未成年者が、一人でできること——営業の許可と、守る側の四つの道具
印刷のコツ
プリンターでは次の設定がおすすめです。
- 用紙:A4 / 向き:縦
- 拡大縮小:「実際のサイズ」(フィット縮小しない)
- 両面印刷:オン、とじ方は「長辺をとじる」(左綴じ)
- モノクロ印刷OK(強調は色でなく太字なので白黒でも読めます)
第1章 民法総則 ⑭/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
今日の地図——残りの三つと、守る側の道具箱
図:今日の地図(許された営業/取消しの意思表示/身分行為)+守る側の道具箱をもう一つ
まず、前回の地図を、もう一度、開いておきましょう。未成年者が、一人で、契約をするには——原則として、法定代理人の同意が、要ります。そして、同意が要らない場面が、四つ、ありました。前回、挙げた四つのうち、今日、扱うのは、どれと、どれだったでしょうか?そこまで、合っています。三つ目が、許された営業。四つ目は、取消しの意思表示と、身分行為、でしたね。今日は、この、三つ目と、四つ目——許された営業、取消しの意思表示、そして、身分行為を、扱います。そして、最後に、もう一つ。未成年者を、守っている側——法定代理人が持っている道具を、四つに整理して、閉じます。
お楽しみに。
山場——許された営業という、三つ目の理由
図:6条1項の背骨
- 営業を許された未成年者は成年者と同一の行為能力を持つ
- パン屋の設例
まず、あのパン屋の話に、戻りましょう。毎日、小麦粉や、バターを、仕入れます。焼いたパンを、お客さんに、売ります。お店で使う、機材を、買うことも、あるでしょう。それを一つ一つ、親に確認していては、現実的では、ありません。そこで、民法には、こういう条文が、あります。
条文民法6条1項・2項
民法 第六条(未成年者の営業の許可) 一種又は数種の営業を許された未成年者は、その営業に関しては、成年者と同一の行為能力を有する。 2 前項の場合において、未成年者がその営業に堪えることができない事由があるときは、その法定代理人は、第四編(親族)の規定に従い、その許可を取り消し、又はこれを制限することができる。
ここが、今日、最初の、山場です。じっくり、考えてみましょう。ここでの法定代理人は、前回見た、親権者や、未成年後見人のことです。その法定代理人が、あらかじめ、「パン屋を、営んでいい」と、許可したとします。すると、その営業に関しては——未成年者は、成年者と、同一の、行為能力を持ちます。「同一」というのは、とても、重い言葉です。その範囲では、もう、制限行為能力者では、ないんです。同意も、要りません。取り消すことも、できません。仕入れの契約も、店の賃貸借も、機材を買う契約も——一人で、確定的に、有効です。
理由を、考えてみましょう。一つ一つの契約に、同意を取り直す代わりに——法定代理人は、「営業」という単位で、あらかじめ、まとめて、同意を渡しています。前回の「先に同意が渡してある」という理屈と、似ていますが、少し違います。前回のは、財産の使い道を、あらかじめ、任せる話でした。今日のは、営業という、活動そのものを、まとめて、任せる話です。だから、冒頭の問いに、答えられます。毎日の、小麦粉や、バターの、仕入れは——「パン屋を営んでいい」という許可の、範囲の中の行為です。一つ一つに、同意は、要りません。
山場——営業という、単位でしか、動かせない
図:営業という単位
- 一種または数種
- 一部はダメ
- 全部もダメ
- 制限する意味(一つの取消しはOK/特定行為の取上げはダメ)
では、この「営業を許す」という許可、どこまで、自由に、線を引けるのでしょうか。例えば、法定代理人が、こう言ったとします。「パン屋は、やっていい。ただし、お店の外への、配達だけは、ダメ」。これは、6条1項の、「一種、または、数種の営業」には、あたりません。ここが、条文の、文言を、よく見るところです。6条1項は、「一種、または、数種の、営業を、許された」と、書いています。「営業」そのものが、許可の、単位なんです。業務を、切り分けて、一部だけ許す、ということは、想定されていません。逆の場合も、見てみましょう。「もう、何をやってもいい。好きに、商売しなさい」。
これも、6条1項には、あたりません。「一種、または、数種」というのは、営業の、1個か、数個ということです。「どんな職業でもいい」という、無限定な許可には、単位が、決まっていません。営業という、単位を、そのまま渡すときだけ、6条1項が、働きます。働かなければ、原則に、戻ります。一つ一つの契約に、法定代理人の同意が、要ります。では、この単位という考え方は——6条2項の、「制限する」にも、同じように、効いています。具体例で、見てみましょう。法定代理人が、パン屋と、古着のネット販売、二つの営業を、許可していました。ところが、古着の販売の方は——「営業に、堪えられない」事由が、見つかりました。そこで、古着の販売の、許可だけを、取り消します。
これが、6条2項の、「制限する」に、あたります。数個、許していたうちの、一部の許可を、取り消すことです。では、こちらは、どうでしょう。パン屋の許可は、残したまま——パン屋で使う、機材のリース契約だけを、「これはダメ」と、取り上げる。これは、6条2項の、「制限する」には、あたりません。一つの営業の中にある、特定の行為だけを、切り出して、取り上げることは——できないんです。許可も、取消しも——「営業」という、単位でしか、動かせません。一部を切り出すことも、全部を無限定に渡すことも、できないんです。
山場——許可の取消しは、遡らない
図:「何の取消しか」対比
- 契約の取消し=遡る
- 営業の許可の取消し=遡らない
- 相手方を害するという理由
では、さっきの、古着の販売の許可を、取り消した話に、戻りましょう。取り消される、前の月に——すでに、古着の、仕入れ契約を、結んでいたとします。ここで、大事な、対比が、あります。前回まで、「取消し」という言葉を、何度も、使ってきました。契約の取消しは、遡ります。ところが——営業の許可の取消しは、遡りません。ここが、今日、一番、混乱しやすいところです。営業の許可の取消しは——これから先に、向けてだけ、効果を持ちます。取り消す前に、結んでいた、古着の仕入れ契約は——そのまま、確定的に、有効です。相手方の、側から、考えてみましょう。もし、遡らせてしまったら——古着の、仕入れ先の業者は、どうなるでしょうか。
営業として、外に向けて、契約を結んでいた相手方を——大きく、害することになります。これは、条文に、直接、書かれた話ではなく——そう解釈されている、というのが、正確なところです。契約の取消しは、遡る。営業の許可の取消しは、遡らない。この二つ、必ず、区別して、覚えてください。
山場——取消しの意思表示は、一人でできる
図:取消しの意思表示
- 未成年者も取消権者
- 確定的に有効
- 取消しの意思表示は取り消せない
さて、四つ目——取消しの意思表示に、進みましょう。前回、あの十六歳が、親に内緒で、スマホを、分割払いで、買った話を、扱いましたね。では、実際に、「取り消します」と——その十六歳自身が、一人で、伝えたら、どうなるでしょうか。実は、その取消しには、法定代理人の同意は、要りません。条文を、見てみましょう。
条文民法120条1項
民法 第百二十条(取消権者) 行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者(他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為にあっては、当該他の制限行為能力者を含む。)又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。
今日、注目してほしいのは、最初に挙がっている、「制限行為能力者」——つまり、未成年者、本人です。未成年者、自身が、取消しをする側にも、含まれています。だから、あの十六歳は——法定代理人の、同意を得ずに、一人で——「さっきのスマホの契約、取り消します」と、伝えることが、できます。しかも、意思能力——前に見た、判断できる力さえ、あれば——この取消しは、確定的に、有効です。ここで、一度、考えてみてください。同意という保護は、何のために、あるのでしょうか。不利な契約を、結ばされないための、保護でした。では、契約を、取り消す、という行為は——未成年者にとって、危険な行為でしょうか。
取消しは、本人を、害しません。危ない橋を渡っているのは、契約を、結ぶ側であって——契約を、消す側では、ないんです。ここで、もう一つ、聞いてみます。その十六歳が、翌日、こう言ったら、どうなるでしょうか。「やっぱり、さっきの、取消しを、取り消したい」。実は、できません。ここで取り消したい、と言っているのは——契約ではなく、さっきの、「取り消します」という意思表示のほうです。一度、確定的に有効になった、取消しの意思表示は——もう、取り消せないんです。理由は、さっきと、同じです。取消しの意思表示を、取り消してしまうと——消えたはずの、危ない契約が、また、生き返ってしまいます。
だから、取消しの意思表示は、取り消せません。ただし、逃げ道は、あります。もう一度、新しく、スマホの契約を、結び直すことは、できます。ただし、その新しい契約にも——今度も、同意が、要ります。振り出しに、戻るだけです。
身分行為——本人の意思、そのものを、尊重する
図:身分行為(認知/養子になる/遺言)+本人の意思の尊重+婚姻は今は十八歳から
四つ目、もう半分——身分行為に、進みましょう。親子や、夫婦といった、身分に関わる、行為のことです。ここまでの、二つの理由とは——また、まったく、別の理由で、同意が、要らなくなります。営業は、あらかじめ、まとめて、同意が渡してあるから。取消しの意思表示は、本人を、害さないから。身分行為は——本人の意思、そのものを、尊重すべき、場面だから、です。誰を、自分の子として、認めるか。誰と、親子になるか。誰に、遺産を、遺すか。これらは、大人が、代わりに決めていい話では、ないんです。具体的に、見ていきましょう。まず、認知です。
認知は、胎児の話で、一度、出てきました。あのときは、父のほうが、まだ生まれていない、子を、認知する話でした。今日は、逆です。未成年者、自身が——自分の、子を、認知する、場合です。たとえば、十七歳の、高校生に、子どもが、生まれたとします。その子を、自分の子だと、認める。これが、認知です。780条という条文が、あります。この条文が、定めているのは——「認知をする側が、未成年者や、成年被後見人でも——法定代理人の、同意は、要らない」という、ルールです。そこが、大事なところです。この条文は、「何歳から」を、決めているのでは、なくて——「同意が、要らない」ということを、定めています。前回、未成年者の縛りは、「できない」ではなく、「同意が、要る」という形でした。
認知には、年齢を決めた条文も、別にありません。だから、結果として、認知には、年齢の制限が、ありません。次に、養子です。797条という条文が、あります。この条文が、書いているのは——「養子になる人が、十五歳より、下のときは——法定代理人が、代わりに、承諾できる」という話です。裏を返すと——十五歳以上なら、自分で、決められます。ただし、一つ、注意が、要ります。未成年者を、養子とすること、そのものには——原則として、家庭裁判所の許可が、別に、要ります。今日は、そこまでで、止めておきます。最後に、遺言です。961条により、十五歳になれば、遺言が、できます。
なぜ十五歳なら同意なしでできるのか——実は、962条という、別の条文が、理由です。5条というのは——未成年者の契約に、法定代理人の同意が要る、という、あの原則の条文でした。その962条が、遺言については、この5条を、適用しない、と定めています。5条が、外れているから——同意という、話自体が、そもそも、出てこないんです。詳しくは、また、別の回で、扱います。さて、認知、養子、遺言、この三つに——共通しているのは、本人の意思、そのものを、尊重する、という考え方でした。婚姻について、実は、古い教材には——「未成年者の婚姻には、父と母の同意が、要る」と、書いてあります。
ですが、今は、事情が、変わりました。婚姻は、今、十八歳から、しか、できません。だから、「父と母の同意が、要る」という規定も——そして、結婚すると、大人として、扱われるという規定も——どちらも、削除されました。もし、手元に、古い問題集が、あったら——この点も、気をつけてください。
法定代理人が、代理した場合
図:法定代理人が代理した場合(そもそも未成年者がしていない)+確定的に有効
ここまでは、未成年者、自身が、行為をする話でした。最後に、もう一つ、別の場面を、見ておきましょう。法定代理人が、未成年者に、代わって、契約する場合です。例えば——親が、子ども名義で、学習用の、パソコンを、買ったとします。契約したのは、子どもでは、ありません。これは、そもそも、未成年者が、していない行為です。親権者や、未成年後見人には——未成年者を、代理する、権限が、あります。この権限に基づいて、法定代理人が、結んだ契約は——確定的に、有効です。ここまで見てきた、営業や、取消しの意思表示、身分行為とは——少し、違うことに、気づきましたか。
ここが、大事な、区別です。今まで見てきた例外は、全部——未成年者、自身が、行為をしていました。でも、法定代理人が、代理した場合は——そもそも、未成年者は、何も、していません。だから、これは、例外の、並びには、入れません。「未成年者がしていない行為だから、当然、確定的に有効」——というだけの、話です。
守る側が持つ道具は、四つ
図:守る側の四つの道具(代理権/同意権/取消権/追認権)+同意権と代理権は併存
では、ここまでの話を、法定代理人の側から、まとめ直しましょう。未成年者を守るために、法定代理人が、持っている道具は——全部で、四つ、あります。一つずつ、見ていきましょう。一つ目は、代理権です。さっき見た、「子ども名義で、パソコンを買う」——あの権限です。未成年者に、代わって、自分で、契約します。二つ目は、同意権です。前回見た、5条1項の、あの、同意です。契約の、前に、「いいよ」と、許可を与える、権限です。三つ目は、取消権です。今日、120条1項で見た、あの、権限です。同意なく結ばれた契約を、あとから、消す、権限です。
四つ目は、追認権です。取り消せる契約を、あとから、「もう、これで確定でいい」と——有効に、確定させる、権限です。詳しい中身は、この先の回で、扱います。今日は、名前と、働きだけ、押さえてください。さて、この四つ、並べてみましょう。まず、「いつ、働くか」で、分けられます。同意権と、代理権は、契約の、前に、働きます。取消権と、追認権は、契約の、後に、働きます。ただし、一つだけ——この分け方に、きれいには、収まらない道具が、あります。代理権です。同意権・取消権・追認権は、どれも——未成年者本人が、した行為を、有効にしたり、消したりする、権限です。でも、代理権だけは——未成年者に、代わって、法定代理人自身が、行為をする、権限です。
ここは、無理に、そろえません。三つは、事前・事後で、きれいに、並びますが——代理権だけは、少し、性質が、違う、と覚えておいてください。最後に、もう一つ、大事な、関係が、あります。同意権と、代理権は、両方とも、いつでも、使えます。「この契約は、していいよ」と——同意を、与えた後で、結局、親が、代わりに、契約しに行くことも——できます。二つは、併存します。
今日の地図(保存版)
図:まとめ(理由が違う三つ)+四つの道具+次回への送り
今日、見てきたことを、まとめましょう。同意が要らなくなる理由は、前回の二つに、加えて——まだ、三つ、ありました。では、取消しの意思表示は、どうでしたか。そして、身分行為は、どうでしたか。まとめて渡してある同意、本人を害さないこと、本人の意思の尊重——理由が違えば、効き方も、違いました。そして、これを、守る側から見ると——法定代理人は、代理権・同意権・取消権・追認権という——四つの道具を、持っていました。今日で、未成年者の話は、ここまでです。この先は、残りの、三人に、入っていきます。成年被後見人、被保佐人、被補助人です。それぞれ、要件も、保護者の権限も、違います。相手方の保護や、取り消したあとの効果、追認の詳しい話も——これから、順に、扱っていきます。親子や、婚姻、養子縁組の、詳しい要件も——別の章で、扱います。
最後に、一つだけ、開けておきます。今日、守る側の道具は、四つある、と言いました。この四つのうち——次に扱う人には——一つが、無いんです。
参照条文
- 民法6条1項・2項
- 民法120条1項