民法 ゼロから民法#2

権利能力・意思能力・行為能力(前編)

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第1章 民法総則 ②/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

3つの能力の全体像 〔短答・論文共通〕

まず縦糸を渡します。「能力」は3つの層に分かれています。層1——権利能力。権利義務の主体になれる地位。「持てるか」の層。層2——意思能力(いしのうりょく)。その場の判断力。「今わかってるか」の層。層3——行為能力(こういのうりょく)。定型ルールで守るか。「制限=取消し」の層。映画館で例えます。チケットを「持てる」こと自体が権利能力。赤ちゃん名義のチケットも存在しますよね。次に、今その人が上映内容を理解できるか——それが意思能力。泥酔して爆睡している人は、内容を理解していません。そして「13歳以下は保護者同伴」という館のルール——それが行為能力。一人ひとりの理解度を毎回確かめる代わりに、年齢という定型で線を引く。

この図を見てください。3層の階段です。権利能力(器)→ 意思能力(実体の判断力)→ 行為能力(定型の外枠)。意思能力が”実体”、行為能力はそれを取引安全と両立させる”外枠”です。「あの時、本当に判断力があったか」を毎回争うのは難しい。だから後見・保佐・補助の登記という”外から見てわかる線”を引いた。それが行為能力制度の趣旨です。だから「20歳未満は不可」と年齢で定型的に線を引く。同じ発想です。

権利能力 〔短答〕

では層ごとに見ていきます。まず「権利能力」。定義:権利義務の主体たりうる資格のこと。生きている人間なら、赤ちゃんも認知症の人も全員もっています。「持てるか」と「今わかってるか」は別の層だからです。では始期(いつから始まるか)。

民法3条1項全文

民法3条1項。「私権の享有は、出生に始まる。」出生とは——母体から「全部露出(ろしゅつ)」したとき、が民法の通説です。赤ちゃんが母体の外に完全に出た時点、という意味です。刑法は「一部露出説」——頭などが出た時点で「人」として保護します。同じ「出生」でも分野によって違う。短答の落とし穴です。なお出生届は無関係。届出の有無で権利能力は変わりません。

原則はそう。3条1項の反対解釈で、胎児には権利能力がない。ただし例外が4つあります。

①不法行為に基づく損害賠償——721条。②相続——886条1項。③遺贈(いぞう)——965条・886条。④母の承諾がある認知(にんち)——783条1項。この4つだけ「すでに生まれたものとみなす」という特例があります。胎児の保護を特に重視する場面として、立法者が個別に列挙したんです。交通事故で亡くなった父の損害賠償を、まだ生まれていない子が引き継げる——721条がなければそれができない。だから例外を設けた。886条1項はまさにそれです。では学説の対立——胎児の段階で母親が代理できるか、という問題。

2つの考え方があります。まず停止条件説——これが判例(大判昭7・10・6)の立場。胎児の段階では権利能力はない。だから母は代理できない。生きて生まれて初めて、遡(さかのぼ)って権利能力が発生する。条件が成就(生まれる)して初めて動き出す。一方、解除条件説——我妻(わがつま)・川井(かわい)ら有力説。こちらは、胎児の段階からすでに権利能力がある。だから母は代理できる。死産だったら遡って権利能力が消えた(解除された)ことになる。停止条件説はこうです——席は用意されているけど、座れる(権利を行使できる)のは生まれてから。生まれる前に母親が代わりに座る(代理する)ことはできない。それが停止条件説の弱点で、解除条件説が支持される理由の一つです。違いのポイントは「死産の可能性」をどう評価するか。

続いて終期——権利能力はいつ終わるか。明文はありませんが、通説は「心臓停止」時点。死亡したときです。失踪宣告は死亡したものと「みなす」だけで、権利能力自体は消えません。失踪宣告の詳細は別の回で扱います。次に——複数の人が同時に亡くなった場合の話をします。

民法32条の2全文

民法32条の2——同時死亡の推定です。「数人の者が死亡した場合において、そのうちの一人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、これらの者は、同時に死亡したものと推定する。」誰が先に亡くなったかで相続の内容が変わります。だから先後不明なら「同時に死亡した」と推定する。

ここが短答の罠——「推定」と「擬制(ぎせい)」は違います。推定=わからないときこうなる、でも反証(証拠)で覆せる。擬制(みなす)=事実に反しても絶対こうなる、反証不可。32条の2は「推定」なので、実は先後関係を証明できれば覆せます。失踪宣告(31条)は「みなす」——こちらは反証不可の擬制です。

意思能力 〔短答・論文共通〕

次の層——「意思能力」です。定義:法律行為の結果を理解するに足る精神能力のこと。幼児・重度の認知症の人・泥酔者はこれを欠く、とされています。

民法3条の2全文

民法3条の2——「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。」効力が最初から生じない。これが意思無能力の効果です。ここに「取消的無効」という考え方があります。

意思無能力による無効は、表意者側だけが主張できる、という見解が有力。相手方から「あの契約は無効だ」とは言えない。弱者を保護するための無効だから。相手方に使わせては意味がない。一方、公序良俗違反(90条)の無効は「確定無効」——誰でも主張できます。この区別は重要です。次のセクションで「取消し」と対比するので、頭に入れておいてください。

行為能力とは(総論) 〔短答・論文共通〕

では3つ目の層——「行為能力」の総論です。まず定義。論文で書ける形で覚えてください。

単独で確定的に有効な法律行為をする能力」。「確定的に有効な」というのは、あとで取り消されない、ということ。行為能力が「制限」されると——単独では確定的に有効にできない、となります。①未成年者 ②成年被後見人(せいねんひこうけんにん)③被保佐人(ひほさにん) ④同意を要する審判を受けた被補助人(ひほじょにん)。② ③ ④は後編で詳しくやります。4類型に共通する効果——それが「取消し」です。

そう——これが本テーマ最大の罠です。制限行為能力者の行為=取消し。意思能力のない者の行為=無効。似て見えますが、層が違います。鉛筆と白紙で考えてください。取消し=鉛筆で書いてある答案。一応読める(一応有効)。でも消せる(取り消せる)。無効=最初から白紙。何も書かれていない(はじめから効力なし)。消すまでは有効。消したら遡(さかのぼ)って無効になる。一方、意思無能力者の契約は、最初から白紙。誰も「書いてある」と主張できない。そういう人が取引した場合——取消しと無効、どちらを主張してもよい。これを「二重効」といいます。通説は肯定説(どちらも保護制度だから)。短答で「二重効はダメ」という引っかけが出るので注意してください。

未成年者(5条・6条) 〔短答・論文共通〕

では4類型の1つ目——「未成年者」です。原則は——法定代理人(ほうていだいりにん)の同意が必要。同意なしにした法律行為は、取り消せます。親権者(818・819条)、または未成年後見人(838条1号)です。では条文全文を確認します。

民法5条1〜3項全文

民法5条1項——「未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。」2項——「前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。」3項——「第一項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。」ただし「単に」というのがポイントです。例えば——親戚から無条件でゲーム機をもらう場合。義務なし、負担なし。これは「単に権利を得る」行為なのでOK。×です。「もらう」と同時に「ローンを払う」という義務が生じる。「単に権利を得る」とは言えないので、同意が必要です。これも×です。弁済を受け取ると、相手方の債務(借金)が消えてしまう。債権(請求できる権利)が消えるので「義務を免れる」行為ではない。

次に5条3項——処分を許された財産の処分。例えば親が「旅行代に使いなさい」と渡したお小遣い。これは「目的を定めて処分を許した財産」——その範囲内で自由に使えます。「自由に使っていい」と渡したお小遣い——こちらも自由に処分できます。3項の後半「同様とする」がそれです。

次に6条——許可された営業に関する行為。

民法6条1項全文

「一種又は数種の営業を許された未成年者は、その営業に関しては成年者と同一の行為能力を有する。」重要なのは「一部だけの許可は不可」ということ。「仕入れだけ許可」「販売だけ許可」は認められません。営業の許可は全部か無しかです。未成年者が半端な権限で取引の場に立つと、かえって危険だからです。全体の流れを把握した状態で独立させる、という発想です。

もう1つ——取消し自体と、身分行為(みぶんこうい)について。取消し自体は、単独でできます(120条)。身分行為のうち認知(にんち)は15歳以上で単独可(780条)。遺言(いごん)も15歳から単独で書けます(961条)。身分行為は代理になじまない——本人の意思で決めるべきもの、という考えです。これらの例外は、後の親族相続の回でも出てきます。名前だけ今は押さえてください。

まとめ+次回予告 〔短答〕

保存版としてまとめておきます。3層の能力——権利能力=持てる・全員・始期は出生(全部露出)。意思能力=今わかってる・なければ無効(3条の2)。行為能力=定型で守る・制限されると取消し。721条・886条・965条・783条。「生まれたものとみなす」の4つ。判例(大判昭7・10・6)は停止条件説——生まれるまで母は代理不可。推定=反証可、擬制(みなす)=反証不可、の区別は必ず。未成年者は——原則=同意が必要(5条1項)、同意なしは取消し(5条2項)。例外=①単に権利を得・義務を免れる ②処分許可(5条3項)③営業許可(6条1項、全部か無しか)④取消し自体・身分行為・遺言(15歳から)。

最後に——本テーマの地図を3回目で固定します。制限行為能力者の行為=取消し(一応有効・あとで消せる鉛筆)意思無能力者の行為=無効(最初から白紙)。二重効肯定(どちらも主張可)——通説。残り3類型——成年被後見人・被保佐人・被補助人を解説します。成年被後見人は「後見人が同意してもなお取り消せる」——未成年者とは違います。被保佐人と被補助人は「原則は単独で有効・例外だけ同意が要る」——原則と例外が逆。だから前後編に分けました。相手方保護(催告権20条・詐術21条・期間制限126条)、そして法定代理人の4つの権限と「誰が取り消せるか」も後編で表にして、じっくり整理します。お楽しみに。

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