民法ゼロから民法#26

法律行為の成立要件と客観的有効要件

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第1章 民法総則 ㉖/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

生まれたか——効くに値するか

契約が効くまでの関門のうち最初の二つを取り出した目盛り板(生まれたか=成立/効くに値するか=有効)+民法は必ずこの順に検討する 図:契約が効くまでの関門のうち最初の二つを取り出した目盛り板

  • 生まれたか=成立
  • 効くに値するか=有効
  • 民法は必ずこの順に検討する

その前に、一つだけ確かめさせてください。以前、契約が効くまでには関門がある、という地図をお渡ししました。今日は、そのうち最初の二つだけを使います。思い出してみてください。最初の二つは、それぞれ何を問うものでしたか?一つ目は、契約が生まれたかどうか。二つ目は、生まれた契約が効くに値する中身かどうかです。一つ目が成立の関門、二つ目が有効の関門です。大事なのは、この二つが別々の問いだということです。その不思議さが、今日の中身そのものです。もう一つ。民法はこの二つを、必ずこの順に検討します。まず生まれたかを見て、生まれていれば効くかを見ます。生まれていないものに、有効かどうかを問う意味はありません。

では、一つ目の関門から見ていきます。

契約は、外から見て噛み合えば生まれる

契約が生まれる原則の板(申込みと承諾が噛み合えばそれだけで生まれる・見るのは外に出た言葉だけ)+だからほとんどの約束は生まれてしまう 図:契約が生まれる原則の板

  • 申込みと承諾が噛み合えばそれだけで生まれる・見るのは外に出た言葉だけ
  • だからほとんどの約束は生まれてしまう

契約が生まれる条件は、拍子抜けするほど簡単です。申込みと承諾が噛み合えば、それだけで生まれます。契約書も、お金のやりとりも、握手も要りません。これを諾成の原則と呼びます。諾成というのは、承諾するだけで成立する、という意味です。合致の意味も、一度お話ししています。あのとき、噛み合っているかを見るのは外に出た言葉だけ、という線まで行きました。ここから、大事な帰結が出ます。外しか見ないということは、成立の関門がほとんど誰も止めないということです。実際、契約が成立したかどうかで争われる場面は多くありません。

ここが今日いちばんの土台です。止める仕事は、全部そのあとに回されています。つまり、二つ目の関門——効くに値するかどうかの側です。だから民法は、成立の話が薄く、有効の話が分厚いんです。もっとも、成立してもすぐには効かない場合があります。判断する力を欠いた状態で結んだ約束や、後見が付いている人の約束です。ただ、あれは人の側の問題で、今日扱う中身の側とは別の関門です。

二つの例外——渡して初めて、書いて初めて

諾成の原則に対する二つの例外(要物=消費貸借587条・質権設定344条・手付557条1項/要式=保証446条2項)+どちらも軽率な約束から人を守るという同じ動機 図:諾成の原則に対する二つの例外

  • 要物=消費貸借587条・質権設定344条・手付557条1項
  • 要式=保証446条2項
  • どちらも軽率な約束から人を守るという同じ動機

諾成が原則ですが、例外が二種類あります。一つ目は、合意だけでは生まれない契約です。物を実際に受け取って、初めて生まれます。お金の貸し借りも、受け取って初めて成立します。条文にも「受け取ることによって」効力を生ずる、と書いてあります。こういう契約を、要物契約と呼びます。要物契約は消費貸借だけ、という記憶は正しいです。あのとき数えていたのは、民法が名前を付けた十三種類の契約の中です。その十三種類の中で要物なのは、消費貸借だけです。十三種類の外側にも、要物契約が二つあります。一つは、質権の設定です。物を預かって、返してもらえないときはそれで払わせる担保でしたね。質権も、目的物を引き渡すことによって効力を生ずる、と書かれています。

約束だけでは質権になりません。もう一つは、手付です。そのイメージで大丈夫です。買主が売主に手付を交付したとき、解除できる権利が生まれます。交付したとき、と書いてある以上、渡さなければ何も起きません。そうなります。ただ、消費貸借だけは、書面でするときは合意で成立する、というさらなる例外を、前にお話ししました。もう一つの例外は、方式が要るものです。書面にする、といった形のことです。これを要式行為と呼びます。代表が保証です。条文を見てみましょう。

条文民法446条2項

民法 第四百四十六条(保証人の責任等)第二項 保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない

保証人がどういう人かは、以前見ましたね。その引き受けを、口約束では認めません。保証人の立場を、もう一度見てください。保証人は、他人の借金を背負います。そして、自分は一円も受け取りません。飲み会の席で「保証人くらいなってやるよ」と言うのは簡単です。でも、その一言で数百万円を背負わされたら、たまりません。だから民法は、紙に書かせます。自分の名前を書く手が止まる、その一瞬を作っているんです。ここで、さっきの要物契約に戻ってください。あれも、同じことをしています。「来月十万円貸すよ」と言っただけの段階では、まだ契約がありません。だから、渡す前に気が変わって断っても、約束破りにはなりません。

渡すという行為が、書面と同じ一瞬になっています。そこに気づけると、この二つは別々の暗記になりません。要物も要式も、軽率な約束から人を守るという一つの動機から出ています。守り方が二通りあるだけです。

中身に立つ関門は、三つしかない

中身に立つ三つの関門を網の目の粗さの順に並べた地図(粗い=確定性・何を約束したのか読み取れない/中くらい=適法性91条・条文がはっきり禁じている/細かい=社会的妥当性90条・条文は禁じていないのに社会が許さない)+90条は最後の砦 図:中身に立つ三つの関門を網の目の粗さの順に並べた地図

  • 粗い=確定性・何を約束したのか読み取れない
  • 中くらい=適法性91条・条文がはっきり禁じている
  • 細かい=社会的妥当性90条・条文は禁じていないのに社会が許さない
  • 90条は最後の砦

ここから、二つ目の関門に入ります。生まれた契約が、効くに値する中身かどうか、という関門です。この関門には、二つの側面があります。人の側と、中身の側です。約束した人に問題がなかったか、という側です。だまされていないか、勘違いしていないか、といった話です。今日は中身の側だけを扱います。中身の側に立つ関門は、三つしかありません。名前はお渡ししました。今日はその中身を、判定に使える形にします。そのために、三つを一本の線の上に並べます。約束が通る道に、網が三枚張ってあると思ってください。三枚は、目の粗さが違います。手前の網から見ていきます。一枚目は、いちばん目が粗い網です。引っかかるのは、そもそも中身が読み取れない約束だけです。

中身が読み取れるかどうかを、確定性と呼びます。法が禁じているかどうか以前の問題です。そこが大事です。法が判断に入る前に落ちるものを、ここで拾います。二枚目は、条文がはっきり禁じている、という網です。これを適法性と呼びます。どこに目があるかは、条文を読めば分かります。三枚目が、いちばん細かい網です。条文はどこにも禁じていない。それでも社会が許さない、という網です。条文が禁じていなくても、その約束は止まります。この網を社会的妥当性と呼びます。条文で書ききれなかったものを、最後に受け止める網です。この網が、最後の砦です。そして、だからこそ危ない網でもあります。どこに目があるか、条文に書いていないからです。目の位置を決めるのは、そのつど判断する人間です。

まず、いちばん粗い一枚目から見ていきます。

一枚目の網——「確定している」ではなく「確定できる」

確定性の対比板(落ちる側=近いうちにいい感じの物件を紹介する・お礼は相応の額で/通る側=駅前の店舗を来月から貸す・家賃は近所と同じくらいで)+求められているのは確定していることではなく確定できること 図:確定性の対比板

  • 落ちる側=近いうちにいい感じの物件を紹介する・お礼は相応の額で
  • 通る側=駅前の店舗を来月から貸す・家賃は近所と同じくらいで
  • 求められているのは確定していることではなく確定できること

中身がぼんやりした約束を、もう一度出します。「近いうちに、いい感じの物件を紹介する。お礼は相応の額で」。これを裁判所が認めるとして、判決文に何と書けばよいでしょうか。「いい感じの物件を紹介せよ」とは、書けません。相手が何をすれば終わりなのかが決まっていません。強制執行しようにも、何をさせるのかが決まりません。だから、この約束は無効です。悪いから落ちるのではなく、形になっていないから落ちます。求められている基準の言い方を、正確にする必要があります。求められているのは、確定していることではありません。

確定できること、です。決定的に違います。もう一つの約束で試しましょう。「駅前の店舗を、来月から貸す。家賃は近所と同じくらいで」。決まっていません。でも、こちらは有効です。近所の店舗の家賃を調べれば、いくらかを出せるからです。「いい感じの物件」は、調べても出てきません。「近所と同じくらい」は、調べれば出てきます。そこが線です。言葉が足りなくても、解釈で埋まれば有効です。当事者が本当は何を決めたかったのかを、周りの事情から読み取る作業です。そのやり方には順序があって、それは次に正面から扱います。それと、すべてが決まっている必要はありません。大事なところが確定できれば足ります。さっきの店舗なら、どの物件をいつから貸すか、そして家賃です。

鍵の受け渡しを何時にするかまでは要りません。そこは後から決めても、契約そのものは立っています。ここで落ちるのは、本当に形になっていないものだけです。

山場——関門に立てなかった、二つのもの

中身の関門に立ったものと立てなかったものの対比(立った=確定性・適法性91条・社会的妥当性90条/立てなかった=実現できるか・お金に見積もれるか)+外れた二つを言えて初めて三つの意味が決まる 図:中身の関門に立ったものと立てなかったものの対比

  • 立った=確定性・適法性91条・社会的妥当性90条
  • 立てなかった=実現できるか・お金に見積もれるか
  • 外れた二つを言えて初めて三つの意味が決まる

ここで、三つの網を離れて、少し変わった質問をします。できもしない約束は、この三つのどれかに引っかかるでしょうか。ある倉庫を売る契約を、明日結ぶことにしました。ところが前の晩に落雷があって、その倉庫は焼け落ちていました。二人ともそれを知らないまま、翌日契約を結びました。昔は、そう考えられていました。でも、今は違います。この契約は、有効に成立します。この契約も、有効です。今日いちばん意外なところかもしれません。もう存在しない物を渡せ、とは請求できません。その条文の続きを見てください。

条文民法412条の2第2項

民法 第四百十二条の二(履行不能)第二項 契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第四百十五条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない

最初からできない約束でも、損害賠償の道は閉じない、と言っています。ここで、二つの世界を比べてください。無効にする世界では、買主は何も請求できません。契約が無いのですから、賠償を求める足場もありません。無効にすれば、そうなります。一方、有効にする世界では、買主は損害賠償を請求できます。そこが、関門から外した決め手です。「できないから無効」は、一見きれいです。でも、そのきれいさで損をするのは、渡してもらえなかった側です。無効にするほうが厳しい、というのは逆なんです。無効は、相手を懲らしめる道具ではありません。

だから実現できるかどうかは、中身の関門ではありません。成立した後の、履行の問題として処理します。もう一つあります。今度は、時価より大幅に安く土地を売る、あの一万円の約束に戻ります。あの約束が効くのは、値段の釣り合いが関門ではないからです。見ません。民法は、債権の中身にお金の値打ちを求めていません。条文で確認しましょう。

条文民法399条

民法 第三百九十九条(債権の目的) 債権は、金銭に見積もることができないものであっても、その目的とすることができる。

たとえば、毎朝ベランダの鉢植えに水をやる、という約束です。その約束も、法的な権利になります。頼んだ側は「水をやってくれ」と請求できます。実家の犬を一週間預かる、という約束も同じです。この条文は、お金の物差しを持ち込むなと言っています。値打ちを測らない以上、釣り合っているかも測りません。安く売るのは、その人の自由です。自分の財産をいくらで手放すかは、その人が決めることです。ただし、一つだけ含みを残します。値段が釣り合わない、その一点だけでは止まりません。でも、釣り合わなさが別の事情と結び付くと、話が変わります。この後の、三枚目の網でその話をします。ここまでを一度整理します。関門に立ったのは、確定性と適法性と社会的妥当性の三つです。立てなかったのは、実現できるかと、お金に見積もれるかの二つです。

そこが狙いです。三つを覚えるより、外れた二つを言えるほうが強いです。

二枚目の網——禁止が書いていない条文から、禁止を読む

91条を裏返して強行規定違反の無効を導く板(条文は公の秩序に関しない規定と異なる意思はその意思に従うという許可の形/わざわざ関しないと限っている/裏を返せば公の秩序に関する規定に反する意思は通らない) 図:91条を裏返して強行規定違反の無効を導く板

  • 条文は公の秩序に関しない規定と異なる意思はその意思に従うという許可の形
  • わざわざ関しないと限っている
  • 裏を返せば公の秩序に関する規定に反する意思は通らない

二枚目の網に進みます。条文がはっきり禁じている、という網でした。結論はそうです。ただ、その結論がどこから出るのかを見てください。根拠になる条文は、91条です。一つだけ先に。条文は「契約」ではなく「法律行為」と書きます。「売ります」「買います」も意思表示です。契約は、その法律行為の代表です。

条文民法91条

民法 第九十一条(任意規定と異なる意思表示) 法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従う

そこに気づけたら十分です。言っているのは、許可のほうだけです。ただし、条件が付いています。「公の秩序に関しない規定」と違うことを決めたとき、と限っています。条文は、そこには何も書いていません。無効になります。書いていないことから読み取ります。以前、条文の読み方をいくつも並べた回がありました。その反対解釈です。今ここで、実際にやってみます。条文は、公の秩序に関しない規定については当事者の意思に従うと言いました。わざわざ「関しない」と限っている以上、関する規定は別扱いだと読めます。だから、公の秩序に関する規定に反する意思は通りません。

条文が禁止を書いていない場所から、禁止を読む。この読み方そのものを、今日一度見てもらいたかったんです。

強行規定と任意規定と取締規定を二つの軸で並べた表(誰の利害を守る規定か/破ったときにどこに効くか)+条文の顔に強行規定とは書いていないので個々の規定の趣旨から決まる 図:強行規定と任意規定と取締規定を二つの軸で並べた表

  • 誰の利害を守る規定か
  • 破ったときにどこに効くか
  • 条文の顔に強行規定とは書いていないので個々の規定の趣旨から決まる

ここで、二つの言葉を入れます。公の秩序に関する規定を、強行規定と呼びます。公の秩序に関しない規定を、任意規定と呼びます。任意規定のほうから見ましょう。民法にも、代金をいつ払うかについての定めがあります。でも、当事者が「代金は品物を受け取った翌月末に払う」と決めたとします。民法の定めとは違いますが、その取り決めのほうが優先します。任意規定は、当事者が何も決めなかったときの備えだからです。そのイメージで正確です。埋めてある字は、当事者が上書きできます。一方、強行規定は上書きできません。条文の顔には「これは強行規定です」とは書いてありません。一つひとつの規定の趣旨から決まります。大変ですが、おおまかな傾向はあります。物権に関する規定と、家族に関する規定は、強行規定が多いです。契約に関する規定は、任意規定が多いです。

誰が巻き込まれるかを考えてください。契約は、結んだ二人の間だけの取り決めです。ところが物権は、誰に対しても主張できました。理由も同じところにあります。当事者だけで新しい種類の権利を作れたら、どうなるでしょうか。困ります。登記簿を見ても、そんな権利は載っていません。そこが軸です。だから、当事者だけで新しい種類の物権を作る取り決めをしても、その部分は通りません。家族に関する規定も、同じ発想で読めます。たとえば、届出をしないけれど二人の間では夫婦とする、と取り決めても、それで夫婦にはなれません。

取締規定の板(営業許可を取っていない店で買った弁当/店は行政の処分を受けるが売買そのものは有効)+取り締まりの目的は営業の規制であって取引の相手方から取引を取り上げることではない 図:取締規定の板

  • 営業許可を取っていない店で買った弁当
  • 店は行政の処分を受けるが売買そのものは有効
  • 取り締まりの目的は営業の規制であって取引の相手方から取引を取り上げることではない

もう一つ、境目のすぐ外にあるものを見ておきます。法律に違反しているのに、契約は無効にならない場面です。ある店が、必要な営業許可を取らないまま弁当を売っていました。違反ですから、店は行政の処分を受けます。では、そこで弁当を買ったあなたの売買は、無効でしょうか。無効だとすれば、弁当も返すことになります。もう食べていても、です。困りますよね。ここが決め手です。その許可の制度は、何のためにあるでしょうか。店に決まりを守らせるための制度です。買った人から買い物を取り上げるための制度ではありません。だから、店には行政の制裁が下りますが、売買そのものは有効です。こういう規定を、取締規定と呼びます。破ったときに効くのは行政の側で、契約の側ではありません。

そこが見分けの軸です。誰の利害を守るために置かれた規定か。そして、破ったときに効くのはどちらの側でしょうか。「違法だから無効」と短絡しないように、ということですね。ここは短答でも論文でも狙われます。

山場——三枚目の網は、最後の砦

三枚目の網の板(条文はどこにも禁じていないのに社会が許さない/禁止の中身が一つも書かれていないから何にでも届く/だから何にでも使えてしまう) 図:三枚目の網の板

  • 条文はどこにも禁じていないのに社会が許さない
  • 禁止の中身が一つも書かれていないから何にでも届く
  • だから何にでも使えてしまう

三枚目の網に入ります。条文はどこにも禁じていない。それでも社会が許さない、という網でした。その不思議さを引き受けている条文が、一本あります。以前も見た条文ですが、今日は読む場所が違います。

条文民法90条

民法 第九十条(公序良俗) 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

今日は前半を読みます。公の秩序、そして善良の風俗。大きすぎるほどです。ここに、この条文の力と危うさが両方あります。まず力です。この条文には、禁止の中身が一つも書いてありません。だから、条文を作った人が思いつかなかった約束にも届きます。こういう条文を、一般条項と呼びます。要件が極度に抽象的な形で置かれた規定のことで、信義則と権利濫用のときに一度出てきた言葉です。裏返しです。どこにでも届くのは、何にでも使えるということです。そこです。壊すのは、そのつど判断する裁判官です。使いすぎれば、判断する人の価値観で契約が壊れることになります。だから、この条文は最後に置かれます。一枚目でも二枚目でも受け止められなかったものだけが、ここに来ます。

そして、危うい網には歯止めが要ります。一つは今の話です。ほかに手が無いときにだけ使う。もう一つは、いつの時点の目で見るか、という歯止めです。

公序良俗違反かどうかを判断する時点の板(判断するのは法律行為がされた時点の公序/後から社会の見方が変わってもさかのぼって無効にはならない) 図:公序良俗違反かどうかを判断する時点の板

  • 判断するのは法律行為がされた時点の公序
  • 後から社会の見方が変わってもさかのぼって無効にはならない

変わります。昔は当たり前だったことが、今は許されないこともあります。では、今の目で昔の契約を裁いてよいでしょうか。その直感が答えです。判断するのは、その約束をした時点の見方です。最高裁も、そう言っています。

判例最高裁判所判決 平成15年4月18日(民集57巻4号366頁・裁判要旨)

公序に反して無効かどうかは、いつの時点で判断するか 「法律行為が公序に反することを目的とするものであるとして無効になるかどうかは、法律行為がされた時点の公序に照らして判断すべきである。」

この判決の「公序」は、いま読んだ公の秩序と善良の風俗を、まとめて呼んだものです。公序良俗、とも言います。当時は、そこまで強く責められる取引だとは受け止められていませんでした。その後、社会の見方が変わり、法律も罰則付きで禁じました。それでも、契約そのものは、した時点を基準に判断されます。無効にはなりません。ただし、続きがあります。今の法律が禁じている以上、履行を求めることは認められません。後から基準を動かせるなら、契約は永遠に安心できないからです。三枚目の網は、ただでさえ目の位置が動きます。せめて、いつの目で見るかだけは動かさない。

90条が使われてきた場面の引き出し(暴利/人を人として扱わない拘束/犯罪にかかわるもの/射幸/不合理な差別)+これは条文の要件ではなく判例の集積を後から整理した引き出し 図:90条が使われてきた場面の引き出し

  • 暴利
  • 人を人として扱わない拘束
  • 犯罪にかかわるもの
  • 射幸
  • 不合理な差別
  • これは条文の要件ではなく判例の集積を後から整理した引き出し

では、実際にどんな約束が、この網に引っかかってきたのか。一覧はあります。ただ、先に釘を刺させてください。これから並べるものは、条文に書かれた要件ではありません。裁判所が個別の事件で出した判断を、後から整理した引き出しです。引き出しの数を覚えても、次の事件には当たりません。大事なのは、なぜそれが許されないのかを言えることです。筆頭は、暴利です。もう少し限定があります。場面を作ります。家族の入院費が今日中に要る、という人がいます。そこへ買い手が来て、その人の時計を買い取ります。値段は、時価の数十分の一です。

この約束は、90条で無効になりえます。そこが、さっき残した含みです。安いことだけでは止まりません。止まるのは、相手の窮状につけ込んで安くさせたときです。そこが決め手です。自分から安く売った、一万円の土地との違いも、そこにあります。まったく別の場面です。同じ「安い」でも、扱いが変わります。

90条から事項を目的とするという言葉が削られた意味の板(削る前は目を向ける先が約束の中身だけ/削った後は中身に加えてそこに至る過程も考慮できる)+暴利がこの変更のいちばんの舞台 図:90条から事項を目的とするという言葉が削られた意味の板

  • 削る前は目を向ける先が約束の中身だけ
  • 削った後は中身に加えてそこに至る過程も考慮できる
  • 暴利がこの変更のいちばんの舞台

ここで、条文が一度書き換えられたことに触れます。この条文には、かつて「事項を目的とする」という言葉が入っていました。削られました。そして、削ったことに意味があります。あの判決は、この言葉が削られる前のものです。判断する時点の考え方は、今も変わりません。「目的とする」と書いてあると、目を向ける先が中身だけになります。でも、さっきの時計の話を思い出してください。そこを見られるようにしたのが、この削除です。中身だけでなく、どうやってその約束をさせたかも考慮できます。引き出しを、もう少し開けておきます。二つ目は、人を人として扱わない拘束です。借金を返し終わるまで、この店を辞められない、という約束です。

人の自由そのものを、借金で縛っています。三つ目は、犯罪にかかわるものです。入札の前に、業者どうしがこう約束したとします。「うちは高い値を出すから、次はそちらに譲ってほしい」。競争しているふりだけが残ります。これも無効です。四つ目は、射幸にかかわるものです。賭けの約束が典型ですね。五つ目に、人種や性別で不合理に差別する内容も挙げられます。条文には書いていません。そこは何度でも確認してください。

公序良俗違反の無効の効き方(誰でも主張できる/後から追認できない)+判断する力を欠いていたときの無効との対比 図:公序良俗違反の無効の効き方

  • 誰でも主張できる
  • 後から追認できない
  • 判断する力を欠いていたときの無効との対比

この網に引っかかった約束は、どう扱われるのでしょうか。無効になるのですが、その効き方に特徴が二つあります。一つ目は、誰でも無効を主張できることです。当事者でない人からでも、無効だと言えます。一方、判断する力を欠いていたときの無効です。あれは、守るべき人が決まっていました。守るための無効なので、本人の側だけが使えます。ところが、社会が許さないという理由には、守るべき本人がいません。だから、誰が言い出してもかまいません。二つ目の特徴は、後から追認できないことです。効かない約束を、後から「やっぱり有効にする」と認めることです。それができません。理由を考えてみてください。

そのとき、社会が許さないという理由は消えているでしょうか。そこです。無効の理由が当事者の外にあるので、当事者には動かせません。きれいにまとまりました。無効そのものの体系は、また別の回で扱います。

山場——契約は真っ白、目的が真っ黒

動機の不法の関係図(A=盗品の仕入れ資金として二十万円を借りた借主/B=貸主/C=盗品の売主)+BがAの目的を知らされていたか知っていたかで扱いが分かれる 図:動機の不法の関係図

  • A=盗品の仕入れ資金として二十万円を借りた借主
  • B=貸主
  • C=盗品の売主
  • BがAの目的を知らされていたか知っていたかで扱いが分かれる

最後に、もう一段だけ深いところへ行きます。Aが、Bから二十万円を借りました。利息も相場どおり、返す期日も決めてあります。ところがAは、そのお金である物を仕入れるつもりでした。Cから、盗品を買うつもりだったんです。では、AとBの貸し借りの契約は、無効でしょうか。無効にしたい、というその気持ちは分かります。でも、契約の中身を見てください。中身だけを見れば、毎日どこかで結ばれている普通の契約です。契約は真っ白で、使い道が真っ黒という形です。ここで、両方の道を歩いてみましょう。無効にする道です。この場合、Bは二十万円を返してもらえません。

無効なら、契約を根拠に返せとは言えません。では、有効にする道です。Bは返してもらえます。ただし、法が犯罪の仕入れ資金の回収を手伝うことになります。そこがこの問題の骨です。だから、線を引く必要があります。動機が相手に表示されたとき、または相手がその動機を知っていたとき。そのときにかぎって、90条を使います。決め手は、Bの立場です。Aが何に使うつもりかは、Aの頭の中にしかありません。知りようのない事情で契約を壊されたら、どうなるでしょうか。そこです。だから、知らされていたか、知っていた場合に限ります。

そのBは、犯罪の資金だと分かったうえで手を貸しています。ここで、一つ注意をしておきます。今の線は、判例が自分の言葉で立てた物差しではありません。判例が判断しているのは、個別の事件です。賭けに使うと知って貸した場合を無効とした裁判例はあります。でも、知っていた場合にかぎる、という限定までは言っていません。その限定を付けたのは、学説です。多くの学者が支持している考え方です。そこは正確にしておいてください。答案の書き方が変わります。判例だから、では説明になりません。相手を守らなければ取引が回らない、という理由を自分で言うことになります。

この論点を論文で書くときの流れの予告(事案=契約そのものは真っ白/問題提起=動機は契約の中身ではない/規範=表示されたか相手が知っていたかにかぎる・通説で立てる/あてはめ=貸主が何を知っていたか)+規範の覚え方とあてはめの書き方は論文の回で扱う 図:この論点を論文で書くときの流れの予告

  • 事案=契約そのものは真っ白
  • 問題提起=動機は契約の中身ではない
  • 規範=表示されたか相手が知っていたかにかぎる・通説で立てる
  • あてはめ=貸主が何を知っていたか
  • 規範の覚え方とあてはめの書き方は論文の回で扱う

この論点は、論文でも問われます。流れだけ渡しておきます。まず事案です。契約そのものには何の問題もない、と押さえます。次に問題提起。動機は契約の中身ではない、という食い違いを出します。そのうえで規範を立てます。表示されたか、相手が知っていたか。貸主が何を知っていたかを、事実で拾います。規範をどう覚えるか、どう当てはめるかは、論文の回で扱います。

三枚の網を抜けて、約束は法の言葉になる

今日の到達点(契約は簡単に生まれる/だから中身の側に三枚の網が張られている=確定性・適法性91条・社会的妥当性90条/関門に立てなかったのは実現できるかとお金に見積もれるか)+まだ空欄の関門は人の側と誰に届くかといつから動くか 図:今日の到達点

  • 契約は簡単に生まれる
  • だから中身の側に三枚の網が張られている=確定性・適法性91条・社会的妥当性90条
  • 関門に立てなかったのは実現できるかとお金に見積もれるか
  • まだ空欄の関門は人の側と誰に届くかといつから動くか

今日の道のりを、一本にまとめます。契約は、外から見て噛み合えば、それだけで生まれてしまいます。そして、その二つは同じ動機から出ていました。そのうえで、民法は生まれた後に三枚の網を張りました。手前が、いちばん粗い網です。中身が読み取れるか。次が、条文が禁じているか。条文は許可の形で書かれていて、裏返して禁止を読みました。強行規定に反すれば無効になりますが、取締規定は効く先が違い、契約自体は有効でした。そして三枚目が、条文は禁じていないのに社会が許さないか。だから最後に置かれ、最後にだけ使われます。一方で、関門に立てなかったものが二つありました。

落雷で焼けた倉庫も、一万円の土地も、契約としては立ちます。網は、通り抜けさせるためにあります。三枚を抜けて初めて、口に出した約束が法の言葉になります。人の側に立つ関門は、これから一つずつ見ていきます。だまされた、勘違いした、脅された。そういう話です。効果が誰に届くか、いつから動き出すかも、まだ空欄です。そして次は、今日の一枚目の網に戻ります。言葉の足りない約束を、どういう順序で埋めていくのか。慣習に従うのか、民法の定めで補うのか。順序があります。そこを、正面から扱います。

参照条文

  • 民法446条2項
  • 民法412条の2第2項
  • 民法399条
  • 民法91条
  • 民法90条

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