取消し②——遡及的無効121条と追認122〜124条
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第1章 民法総則 ⑳/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
遡及的無効——121条

まず、取り消したときに何が起きるか、条文を見ましょう。
条文民法121条
民法 第121条(取消しの効果) 取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。
そこが、今日いちばん最初の踏み外しポイントです。取消しの意思表示をした時から将来に向けて、ではありません。契約をした、その瞬間まで遡ります。取消しというのは「そもそも、この人にこの契約を負わせるべきではなかった」という、後からの評価です。制限行為能力、錯誤、詐欺、強迫——原因はいろいろですが、どれも意思決定の途中に欠陥があった、という共通点があります。そのとおりです。欠陥は契約をした瞬間からあったものなので、契約締結前の状態まで戻すのが、いちばん筋が通っています。Aさんが、強迫を受けてBさんに絵画を30万円で売る契約を結んだとします。強迫が止んだ後、Aさんが取消しの意思表示をしました。契約は初めから無かったことになります。絵画はAさんに、30万円はBさんに、それぞれ戻ります。「みなす」という言葉にも注目してください。反証を許さない、という意味です。実際にその期間、何が起きていたとしても、法律上は無効だったものとして扱われます。取消しより「前」に出てきた人の扱いは、詐欺・強迫の回で決着させましたね。強迫には、その人を守る規定が無いので、取り消したAさんが勝ちます。そこからは、どちらが先に登記をそなえたか、という別の争いになります。そちらは登記を扱う回で、正面から見ていきます。押さえておいてください。
取消し後の法律関係——同じ物差し、取消し特有の縮減

そこは、無効のときに立てた物差しが、そのまま動きます。121条の2です。受け取った物を返す、現物が無理なら価額で返す、という1項の原則も、そのまま当てはまります。条文自体が、そう明記しています。取消しによって遡って無効になった行為にも、121条の2は適用されるんです。詳しい中身は、無効の回で丁寧に見ましたね。取消しの場面で、いちばん効いてくる部分です。第3項を見てみましょう。そのとおりです。意思無能力者は、能力の回で見た、判断する力そのものを欠いた人でしたね。これは無効と取消し、両方に効く条文ですが、実際にいちばん出番があるのは取消しの場面です。制限行為能力者の契約は、たいてい「取り消せる」形で保護されているからです。取消権を使った瞬間、この第3項が本領を発揮します。17歳のAさんが、保護者の同意なくBさんから5万円でゲーム機一式を買ったとします。ただ、そのうち3万円分の付属品はもう開けて使ってしまいました。残り2万円分の本体は、未開封のまま手元にあります。Aさんが返す義務を負うのは、手元に残っている2万円分だけです。使った3万円分までは、弁償しなくていいんです。取消権という保護だけでは、足りないからです。もし全額の弁償を求められるなら、契約から離脱しても損失は変わりません。取消権があっても意味がなくなってしまいます。そのとおりです。取消権と、返還範囲の縮減は、セットで初めて機能する保護なんです。
同時履行と、2本の武器——請求権競合

片方だけ先に返す必要はありません。双方の返還義務は、同時履行の関係に立つ、と判例が示しています。相手が返すまで、自分も返さなくていい、という仕組みです。これは以前、無効の場面でも見ましたね。そのとおりです。533条は本来、双務契約から生じる債務どうしの規定です。双務契約は、無効の回で見た、互いが義務を負い合う契約です。だから直接は使えません。それでも、片方だけ先に手放すのは不公平だ、という利益状況は双務契約とまったく同じです。これを類推適用と呼びます。無効の回と同じ理屈が、取消しの場面でもそのまま動きます。2つあります。1つは、121条の2に基づく返還請求。もう1つは、所有権に基づく返還請求です。遡及効を徹底すると、絵画の所有権は最初からずっとAさんのもとにあった、ということになります。そのとおりです。契約の後始末としての請求権と、物そのものへの権利に基づく請求権、どちらを使ってもかまいません。いいえ、こちらは判例というより、遡及効の構造から素直に導かれる、通説の理解です。学説の中で、多くの学者が支持している見解のことです。
追認122条——武器を捨てると決めたら

ここからは、逆のケース——取り消さないと決めた場合を見ていきます。条文を見てみましょう。
条文民法122条
民法 第122条(取り消すことができる行為の追認) 取り消すことができる行為は、第百二十条に規定する者が追認したときは、以後、取り消すことができない。
そこ、今日いちばんの引っかかりポイントです。「有効になる」のではありません。取り消すことができる行為は、もともと一応有効です。無効ではありません。そのとおりです。追認によって起きるのは、「取り消せなくなる」ということ、つまり有効が確定する、という変化です。もう二度と、取消しという武器を使えなくする、ということです。追認の法的な性質が、取消権の放棄だからです。取消権者が「もうこの武器は使いません」と表明する行為、それが追認の正体です。未成年のAさんが、親の同意なくBさんから自転車を購入したとします。成人した後、Aさんが「もうこれでいい」と述べたとします。これが追認です。以後、Aさんはこの契約を取り消せません。有効な契約として確定します。そのとおりです。この「放棄」という性質から、今日残り全部の話が出てきます。
「追認」は3つある——遡及の有無で並べる

よく覚えていましたね。実は「追認」という言葉、民法には3つの場面で出てきます。無効な行為の追認、取り消すことができる行為の追認、そして無権代理の追認です。まったく違います。1つずつ確認しましょう。本文は、追認しても効力を生じません。ただし書は、無効だと知って追認したら、新たな行為をしたものとみなす、でした。そのとおりです。追認した時から、将来に向けてだけ効きます。過去には遡りません。たとえば、意思能力を欠いた状態で結んだ売買が無効だったとします。後から当事者どうしで「これでいこう」と決めても、有効になるのは決めたその時から。無効だった期間まで遡ることはありません。もともと一応有効なので、そもそも「遡るかどうか」という問題自体が立ちません。有効な状態が、そのまま確定するだけです。さっきの自転車の例です。成人したAさんが「もうこれでいい」と言った瞬間、契約は取り消せなくなります。もともと有効だったものが、そのまま固まるだけです。代理権のない人が結んだ契約を、本人が後から自分の契約として認める場合です。中身は代理の回で扱いますが、こちらは契約の時に遡って効力を生じる、とされています。たとえば、代理権のないCさんが、本人のDさんの代理人だと名乗って、相手方のEさんと契約したとします。Dさんが後から「それでいい」と認めると、その契約は、Cさんが結んだ時点に遡って、Dさんの契約になります。そのとおりです。同じ「追認」という言葉でも、それぞれの制度が守ろうとしている利益が違うからです。119条は、もともと無効なものを、当事者の意思で今から作り直す制度です。過去は治せません。122条は、もともと有効だったものを、確定させるだけの制度です。遡る必要自体がありません。116条は、他人がした行為を、自分の行為として遡って引き受ける制度です。丸暗記ではなく、この表で3つとも並べて、毎回ここに立ち返ってください。
旧122条ただし書の削除——古い教材との食い違い

今の条文にはありません。ただ、これは要注意ポイントです。実は改正の前は、122条にただし書がありました。「追認によって、第三者の権利を害することはできない」という一文です。改正で削除されました。追認によって、第三者の権利が害される場面が、そもそも想定できなかったからです。追認は、もともと一応有効だった行為の効力を、そのまま確定させるだけの行為です。そのとおりです。追認によって、誰かが新しく不利益を受ける、という状況そのものが起きません。さっきの絵画の例で考えてみましょう。Aさんが取り消す前に、Bさんがその絵画を別の人に売っていたとします。立場は、悪くなりません。むしろAさんがもう取り消せなくなる分、その人の地位は安定します。探しても、追認で不利益を受ける第三者が見つからないんです。無かった不利益を防ぐための規定は、意味がなかった、ということです。古い教材や、古い過去問には、まだこのただし書が載っています。そのとおりです。今の民法にただし書は無い、とはっきり覚えておいてください。
124条——追認が効くための、二重の関門

では、追認が実際に効力を持つための条件を見ていきます。124条です。
条文民法124条
民法 第124条(追認の要件) 取り消すことができる行為の追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅し、かつ、取消権を有することを知った後にしなければ、その効力を生じない。 2 次に掲げる場合には、前項の追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅した後にすることを要しない。 一 法定代理人又は制限行為能力者の保佐人若しくは補助人が追認をするとき。 二 制限行為能力者(成年被後見人を除く。)が法定代理人、保佐人又は補助人の同意を得て追認をするとき。
状況が消滅した後であること、そして取消権を持っていると知った後であること。この両方がそろわないと、追認は効力を生じません。いいえ。追認の性質を思い出してください。そのとおりです。放棄が本当に意味を持つには、何が必要ですか。まさにそこです。脅されたままの状態や、まだ未成年のままの状態で「もう構わない」と言っても、それは本当の自由な放棄になっていません。これが1つ目の条件です。自分がその武器を持っている、と分かっていることです。そのとおりです。この2つが、そのまま条文の2つの要件になっています。強迫を受けていたAさんが、まだ強迫者の影響下にあるうちに、「もう構わない」と言ったとします。1つ目の条件を満たしていません。追認は効力を生じません。取消権は、まだ残っています。強迫から解放されたAさんが、自分に取消権があると知らないまま、代金を追加で払ったとします。2つ目の条件を満たしていません。この時点では、法律上の追認の意思表示としては成立しません。錯誤や詐欺、強迫で契約した場合、状況の消滅とは、その錯誤や詐欺、強迫の影響が無くなったことを指します。行為能力者になったことです。強迫がすっかり止み、しかも自分にこの契約を取り消す権利があると分かったうえで、Aさんが「もう構わない」と言ったとします。二重の関門を、両方通っています。有効な追認です。以後、Aさんはこの契約を取り消せません。そのとおりです。この2つの門を、一本道のチェックポイントとしてイメージしてください。両方そろって初めて追認が効き、片方でも欠ければ、取消権はそのまま残ります。
124条2項の例外——なぜ成年被後見人だけ外れるのか

あります。124条2項に、2つの例外が定められています。1つ目は、保護者——法定代理人や保佐人、補助人——が追認をするときです。そのとおりです。保護者自身が判断しているので、本人の状態がどうかは関係ありません。制限行為能力者本人が、保護者の同意を得て追認するときです。ただし、これには限定が付いています。成年被後見人を除く、という限定です。そのとおりです。なぜだと思いますか。近いですね。理由を、以前見た9条から考えてみましょう。同意を得て本人が追認する、という2号の枠組みは、保護者が同意すれば本人が正しく動ける、という前提に立っています。そのとおりです。保護者が同意していても、本人がその同意どおりに行動できる保証がありません。だから、この枠組み自体が機能しないんです。判断能力が欠ける程度が軽いので、保護者の同意さえあれば、本人が追認することに意味があります。保佐人の同意を得ずに、自分名義の土地を売る契約を結んだ被保佐人のAさんがいたとします。不動産の処分は、以前見た13条1項に挙げられた行為なので、保佐人の同意が要ります。そのとおりです。保佐人の同意を得て追認すれば、有効です。保護者の同意があっても、D自身の追認はこの例外の対象外です。そのとおりです。保護者単独の追認は、1つ目の例外として、誰についても常に使えます。
仕上げ——追認の相手方と、要件を欠いた追認

取消しの意思表示と同じです。123条に定めがあります。相手方が確定していれば、その人に対してします。取消しでも追認でも、同じ仕組みが使われています。その追認は、効力を生じません。取消権は、まだ残っています。追認したつもりでも、門を通っていなければ、効いていないんです。そのとおりです。実務でも、意外と見落とされやすいところです。あります。行動から追認したとみなされる場合もあるんです。意思表示による追認だけに絞りました。
今日の地図(保存版)

取消しは、初めから無効だったとみなす——これが遡及効でしたね。返す範囲は、無効のときと同じ物差し。ただ、制限行為能力者だけは現存利益で足りる、という縮減がありました。追認については、有効になるのではなく、取り消せなくなる——有効が確定する、という効果でした。そのとおりです。そして、追認が効くための二重の関門と、その例外も見ました。そのままつながっていきます。
参照条文
- 民法121条
- 民法122条
- 民法124条