民法 ゼロから民法#3

権利能力・意思能力・行為能力(後編)

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第1章 民法総則 ②/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

成年被後見人(7〜9条) 〔短答・論文共通〕

では1つ目——「成年被後見人(せいねんひこうけんにん)」。精神上の障害により、事理を弁識する能力を欠く常況にある者。これを家裁が認めると「後見開始の審判」(7条)が出ます。たまに判断できない、ではなく、常態として欠いている人です。保護者は「成年後見人」。成年後見人は包括的な代理権を持ちます(859条)。——それが今日最初の逆転です。成年後見人には同意権がありません。観念しないといいます。判断力を欠く”常況”だから、本人がその場で「いい」と言っても当てにならない。同意にそもそも意味を持たせない設計です。だから後見人が同意しても、本人の行為はあとから取り消せる(9条本文)。

民法9条——「成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。」但書が大事です。日常生活に関する行為は取り消せない。日々の食料を買う・バスに乗る——これまで奪うと生活自体ができなくなる。自己決定を最後の一つ尊重した規定です。泥酔者の「いい」自体が当てにならないので後で取り消せる——後見も同じ発想です。その場の同意に意味を持たせない。この対比が短答で狙われます。後で比較表で改めて固定します。

被保佐人(11〜13条) 〔短答・論文共通〕

次——「被保佐人(ひほさにん)」。事理弁識能力が著しく不十分な者→保佐開始の審判(11条)。だから設計が変わります。保護者は「保佐人」——同意権と取消権を持ちます(13条)。代理権は当然にはありません。別途「代理権付与の審判」(876条の4)がいる。そして本人の行為の原則——ここが2つ目の逆転です。原則は単独で有効。被保佐人はほとんどのことを自分でできる。ただし13条1項の各号に列挙された重要行為だけ、保佐人の同意が必要。逆の整理を頭に入れてください。未成年者・後見=「原則ダメ・例外だけOK」。保佐・補助=「原則OK・列挙だけダメ」。「自転車の補助輪」で整理します。保佐=重要な交差点(13条1項の行為)だけ大人が手を添える。他の道は一人で走れる。

民法13条1項——「被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。」第一号——「元本を領収し、又は利用すること。」第二号——「借財又は保証をすること。」第三号——「不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。」第四号——「訴訟行為をすること。」第五号——「贈与、和解又は仲裁合意(仲裁法(平成十五年法律第百三十八号)第二条第一項に規定する仲裁合意をいう。)をすること。」第六号——「相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。」第七号——「贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。」第八号——「新築、改築、増築又は大修繕をすること。」第九号——「第六百二条に定める期間を超える賃貸借をすること。」第十号——「前各号に掲げる行為を制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第十七条第一項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の法定代理人としてすること。」出題されます。「元本・借財保証・不動産・訴訟・贈与和解・相続・負担付贈与・新築・長期賃貸借」と整理して覚えてください。取り消せます(13条4項)。補足で2点——13条2項は、家裁の審判で1項以外の行為も同意を要するとできる。ただし9条但書の日常生活行為は除く、です。13条3項——保佐人が、被保佐人の利益を害するおそれがないのに同意しないとき、本人の請求で「同意に代わる許可」を家裁ができる。本人の自己決定を確保する安全弁です。

被補助人(15〜17条) 〔短答・論文共通〕

3つ目——「被補助人(ひほじょにん)」。事理弁識能力が不十分な者→補助開始の審判(15条)。3類型で最も軽い類型です。そして補助には特別なルールがあります。本人以外の請求のときは、本人の同意が必要(15条2項)。補助が最も本人の自己決定を尊重する類型である証拠です。補助人の権限も「審判で与えられたものだけ」——同意権・取消権・代理権のうち、付与された権限しか使えません。原則は完全に行為能力あり。17条の審判で「この行為には補助人の同意を要する」とされた行為だけ制限されます。そしてその範囲には上限があります。

民法17条1〜4項——「家庭裁判所は、第十五条第一項本文に規定する者又は補助人若しくは補助監督人の請求により、被補助人が特定の法律行為をするにはその補助人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。ただし、その審判によりその同意を得なければならないものとすることができる行為は、第十三条第一項に規定する行為の一部に限る。」2項——「本人以外の者の請求により前項の審判をするには、本人の同意がなければならない。」3項——「補助人の同意を得なければならない行為について、補助人が被補助人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは、家庭裁判所は、被補助人の請求により、補助人の同意に代わる許可を与えることができる。」4項——「補助人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる。」補助=「指定した1か所だけ手を添える」。保佐より当然範囲は狭い。「補助輪」でいえば、保佐=片方だけ補助輪。補助=指定した1か所だけ手を添える。判断力が最も残っている類型だから、当然そうなります。これが補助の核心です。

4類型の比較表+各審判の関係(19条) 〔短答〕

ここで4類型を一枚の表に並べます。この回の核心図です。

縦に4類型——未成年者・成年被後見人・被保佐人・被補助人。横に——判断能力の程度・開始原因・保護者と権限・本人行為の原則・同意が要る範囲・但書。そこを見てください。未成年者・成年被後見人=原則「取消しうる」。重い2類型。被保佐人・被補助人=原則「単独で有効」。軽い2類型。代理権の列も確認してください。成年後見人=当然に代理権あり(859条)。保佐人・補助人=付与審判があって初めて代理権を持つ。そして各審判相互の関係——19条。

一人について類型は重複しない」というルールがあります。後見開始の審判をするとき、本人がすでに被保佐人・被補助人なら——家裁は保佐/補助の審判を取り消さなければならない(19条1項)。判断能力が悪化したら軽い類型を消して重い類型に整理する。保佐や補助を始める場合も同様に準用(19条2項)。

相手方の保護(催告20条・詐術21条・期間126条・返還121条の2) 〔短答・論文共通〕

制限行為能力者の取引相手は、どんな立場に置かれるか。相手から見れば、その契約はいつ取り消されるか分からないチケット。ずっと宙ぶらりんは酷です。だから均衡装置を3つ与えます。催告権(20条)・詐術への対抗(21条)・期間制限(126条)。「追認するか?取り消すか?今決めて」と相手方が迫れる権利です。催告権(20条)——誰に催告したかで効果が逆転します。これが3つ目の逆転で、最も試験に出る落とし穴です。

民法20条1項——「制限行為能力者の相手方は、その制限行為能力者が行為能力者(行為能力の制限を受けない者をいう。以下同じ。)となった後、その者に対し、一箇月以上の期間を定めて、その期間内にその取り消すことができる行為を追認するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、その者がその期間内に確答を発しないときは、その行為を追認したものとみなす。」20条1項は「能力者になった本人」への催告。確答なし=追認擬制(ぎせい)。20条2項——権限内の法定代理人・保佐人・補助人への催告も確答なし=追認擬制。では、被保佐人・被補助人の本人に「保佐人/補助人の追認を得よ」と催告したら?「追認を得た旨の通知」なし=取消擬制(20条4項)。こちらは逆です。ここが最大の事故源です。早見表で確認します。

「能力者になった本人」または「保護者」への催告——確答なし=追認擬制。「被保佐人・被補助人の本人」への催告——「追認を得た旨の通知」なし=取消擬制。「未成年者・成年被後見人の本人」への催告——無意味(受領能力がない)。判断能力を欠いているから受け取っても意味がない、というわけです。「保佐人に聞きなさい」と催告したのに返事がないのは、「決められなかった(自分では判断できなかった)」と扱うからです。だから保護の方向=取消し、になる。次——詐術(21条)。冒頭の問いに戻ります。「私は成人です」とウソをついて相手に信じさせた——これが詐術。

民法21条——「制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない。」自分でウソをついて相手を騙した人は、保護に値しない——というわけです。「身分証を偽造して入店した人が、後で未成年だから無効と言えるか?」——言えない。ただし詐術の定義に論文の型があります。次のセクションで深掘りします。続いて——取消権者(120条1項)。誰が取り消せるか。制限行為能力者本人・その代理人・承継人・同意権者——この4者だけです。弱者保護のための制度だから相手方には使わせない、という設計です。次——追認。追認するとその行為は確定的に有効になります(122条)。取消権者が「取消しの原因が消滅した後」に行う必要があります(124条)。たとえば未成年者が成人してから追認する、という場面です。一定の行為(弁済の受領・履行の請求など)があると、追認したものとみなされるルールです。詳細は「無効と取消し」の回でじっくりやります。

民法126条——「取消権は、追認をすることができる時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。」e-Gov条文の正文が漢数字なので、論文答案でも漢数字が原則です。起算点が2つあります。「追認できる時から五年」が通常の期間、「行為の時から二十年」は最長期間——行為から20年経てば必ず消滅します。長くても行為の時から20年。短答で「10年」「25年」という引っかけが出ます。最後——取消し後の返還。取り消したら受け取ったものを返す。でも制限行為能力者は「現存利益(げんそんりえき)」の限度でよい(121条の2第3項)。

民法121条の2第3項——「第一項の規定にかかわらず、行為の時に意思能力を有しなかった者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。行為の時に制限行為能力者であった者についても、同様とする。」「使い切ったお小遣い」の喩えで考えてください。もらったお小遣いを遊びで全部使い切った——手元に何も残っていない。この場合、返す義務はない(現存しないから)。生活費の出費が免れた分=「利益が現存」と扱われます。だから返す必要がある。取り消した意味を失わせないための保護の延長です。

論文の型:詐術(21条)該当性 〔論文〕

ではここを深掘りします——21条「詐術(さじゅつ)」の論文の型。——それが最判昭44・2・13(昭和44年2月13日)の核心です。この判例の定式をコア規範として押さえてください。

★コア規範——「単に制限行為能力者であることを黙秘していただけでは足りず、それが他の言動などと相まって、相手方を誤信させ、または誤信を強めたと認められるときは、なお詐術にあたる」(最判昭44・2・13)。太字の3フレーズだけ逐語で。あとは趣旨から復元できます。復元キーを確認します。①21条の趣旨——自ら能力者と偽った者は保護に値しない(取消権を奪い相手方を保護)。②よって「詐術」は積極的な欺罔行為が原則。③ただし黙秘でも、他の言動と相まって相手方の誤信を生じ・強めれば保護に値しない。④だから「単なる黙秘」と「言動と相まった黙秘」を区別する。論文の答案の型はこうなります。

【事例】未成年者Aが年齢を偽る言動で相手方Bを誤信させ、契約を締結した。【問題提起】AはBに対して21条の「詐術」を用いたといえるか。【規範】「単なる黙秘では足りず、他の言動と相まって誤信させ、または誤信を強めた」場合に詐術にあたる(最判昭44・2・13)。【あてはめ】Aの具体的言動が「誤信させ/誤信を強めた」と評価できるか。【結論】詐術成立なら取消しは不可(21条)。明らかに積極的な欺罔行為だから詐術成立です。単なる黙秘——詐術にならない。相手も確認しなかった、という評価になります。他の言動と相まって誤信を強めた——詐術成立の方向です。あてはめで判断します。これがこの論点の軸です。あてはめで積極的工作の有無を拾ってください。

まとめ+次回予告 〔短答〕

まず3類型をまとめます。成年被後見人——欠く常況(7条)。後見人=代理権・同意権なし。行為は取消し可・同意があっても取り消せる(9条本文)。但書=日常生活行為はOK(9条但書)。被保佐人——著しく不十分(11条)。保佐人=同意権・取消権(代理権は付与審判で別途)。原則単独で有効・13条1項各号だけ同意要。逆を忘れずに。同意なき行為は取消し(13条4項)。被補助人——不十分(15条)・本人以外の請求は本人同意が必要(15条2項)。補助人=審判で与えた権限だけ。17条=13条1項の”一部”だけ。19条——一人1類型に整理。重い審判をするとき軽い審判は取り消す(必須)。

相手方保護の地図——催告(20条): 誰に催告したかで擬制が逆。能力者になった本人・保護者→確答なし=追認擬制。被保佐人・被補助人の本人→「追認を得た旨の通知」なし=取消擬制。未成年者・成年被後見人の本人→無意味。詐術(21条): 単なる黙秘では足りず。他の言動と相まって誤信させ・誤信を強めた場合に成立(最判昭44・2・13)。期間(126条): 追認できる時から五年、行為の時から二十年返還(121条の2第3項): 現存利益の限度で返還でよい。122条・125条の詳細は「無効と取消し」の回で体系的に扱います。代理権付与の審判(876条の4・876条の9)の実務も別の回で扱います。この1本の軸で、3類型の細部と相手方保護が全部設計思想として読めるはずです。心裡留保(93条)・虚偽表示(94条)・錯誤(95条)を扱います。「言ったことと思っていたことがズレていたら、その契約はどうなるか?」


📝 論文の型(フル論証・正本) — 詐術(21条)該当性

論文で書く規範の正本。動画の ronsho_sajutsu_kihanronsho_sajutsu_kata カードの全文版。覚えるのは★コア規範の逐語キーワードだけ、残りは復元キーから組み立てる。

★コア規範(最判昭44・2・13)

「単に制限行為能力者であることを黙秘していただけでは足りず、それが他の言動などと相まって、相手方を誤信させ、または誤信を強めたと認められるときは、なお詐術にあたる。」

逐語で固定するのは採点キーワードの3フレーズだけ——「黙秘していただけでは足りず」「他の言動などと相まって」「誤信させ、または誤信を強めた」。判示の丸写しは不要。

復元キー(趣旨から3〜4ステップで再構成)

  1. 21条の趣旨——自ら「行為能力者だ」と偽って相手を信じさせた者は、もはや取消しによる保護に値しない。だから取消権を奪い、相手方を保護する。
  2. ゆえに「詐術」は、本来積極的な欺罔行為(身分証の偽造・明示の年齢詐称など)が原則型。
  3. もっとも、単なる黙秘でも、それが他の言動と相まって相手方の誤信を生じさせ・強めたなら、やはり保護に値しない。
  4. よって「単なる沈黙」と「言動と相まった黙秘」を区別する。沈黙それ自体は詐術にならない(相手が自ら確認を怠ったにすぎない)。

答案の型(事例→問題提起→規範→あてはめ→結論)

  • 【事例】 未成年者Aが、年齢を偽る言動で相手方Bに「Aは成年者だ」と誤信させて契約を締結した。後にAが未成年者であることを理由に取消しを主張した。
  • 【問題提起】 AはBに対し、21条の「詐術」を用いたといえるか。用いたといえれば、Aの取消しは封じられる。
  • 【規範】 21条の趣旨は、自ら能力者であると信じさせた者を保護に値しないとして取消権を奪う点にある。そこで「詐術」とは、単に制限行為能力者であることを黙秘していただけでは足りず、それが他の言動などと相まって、相手方を誤信させ、または誤信を強めたと認められる場合をいう(最判昭44・2・13)。
  • 【あてはめ】 Aの具体的言動が、Bの「Aは成年者だ」という誤信を生じさせ/強めたと評価できるか。積極的な身分証偽造・明示の年齢詐称があれば詐術成立。逆に、単なる沈黙にとどまり、Bが自ら年齢確認を怠ったにすぎない場合は詐術不成立。
  • 【結論】 詐術成立なら取消し不可(21条)。不成立なら原則どおり取消し可(未成年者なら5条2項)。

あてはめの勝負どころは「積極的工作の有無」と「相手方の誤信に対する寄与」。沈黙+相手の調査不足だけなら詐術不成立に倒す。

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