民法ゼロから民法#51

無権代理の効果と追認113条

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第1章 民法総則 ㊽/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

息子が、父に黙って実印を持ち出した

冒頭設例板(息子Bが父Aに黙って実印を持ち出し、Aの委任状を自分で作り、父Aの代理人と名乗ってAの土地をCに売る契約を結んだ/Aは何も頼んでいない) 図:冒頭設例板

  • 息子Bが父Aに黙って実印を持ち出し、Aの委任状を自分で作り、父Aの代理人と名乗ってAの土地をCに売る契約を結んだ
  • Aは何も頼んでいない

この契約で、Aは縛られるのでしょうか。逆に、値段がとても良かったのでAが「この契約を生かしたい」と思ったら、生かすことができるのでしょうか。そしてAが何も言わない間、Cはどういう立場に置かれるのでしょうか。先に答えを言っておくと、Aは縛られません。けれどAは、あとからこの契約を認めて生かすこともでき、Aが決めるまでの間、Cは待たされることになります。今日は、代理権が無いのに代理人として契約してしまった場面の効果と、本人があとから効力を認める追認という仕組みを、一本の筋で見ていきます。

顕名はあるのに、代理権が無い

無権代理の三面関係図(Aから Bへの授権の線が無い=点線と×/BからCへの契約の線はある=顕名ありの実線/AからCへの効果の線は追認があれば実線化される点線) 図:無権代理の三面関係図

  • Aから Bへの授権の線が無い=点線と×
  • BからCへの契約の線はある=顕名ありの実線
  • AからCへの効果の線は追認があれば実線化される点線

図を見てください。BはCに対して「父Aの代理人です」と名乗って契約しています。これは②顕名にあたります。契約したのもB自身なので、③も満たしています。欠けているのは①代理権だけです。今回のAは、実印をBに渡していません。前に、実印や登記済証をAがBに預けていた場合は、黙って代理権を与えていたと推認される方向に働く、という話をしました。今回はその逆で、Bが無断で持ち出しただけなので、黙示の代理権すら認められません。Bが自分の名前で、自分の物として売った場合は、②顕名が無いので、そもそも代理という舞台に上がっていません。他人の物を勝手に売ったという、別の問題になります。今日扱うのは、舞台には上がったのに正式な代理として認められない、①だけが欠けた場面です。これを無権代理と呼びます。もう一つ確認しておきます。Bは委任状を自分で作っていましたが、この点は結論を左右しません。委任状が本物かどうかではなく、Aが実際にBに代理権を与えたかどうかだけが問題だからです。

無権代理の3つの型

3つの型の板((a)最初から代理権が無い=冒頭設例/(b)代理権はあるが範囲を超えた=土地を貸すことだけ頼まれたのに売った/(c)代理権が消滅した後にした=本人死亡後の代理行為) 図:3つの型の板

  • (a)最初から代理権が無い=冒頭設例
  • (b)代理権はあるが範囲を超えた=土地を貸すことだけ頼まれたのに売った
  • (c)代理権が消滅した後にした=本人死亡後の代理行為

無権代理には3つの型があります。冒頭の設例のように、最初から代理権が無い型。代理権はあるけれど、その範囲を超えてしまった型。そして、代理権がいったん発生したあと、消滅した後にした型です。範囲を超える型は、たとえば、Aが「土地を貸すことだけ」Bに頼んだのに、Bが「土地を売る」契約を結んでしまった場合です。貸すことと売ることは別の代理権なので、範囲を超えた部分は無権代理になります。代理権が消滅した後にした型は、本人の死亡が、その典型です。前に、本人が死亡すると代理権が消えると確認しました。代理権が消えたことを知らずに代理人が契約を結んでしまえば、その契約も無権代理の問題になります。もう一つ、前に見た自己契約や双方代理、代理権の濫用も思い出してください。あれらは「代理権を有しない者がした行為とみなす」という扱いでした。今日学ぶ効果は、そのままあの場面にも乗ります。

では、範囲を超えていたり消滅した後だったりしても、代理人を信じて契約した相手方は守られないのか。相手方が守られる場面として、代理権が無くても本人に効果が届く、表見代理と呼ばれる仕組みがあります。詳しくは別の回で扱います。

「無効」ではなく「本人に届かない」

無権代理の三面関係図(AからCへの効果の線=追認があれば実線化される点線を強調) 図:無権代理の三面関係図(AからCへの効果の線=追認があれば実線化される点線を強調)

ここで少し思い出してください。前に見た無効な行為は、当事者がその行為が無効だと知って追認すると、効力はいつから生まれるんでしたっけ?無効な行為を知って追認すると、もとの契約の日付には戻らず、追認した時点から新たな行為として扱われるのでした。この点を踏まえて、今日の契約がどう扱われるか、113条で確認します。

条文民法113条

民法 第百十三条(無権代理) 1項 代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。 2項 追認又はその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りでない。

1項を見てください。「本人に対してその効力を生じない」とあります。契約そのものが壊れているとは書いていません。BとCの間で交わされた意思表示自体は、ちゃんと成立しています。欠けているのは、その効果が本人Aに届くかどうかだけです。荷物にたとえると、BとCが梱包した契約という荷物の中身は本物で、A宛ての伝票を、Aが頼んでもいないのにBが貼っただけの状態です。だから、Aに配達してよいかが決まらないまま、止め置かれています。前に、無効と取消しを5つの軸で見比べました。そのうちの④追認の軸に、無権代理を並べてみます。無効な行為は、追認しても原則として効力を生じませんでした。取消しは、取消権者が追認すれば、有効なまま確定しました。無権代理はそのどちらとも違い、本人だけが追認するかどうかを選べて、追認すれば契約の時までさかのぼって本人に届きます。

④追認の軸の3列比較板(無効119条=追認原則不可・知って追認すればその時から新たな行為/取消し122条=追認可・もともと有効だったと確定/無権代理113条116条=追認可・本人だけができる・契約の時にさかのぼって届く) 図:④追認の軸の3列比較板

  • 無効119条=追認原則不可・知って追認すればその時から新たな行為
  • 取消し122条=追認可・もともと有効だったと確定
  • 無権代理113条116条=追認可・本人だけができる・契約の時にさかのぼって届く

理由は、Aの側とCの側の両方から見えます。前に代理の回で、私的自治とは自分のことは自分の意思で決めることだと見ました。Aは代理権を与えていないので、Aの知らないところで結ばれた契約にAを縛るわけにはいきません。だから効果はAに届きません。一方で、契約を無効にしてしまうと、値段が良くてAがこの契約を望んだときにも、最初から結び直すしかなくなります。Cも、もともとこの条件で買うつもりで契約していました。だから契約はそのまま残し、届けるかどうかをA本人に選ばせているんです。取消しの追認と無権代理の追認は、同じ「追認」という言葉でも、中身は別物です。取消しの追認は、取り消せる状態を消して、もう取り消せなくすることです。無権代理の追認は、本人に効果を及ぼすかどうかを本人が選ぶことです。何を確定させるかが違います。

では、取消しで見た、何も言わなくても追認したことになる法定追認の規定は、無権代理にも使えるか。法定追認の規定は、無権代理の追認には使えません。判例で確認されています。

判例最高裁判決 昭和54年12月14日

法定追認の規定は、無権代理の追認には及ばない 取消しの追認について定める法定追認の規定は、無権代理行為の効果を本人に帰属させるかどうかを決める場面には、類推して使うことができないとした。

無権代理の追認は、本人だけが持つ強い選択です。だから、黙って一定の行為をしただけで自動的に成立する法定追認とは、性質がなじみません。

追認とは何か

追認の性質板(無権代理行為の効果を自分に帰属させる本人の意思表示/相手方のある単独行為=相手方の承諾は不要/追認できるのは本人だけ/明示でも黙示でもよい) 図:追認の性質板

  • 無権代理行為の効果を自分に帰属させる本人の意思表示
  • 相手方のある単独行為=相手方の承諾は不要
  • 追認できるのは本人だけ
  • 明示でも黙示でもよい

追認とは、無権代理行為の効果を自分に帰属させる、本人の意思表示です。相手方の承諾はいりません。Cはもともと、この条件でAの土地を買うつもりで契約したので、Aが追認すれば、Cが望んだとおりの契約がAとの間で生きるだけだからです。このように、相手方に向けてするけれど相手方の同意は要らない行為を、相手方のある単独行為と呼びます。追認できるのは本人だけです。Bが認めても、Bはもともと代理権を持たない人ですから、その言葉には法的な意味がありません。追認は、明示でも黙示でもかまいません。たとえば、Aが契約の代金をCに請求したとします。この行為は、契約が有効であることを前提にしないと出てこない行動です。だから、はっきり「追認する」と言わなくても、黙示の追認と扱われます。

追認すると、契約の時にさかのぼる

遡及効の板(原則=契約の時にさかのぼって効力を生ずる/例外①別段の意思表示/例外②第三者の権利を害する場合) 図:遡及効の板

  • 原則=契約の時にさかのぼって効力を生ずる
  • 例外①別段の意思表示
  • 例外②第三者の権利を害する場合

追認したら、いつから効力が生まれるのかを条文で確認します。

条文民法116条

民法 第百十六条(無権代理行為の追認) 追認は、別段の意思表示がないときは、契約の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない

原則は、契約の時にさかのぼります。Aが追認した日からではなく、BとCが契約を結んだその瞬間から、Aに効果が届いたことになります。さっき見た無効の場合とは、時点がちょうど逆です。前に見た、通謀虚偽表示で無効な売買を、1年後に当事者が確認し合った場面では、契約が生まれるのは1年後の確認の時点からでした。無権代理の追認は反対に、もとの契約の時まで戻ります。無効な行為は、最初から法律上まともに扱われない行為でした。だから追認しても過去には戻さず、その時点からの新しい行為として扱うしかありません。無権代理は違います。契約そのものはBとCの間でちゃんと成立していて、欠けていたのはAへの宛先だけです。Aが追認すれば、その欠けていた部分が埋まるだけなので、契約が結ばれた最初の時点にさかのぼって扱われるんです。

116条の遡及効の例外は2つです。1つは、当事者が別段の意思表示をしたとき。追認はするけれど、さかのぼらせないと決めておく場合です。もう1つは、第三者の権利を害するときです。Aが、Bの無権代理行為を知ったあと、追認する前に、同じ土地を別の人Dに売っていた場面を考えてください。

ただし書の設例板(Aが追認前に同じ土地をDに売却/追認の遡及効でCとDの二重譲渡になる/ただし書は適用されず登記の先後で決まる=177条) 図:ただし書の設例板

  • Aが追認前に同じ土地をDに売却
  • 追認の遡及効でCとDの二重譲渡になる
  • ただし書は適用されず登記の先後で決まる=177条

Dの権利を害するように見えますが、通説は、この場面でただし書を使いません。追認がさかのぼっても、Dは先に登記を備えれば勝てるので、遡及効そのものがDの立場を奪うわけではないからです。追認の遡及効はそのまま認めたうえで、AからCへの譲渡とAからDへの譲渡が、普通の二重譲渡として扱われます。つまり、どちらが優先するかは、登記を先に備えたほうが勝つという、前に見た対抗要件のルールで決まります。ただし書が効くのは、CとDが手に入れた権利が、どちらも、ほかの人を排除できる力、つまり排他性を備えている、という特殊な場合です。その具体的な中身は、物権や債権の学習で扱います。今日は、ただし書が実際に働く場面はかなり狭い、というところまで押さえてください。もう一つだけ触れておきます。116条の遡及効の考え方は、他人の物を売る契約を所有者があとから追認する場面にも、同じように及びます。ここで、冒頭の問いのうち二つに答えが出ました。Aは追認しない限り縛られず、この契約を生かしたければ追認でき、そのときは契約の時までさかのぼってAに届きます。

追認は、相手方に伝えなければならない

113条2項の図(AからBへ追認を伝えた線/AからCへの線は無い=Cは知らない) 図:113条2項の図(AからBへ追認を伝えた線/AからCへの線は無い=Cは知らない)

もう一度113条2項を見てください。「相手方に対してしなければ」とあります。追認や拒絶は、相手方Cに伝えないと、Cに対して主張できません。図を見てください。AがBに追認を伝えても、Cがその事実を知らない限り、AはCに対して追認を主張できません。Bに言っただけでは足りない、ということです。ただし、Cが別の経路で追認の事実を知っていれば、話は別です。その場合は、Aから直接伝えていなくても、Cに主張できます。追認や拒絶を相手方に伝えなければならないのは、Cが、自分の結んだ契約がどうなったのか分からないと、次の行動が取れないからです。たとえばCは、代金を用意して待ち続けるべきか、別の土地を探し始めるべきかを決められません。追認されたのか拒絶されたのか、Aの心の中やBとの間だけで決まってCに伝わらないのでは、Cはいつまでも身動きが取れません。ただし書で、Cがその事実を知っていれば足りるとされているのも、同じ理由です。知っていれば、Cはもう次の行動を選べるからです。

追認拒絶で確定する

追認拒絶の板(本人は追認を拒絶できる/拒絶すると効果不帰属が確定する/拒絶した後に気が変わって追認することはできない) 図:追認拒絶の板

  • 本人は追認を拒絶できる
  • 拒絶すると効果不帰属が確定する
  • 拒絶した後に気が変わって追認することはできない

本人は、追認を拒絶することもできます。拒絶すると、効果が本人に届かないことが確定します。確定するので、拒絶したあとで気が変わっても、あとから翻意して追認することはできません。たとえば、Aに拒絶されたCが、あきらめて別の土地を買ったとします。そのあと土地の値段が上がり、Aが「やっぱり追認する」と言い出せたら、終わったと思って動いたCの行動が無駄になります。拒絶を聞いて動き出した相手方の立場を守るために、拒絶はそこで確定し、覆せないものとして扱われるんです。では、追認するかどうか、Aは好きなだけ迷っていてよいのか。Aが何も言わない間は、確定しないまま時間が過ぎていきます。この状態がCにとってどういう意味を持つかを、このあとすぐに見ます。

Cは、宙ぶらりんに置かれる

宙ぶらりんの板(Aが追認も拒絶もしない間、契約が有効になるか確定しない/Cを解放する手段がある) 図:宙ぶらりんの板

  • Aが追認も拒絶もしない間、契約が有効になるか確定しない
  • Cを解放する手段がある

Aが追認も拒絶もしない間、Cは契約が有効になるのかどうか分からないまま、宙ぶらりんの状態に置かれます。Cをこの状態から解放する手段は、ちゃんと用意されています。中身は、このあとの回でまとめて扱います。冒頭の問いに戻ります。BがAに黙って実印を持ち出し、Aの代理人と名乗ってCと土地の売買契約を結んだ、という場面でした。Aは縛られません。Bには代理権が無かったので、Aが追認しない限り、効果はAに届きません。ただし、値段がとても良かったので、Aが「この契約を生かしたい」と思えば追認することができます。追認すれば、契約を結んだその時までさかのぼって、Aに効果が届きます。そして、Aが何も言わない間、Cは契約が有効になるかどうか分からない、宙ぶらりんの立場に置かれます。

答え合わせ

保存版板(判断の順番=①顕名はあるか無ければ無権代理ではない②代理権はあったか無い範囲外消滅後③本人は追認したか拒絶したか相手方に伝わっているか④追認なら契約時にさかのぼる第三者の権利は害さない) 図:保存版板

今日の内容を並べ直します。無権代理は、契約そのものが壊れているのではなく、効果が本人に届いていない状態です。本人が追認すれば、契約の時までさかのぼって届きます。追認や拒絶は、相手方に伝えないと相手方に主張できません。拒絶すれば、効果が届かないことが確定します。では確認です。冒頭の設例で、Aが追認も拒絶もしないまま時間が過ぎていったら、Cはどういう立場に置かれますか?答えは、契約が有効になるかどうか分からないまま、宙ぶらりんの状態に置かれます。無権代理の場面は、顕名はあるか、代理権はあったか、本人は追認したか拒絶したか、それは相手方に伝わっているか、追認なら契約の時にさかのぼるか、第三者の権利を害していないか。この順番で確認すれば、ほぼ整理できます。今日はここまでにします。

参照条文

  • 民法113条
  • 民法116条

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