民法ゼロから民法 論文

177条の第三者④(受寄者)

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ゼロから民法 論文/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

事例

【事例】問題文——甲山林の杉をめぐるA・B・D・Eの事案 図:【事例】問題文——甲山林の杉をめぐるA・B・D・Eの事案

丸太を預かっている業者が、相手の請求を断ります。その人は、「登記がない」と言える立場なのか。今日は、そこから見ていきます。実は、口を出せなくても勝てる道があります。その道を、答案の書き方まで含めて見ます。まず、問題文を読みます。Aは甲山林を所有し、登記名義もAである。甲山林には杉が一面に生えている。山林は東斜面と西斜面に分かれ、それぞれに杉が約100本ずつ生えている。杉は、立木に関する法律の登記がされていない。1月10日、AはBに、杉だけを代金600万円で売った。Bは同日、全額を支払った。1月12日、Bは、東斜面の杉にだけ、幹に「B所有」と墨書し、東斜面の入口に立札を立てた。西斜面の杉には、何もしなかった。5月20日、AはDに、甲山林を杉ごと代金3000万円で売り、同日、D名義の所有権移転登記がされた。DはAB間の杉の売買を知らなかった。6月、Dは杉をすべて伐採して丸太にした。6月10日、Dは製材業者のEに、丸太の保管を頼んだ。Eは月額5万円の保管料の約束で預かり、倉庫に保管している。Eは、AB間の売買も、Dの取得の経緯も知らなかった。7月5日、BはEに、西斜面の杉から切り出された丸太の引渡しを請求した。EはDのものだと言って、引き渡さない。設問です。BのEに対する、この丸太の引渡請求は認められるか。

関係図——AからBへ杉のみ売買、AからDへ杉ごと売買と登記、DからEへ寄託、BからEへ引渡請求

図にします。上にAがいて、Bへ「杉のみ売買」の矢印が出ています。Bの横には、東斜面だけ明認方法、と書きました。Aからは、Dへもう1本。「杉ごと売買」で、Dの横は「登記あり」です。DからEへは、保管を頼む矢印。BからEへは、引渡請求の矢印です。預けた人を寄託者、預かった人を受寄者といいます。Dが寄託者、Eが受寄者です。

事案の時系列——1月10日AB売買、1月12日東斜面のみ明認方法、5月20日AD売買と登記、6月10日寄託、7月5日Bの請求

時間の並びです。1月10日に、AB間の売買。1月12日に、Bの明認方法。ただし東斜面だけです。5月20日に、AD間の売買と、Dの登記。6月10日に、Eへの寄託。7月5日に、Bの請求です。

山林の板——東斜面は標示あり、西斜面は標示なし 図:山林の板——東斜面は標示あり、西斜面は標示なし

山林の絵です。左が東斜面で、墨書と立札があります。右が西斜面で、何もありません。Bが請求しているのは、西斜面の杉から切り出された丸太です。東斜面と西斜面で、結論は変わります。それは、あとで見ます。最初の問いです。預かっているだけのEは、「Bは明認方法がないから、Bを所有者とは認めない」と言えるでしょうか。

物差しの確認

条文:177条 図:条文:177条

177条を、全文で確認します。

条文民法177条

不動産に関する物権の変動の対抗要件 第百七十七条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

条文は「第三者」とだけ書いています。中身は解釈で絞ります。

前の回の物差し——正当な利益は、まず類型で見る 図:前の回の物差し——正当な利益は、まず類型で見る

立てた物差しを、1文だけ確認します。第三者とは、当事者およびその包括承継人以外の者であって、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者です。欠缺とは、登記がないことです。物権を取得した者は、原則として、正当な利益があります。

前の回の結論——立木だけは明認方法、土地ごとは登記、先後で決まる 図:前の回の結論——立木だけは明認方法、土地ごとは登記、先後で決まる

立木をめぐる結論も、1つだけ使います。立木は、土地の定着物にあたります(86条1項)。土地の一部として扱われますから、土地ごと買った人の対抗要件は登記です。杉だけを、土地と別に登記する制度が、立木に関する法律の登記です。この杉には、それがありません。そこで、杉だけを買った人の対抗要件は、前の回の明認方法です。Bの墨書と立札のように、誰の杉かを現地で示す、登記の代わりの目印です。登記と明認方法の優劣は、その先後で決まります。東斜面は、Bの明認方法が先で、Bの勝ち。西斜面は、Bに明認方法がなく、Dの登記が杉にも及ぶので、Dの勝ちでした。今日は、この結論を使います。さて、今日の問いです。Eは、Dから預かっているだけです。それでも、Eは、「Bは明認方法がない。だからBを所有者と認めない」と言えるでしょうか。動画を止めて、考えてみてください。答えは、あとで出します。先に、土台を2つ整えます。

丸太は動産

条文:178条 図:条文:178条

条文を見ます。

条文民法178条

動産に関する物権の譲渡の対抗要件 第百七十八条 動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない。

178条は、動産の物権の譲渡の対抗要件が、引渡しだと定めています。

争点の整理——丸太は動産でも、争われているのは杉の物権変動 図:争点の整理——丸太は動産でも、争われているのは杉の物権変動

ですが、この事例で争われているのは、丸太そのものの譲渡ではありません。Bが杉を買ったことと、Dが杉を買ったこと。この2つの、杉についての物権変動です。杉は土地の一部ですから、177条の問題です。切り出されても、杉の所有者が持っていた所有権は、丸太に及び続けます。所有者が入れ替わるわけではありません。ですから、178条の引渡しの問題ではありません。Eが丸太を即時取得するかという問題でもありません。杉が切られて丸太になっても、争点は杉の時点の物権変動のままです。Bの請求の根拠も確認します。所有権に基づく引渡請求です。Bが丸太の所有者であること、Eが丸太を占有していること。この2つで成り立ちます。Eは占有していますから、争点は、Bが所有者かどうかです。

Eの反論

Eの反論は2本——ア対抗要件の抗弁とイ対抗要件具備による所有権喪失の抗弁 図:Eの反論は2本——ア対抗要件の抗弁とイ対抗要件具備による所有権喪失の抗弁

Bが所有者だと言われたEは、反論を2本、考えられます。反論ア。「Bは明認方法がないから、杉の取得を私に対抗できない」。これを、対抗要件の抗弁といいます。この反論は、Eが「第三者」にあたることが前提です。Eが自分の立場で、Bに「明認方法がない」と言う形だからです。反論イ。「Dが登記を備えて、杉の所有権を確定的に取得した。だから、Bはもう所有権を失った」。これを、対抗要件具備による所有権喪失の抗弁といいます。この反論は、Eが第三者かどうかと関係がありません。主張しているのは、Dの取得と、Bの喪失だからです。

アとイは分けます。誰の立場で、何を言っているかが違うからです。アは、E自身の立場の主張。イは、Dの勝ちを根拠にした主張です。図の矢印は2本です。アは、Eが第三者でなければ成り立ちません。イは、Dが先に対抗要件を備えて、Bに勝っていれば成り立ちます。ここから、Eが第三者でなくても、イで勝てるかもしれない、という見通しが立ちます。まず、アの側から見ます。

受寄者の規範

反論アの入口——Eは第三者にあたるか 図:反論アの入口——Eは第三者にあたるか

その前に、前々回の確認を1問だけ。背信的悪意者の転得者は、前主の背信性を引き継ぎましたか。それとも、その人自身の事情で判断されましたか?その人自身の事情で判断されました。誰を基準に、第三者かを見るのか。今日は、その人自身の立場で見ます。預かっている人の立場です。

問題提起と規範——受寄者は第三者にあたらない 図:問題提起と規範——受寄者は第三者にあたらない

問いを立てます。預かっているだけの人、受寄者は、物権変動の対抗要件の欠缺を主張できる「第三者」にあたるのでしょうか。規範として、まとめます。

⭐ 論文で書く規範:受寄者 受寄者は、譲渡人に代わつて一時目的物を保管するに過ぎない者であつて、その譲渡を否認するに付き正当の利害関係を有するものということは出来ない。したがつて、対抗要件の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者に該当しない。 (規範(最判昭29・8・31))

2つに分けて読みます。1つめ。受寄者は、預けた人に代わって、しばらく物を保管しているだけの人です。だから、その譲渡を否認する、つまり「その譲渡は認めない」と言うについて、正当な利害関係がありません。2つめ。だから、対抗要件の欠缺を主張する正当な利益を持つ第三者には、あたりません。正当な利益の物差しは、前の回と同じです。ここでは、その人の法的地位が、相手の対抗要件の有無で変わるかを見ます。引っ越しの間だけ、友人の荷物を預かる人を考えます。その荷物が、友人から別の人へ売られていました。売買の書類が整っているかどうかで、預かる人の立場は、何も変わりません。ですから、書類の不備を言い立てる利益がありません。Eも同じです。Bが明認方法を備えていても、いなくても、Eは預かっているだけ。Eの立場は変わりません。

対照の例を出します。仮に、EがDから丸太を買った人だったとします。その場合は、Bが勝つと、Eは丸太を失います。Bの対抗要件の有無で、Eの立場が変わります。だから、Eは第三者です。預かっているだけなら、変わりません。ここが境目です。判例の言葉も見ておきます。

判例最判昭和29年8月31日

受寄者と178条 ……上告人は被上告人に本件物件を譲渡した訴外Dに代つて一時右物件を保管するに過ぎないものであつて、かかる者は右譲渡を否認するに付き正当の利害関係を有するものということは出来ない。従つて民法一七八条にいう第三者に該当しないと解すべく……

判例の上告人は、預かっていたE。訴外Dは、預けたD。被上告人は、預けたDから買った人、と読み替えてください。この判例は、動産の売買の事案で、178条の第三者を判断しました。判例が見たのは、預かっている人が、自分で、相手の対抗要件がないと言えるか、です。178条の第三者を177条と同じ物差しで見ることは、動産の対抗要件の回で見ました。判例が判断したのは動産の事案ですが、物差しが同じですから、立木や不動産の177条でも、受寄者は第三者にあたらないと考えるのが、通説的な理解です。ただし、預けた人が、自分で対抗要件を備えて優先している関係なら、別の筋が立ちます。それが、反論イです。

あてはめ

反論アのあてはめ——Eは預かっているだけで、第三者にあたらない 図:反論アのあてはめ——Eは預かっているだけで、第三者にあたらない

あてはめます。まず、反論アです。Eは、Dから頼まれ、月額5万円の保管料の約束で、丸太を預かっているだけです。Eは、丸太についてEのために物権を取得した人ではありません。前の回の物差しにあった、差押債権者や賃借人でもありません。どちらも、Bが勝てば、差し押さえた物や借りている物を失う人です。Eには、そういう立場もありません。保管料をもらっていても、関係ありません。保管料は、預かる仕事の対価です。丸太についてEが何かの権利を得たわけではありません。Bが明認方法を備えているかどうかで、Eの法的地位は変わりません。したがって、Eは、Bの杉の取得を否認する正当の利害関係を持たず、第三者に該当しません。反論アは、採れません。

反論イのあてはめ——Dは第三者で、5月20日に登記を備え、西斜面の杉にBは明認方法なし

次に、反論イです。ここでは、Eでなく、Dについて第三者かを見ます。Dは、AB間の売買の当事者でも、包括承継人でもありません。Dは、杉について物権を取得した人です。Bが対抗できるなら、Dは杉を失います。原則として、正当な利益があります。DはAB間の売買を知りませんでした。背信的悪意者にあたる事情もありません。よって、Dは第三者にあたります。そのDは、5月20日に登記を備えました。登記は、土地の一部である杉にも及びます。他方、Bは、西斜面の杉について、明認方法を備えていません。したがって、Bは、西斜面の杉の取得をDに対抗できません。Dが杉の所有権を確定的に取得し、Bは杉の所有権を失いました。同じ杉の所有者が、BとDの2人になることはありません。所有者がDに決まれば、Bは、Eとの関係でも、もう所有者ではありません。前々回、Bが甲土地を確定的に失ったのと同じ形です。

杉の所有をめぐる優劣は、杉の時点の対抗関係で決まります。切り出されても、その決着は動きません。ですから、Bは丸太についても、所有権を持ちません。Eは、「Dが取得して、Bが失った」と言えば足ります。Eが第三者にあたる必要は、ありません。反論イは、成り立ちます。結論です。Bは丸太の所有権を持ちません。よって、BのEに対する引渡請求は、認められません。

東斜面の丸太なら——Bの明認方法が先で、反論イは成り立たない 図:東斜面の丸太なら——Bの明認方法が先で、反論イは成り立たない

対になる場合も見ておきます。Bが請求したのが、東斜面の杉から切り出された丸太だったら、どうでしょう。東斜面には、1月12日にBの明認方法があります。Dの登記は5月20日で、あとです。Dが登記を備えた当時にも、明認方法は残っていました。Bは、Dに対抗できます。Bは所有権を失っていません。だから、反論イは成り立ちません。Eは、反論アも採れません。この場合は、Bの請求が認められます。東と西で結論が分かれる決め手は、Eが誰かではなく、Dに対してBが勝つかどうかです。

完成答案

完成答案① 1 問題の所在——反論アと反論イを立てる 図:完成答案① 1 問題の所在——反論アと反論イを立てる

ここまでを、答案の形にしました。動画を止めて、じっくり見てください。アとイが、どこで分かれているかを確かめてください。

完成答案①(続き) 2 規範——受寄者は第三者にあたらない 図:完成答案①(続き) 2 規範——受寄者は第三者にあたらない

規範です。受寄者の規範と、所有権を失う筋の規範が、別々に立っているかを見てください。

完成答案② 3 あてはめ——反論アは採れない、反論イのDは第三者 図:完成答案② 3 あてはめ——反論アは採れない、反論イのDは第三者

後半です。アが採れない理由が、Eの立場が変わらないことで書かれているかを見てください。

完成答案②(続き) 3 あてはめと4 結論——反論イでBは所有権を失う 図:完成答案②(続き) 3 あてはめと4 結論——反論イでBは所有権を失う

続きです。イが、Dの取得とBの喪失を言えば足りる形で書かれているかを見て、結論まで通して読んでください。

今日の地図(保存版)

今日のまとめ——反論ア・反論イ・東斜面の丸太を一覧にする 図:今日のまとめ——反論ア・反論イ・東斜面の丸太を一覧にする

まとめます。物差しは、前の回と同じ、「この人に、明認方法の欠缺を主張させてよいか」です。今回は、預かっている人の立場から当てました。反論アは、Eは第三者にあたるか。預かっているだけで、あたりません。採れません。反論イは、Dの登記とBの喪失。Dは5月20日に登記を備え、西斜面の杉にBは明認方法がありません。成り立ちます。東斜面の丸太は、Bの明認方法が先なので、イが成り立ちません。Bの請求が通ります。Eが勝つ根拠は、Eの立場ではなく、寄託者Dの勝ちです。運びの要点は3つです。丸太は動産でも、争点は杉の物権変動で、177条。アとイを分けて書く。預かっている人は第三者でないが、イで勝てる。答案でこの順に書けるかを、確かめてください。

参照条文

  • 民法177条
  • 民法178条

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