民法ゼロから民法#10

法律行為の有効要件②——公序良俗90条・2017年改正・動機の不法

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第1章 民法総則 ⑩/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

前回の想起——91条の反対解釈

前回の地図

91条は、何と書いてあったか、思い出せますか?そのとおりです。では、強行規定違反が無効になる、という結論は、どうやって導きましたか……。声には出さず、考えてみてください……。では、答え合わせです。91条を裏返す——反対解釈でした。「公の秩序に関しない規定」の反対は「公の秩序に関する規定」、つまり強行規定。当事者の合意でも動かせない、公の秩序に関する規定のことでしたね。だから、強行規定と異なる意思表示は、その意思に従わない——無効になる、という結論でしたね。今日も、この「条文を裏から読む」感覚を使う場面が出てきます。確認しておきましょう。有効要件の地図は、確定性、適法性、社会的妥当性の3つ。今日で、客観的有効要件の3点セットが全部そろいます。

③社会的妥当性=公序良俗——一般条項は最終手段

公序良俗90条とは

3つ目の関門、社会的妥当性です。これを定めるのが、90条です。はい、極めて重要な条文です。今日1枚目の条文カードを見てください。

条文

民法 第90条(公序良俗)

鋭い指摘です。大まかに、公の秩序は社会の一般的な秩序、善良の風俗は社会の一般的な道徳観念のことだと説明されます。実は、そこがこの条文の特徴でもあり、危険なところでもあります。90条は、要件が極度に抽象的な、一般条項です。個別の事情ごとに、何にでも当てはめられてしまう条文、ということです。便利さの裏返しで、安易に使うと、予測可能性を壊してしまいます。どんな契約が有効で、どんな契約が無効になるか、当事者が事前に読めなくなる、ということです。確定性や適法性のような、もっと個別の要件で処理できない場合の、最終手段として使います。例えば、前回見た「そのうち良さそうな骨董品を1つあげる」が無効なのは、確定性で処理できるからです。わざわざ90条を持ち出す必要はありません。そのとおりです。

90条の新旧対比——「事項を目的とする」の削除

そしてこの90条も、2017年の改正で文言が変わっています。改正の直前まで、90条はこうでした。「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする」。これが、現行法では削除されています。「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする」だけになりました。前回は、書いてあることを裏返して読みました。あった言葉が消えたことから意味を読みます。どちらも、条文の表面だけを読むのでは足りない、という点で同じです。短くなっただけではありません。これは、判断の対象が広がった、という改正なんです。改正前は、「事項を目的とする」——つまり、法律行為の内容そのものが反していないと、90条にはあたりませんでした。現行法では、この縛りが外れたので、内容だけでなく、その法律行為がされた過程や態様——どういう経緯で結ばれたか——も、考慮対象に入ってきます。例えば、中身だけ見れば普通の売買でも、相手の判断力の弱さにつけ込んで、断りにくい状況で結ばせた——という結ばれ方まで見られる、ということです。よく気づきましたね。まさに、このあと扱う「動機の不法」という論点は、この改正が土台になっています。

公序良俗違反の類型——愛人契約・賭博・そのほか

公序良俗違反の類型

では、90条が実際にどんな場面で使われるか、具体例を見ましょう。例えば、Aさんが毎月一定の生活費をBさんに渡す代わりに、Bさんに恋愛関係の継続を義務づける契約です。人の身の振り方を、お金で縛りつける契約は、善良の風俗に反するとして無効とされます。Aさんと友人が賭けカードゲームをして、負けた方が勝った方に決めた額を払う約束をしたとします。賭博で生じた債務を支払う約束も、公序良俗違反として無効です。働いて得たわけでもない財産の移動を、法が力を貸して実現してやる筋合いがないからです。はい、広く言えば、暴利をむさぼる契約、不当な差別を内容とする契約、談合や盗品の売買のような犯罪に関わる契約、人の身柄や性道徳に反する契約、射幸——賭博のような偶然の利益を狙う契約、などが挙げられます。バラバラに見えても、どれも抽象的な90条を、いきなり振りかざさないための目印です。それぞれの名前と、大まかなイメージまでで十分です。

効果・主張できる人・追認の可否・判断の基準時

公序良俗違反の無効と意思無能力の無効の違い——誰でも主張・追認不可

公序良俗違反による無効は、誰でも主張できます。似ていますが、狙いが違います。意思無能力の無効は、判断力がない本人を守るためのものでした。だから、主張できるのも本人の側からが筋になります。社会全体の秩序を守るための無効です。だから、当事者以外の誰でも主張できます。それはできません。この無効は、当事者のためではなく、社会の側の要請で置かれているからです。公序良俗違反の無効は、追認によっても救われません。119条という規定があって、無効を知って追認したときは、新たな行為をしたものとみなす、というただし書があります。ただ、公序良俗違反の無効は、そのただし書の対象にもなりません。誰でも主張できるのも、追認で救えないのも、理由は同じ——この無効が「誰のためのもの」かが、意思無能力の無効とは違うからです。無効の意義や、追認の細かい仕組みはまた別の回で、まとめて扱います。「公序良俗違反は特に強い無効で、追認では救えない」とだけ押さえてください。判断の基準時は、その法律行為がされた時点です。原則として、契約をしたその瞬間の事情で判断します。当事者は、契約をした時点の社会の物差しに従って動くほかないからです。昔は普通に結ばれていた契約が、いまの感覚では許されない、という場合でも、判断するのは結んだ当時の物差しです。すでに渡してしまったものを取り戻せるかは、また別の問題です。708条という規定があって、不法な原因での給付は、返還を請求できないと定めています。詳しくは、また別の回で扱います。

動機の不法——行為は適法、でも動機が真っ黒なとき

動機の不法——場合分け

ここまでは、法律行為そのものの中身が、公序良俗に反する場面でした。でも、もう1つ厄介な場面があります。行為そのものは適法なのに、その背景にある動機が公序良俗に反する場合です。例えば、Aさんがカードゲームの賭けに負けて、その支払いのために、Bさんからお金を借りたとします。金銭消費貸借契約それ自体は、公序良俗に反しません。反しているのは、「賭けの負けを払う」という、Aさんの動機の方です。この食い違いを、どう扱うか——これが動機の不法という論点です。よく覚えていますね。95条の動機の錯誤は、意思表示のほうがおかしい、という話でした。正常なのに、動機の中身が公序良俗に反する、という別の話です。ここは、有力とされる考え方を紹介します。そもそも動機は、法律行為の外側にあるものです。原則としては動機を問いません。ただ、その例外をどこまで認めるかで、見解が分かれています。相手方——このケースではBさんの保護、取引の安全という見地から、一定の場合に限って90条を適用する、という立場です。動機がBさんに表示された場合、または、Bさんが動機を知っていた場合です。逆に言うと、Aさんが動機を黙っていて、Bさんも気づいていなければ、この貸し借りは有効のままです。Bさんの立場で考えてみてください。動機を知らずにお金を貸したBさんまで、後から「実は賭けの負け分だった、だから無効」と言われては、たまりません。だから、相手方が動機を知っていた、あるいは知らされていた場合に限って、90条を適用するんです。いいところに気づきましたね。改正前は「事項を目的とする」法律行為しか90条にあたりませんでした。動機は、行為の”外側”にあるので、含まれにくかったんです。そのとおりです。ただ、「開かれた」からといって、どんな動機でも無条件に無効になるわけではありません。改正が土台を作り、その上で、相手方の保護という理由づけが、適用範囲を絞っている——この関係で理解してください。はい、公序良俗が論文で問われるときの定番の論点です。ただ、この解説動画では、答案の規範定式やあてはめの型までは踏み込みません。書き方の詳細は、概要欄からリンクする論文シリーズで扱います。動機が違法なら問題になる。決め手は、表示か認識か」という骨組みだけ、押さえてください。

まとめ・自己テスト・次回予告

まとめ:公序良俗90条と動機の不法

まとめます。社会的妥当性は、90条。一般条項だから、個別要件で処理できないときの最終手段でした。それによって、内容だけでなく、締結の過程や態様も考慮対象に入りました。判断の基準時は、法律行為がされた時点でした。行為自体は適法でも、動機が公序良俗に反する場合、有力な考え方では、動機が表示されたか、相手方が知っていたときに限り、90条を適用します。

自己テスト

声には出さず、自分の力で思い出してみてください……。では、答え合わせです。「事項を目的とする」が消えました。こちらも、声には出さず考えてみてください……。では、答え合わせです。誰でも主張できます。そして、追認によっても救われません。もう一度、考えてみてください……。では、答え合わせです。同じではありません。前者は、法律行為の中身自体が公序良俗違反。後者は、行為自体は適法で、動機の不法の問題——表示や認識の有無で結論が変わります。3つの中身が確定したり適法だったりしても、まだ残る問題——法律行為の”意味”がはっきりしないときにどうするか、という法律行為の解釈を見ていきます。はい、あります。お楽しみに。お会いしましょう。

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