民法ゼロから民法#21

取消し③——法定追認125条と取消権の期間制限126条

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第1章 民法総則 ㉑/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

これまでの想起と、今日の地図

これまでの想起と今日の地図

本題に入る前に、前回までの内容を2つだけ思い出してみましょう。

一つ目。取消しとは、どんな行為を、誰が、どうやって壊す仕組みだったでしょうか。答え合わせです。一応は有効に成立した行為を、取消権を持つ人が、意思表示で壊す——それが取消しでした。

二つ目。前回の追認とは何だったでしょうか。答え合わせです。取消権を手放す、放棄でした。ただし、勝手に手放せるわけではなく、状況が変わって、権利を知った後でなければ効きません。

今日は、この2つの続きです。意思表示なしで追認したことになる場合と、意思表示なしで取消権そのものが消える場合——両方とも、意思表示がいらない、というのが今日のポイントです。

法定追認125条——「みなす」の重さ

擬制と推定の違い

まず条文を見てみましょう。

条文民法125条(柱書・ただし書)

民法 第125条(法定追認) 追認をすることができる時以後に、取り消すことができる行為について次に掲げる事実があったときは、追認をしたものとみなす。ただし、異議をとどめたときは、この限りでない。

「追認をしたものとみなす」——前回の122条と、何が違うのでしょうか。そこが今日いちばん最初の踏み外しポイントです。122条の追認は、取消権者が「もう取り消しません」と自分の口で伝える、意思表示でした。125条は違います。追認する気があったかどうかを一切問いません。ある行動を取っただけで、法律上、追認したものとして扱われるのです。

「みなす」は、「たぶんそうだろう」と推定するのとはまったく違います。推定は「本当は違います」と反証すれば覆せますが、「みなす」は擬制——反証を許しません。「本当は追認する気なんてなかった」と後から言っても、覆らないのです。同じ「追認」でも、入口がまったく違います。122条は口から入り、125条は行動から入る。ゴールは同じでも、入口が違うのです。

イメージしにくいので、サブスクの自動更新にたとえてみましょう。契約を結ぶことは、サービスに加入すること。取消権がある状態は、「今なら無条件で解約できる」期間中です。122条の追認は、解約できる画面で、わざわざ「このまま続ける」ボタンを自分から押すこと——これは明確な意思表示です。一方、125条は、ボタンを押していないのに、利用明細の支払いを自分から済ませたり、サポートに「機能を増やしてほしい」と自分から頼んだりすることです。ボタンは押していなくても、その行動自体が「もう続ける気でいる」ことを雄弁に語っています。だから法律上、もう解約できないものとして扱われる——これが「みなす」の正体です。

なぜ擬制するのか——趣旨

法定追認の趣旨

なぜそこまでして、意思を無視して追認したことにするのでしょうか。理由は2つあります。

1つ目は、相手方の信頼の保護です。取消権者が、履行を求めてきた、担保を差し入れてきた——そんな「この契約でいく」としか読めない行動を取ったのに、後から「やっぱり取り消す」と言われたら、相手方はたまりません。行動を信じた相手方が、はしごを外されてしまうのです。

2つ目は、法律関係の早期安定です。取消権をいつまでも生かしておくと、契約の効力がずっと宙に浮いたままになります。売った側は、受け取った代金を使ってよいのかも決められませんし、同じ物を別の相手に売り直すこともできません。だから、行動があった時点で決着をつけてしまう——この2つの理由から、これから見る6つの事由が出てきます。

6つの法定追認事由——決め手は一本

125条各号一覧

続いて、成立要件として条文に並んでいる、一定の事実を見ていきます。

条文民法125条(各号)

民法 第125条(法定追認・各号) 一 全部又は一部の履行 二 履行の請求 三 更改 四 担保の供与 五 取り消すことができる行為によって取得した権利の全部又は一部の譲渡 六 強制執行

6つ、丸ごと暗記する必要はありません。ここは条文にそのまま並んでいる成立要件なので、逐語で暗記するより、決め手を1つ持っておくほうが、ずっと楽です。その決め手とは、「取消権者自身が、この契約でいくという態度を示したと読めるか」、これだけです。

設例で確認しましょう。17歳のAさんが、法定代理人の同意なく、中古楽器店のBさんから、6万円のヴィンテージギターを買ったとします。

6事由の一覧板(取消権者の関与という軸で並べ替え)

まず、Aさん自身がした行動なら、6つとも当然に○です。自分の行動なので、疑いようがありません。分かれるのは、相手方がした行動のほうで、ここで決め手が生きてきます。

1号(履行):Aさんが自分から代金の一部、2万円をBさんに払えば○です。逆に、Bさんが先にギターを渡してきて、Aさんが受け取っただけの場合も○になります。判例は、受け取る側にAさんが回った場合も含める、としています。なぜ受け取っただけで態度を示したと言えるのかというと、受け取るという行動自体が、「この契約は続ける」という選択だからです。受け取りを拒むこともできたのに、そうしなかったのです。

2号(履行の請求):Aさんが「早くギターを渡してほしい」と請求すれば○です。一方、Bさんが「早く残りの代金を払ってほしい」と請求してきただけなら×になります。さっきの受領と何が違うのかというと、Aさんは催促されただけで、自分からは何もしていません。判例も、相手方からの請求は含まない、としています。受け取るのは選べても、催促されるのは選べない、ということです。

3号(更改):更改とは、もとの債務を消して、新しい債務に置き換える合意のことです。AさんとBさんが、残っている4万円の代金を支払う債務を消して、代わりにAさんが持っているアンプ1台を渡す債務を新しく発生させる、という合意をしたとします。その場でアンプを渡すと代物弁済になってしまうので、そこは区別が必要です。その場で渡すのではなく、渡すという新しい債務に置き換える合意である点が更改です。これは、どちらが持ちかけても○になります。合意という形自体に、Aさんの同意が必ず含まれるからです。Bさんが持ちかけたとしても、Aさんが応じた時点で、態度を示したことになります。

4号(担保の供与):Aさんが自分の腕時計を担保として差し入れれば○です。Bさんが担保を差し入れて、Aさんがそれを受諾した場合も○になります。担保も、受け取ることが態度になるのです。

5号(取得した権利の譲渡):Aさんがギターの引渡請求権を友人に譲渡すれば○です。一方、Bさんが自分の代金債権を業者に譲渡しても、これは×になります。Bさんの譲渡は、Aさんと関係ない話で、Aさんはそこに一切関与していないからです。

6号(強制執行):Aさんが債権者として強制執行を申し立てれば○です。Bさんが強制執行をしてきて、Aさんが執行を受ける側になっただけなら×になります。判例は、取消権者の側から執行に踏み切ったときに限られる、としています。

整理すると、相手方がした行動のうち、Aさんが受領や合意、受諾という形で関わっているものだけが○になります。1号の履行、3号の更改、4号の担保の供与——この3つは、取消権者がどこかで関わっています。2号の請求、5号の譲渡、6号の執行——この3つは、取消権者はただ受け身に置かれただけです。表を丸暗記しなくても、この軸1本で全部説明できるのです。

時期要件と、異議をとどめたとき

時期要件——124条の関門はここでも生きている

さっきの1号、Aさんが受け取れば○という話でした。では、もしAさんが、法定代理人の同意も得ずに、17歳のままギターを受け取ったら、どうなるでしょうか。そこ、今日ふたつ目の踏み外しポイントです。実は、法定追認にはなりません。1号の履行には当てはまるはずなのに、なぜでしょうか。

125条の柱書をよく見ると、「追認をすることができる時」以後、と書いてあります。これは前回の124条と同じ言葉です。124条が求める、取消しの原因となっていた状況——ここでは未成年であること——が、まだ消えていないので、追認をすることができる時に至っていないのです。行動があれば何でも法定追認になる、というわけではありません。Aさんが法定代理人の同意も得ずに受け取った以上、まだ関門を通っていないので、法定追認にはならないのです。

逆に、法定代理人の同意を得て受け取っていたら、どうなるでしょうか。その場合は、法定追認が認められます。124条2項2号により、同意を得た時点で、追認できる立場に立っているからです。

では、法定代理人がAさんの代わりに受け取ったらどうでしょうか。その場合も、法定追認になります。これが多数説です。前回も、保護者が自分で追認するときは、本人の状態を待たなくていい、という話がありましたが、それと同じで、法定代理人自身は、行為能力の制限を受けていません。Aさん自身が未成年かどうかは、もう関係ないのです。受け取りが、制限なく判断できる状態でされたか——本人なら同意があるか——がポイントになります。

異議をとどめる——擬制からの逃げ道

さっきの条文、最後に「異議をとどめたときは、この限りでない」とありました。これが擬制からの、唯一の逃げ道です。取消権を手放すつもりはない、とあらかじめ示しておけば、行動があっても法定追認にはなりません。具体的には、Aさんが代金の一部を払うときに、「これは受け取りますが、取り消す権利は手放しません」と一言伝えたうえで払ったとします。それだけで、1号の履行があっても、法定追認にはならないのです。実務でもよくある感覚で、「一応受け取っておくけれど、取り消す権利は放棄しない」と伝えておく、というものです。

なぜ、一言添えるだけで擬制されなくなるのでしょうか。125条が行動から追認を読み取れるのは、その行動が「この契約でいく」という態度の表れだからです。「取り消す権利は手放さない」と先に言っておけば、その行動はもう態度の表れとは読めません。読み取る前提そのものが崩れるので、擬制も働かないのです。黙って行動すると危ないけれど、一言添えれば守られる——逆に言うと、何も言わずに行動すると、この逃げ道は使えません。

要件④——「取消権を有することを知った後」は必要か

要件④の学説対立(有力説)

さっきの1号、Aさんは自分に取消権があることを知らないまま、うっかり残代金を払ってしまったら、どうなるでしょうか。ここは、条文だけでは決着がつかないところです。125条の柱書を見ても、「取消権を知った後」とは書いていません。

書いていないなら、知らなくても法定追認になるのでしょうか。ここに、有力な異論があります。124条1項を思い出してください。意思表示による追認には、状況の消滅と、取消権を知った後であること、両方が要件でした。法定追認だけ、知っていることを問わないのは、バランスを欠くのではないか——だから、法定追認の場面でも、取消権を知った後であることが必要だ、という見解が有力です。

これは、判例や通説で決まっているわけではありません。あくまで有力説にとどまります。条文の文言そのものには無い要件なので、断定はできません。Aさんの例で言えば、知らずに払ってしまったなら、この有力説によれば法定追認にはならない、という余地がある、ということです。

取消権の期間制限126条——2つの時計

取消権の期間制限——2つの時計

ここからは、行動ではなく、時間そのもので武器が消える話です。126条を見ましょう。

条文民法126条

民法 第126条(取消権の期間の制限) 取消権は、追認をすることができる時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。

この5年と20年という数字は、無効と取消しを比べた回で、すでに一度出てきています。今日の本体は、なぜ起算点が2つあるのか、という理由のほうです。

短期の5年は、「追認をすることができる時」から測ります。これは、取消権者が自由に選べる状態になってから測る、保護のための時計です。長期の20年は、「行為の時」、つまり契約を結んだ瞬間から測ります。取消権者の事情を一切問わず、法律関係を打ち切るための時計です。なぜ両方が要るのかというと、短期だけだと、取消権者がずっと自由に選べない状態のままなら、いつまでも時計が動き出さず、権利が消えません。相手方がいつまでも宙ぶらりんになってしまいます。だから、取消権者の事情にかかわらず動く、長期の時計も必要になるのです。どちらの時計が先に着くかはケースによりますが、どちらか早く到達したほうで、取消権は消えます。20年待てば、5年を超えて行使できる、というわけではありません。

起算点のあてはめ一覧

短期の起算点は、原因ごとに変わります。Aさんのように未成年で契約した場合は、成年に達した時が短期の起算点になります。それまでは、自由に選べる状態になっていないからです。強迫を受けて契約した場合は、畏怖を脱した時、つまり脅されている影響がなくなった時です。錯誤で契約した場合は、錯誤に気づいた時。Aさんの法定代理人が取消権者になる場合は、保護者が取消権を有すると知った時——保護者自身の認識が基準になります。

もし、Aさんが判断能力を回復しないまま、契約から20年経ってしまったらどうなるでしょうか。短期の起算点自体が来ないまま、長期、つまり行為の時から20年で、取消権は消えてしまいます。保護されるはずの人が、いちばん長く待たされた末に権利が消える——これはこの制度の厳しいところですが、法律関係をいつまでも宙に浮かせておけない、というのが、長期の時計の役目なのです。

除斥期間か、消滅時効か

除斥期間 vs 消滅時効

126条には、はっきり「時効によって消滅する」と書いてあります。しかし、ここも、条文の文言と通説の理解がずれているところです。通説は、126条を消滅時効ではなく、除斥期間と読みます。

理由は、取消権の性質にあります。取消権は形成権です。権利者が行使すれば、それだけで、その瞬間に効果が生じる権利で、相手の同意はいりません。普通の債権の消滅時効なら、途中で相手が一部でも支払えば、時計が振り出しに戻ります——完成猶予や更新という仕組みです。債権は、支払ってもらうまで、権利としてずっと残り続けるので、途中の出来事で時計を数え直す、ということが起こります。

取消権には、そういう仕組みが観念できません。取消権は、行使した瞬間に、契約が遡って消えてしまいます。行使した後に「まだ続きがある」という状態が、そもそも生まれないのです。時計を止め直す、という出来事自体が起こりようがありません。だから、条文の文言に「時効」とあっても、通説は除斥期間として扱います。

花火の導火線のようなものです。水をかけても消えない、継ぎ足しても伸びない。なお、完成猶予や更新のくわしい中身は、消滅時効そのものを扱う回で、あらためて見ていきます。

「追認」4つの弁別と、取消し制度の締めくくり

「追認」4つの弁別表

最後に、「追認」という言葉を、もう一度整理しておきましょう。前回、3つ見ました。119条は、無効な行為の追認。本文は効きませんが、知って追認すれば新しい行為とみなされます。122条は、取り消すことができる行為の追認。意思表示によって、有効が確定します。116条は、無権代理の追認——代理権がないのに、代理人として結んでしまった契約のことで、遡って効力を生じます。

そこに、今日の125条が加わります。取り消すことができる行為について、行動から擬制される追認で、意思の有無を一切問いません。これで4つ、全部そろいました。同じ「追認」でも、入口も、遡るかどうかも、それぞれ違う——この表で、いつでも立ち返れるようにしておいてください。

今日で、「無効と取消し」の話は全部終わりです。無効の意義から始まって、無効な行為の追認と転換、取消権者と取消しの意思表示、遡及的無効と追認、そして今日の法定追認と期間制限。この5本で、無効と取消しの章が閉じます。次は代理——誰かに任せて契約する、という新しい章に入ります。

今日の地図(保存版)

まとめ

今日のポイントをまとめます。125条は、行動があれば追認したものとみなす——意思表示ではなく、擬制でした。趣旨は、相手方の信頼保護と、法律関係の早期安定でしたね。6つの事由は、取消権者の関与があるかどうか、この1本で決まりました。時期要件では、124条の関門がここでも生きていて、異議をとどめれば擬制から逃げられる、という話でした。

126条は、追認できる時から5年、行為の時から20年、どちらか早いほうで取消権が消えます。通説は、それを除斥期間と読みます。形成権だから、時効の完成猶予が観念できない、という理由からでした。

全部、取消権者の意思や事情を、法律がどこまで待つか、という1つの視点から出ています。今日で、「無効と取消し」の章が終わりました。次回は、代理の話に入っていきます。

参照条文

  • 民法125条(柱書・ただし書)
  • 民法125条(各号)
  • 民法126条

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