民法ゼロから民法#7

通謀虚偽表示94条と善意の第三者の範囲

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第1章 民法総則 ⑦/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

前回の想起+今日の地図

前回の地図(意思の不存在マップ)想起

まず前回の確認です。意思表示は、心の中の効果意思と、外に出す表示行為でできています。効果意思そのものが無い、あるいは表示と食い違っている型が意思の不存在。効果意思はあるのに、それを作る過程が歪められた型が、瑕疵ある意思表示でした。完璧です。そして善意は知らないこと、悪意は知っていること、有過失は知ることができたこと、という語義も押さえました。心裡留保は、本人1人だけのウソでした。相手には内緒で、本気でないことを言う型です。原則は有効、相手が見抜けたときだけ無効、でしたね。今日は、1人のウソではなく、相手方と”通じた”ウソ――通謀虚偽表示です。そしてこの違いが、原則の結論をまるごとひっくり返します。4つです。1つ目、94条1項の原則――当事者の間では無効。2つ目、94条2項――善意の第三者には、無効を対抗できない。3つ目、その「第三者」とは誰か。含む例と含まない例の線引き。4つ目、転得者や、本人から譲り受けた人の扱いです。

通謀虚偽表示の意義と94条1項——原則は”無効”

93条と94条=原則の向きが逆転

心裡留保は、原則”有効”でした。でも通謀虚偽表示は、原則”無効”です。ここが今日いちばんの急所です。心裡留保は、相手が本気だと信じて頼る可能性がありました。だから、言った人の責任として原則有効にしたんです。二人ともグルなので、守るべき相手の信頼が、そもそも存在しません。条文を見てみましょう。

条文民法94条1項

民法 第94条(虚偽表示) 1 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。

ポイントは「相手方と通じて」の部分です。Aさんが友達のBさんに頼んで、「本当は売らないけど、書類上は売ったことにしよう」と口裏を合わせ、登記もBさん名義に移した場面です。

AとBの通謀関係

94条1項どおり、無効です。土地の所有権は、書類上どうあれ、Aさんに残ったままです。無効なので、お互いに受け取った物は返し合います。最初から無かったことになる、という扱いです。

94条2項——善意の第三者には対抗できない

ABCの関係図(Cが登場)

そこが今日の本題です。Cさんは、ABの口裏合わせを知りません。登記がBさん名義になっているのを信じて、本当にお金を払って買いました。手に入れられます。94条2項を見てみましょう。

条文民法94条2項

民法 第94条(虚偽表示) 2 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。

Aさんは、Cさんに対して「この売買は無効だ、土地を返せ」とは言えない、という意味です。なぜだと思いますか?これを権利外観法理と呼びます。3つの要素で成り立っています。

権利外観法理の3要素

1つ目、Bさん名義という虚偽の外観があったこと。2つ目、その外観を作ったのはAさん自身という本人の落ち度、つまり帰責性があること。3つ目、Cさんがその外観を信じたことです。自分で作ったウソの見た目の責任は、作った本人が負うべきだ、という考え方です。実はここ、判例ではAさんから直接引き継ぐ、と考えます。順番にBさんを経由するのではなく、AさんからCさんへ、法律の力でそのまま移る、という構成です。94条2項は「無効を対抗できない」としているだけで、「Bさんの売買が有効になる」とは言っていないからです。Bさんを経由させると、実質的にBさんの無効な売買を有効にしてしまうことになり、条文の文言と合いません。

94条1項の要件——成立要件を確認する

94条1項の3要件

3つの要素がそろったときです。相手方との通謀、内容が虚偽であること、そして意思表示そのものがあることです。AさんとBさんが口裏を合わせたのが通謀、売る気が無いのに売ったことにしたのが虚偽、「売る」という意思表示をしたことが3つ目です。いいえ、ここは条文の文言そのものです。判例が新しく作った物差しではなく、94条1項を読めば出てくる成立要件です。成立要件は条文から復元できるので、逐語で丸暗記する必要はありません。単独行為や合同行為でも成立し得ますが、婚姻のような身分行為には使えません。前回の心裡留保と、同じ制限です。94条1項は使えません。そして2項も、そのままでは適用されません。まさにそこです。相手が単独で外観を作った場合、通謀が無いので94条は直接使えません。でも、その場面でも第三者を守る必要がある、という問題が出てきます。

94条2項の要件①——善意で足りる

善意で足りる/無過失は不要(95条4項・96条3項との対比)

では、94条2項が本当に使えるかどうか、3つの角度から確認していきます。善意で足りるか、第三者とは誰か、登記は要るか、の3つです。なりません。94条2項が求めるのは「善意」だけです。うっかり調べなかった、という過失があっても、知らなかったなら保護されます。条文を比べてみましょう。錯誤の95条4項や、詐欺の96条3項は、はっきり「無過失」を条文に書き込んでいます。94条2項は「善意の第三者」としか書いていません。条文の言葉が違う以上、無過失までは要求していないと読むのが自然です。あります。そもそも94条は、当事者自身が本気でウソをついた場面です。錯誤や詐欺の表意者より、責任の重さが違います。判例も、無過失は不要という結論を採っています。ここは規範として、太字の結論を押さえておいてください。

判例判例(大判昭和12年8月10日)

94条2項の「善意」に関する規範 94条2項の善意の第三者として保護されるために、無過失であることは要しない

94条2項の要件②——「第三者」の定義

「第三者」の定義

ここは、判例が積み重ねてきた定義があります。声に出して、ゆっくり見てみましょう。

判例判例(大判大正5年11月17日・最高裁判所判例 昭和45年7月24日)

94条2項の「第三者」の定義 虚偽表示の当事者又はその包括承継人以外の者で、虚偽表示の外形を基礎として新たな独立の法律上の利害関係を有するに至った者をいう。

相続人のように、権利義務をまるごと引き継ぐ人です。Aさんが亡くなって相続人が現れても、その相続人はAさんの立場をそのまま引き継ぐだけなので、「第三者」には数えません。これから見る、含む例・含まない例は、全部この基準1本で判定できます。この定義は太字の部分を逐語で言えるようにしておくと、答案でも短答でも強い武器になります。

94条2項の要件③——登記は不要

対抗要件としての登記/権利保護要件としての登記

いいえ、登記は要りません。ここもよくある誤解です。177条ですね。名前だけ触れておきます。不動産の物権変動は、登記をしなければ第三者に対抗できない、という趣旨の条文です。実はここに理由が2つあります。1つ目、AさんとCさんは、177条が想定する対等な二重譲渡の関係ではありません。AさんはCさんから見て、権利を渡してくれる前の持ち主、つまり前主にあたります。177条の「第三者」は、前主・後主の関係にない、対等な取得者どうしの場面を想定した制度です。2つ目の理由は、Aさんの落ち度の大きさです。自分でウソの外観を作ったAさんに対して、Cさんにさらに登記まで要求するのは、酷だと考えられています。ただし、有力な反対説もあります。もしAさんが先に登記を取り戻してしまったら、それでもCさんが保護されるのはおかしい、という批判です。とはいえ、実務で採られているのは登記不要説だと押さえておいてください。177条の登記は、対等な人どうしが早い者勝ちを決めるための対抗要件。94条2項は、そもそもそういう場面ではないので、権利を守るための登記――権利保護要件も要りません。

「第三者」の範囲①——含む例

「第三者」に含む例

そこで一覧にしておきます。基準はさっきの定義、「新たな独立の法律上の利害関係」があるかどうかです。1つ目、Cさんからさらに買った転得者。2つ目、Bさん名義の土地に抵当権の設定を受けた人。所有権に限らず、土地を目当てに新しく利害関係を持てば、含まれます。3つ目、Bさん名義の土地を差し押さえた債権者。4つ目、仮装の抵当権をさらに担保に取った、転抵当権の設定を受けた人です。まさにそこが「新たな独立の利害関係」の中身です。

「第三者」の範囲②——含まない例

「第三者」に含まない例

ここが今日いちばんの引っかけです。1つ目、Bさんに対してただお金を貸しているだけの一般の金銭債権者です。含まれません。Bさんの財産全体には関心がありますが、この土地そのものを、まだ新しく取引の対象にしたわけではないからです。良い質問です。同じ金銭債権者でも、実際にこの土地を差し押さえた瞬間、土地そのものへの新しい利害関係が生まれます。そこで含む側に変わるんです。そこが今日いちばんの急所です。まとめて覚えるより、この境界で押さえてください。あります。2つ目、Bさんの土地に先に設定されていた抵当権が消えると誤解して喜んだ後順位抵当権者。新しく取引に入ったわけではないので、含まれません。3つ目、仮装でつくられた債権の債務者自身。債権が譲渡されようがされまいが、その人が債務者であることは変わらないからです。4つ目、Bさん名義の土地の上に建つ建物を借りているだけの人からみた、土地の賃貸人。5つ目、取り立てのためだけに債権を譲り受けた人。実質は代理人と変わらないので、独立の利害関係とは言えません。6つ目、仮装で譲渡された土地の上に建つ建物を、借りているだけの人です。土地と建物は法律上、別々の物なので、建物の賃借権があっても土地への利害関係にはなりません。代理人が虚偽表示をした場合の、本人です。断定はできませんが、当事者に近い立場として扱われることがあります。

第三者からの転得者——絶対的構成

ABCDの転得者関係図

CさんからさらにDさんが買った場面ですね。ここはCさんとDさんの、それぞれの事情の組み合わせで2パターンに分かれます。Cさんが事情を知っていた――悪意で、Dさんは知らなかった――善意の場合です。Cさんには94条2項が適用されません。でもDさんは、Cさんとは別に、自分自身の判断で保護されます。Dさん自身が「新たな独立の利害関係」を持った「第三者」にあたるからです。2つ目のパターンが、より難しいです。Cさんが善意、Dさんが悪意の場合です。実はここ、判例はDさんも保護します。これを絶対的構成と呼びます。Cさんが善意で保護された瞬間に、Aさんは確定的に権利を失い、Cさんが確定的に権利を得ます。Dさんは、そのCさんから正当に権利を引き継いだだけです。Cさんの時点で決着がついているので、そのあとDさんがどう思っていたかは、権利の帰結には影響しません。法律関係を早く安定させるための考え方です。あります。相対的構成説という有力説です。Aさんは、悪意のDさんに対しては無効を主張できる、という立場です。もしDさんが権利を取得できないとなると、CさんがDさんから責任を追及されたり、Cさんが自由に転売できなくなったりします。判例は、この不都合を避けるため、絶対的構成を採っていると理解してください。あります。Dさんが、Cさんをわら人形として利用しただけの場合です。実質はDさんが最初から仕組んでいて、Cさんを名義だけの道具として使ったような場合です。この場合、Dさんの権利主張は、信義則に反するとして認められません。1項の無効は、当事者どうしの話でした。わら人形の否定は、Dさんの主張が信義則に反するという、別の理屈です。混同しないでください。

本人からの取得者との優劣

Aからの二重譲渡と177条の対抗関係

Aさんが、Cさんとは別に、Dさんにも同じ土地を売っていた場合を考えましょう。はい、混同しやすいので注意してください。こちらのDさんは、Aさんから直接買った人です。ここは、AさんとBさんを一体のものとして見る、という考え方がポイントです。だから実質的には、AさんからCさんへ、そしてAさんからDさんへという、二重に譲渡した場面と同じだと扱われます。CさんとDさんは、対等な対抗関係に立ちます。先に登記を備えた方が勝つ、というルールで決着します。CさんがAさんに対して保護されるかは登記不要でしたが、CさんとDさんという、対等な取得者どうしの優劣は、177条の出番だという違いです。ここは切り分けて覚えてください。

ここは論文で論点になる

94条2項のあてはめは論文シリーズへ

今日扱った94条2項の第三者の該当性は、答案で正面から問われる論点です。事案があって、問題提起をして、規範を立てて、あてはめる、という答案の型で書かれます。ただ、この解説動画では、答案の規範定式や答案構成そのものには踏み込みません。書き方の詳細は、概要欄からリンクする論文シリーズで扱います。今日は「そういう論点がある」と押さえるだけで十分です。

今日の地図(保存版)

まとめ①:94条の二段構造

では、今日のポイントをまとめます。通謀虚偽表示は、94条1項で当事者間は原則無効。心裡留保とは、原則の向きが逆でした。第三者は善意で足り、無過失も登記も要りません。ここが177条との違いでした。単なる金銭債権者は含まれず、差し押さえた瞬間に含まれる側へ変わる、という反転が急所でした。

まとめ②:転得者と本人からの別取得者

転得者は、Cさんが善意なら、悪意のDさんも絶対的構成で保護される。本人からの別の取得者とは、177条の対抗関係で決着する。この2つも押さえてください。最後に、今日扱ったのは、AさんとBさんが口裏を合わせた通謀の場面まで、でした。

参照条文

  • 民法94条1項
  • 民法94条2項

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