに、どの手段がどこまで効くか 図:問い|事故の原因ごとに、どの手段がどこまで効くか

問いです。事故の原因ごとに、条例の規定や新しい規制のうち、どの手段が、どこまで効くでしょう。事故の原因の表と、条例の規定を、板に並べました。少し考えてみてください。

答え|増水7件と技能6件は5条6条7条と既存の事業者への講習の義務づけ、接触3件は出艇数の上限と出艇時刻の届出、3号が効くのは接触の一部だけ

原因ごとに、手段を対応させます。まず、増水時の出艇7件と、ガイドの救助技能の不足6件、合わせて13件です。5条の増水時の出艇禁止、6条のガイドの同乗と救命胴衣、7条の立入検査と是正命令、営業停止、そして4条1号と同じ安全講習の修了を既存の事業者のガイドにも義務づける規制が、直接対応します。施行前は、増水時の出艇を避ける基準が、拘束力のない要綱でした。それが条例で義務になり、違反は営業停止で制裁されます。守られるかぎり、これらの原因による事故は、13件とも防げます。守られているかは、立入検査で確かめられます。薬局距離制限事件の判決も、同じ形で他の手段を挙げました。

判例最大判昭和五十年四月三十日(大法廷)

薬局距離制限事件の判決(他の手段と立入検査) 「……そのような限界があるとしても、例えば、薬局等の偏在によつて競争が激化している一部地域に限つて重点的に監視を強化することによつてその実効性を高める方途もありえないではなく、また、被上告人が強調している医薬品の貯蔵その他の管理上の不備等は、不時の立入検査によつて比較的容易に発見することができるような性質のものとみられること、……」

競争が激化している一部地域に限って、重点的に監視を強化する。管理の不備は、不時の立入検査、つまり予告のない検査で、比較的容易に発見できる。原因に直接効く手段を、効き具合とともに挙げています。本件も同じです。繁忙期に立入検査を重点的に行えば、増水時の出艇や、同乗の不備は発見できます。次に、出艇が重なった接触3件です。繁忙期に、時間帯ごとの出艇数の上限を定め、出艇の時刻を県に届けさせます。接触の原因に直接働きます。しかも既存の13社にも及ぶので、現在の密集にも効きます。新規にだけ及ぶ3号より効果が大きく、新規の参入も妨げません。

経営の安定そのものを目的にしても、重要性は高くありません。守る利益が大きくないのに、手段は、新規の参入を事実上全面的に閉ざして既存の事業者を守ります。目的と手段の均衡を著しく失い、過度な手段にあたります。二つの目的を併せて考えても、同じです。

判例最大判昭和五十年四月三十日(大法廷)

薬局距離制限事件の判決(二つの目的を併せ考えても) 「本件適正配置規制は、右の目的と前記(2)で論じた国民の保健上の危険防止の目的との、二つの目的のための手段としての措置であることを考慮に入れるとしても、全体としてその必要性と合理性を肯定しうるにはなお遠いものであり、この点に関する立法府の判断は、その合理的裁量の範囲を超えるものであるといわなければならない。」

2つの目的のための手段として考慮に入れても、全体としてその必要性と合理性を肯定しうるにはなお遠い。複合目的では、目的ごとに手段を見て、最後に併せて考えても足りない、と書く手本です。

結論|より制限的でない手段で目的を十分に達成できる、4条3号は過度で違憲、違憲とする対象は4条3号そのもの

結論です。他の手段で、目的を十分に達成できます。4条3号は過度で、手段は効果的かつ過度でないとはいえません。Aの営業の自由の制約は、正当化されません。本件条例4条3号は、22条1項に違反し、違憲です。違憲とする対象は、4条3号そのものです。総論の回で見たとおり、条文は合憲で、使い方だけが人権を侵すなら、処分だけを違憲とします。しかし4条3号は、2キロメートル以上という一義的な数値で許否を決めるので、運用で合憲となる余地がありません。どう使っても、Aは不許可になります。許可制そのものや、4条1号と2号まで、違憲とする必要もありません。

二つの判決の使い分け

判例の使い方|薬局距離制限事件は許可制の位置の条件を違憲、小売市場距離制限事件は積極的な社会経済政策の許可規制を合憲、一方の枠を他方に流用しない

最後に、2つの判決の使い方を確認します。薬局距離制限事件の判決は、許可制で位置の条件を置いた規制を、違憲としました。小売市場距離制限事件の判決は、積極的な社会経済政策に基づく許可規制を、合憲としました。一方の枠を他方に流用しません。目的が違えば、裁判所が踏み込める深さが違うからです。命や健康を守る規制が効くかは裁判所にも見られますが、経済政策の当否は見きれません。薬局の判決自身も、小売市場の判決の法理は、薬局の事案には必ずしも適切でないとしています。本設例は、複合目的でしたから、どちらの型にも直結させませんでした。薬局の判決からは、許可制の強さの評価、立法事実の裏づけ、他の手段の挙げ方を使い、小売市場の判決からは、積極的な目的に裁量を認める部分だけを使いました。解説の回で見た公衆浴場の距離規制の判決にも、積極的な目的の規制として、立法裁量を広く認めたものがあります。距離規制だから緩く見るべきだ、とBが言うときの材料です。ただ、同じ規制の目的を、両方を併せ持つと読んだ判決もありました。本件も目的が一つに決まらないので、これにも直結させません。

完成答案

完成答案|第1 入口の特定、第2 制約、第3 形式的正当化 図:完成答案|第1 入口の特定、第2 制約、第3 形式的正当化

ここまでを、答案の形にしました。こちらが完成答案です。動画を止めて見てみてください。この板は、入口の段です。営業の自由の規範と、不許可で事業を始められない、という制約の認定を見てください。最後の形式的正当化は、短く通しています。

完成答案|第4 審査基準の定立(考え方、権利の重要性、許可制であること、4条3号が客観的条件であること) 図:完成答案|第4 審査基準の定立

見どころは、権利の重要性と、許可制が強力な制限であることを書く段です。許可制そのものは争わず、個々の条件を見る、と対象を絞る一文にも注目してください。下のほうから、4条3号を客観的条件と位置づける段に入ります。

完成答案|第4 審査基準の定立(客観的条件の続き、小結、規制目的と裁量、審査基準) 図:完成答案|第4 審査基準の定立

今日の本番の前半です。区間内に満たす場所がない、と実態で評価する段の続きから始まります。そのあとが今日の中心で、複合する目的を決め打ちせず、裁量と制約の強さで目盛りを決める段です。

完成答案|第4 審査基準の続き、目的、手段(効果性) 図:完成答案|第4 審査基準の続き、目的、手段(効果性)

最初に、基準を置く一文があります。続いて、本番の後半の前半です。目的の重要性と、効果性の段です。密集に関わる事故は3件にとどまることを、事実で書く運びを見てください。

完成答案|第4 手段(効果性の続き、小結、過度でないか) 図:完成答案|第4 手段(効果性の続き、小結、過度でないか)

効果性の段の続きです。経営の不安定が事故につながるという想定が観念上のものにとどまることを、事実で書く運びを見てください。下のほうから、他の手段を原因ごとに挙げる段に入ります。

完成答案|第4 手段(過度でないかの続き)、結論、第5 違憲とすべき対象の選択 図:完成答案|第4 手段(過度でないかの続き)、結論、第5 違憲とすべき対象の選択

本番の後半の後半です。他の手段の段のまとめと、経営の安定との関係、結論、そして違憲とする対象の選択です。ご自身の答案と見比べてみてください。今回は、参入そのものを止める許可制を見ました。では、参入を止めない規制や、税収を目的にした規制では、物差しをどう置き直すのでしょうか。

参照条文

  • 日本国憲法22条1項

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