民法ゼロから民法 論文

177条の第三者②(背信的悪意者・転得者)

印刷用PDFを開く

ゼロから民法 論文/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

事例

【事例】問題文——甲土地をめぐるA・B・C・D・Eの事案 図:【事例】問題文——甲土地をめぐるA・B・C・D・Eの事案

今日は、その続きです。前の回で第三者にあたった抵当権者は、AB間の売買を知りませんでした。今日は、全員が知っています。実は、先の売買を知っていただけでは、第三者から外れません。では何が結論を動かすのか。それを、事実の拾い方まで含めて見ていきます。まず、問題文を読みます。Aは甲土地を所有し、登記名義もAである。甲土地の時価は、そのころ1800万円ほどである。3月1日、AはBに甲土地を代金1500万円で売った。Bは同日、代金全額を支払い、引渡しを受けた。Bは、隣で営む飲食店の客用駐車場として甲土地を使い始め、入口に店名の看板を立てた。所有権移転登記は、Aの書類の準備が遅れたため未了で、登記名義はAのままである。ここからは、筋書きが3つに分かれます。1つめ、事情C。自宅の建築用地を探していたCは、5月に甲土地の看板を見て、Aに問い合わせました。そこで、AがBに売ったことを聞きます。Cは、「まだ登記がBに移っていないなら」と考えて、Aに1800万円を提示しました。Aは応じ、5月20日にAC間の売買が成立して、同日、C名義の登記がされました。CはBと面識がなく、買受け後もBに何も申し入れていません。Bが退去を求めると、Cは言います。「Bは登記がない。私に対抗できない」。2つめ、事情D。事情Cとは別の筋書きです。Dは、Bの店で店長として働いていた人です。Bから、甲土地を買ったこと、登記がまだなこと、駐車場がなければ店の客足が保てないことを聞いていました。

Dは店を辞めたあと、Aに「登記がまだなら、自分に売っても法律上問題はない」と言って、売却を持ちかけます。そして、相場より安い1000万円で買い受け、5月20日に、D名義の登記がされました。その翌週の5月28日、DはBに言います。「3000万円で買い取らないなら、駐車場を閉鎖する」。3つめ、事情E。Dの続きです。Bが申入れを断ると、Dは、7月1日に、甲土地をEに1700万円で売り、同日、E名義の登記がされました。Eは、自社の資材置場にするために買った人です。甲土地がBの駐車場として使われていることと、AB間の売買があったことは、Dから聞いて知っていました。ただし、DとBの間のいきさつ、つまりDの経歴とDの申入れは、知りませんでした。設問は、まず3つです。4つめは、別の筋書きとして、あとで足します。設問1、事情Cの場合に、BはCに対し、C名義の所有権移転登記の抹消登記手続を請求できるか。設問2、事情Dの場合に、BはDに対し、D名義の登記の抹消を請求できるか。設問3、事情DとEの場合に、BはEに対し、E名義の登記の抹消を請求できるか。

関係図その1——AからBへ売買で登記なし、AからCへ売買で登記あり 図:関係図その1——AからBへ売買で登記なし、AからCへ売買で登記あり

図にします。まず事情Cです。上にAがいて、Bへ売買の矢印が伸びています。Bの横には「登記なし」。Aからは、Cへもう1本。こちらは「登記あり」です。Bは駐車場として使っているのに、登記だけ追いついていないんです。そこへCが、登記の空白を見て入ってきた形です。

関係図その2——AからBへ売買、AからDへ売買で登記、DからEへ売買で登記 図:関係図その2——AからBへ売買、AからDへ売買で登記、DからEへ売買で登記

次に、事情DとEです。AからBへの売買は同じです。Aからは、Dへ売買と登記。さらに、DからEへ、売買と登記がつながります。Dの横に、Bの元店長と書いてあります。Eの横には、Dのいきさつは知らない、と書きました。

事案の時系列——3月1日AB売買、5月20日AC売買とAD売買と登記、5月28日Dの申入れ、7月1日DE売買と登記

線が一本につながっているんです。時間の並びです。3月1日に、AB間の売買と引渡し。ここでBは所有者になります。5月20日に、事情Cでは、AC間の売買と登記。事情Dでは、AD間の売買と登記。5月28日にDの申入れ、7月1日にDからEへの売買と登記です。形は同じです。ですが、結論は同じにはなりません。

物差しの確認

条文:177条 図:条文:177条

まず、177条を全文で確認します。

条文民法177条

不動産に関する物権の変動の対抗要件 第百七十七条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

条文は、「第三者」とだけ書いています。その中身は、解釈で絞ります。条文の字面だけでは、答えが出ません。

前の回の物差し——正当な利益は、まず類型で見る 図:前の回の物差し——正当な利益は、まず類型で見る

前の回で立てた物差しを、1つだけ思い出します。177条の「第三者」は、当事者およびその包括承継人以外の者であって、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者でした。欠缺というのは、登記がないことです。その正当な利益は、まず類型で見ます。物権を取得した者は、原則として正当な利益がありました。類型で見れば、3人とも、原則として正当な利益があります。さて、ここで問いです。C、D、Eは、全員が、AB間の売買を知っていました。それでも、結論はそろいません。知っていたことは、結論のどこに効いて、どこには効かないのでしょうか。動画を止めて、考えてみてください。答えです。知っていたという事実は、「悪意」という要素に入ります。ですが、それだけでは結論は動きません。結論を動かすのは、別の要素です。登記がないことを主張するのが信義に反する、という事情です。この2つを分けて見る回です。

事実を拾うときに、2つの箱に仕分けるんです。1つは、知っていたことを入れる箱。もう1つは、信義に反する事情を入れる箱です。この箱の使い方を、今日は何度も見せます。その前に、前の回の確認を1問だけ。前の回で、抵当権を設定された人は第三者にあたりました。なぜ、登記がなければ対抗できない相手だったのでしょうか?Bが登記なくして対抗できるなら、その人は抵当権を失うからです。登記しだいで自分の立場が変わる人でした。その物差しの例外を、今から見ます。

背信的悪意者の規範

問題提起と規範——背信的悪意者は第三者から外れる 図:問題提起と規範——背信的悪意者は第三者から外れる

問いを立てます。物権を取得した者は、原則として、正当な利益を有します。では、その者が物権変動を知っていた場合でも、177条の「第三者」にあたるのでしょうか。答えを、規範としてまとめます。

⭐ 論文で書く規範:背信的悪意者 177条が保護する取引の安全は、自由競争の範囲内のものである。そうであれば、物権変動を知っていたというだけで排除する理由はなく、悪意者も「第三者」に含まれると解する。 もっとも、相手方を害する目的を有するなど、自由競争の範囲を逸脱した者が登記の欠缺を主張することは、信義則(1条2項)に反する。このような者を背信的悪意者といい、「第三者」に含まれないと解する。 (規範(最判昭43・8・2 参照))

規範は2つの段落です。1つめ。177条が守る取引の安全は、自由競争の範囲内のもの。だから、知っていただけの悪意者も「第三者」に含まれる。2つめ。ただし、相手方を害する目的があるなど、自由競争の範囲を逸脱した者が登記のないことを主張するのは、信義則に反する。その人が背信的悪意者で、「第三者」に含まれない。答案では、背信的悪意者かどうかを2つに分けて認定します。物権変動を知っていたこと、つまり悪意。それと、登記がないことを主張するのが信義に反する事情、つまり背信性です。悪意だけで背信性のない人を、単純悪意者と呼びます。単純悪意者は、第三者のままです。

知っていただけで足りないのは、自由競争だからです。たとえば、行列に並んで席を待っている人がいるとします。その横で、空いた席を先に押さえる人がいても、それだけなら、競争の範囲です。不動産でも、他人が先に買っていることを知ったうえで、より良い条件を示して買うことは、正当な取引です。先に買った人が登記を急がなかったことは、先に買った人の側の事情です。ですから、知っていたことだけで、第三者から外してはいけません。登記は、取引の安全を守るための制度です。ところが、先に買った人を困らせるために、登記のないことを使う人が、「登記を持ってこい」と言う。そのような人に、登記による保護を与える理由はありません。解説の回でも見た、1条2項の信義則です。権利の行使は、信義に従い誠実にしなければならない、という条文です。この考え方が根にあります。そこで、規範では、自由競争の範囲を逸脱した者が登記のないことを主張するのは、信義則に反する、という形で書きます。

ここが、答案の核心です。実際の答案では、事実を2つの箱に仕分けて拾います。順番はこうです。まず原則を先に言う。物権を取得した者だから、正当な利益がある。次に、例外を検討します。悪意の箱には、知っていた事実と、いつ知ったかを入れます。背信性の箱には、次の視点で事実を拾います。取得の目的。取得の経緯と方法。先に買った人、つまり第一譲受人との関係。取得後の態度。そして、箱の中の事実を、「信義に反するか」で評価します。悪意の箱さえ埋まれば例外になる、という考えが、一番の落とし穴です。悪意の箱だけが、いくら埋まっても、結論は動きません。評価の対象は、背信性の箱のほうです。ここで、判例を見ておきます。

判例最判昭和43年8月2日

背信的悪意者と177条 実体上物権変動があつた事実を知る者において右物権変動についての登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情がある場合には、かかる背信的悪意者は、登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有しないものであつて、民法一七七条にいう第三者に当らないものと解すべき……

判旨は、ほぼ規範のとおりです。注目したいのは、事案のほうです。この事案では、二重譲渡の第2の買主が、高く売りつける目的で買い受けていました。買取りを求めて、断られると、転売しています。こうした事実が、背信性の箱に入る事実の手本になります。今日のDは、これと方向が重なりますが、事実は別物です。自分の頭で、拾い直します。背信性の箱には、その事案の事実に即して、拾います。

設問1

設問1の請求——登記の抹消請求とCの言い分 図:設問1の請求——登記の抹消請求とCの言い分

設問1です。BはCに、C名義の登記の抹消を請求します。根拠は、所有権に基づく妨害排除請求権です。Bが甲土地を所有し、C名義の登記が存在する。Cに登記を保持する権原がなければ、認められます。Bは、3月1日の売買で、176条により所有権を取得しています。ところがCは、「Bは登記がない。だから、所有権の取得を私に対抗できない」と言います。ここで、177条の問いが立ちます。Cは第三者にあたるか。

設問1のあてはめ——悪意の箱は埋まり、背信性の箱は空 図:設問1のあてはめ——悪意の箱は埋まり、背信性の箱は空

型どおり、書いていきます。まず、Cは、AB間の売買の当事者でも、包括承継人でもありません。次に、原則です。Cは、5月20日にAから甲土地を買って、登記を備えました。物権を取得した者にあたります。Bが登記なくして対抗できるなら、Cは甲土地を失います。Cは、Bの登記しだいで、自分の立場が変わる人です。原則として、正当な利益があります。次が、例外の検討です。Cは、背信的悪意者にあたるでしょうか。悪意の箱から見ます。悪意は認められます。ここは、認めたうえで、次へ進みます。争う場所ではありません。背信性の箱です。さっきの視点で拾いましょう。取得の目的は何でしょうか。

取得の経緯と方法はどうでしょう。第一譲受人との関係と、取得後の態度は。ここまでを評価します。たしかに、Cは、登記がBに移っていないことに着目して買っています。ですが、Bを困らせる目的も、Bから不当な利益を得る目的も、見当たりません。Cが登記のないことを主張しても、信義に反するとは、いえません。よって、背信性は認められません。Cは、悪意でも背信性のない単純悪意者です。自由競争の枠内にあります。したがって、Cは正当な利益を失わず、177条の第三者にあたります。登記が未了なのを見て買った点が、背信性の判断で迷うところです。決め手は、気持ちの問題ではありません。登記が未了なのに乗じた面があっても、Bを害する目的も、不当な利益を得る目的もなく、通常の取引で取得している。だから、信義に反しない、と評価します。結論です。Bは登記を備えていないので、所有権の取得をCに対抗できません。よって、BのCに対する登記抹消請求は、認められません。

知っていたことは、ここでは効きませんでした。次は、背信性の箱が埋まる人です。

設問2

設問2の請求——Dに対する登記の抹消請求とDの言い分 図:設問2の請求——Dに対する登記の抹消請求とDの言い分

設問2です。BはDに、D名義の登記の抹消を請求します。根拠も、運びも、設問1と同じです。Dも言います。「Bは登記がない。私に対抗できない」。では、Dは第三者にあたるか。さっきの型を、自分で当てられるか、試してみてください。悪意の箱と、背信性の箱に、それぞれ何が入るでしょうか。動画を止めて、考えてみてください。

設問2のあてはめ——悪意の箱はCと同じ、背信性の箱が埋まる 図:設問2のあてはめ——悪意の箱はCと同じ、背信性の箱が埋まる

答え合わせです。型は同じです。当事者でも包括承継人でもなく、5月20日に取得して登記を備えた、物権を取得した者です。原則として、正当な利益があります。例外の検討に入ります。悪意の箱です。悪意が認められます。ここは、Cと同じです。背信性の箱です。まず、取得の目的。取得の翌週に、Dは何をしたでしょうか。この申入れは、Bが駐車場を必要としていることを利用して、Bから高い代金を取ろうとするものです。Dは、そのために甲土地を取得したと、評価できます。Dが甲土地を自分で使う事実は、問題文にありません。次に、取得の経緯と方法。Dは、Aに、「登記がまだなら、自分に売っても法律上問題はない」と持ちかけました。そして、相場より安い1000万円で、買い受けました。Cは、時価の1800万円を示して、Aと取引しましたね。ここも対照的です。次に、第一譲受人との関係。Dは、Bの店で働く中で、Bから打ち明けられた事情を、取得の働きかけに使っています。最後に、取得後の態度。買取りを求め、Bが断ると、Eに転売しています。ここまでを評価します。このようなDが、「Bは登記がない」と主張することは、信義に反すると認められます。よって、背信性が認められます。Dは、悪意で、しかも背信性がある。背信的悪意者です。したがって、Dは正当な利益を有せず、177条の第三者にあたりません。結論です。Bは、登記を備えていなくても、所有権の取得をDに対抗できます。

Bは甲土地を所有し、D名義の登記があり、Dに登記を保持する権原はありません。よって、BのDに対する登記抹消請求は、認められます。

CとDを並べる——悪意の箱は同じ、背信性の箱だけが違う 図:CとDを並べる——悪意の箱は同じ、背信性の箱だけが違う

CとDを、1枚に並べます。悪意の箱は、どちらも埋まっています。2人とも知っていました。違うのは、背信性の箱です。Cは、自分で使う目的、時価の取引、面識なし、申入れなし。Dは、高値の買取りを迫る目的、相場より安く買う、元店長として聞いた事情を使う、買取り要求と転売。分けたのは、知っていたかどうかではありません。その人が、登記のないことを主張するのが、信義に反するかどうかです。ここが、今日の山場です。では、事実を1つ減らしてみます。もしDが、Bの元店長ではなく、Bと何の関係もなかったら、どうでしょう。それでも、買取りを迫る目的や、相場より安い取得といった事実は残ります。ですが、Bの打ち明け話を使った、という事実は消えます。そのぶん、背信性の箱は軽くなります。それでも、残った事実を合わせれば、信義に反すると評価できます。背信性は、1つの事実ではなく、箱に入った事実を合わせて評価します。

設問3

設問3の請求——Eに対する登記の抹消請求とEの言い分 図:設問3の請求——Eに対する登記の抹消請求とEの言い分

設問3です。BはEに、E名義の登記の抹消を請求します。Eは、7月1日に、Dから甲土地を買って、登記を備えました。Eも言います。「Bは登記がない。私に対抗できない」。ここで、問いです。Dは、第三者にあたりませんでした。Bは、登記なくしてDに勝てます。では、Dから買ったEにも、Bは勝てるでしょうか。Dの背信性は、Eに移るでしょうか。動画を止めて、考えてみてください。答えを言います。結論は、Bは、Eに負けます。Dの背信性は、Eには移りません。Dが悪質でも、Eには負けます。その理由を、順に見ます。

判定の図——Dは無権利者ではない、Eは自分の事情で判断する 図:判定の図——Dは無権利者ではない、Eは自分の事情で判断する

まず、Dは無権利者ではない、という点から押さえます。Bは、Dが背信的悪意者だから、登記なくしてDに対抗できます。ですが、それは、Bが登記なくして所有権の取得をDに対抗できる、という意味にとどまります。AD間の売買が、無効になるわけではありません。Dは、Aから、有効に所有権を取得しています。ですから、DからEへの売買は、無権利者から買ったものではありません。ここが、Eが、原則として正当な利益を持つ人になる、理由です。Dが無権利者なら、Eは何も取得できず、まったく違う話になります。ですが、Eは、そうではありません。次に、第三者から外れるかどうかは、誰を基準に決まるのでしょうか。それは、その人と、第一譲受人との間で、相対的に判断されます。相対的というのは、そのEとBとの関係で、E自身の事情を見る、という意味です。背信性は、登記のないことを主張するのが信義に反するかという、その人自身の振る舞いへの評価だからです。ですから、Dの背信性は、Eに自動では移りません。Eが外れるのは、E自身が、Bとの関係で背信的悪意者と評価されるときだけです。先ほどの行列でいえば、席を押さえた人の悪さは、その席を譲り受けた別の人に、自動では乗りません。譲り受けた人が、自分で席代を取りに行っていたら、その人は別です。この判断を、規範にします。

規範——背信的悪意者からの転得者は、自分の事情で判断する 図:規範——背信的悪意者からの転得者は、自分の事情で判断する

問いは、こうです。背信的悪意者からの転得者は、前主が背信的悪意者であることを理由に、第一譲受人との関係で、177条の「第三者」にあたらないのでしょうか。

⭐ 論文で書く規範:背信的悪意者からの転得者 背信的悪意者であるがゆえに登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者にあたらないとされる場合であっても、第一譲受人は、登記なくして所有権取得を背信的悪意者に対抗することができるというにとどまり、その者とその前主との売買自体の無効を来すものではないから、転得者は無権利者から当該不動産を買い受けたことにはならない。 また、登記を経由した者が「第三者」から排除されるかどうかは、その者と第一譲受人との間で相対的に判断されるべき事柄である。 そこで、背信的悪意者からの転得者は、第一譲受人に対する関係で転得者自身が背信的悪意者と評価されるのでない限り、当該不動産の所有権取得をもって第一譲受人に対抗することができる。 (規範(最判平8・10・29))

3つに分けて読みます。1文目。背信的悪意者に対しては、登記なくして対抗できるにとどまる。だから、転得者は無権利者から買ったことにならない。2文目。第三者から外れるかどうかは、相対的に判断される。3文目。だから、転得者は、転得者自身が背信的悪意者と評価されるのでない限り、対抗できる。判例の言葉を、そのまま見ます。

判例最判平成8年10月29日

背信的悪意者からの転得者 所有者甲から乙が不動産を買い受け、その登記が未了の間に、丙が当該不動産を甲から二重に買い受け、更に丙から転得者丁が買い受けて登記を完了した場合に、たとい丙が背信的悪意者に当たるとしても、丁は、乙に対する関係で丁自身が背信的悪意者と評価されるのでない限り、当該不動産の所有権取得をもって乙に対抗することができるものと解するのが相当である。

判例の甲はA、乙はB、丙はD、丁はE、と読み替えてください。そうすると、事例とぴったり重なります。

設問3のあてはめ——Eの悪意の箱は埋まり、背信性の箱は空 図:設問3のあてはめ——Eの悪意の箱は埋まり、背信性の箱は空

あてはめます。当事者でも包括承継人でもない。Dから有効に所有権を取得して、7月1日に登記を備えた、物権を取得した者です。Bが登記なくして対抗できるなら、Eは甲土地を失います。原則として、正当な利益があります。例外の検討です。ここで、頭の向きを変えます。背信的悪意者にあたるかは、BとEの間で、E自身の事情について判断します。Dの事情を、Eの箱に入れてはいけません。悪意の箱です。悪意が認められます。背信性の箱に移ります。取得の目的は?代金は?そして、DとBのいきさつは?Dの経歴も、Dの申入れも、知りませんでした。Eには、Bを害する目的も、Bから不当な利益を得る目的も、見当たりません。Eが登記のないことを主張しても、信義に反するとは、いえません。よって、背信性は認められず、Eは単純悪意者です。177条の第三者にあたります。結論です。Bは登記を備えていないので、所有権の取得をEに対抗できません。よって、BのEに対する登記抹消請求は、認められません。Dには勝てて、Eには負ける。これが、この設問の答えです。

仮に、Eが、Dの申入れを知ったうえで買っていた場合を考えます。その場合は、Eの背信性の箱に、Eが知っていた事実が入ります。結論が動くかどうかは、E自身の事情しだいです。動くとすれば、Dの評価が移るからではなく、E自身の評価が変わるからです。設問3は、この一点を答案に書き分ける問題です。

設問4

設問4の事情——Cから、元店長のDへの売買 図:設問4の事情——Cから、元店長のDへの売買

設問4です。設問3と、逆の形を見ます。その前に、1問だけ、復習します。解説の回で見た、94条2項の話です。善意の第三者が現れたあとに、悪意の転得者が出てきたとき、その転得者は権利を取得できましたか。取得できました。善意の第三者が権利を取得した時点で、決着しているからです。この発想は、これから使います。事情です。事情Cのとおり、Cは5月20日に、C名義の登記を備えています。Cは建築計画をやめ、6月10日に、甲土地を1900万円でDに売りました。同日、D名義の登記がされています。Dは、事情Dと同じ経歴の人です。Bの店の元店長で、Bから甲土地の件を聞いていました。Cは、Dの経歴を知らずに売りました。CとDは、この売買まで、面識がありません。その翌週の6月17日、DはBに、「3000万円で買い取らないなら駐車場を閉鎖する」と申し入れました。設問4、BはDに対し、D名義の登記の抹消を請求できるか。ここで、気づくことがあります。

Dを背信的悪意者とみれば、Bが勝つように見えます。ですが、設問3とは向きが逆です。設問3は、前主が背信的悪意者で、転得者が単純悪意者でした。設問4は、前主Cが単純悪意者で、転得者が背信的悪意者です。

設問4の時系列——5月20日にCが登記を備え、Bは所有権を失う 図:設問4の時系列——5月20日にCが登記を備え、Bは所有権を失う

まず、Cの扱いを確認します。Cは、単純悪意者で、第三者にあたります。これは、設問1のとおりです。Cは5月20日に、登記を備えました。この時点で、Bは、所有権の取得をCに対抗できなくなります。相手ごとに見るのは、その人が第三者から外れるかどうか、です。Cは、外れない第三者でした。そのCが先に登記を備えたので、甲土地の所有者は、Cに確定します。同じ甲土地を、BとCが両方とも持ち続けることはできません。Bは、甲土地の所有権を、確定的に失いました。Dは、そのCから、Cの所有権をそのまま引き継いで買った人です。そうすると、Bは、6月10日の時点で、すでに無権利者です。無権利者のBが、Dの登記の抹消を求める根拠は、ありません。Dが背信的悪意者かどうかを、論じても、Bは救われません。

設問3と設問4——Bが負ける理由はちがう 図:設問3と設問4——Bが負ける理由はちがう

Bが負ける理由が、違うんです。設問3のBは、Eが第三者にあたるから負けました。設問4のBは、もう所有権が残っていないから負けます。Dが背信的悪意者であるかどうかは、すでに失った所有権を、取り戻させるものではありません。結論です。BはDに対して、甲土地の所有権を主張できません。よって、BのDに対する登記抹消請求は、認められません。

早期安定——決着した取引を、あとから蒸し返さない 図:早期安定——決着した取引を、あとから蒸し返さない

Bが負ける理由は、法律関係の早期安定です。前主が単純悪意者で、登記を備えた時点で、AC間の取引は決着しています。あとから出てきた人の事情で、その決着を蒸し返せるとすると、Cから買おうとする人は、不安で買えません。先ほどの94条2項と、同じ発想です。解説の回で見た、絶対的構成です。いったん決着したら、あとから来た人の事情では、蒸し返しません。注意が1つあります。設問3の判例は、前主が背信的悪意者の場面を判断したものです。「転得者自身が背信的悪意者と評価されるのでない限り」という言い方から、逆に、転得者が背信的悪意者と評価されれば、Bはいつでも対抗できる、とまでは読めません。設問3の相対的判断を、この場面にも延ばす、という考え方もあります。ですが、そうすると、Cは、買い手が誰かによって、甲土地を安心して売れなくなります。決着したはずのCの権利が、あとから揺らぎます。答案では、上の結論で書きます。

Cが実質的にDの手先なら、話は別です。Cが、Dの指示で動いているなど、実質的にDと同一視される関係なら、C自身が背信的悪意者になりえます。本問は、CとDは面識がなく、Cは経歴を知りません。ここには、当たりません。

完成答案

完成答案① 第1 設問1——BのCに対する登記抹消請求 図:完成答案① 第1 設問1——BのCに対する登記抹消請求

ここまでを、答案の形にしました。動画を止めて、じっくり見てください。まず設問1です。

完成答案①(続き) 第1 設問1——BのCに対する登記抹消請求 図:完成答案①(続き) 第1 設問1——BのCに対する登記抹消請求

設問1の続きです。

完成答案①(続き) 第1 設問1——BのCに対する登記抹消請求 図:完成答案①(続き) 第1 設問1——BのCに対する登記抹消請求

どの事実を、どの理由で悪意の箱と背信性の箱に入れているかを確かめてください。

完成答案② 第2 設問2——BのDに対する登記抹消請求 図:完成答案② 第2 設問2——BのDに対する登記抹消請求

設問2です。止めて見てください。

完成答案②(続き) 第2 設問2——BのDに対する登記抹消請求 図:完成答案②(続き) 第2 設問2——BのDに対する登記抹消請求

設問2の続きです。

完成答案③ 第3 設問3——BのEに対する登記抹消請求 図:完成答案③ 第3 設問3——BのEに対する登記抹消請求

設問3です。Dは無権利者ではない、という点が、どこに書かれているかを見てください。

完成答案③(続き) 第3 設問3——BのEに対する登記抹消請求 図:完成答案③(続き) 第3 設問3——BのEに対する登記抹消請求

設問3の続きです。

完成答案③(続き) 第3 設問3——BのEに対する登記抹消請求 図:完成答案③(続き) 第3 設問3——BのEに対する登記抹消請求

設問3の結論までです。

完成答案④ 第4 設問4——BのDに対する登記抹消請求 図:完成答案④ 第4 設問4——BのDに対する登記抹消請求

設問4です。同じく止めて見てください。

完成答案④(続き) 第4 設問4——BのDに対する登記抹消請求 図:完成答案④(続き) 第4 設問4——BのDに対する登記抹消請求

設問4の続きです。

今日の地図(保存版)

今日のまとめ——C、D、E、設問4のDを、悪意の箱と背信性の箱で仕分ける 図:今日のまとめ——C、D、E、設問4のDを、悪意の箱と背信性の箱で仕分ける

まとめます。全員が、AB間の売買を知っていました。ですが、結論は分かれました。分けたのは、「その人自身の事情で、登記がないことを主張させてよいか」です。Cは、悪意の箱だけが埋まっていました。自分で使う目的、時価、面識なし。単純悪意者で、第三者です。Bは負けます。Dは、悪意の箱も背信性の箱も埋まっていました。高値の買取りを迫る目的、安く買う、元店長として聞いた事情を使う。背信的悪意者で、第三者ではありません。Bは勝ちます。Eは、Dの背信性を引き継ぎません。Eは自分の事情で判断され、悪意はあっても背信性はなく、第三者です。Bは負けます。設問4のDは、背信的悪意者でも、Bの所有権はすでに失われていました。前主Cが登記を備えた時点で、決着していたからです。Bは負けます。

原則を先に言ったうえで、例外を検討します。例外では、悪意と背信性を分けて拾い、背信性の箱を信義に反するかで評価します。転得者は、前主の評価を引き継ぎません。その人自身で判断します。ただし、前主が登記を備えて決着していたら、あとの事情で蒸し返さない。答案でこの順に書けるかを、確かめてください。

参照条文

  • 民法177条

民法 全体ロードマップへ →