民法 ゼロから民法#6

意思表示のしくみと心裡留保(93条)

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第1章 民法総則 ⑥/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

意思表示の設計図:効果意思と表示行為 〔短答・論文共通〕

意思表示の構造フロー

一定の法律効果を発生させたいという意思を、外部に表示する行為です。分解すると、2つの部品でできています。1つ目が効果意思。「こういう法律効果を発生させたい」という、内心の意欲です。2つ目が表示行為。それを実際に言葉や書面で外に出す行為です。「100万円で時計の所有権を移す」という内心の意欲が効果意思。「この時計、100万円で売るよ」と口に出したのが表示行為です。それは動機と呼ばれ、意思表示そのものの部品には入りません。「動機は別枠」とだけ覚えておいてください。冒頭の時計の例で言うと、甲さんの表示行為は「100万円で売るよ」でしたが、内心の効果意思は「本当は売る気なんてない」でした。そのとおりです。この内心の効果意思を、特に内心的効果意思と呼び、表示に対応する意思を表示上の効果意思と呼んで区別します。

意思表示が壊れる2つのパターン 〔短答・論文共通〕

不一致の全体地図

この”ズレ”には、実は大きく2つのパターンがあります。1つ目は、意思の不存在です。内心の効果意思そのものが無い、あるいは表示と食い違っている型です。心裡留保、通謀虚偽表示、そして錯誤の一部が、ここに入ります。瑕疵ある意思表示です。こちらは内心の効果意思はきちんとあるんですが、その意思を作る過程が歪められた型です。錯誤の一部、そして詐欺・強迫が、ここに入ります。そのとおりです。冒頭の時計の例で言うと、甲さんは最初から「売る気」という効果意思を持っていません。心裡留保です。

意思表示の不一致マップ(一覧板)

全体を一覧にすると、こうなります。意思の不存在には、心裡留保93条、通謀虚偽表示94条、そして錯誤95条の一部が並びます。瑕疵ある意思表示には、錯誤95条の残りの一部、詐欺96条、強迫96条が並びます。錯誤には2種類あって、片方は意思の不存在、もう片方は瑕疵ある意思表示に分類されます。詳しくはだけ押さえてください。この意思表示①は、全部で3本立てです。今日が話が広がる94条2項の類推適用です。前半2本で意思の不存在の代表を、最後にその応用まで、通して見ていきます。

内心を守るか、表示を信じるか 〔短答・論文共通〕

意思主義と表示主義

そこには、2つの政策の綱引きがあります。意思主義と表示主義です。表意者の内心を重視する考え方です。内心と表示が食い違うなら、内心のほうを尊重して、無効にしようという発想です。外に出た表示、つまり相手方が見て信頼した内容を重視する考え方です。内心がどうであれ、表示を信じた相手を守ろう、という発想です。どちらか一方が正しいわけではなく、条文ごとにバランスを取って使い分けられています。今日出てくる93条で言うと、1項本文は表示主義寄り、2項も表示主義の考え方で説明できます。大丈夫です。という表示主義の発想が、心裡留保の原則有効を支えている、ということだけ押さえてください。詐欺や強迫では逆に意思主義が強く働く場面も出てきますが、それはそれぞれの回で扱います。

これから何度も出てくる言葉:善意・悪意・有過失 〔短答〕

善意・悪意・有過失の定義板

ここで、今後ずっと使う言葉を3つ、先に固定しておきます。善意、悪意、有過失です。いいえ、そこが最大の誤解ポイントです。民法での善意・悪意は、道徳的な良い悪いとは関係ありません。善意は、ある事実を知らないこと。悪意は、ある事実を知っていること。ただそれだけの、技術的な言葉です。そのとおりです。乙さんが「甲さんは冗談で言っている」と知っていれば、悪意です。知ることはできたのに、不注意で知らなかった、という状態です。善意ではあるけれど、落ち度がある、というイメージです。善意無過失、善意有過失、さらに善意有過失は軽い落ち度の軽過失と、重い落ち度の重過失に分かれ、善意無重過失という言い方も出てきます。細かい呼び分けは悪意=知っている、有過失=知ることができた、の3つを押さえてください。

心裡留保の意義と原則:有効(93条1項本文) 〔短答・論文共通〕

心裡留保の意義

心裡留保とは、表意者が自分の真意ではないと知りながらする、単独の意思表示です。相手方とグルになっていない、という点が冒頭の時計の例、甲さんが1人で冗談を言っただけで、乙さんと示し合わせていたわけではありませんよね。これが心裡留保です。

【条文】 民法 第93条(心裡留保)1項

これが93条1項です。本文とただし書、2つの文がセットになっています。「表意者が真意ではないと知ってした」意思表示、つまり心裡留保でも、「その効力を妨げられない」。原則、有効ということです。乙さんが甲さんの本心を知らず、知ることもできず「買います」と信じた場合、原則どおり契約は有効に成立します。ここが今日いちばん腑に落としてほしいポイントです。甲さんは、自分の意思で「売るよ」と表示しました。乙さんは、その表示を信じて「買います」と応じています。もし内心が違うからと言って毎回無効になってしまうと、相手方は、表示された言葉を信じて取引できなくなります。そのとおりです。さっき出てきた表示主義の発想が、ここで働いています。言った以上、相手の信頼を守る。それが原則有効の理由です。

甲乙の関係図(心裡留保・原則有効)

図で見ておきましょう。甲が乙に「時計を100万円で売るよ」と表示します。乙はその真意を知らず、知ることもできませんでした。この場合、甲乙間の売買は有効です。

例外:相手が知っていた・知り得た場合は無効(93条1項但書) 〔短答・論文共通〕

93条1項ただし書に注目

もう一度、ただし書の部分に注目してみましょう。「相手方が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたとき」は、無効になります。そのとおりです。相手方が悪意、または有過失のときは、心裡留保による意思表示は無効になります。まさにそれです。乙さんが甲さんの真意を知っていた、あるいは、注意していれば分かったはずなのに気づかなかった場合、契約は無効になります。さっき、原則有効の理由は「相手の信頼を守るため」でした。でも、相手方が真意を知っていた、あるいは知り得たのなら、そもそも「守るべき信頼」がありません。そのとおりです。ここが、心裡留保93条の一番の軸です。「相手の信頼があるか、ないか」で結論が切り替わります。なお、条文の言い回しにも注意してください。現在の条文は「表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたとき」です。「真意ではないという事実」を知っていたかがポイントで、真意の中身そのものまで知っている必要はありません。

無効でも、善意の第三者には主張できない(93条2項) 〔短答・論文共通〕

93条2項の全文

いえ、実はもう1段階あります。93条2項です。

【条文】 民法 第93条(心裡留保)2項

1項ただし書で無効になった場合でも、その無効を善意の第三者には主張できない、という規定です。図で考えましょう。

甲乙丙の関係図(93条2項・第三者保護)

甲が乙に、心裡留保で意思表示をして、乙が悪意または有過失だったので、甲乙間は無効です。ここまではさっきの話です。ところが、その後、乙が丙に、その時計を転売してしまいました。丙は、甲と乙のあいだの事情を何も知らない、善意の人です。できません。丙が善意である限り、甲は丙に無効を対抗できません。丙は時計の権利を得ます。甲は、そもそも「本気じゃないのに売るよ」という外観を、自分から作り出しています。虚偽の外観を作った側に、ある程度の責任がある、という考え方です。この3点セット、つまり「虚偽の外観・作った側の帰責性・それを信じた第三者の保護」は、権利外観法理と呼ばれます。今の例なら、その信頼した第三者が、まさに丙さんです。いいえ、93条2項は善意で足ります。無過失までは要求されません。登記のような対抗要件も不要です。そこは実は奥が深く、転得者をどこまで含むかなど、細かい場合分けがあります。94条2項で、まとめて詳しく扱います。「善意なら、無過失も登記も不要で保護される」という要件だけ、しっかり押さえてください。

心裡留保が及ばない領域:身分行為 〔短答〕

適用範囲の限界

いいえ、及ばない領域があります。婚姻や養子縁組のような身分行為です。身分行為は、本人の意思そのものを最大限尊重すべき領域だからです。「表示を信じた相手を守る」という表示主義の発想が、あまり働きません。

【判例】 心裡留保のルールは身分行為には及ばない

最高裁の判例で、養子縁組のように本人の意思を尊重すべき身分行為には、心裡留保のルールは適用されない、とされています。心裡留保の枠組みとは別に、そもそも「真に親子関係を作る意思」がなければ、当然に無効と扱われます。そのとおりです。なお、手形のような取引でも、93条の適用に制限がかかる場面がありますが、そこは名前だけ触れておきます。

ここも論文で問われる論点です 〔予告(論文動画へ送る)〕

論文の型は別シリーズへ

心裡留保は、答案で規範を立てて書く場面もある論点です。事案があって、問題提起をして、規範を立てて、あてはめる、という答案の型で書かれます。ただ、この解説動画では、答案の規範定式や答案構成そのものには踏み込みません。詳しい書き方は、概要欄からリンクする論文シリーズで扱います。しっかり理解することに集中しましょう。

まとめ・自己テスト・次回予告 〔全体地図〕

まとめ①:意思表示の構造と心裡留保の3段

意思表示は、効果意思と表示行為の2つでできていて、この2つがズレる型が、意思の不存在と瑕疵ある意思表示でした。そのとおりです。そして心裡留保93条は、3段構えでした。1項本文で原則有効、1項但書で相手方が悪意・有過失なら例外的に無効、2項で無効でも善意の第三者には対抗できない。

まとめ②:適用範囲と次回予告

最後に、身分行為には93条が及ばない、という適用範囲の限界も見ました。はい、その前に、自己テストです。声に出さなくてもかまいません。1つ目、冗談で言った売買契約は、原則どう扱われますか?2つ目、相手がその冗談を見抜けた場合はどうなりますか?3つ目、意思の不存在の3類型を挙げてください。完璧です。通謀虚偽表示は、相手と示し合わせたウソです。そして、原則の向きも今日と逆転します。通謀虚偽表示は、原則、無効です。通謀虚偽表示94条でじっくり見ていきましょう。

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