統治行為の書き方
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ゼロから憲法 論文/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
答案化の問い
図:統治行為——意味は分かった。では衆議院の解散の効力を答案でどう書くか
口を出さない、という理解までは大丈夫です。今日はその先、答案でどう書くかです。今日は衆議院の解散の効力が争われた設例を、答案の型どおりに一歩ずつ書き切ります。この訴え自体は、法律上の争訟にちゃんとあたります。でも、その中身には踏み込めません。矛盾しているように見えるところが、まさに今日の要点です。要件を満たしていないから審査しない、のではありません。満たしているのに、あえて審査しない。このねじれを、どう答案の言葉にするかが今日のテーマです。
論文の型
図:規範と答案の型|統治行為(衆議院の解散と司法審査)
まず、今日組み立てる答案の骨格を一枚で見ておきます。問題提起、規範、あてはめと結論、この3段です。型は同じ。埋める中身が違うだけです。今日の問題提起は、こういう形になります。本訴は法律上の争訟にあたる。しかし前提問題として、ある国家行為の効力が争われている。裁判所はこれを審査できるか。前提問題という言葉が、もう出てくるんですね。ここが今日いちばんの見せ場です。本訴と前提問題、この2つを分けて書くところから始めます。では、規範から埋めていきます。
規範を逐語で言えるようにする
図:規範を立てる|統治行為の定義2要素→根拠→帰結
本編に入る前に、1つ聞かせてください。以前の回で見た統治行為、定義はどんな2つの要素だったか、思い出してみてください。定義の要素は何でしたか? 「直接国家統治の基本に関する」、そして「高度に政治性のある」、でしたね。今日はこの規範を、実際に答案でどう書くかを見ていきます。まず、司法権がどこに属するかを確認します。
条文日本国憲法76条1項
日本国憲法第七十六条第一項 すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
次に、違憲審査権です。
条文日本国憲法81条
日本国憲法第八十一条 最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。
81条との関係は、大事な整理です。81条の違憲審査権は、司法権の行使に付随して働くものです。ですから、司法権そのものに憲法上の限界があれば、その先には違憲審査権も届きません。三権分立の原理に由来して、司法権の本質に初めから内在している制約です。有効か無効かの判断が法律上できる場合であっても、初めから審査権の外にあります。ここを取り違えると、規範全体の意味が変わってしまいます。では、その限界を作っている規範を立てます。定義の2要素を確認したら、次に根拠、最後に帰結、という順番で組み立てます。根拠は、三権分立の原理に由来する制約、つまり司法権の憲法上の本質に内在する制約です。帰結は、法律上の争訟にあたる場合であっても、司法権を行使しえない、というものです。
図:規範と答案の型|統治行為(衆議院の解散と司法審査)
⭐ 論文で書く規範:統治行為 ①直接国家統治の基本に関する、②高度に政治性のある国家行為(統治行為)は、裁判所の審査権の外にあり、その判断は主権者たる国民に対して政治的責任を負うところの政府、国会等の政治部門に委ねられている。そこで、裁判所は、統治行為については、たとえそれが法律上の争訟となり、これに対する有効無効の判断が法律上可能である場合であっても、三権分立の原理に由来する制約、すなわち司法権の憲法上の本質に内在する制約として、司法権を行使しえないと解する(内在的制約説)。 (規範(最大判昭35・6・8 苫米地事件))
6か所です。1つめが「直接国家統治の基本に関する」、2つめが「高度に政治性のある」、3つめが「裁判所の審査権の外にあり」、4つめが「主権者たる国民に対して政治的責任を負うところの政府、国会等の政治部門」、5つめが「たとえそれが法律上の争訟となり、これに対する有効無効の判断が法律上可能である場合であっても」、6つめが「司法権の憲法上の本質に内在する制約」という部分です。末尾の内在的制約説というのは、憲法に明文の規定があるわけではなく、司法権そのものの性質から出てくる限界だ、という立場の名前です。この規範は逐語で言えるようにしてください。本番で、その場から言葉を組み立て直している時間はありません。ただし、丸暗記ではありません。太字は「一字も崩せない場所」という意味です。ここを落とすと採点で削られます。理由を分からないまま押し込んだ言葉は、緊張すると出てきません。
覚え方は、理由づけから結論に至る道筋を、何度も自分でたどることです。直接国家統治の基本に関する、高度に政治性のある国家行為だから、裁判所の審査権の外にある。その判断は、主権者たる国民に対して政治的責任を負うところの政府、国会等の政治部門に委ねられている。だから、たとえそれが法律上の争訟となり、これに対する有効無効の判断が法律上可能である場合であっても、三権分立の原理に由来する制約、すなわち司法権の憲法上の本質に内在する制約として、司法権を行使しえない。この順番を繰り返したどれば、結論の言葉のほうが自然と染み込みます。
例えば、衆議院の解散のように、国政の仕組みそのものを動かす国家行為は、統治行為にあたります。反対に、世の中の注目度がどれほど高くても、法律の解釈をあてはめれば結論が出せる行政処分の適法性は、この類型には乗りません。
前提問題の識別と設例
図:落とし穴|統治行為の設例でも、まず本訴が法律上の争訟にあたるかから書く
ここで、今日いちばん見落としやすい落とし穴を、先に潰しておきます。統治行為の設例を見ると、初学者はつい「これは統治行為だ、審査できない」と決めつけてしまいます。いきなり定義のあてはめから書き始めるのが、いちばんの落とし穴です。答案で先に書くべきなのは、この訴え自体が法律上の争訟にあたるかどうかの確認です。イメージしやすいように、別の場面で1つたとえておきます。会社の株主総会の決議を争う訴訟で、原告が求めているのは配当金の支払いだとします。これ自体は、ふつうの金銭請求で、争訟にあたります。配当金が出るかどうかは、その総会での取締役選任決議が有効かどうかで決まります。勝敗を決めるために、性質のまったく違う問いに答えなければならない。これが前提問題です。
図:二層構造|本訴(歳費請求)と前提問題(解散の効力)
今日の設例も、同じ構造です。読みます。元衆議院議員Yは、内閣がした衆議院の解散について、その解散を決定した閣議決定の手続に瑕疵があり無効であるから、この解散によっては議員としての地位を失っていないと主張し、解散の日から本来の任期満了日までの間の衆議院議員としての歳費の支払を、国に対して求める訴えを提起した。裁判所はこの訴えを審理・判断できるか。これが設問です。歳費とは、国会議員に国から支払われる給与です。Yが求めているのは、その支払いです。そこで立ち止まれるかどうかが分かれ目です。図を見てください。上に、Yが国に求めている中身があります。歳費の支払い、これが訴訟物です。歳費請求権の存否は、具体的な権利義務の存否をめぐる紛争で、法の適用によって終局的に解決できます。以前の論文回でカードにした裁判所法3条1項、一切の法律上の争訟に、これはそのままあたります。
文章で書くと——Yは、衆議院議員としての歳費の支払いを国に求めている。これは特定の権利義務の存否をめぐる具体的な紛争であり、法令の適用によって終局的に解決することができるから、法律上の争訟にあたる。もっとも、その前提問題として、衆議院の解散の効力が争われている。図の下を見てください。この歳費請求権があるかどうかを決めるには、衆議院の解散が有効かどうかという、まったく別の問いに答えなければなりません。衆議院の解散は、内閣の助言と承認による国事行為です。
条文日本国憲法7条
日本国憲法第七条(柱書・第三号) 天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。 …… 三 衆議院を解散すること。
解散権の根拠はよく問題になる論点ですが、今日は立ち入りません。解散権の所在そのものは、別の回で扱っています。今日の設例は、解散権の根拠論争ではなく、閣議決定の手続に瑕疵があったという別の無効原因で無効を争う形にしています。

本訴は法律上の争訟にあたる。しかし前提問題として、衆議院の解散の効力が争われている。裁判所はこれを審査できるか。ここまでが、問題提起です。
統治行為2要素へのあてはめ
図:あてはめ|三点セット:生の事実→評価→要件に当てる(統治行為2要素)
ここで、一度画面を止めて考えてみてください。Yの歳費請求そのものは法律上の争訟でしたね。では、その前提になっている衆議院の解散の効力は、裁判所が審査できますか?うーん……解散は、直接国家統治の基本に関する、高度に政治性のある国家行為、という気がします。ただ、直感だけで「統治行為にあたる」と書いてはいけません。事実を拾って、評価して、要件に当てる。この三点セットで、1段ずつ埋めていきます。今日も同じ手順で、最後まで埋めていきます。
図:三点セット①|生の事実を拾う(解散が議員と内閣にもたらす効果)
まず、生の事実を拾います。衆議院の解散は、解散された議員全員を、その意に反して資格喪失させます。国会の主要な一翼をなす衆議院の機能を、一時的に閉止します。そして、これに続く総選挙を通じて、新たな衆議院、新たな内閣成立の機縁となります。また、内閣がその重要政策や、自己の存続について国民の総意を問おうとする場合に行われることが多い、という事実もあります。判決も、同じ事実を挙げています。
判例最大判昭35・6・8(苫米地事件)
苫米地事件(解散の統治行為該当性) 「衆議院の解散は、衆議院議員をしてその意に反して資格を喪失せしめ、国家最高の機関たる国会の主要な一翼をなす衆議院の機能を一時的とは言え閉止するものであり、さらにこれにつづく総選挙を通じて、新な衆議院、さらに新な内閣成立の機縁を為すものであつて……解散は、多くは内閣がその重要な政策、ひいては自己の存続に関して国民の総意を問わんとする場合に行われるものであつてその政治上の意義もまた極めて重大である。」
ここまでが、生の事実です。
図:三点セット②|評価する(国家統治の基本への直結性と政治的意義の重さ)
次に、これを評価します。議員の資格喪失と、国会機能の一時的閉止、そして新しい衆議院・新しい内閣の成立の機縁になるという点は、国家統治の仕組みそのものに直接関わる重大な意義を持ちます。また、内閣が自己の存続や重要政策について国民の総意を問う場面で行われるという点は、極めて重大な政治的意義を持ちます。ここまでが、評価です。
図:三点セット③|要件に当てる(①直接国家統治の基本に関する②高度に政治性のある)
最後に、要件に当てます。衆議院の解散は、①直接国家統治の基本に関する行為であり、②高度に政治性のある国家行為である。よって、統治行為にあたります。文章で書くと——衆議院の解散は、解散された議員全員をその意に反して資格喪失させ、国会の主要な一翼をなす衆議院の機能を一時的に閉止し、これに続く総選挙を通じて新たな衆議院、新たな内閣成立の機縁となるものであって、国家統治の基本に直接関わる重大な意義を有する。また、内閣がその重要政策や自己の存続に関して国民の総意を問おうとする場合に行われることが多く、その政治的意義もまた極めて重大である。したがって、衆議院の解散は、①直接国家統治の基本に関する、②高度に政治性のある国家行為として、統治行為にあたる。
特別な作業をしているわけではありません。事実を拾って、評価して、当てはめる。それだけです。これで、統治行為にあたる、と書けます。ただし、統治行為は例外中の例外です。内閣の裁量や自律権のように、他の理論で説明できるなら、そちらを先に検討します。本件の閣議決定の手続も、まず内閣の自律権の問題として扱えないかを見て、それでも残る政治性の核心について、統治行為を使う。この絞り込み自体は、以前の回で扱っています。
結論
図:結論|審査権の外にあり、前提問題でも同様、よって歳費請求は認められない
では、結論を書きます。衆議院の解散は統治行為にあたり、その効力は裁判所の審査権の外にあります。訴訟物そのものではなく前提問題として出てきている、という点は必ず確認しないといけません。判決は、まさにこの点に答えています。
判例最大判昭35・6・8(苫米地事件)
苫米地事件(前提問題の場合も同様) 「この理は、本件のごとく、当該衆議院の解散が訴訟の前提問題として主張されている場合においても同様であつて、ひとしく裁判所の審査権の外にありといわなければならない。」
訴訟そのものの対象として争われている場合だけでなく、今日のように前提問題として主張されている場合でも、同じように審査権の外にある、ということです。本訴か前提問題かで、扱いは変わりません。前提問題としてなら審査してよい、としてしまえば、結局は裁判所が解散の効力そのものを判断することになり、政治部門に委ねた意味が失われるからです。だから、解散無効を前提とするYの歳費請求は、その前提について司法審査ができないため、認められません。では、ここまでを答案の言葉で、頭から通して読みます。本件訴えについて、裁判所は解散の効力を審査できるか。Yは、衆議院議員としての歳費の支払いを国に求めている。これは特定の権利義務の存否をめぐる具体的な紛争であり、法令の適用によって終局的に解決することができるから、法律上の争訟にあたる。もっとも、その前提問題として、衆議院の解散の効力が争われている。直接国家統治の基本に関する、高度に政治性のある国家行為(統治行為)は、裁判所の審査権の外にあり、その判断は主権者たる国民に対して政治的責任を負うところの政府、国会等の政治部門に委ねられている。そこで、裁判所は、統治行為については、たとえそれが法律上の争訟となり、これに対する有効無効の判断が法律上可能である場合であっても、三権分立の原理に由来する制約、すなわち司法権の憲法上の本質に内在する制約として、司法権を行使しえないと解する。
衆議院の解散は、解散された議員全員をその意に反して資格喪失させ、国会の主要な一翼をなす衆議院の機能を一時的に閉止し、これに続く総選挙を通じて新たな衆議院、新たな内閣成立の機縁となるものであって、国家統治の基本に直接関わる重大な意義を有する。また、内閣がその重要政策や自己の存続に関して国民の総意を問おうとする場合に行われることが多く、その政治的意義もまた極めて重大である。したがって、衆議院の解散は、直接国家統治の基本に関する、高度に政治性のある国家行為として、統治行為にあたる。よって、衆議院の解散の効力は裁判所の審査権の外にあり、この理は、本件のごとく前提問題として主張されている場合でも同様である。したがって、裁判所は解散の効力を審査しえず、解散無効を前提とするYの歳費請求は、その前提について司法審査ができないため認められない。
苫米地と砂川の対比
図:対比|苫米地(純粋型・留保なし)と砂川(変則型・一見明白性の留保)
ここで、混同しやすい型を1つ、比べておきます。今日書いた「裁判所の審査権の外にあり」という言い切り方は、統治行為の1つの型にすぎません。もう1つ、以前の回で見た変則型があります。
判例最大判昭34・12・16(砂川事件)
砂川事件(変則型の規範) 「本件安全保障条約は、……主権国としてのわが国の存立の基礎に極めて重大な関係をもつ高度の政治性を有するものというべきであつて、その内容が違憲なりや否やの法的判断は……純司法的機能をその使命とする司法裁判所の審査には、原則としてなじまない性質のものであり、従つて、一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外のものであつて……」
その言い方の違いが、今日いちばん注意してほしい部分です。苫米地事件は、審査権の外にあると、留保なく言い切りました。砂川事件は、一見明白に違憲無効と認められない限りは、という留保を付けています。言い方が変わるのは、対象の性質が違うからです。苫米地事件の対象は、衆議院の解散という、国内で完結する機関行為でした。砂川事件の対象は、日米安全保障条約という条約です。たとえで持っておくと、区別しやすくなります。社内だけで完結する人事異動には、監査部門はいっさい口を出しません。でも、他社との業務提携契約のように、対外的な合意が絡む場面では、誰の目にも明らかにおかしい場合だけ、監査が口を出す余地を残します。
条約は他国との合意でもあり、違憲審査の可能性を完全には否定しがたい。だから、留保が付きます。対象が国内で完結する機関行為なら留保なしの純粋型、対象が条約のように対外関係を伴い違憲審査の可能性を完全には否定しがたい類型なら留保付きの変則型、と整理しておくと迷いません。安保条約の中身、つまり9条との関係や合憲性そのものは、今日は扱いません。別の回で扱っています。短答式でも、苫米地は純粋型、砂川は変則型という区別は、よく問われます。ここだけは正確に位置づけておいてください。
今日の地図(保存版)
図:規範と答案の型|統治行為(衆議院の解散と司法審査)
最後に、型に戻ります。問題提起は、本訴は法律上の争訟にあたる、しかし前提問題として国家行為の効力が争われている、裁判所はこれを審査できるか、という定型でした。規範は、定義2要素、根拠、帰結の3段。直接国家統治の基本に関する、高度に政治性のある国家行為は、裁判所の審査権の外にあります。あてはめは、生の事実を拾い、評価し、要件に当てる。この三点セットでした。対象が国内で完結する機関行為か、対外関係を伴う類型か。そこを見れば、書き分けられます。ただし、これは判例が基準として示したものではありません。2つの判決の言い回しの違いを、こう整理しておくと迷わない、という見方です。答案では、判例がこの基準を立てた、とは書かないでください。ここで一度、画面を止めて自分で答えてみてください。統治行為にあたる国家行為の効力が、前提問題として争われているとき、裁判所は審査できますか、できませんか?
できません。訴訟そのものの対象として争われている場合と、同じように扱われるからです。そこが言えれば、今日の規範は身についています。

最後に、これで司法権の限界を扱う3本がそろいました。1本目は、法律上の争訟です。これは、そもそも裁判の入口に立てるかという門で、入口そのもので否定されます。2本目は、部分社会の法理です。これは、入口は通っているけれど、団体の内部だから踏み込まない、という限界でした。そして今日の3本目、統治行為です。これも、入口は通っているのに、高度の政治性ゆえに踏み込まない、という限界です。この階層を取り違えなければ、司法権の限界の答案は、どの設例が来ても組み立て直せます。それができれば、今日の答案は一人で書き切れます。
参照条文
- 日本国憲法76条1項
- 日本国憲法81条
- 日本国憲法7条