民法ゼロから民法 論文

94条2項類推適用②(承認した外観を超える・類推の限界)

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ゼロから民法 論文/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

事例

前編の対応表——3つの型と、まだ空いている2つの欄 図:前編の対応表——3つの型と、まだ空いている2つの欄

今日は、その続きです。前編の対応表には、まだ空欄が2つあります。1つめは、Aが一度は承認した外観を、Bが超えて、別の外観を作った場合です。2つめは、Aの関わりが、不注意と言えるほどにも届かない場合です。先に、今日の見どころを言います。Aが書類をBに渡していて、買主のCに落ち度が何も無くても、Cが守られない場面があります。その場合、Cは守られません。分かれ目は、今回もCではありません。Aが何を承認したのか。そして、他人が名義を移せる状況を、Aがどこまで自分で作ったのか。そこを見ます。

2つの事例——登記簿のB名義を見て買ったCと、真の持ち主A 図:2つの事例——登記簿のB名義を見て買ったCと、真の持ち主A

事例は2つです。どちらも、前編と同じ形です。登記簿のB名義を見て、Bから土地を買ったCがいます。あとから、真の持ち主のAが、Cに「登記を消せ」と求めます。設問1は、AがBと通じて、抵当権の登記を作るところから始まります。設問2は、Aが書類をBに、1週間だけ貸すところから始まります。共通の出発点は、前編で確かめました。Bは無権利者です。日本の登記には、公信力がありません。登記簿に載っている名前を信じても、それだけでは持ち主になれないのです。ですから、Cは、原則として所有権を取れません。この原則の例外として、Cを救えるかを考えるのが、94条2項の類推です。前編の言葉で、短く確かめます。94条2項は、相手と通じてうその意思表示をした本人は、事情を知らない第三者に、無効を言えない、という条文です。うその外観を作った責任が、本人にある。だから、それを信じた人を守る。これが趣旨です。外観とは、登記簿の見かけのことです。類推とは、条文そのものには当たらなくても、同じ理由が当てはまる場面に、条文の考え方を広げることです。通謀が無くても、本人に責任があれば、同じ理由が当てはまります。今日は、その先から入ります。

設問1

設問1の時系列——3月1日に抵当権設定登記、4月15日に所有権移転登記、7月10日にCへ売却

設問1です。問題文を読みます。Aは、更地の甲土地を所有しています。時価は約2,400万円です。Eが、甲土地を売ってほしいと繰り返し申し入れていますが、Aに売る気はありません。3月1日、Aは、Eにあきらめさせるため、Bと相談し、「甲土地にはすでに抵当権が付いている」と見せることにしました。AとBの間に金銭の貸し借りは無いのに、Bを抵当権者、債権額500万円とする抵当権設定登記をすることに、AとBは合意しました。Aは、登記の申請をBに任せ、登記識別情報と印鑑登録証明書をBに預けました。使うのは抵当権設定登記のためだけ、という約束でした。同日、B名義の抵当権設定登記がされました。言葉を1つ確かめます。登記識別情報は、前編で見たとおり、名義を移す申請が本人からだと確かめるための情報です。印鑑登録証明書も、その申請に使う書類です。4月15日、Bは、預かっていた登記識別情報と印鑑登録証明書を使い、Aの委任状を偽造して、「4月14日売買」を原因とする、甲土地のAからBへの所有権移転登記をしました。売買の事実は、ありません。Aはこの登記に同意しておらず、7月10日の後まで、知りませんでした。7月10日、BはCに、甲土地を代金2,400万円で売りました。時価相当です。Cは代金を支払い、同日に移転登記を受けました。Cは、登記簿でB名義の所有権の登記を確認し、不審な点を何も感じず、Bが所有者だと信じて買いました。

AはCに対し、所有権に基づいて、C名義の移転登記の抹消を求めました。問いは、AはCに、抹消登記を請求できるか。変形は、あとで読みます。答案は、請求の根拠から始めます。Aは、所有権に基づく妨害排除の請求として、抹消を求めています。Aが甲土地の所有権を持っていることが、前提です。ここは、前編と同じ運びです。AB間に売買は無く、Aは所有権を失っていません。Bは、7月10日の時点で、無権利者です。登記に公信力は無いので、Cも、原則として所有権を取れません。そこで、Cを守れるかを考えます。94条を、全文で読みます。

条文民法94条1項・2項

虚偽表示 第九十四条 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。 2 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。

前編と同じ条文です。今回確かめたいのは、通謀が、どの登記にあったかです。3月1日の抵当権設定登記には、AとBの通謀があります。金銭の貸し借りが無いのに、あるように見せる合意をしました。しかし、Cが信頼したのは、4月15日の所有権移転登記です。こちらには、AとBの通謀も、虚偽の意思表示もありません。Aは、同意すらしていません。ですから、Cが信頼した外観に、94条2項は直接適用できません。通謀があった外観と、無かった外観を、分けて見る。これが、設問1の入口です。所有権の登記にまで同じ責任が及ぶのかが、設問1の中心の問いです。承認した外観と、Cが信頼した外観のずれを、図にします。

承認した外観と、Cが信頼した外観——抵当権の円の外側に、所有権の円が広がる 図:承認した外観と、Cが信頼した外観——抵当権の円の外側に、所有権の円が広がる

内側の小さな円が、Aが承認した外観、抵当権の登記です。外側の大きな円が、Cが信頼した外観、所有権の登記です。Aの意思が届いているのは、内側の円だけです。外側のうち、内側からはみ出した部分は、Bが勝手に広げた部分です。身近な例で言います。留守中の水やりを頼んで、友人に家の鍵を貸したとします。友人が、その鍵で入って、家の物を売ってしまった。鍵を貸して、入れる状況を作った責任は、あります。でも、売ることまで認めたことには、なりません。Aの責任も、同じ形です。承認した範囲の中と、超えた部分とで、重さが違います。この違いを、規範にどう組み込むか。見ていきます。

問題提起と規範——承認した外観を超えたら、110条の法意に照らして善意かつ無過失を求める

問いを立てます。Cは、B名義の所有権の登記を信じて買っています。所有権移転登記について、AB間に通謀は無く、94条2項は直接使えません。Aが承認した抵当権の登記を超えて、Bが所有権の登記を作った場合に、類推できるでしょうか。

⭐ 論文で書く規範:承認した外観を超えた場合の94条2項・110条の法意 この点、94条2項の趣旨は、本人の帰責性のもとに虚偽の外観が作出され、それを信頼して取引に入った者を保護する点にある。 そこで、①虚偽の外観、②本人の帰責性、③外観への信頼がある場合には、94条2項を類推適用すべきと考える。 もっとも、本人が承認した外観を超えて、他人が別の外観を作出した場合、本人の意思と外観は対応しておらず、本人の帰責性は、通謀して外観を作出した場合より小さい。そこで、94条2項に加えて110条の法意に照らし、外観に対する信頼があるというためには、善意かつ無過失であることを要すると考える。 (規範(参考:最判昭43・10・17))

1文目と2文目は、前編で立てた形です。趣旨と、3つの条件。ここは、一言で通します。3文目が、今日の新しい部分です。承認した外観を超えて、他人が別の外観を作った。そのとき、本人の意思と外観は、対応していません。本人の帰責性は、通謀して作った場合より小さい。そこで、110条の法意に照らして、善意に加えて、無過失を求めます。条文そのものではなく、条文の考え方のことです。110条の考え方を、借りる、と思ってください。110条は、代理人が権限を超えて行為した場合の条文です。任された範囲を超えて動いた人がいる。その場合に、相手方を守るのは、相手方に落ち度が無いときだけ、という形です。設問1も、承認した範囲を超えて動いた人がいる場面です。形が似ているので、考え方を借ります。条文を、全文で読みます。

条文民法110条

権限外の行為の表見代理 第百十条 前条第一項本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。

借りるのは、考え方だけです。代理の話ではありません。「正当な理由」の中身にも、ここでは立ち入りません。落ち度なく信じたことを求める、というところまで使います。なぜ、無過失まで求めるのか。Aは、抵当権の外観には、責任があります。ただ、所有権の外観まで、通謀した人と同じ責任を負わせるのは、重すぎます。そこで、第三者の側に、疑うべき事情を見落としていないこと、つまり無過失を求めて、釣り合いを取ります。境界のすぐ外も見ます。もしAが、所有権移転登記を作ることまで、Bと合意していたら、どうでしょう。それは、通謀して作った外観です。94条2項が直接適用され、Cは善意で足ります。承認した範囲の中か外かで、Cに求めるものが変わります。前編の同視型とも、並べておきます。同視型は、不注意が、知りながら放置したのと並べられるほど重い型でした。結論の形は似ていて、どちらも善意かつ無過失が要ります。ただ、入口が違います。同視型は、Aが外観を承認していない場面でした。設問1は、承認した範囲を、超えられた場面です。前編の最後に予告した、解説の動画の非対応型は、この設問1の形です。同視型も、解説の動画では、非対応型の仲間に入れていました。解説の動画でも見た判例です。事案から言います。所有者が、相手方と通じて、売買の予約を仮装し、仮登記をしました。仮登記は、順位を先取りするだけの予約の印で、本番の登記を本登記と言います。ところが、相手方が、その仮登記をいいことに、勝手に本登記をしました。そのあとに登記簿の上で権利を取得した人が、善意無過失かどうかを審理せずに判断した原審を、最高裁は、審理が足りないとして、破棄して差し戻しました。判旨を読みます。

判例最判昭和43年10月17日 民集22巻10号2188頁

承認した外観を超える本登記 思うに、不動産について売買の予約がされていないのにかかわらず、相通じて、その予約を仮装して所有権移転請求権保全の仮登記手続をした場合、外観上の仮登記権利者がこのような仮登記があるのを奇貨として、ほしいままに売買を原因とする所有権移転の本登記手続をしたとしても、この外観上の仮登記義務者は、その本登記の無効をもつて善意無過失の第三者に対抗できないと解すべきである。けだし、このような場合、仮登記の外観を仮装した者がその外観に基づいてされた本登記を信頼した善意無過失の第三者に対して、責に任ずべきことは、民法九四条二項、同法一一〇条の法意に照らし、外観尊重および取引保護の要請というべきだからである。

「外観上の仮登記権利者」が、本問のBにあたります。「外観上の仮登記義務者」が、Aです。「奇貨として」は、いいことに、「ほしいままに」は、勝手に、という意味です。結論は、仮登記を仮装した人は、勝手にされた本登記の無効を、善意無過失の第三者に対抗できない、です。理由は、最後の1文です。外観を仮装した人は、その外観に基づく本登記を信頼した、善意無過失の第三者に責任を負う。民法94条2項と110条の法意に照らして、外観尊重と取引保護の要請だからです。注目してほしいのは、判旨が「善意無過失の第三者」と言っている点です。善意だけではありません。ただし、判例の事案は、仮登記から本登記です。本問は、抵当権の登記から、所有権の登記です。事実は違います。それでも、構造は同じです。本人が承認した外観の範囲を超えて、より強い外観が作られた。この構造を根拠に、判旨の理由を、本問にも使います。

設問1のあてはめ——虚偽の外観と、承認した範囲、超えた部分、帰責性の評価 図:設問1のあてはめ——虚偽の外観と、承認した範囲、超えた部分、帰責性の評価

あてはめます。1つめ、虚偽の外観です。4月15日に、「4月14日売買」を原因とする、AからBへの所有権移転登記がされています。AB間に売買は無いので、実体に合わない登記です。虚偽の外観があります。2つめ、本人の帰責性です。ここは、3段で書きます。1段目、Aが承認した外観です。拾う事実は、3月1日に、Eにあきらめさせるため、Bと通じて抵当権設定登記を作ったこと。金銭の貸し借りは無いこと。申請をBに任せ、登記識別情報と印鑑登録証明書を預けたことです。評価します。Aは、自分の意思で、抵当権という虚偽の外観を作りました。Bが登記を作れる状況も、自分で作りました。2段目、承認した外観を超えていることです。拾う事実は、使うのは抵当権設定登記のためだけ、という約束だったこと。4月15日の登記は、その約束に反して、Bが委任状を偽造して作ったこと。Aは同意しておらず、7月10日の後まで知らなかったことです。評価します。Cが信頼した所有権の外観は、Aが承認した抵当権の外観の範囲を、超えています。3段目、全体の評価です。Aは、虚偽の外観を自ら作り、Bに書類を預けた点で、帰責性があります。ただ、Aの意思が届いているのは、抵当権の外観までです。所有権の外観は、Aの意思に対応していません。ですから、通謀して所有権の外観を作った場合ほど、重くはありません。

帰責性は残ります。小さくても、はっきりあります。この点が、設問2との違いです。設問1は、帰責性があるので、Cに無過失を求めて、類推します。

外観への信頼——善意かつ無過失を、確認の方法、代金、不審の有無で見る 図:外観への信頼——善意かつ無過失を、確認の方法、代金、不審の有無で見る

3つめ、外観への信頼です。Cは、7月10日に移転登記を受けた第三者です。拾う事実は、登記簿でB名義の所有権を確認したこと。代金が、時価相当の2,400万円だったこと。不審な点を、何も感じなかったことです。評価します。Cは、登記が不実だとは知りませんでした。善意です。値段も登記簿も自然で、Bの所有権を疑うべき事情がありません。疑うべき事情を、見落としていません。無過失です。ですから、3つの条件がそろいます。94条2項に加えて、110条の法意に照らして、類推されます。結論です。AはCに対し、Bが甲土地の所有権を取得していないことを、主張できません。AはCに、抹消登記を請求できません。

設問1の変形——本問と変形を、Cの調査、代金、結論で並べる 図:設問1の変形——本問と変形を、Cの調査、代金、結論で並べる

ここで、問いです。前編の設問1では、Cの調査が登記簿だけでも、結論は変わりませんでした。では、この設問1で、Cが、7月10日の売買の前に現地を見て、Aが甲土地を資材置場として使い続けているのを知っていたら、どうでしょう。AにもBにも確認せず、代金も時価の半分の1,200万円で買ったとします。考えてみてください。答え合わせです。結論が変わります。Cは、保護されません。土地を現に使っている人がいること。そして、代金が半値であること。この2つは、Bが本当の所有者ではないかもしれない、と疑わせます。それなのに、AにもBにも確認しませんでした。Cには過失があります。Cは、登記が不実だとまでは知りません。善意ではあります。ただ、無過失ではありません。ですから、類推では保護されず、Aは甲土地の所有権をCに主張できます。Aの請求は認められます。前編の設問1と比べます。前編は、Aが自分で外観を作ったので、Cの調査不足は結論に影響しませんでした。今回は、承認した外観を超えているので、無過失まで要ります。Aの関わり方で、Cに求めるものが変わる。これが、設問1の答えです。

設問2

設問2の時系列①——5月8日に頼まれ、5月9日に確かめ、5月10日に書類を渡す、5月17日に識別情報を返す

設問2です。問題文を読みます。Aは会社員で、乙土地を所有しています。時価は約2,500万円です。Aは、不動産取引の経験が、ありません。5月8日、不動産取引の経験が長い知人のBが、訪ねてきました。「市の土地区画整理事業の手続で、乙土地の登記識別情報と印鑑登録証明書が要る。手続は自分が代わりに進める」と言って、貸してほしいと求めました。5月9日、Aは、市役所の区画整理課に、自分で電話をかけました。事業が実際に進んでいること。地権者に権利関係の書類の提出を求めることがあること。この2点を確かめました。5月10日、Aは、「1週間だけ。使う前に必ず連絡してほしい」と条件を付けて、登記識別情報と、印鑑登録証明書1通を、Bに渡しました。5月17日、Bは、登記識別情報をAに返しました。印鑑登録証明書は、Aが「もう要らない」と思い、返してもらいませんでした。実は、Bは、登記識別情報を返す前に、記載を書き写していました。Aは、知りませんでした。

設問2の時系列②——5月24日に登記、5月31日に売却、6月20日に気づく、6月23日に仮処分

5月24日、Bは、書き写した登記識別情報と印鑑登録証明書を使い、登記申請書と委任状を偽造して、「5月23日売買」を原因とする、乙土地のAからBへの所有権移転登記をしました。売買の事実は、ありません。5月31日、BはCに、乙土地を代金2,500万円で売りました。時価相当です。Cは代金を支払い、同日に移転登記を受けました。Cは、登記簿でB名義を確認し、疑うべき事情は何も無く、Bが所有者だと信じて買いました。Cは、善意無過失とします。6月20日、Aは、「使う前に連絡する」と言ったBから連絡が無いのを不審に思い、登記簿を取り寄せて、B名義、C名義になっているのを知りました。Aは、同日Bに抗議し、6月23日、Cに対する処分禁止の仮処分を申し立てました。仮処分は、Cがさらに土地を売ったりしないよう、裁判所に止めてもらう手続です。AはCに対し、所有権に基づいて、C名義の移転登記の抹消を求めました。問いは、AはCに、抹消登記を請求できるか。前編の設問3と、どこが違うか、です。設問2の前に、前編の要点を、1つ確かめます。前編の設問3で、Aの帰責性は、何と並べられるほど重いと、評価されましたか?

自分で外観の作出に積極的に関与した場合や、知りながらあえて放置した場合と、同視しうるほど重い、と評価されました。今回は、その重さに届くでしょうか。分かれ目を、先に言います。書類を渡したかどうかではありません。他人が名義を移せる状況を、自分で作ったかどうかです。事実で、確かめます。答案の入口は、前編と同じです。AからBへの売買は無く、Bは無権利者です。登記に公信力は無いので、Cも、原則として所有権を取れません。Cは善意無過失ですが、守られるかが、問題です。AB間に通謀は無く、94条2項は直接適用できません。しかも、Aは外観を作っていませんし、Cが買った時点で、登記がされたことを知りもしませんでした。そこで、類推できるかを考えます。

94条2項・110条の類推——今回の問いは、本人の帰責性のところで止まる 図:94条2項・110条の類推——今回の問いは、本人の帰責性のところで止まる

規範は、前編で立てたものです。もう一度、映します。

⭐ 論文で書く規範:94条2項・110条の類推適用 この点、94条2項の趣旨は、本人の帰責性のもとに虚偽の外観が作出され、それを信頼して取引に入った者を保護する点にある。 そこで、①虚偽の外観、②本人の帰責性、③外観への信頼がある場合には、94条2項を類推適用すべきと考える。 そして、本人が虚偽の外観の作出に関与していないとしても、その帰責性の程度が、自ら外観の作出に積極的に関与した場合やこれを知りながらあえて放置した場合と同視しうるほど重いときは、94条2項に加えて110条を類推適用し、外観に対する信頼があるというためには善意かつ無過失であることを要すると考える。 (規範(参考:最判平18・2・23))

前編で立てた形を、一言で通します。①虚偽の外観、②本人の帰責性、③外観への信頼。そして、②は、関与した、知りながら放置した、それらと同視しうるほど重い、のどれかです。今回の問いは、②で止まります。答案では、ここに1文を足します。帰責性が、同視しうるほどに重くなければ、②本人の帰責性を欠きます。その場合は、第三者が善意かつ無過失でも、類推できません。

設問2のあてはめ——関与の有無を確かめ、帰責性を基礎づける事実と軽くする事実を並べる

あてはめます。1つめ、虚偽の外観です。5月24日に、「5月23日売買」を原因とする、AからBへの所有権移転登記がされています。売買は無いので、実体に合わない登記です。虚偽の外観があります。2つめ、本人の帰責性です。ここを、いちばん丁寧に書きます。まず、関与の有無です。Aは、5月24日の登記を、自分で申請していません。Cが買った5月31日の時点で、登記がされたことも知りませんでした。6月20日に気づくと、同日にBに抗議し、6月23日には、仮処分を申し立てています。ですから、関与したとも、知りながら放置したとも、言えません。そこで、同視しうるほど重い帰責性があるかを、検討します。事実を、両方向から拾います。

帰責性を基礎づける事実と軽くする事実——重くする3つ、軽くする6つ 図:帰責性を基礎づける事実と軽くする事実——重くする3つ、軽くする6つ

帰責性を基礎づける方向の事実は、3つです。登記識別情報と印鑑登録証明書を、Bに渡したこと。印鑑登録証明書を、返してもらわなかったこと。登記識別情報を貸している間に、書き写されるのを、防がなかったことです。軽くする方向の事実は、6つあります。渡す前の事情が3つ。市役所に自分で電話をかけて確かめたこと。1週間に限り、使う前に連絡する条件を付けたこと。Bが、経験の長い知人で、もっともらしい説明をしていたこと。渡した後の事情が3つ。登記識別情報を返してもらったこと。登記申請書や委任状など、押印した書類は何も渡さず、Bが偽造して初めて名義が移ったこと。気づいてすぐ、対応したことです。

前編のAが、使い道を一度も尋ねなかったのと、対照的です。

設問2の評価——金庫にたとえて、鍵・暗証番号・署名のある書類を前編のAと並べる 図:設問2の評価——金庫にたとえて、鍵・暗証番号・署名のある書類を前編のAと並べる

評価します。登記名義を移すには、登記識別情報と印鑑登録証明書のほかに、登記名義人の意思に基づく、登記申請書と委任状が要ります。Aは、そのうちの後者を、渡していません。Bが偽造しなければ、名義は移りませんでした。金庫にたとえます。金庫を開けるのに、鍵と、暗証番号と、持ち主の署名のある書類が要るとします。鍵が印鑑登録証明書、暗証番号が登記識別情報、署名のある書類が申請書と委任状です。前編のAは、この3つを全部渡して、使い道も聞きませんでした。今回のAは、渡す前に確かめ、期限と条件を付け、暗証番号は返してもらい、署名のある書類は渡していません。暗証番号は、返す前に書き写されていました。それでも、返してもらったことは、Aが暗証番号をBの手元に置いたままにしなかった、という事実です。書き写しは、Aの知らないところで、Bがしたことでした。ですから、Bによって乙土地がほしいままに処分されかねない状況を、Aが自ら作ったとは、言えません。確かに、印鑑登録証明書を返してもらわなかった点や、書き写されるのを防がなかった点は、不注意です。ただ、知りながらあえて放置した場合に並ぶほど、重くはありません。Aは、気づくとすぐ動いてもいます。したがって、同視しうるほど重い帰責性は無く、②本人の帰責性を欠きます。

設問2のあてはめ——関与の有無を確かめ、帰責性を基礎づける事実と軽くする事実を並べる

判例があります。事案から言います。所有者が、不動産業者の代表者の申入れを信じて、地目変更などのためと思い、白紙委任状、登記済証、印鑑登録証明書を渡しました。そのあと、不実の登記がされ、善意無過失の買主に売られました。原審は、類推適用して所有者の請求を棄却しましたが、最高裁は、破棄して差し戻しました。判旨を読みます。

判例最判平成15年6月13日 集民210号143頁

帰責性が足りない場合 仮に上記(2)の事実等が認められる場合には,これと上記(1)の事情とを総合して考察するときは,上告人は,本件土地建物の虚偽の権利の帰属を示す外観の作出につき何ら積極的な関与をしておらず,本件第1登記を放置していたとみることもできないのであって,民法94条2項,110条の法意に照らしても,Dに本件土地建物の所有権が移転していないことを被上告人らに対抗し得ないとする事情はないというべきである。

上告人が所有者のAにあたり、被上告人らが買主のCにあたります。Dは、不実の登記を作った業者で、本問のBにあたります。冒頭の「仮に」に、注意してください。判旨は、事実を2つに分けています。1つめは、原審が認めた事実です。所有者が、地目変更などのためと信じて書類を渡し、登記を承諾していなかったことなどです。2つめは、記録からうかがえるものの、原審がまだ認めていない事実です。「仮に」が付いているのは、この2つめです。この事案で、最高裁が、類推を否定する結論を言い切ったわけではありません。条件が満たされるなら、どう述べたか。外観の作出に、積極的な関与はしておらず、登記を放置していたともみられない。94条2項、110条の法意に照らしても、所有権が移転していないことを買主に対抗し得ない、とする事情はない。つまり、所有者は、買主にも主張できる、という方向です。その2つめの中身が、帰責性を軽くする事実です。取引の経験が無かったこと。言葉巧みな申入れを信じたこと。外観を作る意図が全く無かったこと。買主が買った時点で、登記を承認してもいなければ、知りながら放置してもいなかったことです。前編の最後に出た判例も、書類を渡した事案でした。ただ、結論は逆です。書類を渡したという事実は同じでも、事実の違いが、結論を分けます。判例のAは、白紙委任状まで渡しています。本問のAは、申請書も委任状も渡していません。その点では、本問のAの事情は、さらに軽い方向です。ただ、判決は仮定つきですから、そのまま借りません。本問の事実で、言い切ります。

前編の設問3と今回の設問2——預けた、押した、渡した、確かめたか、その後 図:前編の設問3と今回の設問2——預けた、押した、渡した、確かめたか、その後

今日の山場です。前編の設問3と、今回の設問2を、並べます。預けた。前編のAは、使い道を尋ねないまま識別情報を預けて、返してもらおうともしませんでした。今回のAは、1週間に限って渡し、5月17日に返してもらいました。押した。前編のAは、中身も読まないまま、実印を3通に押しました。うち1通が、登記申請書でした。今回のAは、押印した書類を、何も渡していません。申請書と委任状は、Bが偽造しました。渡した。どちらも、印鑑登録証明書を渡しています。今回は1通で、返してもらっていません。ここは、同じ方向の事実です。確かめたか。前編のAは、一度も確かめませんでした。今回のAは、渡す前に市役所へ電話をかけ、使う前に連絡する条件を付けました。その後。前編のAは、登記がされたことを知りませんでした。今回のAは、気づいた同日に抗議し、3日後に仮処分を申し立てました。

結論の差は、書類を渡したかどうかではありません。他人が名義を移せる状況を、自分で作ったかどうかです。前編のAは、材料を全部渡して、一度も確かめず、作りました。今回のAは、確かめ、期限を限り、一部は渡さず、作っていません。

設問2の結論——類推できず、登記に公信力は無いという原則に戻る 図:設問2の結論——類推できず、登記に公信力は無いという原則に戻る

3つめの外観への信頼です。Cは、善意無過失です。しかし、②本人の帰責性を欠く以上、③を問うまでもありません。類推の条件を、満たしません。気の毒ではあります。ただ、94条2項の類推を支える権利外観法理は、虚偽の外観、本人の帰責性、外観への信頼の3つがそろって初めて、第三者を守る仕組みです。本人に責任があるから、守るのです。責任の理由が足りないのに、Cだけを見て守れば、Aは自分の土地を失います。Aが失うには、それに見合う責任が要ります。ですから、94条2項も、110条を加えた類推も、できません。登記に公信力は無い、という原則に戻ります。Bは無権利者で、Cは乙土地の所有権を取得できません。所有権はAにあり、AはCに、抹消登記を請求できます。

五つの場面の仕分け

仕分け——本人の関わり方、適用、第三者に求めるものを5行で対応させる 図:仕分け——本人の関わり方、適用、第三者に求めるものを5行で対応させる

前編の3行に、今日の2行を足して、5つの場面を1枚にします。左が、本人の関わり方です。自分で作った。知りながら放置した。不注意で作らせた。承認した外観を超えた。関与が足りない。真ん中が、適用です。上の2つは、94条2項。不注意で作らせた同視型も、承認した外観を超えた場面も、どちらも94条2項に110条を重ねます。関与が足りない場面は、類推しません。右が、第三者に求めるものです。上の2つは、善意。同視型と、承認した外観を超えた場面は、善意かつ無過失。関与が足りない場面は、善意かつ無過失でも、保護されません。本人の責任が重いほど、第三者に求めるものは軽くなります。責任が軽くなるほど、重くなります。責任が足りなければ、保護されません。関与の重さと、信頼の重さのスライドです。

本人が、外観の一部でも承認していたかを見ます。承認した範囲を超えられたなら、設問1の型です。承認が無いのに、不注意が重いなら、同視型です。迷ったら、本人がその外観にどう関わったかを、事実から拾ってください。

完成答案

完成答案① 第1 設問1——AのCに対する登記抹消請求 図:完成答案① 第1 設問1——AのCに対する登記抹消請求

ここまでを、答案の形にしました。動画を止めて、見てみてください。まず設問1です。

完成答案①(続き) 第1 設問1——AのCに対する登記抹消請求 図:完成答案①(続き) 第1 設問1——AのCに対する登記抹消請求

設問1の続きです。

完成答案①(続き) 第1 設問1——AのCに対する登記抹消請求 図:完成答案①(続き) 第1 設問1——AのCに対する登記抹消請求

設問1の続きです。

完成答案①(続き) 第1 設問1——変形(Cに過失がある場合) 図:完成答案①(続き) 第1 設問1——変形(Cに過失がある場合)

変形です。結論が反対になる理由を、確かめてください。

完成答案② 第2 設問2——AのCに対する登記抹消請求 図:完成答案② 第2 設問2——AのCに対する登記抹消請求

設問2です。止めて見てください。

完成答案②(続き) 第2 設問2——AのCに対する登記抹消請求 図:完成答案②(続き) 第2 設問2——AのCに対する登記抹消請求

設問2の続きです。

完成答案②(続き) 第2 設問2——AのCに対する登記抹消請求 図:完成答案②(続き) 第2 設問2——AのCに対する登記抹消請求

設問2の続きです。帰責性が、事実、評価、結論の順に書かれているかを、確かめてください。

完成答案②(続き) 第2 設問2——AのCに対する登記抹消請求 図:完成答案②(続き) 第2 設問2——AのCに対する登記抹消請求

設問2の最後です。②を欠くから、③を問わずに結論へ進んでいる点を、確かめてください。

今日の地図(保存版)

仕分け——本人の関わり方、適用、第三者に求めるものを5行で対応させる 図:仕分け——本人の関わり方、適用、第三者に求めるものを5行で対応させる

まとめます。登記簿を確かめて買ったCが、守られたり守られなかったりするのは、ばらばらではありませんでした。設問1は、Aが抵当権の登記までを承認し、Bがその範囲を超えて、所有権の登記を作りました。決め手は、Aの意思が届くのは抵当権まで、ということです。110条の法意に照らして、Cには善意かつ無過失が要ります。本問のCは満たし、Aの請求は認められません。変形では、Cに過失があり、Aの請求が認められます。設問2は、Aが書類を渡しました。決め手は、他人が名義を移せる状況を、自分で作ったかどうかです。Aは、確かめ、条件を付け、返してもらい、押印した書類を渡さず、気づいてすぐ動きました。同視しうるほど重くなく、Cが善意無過失でも、類推できません。Aの請求は認められます。

参照条文

  • 民法94条1項・2項
  • 民法110条

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