民法ゼロから民法 論文

債務不履行解除の要件②(複数契約の解除・債務を負わない側からの解除)

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ゼロから民法 論文/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

事例

【事例】問題文(設問1)——A・Bの2つの契約 図:【事例】問題文(設問1)——A・Bの2つの契約

前回の解除は、どれも同じ形でした。不履行のあった契約を、債務を負う相手に対して解く。今日は、その形の外側に、1歩ずつ出ます。先に、見どころを言います。1つめ。Bは、2つの契約を結んでいます。片方が履行されなくなりました。もう片方は、きちんと履行が済んでいます。この履行が済んだ契約まで、解除できるでしょうか。不思議なことに、同じ事実の大半を使っても、結論が分かれます。2つの契約が連動していれば解除できて、連動していなければ解除できません。2つめ。Cは、Dは地役権の契約で何の債務も負っていない、と言います。それでもDは、相手が対価を払わないので、解除したい。

債務を負わない側に解除権があるかは、考え方の分かれる場所です。どう理解するかで、答案の書き方が変わります。この2つを設問にして、解除の射程が広がる2つの方向を、答案に書く練習をします。まず、問題文を読みます。設問1。登場人物はAとBです。Aは山あいに源泉を持っていて、温泉を供給する仕事をしています。Bは近くで旅館を営んでいて、「源泉かけ流しの露天風呂」を新しく作る計画を立てました。4月1日、AとBは、同じ席で一括して交渉したうえで、同じ日に、2つの契約を結びました。契約①は売買です。Aが、Aの源泉の湯に合わせて設計し、製作した専用の配湯設備一式を、Bの露天風呂に設置して引き渡します。湯の温度を下げる装置と、腐食に強い配管です。代金は600万円。この設備は、Aの源泉の湯のためだけの専用品で、ほかに使い道がありません。契約②は温泉の供給です。Aの源泉から、契約①の設備を通じて、毎分40リットルの湯を、10年間Bに供給します。料金は月額10万円。契約②の契約書には、「湯は、契約①で設置する設備を通じてのみ供給する」という定めがあります。Bが源泉かけ流しの露天風呂を営業する計画であることは、Aも、交渉の席で知っていました。ただし、その目的は、どちらの契約書にも書かれていません。6月1日、設備が設置されて、引き渡されました。Bは、代金600万円を全額支払いました。湯の供給は、7月1日に始まる約束でした。

ところが6月20日、Aが源泉の井戸の管理を怠った結果、井戸が崩れて、湯が湧き出さなくなりました。専門業者が調べると、復旧は不可能でした。Aは、もう湯を供給できません。7月10日、Bは、「契約①と契約②をいずれも解除する」とAに通知して、600万円の返還を求めました。設問1、Bは、契約②だけでなく契約①も解除して、600万円の返還を求めることができるか。変形が1つあります。出てきたときに読みます。

【事例】問題文(設問2)——C・Dと乙地・丙地の地役権 図:【事例】問題文(設問2)——C・Dと乙地・丙地の地役権

設問2。登場人物はCとDです。Cは乙地という宅地を、Dは隣の丙地を持っています。乙地から公道の下水本管へ排水管を通すには、丙地の地下を通すほかありません。ある年の4月1日、CとDは、丙地の地下に乙地のための排水管を設けて使う、地役権を設定する契約を結びました。地役権の設定登記もしています。対価として、Cは、毎年3月末日に年額12万円をDに支払うと約束しました。契約書にも書いてあります。契約の翌年の3月末日が、1回目の支払日です。Cは、1回目と2回目は支払いました。ところが、3回目と4回目の、合計24万円を支払っていません。4回目の支払日の翌月、4月10日。Dは、「30日以内に24万円を支払ってください」と催告しました。期間の末日、5月10日までに、支払いはありませんでした。5月20日、Dは、「地役権設定契約を解除する」とCに通知して、地役権の設定登記の抹消を求めました。これに対してCは、こう反論しています。「Dはこの契約で、何の債務も負っていない。債務を負わない者に、解除権はない」。設問2、Dは、地役権設定契約を解除することができるか。

事案の見取り図——AとBの間に契約が2本、CとDの間に乙地と丙地の地役権 図:事案の見取り図——AとBの間に契約が2本、CとDの間に乙地と丙地の地役権

図にします。左がAとB。AからBへ、契約が2本です。契約①の売買で設備を渡し、契約②の供給で湯を送ります。右がCとD。丙地の地下に、乙地のための排水管が埋められていて、CからDへは、年額12万円の対価が流れます。設問1ではB、設問2ではDです。どちらも、契約に縛られ続けている側です。ここに注目して、進めます。

解除の射程——前回の形から、今日は2方向へ出る 図:解除の射程——前回の形から、今日は2方向へ出る

前回の解除は、不履行のあった契約を、債務を負う相手に対して解く形でした。そして、解除の意味も確認しました。解除は、債務者を罰する制度ではありません。債権者を、契約の拘束から解放する制度です。解除は、契約ごとに生じます。ですから、原則として、不履行のあった契約だけが解除の対象です。今日の2つの事案は、この原則の外側です。設問1は、不履行のない契約を解こうとしています。設問2は、債務を負わない当事者が解こうとしています。どちらの設問も、軸は同じです。解除は、債権者を契約の拘束から解放する制度である。その解放が、どこまで届くのか。それを、事実で拾っていきます。なお、541条と542条の要件は、組み立て直しません。どの道に乗るかを、条文の番号で通すだけにします。

設問1

設問1の時系列——4月1日に2契約、6月1日設備設置、6月20日井戸の崩落、7月10日解除通知

設問1です。日付を確認します。4月1日に、契約①と契約②。6月1日に、設備の設置と、代金600万円の支払い。7月1日が、供給の開始の約束です。その前の6月20日に、井戸が崩れました。7月10日に、Bの解除の通知です。答案では、まず契約②を検討します。契約②は、前回の形で通せるからです。

契約②の解除権——供給債務の全部の履行不能、542条1項1号 図:契約②の解除権——供給債務の全部の履行不能、542条1項1号

井戸が崩れて、復旧は不可能です。Aは、毎分40リットルの湯を送る債務を、もう果たせません。法律の言葉では、履行不能です。契約の中身と、取引の世界の常識から見て、もう履行ができない。そういうとき、債権者は、履行を請求できません。412条の2第1項です。供給の債務は、全部が不能です。ですから、催告を省く道、542条1項1号に乗ります。必要な部分だけ、読みます。

条文民法542条1項柱書・一号(成立要件・条文どおり)

催告によらない解除 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。 一 債務の全部の履行が不能であるとき。

復旧できない井戸に向かって、「湯を出してください」と催告しても、仕方がありません。催告は、無意味です。前回の、催告を省く道です。1号には、履行期が来ていることという要件が、書かれていません。もう履行できないと分かっているなら、期日を待つ理由がないからです。履行期の前でも、解除できます。543条の、債権者の責めに帰すべき事由も、確認します。井戸の管理を怠ったのは、Aです。Bの責任で不能になったという事情は、ありません。解除は、相手方への意思表示でします。540条1項です。7月10日の通知が、それにあたります。ですから、契約②は、解除できます。ここは、前回の組み立てを、条文の番号で通しました。

問題の在りか——契約①には不履行がない、そのままでは解除できない 図:問題の在りか——契約①には不履行がない、そのままでは解除できない

問題は、契約①です。契約①は、6月1日に、設備が設置されて、引き渡されています。Aの売買の債務は、果たされています。不履行が、ありません。解除は、契約ごとに生じます。不履行のない契約は、解除できないのが原則です。契約②に解除権が生じても、そのまま契約①の解除権が生じるわけではありません。専用の設備は、湯が届かなければ使い道がありません。そこが、今日の問いの中心です。形のうえでは2つの契約でも、中身が1つの取引だったら、どうでしょう。ここで、解説の動画で見た内容を、思い出してみましょう。同じ当事者の2つの契約のうち、一方の不履行を理由に、もう一方も解除できるのは、どんな条件が揃ったときでしたか?

2つの契約の目的が、互いに密接に関連付けられていて、片方が履行されるだけでは、全体の目的が達成されないとき、でした。今日は、その知識を、答案の中で使える形にします。コツは、事実を「前提」「要件1」「要件2」の3つの箱に分けて拾うことです。

問題提起と規範——実質1つの取引なら、不履行のない契約にも縛りつけない 図:問題提起と規範——実質1つの取引なら、不履行のない契約にも縛りつけない

問いを立てます。契約②の不履行を理由に、不履行のない契約①も、解除できるでしょうか。解除の意味に戻ります。解除は、債権者を、契約の拘束から解放する制度でした。形は2つの契約でも、中身が1つの取引なら、どうでしょう。不履行のない一方だけに、Bを縛りつけておくのは、当事者の合理的な意思に反します。そこで、判例は、一定の場合に、併せて解除することを認めています。

⭐ 論文で書く規範:複数の契約の一方の不履行による他方の解除 この点、解除は、債権者を契約の拘束から解放する制度である。形式上は二つの契約でも、中身が一つの取引であれば、不履行のない一方だけに債権者を縛りつけておくのは、当事者の合理的意思に反する。 そこで、同一当事者間の債権債務関係が二個以上の契約から成る場合であっても、それらの目的とするところが相互に密接に関連付けられていて、社会通念上、いずれかが履行されるだけでは契約を締結した目的が全体としては達成されないと認められる場合には、一方の契約上の債務の不履行を理由に、その債権者は、法定解除権の行使として、他方の契約も併せて解除することができると解する。 (規範(最判平8・11・12))

要件は2つです。1つめが、「相互に密接に関連付けられている」。2つめが、「社会通念上、いずれかが履行されるだけでは、契約を締結した目的が全体としては達成されない」。これに、同一当事者の2つの契約で、一方に解除権が生じていることが、前提として付きます。互いに他方を前提にしている、つまり、2つの契約が連動している、と読んでください。たとえで説明します。専用の錠前と、その錠前だけを開ける専用の鍵を、一組として注文したとします。錠前だけ取り付けられても、鍵が届かなければ、ドアは開けられません。鍵だけ届いても、錠前がなければ、使い道がありません。錠前と鍵は、互いに他方を前提にしています。これが1つめです。そして、片方だけ手に入っても、ドアを開けるという目的は、果たせません。これが2つめです。この2つが揃うと、形は2つの注文でも、一組の取引と見ます。

条文には、書いてありません。ですから、成立要件ではなく、規範です。判例の文を、読みます。事案は、リゾートマンションの売買と、同時に結ばれたスポーツクラブの会員権の契約でした。屋内プールの完成が遅れて、会員権の契約が履行されませんでした。そのことを理由に、売買契約を解除できるかが争われ、最高裁は、解除を認めました。

判例最判平8・11・12 民集50巻10号2673頁

複数の契約の一方の不履行と他方の解除 このように同一当事者間の債権債務関係がその形式は甲契約及び乙契約といった二個以上の契約から成る場合であっても、それらの目的とするところが相互に密接に関連付けられていて、社会通念上、甲契約又は乙契約のいずれかが履行されるだけでは契約を締結した目的が全体としては達成されないと認められる場合には、甲契約上の債務の不履行を理由に、その債権者が法定解除権の行使として甲契約と併せて乙契約をも解除することができるものと解するのが相当である。

甲契約は、不履行のあった契約です。乙契約は、不履行のない、もう一方の契約です。本問では、契約②が甲契約で、契約①が乙契約にあたります。判決の事案は、履行が遅れた場合で、541条の解除でした。本問は、履行が不能になった場合で、542条1項1号の解除です。ただ、文を見てください。「法定解除権の行使として」とあります。法定解除権は、解除の総論で見た、法律の規定で生まれる解除権です。どの条文で解除権が生じたかは、限っていません。ですから、本問でも、同じ規範で考えます。

3つの箱——前提、要件1、要件2に、問題文の事実を仕分ける 図:3つの箱——前提、要件1、要件2に、問題文の事実を仕分ける

3つの箱に、問題文の事実を仕分けます。まず、前提です。契約①も契約②も、AとBの間の契約です。同一当事者間の、2つの契約です。そして、契約②には、先ほど見たとおり、解除権が生じています。前提は、満たされます。要件1です。契約①と契約②が、互いに他方を前提としている、と言える事実は何でしょうか?問題文から、拾ってみてください。答え合わせです。拾う事実は、3つあります。1つめ。契約②の契約書に、「湯は、契約①で設置する設備を通じてのみ供給する」という定めがあります。2つめ。契約①の設備は、Aの源泉の湯のためだけの専用品で、ほかに使い道がありません。3つめ。2つの契約は、4月1日に、同じ席で一括して交渉され、同じ日に結ばれました。評価します。契約②の供給は、契約①の設備なしにはできません。契約①の設備は、契約②の湯なしには、用をなしません。互いに他方を前提にしています。ですから、2つの契約の目的は、相互に密接に関連付けられています。要件1は、あてはまります。

1つだけでは、弱くなります。契約書の定めは、法的な結びつきを示します。専用品という事実は、経済的な結びつきを示します。一括交渉は、結びつける意思を示します。複数の角度が重なるほど、互いに他方を前提にしている、と言いやすくなります。要件2です。こちらも、拾う事実から並べます。Bは、旅館で「源泉かけ流しの露天風呂」を営業する計画を立てて、2つの契約を結びました。Aも、この計画を知っていました。ここが、契約を締結した目的です。次に、片方だけが履行された場合を、2通り考えます。契約①の設備が設置されても、契約②の湯が来なければ、露天風呂に湯を引けません。逆に、契約②の湯が供給されることになっても、契約①の設備がなければ、湯を受けられません。評価します。社会通念上、どちらか一方が履行されるだけでは、露天風呂を営業するという目的は、全体としては達成されません。要件2も、あてはまります。

判決の、あてはめの部分を読みます。

判例最判平8・11・12 民集50巻10号2673頁

複数の契約の一方の不履行と他方の解除(あてはめ) これを本件について見ると、本件不動産は、屋内プールを含むスポーツ施設を利用することを主要な目的としたいわゆるリゾートマンションであり、前記の事実関係の下においては、上告人らは、本件不動産をそのような目的を持つ物件として購入したものであることがうかがわれ、被上告人による屋内プールの完成の遅延という本件会員権契約の要素たる債務の履行遅滞により、本件売買契約を締結した目的を達成することができなくなったものというべきであるから、本件売買契約においてその目的が表示されていたかどうかにかかわらず、右の履行遅滞を理由として民法五四一条により本件売買契約を解除することができるものと解するのが相当である。

注目するのは、「その目的が表示されていたかどうかにかかわらず」です。この事件では、原審は、目的が売買契約に表示されていなかったことを理由に、解除を認めませんでした。最高裁は、それを退けました。なぜ、表示がなくてよいのか。この規範が見るのは、2つの契約が客観的に密接に関連しているか、そして全体として目的が達成されないか、の2点です。中身が一組の取引なら、目的を契約書に書いたかどうかで、債権者を片方の契約に縛りつけておく不合理さは、変わらないからです。本問も、露天風呂という目的は、契約書にありません。それでも、Aが交渉の席で知っていた事実と、契約の中身の連動から、目的を拾えます。

設問1の結論——契約②の不履行を理由に、契約①も併せて解除できる 図:設問1の結論——契約②の不履行を理由に、契約①も併せて解除できる

結論です。2つの契約の目的は、相互に密接に関連付けられていて、いずれかが履行されるだけでは、契約を締結した目的が全体としては達成されません。よって、Bは、契約②の不履行を理由に、契約①も併せて解除できます。解除すれば、Bは、支払った600万円の返還を求められます。545条1項です。設備は、BがAに返します。効果の詳しい話は、ここでは一言にとどめます。ここで、変形です。もし、結論が変わるとしたら、どの事実が変わったときでしょうか。変形の事実を読みます。契約①の設備が、どの湯にも、水道水を沸かした湯にも使える汎用品だったとします。契約①は、契約②と別の機会に結ばれていて、契約②にも、「契約①の設備を通じてのみ供給する」という定めはありません。そしてBは、水道水を沸かした湯でも、露天風呂を営業できる計画でした。ほかの事実は、同じです。結論は、同じでしょうか。考えてみてください。答え合わせです。要件1から見ます。設備は汎用品で、契約は別の機会に結ばれ、連動する定めもありません。契約②の供給は、契約①の設備なしでもできます。契約①の設備は、契約②の湯がなくても、用をなします。互いに他方を前提としていません。要件1が欠けます。

変形の対比——本問と変形を、要件1、要件2、結論で並べる 図:変形の対比——本問と変形を、要件1、要件2、結論で並べる

要件2も見ます。水道水を沸かした湯でも、露天風呂を営業できる計画でした。契約②が履行されなくても、契約①の設備は、Bの営業という目的に役立ちます。片方が履行されないだけで、目的が全体として達成されなくなるわけではありません。要件2も欠けます。錠前と鍵で言えば、どこの錠前にも使える普通の鍵を、別の店で、別の機会に買った場合です。錠前が来なくても、その鍵は、ほかのドアで使えます。一組とは、言えません。ですから、変形では、契約①は解除できません。解除できるのは、契約②だけです。600万円の返還も、求められません。

変わったのは、連動の事実です。契約書の定め、専用品かどうか、同じ機会かどうか。その連動が切れると、要件1と要件2が、同時に欠けます。連動の事実を、丁寧に拾う理由は、ここにあります。

設問2

設問2の時系列——X年4月1日契約と登記、3回目と4回目が未払い、4月10日催告、5月10日期間満了、5月20日解除通知

設問2です。Dは、地役権設定契約を解除できるか。日付を確認します。ある年の4月1日に、契約と登記。翌年の3月末日から、毎年、年額12万円の支払日が来ます。1回目と2回目は支払われて、3回目と4回目、合計24万円が未払いです。4月10日に催告、5月10日に期間が満了、5月20日に解除の通知です。地役権は、解説の動画で見た権利です。最初に、条文を、全文で読んで、確認します。

条文民法280条

地役権の内容 地役権者は、設定行為で定めた目的に従い、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利を有する。ただし、第三章第一節(所有権の限界)の規定(公の秩序に関するものに限る。)に違反しないものでなければならない。

自分の土地の便利のために、他人の土地を使う権利です。便利になる側の土地を要役地、使われる側の土地を承役地といいます。本問では、乙地が要役地、丙地が承役地です。乙地の排水管のために、丙地の地下を使う。これが、本問の地役権の中身です。対価を払うかどうかは、設定行為で決まります。無償の地役権もあります。本問は、年額12万円を払うと約束した、有償の地役権です。Dが解除する根拠は、541条です。前回の形で、要件を一気に通します。まず、条文を読みます。

条文民法541条(成立要件・条文どおり)

催告による解除 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。

541条の要件を設問2の事実に当てる——債務、不履行、催告、軽微でないこと、帰責事由なし

条文どおりの要件です。1つずつ、事実を当てます。債務の存在。契約書に、Cが毎年3月末日に、年額12万円をDに支払う、と書かれています。Cは、対価を支払う債務を負います。債務の不履行。各支払日は、3月末日という確定期限です。その日が来れば、Cは遅れた責任を負います。412条1項です。3回目と4回目の、合計24万円が、支払われていません。催告と期間内の不履行。Dは、4月10日に、30日以内に支払うよう催告しました。金額は確定していて、最初の未払い分の支払日から、すでに1年以上が経っています。30日は、相当の期間です。5月10日までに、支払いはありません。ただし書の、軽微性。前回の2段階で見ます。まず、債務の重要性です。Cが払っていないのは、有償の契約の、中心にある対価の支払債務です。次に、不履行の程度です。2年分を連続して全額、払っていません。催告にも応じていません。期間が過ぎた時の不履行は、軽微ではありません。最後に543条。不履行が、Dの責めに帰すべき事由によるという事情は、見当たりません。ここまでは、前回の型どおりで、問題なく通ります。引っかかるのは、Cの反論です。

問題提起——条文は「相手方」と書くだけ、Dは債務を負わない 図:問題提起——条文は「相手方」と書くだけ、Dは債務を負わない

Cは、「Dはこの契約で、何の債務も負っていない」と言っています。この前提で、まず考えます。541条の文言を、もう一度見てください。解除できるのは、「相手方」です。自分が債務を負っていることを要件とする言葉は、書かれていません。Cの反論は、そのまま通るでしょうか?条文の言葉だけでは、決まらないところです。そこで、解除という制度を、どう理解するかに戻ります。少し思い出してみましょう。前回、解除は、誰を、何から解放する制度だと確認しましたか?債権者を、契約の拘束から解放する制度、でした。ところが、この「何から」の理解が、2通りに分かれます。

解除できる者の対比——否定する考え方と肯定する考え方 図:解除できる者の対比——否定する考え方と肯定する考え方

1つめは、否定する考え方です。解除は、債権者を、自分が負っている債務から解放する制度だ、と理解します。この考え方は、解除を、お互いに債務を負う契約の仕組みとして見ます。相手が払わないのに、自分だけが、自分の債務に縛られ続けるのは、不公平です。その縛りを解くのが解除だ、と見るのです。ですから、そもそも債務を負わない者には、解かれる縛りがありません。債務を負わない者は、解除できない、という結論になります。この考え方なら、Dが債務を負わないなら、Dは解除できません。2つめは、肯定する考え方です。解除は、債権者を、債務に限らず、契約の拘束から広く解放する制度だ、と理解します。契約の効力を消滅させる法的な利益があれば、債務を負わなくても、解除できます。同じ解除の制度なのに、解放の対象をどこまで見るかで、結論が正反対になります。

どちらの結論でも、書けます。判例や通説が一方に決まっている論点ではありません。大事なのは、自分が依拠した理解と、結論が揃っていることです。そのうえで、この動画では、肯定する考え方を、本線にして書きます。

規範——解除は契約の拘束から解放する制度、債務を負わなくても法的利益があれば解除できる

⭐ 論文で書く規範:債務を負わない者からの解除 この点、債務不履行による解除は、債権者を契約の拘束から解放する制度である。これを、債権者が自ら負う債務から解放するための制度と解し、債務を負わない者は解除できないとする考え方もある。 しかし、契約が債権者をなお縛っている状態を解くための制度であるなら、解放の対象を債権者自身の債務に限る理由はない。 そこで、債権者が債務を負わない契約であっても、契約の効力を消滅させる法的利益がある場合には、解除できると解する。 (規範(判例なし・考え方が分かれる))

本線にした理由を、3つ言います。1つめ。前回身につけた、債権者を契約の拘束から解放する制度、という言い方と、そのまま噛み合います。新しい物差しを、足さずに書けます。2つめ。否定する考え方が見ているのは、自分の債務に縛られる場面です。でも、契約が債権者を縛るのは、債務だけではありません。Dのように、契約が残る限り、負担を抱え続ける場面もあります。解放の対象を債務に絞ると、その場面が、こぼれます。3つめ。肯定する考え方は、事案に即して、契約の効力を消す法的利益があるかを、事実で拾えば足ります。答案が書きやすいのです。答案では、最初の段落で否定する考え方を示して、次の段落で退ける理由を一文書きます。ここが、規範の中心です。

法的利益を言い換えると、契約が残っていると困ること、です。契約が残っていると、法的に不利益が続く。それを消したい、という利益です。たとえで説明します。自分の空き地の端に、隣の家のために通れる権利を認めて、通行料を毎年もらう約束をしたとします。ところが、2年分の通行料が入りません。この契約で通らせる側に債務は無い、と仮定します。すると、通らせる側は、「通らせる」という負担を、抱えているだけです。それでも、通行料が入らないまま、通路の負担を抱え続けるのは、困ります。契約が残っていることで、困っている。これが法的利益です。

事実で見ます。契約が残ることで、どんな負担が続くのか。それが、契約を消す利益にあたるか。答案では、この2つを事実から拾います。

設問2のあてはめ——地役権の負担と登記、未払いの対価、存続する限り続く制約 図:設問2のあてはめ——地役権の負担と登記、未払いの対価、存続する限り続く制約

あてはめです。法的利益を、事実で拾います。拾う事実は、3つです。1つめ。Dの丙地の地下には、Cのための地役権という、物権の負担があります。登記もされています。2つめ。その対価として、毎年12万円が約束されました。ところが、2年分の24万円が支払われていません。Cは、催告にも応じていません。3つめ。地役権が存続する限り、Dは、対価を得ないまま、丙地の地下の利用を、制約され続けます。評価します。契約によって丙地に残る負担から、解放されたい。その法的な利益が、Dにあります。契約の効力が消えれば、地役権も消えます。消えた権利の登記を残しておく理由は、ありません。ですから、地役権の設定登記の抹消も、求められます。当てはめます。Dには、契約の効力を消滅させる法的利益があります。ですから、Dは、この契約で債務を負わないとしても、解除できます。

設問1の2つの要件とは、型が違います。こちらは、法的利益の有無を、事実から立てます。

契約の性質の2分岐——全体で1つの有償契約か、地役権設定契約と対価の特約か 図:契約の性質の2分岐——全体で1つの有償契約か、地役権設定契約と対価の特約か

もう1つ、答案に入れる検討があります。Dは、本当に債務を負っていないのでしょうか。有償の地役権設定契約を、どう見るか。全体で1つの有償の契約と見るか。地役権を設定する契約と、対価を支払う特約の、2つと見るか。ここで分かれます。全体で1つの有償契約と見る場合から、いきます。この場合、Dは、地役権を設定する債務を負う、と解する立場があり得ます。Cの対価を支払う債務と、お互いが引き換えの関係に立ちます。これを、対価的牽連関係といいます。お互いに債務を負う、双務契約になります。通路のたとえは、Cの言い分どおり、Dに債務は無い、という前提での話でした。1つの有償契約と見ると、その前提が変わります。すると、債務を負う者に限る考え方に立っても、Dは、債務を負う当事者として、解除できます。そもそも、債務を負わないという前提が、崩れます。次に、2つと見る場合です。地役権設定契約は、権利を設定する合意で、それだけでは債権債務が生まれない、と理解します。無償の地役権を思い浮かべてください。設定すれば、Cは、丙地の地下を使えます。それは、地役権という物権の力によるもので、Dの債務によるものではありません。合意の役目は、権利を生むところで終わります。対価の支払いは、それとは別の債権契約、つまり特約だ、という見方です。この見方だと、特約の不履行を理由に、地役権設定契約まで解除できるか、という問いが、別に出てきます。設問1と、同じ型の問いです。見方次第で、肯定も否定もありえます。

手がかりは、2つです。1つめ。地役権は、無償でも成立します。対価は、地役権の本質的な要素ではない、という点です。2つめ。不動産登記法80条1項の、地役権の登記事項に、対価は入っていません。地上権や賃借権では、地代や賃料が登記事項です。対価は、物権の内容そのものではなく、設定行為に付く約定だ、と見る手がかりです。本件はどうか。2つの手がかりは、どちらも、対価の無い地役権もありうる、という一般論です。本件の当事者は、対価を契約書で取り決めて、一体として地役権を設定しています。ですから、全体を1つの有償契約と見るのが自然です。

設問2の整理——どちらの理解でも結論が書ける、依拠した理解と結論の筋 図:設問2の整理——どちらの理解でも結論が書ける、依拠した理解と結論の筋

整理します。肯定する考え方に立つなら、債務を負わなくても、法的利益があれば解除できます。Dには、地役権の負担から解放される利益があります。解除できます。否定する考え方に立つなら、解除できるのは、債務を負う者に限られます。そこで、契約の性質を検討します。全体を1つの有償契約と見れば、Dも債務を負います。解除できます。どちらの筋でも、結論は、Dは解除できる、です。そして、解除すれば、契約の効力が消えるので、地役権設定登記の抹消を求められます。545条1項です。大事なのは、結論に至る筋が、依拠した理解と整合していることです。肯定する考え方に立ちながら、解除できる者は債務を負う者に限る、とは書けません。

解除の射程

仕分け図——前回の形から、不履行のない契約へ、債務を負わない側へ 図:仕分け図——前回の形から、不履行のない契約へ、債務を負わない側へ

2つの設問を、1枚の図にします。前回の形は、不履行のあった契約を、債務を負う相手に対して解く、でした。今日は、そこから2つの方向に、出ました。1つめ。不履行のない契約まで、解除が届くか。設問1です。連動の事実を拾って、前提、要件1、要件2に当てます。2つめ。債務を負わない側から、解除できるか。設問2です。解除制度の目的の理解を立てて、それと整合する結論を書きます。どちらも、解除は債権者を契約の拘束から解放する制度、という軸でつながっているんです。解放が、どこまで届くか。その線を、事実で引く、と考えてください。

完成答案

完成答案① 第1 設問1——BのAに対する契約①の解除(契約②の解除権) 図:完成答案① 第1 設問1——BのAに対する契約①の解除(契約②の解除権)

ここまでを、答案の形にしました。動画を止めて、見てみてください。まず設問1です。契約②の解除権が、前回の形で通されているかを確かめてください。

完成答案①(続き) 第1 設問1——契約①の解除の可否(問題提起と規範) 図:完成答案①(続き) 第1 設問1——契約①の解除の可否(問題提起と規範)

続きです。契約①には不履行がない、という問題提起から、規範が立てられているかを見てください。

完成答案①(続き) 第1 設問1——契約①の解除の可否(あてはめ) 図:完成答案①(続き) 第1 設問1——契約①の解除の可否(あてはめ)

要件1と要件2に、どの事実が入っているかを確かめてください。

完成答案①(続き) 第1 設問1——結論と変形の場合 図:完成答案①(続き) 第1 設問1——結論と変形の場合

設問1の最後です。変形で、両方の要件が欠ける書き方を見てください。

完成答案② 第2 設問2——DのCに対する地役権設定契約の解除(541条の要件) 図:完成答案② 第2 設問2——DのCに対する地役権設定契約の解除(541条の要件)

設問2です。止めて見てください。541条の要件が、短く通されているかを確かめてください。

完成答案②(続き) 第2 設問2——Dが解除できる者にあたるか(問題提起と規範) 図:完成答案②(続き) 第2 設問2——Dが解除できる者にあたるか(問題提起と規範)

続きです。否定する考え方が、最初の段落に出て、退ける理由が、次の段落にあるかを確かめてください。

完成答案②(続き) 第2 設問2——Dが解除できる者にあたるか(あてはめ) 図:完成答案②(続き) 第2 設問2——Dが解除できる者にあたるか(あてはめ)

法的利益に、どの事実が入っているかを見てください。

完成答案②(続き) 第2 設問2——予備的検討と結論 図:完成答案②(続き) 第2 設問2——予備的検討と結論

最後です。契約の性質を検討する予備的な部分と、結論を見てください。

今日の地図(保存版)

今日のまとめ——2つの設問を、規範、決め手、結論で仕分ける 図:今日のまとめ——2つの設問を、規範、決め手、結論で仕分ける

まとめます。解除の射程が広がる2つの方向を、答案に書きました。設問1は、不履行のない契約の解除です。規範は、同一当事者の複数の契約で、目的が相互に密接に関連付けられ、いずれかが履行されるだけでは、目的が全体としては達成されないとき、併せて解除できる、でした。決め手は、契約書の定め、専用品、一括交渉という連動の事実と、露天風呂という目的です。解除できます。変形では、連動が切れて、要件1と要件2が欠けるので、契約①は解除できません。設問2は、債務を負わない側からの解除です。規範は、解除は債権者を契約の拘束から解放する制度であり、債務を負わなくても、契約の効力を消滅させる法的利益があれば解除できる、でした。決め手は、丙地に残る地役権の負担と、未払いの対価です。解除できます。債務を負う者に限るとする考え方に立っても、有償の契約全体で見れば、Dも債務を負います。

軸は、解除は債権者を契約の拘束から解放する制度、のままなんですね。債務者を罰する制度ではなく、債権者を解放する制度。前回から今日まで、この一本で、解除の射程が広がる方向を、説明できました。答案に書くときは、設問1なら、事実を前提、要件1、要件2の3つの箱に分けて拾うこと。設問2なら、依拠した理解を先に立てて、それと整合する結論を書くこと。この2点を、忘れないでください。

参照条文

  • 民法542条1項柱書・一号(成立要件・条文どおり)
  • 民法280条
  • 民法541条(成立要件・条文どおり)

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