民法ゼロから民法 論文

債務不履行解除の要件①(催告解除・軽微性・無催告解除)

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ゼロから民法 論文/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

事例

【事例】問題文——A・B、C・D、E・Bの3つの売買 図:【事例】問題文——A・B、C・D、E・Bの3つの売買

今日は、その知識を答案に書ける形にする回です。先に、今日の見どころを言います。「解除します」という通知が、3通あります。1通目は、催告に期限が書いてありません。それなのに、解除できます。2通目は、催告も期限もきちんとしています。それなのに、解除できません。3通目は、催告をしていません。それでも、解除できます。ばらばらに見えますが、2つの物差しで説明がつきます。1つめは、その不履行が軽微かどうか。2つめは、催告をしても契約の目的を達成できないかどうか。この2つを、設問を解きながら使い分けます。まず、問題文を読みます。契約は3つあります。登場人物はAからEの5人です。1つめ。4月1日、Aは業務用の製麺機1台をBに、代金420万円で売りました。引渡しの期日は5月1日です。Bは契約の日に、代金の全額を支払いました。ところが、Aは5月1日になっても、製麺機の本体をBに引き渡しません。5月8日、Bは「早く引き渡してください」とだけ書いたメールを、Aに送りました。引渡しの期限は書いていません。その後も、引渡しはなく、5月20日、BはAに「売買契約を解除します」と通知しました。2つめ。5月10日、Cは飲食店用のテーブル12卓と椅子48脚を、代金96万円でDに売りました。テーブルは1卓4万円、椅子は1脚1万円です。搬入の期日は6月1日。Dは契約の日に、代金の全額を支払いました。6月1日、Cはテーブル12卓と椅子47脚を搬入しました。椅子1脚だけが欠品で、搬入できませんでした。

6月8日、Dは「6月15日までに欠品の1脚を搬入してください」と通知しました。期限までに搬入はありませんでした。6月16日、Dは「売買契約を解除します」と通知しました。3つめ。5月20日、Bは製粉業者のEから、そば粉300キログラムを、代金24万円で買う契約をしました。納入の期日は7月1日。代金は、納入のときに支払う約束です。6月20日、Eは「今年は原料が足りないので、そちらには一切納めない」と、Bに明言しました。設問は3つです。設問1、BはAとの売買契約を解除できるか。設問2、DはCとの売買契約を解除できるか。設問3、BはEに催告せずに、売買契約を解除できるか。設問2と設問3には、それぞれ変形があります。出てきたときに読みます。

事案の見取り図——AからBへ製麺機、CからDへテーブルと椅子、EからBへそば粉の売買

図にします。売主から買主へ、矢印が3本です。AからBへ、製麺機。CからDへ、テーブルと椅子。EからBへ、そば粉です。Bは、製麺機の買主であり、そば粉の買主でもあります。製麺機と家具は代金を先に払っていて、そば粉は納入のときに払う約束です。買主が代金を滞らせた話は、1つもありません。問題は、いつも売主の側にあります。

解除とは——債務者を罰する制度ではなく、債権者を契約の拘束から解放する制度 図:解除とは——債務者を罰する制度ではなく、債権者を契約の拘束から解放する制度

解除は、債務者への制裁ではありません。債務者を罰する制度ではないのです。製麺機の例で考えます。Bは代金を払ったのに、機械が届きません。契約が生きている間は、Bは代金を返してもらえず、別の業者から買うのもためらわれます。解除は、この状態からBを解放する制度です。債権者を、契約の拘束から解き放つ。そう考えてください。すぐに解除できる、とは限りません。解除には、もう1つの面があります。解除は、相手の同意なしに、契約の拘束力を一方的に解消します。Aからすれば、意思とは関係なく、契約が消えるわけです。ですから、条文は原則として、先に催告して待つことを求めています。これが541条です。そして、催告が無意味な場面だけ、催告を省くことを認めます。これが542条です。

2本の道——催告をしても契約の目的を達成できないかで振り分ける 図:2本の道——催告をしても契約の目的を達成できないかで振り分ける

見取り図です。不履行があったら、まず問います。催告をしても、契約の目的を達成できないか。達成できないなら、催告を省く道、542条です。達成できるなら、催告して待つ道、541条です。541条の道に乗ったら、催告をして、相当の期間が過ぎるのを待ちます。そのうえで、もう1つ問います。その不履行は、軽微ではないか。解説の動画では、先に軽微かを見ました。目的を達成できない不履行は、軽微ではありません。ですから、どちらから見ても、行き着く先は同じです。設問1と設問2は、催告して待つ道です。設問3は、催告を省く道です。ただ、道に乗せたあとで、それぞれ別の場所で手が止まります。そこを1つずつ見ていきます。

設問1

設問1の時系列——4月1日売買、5月1日引渡期日、5月8日メール、5月20日解除通知

設問1です。BはAとの売買契約を解除できるか。日付を確認します。4月1日に売買。5月1日が引渡しの期日。5月8日にメール。5月20日に解除の通知です。Bは、引渡しが遅れていることを理由に、解除したい。債務不履行を理由とする解除です。答案では、まず、どちらの道かを決めます。催告を省く道、542条の各号に当たる事情があるか。Aは履行を拒絶していません。履行が不能になったわけでもありません。決まった日時でなければ意味がない契約でもありません。当たる事情は見当たりません。ですから、催告して待つ道、541条に乗せます。条文を、全文で読みます。

条文民法541条(成立要件・条文どおり)

催告による解除 第五百四十一条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。

本文の要件は、条文を音読すれば出てきます。ですから、覚える対象ではありません。条文から拾えば足ります。並べます。債務があること。その債務が履行されていないこと。そして、催告をして、その期間内に履行がないことです。

541条の要件を設問1の事実に当てる——債務、不履行、催告と期間内の不履行 図:541条の要件を設問1の事実に当てる——債務、不履行、催告と期間内の不履行

1つめは、債務の存在です。4月1日に売買をしました。Aは、製麺機をBに引き渡す債務を負います。引渡しの期日は5月1日です。2つめ、債務の不履行です。5月1日という、日付で決まった期限があります。これを確定期限といいます。確定期限は、その日が過ぎれば、債務者は遅れた責任を負います。412条1項です。同時履行の抗弁は出ません。この抗弁は、相手が代金を払っていないときに、こちらも渡さない、と言える権利です。Bは契約の日に全額を払っています。Aは、この抗弁を使えません。ですから、Aは5月1日の経過で遅れています。不履行があります。3つめが、催告です。ここで手が止まります。5月8日のBのメールには、何と書いてありましたか。

条文は何と言っていますか。

問題提起と規範——期間を定めない催告でも、その後に相当期間が経てば足りる 図:問題提起と規範——期間を定めない催告でも、その後に相当期間が経てば足りる

問いを立てます。541条は、相当の期間を定めて催告をする、と書いています。では、期間を定めない催告でも、催告解除は認められるでしょうか。考えてみてください。期限を書いていない催告は、有効でしょうか。文字どおりに読めば、期間のない催告は無効だと思えます。そこで、条文が催告を求めている理由に戻ります。

⭐ 論文で書く規範:期間を定めない催告の効力 この点、催告が求められている趣旨は、解除の前に、債務者に履行により解除を免れる機会を与えることにある。 そうだとすれば、相当期間を定めない催告であっても、その後に相当期間が経過すれば、債務者に履行の機会が与えられたといえ、催告の趣旨に反しない。 そこで、相当期間を定めない催告であっても、その後に相当期間が経過すれば、催告解除が認められると解する。 なお、相当期間は、債務の内容等から、履行に必要な期間を考慮して判断される。 (規範(参考:最判昭29・12・21))

趣旨は、債務者に、履行して解除を免れる機会を与えることです。配達の催促の電話にたとえます。「早く届けてください」とだけ言っても、そのあと十分な日数が過ぎて、まだ届かなかったとします。配達する側には、届ける機会が十分にありました。期限を言われなかったことで、機会が奪われたわけではありません。期間を書いたかどうかは、機会を与えるための手段にすぎません。無視するのではありません。条文の言葉を、趣旨まで戻って読んでいます。期間を書いていなくても、その後に相当の期間が経てば、機会は与えられたことになります。ですから、そのときに解除を認めても、催告の趣旨に反しません。相当の期間は、債務の内容などから、履行に必要な期間を考えて決めます。判例も、同じ結論です。

判例最判昭和29年12月21日

期間を定めない催告と解除 債務者が遅滞に陥つたときは、債権者が期間を定めずに催告をした場合でも、その催告から相当の期間を経過すれば解除できると解すべきことは、すでに大審院判例の趣旨とするところであり…今なおこの解釈を改めるの要を認めない。

事案は、期間を定めずに催告をしたうえで解除したものです。判旨は、結論のところが規範のとおりです。一つ、見落とさないでください。前提が書いてあります。債務者が、遅滞に陥ったとき、です。本問は、5月1日の経過で、Aはすでに遅れています。この前提は満たしています。では、あてはめです。

設問1のあてはめ——メールは催告、5月8日から5月20日の12日は相当期間か 図:設問1のあてはめ——メールは催告、5月8日から5月20日の12日は相当期間か

まず、5月8日のメールは、催告にあたるでしょうか。拾う事実は、メールの中身です。「早く引き渡してください」。Aに、製麺機の本体の引渡しを求めています。Aは、何を履行すればよいか分かります。ですから、これは催告です。期間は書いていませんが、規範によれば、それで足ります。次に、相当の期間が経ったか。5月8日から解除通知の5月20日まで、12日です。これは、相当の期間でしょうか。規範に書いてありました。債務の内容などから、履行に必要な期間で見ます。拾う事実は3つです。債務の内容は、製麺機1台の引渡しです。契約の4月1日から履行の期日の5月1日まで、1か月の準備期間がありました。そして、期日を過ぎてから、すでに1週間が経ってから催告をしています。評価します。Aは契約のときから準備ができた立場で、期日も過ぎています。1台の機械を渡すのに、新たに必要な期間は、それほど長くありません。ですから、12日は、引渡しに必要な期間として足ります。そして、12日の間に、引渡しはありませんでした。境界のすぐ外も見ておきます。もし、5月8日にメールを送って、翌日の5月9日に解除を通知したらどうでしょう。

1日だけだと、準備期間があっても、短い気がします。引渡しに必要な期間が経ったとは、評価しにくくなります。相当期間が経っていないので、その解除は、効力が生じないことになります。12日と1日の違いは、日数の多さではありません。履行に必要な期間が経ったかどうか、です。最後に、ただし書と、もう1つの条文を確認します。ただし書は、不履行が軽微なら、解除できない、という定めです。何をもって軽微というかは、次の設問2で、じっくり見ます。ここでは結論だけ。Aは製麺機の本体を、1つも引き渡していません。債務の全部の不履行です。軽微ではありません。もう1つ、543条。債権者の責めに帰すべき事由によるときは、解除できない、という条文です。これも設問2の最後に読みます。ここでは、Bの責任でAが渡せなかった、という事情は問題文にない、とだけ書きます。結論です。BはAに対し、5月20日に解除の意思表示をしています。解除は、相手方への意思表示でします。540条1項です。よって、BはAとの売買契約を解除できます。

条文の言葉を、趣旨に戻して補う。これが、設問1で手が止まる場所の越え方です。

設問2

設問2の時系列——5月10日売買、6月1日搬入と欠品、6月8日催告、6月15日期限、6月16日解除通知

設問2です。DはCとの売買契約を解除できるか。日付を確認します。5月10日に売買。6月1日に、椅子1脚だけが欠けた状態で搬入。6月8日に催告。6月15日が期限。6月16日に解除の通知です。ここで、少し思い出してみましょう。解説の動画で見たとおり、催告をして期間が過ぎても、解除できなくなるのは、どんな不履行のときでしたか?ごくわずかな不履行、つまり軽微なときでした。今日は、その軽微を、答案でどう判断して書くかを見ます。設問1と同じ運びで、一言で通します。まず、不履行です。搬入の期日は6月1日という確定期限で、その日が過ぎています。Dは先に代金を全額払っているので、Cは同時履行の抗弁を使えません。椅子47脚しか搬入されず、1脚分の債務が履行されていません。催告です。6月8日に、6月15日までに欠品の1脚を搬入してください、と期限を明示しています。6月8日から6月15日まで、7日あります。欠品1脚を搬入するのに必要な期間として、相当です。そして、期限までに搬入はありません。ここまでは、問題なしです。

催告も期限も済んでいて、なお解除が止まる場面はあります。541条のただし書です。

問題提起と規範——契約の拘束力を一方的に解消する以上、重大な不履行に限る 図:問題提起と規範——契約の拘束力を一方的に解消する以上、重大な不履行に限る

問いを立てます。ただし書は、期間が過ぎた時の不履行が軽微なときは、解除できない、と定めます。では、軽微かどうかは、何を考えて判断するのでしょうか。考える手がかりは、解除の性質です。

⭐ 論文で書く規範:軽微性の判断 この点、債務不履行による解除は、契約の拘束力を一方的に解消する制度である。 そうだとすれば、解除が認められるのは、当事者をもはや契約に縛っておくことが相当でないほどの重大な債務不履行がある場合に限られると解すべきである。 そこで、「軽微」性は、まず、契約目的に照らした債務の重要性を考慮し、次に、債務不履行の程度を考慮して判断すると解する。 (規範(判例の集積と立法経緯から立てる) 最判昭36・11・21 ほか参照)

解除は、契約の拘束力を、一方的に解消します。契約を建物にたとえます。壁紙が1枚はがれたからといって、相手に断りなく、建物ごと取り壊す理由にはなりません。柱が抜けているなら、話は別です。ですから、契約を維持すべきでないほど重大な不履行がある場合に限って、解除を認めます。軽微かどうかは、2つの段階で見ます。まず、契約の目的に照らして、不履行になっている債務が重要か。次に、その債務の不履行は、どの程度か。重要性と程度は、別の問いです。重要性は、債務の種類の話です。その債務が、契約の中でどれだけ中心にあるか。たとえば売買なら、品物を引き渡す債務が中心です。品物に納品書を添える、という約束は、中心ではない付随義務です。付随義務が果たされないだけなら、1段階めで重要でないとされ、ふつうは、それで軽微と評価されます。程度は、欠け方の話です。その債務の全部が履行されていないのか、ごく一部だけなのか。この2つを混ぜると、「椅子1脚くらい」という感覚だけで書いてしまいます。順番に、別々に評価します。軽微かどうかは、解説の動画で見たとおり、契約の性質、契約の目的、契約に至る経緯、取引をとりまく事情を、総合して決めます。答案では、この総合判断を、2つの段階に分けて書きます。どちらの段階も、軸は契約の目的です。違うのは、当てる先です。1段階めは債務そのものに、2段階めは、その債務のうち欠けた部分に当てます。

設問2のあてはめ——債務の重要性と不履行の程度、椅子1脚とテーブル12卓の対比 図:設問2のあてはめ——債務の重要性と不履行の程度、椅子1脚とテーブル12卓の対比

1段階め、債務の重要性です。拾う事実は、この売買が、飲食店用のテーブルと椅子をそろえる契約だ、ということです。Dが代金を払うのは、家具を引き渡してもらうためです。Cの引渡債務は、Dの代金債務と対価の関係に立ちます。売買の中心にある債務です。ですから、契約の目的に照らして、重要です。そこで止まらないのが、2段階めです。不履行の程度を見ます。拾う事実を並べます。不履行になっているのは、椅子48脚のうちの1脚だけです。テーブル12卓と椅子47脚、合計60点のうち59点は、6月1日に搬入済みです。欠けた1脚は1万円。代金96万円の約1パーセントです。評価します。椅子は、1脚1万円の備品です。代わりをほかから調達しやすい物です。ここは、取引をとりまく事情から拾った事実です。59点がそろっていれば、飲食店用の家具をそろえる、という契約の目的の達成は妨げられません。足りない1脚は、履行の請求や損害賠償で満たせます。ですから、程度はごく一部にとどまります。Cの不履行は、軽微です。結論です。DはCとの売買契約を解除できません。

催告が適法でも、不履行が軽微なら、解除は止まります。ここが、設問2の決め手でした。なお、欠けた1脚分だけを解除する、一部解除は別の問いです。今日問われているのは、契約全体の解除です。ここで、問いです。もし、届かなかったのが椅子1脚ではなく、テーブル12卓のすべてだったら、結論は同じでしょうか。ほかの事実は同じです。6月1日に搬入されたのは椅子48脚。6月8日の催告は「6月15日までにテーブル12卓を搬入してください」。期限までに搬入はなく、6月16日に解除の通知です。考えてみてください。答え合わせです。催告と期間の経過は、先ほどと同じ運びです。1段階めの、債務の重要性も同じです。引渡債務は、契約の目的に照らして重要です。違うのは、2段階めです。テーブル12卓の全部が搬入されていません。1卓4万円で、12卓だと48万円。代金96万円の半分です。点数で数えれば、60点のうち12点にとどまります。ただ、点数や金額の割合は、拾う事実の1つにすぎません。テーブルは、飲食店の客席の中心です。椅子48脚だけが届いても、座る卓がありません。飲食店用の家具をそろえる、という契約の目的を達成できません。ですから、不履行の程度は、ごく一部ではありません。軽微ではない。

分かれ目は、届いた分で、契約の目的を達成できるか、でした。最後に、543条を読みます。

条文民法543条(成立要件・条文どおり)

債権者の責めに帰すべき事由による場合 第五百四十三条 債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、前二条の規定による契約の解除をすることができない。

前二条とは、541条と542条です。催告解除にも、催告なしの解除にも、かかります。不履行の原因が、債権者の側にあるなら、解除は認めません。たとえば、Dが搬入先の店の鍵を閉めたまま、留守にしていた。それでCは搬入できなかった。こういうときです。本問では、不履行がDの責めに帰すべき事由による、という事情は見当たりません。よって、DはCとの売買契約を解除できます。変形の結論です。

設問3

設問3の時系列——5月20日契約、6月20日拒絶、7月1日納入期日 図:設問3の時系列——5月20日契約、6月20日拒絶、7月1日納入期日

設問3です。BはEに催告せずに、売買契約を解除できるか。日付を確認します。5月20日に契約。6月20日に、Eが「一切納めない」と明言。納入の期日は7月1日で、まだ来ていません。Bは、催告をせずに解除したい。ところが、541条は、催告を求めています。催告が無意味なら省いてよい、という感覚を、条文にしたのが542条です。2つめの物差し、思い出してください。催告をしても、契約の目的を達成できないか。催告は、債務者にもう一度チャンスを与える手続です。ところが、相手が「絶対にやらない」と言っているのに、「いつまでにやってください」と頼む。これは無意味です。催告が無意味な場面なら、催告を省いて解除できる。条文を、全文で読みます。

条文民法542条1項(成立要件・条文どおり)

催告によらない解除 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。 一 債務の全部の履行が不能であるとき。 二 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。 三 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。 四 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。 五 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。

542条1項の5つの号——どの号も、催告をしても契約の目的を達成できない場面 図:542条1項の5つの号——どの号も、催告をしても契約の目的を達成できない場面

5つの号があります。長いので、1行ずつにします。1号は、債務の全部が履行不能。2号は、債務の全部を、はっきり拒絶。3号は、一部が不能か一部を拒絶で、残りだけでは目的を達成できない。4号は、定期行為。特定の日時に履行しなければ意味がない契約で、その時期が過ぎた場合です。5号は、それ以外で、催告しても見込みがないことが明らかな場合の受け皿です。どの号も、別々の角度から、同じことを言っています。催告をしても、契約の目的を達成できない。この1本の筋でつなげて、ばらばらに暗記しないでください。この号の要件も、条文を音読すれば出てきます。覚える対象ではなく、条文から拾えば足ります。今日は、Eの場面に関わる2号と3号を、あてはめます。まず2号です。Eは「一切納めない」と言いました。2号の要件を並べます。債務の全部であること。履行を拒絶する意思であること。それを、明確に表示したこと。債務の存在は、5月20日の売買で、Eがそば粉300キログラムをBに引き渡す債務を負っています。納入の期日は7月1日です。拾う事実は、Eの言葉です。「一切納めない」。評価します。「一切」は、300キログラムの全部を納めない、という意味です。債務の全部の拒絶です。

拒絶に理由を添えても、拒絶の意思の中身は変わりません。見るのは、納めないという意思そのものに、条件や留保がついているかです。Eの言葉には、条件も留保もありません。納めない意思は、明確です。境界のすぐ外も見ておきます。もしEが「今年は原料が厳しいので、できれば遅らせてほしい」と言ってきたらどうでしょう。納めるつもりはあるんですね。履行を拒絶する意思が、明確に表示されたとは言えません。2号には当たらず、541条に戻って催告を考えることになります。さて、もう1つ手が止まる場所があります。

履行期前の拒絶——6月20日の拒絶から、7月1日の納入期日まで待つ必要があるか 図:履行期前の拒絶——6月20日の拒絶から、7月1日の納入期日まで待つ必要があるか

Eが拒絶したのは、6月20日です。納入の期日、7月1日の前です。問いを立てます。履行期が来る前の拒絶でも、2号に当たるでしょうか。考えてみてください。期日が来るまで、待たないと解除できないでしょうか。条文を見てください。2号は、全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき、と書いています。履行期が来たことは、要件に書いてありません。そして、催告が無意味になる理由は、拒絶が明確であることです。履行期が来ていようといまいと、明確に拒絶されている以上、催告しても履行される見込みは変わりません。さらに、Bの側から見ます。7月1日まで待たされると、その間、Bは別の仕入先を探せません。Bを契約に拘束し続ける理由が、ありません。ですから、履行期の前の拒絶でも、2号に当たります。ここは、条文の言葉の範囲内の説明です。答案では、問題の所在として短く書けば足ります。Eの6月20日の拒絶は、2号に当たります。最後に、543条。Eが納めない原因は、原料が足りないことです。Bの責めに帰すべき事由は、見当たりません。結論です。BはEに催告することなく、契約を解除できます。ここから、変形です。Eが「一切納めない」ではなく、「150キログラムだけなら納める」と言ってきたとします。Bは、このそば粉で、7月の期間限定メニューの仕込みをする予定です。150キログラムでは、仕込みが成り立ちません。この用途は、契約のときに、BがEに伝えていて、Eも了解していました。

2号は、全部の拒絶です。一部の拒絶は、3号の場面です。

3号の2つの要件——一部の拒絶の明確な表示、残りだけでは契約をした目的を達することができない

3号の要件は2つです。1つめ、債務の一部の履行を拒絶する意思を、明確に表示したこと。2つめ、残存する部分のみでは、契約をした目的を達することができないこと。1つめ。「150キログラムだけなら納める」は、残りの150キログラムは納めない、という意味です。一部の拒絶が、明確に表示されています。2つめが、決め手です。残りの150キログラムだけで、契約をした目的を達することができるか。契約をした目的とは何か。拾う事実は、期間限定メニューの仕込みです。契約のときにEに伝えていて、Eも了解していました。つまり、使い道が、契約の中で共有された目的です。そして、150キログラムでは、この仕込みが成り立ちません。評価します。残存する150キログラムのみでは、契約をした目的を達することができません。

Eに伝えていなかったなら、その使い道は、契約をした目的と言いにくくなります。契約の目的は、契約の中で共有された使い道で見ます。ですから、伝えて了解された、という事実が、大事な事実でした。ですから、3号に当たります。543条の事情も、見当たりません。結論です。Bが求めているのは、契約全体の解除です。BはEに催告することなく、契約の全部を解除できます。

3号と2項の分かれ目——残りだけで目的を達成できるか、できなければ全部解除、できれば一部解除

最後に一言。もし、残りの150キログラムだけで、目的を達成できるなら、どうなるでしょう。その場合は、契約全体ではなく、一部だけの解除になります。2項です。条文を読みます。

条文民法542条2項

催告によらない一部解除 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の一部の解除をすることができる。 一 債務の一部の履行が不能であるとき。 二 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

分かれ目は、残りだけで、契約をした目的を達成できるかどうかです。できなければ、1項3号で全部。できるなら、2項で一部です。

道の仕分け——不履行があったら、まず催告をしても目的を達成できないかを問う 図:道の仕分け——不履行があったら、まず催告をしても目的を達成できないかを問う

3つの設問を、1枚の図にします。不履行があったら、まず問います。催告をしても、契約の目的を達成できないか。達成できないなら、542条です。どの号に当たるかを見ます。設問3のEです。達成できるなら、541条です。催告をして、相当の期間を待ちます。ここで、設問1の、期間を定めない催告の問題が出ます。そのうえで、軽微ではないかを見ます。設問2の、椅子1脚の話です。どの道でも、最後に543条で、債権者の責めに帰すべき事由がないかを確認します。

完成答案

完成答案① 第1 設問1——BのAに対する売買契約の解除 図:完成答案① 第1 設問1——BのAに対する売買契約の解除

ここまでを、答案の形にしました。動画を止めて、見てみてください。まず設問1です。

完成答案①(続き) 第1 設問1——BのAに対する売買契約の解除 図:完成答案①(続き) 第1 設問1——BのAに対する売買契約の解除

設問1の続きです。期間を定めない催告のあてはめが、どの事実を拾っているかを確かめてください。

完成答案①(続き) 第1 設問1——BのAに対する売買契約の解除 図:完成答案①(続き) 第1 設問1——BのAに対する売買契約の解除

設問1の最後です。軽微かどうかの判断と、結論を確かめてください。

完成答案② 第2 設問2——DのCに対する売買契約の解除 図:完成答案② 第2 設問2——DのCに対する売買契約の解除

設問2です。止めて見てください。

完成答案②(続き) 第2 設問2——DのCに対する売買契約の解除 図:完成答案②(続き) 第2 設問2——DのCに対する売買契約の解除

設問2の続きです。債務の重要性と不履行の程度が、別々に評価されているかを確かめてください。

完成答案②(続き) 第2 設問2——DのCに対する売買契約の解除 図:完成答案②(続き) 第2 設問2——DのCに対する売買契約の解除

変形の部分です。結論が反対になる理由を、確かめてください。

完成答案③ 第3 設問3——BのEに対する催告なしの解除 図:完成答案③ 第3 設問3——BのEに対する催告なしの解除

設問3です。同じく、止めて見てください。

完成答案③(続き) 第3 設問3——BのEに対する催告なしの解除 図:完成答案③(続き) 第3 設問3——BのEに対する催告なしの解除

設問3の続きです。変形の3号のあてはめを、確かめてください。

今日の地図(保存版)

今日のまとめ——3つの設問を、乗った道、決め手、結論で仕分ける 図:今日のまとめ——3つの設問を、乗った道、決め手、結論で仕分ける

まとめます。3通の解除通知は、ばらばらではありませんでした。設問1は、催告して待つ道、541条です。決め手は、期間を定めない催告でも、その後に相当期間が経っていたこと。12日は足りました。解除できます。設問2は、同じ道で、ただし書が止めました。決め手は、椅子1脚という、契約の目的に影響しない、ごく一部の不履行だったこと。解除できません。テーブル12卓がすべて欠けたなら、解除できます。設問3は、催告を省く道、542条です。決め手は、催告をしても契約の目的を達成できないこと。全部の明確な拒絶は2号、一部の拒絶で残りでは目的を達成できないなら3号。催告なしで解除できます。

軽微かどうかと、催告をしても目的を達成できるか。2つの物差しで、振り分けるんですね。解除は、債権者を契約の拘束から解放する制度であり、同時に、相手の意思に関係なく契約を消す制度です。2つの物差しは、その両面に対応していました。ここまでの解除は、不履行のあった契約を、債務を負う相手に対して解くものでした。では、不履行のない契約も、一緒に解けるのでしょうか。そもそも、債務を負っていない側から、解けるのでしょうか。続きの動画で、見ていきましょう。

参照条文

  • 民法541条(成立要件・条文どおり)
  • 民法543条(成立要件・条文どおり)
  • 民法542条1項(成立要件・条文どおり)
  • 民法542条2項

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