無効とは何か——取消しとの違いと原状回復121条の2
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第1章 民法総則 ⑰/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
無効の意義――「効力ゼロ」の風船

無効とは、法律行為として形式的には成立しているが、効力が最初から生じない状態です。「成立している」という部分が、まず引っかかりやすいところです。
具体例で見てみましょう。Aさんが、実は意思能力を欠く状態のまま、Bさんに大切な壺を売る契約書に署名したとします。契約書もあり、署名もある。「売ります」「買います」という申込みと承諾がそろっているので、契約の成立要件そのものは満たしています。契約は合意だけで成立する、という522条の話です。だから「契約は成立している」。けれども、意思能力を欠く人の行為だったので、効力だけが最初から生まれません。
成立は、契約という形が整ったかどうか。有効かどうかは、その中身に効力が伴うかどうか。この2つは別の話です。
イメージで言うと、最初から穴の開いた風船です。契約書を交わすという行為自体は、風船に息を吹き込む行為にあたります。どれだけ息を吹き込んでも、最初から穴が開いているので、空気――つまり効力――は入っていきません。成立はしているのに、中身が空っぽ、という状態です。この風船のイメージは、この回を通してずっと使います。
無効は「最初から当然に」生じます。誰かがそう決めたから無効になるのではなく、法律上、自動的にそうなる、という意味です。裁判所が判決を出して初めて無効になるわけではありません。裁判所は、すでに無効だという事実を確認するだけで、判決によって無効を作り出すわけではないのです。この「もともと」という時間の感覚が、このあとの話の伏線になります。
なお、無権代理の話でも「無効」という言葉が出てきますが、あちらは効果が本人に帰属しないという別の意味です。混同注意で、そちらは代理の回で扱います。ここで言う無効は、あくまで普通の意味の無効です。
無効 vs 取消し①――意思表示は要るか

無効とよく比べられる制度に、取消しがあります。制限行為能力者の契約や、だまされて結んだ契約で出てきたものです。取消しの中身はこの先の回で詳しく扱うので、ここでは無効との違いを対比の中でだけ押さえます。
1つ目の違いは、意思表示の要否です。無効は、もともと効力ゼロという状態がそこにあります。だから「無効だ」と言うことは、新しく何かを起こす行為ではありません。無効の主張は、すでに無効であるという事実の指摘にすぎないのです。意思表示は要りません。誰かが「膨らんでいない」と言おうが言うまいが、風船は最初から膨らんでいないからです。
取消しうる行為は、これに対して、今は水がちゃんと入った、ヒビの入ったコップです。今のところは機能しています。つまり有効です。誰かが「もう使うのをやめよう」と決めてコップを割る――それが取消しの意思表示です。割るという行為がないと、壊れません。取消しの意思表示という新たな法律行為があって初めて、遡って無効になります。121条に、取り消された行為は初めから無効であったものとみなす、と定められています(中身はこの先の回で詳しく扱います)。
無効は最初から効力ゼロ、取消しは今は有効で意思表示によって壊す。この1点の違いから、残り3つの違いが全部出てきます。
無効 vs 取消し②③④――誰が、追認できるか、期限は

2つ目は、主張の当事者です。無効は原則、誰でも、誰に対しても主張できます。もともと誰の権利にもなっていない事実だから、誰が指摘してもいいのです。取消しは違って、取消権者だけが取り消せます。誰が取消権者かは120条に定められていて、制限行為能力者本人や、だまされたり脅されたりして意思表示をしてしまった本人など、限られた人です(中身は120条を扱う回で見ていきます)。
3つ目は、追認の可否です。無効な行為は、追認しても原則として有効になりません。119条本文にそう書かれています。穴が開いた風船に「もう膨らんでいることにしよう」と決めても、実際に空気は入らないのと同じです。法律の言葉で言えば、無効の原因は当事者の意思では取り除けないものだからです。当事者が「有効にしよう」と合意しても、法が効力を否定した理由そのものは残ります。もっとも、119条にはただし書があります。ただし、それは「有効になる」のとは少し違う仕組みなので、後編(#18)でじっくり扱います。取消しの方は、追認すれば確定的に有効になります。122条です。ヒビが入っていても「このまま使い続けよう」と決めれば、コップは無傷のものとして使われ続ける、というイメージです。
4つ目は、期間制限の有無です。無効の主張には期限がありません。事実の指摘なので、いつまでも主張できます。取消しには期限があります。追認をすることができる時から5年、行為の時から20年です(126条)。たとえば、だまされて契約したBさんが、だまされたことに気づいたのが契約から3年後だったとすると、気づいた時点から5年以内に取り消す必要があります。仮に、だまされたことに気づかないまま20年が過ぎてしまったら、それだけで取消権は消えます。取消しうる権利をいつまでも残すと、法律関係が不安定になるからです。コップを「割るか使うか」未定のままにはできない、ということです。
この4点は、丸暗記するのではなく、「無効はもともとゼロ/取消しは今は有効で意思表示で壊す」という1本の根っこから、毎回導き出せるようにしてください。
無効の効果①――そもそも何も起きない

ここからは、無効だと決まった後、何が起きるかを見ていきます。1つ目は、効果の不発生です。無効な行為に基づく効果は生じません。
AさんがBさんに甲土地を売る契約を結んだが、それが無効だった、という場面で考えます。以前に見た「法律要件が満たされると法律効果が生じる」という文法を思い出してください。契約という法律要件が無効なら、生じるはずだった法律効果も、丸ごと生まれません。効果には債権の面と物権の面の両方があるので、順番に見ます。
まず債権の面です。555条は、当事者の一方が財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約する――この2つの約束が向かい合って効力を生じる、という条文でした。「これに対して」というのは、代金が財産権の移転の見返りだ、ということです。この向かい合っているという点は、後で返し合いの話をするときに効いてきます。売買契約が無効なら、Bさんは目的物の引渡しを求める債権をそもそも取得しませんし、Aさんも代金を請求する債権を取得しません。債権が2つとも生まれないのです。
次に物権の面、つまり所有権が誰から誰に移るか、という話です。売買契約の意思表示そのものによって、所有権は移転するはずでした。しかしその意思表示自体が無効なら、所有権も移転しません。甲土地の所有権は、最初からずっとAさんのもとにとどまったままです。
無効というのは、契約の効果を、債権・物権の両面でまるごとゼロにする、ということです。だからBさんが「もう自分の土地だ」と思って畑を耕し始めても、所有権はAさんのままなので、法律上は他人の土地を無断で使っているのと同じ扱いになってしまいます。見た目の状態と、法律上の権利関係がズレたままになる。そのズレを埋める作業が、次に見る原状回復の話につながっていきます。
なお、この効果不発生自体は、誰かが無効だと主張しなくても最初から生じています。無効の主張は事実の指摘にすぎない、という話の延長線上にあります。効果が生まれていないという状態そのものは、主張の有無と関係なく、もう起きているのです。
無効の効果②――受け取った物をどう戻すか

では、Bさんがすでに甲土地を受け取っていたら、どうなるでしょうか。相手を元の状態に戻す義務が生じます。原状回復義務です。条文を見ましょう。
条文民法121条の2
民法 第121条の2(原状回復の義務) 無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う。 2 前項の規定にかかわらず、無効な無償行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、給付を受けた当時その行為が無効であること(給付を受けた後に前条の規定により初めから無効であったものとみなされた行為にあっては、給付を受けた当時その行為が取り消すことができるものであること)を知らなかったときは、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。 3 第一項の規定にかかわらず、行為の時に意思能力を有しなかった者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。行為の時に制限行為能力者であった者についても、同様とする。
1項が、受け取ったものを全部返す、という原則です。物そのものを返せない場合は、価額を返還します。たとえば、Bさんが受け取った野菜をもう食べてしまった場合です。野菜そのものは返せませんから、その市場価格に相当する金額をお金で返還します。これが価額返還です。建物のように、受け取った後に取り壊してしまった場合も同じで、取り壊し前の価値に相当する金額を価額として返還します。原状回復とは、現物にこだわらず、経済的な意味で元どおりにするという考え方なのです。
これは不当利得の703条と似ていますが、水準が違います。703条は原則、その利益の存する限度で返せば足ります。121条の2はこれより重く、原則、全部返還を求めます。なぜこちらの方が重いかというと、無効な行為に基づく給付は、そもそも法律上の原因がなかったものだからです。本来、契約が有効なら給付を受け取るのに正当な理由がありますが、無効ならその理由自体がありません。理由のない給付なのだから、筋としては全部戻すのが素直、という考え方です。703条の一般原則よりも、あえて重い扱いをしているのが121条の2第1項です。不当利得の本体はずっと先の回で扱うので、ここでは121条の2がその特則にあたるという位置づけだけ押さえてください。
もう1つ、請求の道具が2つある点も押さえておきます。すでにBさんに土地を渡してしまっていた場合、Aさんは、121条の2に基づく返還請求権と、所有権に基づく返還請求権の、どちらを使ってもかまいません。甲土地の所有権は無効な契約のせいで動いていないので、そもそも所有権に基づく請求もできるからです。121条の2の方は、契約の無効そのものから出てくる請求権です。出どころが違う2つの請求権が、同じ結果――土地を取り戻す――にたどり着く、という形になっています。
返し合いの順番――なぜ533条を「借りてくる」のか

双方が返し合う場合、どちらが先に返すのでしょうか。ここには「相手が返すまで、自分も返さなくていい」と言える仕組みがあります。同時履行の抗弁権、533条です。この双方の返還義務には、533条が類推適用されます。
なぜ「類推」なのか。121条の2の返還請求権は法定債権であって、双務契約上の債権ではないからです。法定債権とは、当事者が約束したからではなく、法律の規定から直接生まれる債権のこと。双務契約とは、売買のように、お互いが向かい合う義務を負う契約のことです。533条は後者を前提にした条文なので、文言どおりには使えません。
では使わずに放っておけばよいかというと、そうもいきません。Aさんが先に甲土地を返したのに、Bさんが代金相当額を返してくれない、という場面があり得ます。Aさんだけが先に手放して、取りっぱぐれる形です。
ここで、無効になった後のAさんとBさんが何をしているかを見てください。土地と代金を、お互いに返し合っています。有効な売買なら、土地と代金を渡し合う場面でした。向きが逆になっただけで、やり取りの形は同じです。行きも帰りも、二人が同時に受け渡す。533条が守ろうとした「片方だけ先に手放して損をしないように」という利益状況が、そのまま当てはまります。だから、条文の文言どおりには使えなくても、同じ理由が当てはまる場面には条文を借りてくる。これが類推適用という考え方です。533条の中身は、契約総論の回で改めて扱います。

無効をどう主張するか、121条の2で何をどう請求するか――どちらも論文で問われます。裁判で「この契約は無効だ」と言うとき、何をどの順で述べるか、という組み立ての話です。今の段階では、言葉として覚えなくて大丈夫です。答案の型・書き方は、専用の論文動画で扱います。ここでは、そういう論点になりうる、ということだけ知っておいてください。
例外――現存利益に縮減される3類型

原則は全部返還ですが、例外もあります。現に利益を受けている限度、つまり現存利益への縮減です。これが認められるのは、次の3つの類型だけです。
「現に利益を受けている限度」は、703条と同じ言い方です。まさに703条の水準に戻す、という意味になります。121条の2は、原則を703条より重い全部返還にしたうえで、その重さを課すのが酷な人だけ703条の水準に戻している――そういう設計なのです。
①無償行為の善意者(2項)。無効な行為が無償行為で、給付を受けた当時、無効を知らなかった人です。たとえば、Aさんが無効な贈与契約でBさんに絵画を無償で渡し、Bさんがそれを無効な贈与だと知らずに受け取っていた場合、Bさんは、現に手元にある利益の限度でしか返す義務を負いません。逆に、無償で受け取った人が無効だと知っていたら、2項の対象外です。知っていた以上、保護すべき信頼がないからで、原則どおり全部返還になります。「無償」と「善意」の両方がそろって初めて縮減される、というのがポイントで、どちらか片方が欠けても、この例外は使えません。
なお、もともと対価を払っていないのだから全部取り上げても損はしないはずだ、とも思えます。それでも、無効だと知らずにもらった人の信頼は保護する必要があります。「もらったものだ」と信じて、その分を生活に組み込んでしまっていることへの配慮です。
②意思無能力者・③制限行為能力者(3項)。行為の時に意思無能力だった人と、制限行為能力者だった人です。判断能力が十分でない人に、全部返還という重い義務を負わせるのは酷だからです。たとえば、未成年者のBさんが、親の同意なくAさんから15万円の楽器を買い、代金を払って受け取ったとします。取消しで無効になったとき、Bさんは今も手元にある楽器を返せば足り、すでに壊してしまった分まで全額を弁償しろとは言われません。制限行為能力者の回で「返す範囲は現に利益を受けている限度でよい」と学んだ話の、条文上の根拠がまさにこの121条の2第3項です。意思無能力者や制限行為能力者は、そもそも自分の判断で契約をきちんと管理できません。だから、後になって全部返せと迫られると、保護が働かなくなってしまうのです。
3つに共通しているのは、全部返還を求めるのが酷な事情があるという点です。無償行為の善意者は「無効を知らなかった」という事情、意思無能力者・制限行為能力者は判断能力という事情。事情の中身は違いますが、どちらも「全部返せ」と迫るのが酷な場面を、法が拾い上げています。
逆に軽くならないのは、有償で取引した悪意の当事者です。対価を払っている以上、全部取り上げられても実質的な損はなく、しかも無効だと知っていたので、保護すべき事情もありません。だから原則どおり全部返還のままです。保護すべき事情がない人には、原則どおりの重い義務を課しても構わない、という設計です。
最後に、2項のカッコ書きにも触れておきます。「前条の規定により初めから無効であったものとみなされた行為」という部分の「前条」は121条、つまり取消しによって遡って無効になった行為のことです。条文自体が明記しているとおり、121条の2は無効専用ではなく、取消しで遡って無効になった場面にも効きます。無効と取消しは、効果の面ではつながっているのです。
現存利益の有無――浪費と有益な支出

具体的な金額で考えてみましょう。Aさんから無効な行為で10万円を受け取ったBさんがいたとします。
まず見るのは「何に使ったか」です。 生活費や借金の返済のように、もともと自分の財産から払わなければならなかったものに充てたのかどうか。ここで分かれます。
Bさんがその10万円をギャンブルで使い切った場合、これは浪費で、現存利益は否定されます(大判昭14・10・26)。ギャンブルは、しなくても済ませられた支出です。自分の財産から必ず出ていくはずのものではありません。遊んだ時間は残っても、財産としては何も残っていない。肩代わりしてもらったものが何も無いのだから、手元に残っている利益もない、ということです。
一方、Bさんが10万円を家賃と借金の返済に充てていた場合は、現存利益が肯定されます(大判大5・6・10、大判昭7・10・26)。お金は使ってしまったのに、なぜか。Bさんは、家賃も借金も、いずれ自分の財布から払わなければならなかったはずです。それがもらった10万円で片づいたので、Bさんの財布は10万円ぶん減らずに済みました。本来なら出ていくはずのものが、出ていかずに済んだ――その分は今も利益として残っている、と評価されるのです。財産は10万円ぶん軽くなるはずが、軽くならないまま今も手元にある。これが利益です。
「使ってしまったのは同じなのに、堅実に使った人ほど不利に見える」と感じるかもしれません。それは、使い道そのものだけを見て、その支出をしないで済ませられたかどうかまで見ていないからです。遊びに行くかどうかはBさんが自由に決められることで、もらわなければ行かずに済ませることもできました。家賃や借金の返済は、そうではありません。結論だけ覚えると必ず逆に言ってしまうので、この理由とセットで押さえてください。
なお、使い道が混ざっている場合は分けて考えます。10万円のうち5万円だけギャンブルに使い、残り5万円を借金の返済に充てていたなら、返済に充てた5万円分だけ現存利益が認められます。一律に全部かゼロかではなく、「今、手元に利益として残っている部分はどこか」を、使い道ごとに実質的に見ていくということです。
短答ひっかけ
- 無効でも「契約は成立している」。 成立(522条=申込みと承諾がそろったか)と有効(中身に効力が伴うか)は別の話。無効とは、成立はしているのに効力だけが最初から生じない状態。
- 🔴 「事実の指摘にすぎない」のは、無効そのものではなく“無効の主張”の方。 無効はもともと効力ゼロという状態としてそこにあり、それを指摘するのが無効の主張。だから意思表示は要らない。取消しは逆で、取消しの意思表示という新たな法律行為があって初めて、121条により遡って無効になる。
- 4点対比は1本の根っこから導く。 ①意思表示の要否(無効=不要/取消し=必要)②主張の当事者(無効=誰でも誰に対しても/取消し=120条の取消権者だけ)③追認(無効=原則不可・119条本文/取消し=122条で確定的に有効)④期間制限(無効=なし/取消し=126条・追認できる時から5年、行為の時から20年)。126条の20年は、だまされたことに気づかないまま経過しても取消権が消える。
- 121条の2の原則は「全部返還」で、703条(現に利益を受けている限度)より重い。 順序を逆に覚えない。無効な給付には法律上の原因がそもそも無いから、筋としては全部戻す、という設計。703条の水準に戻るのは例外3類型だけ。
- 現存利益に縮減されるのは3類型だけ。 ①無償行為の善意者(2項)②意思無能力者(3項)③制限行為能力者(3項)。①は「無償」と「善意」の両方が要る=無償でも悪意なら原則どおり全部返還。有償で取引した悪意の当事者は原則のまま(実質的な損がなく、保護すべき信頼もない)。
- 121条の2は無効専用ではない。 2項カッコ書きの「前条の規定により初めから無効であったものとみなされた行為」=121条、つまり取消しで遡って無効になった場面にも効く。
- 🔴 現存利益の入口は「何に使ったか」。 生活費・借金の返済のように、もともと自分の財産から払うべきものに充てたなら現存利益あり(大判大5・6・10、大判昭7・10・26)。ギャンブルのように、しなくても済ませられた支出は現存利益なし(大判昭14・10・26)。理由は「本来出ていくはずのものが出ていかずに済んだ分が、今も残っている」から。結論だけ覚えると必ず逆に言う。使い道が混ざっていれば按分(10万円のうち5万円だけ返済に充てたなら5万円分だけ)。
- 物を取り戻すルートは2つある。 121条の2に基づく返還請求権と、所有権に基づく返還請求権。無効なら所有権は動いていないので、後者も使える。
- 533条は直接適用ではなく類推適用。 121条の2の返還請求権は法定債権で、双務契約上の債権ではないから文言どおりには使えない。それでも利益状況が双務契約の巻き戻しと同じなので借りてくる。
- 無権代理の「無効」は別の意味。 あちらは効果が本人に帰属しないという話で、ここでいう無効ではない。
論文の型
この回は論文の型そのものを扱う回ではない(答案の規範定式・あてはめの型は民法論文シリーズへ送っている)。ただし、この回の条文が答案でどう使われるかは押さえておきたい。
- 無効の主張は、取消しのような「壊す行為」を立てる必要がない。 無効の主張は事実の指摘にすぎないので、取消しの意思表示に相当するものを主張する必要はない。裁判で「この契約は無効だ」と言うとき、何をどの順で述べるかという組み立ての問題として問われる。
- 給付の巻き戻しは121条の2で処理する。 原則は全部返還(現物を返せなければ価額返還)。現存利益への縮減は2項・3項の3類型に当たるときだけなので、当事者がどの類型に当たるかをまず確定する。
- 返還請求のルートを選ぶ。 121条の2に基づく請求と、所有権に基づく返還請求。無効なら所有権が動いていないので、後者も並び立つ。
- 双方が返し合う場面では533条の類推適用。 直接適用ではないので、「法定債権だから文言どおりには使えない」→「利益状況が双務契約の巻き戻しと同じだから借りてくる」という順で示す。
今日の地図(保存版)

無効とは、最初から穴の開いた風船――効力が最初から生じていない状態でした。無効の主張は、新しい行為ではなく事実の指摘にすぎない、というのが根っこです。そこから、意思表示の要否、主張の当事者、追認の可否、期間制限という4点が全部導かれました。
効果の面では、原状回復義務121条の2、原則は全部返還(現物を返せないときは価額返還)。例外として、無償行為の善意者、意思無能力者、制限行為能力者の3類型だけ、現存利益に縮減されます。現存利益があるかどうかは「何に使ったか」から見て、浪費は現存利益なし、生活費や借金の弁済は現存利益あり。本来出ていくはずのものが出ていかずに済んだ分が、今も残っているからでした。

ここで、自分の力で思い出してみてください。無効と取消し、4点の違いを言えますか?
答え合わせです。意思表示の要否、主張の当事者、追認の可否、期間制限の有無。この4つでした。いずれも「無効はもともと効力ゼロ/取消しは今は有効で意思表示で壊す」という根っこから出ています。
もう1つ。原状回復121条の2、原則と、縮減される3類型は、それぞれ何でしたか?
答え合わせです。原則は全部返還で、価額返還も含みます。例外は、無償行為の善意者、意思無能力者、制限行為能力者の3類型でした。
無効だと分かった行為を追認して有効にできるのか、それとも別の行為として生き返ることがあるのか――それが後編(#18)のテーマです。ここで見た「もともと効力ゼロ」という無効の性質が、追認や転換の場面でどう効いてくるかを見ていきます。
参照条文
- 民法121条の2