会社は「人」である——法人格という、一本の線
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第1章 民法総則 ㉒/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
今日の地図——後回しにしていた、もう一種類の「人」
図:今日の地図(一本の線を五つの角度から見る予告)+前回の想起
少し、前の話を振り返っておきます。以前、権利を持てる資格の話をしたとき——「人には、二種類ある」と言いました。生きた人間、自然人と、もう一つ。前に一度出てきましたが、思い出せますか?……法人、です。今日は、その”もう一つ”——法人の中身に入ります。今日、配るのは、これです。会社のような団体と、それを作っている人たちとの間に、法が引く一本の線です。この線を、五つの角度から見ていきます。なぜ引くのか。誰が引けるのか。いつ引かれるのか。線の中身は何か。そして——線を越えて、お金は戻るのか。バラバラに見えて、実は全部、同じ一本の線の話です。冒頭のパン屋さんの答えも、この線で、もう一度、説明できます。順番に、見ていきましょう。
山場——線が無いと、どうなるか
図:サークルのカメラの三つの不都合(帰属が動く/持っていかれる/請求先が定まらない)
まず、線が無い世界を、見てみましょう。大学の写真サークルが、部費を出し合って、三十万円のカメラを買いました。これは、誰の物でしょうか。部員みんなの物になります。でも、それだけでは済まない問題が、三つあります。三つとも、根っこは一つです。カメラの持ち主が、サークルではなく、部員一人一人だからです。一つ目。部員が一人入れ替わるたびに、このカメラの持ち主は、どうなるでしょうか。あっ……そのたびに、帰属が動きそうですね。二つ目。部員の一人が個人の借金を抱えていたら——その人の持ち分だけ、カメラごと持っていかれる、ということが起こりえます。
三つ目。カメラが壊れて修理代を請求したいとき、相手は誰でしょうか。部員全員に、一人ずつ請求するんでしょうか。それは面倒ですし、誰か一人が払わなかったらどうなるのかも気になります。帰属も、責任も、請求先も——全部、宙に浮いたままなんです。ルールを決めても、それは部員同士の約束にすぎません。約束は、結んだ人どうしの間でしか効かないからです。修理業者や、お金を貸した人には、その約束は及びません。
線を引くと、何が変わるか
図:法人格の三つの効き目
- 財産の分離
- 同一性の維持
- 相手が一つに定まる
- パン屋の答え合わせ
では、こう考えてみましょう。部員の一人を、代表として名義人にしてしまう、という案です。実は、それでも根っこの問題は残ります。名義人になった、その部員自身が入れ替わったら、どうなるでしょうか。あっ……結局また、帰属が動きますね。その人の個人の借金でも、やはり持っていかれかねません。必要なのは、部員とは別の”ひと”を新しく作ることなんです。では、ここに、線を引いてみましょう。カメラを買ったのが、サークルという”ひと”だった、としたらどうでしょうか。すると、三つのことが起きます。一つ目。財産も借金も、団体の側に乗ります。部員個人からは切り離されます。
カメラは、部員個人の財産ではなく、団体の財産だからです。二つ目。部員が入れ替わっても、団体そのものは同じまま続きます。サークルという団体そのものは、変わらず存在し続けます。三つ目。修理代を請求する相手は、団体一つに定まります。窓口が一つになります。実は、冒頭のパン屋さんの答えも、これと同じです。会社という”ひと”が、契約の相手であり、オーブンの持ち主でもある。だから、社長が辞めても契約は変わらず、社長が破産してもオーブンは無事だったんです。これが、法人格という制度の、一番の値打ちです。
本質論は、正直に薄い
図:擬制説と実在説の名前だけの板+なぜかつて争われたか
ここで、一つだけ、理屈の話をしておきます。そもそも、なぜ法人という団体が、権利や義務を持てるのか——この問いには、昔から学説の対立があります。正直に言うと、ここは、試験でも実務でも、あまり重みのない論点です。大きく二つあって、法が便宜のために作った”つくりもの”だとする考え方と——法人にも実体があるとする考え方です。前者を擬制説、後者を実在説と呼びます。今、有力なのは実在説のほうです。名前だけ、知っておいてください。不法行為は、前に一度見ましたね。故意や過失で他人の権利を侵害し、賠償させる枠組みです。かつて激しく争われたのは——法人自身が不法行為をできるのかどうか、といった結論を——この理屈が左右すると考えられていたからです。
今は深入りせず、次に進みましょう。
山場——この線は、当事者では引けない
図:法人法定主義の板(当事者の合意だけでは線を引けない理由)
では、一つ聞いてみます。友達数人で集まって、「今日から、私たちは法人です」と決めたら——法人になれるでしょうか。実は、決めただけでは法人になれません。この条文を見てください。
条文民法33条
民法 第三十三条(法人の成立等) 法人は、この法律その他の法律の規定によらなければ、成立しない。 2 学術、技芸、慈善、祭祀、宗教その他の公益を目的とする法人、営利事業を営むことを目的とする法人その他の法人の設立、組織、運営及び管理については、この法律その他の法律の定めるところによる。
当事者が決めるだけでは、線は引けません。公益を目的とする法人も、営利を目的とする法人も——結局、この法律の外にある別の法律で規律される、と言っているだけです。ここで、一つ聞いてみます。なぜ、当事者の合意だけでは、線を引けないのでしょうか。ここが今日、最初の理由づけです。この線は、線の中にいる自分たちのためだけの線ではありません。線の外にいる人、つまり取引の相手や、お金を貸した人にこそ、効いてきます。外の人が引き受ける不利益を、当事者だけの合意で——勝手に作り出させるわけにはいきません。だから、法律で定められた形でなければ、線は引けないんです。以前、物権の種類は法律が決めたものだけ、と話しましたね。理由は同じです。
実は、さっきの写真サークルも、まさにこの状態です。法律の定める形を踏んでいない以上——「今日から法人です」と部員だけで決めても、線は引かれません。自由には決められない、ということなんです。何の扱いも受けないわけでは、ありません。法人にはなっていなくても、団体として扱われる場面があります。これを、権利能力なき社団といいます。今日は名前だけです。中身は、この先の回で正面から扱います。では、法律は、どんな形でこの線を引かせているのでしょうか。
役所は、どこまで口を出すか
図:設立方式の一軸板(役所の関与が強い順・両端から埋める)
線を引く力を、法律がどれだけ役所に預けるか——ここには幅があります。外の世界に与える影響の大きさが、団体ごとに違うからです。まず、両端から見てみましょう。一方の端は、役所の裁量で、許すかどうかを決める形です。これを許可といいます。かつての民法上の法人は、この形でした。もう一方の端は——法律が決めた要件さえ満たせば、役所の裁量なしに当然に成立する形です。今の株式会社や、一般社団法人は、この形です。実は、この間にも、いくつか形があります。次は、今の許可に、間にある認可と認証を並べて、三つを聞き分けます。ちなみに、理屈のうえでは、もう一つの型がありますが、試験では、ほぼ出てきません。
山場——許可・認可・認証は、別のもの
図:許可・認可・認証の弁別板(裁量で判断/要件を満たせば必ず/形だけを確認)
「許可」「認可」「認証」——字面も読み方も似ていますが、中身はまったく別のものです。一つずつ確認しましょう。「許可」は、役所が、裁量で判断します。要件を満たしていても、断られることがあります。かつての民法上の法人が、まさにこの形でした。「認可」は、要件を満たせば、必ず認められます。裁量はありません。学校法人が、この形の例です。教育の質を守る最低限の基準はありますが、それ以上の裁量は要らないからです。「認証」は、中身の当否ではなく、形が整っているかだけを、役所が確認します。整っていれば、それで足ります。宗教法人や、NPO法人が、この形の例です。
信教の自由や、市民の自主的な活動を、萎縮させないためです。この三つを、聞き分けてください。一つ確認です。許可と認可、裁量が無いのはどちらでしょうか。裁量が無いのは、認可のほうです。よく整理できていますね。許可は、制度が変わる前の、民法上の法人が採っていた形です。当時は、法人にしてよい団体かどうかを、国の側が選んでいました。その「選ぶ」が、そのまま裁量として残っているんです。では、今の会社や一般法人が採っている——役所の裁量が一切入らない形は、何と呼ぶのでしょうか。
山場——登記して、初めて生まれる
図:設立の三段板
- 定款→認証・認可など→登記=成立
- 36条には成立と書いていない注記
それが、準則主義です。法律の決めた要件を満たして、登記さえすれば当然に成立します。その”登記”について、一つ確かめておきたいことがあります。条文番号だけを覚えて、「三十六条に、成立すると書いてある」と思い込んでいませんか。実際に、条文を見てみましょう。
条文民法36条
民法 第三十六条(登記) 法人及び外国法人は、この法律その他の法令の定めるところにより、登記をするものとする。
この条文が定めているのは、登記をする”義務”だけです。では、「登記をすることによって成立する」と定めているのは、どの条文でしょうか。実は、別の法律です。
条文会社法49条
会社法 第四十九条(株式会社の成立) 株式会社は、その本店の所在地において設立の登記をすることによって成立する。
条文一般法人法22条
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律 第二十二条 一般社団法人は、その主たる事務所の所在地において設立の登記をすることによって成立する。
民法の三十六条は、登記をする義務の根拠。「成立する」という結論を書いているのは、会社法や一般法人法のほうです。だからこそ、条文を実際に見て、切り分ける必要があるんです。では、なぜ、登記でなければならないのでしょうか。もう一歩、踏み込んで考えてみましょう。この線は、線の外にいる第三者にこそ効く、という話をしましたね。第三者に効く線は、第三者が確認できなければ意味がありません。団体の基本ルールを書いた文書を、定款といいます。その定款を作っただけでは、外からは見えませんよね。登記こそが、線が引かれたことを、外の世界に示す瞬間なんです。
登記簿を見れば、誰でも、その団体が法人かどうか確認できます。団体の名前や、事務所の場所、代表者の名前などです。だから、線は口約束では終わらないんです。だから、冒頭のパン屋さん——株式会社モリタベーカリーも——登記された、その瞬間から、社長さんとは別の”ひと”になっていたんです。三十三条が”誰が”を、三十六条とその先が”いつ”を担当しています。条文ごとに、担当している角度が違うんです。
線の中は、人の集まりか、財産の集まりか
図:社団と財団の対比板(意思決定の源が今いる社員か・もういない設立者の意思か)
さて、線が引かれた後、その中身にも二つの型があります。人の集まりか、財産の集まりか、です。具体例で考えてみましょう。亡くなった祖父が、「若い音楽家を、毎年三人、支援してほしい」と言って、三億円を遺したとします。この場合に作られるのが、財団です。ここで一つ聞いてみます。「三人でいいのか、五人に増やそうか」——これを誰が決めるのでしょうか。財団には、そもそも社員がいません。社員という言葉が、紛らわしいところです。法律でいう社員は、その団体を作っている構成員のこと。そこで働いている人のことでは、ありません。決めるのは、定款に書かれた祖父の意思です。
理事は、その意思を実行する係にすぎません。これが、社団だったら、どうでしょうか。社団なら、今いる社員が集まって、決め直すことができます。財団には、そもそも社員という仕組み自体がありません。あるのは、定款に書かれた設立者の意思と、それを実行する理事だけです。
山場——営利とは、儲けることではない
図:「儲ける」と「配る」の対比板(日常語の営利と法律上の営利のズレ)
ここから、もう一つの角度——お金の話に入ります。一般社団法人「まちの学び舎」が、講座を開いて、年間五百万円の黒字を出しました。実は、違法ではありません。儲けること自体は、問題ありません。ここが、今日、一番の誤解ポイントです。法律の言う「営利」は、儲けることそのものではありません。儲けを、構成員に分配することです。「まちの学び舎」が黒字を出しても——その黒字を、会員個人の懐に戻さない限り、何の問題もありません。会社は、儲けを株主に分配することを前提にした法人です。職員さんへのお給料は、もちろん大丈夫です。
お給料は、分配にはなりません。働いたことへの対価だからです。分配というのは、働いた分とは関係なく、構成員だからという理由だけで利益を渡すことです。そして、その分配というのは——団体に乗せたはずのお金が、線をまたいで、構成員の側へ帰ることです。お金が戻る道を開けておくのが営利法人、閉じておくのが非営利法人です。
山場——同じ「無効」が、正反対を向いている
図:対称の無効板(株式会社は与えないと無効/一般社団法人は与えると無効)
では、ここで一つ聞いてみます。「まちの学び舎」が、さっきの五百万円を、会員十人で五十万円ずつ分ける——と定款に書いたら、どうなるでしょうか。実は、この定めは無効です。
条文一般法人法11条2項
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律 第十一条(定款の記載又は記録事項)第二項 社員に剰余金又は残余財産の分配を受ける権利を与える旨の定款の定めは、その効力を有しない。
分配を受ける権利を与える定めそのものが、効力を持ちません。剰余金は、その年の儲けのうち、手元に残った分。残余財産は、団体をたたんだときに残る財産のことです。では、逆の場合も見てみましょう。株式会社の定款に、「株主には、配当も残余財産も、一切分配しません」と書いたら——どうなるでしょうか。実は、こちらも無効です。
条文会社法105条
会社法 第百五条(株主の権利) 株主は、その有する株式につき次に掲げる権利その他この法律の規定により認められた権利を有する。 一 剰余金の配当を受ける権利 二 残余財産の分配を受ける権利 三 株主総会における議決権 2 株主に前項第一号及び第二号に掲げる権利の全部を与えない旨の定款の定めは、その効力を有しない。
線を越えて、お金が個人に戻る道——株式会社では必ず要り、一般社団法人では絶対に許されません。一つ、注意してほしいことがあります。株式会社が求められているのは、配当を受け取る”権利”を与えることであって——実際に、毎年配当を出すことまでは求められていません。権利があることと、実際に使うことは、別の話です。もう一つ、条文の言葉をよく見てください。無効になるのは「全部を与えない」定めです。配当だけを与えない、という定款は、この条文では無効になりません。求められているのは、線を越える道が全部は閉じていないこと。ここが、今日、一番の深いところです。「営利」と「非営利」の分かれ目は、この一枚の対称にこそ、はっきり出ています。ちなみに、財団のほうにも、同じ発想の規定があります。一般財団法人でも、設立者に分配を約束する定めは、無効です。
もう一つ確認しておきましょう。なぜ、ここまで厳格に絶対に許さないのでしょうか。もし、一部の非営利法人だけ分配を認めたら、非営利という区分そのものが意味を失います。だから、例外なく絶対に許されない、という強い定め方をしているんです。株式会社が必ず与えなければならない理由は、こうです。さっき、会社は分配を前提にした法人だ、と言いましたね。その前提を、定款で自分から消してしまうことになるからです。最後に、一つ確認です。配当を受け取る権利を、必ず与えなければならないのは——株式会社と一般社団法人、どちらでしょうか。
必ず与えなければならないのは、株式会社のほうです。
公益法人は、公益目的の法人ではない
図:公益の二階建て構造(一般法人として成立→行政庁の公益認定→公益法人)
ここで、もう一つ、よくある誤解を崩しておきます。「NPO法人って、公益法人ですよね」——こう聞かれたら、どう答えますか。実は、NPO法人は、公益法人ではありません。公益法人とは、公益社団法人と、公益財団法人のことです。そして、この二つには、大事な順序があります。
条文公益認定法2条1号〜3号・4条
公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律 第二条(定義)第一号〜第三号(抜粋)・第四条 一 公益社団法人 第四条の認定を受けた一般社団法人をいう。 二 公益財団法人 第四条の認定を受けた一般財団法人をいう。 三 公益法人 公益社団法人又は公益財団法人をいう。 第四条 公益目的事業を行う一般社団法人又は一般財団法人は、行政庁の認定を受けることができる。
つまり——まず、一般社団法人として、準則主義で成立します。そのあとで、行政庁の公益認定を受けて、初めて「公益」を名乗れます。一階に一般法人があって、二階に公益という認定が乗る——そういう作りです。公益認定は、線を引く話ではなく——すでに引かれた線の外から、行政庁が評価する話なんです。公益法人になると、税金の面で優遇を受けられます。だからこそ、まず普通の法人として実績を積ませ——そのうえで、行政庁が中身を確かめてから認定するという仕組みなんです。公益とは、名乗れません。認定を受けるまでは、あくまで一般社団法人のままです。NPO法人は、また別の法律に基づく法人で、今の「公益法人」には当たりません。
その他の法人と、「公法人」という言い方
図:その他の法人一覧(特別法による非営利法人/相続財産法人/公法人)
最後に、名前だけ、いくつか押さえておきます。農業協同組合や、労働組合のように、特別な法律で作られる非営利法人も、たくさんあります。これらは、今日は名前だけで十分です。もう一つ、変わった法人があります。ある人が亡くなって、相続人がいるかどうか明らかでないとき——その財産自体が、法人になります。
条文民法951条
民法 第九百五十一条(相続財産法人の成立) 相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。
相続人を探す手続きの詳しい話は、別の回に譲ります。最後にもう一つ。地方公共団体も、実は法人です。「公法人」と呼ばれます。詳しくはこの講座の範囲を超えますが、名前だけ知っておいてください。市役所という団体と、住民一人一人は、別の”ひと”として扱われます。
今日の地図(保存版)
図:まとめ板(なぜ/誰が/いつ/中は何か/越えられるか、を一本の線で束ねる)
今日、見てきたことを、一つにまとめましょう。法人格とは、団体と、それを作っている人たちとの間に、法が引く一本の線でした。線が無いと、帰属も責任も宙に浮きます。誰が引けるのか——当事者だけでは引けません。この線は、線の外にいる人にこそ効くからです。線が引かれるのは、登記された、その瞬間です。三十六条は義務だけを定め、「成立する」は会社法や一般法人法が定めていました。社団は今いる人が決め、財団はもういない人の意思が決めます。そして——線を越えて、お金は戻るのか。株式会社では必ず要り、一般社団法人では絶対に許されない。この一枚の対称が、営利と非営利の分かれ目でした。
今日、線を引きました。では、その線の中で、法人は何をしてもいいのでしょうか。あっ……そこまでは、まだ聞いていません。線の中の自由にも、実は外枠があります。それは、次の話にしましょう。
参照条文
- 民法33条
- 民法36条
- 会社法49条
- 一般法人法22条
- 一般法人法11条2項
- 会社法105条
- 公益認定法2条1号〜3号・4条
- 民法951条