職業の自由(後編)
印刷のコツ
プリンターでは次の設定がおすすめです。
- 用紙:A4 / 向き:縦
- 拡大縮小:「実際のサイズ」(フィット縮小しない)
- 両面印刷:オン、とじ方は「長辺をとじる」(左綴じ)
- モノクロ印刷OK(強調は色でなく太字なので白黒でも読めます)
ゼロから憲法 論文/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
前編の型
図:前編の型|入口、制約の評価、目的の位置づけ、基準の定立、目的と手段のあてはめ
前編では、K県のラフティング事業の許可制で、答案を一本書きました。入口で、川下り事業を営む自由を、22条1項で押さえます。制約の評価で、許可の条件が本人の努力で満たせるかを、実態で見ます。規制の目的を位置づけて、基準を立てて、目的と手段を当てます。
条文日本国憲法22条1項
憲法第22条第1項 第二十二条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
物差しは、こうでした。許可制は、許可がなければ、その職業を始めること自体ができない、参入そのものを止める規制です。だから、職業の自由に対する強力な制限で、重要な公共の利益のために必要かつ合理的であることを要する、でした。型がそのまま通らない場面が、二つあります。許可の条件が、いくつも並び、条件ごとに目的が違う規制。そして、団体への加入が営業の条件になる規制。この二つの場面で、型のどこが動くのかを見ます。先に答えを言うと、型そのものは変わりません。動くのは、目盛り、つまり審査の厳しさを決める事情です。この回では、条件の実態と、目的と、それを支える裏付けです。設例は、場面ごとに別です。人物の字も、場面ごとに割り直します。Aはいつも、規制を受けて争う人。Bは、規制する公権力です。
許可の条件を一つずつ審査する
図:移動販売の事実|Y市の中心市街地、出店後の売上、食中毒と指摘の件数、提案理由
この回の本番です。許可の条件が、いくつも並んでいる場面です。Y市の中心市街地では、キッチンカーの出店が増えました。条例を作る前に、市が調べたところ、出店場所から100メートル以内にある既存の飲食店6店舗のうち、4店舗で、出店後に売上が減りました。平均で、約2割の減少です。一方、過去5年に、市内の移動販売に起因する食中毒は0件です。立入検査での衛生上の指摘は、年平均2件で、いずれも指導で是正されました。議会での提案理由は、主に、市外の業者の流入で、既存の事業者や飲食店の売上が落ちている、ということでした。営業実績の長さと衛生の水準の関係を調べた資料は、市にもありません。
図:Y市の条例|1条の目的、2条の許可、3条の三つの条件、4条の罰金
Y市議会は、中心市街地移動販売条例を作りました。1条は、食品の安全の確保と、飲食業の健全な発展、の二つを目的に掲げます。2条は、中心市街地で移動販売をするには、市長の許可を要する。4条は、無許可の営業に30万円以下の罰金です。3条が、許可の条件です。市長は、三つのすべてに該当しなければ、許可をしてはならない。1号は、食品衛生法の営業許可を受けた調理設備付きの車両を使うこと。2号は、中心市街地で、継続して3年以上、移動販売を営んだ実績があること。施行前の期間も含みます。3号は、営業する場所が、既存の飲食店の店舗から100メートル以上離れていること。

条例の施行は、2年前です。施行の時に中心市街地で営業していた事業者5者、Eは、施行前の営業期間を数えられたので、全員が許可を受けました。ところが、施行後に新しく申請して、許可を受けた者は、まだ一人もいません。許可なしの営業は、4条で罰せられます。ですから、許可が無ければ中心市街地で営業できず、3年の実績は積めません。Aは、市外でキッチンカーを5年間営み、その車両は、食品衛生法の営業許可を受けています。中心市街地の広場に隣接する場所で出店しようと申請しました。そこは、既存の飲食店Dの店舗から、約60メートルです。
図:関係図|BがAを不許可、Eの5者は許可済み、Dの飲食店が近隣
関係です。Bは、Y市の市長。BからAへ、不許可。Eの5者は、すでに許可を受けています。Dは、近くの既存の飲食店です。Bは、中心市街地での営業実績がない、つまり2号と、場所がDの店舗から100メートル未満である、つまり3号を理由に、不許可としました。Aは1号の条件は満たしています。問いです。条例の許可条件である、3条の2号と3号は、憲法に違反するか。骨格を、先に通します。入口は、キッチンカーで中心市街地で移動販売を営む自由で、営業の自由です。制約は、許可がなければ営業できない、参入そのものの制約で、直接かつ強度です。形式的正当化は、条例で、議会が作ったもので、条件も明示されています。論点にしません。本番は、実質的正当化です。

問いです。3条の三つの条件は、どれも、許可制が認められるか、という同じ問いで審査してよいでしょうか。少し考えてみてください。
図:規範と答案の型|許可条件の個別審査
答えは、いいえ、です。許可制そのものが是認されても、条件は一つずつ、目的に照らして審査します。板を映します。問いは、許可制の採用自体が是認される場合でも、個々の許可条件は、どう審査するか、です。規範を、三つに区切って読み解きます。最初の区切りは、「許可制の採用自体が是認される場合であつても、個々の許可条件については、更に個別的に」審査しなければならない、です。許可制が合憲でも、条件は別です。許可制の審査と、条件の審査は、二段になっています。前編で許可制を審査した型は、条件ごとに、もう一度使います。なぜ二段か。Aの営業を実際に止めているのは、許可制という仕組みではなく、Aが満たせない一つ一つの条件です。仕組みが正当でも、目的とつながらない条件が一つあれば、その条件の分だけ、正当化されない制約が残ります。二つ目は、答案で条件ごとに当てる物差しで、「条件ごとに、目的が重要であり、手段が効果的かつ過度でない場合に限り」です。答案では、許可制そのものには前編の物差しを書き、条件の一つ一つには、この物差しを書きます。やり方は、条件ごとに、まず目的を確定する。次に、その目的と手段の関係を当てる。条例1条は、安全と飲食業の発展の二つを掲げています。どちらの目的がどの条件に対応するかは、条件ごとに読みます。そして、条件の目的が、既存の店の経営の安定のような積極的な目的の側にあって、制定前の調査のような裏付けもあるときは、前編で見た積極的な目的の物差しに寄せます。経済の調整がうまくいくかは、専門的な分析が要り、裁判所には判断しにくいからです。そこで、立法府の裁量を広く認め、手段が著しく不合理であることが明白な場合に限って、違憲とします。この物差しまで下げるのは、その場合だけです。
三つ目は、最後の一文です。条件が、文言の上では本人の努力で満たせても、実際には特定の者しか満たせないときは、客観的条件、つまり本人の努力では越えられない条件に近いものとして審査する。努力では越えられない条件は、どれだけ頑張っても、その職業に入る道を閉ざします。だから、いちばん強い制約として、厳しく見ます。文言ではなく、実態で評価する、ということです。2号が、まさにこれにあたります。判決の文を見ます。
判例最大判昭50・4・30 民集29巻4号572頁
薬局距離制限事件(許可条件の個別審査) 「そして、この要件は、許可制そのものについてのみならず、その内容についても要求されるのであつて、許可制の採用自体が是認される場合であつても、個々の許可条件については、更に個別的に右の要件に照らしてその適否を判断しなければならないのである。」 「……これらの許可条件に関する基準のうち、同条一項各号に定めるものは、いずれも不良医薬品の供給の防止の目的に直結する事項であり、比較的容易にその必要性と合理性を肯定しうるものである」
前半が、条件を個別に見る、という文です。後半は、安全の目的に直結する条件は、比較的容易に必要性と合理性が肯定できる、と言っています。この見方を、1号に使います。
図:Y市の条件ごとの審査表|1号、2号、3号の列に、文言上の見え方、実態、目的、結論
条件ごとに、表で見ていきます。1号は、調理設備付きの車両です。食品の安全に直結する条件で、事業者が努力して備えられます。目的との関連が明らかで、比較的容易に、必要性と合理性が肯定できます。Aも満たしていますから、争いは小さい。ここは、対比に使います。合憲です。2号が、本番です。営業実績3年。文言の上では、中心市街地で3年営業すれば満たせる条件で、本人の努力で満たせるように見えます。ここで、問いです。
図:Y市の2号の問い|この条件は本人の努力で満たせると言えるか、言えないならなぜか
この条件、本人の努力で満たせると言えるでしょうか。言えないなら、なぜでしょう。少し考えてみてください。

答えです。文言は、3年の実績。実態は、営業には許可が要るので、新規の者は、実績を積む機会がありません。許可を受けているのは、施行時に営業していたEの5者だけです。実際に満たせるのは、特定の者だけですから、客観的条件に近いと評価します。強い制約として、厳しく審査します。前編では、発着所の距離制限を、川の区間の中に新しく置ける場所が一つもない、という実態で見ました。それと同じ見方です。条文の見かけではなく、誰が満たせるのかを見ます。次は、目的の確定です。1条は、安全と飲食業の発展を掲げています。2号は、どちらのための条件でしょうか。立法の経緯を見ると、提案理由は、主に売上の減少でした。食中毒は0件、立入検査の指摘は年平均2件で、すべて指導で是正されています。安全は、1号の車両の基準と、立入検査で担保できています。そうすると、2号は、安全のための条件とは言い難い。主として、既存の事業者の保護が、目的です。既存の事業者の保護も、目的として認められうる余地はあります。ただ、2号には、条例を作る前の調査のような裏付けがありません。裁量を広く認める足場が無く、しかも2号は、さきほど見たとおり、特定の者しか満たせない強い制約です。目的と態様の両方から、厳しいまま審査します。手段審査をします。まず効果です。営業実績の長さと、衛生水準が関係する、と示す資料はありません。効果が疑わしい。次に、仮に既存の事業者の保護を目的としても、2号は、新規の参入を事実上閉ざして、将来にわたって、許可をEの5者に限ります。目的達成に必要な範囲を超えています。
他の手段は、効き具合まで言います。衛生の確保なら、1号の車両の基準と立入検査で足ります。指導で是正されてきた実績があります。2号を置かなくても、目的は達成できます。2号は過度で、制約として正当化されません。違憲です。

3号です。距離100メートル。営業する場所は、本人の努力では変えにくい、客観的条件です。ここまでは、2号と同じです。ところが、目的が違います。3号は、既存の飲食店の経営の安定を図る、積極的な目的の側にあります。そして、立法事実、つまり規制を支える事実の裏付けがあります。条例の制定前の調査で、出店場所から100メートル以内の飲食店6店舗のうち4店舗で、出店後に売上が平均約2割減りました。客観的条件ですから、制約は強い側です。それでも、目的が経済の調整で、その必要を制定前の調査が支えているので、裁判所が議会の判断を覆す足場がありません。だから、立法府の裁量を広く認めます。100メートルという範囲は、調査の範囲に対応していて、ほかの場所での営業は妨げません。著しく不合理であることが明白とは言えません。3号は、合憲です。2号と3号の違いは、手段を支える材料の有無です。2号は、営業実績と衛生をつなぐ資料がありませんでした。3号は、制定前の調査がありました。
判例最判平元・1・20 刑集43巻1号1頁
公衆浴場の適正配置規制事件(既存業者の経営の安定を図る距離制限) 「公衆浴場業者が経営の困難から廃業や転業をすることを防止し、健全で安定した経営を行えるように種々の立法上の手段をとり、国民の保健福祉を維持することは、まさに公共の福祉に適合するところであり、右の適正配置規制及び距離制限も、その手段として十分の必要性と合理性を有していると認められる。」 「……もともと、このような積極的、社会経済政策的な規制目的に出た立法については、立法府のとつた手段がその裁量権を逸脱し、著しく不合理であることの明白な場合に限り、これを違憲とすべきであるところ(……参照)、右の適正配置規制及び距離制限がその場合に当たらないことは、多言を要しない。」
既存の業者の経営の安定を図る距離制限を認めた判決です。3号の目的の位置づけを支えます。ただし、前編で見た薬局の距離制限は、距離制限と不良医薬品の防止の結びつきを支える裏付けが乏しく、違憲でした。3号に裏付けがあることが、結論を分けます。一つ、確認です。総論の回の内容を思い出してください。法令そのものではなく、特定の処分だけを違憲と評価する場合を、何と呼びましたか?処分違憲です。今回の2号は、文言から一義的に定まる条件です。施行後に申請する者は、誰であっても、中心市街地の実績を積めません。違憲の原因は、Aの個別の事情ではなく、条件の中身そのものにあります。違憲とするのは、条例3条2号の規定そのものです。法令を違憲とします。2号は違憲、3号は合憲。型は同じで、結論を分けたのは、条件ごとに目盛りを決める事情でした。
団体への加入が条件になる規制

もう一つは、短く見ます。団体への加入が、営業の条件になる場面です。X県で、5年間に、高層ビルの窓清掃のゴンドラ作業中の転落事故が3件ありました。X県は条例で、窓清掃業を営む者は、業者団体、協会Cの会員になって、Cの認定を受けなければならない、としました。違反は罰金です。Cの入会には、入会金300万円と、既存の会員2者の推薦書が必要です。入会金の額は、協会Cが決めています。Cは、会員向けの安全講習と、ゴンドラの定期点検を行っています。Aは、県外から参入を希望する窓清掃業者です。県外で10年間、ゴンドラ作業の安全に問題なく営業してきましたが、既存会員2者の推薦が得られず、入会できませんでした。Bは、X県です。

関係です。Bは、認定がなければ、Aの営業を認めません。Aは、Cに入会を申し込みます。入会には、Cの会員の推薦が必要です。問いは、営業を協会への加入にかからせる条例は、職業の自由を侵害して違憲か、です。団体に加入させられること自体、つまり、結社の自由のうちの、加入しない自由の問題は、ここでは別に扱います。この場面は、営業の自由の側だけを見ます。強制加入の団体が合憲とされうるのは、この加入しない自由の側の話です。ここで問うのは、加入させること自体ではなく、加入の条件が、参入を閉ざしていないか、です。入口は、窓清掃業を営む自由で、営業の自由です。制約は、協会の会員になって認定を受けなければ、営業できない。許可制に準ずる、参入の制約です。だから、さきほどの許可の条件の型を使います。加入の条件を、一つずつ見ます。入会金300万円は、資力の問題で、お金を用意すれば満たせます。これだけなら、本人の努力で満たせる側です。ただ、その額を決めるのは協会で、参入の敷居の高さを、既存の会員の側が決められます。そして、推薦2者。既存会員の判断次第で、参入が決まります。Aが県外で10年、安全に営業してきたことも、推薦がなければ意味を持ちません。実態で見ると、客観的条件に近い。目的は、転落事故の防止、つまり安全です。安全講習や定期点検の水準を確かめるなら、推薦は、安全と関連が薄い。既存会員の判断に参入を委ねるのは、目的に対して過度です。入会金の額と推薦で、参入の可否を既存の会員の手に委ねる仕組みは、正当化されません。結論は、違憲です。ここで、条件ごとに目的と手段を当てる、許可の条件の型が、そのまま使えました。
完成答案
図:完成答案 第1の入口、第2の制約、第3の形式的正当化
ここまでを、答案の形にしました。許可の条件の答案です。動画を止めて見てみてください。最初の板は、入口と制約と形式的正当化です。許可制を、直接かつ強度の制約と置く段です。
図:完成答案 第4の1から3の(1)、問題の所在、審査基準の定立、1号
許可制が是認される場合でも、条件を個別に審査する、と問題の所在に置く段です。条例1条の二つの目的を、条件ごとに読む、と基準に書き込んでいます。続けて1号です。食品の安全に直結し、努力で備えられる条件なので、ここで合憲と片付けます。
図:完成答案 第4の3の(2)、2号
ここが本番です。2号を、文言と実態に分けて評価する段を見てください。実績を積む機会がない、という事実が、客観的条件に近い、という評価を支えています。
図:完成答案 第4の3の(3)、3号
3号の段です。積極的な目的の側にある、と位置づけて、制定前の調査という立法事実で支える運びを見てください。
図:完成答案 第4の4、違憲とする対象、第5の結論
最後は、違憲とする対象と結論です。違憲の原因が条件の中身にあるので、Aへの不許可という処分ではなく、条例3条2号の規定を違憲とする段です。ご自身の答案と見比べてみてください。
今日の地図(保存版)

後編をまとめます。型は、前編のままでした。動いたのは、目盛りを決める事情です。許可の条件は、許可制そのものとは別に、一つずつ、目的に照らして審査しました。2号は、文言では努力で満たせても、実態では特定の者しか満たせないので、客観的条件に近いものとして厳しく見ました。3号は、目的が積極的で立法事実の裏付けがあったので、立法府の裁量を広く認めました。団体への加入が条件になる場面も、同じ型で、加入の条件を一つずつ見ました。物差しを見比べます。中編、つまり前編とこの回の間に見た二つの場面では、参入を妨げない規制は、立法府の判断が合理的裁量の範囲にとどまるか、を見ました。財政目的の許可制は、立法府の判断が著しく不合理でない限り、でした。この回の許可の条件は、条件ごとに、目的が重要で手段が効果的かつ過度でないか、を見ます。型は同じでも、目盛りを動かす事情を、設例の事実から拾えるかどうかで、答案は決まります。
参照条文
- 日本国憲法22条1項