取消し①——取消権者120条・取消しの意思表示123条
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第1章 民法総則 ⑲/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
これまでの想起——無効はゼロ、取消しは意思表示で壊す

本題の前に、1問だけ復習です。前回まで、無効と取消しには決定的に違う点がありましたね。覚えていますか?では、答え合わせです。無効は、最初から効力がゼロという事実の指摘にすぎず、意思表示は要りません。そのとおりです。今日からは、その「壊す意思表示」の主役——誰が持てるか、誰に向けるか——を見ていきます。
一般的取消しと特殊的取消し——115条はどちらでもない

いいえ。取消しには2種類あって、120条が使えるのは片方だけです。制限行為能力・錯誤・詐欺・強迫を理由とする取消しを、一般的取消しと呼びます。単に「取消し」と言えば、これを指します。120条以下は、この一般的取消しにだけ適用されます。詐害行為取消し424条や、負担付遺贈に係る遺言の取消し1027条のように、総則の外に個別に定められた取消しです。これを特殊的取消しと呼び、120条以下は適用されません。それぞれの条文が独自に要件を定めています。

よく気づきました。あれも、実はどちらでもありません。取消しの定義に戻って考えてみましょう。取消しとは、一応有効に成立している行為を、遡って無効にすることでした。ところが無権代理行為は、本人があとから認めること、つまり追認をしない限り、そもそも本人に効果が帰属しない、いわば未確定の状態です。たとえば、代理権のないYさんが、Xさんの代理人と名乗ってB社と契約した場合です。Xさんが追認しない限り、契約はXさんに効きません。そのとおりです。115条の「取消し」は、その未確定な状態を確定的に無効にして、本人の追認する権利を消す行為にすぎません。まさにそこです。方向が逆だから、取消しの定義そのものに当てはまらない。だから120条以下は及ばないんです。そのとおりです。中身は無権代理の回で改めて扱います。
取消権者120条の全体像——1項と2項はなぜ顔ぶれが違うのか

前回、取消しを主張できるのは取消権者だけ、とお伝えしました。では、取消権者を定めた120条を見てみましょう。
条文民法120条
民法 第120条(取消権者) 行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者(他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為にあっては、当該他の制限行為能力者を含む。)又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。 2 錯誤、詐欺又は強迫によって取り消すことができる行為は、瑕疵ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り、取り消すことができる。
1項は、制限行為能力を理由とする取消しです。本人、代理人、承継人、そして同意権者——4種類です。ひとまず、あとを引き継いだ人と思ってください。保佐人や、同意権を与える審判を受けた補助人のことです。錯誤は、勘違いのまま意思表示すること——錯誤の回で見ました。錯誤のうち、表示に対応する意思を欠く1号の錯誤は意思の不存在の側、基礎事情の錯誤である2号はもともと瑕疵ある意思表示の側です。条文はこの両方をまとめて「瑕疵ある意思表示」と呼ぶ、という言葉の広さだけ押さえてください。瑕疵ある意思表示をした本人、代理人、承継人——3種類です。そのとおりです。ここが今日、最初のポイントです。同意権者という仕組みそのものが、制限行為能力者を守るために置かれた、いわば専属の保護担当者だからです。1項が守っているのは、制限行為能力者という属性そのものです。だから、その保護担当者にも武器を持たせます。錯誤や詐欺、強迫は、特定の意思表示にたまたま生じた瑕疵という、一場面だけの話です。意思表示をした本人は、通常は判断能力のある一人前の人だという前提があります。だから、そもそも同意権者という枠自体が、2項には存在しないんです。被保佐人が保佐人の同意なく高額な壺を買った場面では、本人だけでなく保佐人自身も取り消せます。これに対し、判断能力に問題のない社会人が詐欺で契約した場面には、そうした保護担当者がそもそもいません。そのとおりです。ここを丸暗記でなく、この一点から導けるようにしてください。いいえ、120条という条文にそのまま書かれた要件です。そのとおりです。理由も添えて押さえておいてください。
1項の細部——本人・かっこ書・成年被後見人

なぜ不思議に感じますか。いい着眼点です。実はここ、制限行為能力制度の目的に立ち返ると、すっきり解けます。制限行為能力制度が単独では禁じているのは、本人に不利益になりうる行為です。契約を結ぶことは、損をするかもしれない行為だから、同意等を要求します。取消しは、不利な契約から本人を解放する行為です。本人に不利益をもたらしません。そのとおりです。むしろ、単独でできることが、保護の趣旨にかなうんです。

「他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為にあっては、当該他の制限行為能力者を含む」という部分ですね。17歳の高校生Xさんの、唯一の親権者Yさんが、実は被保佐人だったとします。YさんがXさんを代理して、B社と120万円のバイク購入契約を、保佐人の同意を得ずに結びました。重要な財産に関する権利の得喪を、法定代理人としてする行為です。13条1項が、保佐人の同意が要る行為として挙げています。よく覚えていましたね。102条本文がそう定めています。ですが、ただし書に例外があります。そのとおりです。今回、Yさんはまさにその場面にいます。だから、この契約は行為能力の制限を理由に取り消せます。その場合は、行為能力の制限を理由には取り消せません。102条本文に戻るだけです。Xさんも取消権者にはなりません。120条1項の通常の顔ぶれ——Yさん本人、Yさんの同意権者、承継人に加えて、かっこ書によりXさん本人も含まれます。Xさんは、自分の代理人が制限行為能力者だったせいで、不利益を受けうる立場にあるからです。そのとおりです。ここは条文の文言と、102条ただし書とのつながりで、必ず具体例とセットで押さえてください。

いいえ。成年被後見人だけ、ここが違います。未成年者や被保佐人、被補助人は、意思能力がある限り、単独で確定的に取消しの意思表示ができます。保護者の同意なくした取消しの意思表示を、あとからさらに取り消すことはできない、という意味です。成年被後見人がした取消しの意思表示は、不確定的に有効にとどまります。つまり、その取消しの意思表示自体を、さらに取り消すことができるんです。成年被後見人のZさんが後見人の同意なく単独で取り消しても、その意思表示自体を後見人があとから取り消せます。一方、未成年者のWさんが単独で取り消せば、それで確定し、保護者もこれを覆せません。9条本文を思い出してください。成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる、と定めていますよね。そのとおりです。「取消しの意思表示」自体も、この9条にいう成年被後見人の法律行為の一つにほかなりません。まさにそこです。他の制限行為能力者は、意思能力があれば単独でできる行為の範囲が個別に画されています。たとえば被保佐人なら、同意が要る行為が条文に列挙されていて、それ以外は単独でできます。成年被後見人には、そういう限定がありません。判断能力の恒常的な欠如を前提にしている以上、取消しの意思表示だけを特別扱いする理由がないんです。
承継人の範囲——一本の線で3ケースを裁く

1項・2項どちらにも共通する急所が、承継人の範囲です。そう見えますが、実は一本の線で全部裁けます。「契約当事者としての地位」を引き継いだのか、それとも「物」を引き継いだだけなのか、という線です。制限行為能力者Pさんが亡くなり、相続人Qさんがそのまま契約上の地位を包括承継したとします。だからQさんは取消権者に含まれます。次に、Pさんが賃貸人としての契約上の地位を、丸ごとSさんに譲渡したとします。契約当事者としての地位そのものを引き継いでいるので、Sさんも取消権者に含まれます。Pさんが購入した絵画を、さらにTさんに転売しただけの場合です。そのとおりです。Tさんは取消権者に含まれません。通説です。取消権は「契約」という法律行為の効力を消す権利で、契約当事者、またはその地位の承継人に帰属するものです。まさにそこです。だから、契約上の権利である取消権までは付いてこないんです。いいえ、ここは判例ではなく、通説が立てている線です。出典が付かないのが、むしろ正しい形です。そのとおりです。Q・S・Tの3人を、この一本の線に当てはめるだけで、迷わず判断できます。
保証人の地位——457条3項の履行拒絶

次は、少し変わった立場——保証人です。保証人自身は取消権者ではありません。いいえ、それは違います。457条3項という別の道具があります。
条文民法457条3項
民法 第457条3項(保証人の履行拒絶の抗弁権) 主たる債務者が債権者に対して相殺権、取消権又は解除権を有するときは、これらの権利の行使によって主たる債務者がその債務を免れるべき限度において、保証人は、債権者に対して債務の履行を拒むことができる。
そこが大事です。取消権が移るのではなく、履行を拒めるという抗弁権が、保証人に別枠で与えられているんです。保証債務は、主債務が消えれば連動して消えます。付従性です。でも、取消権を行使するかどうかは、主債務者の自由です。できません。取消権は、権利者本人しか行使できない形成権——一方的な意思表示だけで法律関係を動かせる権利——だからです。そこが肝心です。もし何の防御もないとすると、主債務者の気持ち一つで、保証人の履行義務の有無が左右されてしまいます。そこで457条3項は、主債務者が取消権を持つ限度で、保証人にも先取りして履行拒絶を認めます。そのとおりです。「待たされる保証人」を守る仕組みです。

数値で確認しましょう。主債務者Mさんが、Aさんから骨董品を80万円で購入する契約を結んだとします。NさんがこのMさんの代金支払債務、80万円を保証しました。実は、Aさんの詐欺によるものでした。Mさんは詐欺を理由に、96条1項で取消権を持ちます。遡って無効になります。主債務80万円が消える結果、保証債務も付従性で消えます。その段階でも、Nさんは457条3項によって、80万円全額について、履行を拒むことができます。

もう1つ、金額の一部だけが問題になる場面もあります。Mさんはカフェを営んでいて、Aさんからコーヒー豆を仕入れます。単価は1キロ3千円です。Mさんは10キロ注文するつもりが、注文書に誤って「100キロ」と書いてしまいました。代金は30万円になってしまいます。そのとおりです。ここでMさんに錯誤があるのは、どの範囲だと思いますか。そのとおりです。3万円の限度では、Mさんの意思と表示が一致しています。錯誤はありません。30万円から3万円を引いた、27万円の限度でだけ、重要な錯誤、95条1項1号があります。重要かどうかの物差しは、錯誤の回で見たとおりです。Mさんはこの27万円の限度でだけ、取消権を持ちます。3万円分は、Nさんの負担として残ります。でも27万円分は、457条3項で突っぱねられます。そのとおりです。主債務者の取消権の範囲がそのまま、保証人の履行拒絶の範囲になります。

出ます。この抗弁権をどう主張立証するか、一部取消しの場面をどう組み立てるか、という形で問われます。いいえ、答案の型は専用の論文動画で扱います。
取消しの意思表示の相手方123条——転得者は含まれない

最後に、取消しの意思表示をどこに向けるか、123条です。はい、条文を見ましょう。
条文民法123条
民法 第123条(取消し及び追認の方法) 取り消すことができる行為の相手方が確定している場合には、その取消し又は追認は、相手方に対する意思表示によってする。
相手方が確定している場合は、その相手方に対して意思表示をする、というだけの条文です。はい、これも123条という条文そのものの要件です。覚えるべきは、この後の「相手方って誰?」という当てはめの方です。

売主Xさんが、買主Yさんに騙されたとします。XさんがYさんに甲絵画を売る契約を結んだ後、買主のYさんが、Zさんにその絵画を転売しました。Yさんです。Zさんに対して意思表示をしても、123条の要件を満たしません。いい疑問です。取消しは、契約の効力を消す行為であって、物を取り戻す行為ではありません。そのとおりです。契約の当事者はYさんであり、その契約の効力をどう扱うかは、Yさんとの問題です。それは別問題です。対抗問題として、また別の回で扱います。まさにそこです。実は、転得者を含めない、という結論は、古い判例が示しているものです。目的物が転売されていても、取消しの意思表示は最初の契約の相手方に向ける、という結論です。取消し後に登場する第三者と登記の問題は、また別の回で、腰を据えて扱います。
今日の地図(保存版)

最後に、取消しという行為そのものの性質を確認します。取消しは、取消権者の一方的な意思表示だけで、法律行為の効力を遡って消滅させます。要りません。これを単独行為、そして先ほどの形成権と呼びます。よく気づきました。解除も、遡って法律関係を消す点は共通です。根拠になる事由の時期です。取消しは、契約を結んだ時点の事由——制限行為能力や、錯誤、詐欺、強迫です。契約を結んだあとの事由、つまり債務不履行です。そのとおりです。取消権も、債権者代位権423条という制度の対象になることがあります。そのとおりです。主債務者が取消権を放置している場合が典型です。詳しくは、債権総論の回で扱います。

一般的取消しにだけ120条以下が適用され、115条はどちらでもない——取消しの定義から導けましたね。1項の細部では、本人も取消権者、かっこ書と102条ただし書、成年被後見人だけの差分を見ました。保証人は取消権者ではありませんが、457条3項で履行拒絶ができました。そのとおりです。今日見たのは「誰が持てるか」と「どこに向けるか」の2点でした。取消しの効果——遡及的に無効になるという中身と、追認について見ていきます。そのとおりです。
参照条文
- 民法120条
- 民法457条3項
- 民法123条