法律行為の有効要件①——確定性・実現可能性の脱落・適法性91条の反対解釈
印刷のコツ
プリンターでは次の設定がおすすめです。
- 用紙:A4 / 向き:縦
- 拡大縮小:「実際のサイズ」(フィット縮小しない)
- 両面印刷:オン、とじ方は「長辺をとじる」(左綴じ)
- モノクロ印刷OK(強調は色でなく太字なので白黒でも読めます)
第1章 民法総則 ⑩/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
客観的有効要件の全体像——3つの関門

客観的有効要件は、3つあります。名前だけでなく、中身まで、今日と1つ目は確定性。2つ目は適法性。3つ目は社会的妥当性です。はい、社会的妥当性は適法性を固めます。法律行為は無効になります。3つは、性格が2つに分かれます。①確定性はそもそも中身があるかという入口のチェックです。②適法性と③社会的妥当性は、その中身は許されるかという出口のチェックです。しかも出口は2段構えです。②は個別の条文がピンポイントで禁止します。③は、個別の条文では拾いきれない極端な場合の受け皿として、一般条項が禁止する——この「無効」の中身——誰が主張できるか、取り消せば済むのかどうか——は、また別の回でたっぷり扱います。そのとおりです。まずは1つ目、確定性からいきましょう。
①確定性——中身が決まっていなければ無効

確定性とは、法律行為の内容が、確定できるものでなければならない、という要件です。例えば、Aさんが「そのうち、うちにある骨董品の中から、良さそうなものを一つあげるよ」と約束したとします。渡すものが何なのか、この約束からは確定できません。この場合、法律行為自体が無効になります。「来月10日までに、この掛け軸を3万円で譲る」なら、渡すものも、期限も、対価も、はっきりしています。ただし、ここには救済のルートもあります。一言一句、全部が確定していなくても、重要な部分さえ確定できれば足ります。当事者が決めた核が分かる以上、契約ごと潰すより、残りを埋めて生かすほうが、当事者の意思に沿うからです。さっきの掛け軸の例で言うと、どこで渡すか、代金をどう払うかまでは決めていなくても、“何を・いくらで”が決まっていれば有効です。決まっていない細部は、当事者の合理的な意思をくみ取って埋める——補充的な解釈で救えることがあります。鋭いですね。この先の回で、まるまる1つの節を使って扱います。ここでは、「確定できないと無効。でも重要部分さえ決まっていれば足り、細部は解釈で埋められる」とだけ押さえてください。いいえ。そこは399条がはっきり否定しています。お金に見積もれないものであっても、債権の目的にできる、という趣旨の規定です。例えば、記念にもらった非売品のトロフィーを譲る約束でも構いません。内容が確定できるかどうかが大事で、経済的価値の有無は関係ありません。
【旧法の落とし穴】実現可能性は、もう客観的有効要件ではない

ここで、古い教材を読むときの注意点を1つ挟みます。かつては、確定性・適法性・社会的妥当性に加えて、「実現可能性」も客観的有効要件だと説かれていました。例えば、すでに火事で焼失した建物を、それと知らずに売買する契約です。最初から実現不可能——原始的不能と呼びます。旧法では、こうした原始的不能な契約は、無効だと解されていました。2017年の改正でできた412条の2、その2項を見てください。契約の成立時にすでに履行が不能だったとしても、それだけでは、415条に基づく損害賠償請求は妨げられない、と定めています。契約自体は、有効に成立している、という前提なんです。無効なら、そもそも損害賠償の根拠になりません。すでに焼けている建物を、今さら引き渡せとは言えません。でも、契約自体は有効なので、損害賠償という形で責任を追及できます。そのとおりです。旧法時代の教材や、古い過去問解説には、まだ「実現可能性」を要件に含める説明が残っていることがあります。現行法では、そこは外れている、と覚え直してください。債務不履行の回で改めて扱います。「実現可能性はもう客観的有効要件ではない」という結論だけで十分です。
②適法性——91条は「強行規定違反は無効」とは書いていない

2つ目の関門、適法性です。もう少し正確に言うと、強行規定に違反してはいけない、ということです。公の秩序に関する規定、つまり、当事者の合意でも変えられない規定のことです。ここで、今日1枚目の条文カードを見てください。
条文
民法 第91条(任意規定と異なる意思表示)
そこが今日、一番伝えたいことです。91条が書いているのは、「公の秩序に関しない規定」——つまり任意規定と異なる意思表示をしたときは、その意思に従う、ということだけです。直接には、何も言っていません。

ここで使うのが、反対解釈です。以前、公園の「自動車の乗り入れ禁止」という看板を見ましたね。自転車はどうなりましたか?あのときの使います。91条の文面はこうです。「公の秩序に関しない規定と異なる意思表示は、その意思に従う」。これを、裏返してみます。「公の秩序に関しない規定」の反対は、「公の秩序に関する規定」——強行規定です。「強行規定と異なる意思表示は、その意思には従わない」。そこをつなぎます。意思に従わない、とは、当事者が決めた内容に効力を認めない、ということです。法律行為は、当事者の意思どおりに効果を生じさせる仕組みでした——その意思が効力を持たないなら、その法律行為は無効になります。言いかえると、強行規定は当事者の意思より強い。当事者が何を決めても、強行規定のほうが上に来ます。そのとおりです。ここはとても大事な区別です。「91条にこう書いてある」ではなく、「91条を裏返すとこうなる」。この先、答案でもこの区別を正確に書けるかで差がつきます。もちろんです。例えば、賃貸借契約で「敷金の精算方法は、退去時に別途協議する」と特約したとします。この特約が変えているのは、任意規定です。当事者が自由に決めていい部分なので、91条どおり、その意思に従います。有効です。例えば、消費者を保護するための強行規定に反して、「消費者はいかなる理由でも契約を取り消せない」と特約したとします。はい、つながっています。この特約は、強行規定に反するので、91条の反対解釈により無効になります。この「条文の裏を読む」という道具は、今日だけでなく、この先ずっと使います。
強行規定と任意規定、どう見分けるのか

いいえ、書いてありません。規定の趣旨から、判断するしかありません。大まかな傾向としては、契約に関する規定は任意規定が多く、物権や家族法の規定は、強行規定が多いです。契約は、当事者同士の話なので、自由に決めさせても問題が少ないからです。一方、物権や家族法は、第三者や社会全体への影響が大きいので、勝手に変えられては困るんです。3人が共同で駐車場経営の組合を作ったとします。複数人がお金や労力を出し合って、共同の事業をする契約形態です。詳しくは別の回で扱います。この3人が「やむを得ない事由があっても、脱退は認めない」と特約したとします。678条2項を見てください。この条文は、組合の存続期間を定めていても、やむを得ない事由があるときは、各組合員は脱退できる、と定めています。この678条2項は、強行規定だと解されています。やむを得ない事由があっても抜けられないとすると、組合員は事実上ずっと縛られてしまいます。人の自由をそこまで縛る合意は、当事者に任せられません——だから趣旨から強行規定と解されています。組合契約も”契約”ですが、これは傾向の例外です。傾向はあくまで当たりをつけるためのもので、最後は規定の趣旨で決まります。だから、これに反する「脱退禁止」の特約は、91条の反対解釈により無効です。そのとおりです。組合契約の本体は、また別の回で詳しく扱います。
似ているけど違う——取締規定

取締規定という言葉があります。行政上の目的で、ある行為を制限する規定です。例えば、無免許での営業を禁じる規定です。そこが違います。取締規定に違反しても、私法上の効力——契約が有効かどうか——まで、当然に否定されるとは限りません。契約自体は、有効に扱われることがあります。買った側は代金を払う必要がある一方、無免許で営業したこと自体は、行政上のペナルティで処理されます——行政のルールと、契約が効くかは別の窓口、というイメージです。行政上の制限を破ったことと、契約自体が無効になることは、別の話なんです。効力規定と呼びます。ある規定が、取締規定なのか効力規定なのかは、規定ごとに個別に判断が分かれます。はい、言い切れません。ここは、効力規定と取締規定という区別が押さえてください。この先どちらにあたるかを判断する物差しは、また別の回でまとめて扱います。
まとめ・自己テスト・次回予告

まとめます。法律行為が有効であるためには、客観的有効要件、3つの関門があります。確定性、適法性、そして社会的妥当性です。たっぷり扱います。残り2つを固めました。全部でなく、重要部分が確定できれば足ります。かつて言われていた実現可能性は、412条の2を前提に、もう客観的有効要件ではありません。

91条は「強行規定違反は無効」とは書いていません。反対解釈で、そこまで導きます。強行規定と任意規定の見分けは、条文の趣旨から。取締規定は、また別物でしたね。

声には出さず、自分の力で思い出してみてください。一度、動画を止めて考えてみましょう……。では、答え合わせです。確定性です。渡すものが何なのか、確定できないからでした。こちらも、声には出さず考えてみてください……。では、答え合わせです。根拠条文は91条。読み方の名前は、反対解釈でした。もう一度、考えてみてください……。では、答え合わせです。有効です。91条どおり、任意規定と異なる意思表示は、その意思に従います。無効になるのは、強行規定と異なる場合だけでした。そのとおりです。3つ目の関門——公序良俗、90条です。ただ、これだけは少し性格が違います。今日見た2つの要件は、わりと個別具体的でした。抽象的な一般条項——使い方そのものに注意が要る条文です。お会いしましょう。