民法 ゼロから民法#4

意思表示①(前編)心裡留保・通謀虚偽表示

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第1章 民法総則 ③/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

冗談の100万円 〔導入・フック〕

答えは原則イエスです。口に出した以上、信じた相手のために、あなたは縛られる。これが心裡留保(しんりりゅうほ)——93条のルールです。グルになった虚偽表示は原則無効。心裡留保と逆の出発点です。しかも——それを知らずに買った第三者からは、もう取り戻せません。

「冗談の契約は守らなきゃダメか(心裡留保93)」。「グルのウソ契約はどうなるか(虚偽表示94)」。「知らずに買った第三者は守られるか(94条2項類推)」。

意思表示の構造+不一致の地図 〔短答・論文共通〕

では本編へ。まず意思表示の構造から。意思表示は2つの要素でできています。「効果意思」——内心で「こうしたい」と思うこと。「表示行為」——その思いを外に出すこと(言葉・署名・押印)。「心の中の設計図」と「口から出た言葉」と捉えると分かりやすいです。正常な意思表示は、設計図と言葉が一致しています。不一致には2つの種類があります。

一つ目——「意思の不存在」。効果意思はないのに表示だけある状態。本人が不一致を分かっていてやる型が含まれます。心裡留保93・虚偽表示94・意思不存在の錯誤95①がここに入ります。二つ目——「瑕疵ある意思表示」(かしある)。効果意思はあるが形成過程に欠陥がある型。詐欺・強迫・基礎事情の錯誤がここに入ります。本回の射程はこの表の左上——本人が「知っていてやる」2型です。心裡留保=一人で知っている。虚偽表示=相手方とグルで知っている。その通り。今日この表の2行を埋めて、残り3行は後編・#5への橋渡しとします。今日全体を貫く軸は一本——「外観(表示)を信じた者を守る」。これを権利外観法理(がいかんほうり)といいます。言った以上は「言った通り」に縛られる方が社会は安定します。この幹を、心裡留保→虚偽表示→94条2項類推の順で3回なぞります。

心裡留保(93条)── 原則は”有効” 〔短答・論文共通〕

では最初の論点——心裡留保(93条)。意義:表意者が真意でないことを自ら知りながら一方的にする意思表示。まさにそれです。「心の裡(うち)に留保する」から心裡留保。では効果は——🔴 原則は”有効”(93条1項本文)。自分でウソを言っておいて「実は本気じゃなかった」と言える立場ではない。表示を信じた相手方を守る——権利外観法理の最初の現れです。

民法93条1項本文——「意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。」短答で「心裡留保は無効が原則」という引っかけが出ます。原則は有効。無効になるのは但書の例外だけです。相手方が「これはウソだ」と分かっていた、または分かるべきだった場合——この場合は無効(93条1項ただし書)。騙した側を保護する必要はないからです。

民法93条1項ただし書——「ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。」相手方が悪意または有過失なら無効。2017年の改正で文言が現代語に改められました。旧法は「知り又は知ることを得べかりしとき」でした。「知り、又は知ることができたとき」——e-Gov現行文を覚えてください。一点だけ——心裡留保の規定は身分行為(婚姻・養子縁組)には適用されません。婚姻を「冗談のつもりだった」で無効にすると、相手方の不意打ちになるからです。最判昭23・12・23がこれを確認しています。

心裡留保——善意の第三者保護(93条2項) 〔短答・論文共通〕

ここから心裡留保の第3の関係者——「善意の第三者」が登場します。仮に但書で「無効」になったとして——Bが「ウソと知っていた(悪意)」のでA・B間は無効になった。でもBがAの財産を、事情を知らないC(善意)に売り渡してしまった。善意のCに対しては、Aは「この取引は無効だ」と対抗できません。これが93条2項——2017年改正で新設された条文です。

民法93条2項——「前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。」改正前は解釈に委ねられていた。2017年改正で明文化されました。この第三者保護の趣旨は——権利外観法理です。①虚偽の外観(Aが口に出した有効っぽい取引)。②Aの帰責性(自分でウソをついた)。③Cの信頼(Cは外観を信じた)——3点があれば、Aは責任を負うという発想です。要件は善意のみ——無過失は不要、登記も不要。Aが自分でウソをついた帰責性が大きいからです。帰責性が大きい側が費用を負担する——第三者の保護要件は緩くていいわけです。93条2項と94条2項は同じ外観・帰責・信頼の幹から生えています。

三者図で確認します。AがBに冗談で「この車を50万で売る」と言った(心裡留保)。Bは「Aは冗談」と知っていた(悪意)。→ A・B間は無効(但書)。でもBはCにこの車を売ってしまった。Cは事情を全く知らない(善意)。AはCに「あの取引は無効だ。車を返せ」と言えるか?正解。AはCに無効を対抗できない。「無効が有効になる」のではありません。「無効をCに主張できなくなる」だけです。

通謀虚偽表示(94条)── 原則は”無効” 〔短答・論文共通〕

では次の論点——通謀虚偽表示(つうぼうきょぎひょうじ)、94条です。意義:相手方と通じて(通謀して)する虚偽の意思表示。心裡留保が「一人のウソ」なら、こちらは「二人でグルのウソ」。差押えから財産を守るために名義だけ友人Bに移す。A・B間で通謀して外形だけ作る典型例です。🔴 効果=原則”無効”(94条1項)。ここが最大の混同源。正面から固定してください——心裡留保=原則有効(相手方の保護)。虚偽表示=原則無効(当事者2人でグルだから)。

民法94条1項——「相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。」94条1項の要件は3つ——①通謀(A・B双方の合意)②虚偽(真意でない)③意思表示。この3要件を全て満たした場合に直接適用できます。どれか欠けたら——94条2項類推の出番です(そこが論文の核心)。善意の第三者が登場する場面——A(本来の所有者)とB(仮装の名義人)が通謀でB名義の登記を作った。Bからこの物件を事情を知らずに買ったC(善意)——CはAから取り戻されるか?94条2項が守ります。

民法94条2項——「前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。」口にチャックのイメージです。A・B間では無効でも、善意のCには口にチャック。AはCに無効を主張できない。CはBから有効に取得します。

通謀図で確認します。A・B間で通謀(B名義の虚偽登記)——94条1項で無効。BからCへ——Cが善意なら94条2項でAはCに無効を対抗不可。Cは所有権を取得。A→C(法定承継取得)。判例(最判昭42・10・31 民集21-8-2232)は法定承継取得説を採ります。A→Cへ直接移転します。もしB→Cへ順次取得説を採ると、B→Cの部分が有効になってしまう。それでは「虚偽表示は無効(94条1項)」の出発点に反します。

94条2項「善意の第三者」の要件+範囲 〔短答〕

では94条2項の「第三者」の要件と範囲を詰めます。短答頻出です。🔴 善意で足ります。無過失は不要。登記も不要。93条2項と同じです。A・Bがグルで外観を作った——帰責性が大きい。帰責性の大きい者に費用を負担させる。だから第三者は善意さえあれば保護される。理由が2つあります。一つ目——AはBに権利を移転した(外観では)。だからAはBの前主。177条の対抗関係は「後主」対「後主」の問題——前主Aは177条の第三者ではない。Aの帰責性が大きいから、Cに登記という追加コストをかける必要がない。最判昭44・5・27がこれを確認しています。

94条2項の保護要件まとめ——善意で足る(無過失不要)/登記不要/帰責性大が根拠。定義から入ります。第三者=当事者(A・B)・包括承継人(相続人など)以外の者で、虚偽表示の外形を基礎新たな独立の法律上の利害関係を有する者。虚偽の外形を土台にして、新しくそこに飛び込んだ人だけ守られる。

【該当する第三者】——仮装譲受人Bからの転得者C——Bの取得を信じてCが新たに取引した。外形を土台にした。仮装の目的物の差押債権者E——B財産と信じてEが差し押さえた。外形を土台にした。仮装債権の譲受人・仮装抵当権からの転抵当権者も該当します。【該当しない第三者】——単なる金銭債権者——特定財産への法律上の利害がない。外形を土台にしていない。特定の不動産がAのものかBのものかに依存していない。後順位抵当権者——外形に依存して新たな取引をしたわけではない。順位が上がっても独立の利害ではない——棚ぼたにすぎない。仮装債権の債務者——Aがした仮装譲渡で支払先が変わるだけ。新たな利害関係を積極的に得ていない。線引きは「外形を土台にして積極的に新たな法律関係を結んだか」です。

転得者・本人からの取得者(名称+結論) 〔短答〕

ここで94条2項の派生論点を名称と結論だけ押さえます。精密論は物権変動の回で扱います。A→B(仮装)→C(善意)→D(悪意)の場合——CはすでにAに無効を対抗できない(善意・94条2項で保護)。善意のCから取得したDは悪意でも——保護されます(絶対的構成)。善意のCが取得した瞬間に、Aの無効主張の道が閉じる。だからD(悪意)も保護。逆——A→B(仮装)→C(悪意)→D(善意)の場合は?Cは悪意だから94条2項の保護なし。それでも善意のDは保護される(最判昭45・7・24)。次——本人からの取得者と善意の第三者の関係。AがCに対抗できなくなった後、A自身が別のEに物件を売った場合——CとEはどちらが優先するか?AとBを一体と見ると、AからEもBからCも「仮装当事者」から取得したことになる。だからC対E=対抗関係(177条)。先に登記した方が勝つ。根拠は最判昭42・10・31 民集21-8-2232です。精密論は物権変動の回で体系的に扱います。

94条2項類推適用——論文の型v2 〔論文〕

94条2項類推適用。94条2項の直接適用には、94条1項の要件が必要です。要件は①通謀②虚偽③意思表示——この3つ全部が必要。でも、通謀がなくても「虚偽の外観」が作られる場面があります。Aが自分でB名義の所有権登記を作ってしまった。A・Bの間に通謀はない。でも「B名義の登記」という虚偽の外観は存在する。94条1項の要件がない→直接適用できない。でもCを保護しなくてよいか?——Aが自分でその外観を作ったのだから、Cに責任を負うべきではないか?そこで94条2項を類推適用します。🔴 注意——「虚偽登記を見たら常に類推」は誤りです。94条1項の要件を満たさないときだけ類推の問題になる。通謀がある場面では直接適用が先です。

類推適用の構造図を見てください。①虚偽の外観(B名義の登記など)が存在する。②その外観の作出に権利者(A)の帰責性がある。③第三者CがAの帰責性のある外観を信頼した。この3要件が揃ったとき——94条2項を類推して、善意のCを保護します。

論文の型:94条2項類推適用 〔論文〕

コア規範を見てください。★コア規範——94条2項の趣旨は、虚偽の外観の作出につき帰責性のある権利者の犠牲のもと、その外観を信頼した第三者を保護する権利外観法理にある。そこで94条1項の要件を満たさない場合でも、①虚偽の外観権利者の帰責性第三者の信頼の3要件を満たせば、94条2項を類推適用できると解する。採点キーワードは4つ——「虚偽の外観」「権利者の帰責性」「第三者の信頼」「類推適用」。あとは趣旨(権利外観法理)から復元できます。復元キーを鎖の順で確認します。①94条2項の趣旨——帰責性ある権利者の犠牲で外観を信じた第三者を保護(権利外観法理)。②94条1項は通謀ある虚偽表示が対象——通謀がなくても利益状況は同じ場合がある。③だから「虚偽の外観+帰責+信頼」があれば94条2項を類推できる。④帰責性は「外観が権利者の意思に関わるか」で判断——自己作出・事後承認は帰責大。⑤帰責性が小さい非対応型は、第三者に無過失も要求して均衡をとる。帰責性の類型を少し補足します。自己作出型——AがB名義で自ら登記を作った(最判昭41・3・18)。帰責性が大きい。自己作出型は第三者が善意で足る(無過失不要)。他人作出型(事後承認)——BがAに無断でB名義を作り、Aが後から黙認した。Aの事後承認で帰責性が生じる(最判昭45・9・22)。こちらも善意で足る非対応型(110条併用)——外観が2段階になる複雑な場合(最判昭43・10・17)。このときは94条2項と110条の法意を合わせて第三者に無過失まで要求します。非対応型の精密論——110条との関係・取消後の第三者177条——は後の回で扱います。

答案の型で確認します。【事例】Aが甲建物につきB名義で所有権登記を自ら作った。Cがこれを信じてBから買い受け、登記を備えた。AがCに抹消登記請求。【問題提起】A・B間に通謀も虚偽の意思表示もない。94条2項は直接適用できない。Cは94条2項の類推適用で保護されないか。【規範】①虚偽の外観②権利者の帰責性③第三者の信頼の3要件で類推可。【あてはめ】①B名義の虚偽登記が存在。②AがB名義の登記を自ら作出(帰責性大)。③CはBが所有者と善意で信頼(自己作出型ゆえ無過失不要)。【結論】94条2項類推適用でCは所有権取得。Aの抹消請求は認められない。「直接適用できない理由」を先に書いてから類推に進む——ここを省くと論理が飛びます。

まとめ+次回予告 〔短答〕

🔴 原則の逆転をまず固定します。心裡留保(93条)=原則”有効”——表示への信頼を守る。虚偽表示(94条)=原則”無効”——二人でグルだから守る必要がない。次——第三者保護の要件。93条2項・94条2項ともに「善意」で足る——無過失不要・登記不要。帰責性が大きい表意者の犠牲で第三者を守る——だから要件が緩い。対比のために覚えておいてください——錯誤95条4項の第三者保護は善意・無過失が要る。詐欺96条3項も善意・無過失の両方が要る。94条2項の第三者——外形を基礎に新たな独立の利害関係を有する者。転得者・差押債権者はOK。単なる金銭債権者・債務者・後順位抵当権者はNG。94条2項類推——3要件(外観・帰責・信頼)で保護。直接適用できないときに限る。類推適用でも登記は不要です——直接適用と同じ権利外観法理だからです。

今日全体を貫いた一本の軸——「外観を作った者は、それを信じた者に対し責任を負う」——権利外観法理。①虚偽の外観②帰責性③信頼——この3点セットが、民法を貫く幹です。心裡留保(93条2項)→虚偽表示(94条2項)→94条2項類推——3つとも同じ幹から生えている。送り論点を確認します。転得者・本人からの取得者の精密論=物権変動の回・表見代理の回で回収。94条2項類推の非対応型(110条精密)=表見代理の回で回収。取消後の第三者177条=物権変動の回で回収。意思表示の効力発生(97条・到達主義)・公示送達(98条)=後の回で回収。重大な錯誤なら取り消せる、でも重過失があると取り消せない——その線引きと、2017年改正で新設された基礎事情の錯誤(95条1項2号)を扱います。


📝 論文の型(フル論証・正本) — 94条2項類推適用

論文で書く規範の正本。動画の ronsho_kyogi94_2_ruisui_kihanronsho_kyogi94_2_ruisui_kata カードの全文版。覚えるのは★コア規範の採点キーワードだけ、残りは復元キーから組み立てる。

★コア規範(権利外観法理・最判昭42・10・31 ほか)

「94条2項の趣旨は、虚偽の外観の作出につき帰責性のある権利者の犠牲のもと、その外観を信頼した第三者を保護する権利外観法理にある。そこで94条1項の要件を満たさない場合でも、①虚偽の外観権利者の帰責性第三者の信頼の3要件を満たすときは、94条2項を類推適用できると解する。」

逐語で固定するのは採点キーワードの4語だけ——「虚偽の外観」「権利者の帰責性」「第三者の信頼」「類推適用」。判示の丸写しは不要(94条2項類推は単一判例の判示ではなく、権利外観法理から定式化された規範)。

復元キー(趣旨から3〜5ステップで再構成)

  1. 94条2項の趣旨——帰責性ある権利者の犠牲で、外観を信じた第三者を保護する(権利外観法理)。
  2. 94条1項(直接適用)は通謀ある虚偽表示が対象。だが通謀がなくても、権利者が自ら虚偽の外観を作る等、利益状況が同じ場合がある。
  3. ゆえに「虚偽の外観+権利者の帰責性+第三者の信頼」の3要件を満たせば、94条2項を類推適用できる。
  4. 帰責性の大小は「外観が権利者の意思にどこまで関わるか」で測る——自己作出型(最判昭41・3・18)・事後承認型(最判昭45・9・22)は帰責性が大きく、第三者は善意で足る(無過失不要・登記不要)。
  5. 非対応型(外観が二段階・権利者の意思を超える。最判昭43・10・17)は帰責性が相対的に小さく、94条2項に110条の法意を併せ、第三者に善意・無過失まで要求して均衡をとる。

答案の型(事例→問題提起→規範→あてはめ→結論)

  • 【事例】 Aが甲建物につき、自らB名義の所有権登記を作出した(A・B間に通謀・虚偽の意思表示はない)。Cがこれを信じてBから買い受け、登記を備えた。AがCに対し登記の抹消を請求した。
  • 【問題提起】 A・B間に通謀も虚偽の意思表示もなく、94条2項を直接適用できない。Cは94条2項の類推適用で保護されないか。
  • 【規範】 94条2項の趣旨は、虚偽の外観の作出に帰責性ある権利者の犠牲のもと外観を信頼した第三者を保護する権利外観法理にある。そこで94条1項の要件を満たさない場合でも、①虚偽の外観②権利者の帰責性③第三者の信頼の3要件を満たせば94条2項を類推適用できる(最判昭42・10・31 ほか)。
  • 【あてはめ】 ①B名義の虚偽の登記が存在する。②AがそのB名義登記を自ら作出した(自己作出型=帰責性大)。③CはBを所有者と善意で信頼した(自己作出型ゆえ無過失は不要)。
  • 【結論】 94条2項類推適用により、Cは甲建物の所有権を取得する。Aの抹消登記請求は認められない。

勝負どころは2つ——(1)「94条1項を直接適用できない理由(通謀・虚偽の意思表示の不存在)」を先に書いてから類推へ進む(飛ばすと論理が飛ぶ)。(2) 帰責性の類型を見極め、第三者の保護要件を善意のみ(自己作出・事後承認)/善意・無過失(非対応型・110条併用)で打ち分ける。

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