取得時効と登記①(自己物の時効取得・時効完成前後の第三者)
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事例
図:【事例】問題文——甲地と乙建物をめぐるA・B・C・Dの事案
今日は、時効で守られたはずの人が答案の中で負けてしまう理由を、実際に書きながら見ていく回です。時効は長く占有した人を守る制度ですが、守られる場面と守られない場面があります。まず、問題文をそのまま読みます。本番で読むのはこの形です。Aは自己の所有する甲地を2015年にBに譲渡したが、所有権移転登記はなされなかった。その後、Bは甲地上に乙建物を建て、所有権保存登記をした。2018年にBは乙建物をCに譲渡し、甲地についてBC間で賃貸借契約が締結された。ただし、乙建物の所有権移転登記はなされていない。その後、2027年に、Aは甲地を、以上の事情につき善意のDに譲渡し、所有権移転登記がなされた。そして設問です。2030年現在、DがB・Cに甲地所有権に基づき乙建物の収去と甲地の明渡しを請求してきた。これに対して、B・Cの主張としていかなるものが考えられるか。
当事者が4人、目的物が2つあって、一度読んだだけでは誰が何を持っているのか頭に入りにくい事案です。だから図にします。
図:事案の見取り図——甲地・乙建物とA・B・C・Dの関係
上に目的物が2つ。甲地という土地と、その上に建つ乙建物です。下が当事者。譲渡の矢印に、番号と年が振ってあります。矢印の下の小さなラベルを見てください。登記があるかどうかです。Bへの甲地の譲渡とCへの乙建物の譲渡はどちらも未登記で、Dへの甲地の譲渡だけが登記ありです。そしてもう1つ。乙建物の登記名義は、Cへ譲渡したあとも今もBのままです。土地の登記はしていないのに、建物の登記はBが持ったまま。そこがあとで効いてきます。
図:事案の時系列——甲地・乙建物の登記と、Bの占有10年
もう一つ、時間の並びも見ておきます。Bが甲地を占有しはじめたのは2015年です。善意無過失の占有なら、10年で時効が完成します。2025年ですね。そしてDが甲地を譲り受けたのは2027年。時効が完成した後に、Dが出てきているんです。そこが今日の結論を分けます。いまは、そういう並びだとだけ覚えてください。さて、現在は2030年です。Dは、甲地の所有権に基づいて請求してきました。Bには、乙建物の収去と甲地の明渡しの両方を求めています。同時に、Cにも甲地の明渡しを求めています。収去とは、建物を取り壊して、土地から取り除くことです。
Bは2015年から甲地を使い続けてきたのに、建物を壊せというDの請求がそのまま認められるのか。今日はまさにそこを検討します。Dの請求に対して、Bはいったい何を主張できるのか。答案の骨組みから考えていきましょう。今日扱うのは、Dに対するBの主張だけです。結論を先に言うと、Bの主張はこのあとすべて退けられます。なぜそうなるのか、今日は答案の書き方として見ていきましょう。
答案構成
図:【問】Bの主張として考えられるものを、答案構成で示せ
ここで、いったん手を動かしてもらいます。問題を出します。Dの請求に対して、Bの主張として考えられるものを、答案構成で示してください。文章にする必要はありません。全体のフローだけで構いません。いきなり書けなくても大丈夫です。書こうとした跡が、答え合わせの効きを変えます。ここで動画を止めて、手元で書いてみてください。書き終えたら、再生を再開してください。では、答え合わせです。
図:答案構成:第1 Bの主張——1 Dの甲地所有権取得の否定
答案は、まず「第1、Bの主張」と大きな見出しを立てます。その下に、Bの主張が2つ並びます。1と2ですね。まず1、Dの甲地所有権取得を否定する主張です。この1が、さらに(1)(2)(3)の3段に分かれます。(1)Aは甲地をBにもDにも譲渡した——同じ土地の二重譲渡です。だからB・Dは対抗関係にあります。177条では、登記を先に備えたほうが勝ちます。ここでは、登記を備えたDです。ここが出発点になります。(2)しかし、Bは2015年から甲地を占有しています。時効取得による保護の必要がある、と書きます。そのうえで、問題提起です。もっとも、甲地はAから譲り受けた自己物である。そこで、自己物の時効取得の可否が問題となる。これが論点①です。この下は、答案の型どおりに3つに分かれます。ア、規範。イ、あてはめ。ウ、結論。アに「自己物の時効取得の可否」の規範を立てる。イであてはめて、結論は肯定。ウで、Bが善意無過失なら162条2項で時効取得。完成は2025年です。(3)そうだとしても、Bは登記をしていません。そこで、時効取得者は、登記なくして第三者に対抗できるかが問題となる。論点②です。ここも同じく、ア規範、イあてはめ、ウ結論。アに「時効完成後の第三者」の規範。イで、Dは2027年譲受だから時効完成後の第三者にあたる。だから対抗できない。ウで、よってBはDに登記なくして時効取得を対抗できない。
図:答案構成:2 収去請求の相手方でないとの主張
続いて2、自分は建物収去土地明渡請求の相手方ではない、という主張です。まず問題提起。そこで、建物収去土地明渡請求の相手方が問題となる。論点③です。そして(1)規範、(2)あてはめ、(3)結論と進みます。(2)のあてはめは、Bは乙建物をCに譲渡したが、登記名義は依然としてBが保有している。(3)だからBが相手方になる、という結論です。つまり、この主張も認められません。1が認められなくても、独立して成り立つ予備的な主張です。そして、どの論点も規範・あてはめ・結論の3つで書く。形は同じです。答案構成の段階では、規範は「何の規範を立てるか」を置くだけで足ります。中身は、このあと論点を1つずつ開いて埋めていきます。その前に、いま出てきた177条だけ、条文を確認しておきましょう。
条文民法177条
不動産に関する物権の変動の対抗要件 第百七十七条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
不動産の物権変動は、登記がなければ第三者に対抗できない。そして、時効取得で得た権利も、この「物権の変動」の一種です。だから、今日の3つの論点すべてに、この対抗の発想が顔を出します。最後に、言葉の区別を1つ確認しておきます。「規範」と「成立要件」は、大事な区別です。成立要件は条文にそのまま書いてある言葉です。条文番号を確認すれば足ります。規範は条文を読んでも出てこない物差しです。趣旨から導いたうえで、逐語で言えるようにします。今日は、3つの論点すべてで規範を立てて、あてはめまで書き切ります。
論点1の規範〔判例型〕:自己物の時効取得
図:162条は「他人の物」と定めるが、時効取得したいのは自分が買った甲地
まず①、Bは甲地を時効取得できるかです。出発点の条文を見てみましょう。
条文民法162条
所有権の取得時効 第百六十二条 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。 2 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
なお、時効を主張するには、援用という手続きも必要です。
条文民法145条
時効の援用 第百四十五条 時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。
Bは訴訟の中でこの主張をしています。援用の要件は満たしているので、今日はここを争点にしません。162条の要件の細部(20年と10年の区別など)は、取得時効そのものを扱う回に譲ります。今日は、条文の文言解釈が問題になる部分に絞ります。条文は「他人の物」と定めています。ところが甲地は、BがAから買った、Bの物です。そこが今日最初のひっかかりです。条文の文言だけを読むと、自己物には時効取得が使えないように見えます。結論から言うと、判例は自己物にも時効取得を認めます。その理由を見ていきます。
時効制度がなぜあるのか、趣旨に戻って考えてみましょう。時効制度の趣旨は、長く続いた事実状態の尊重にあります。そうすることで社会の法律関係を安定させるためです。長く続いた状態を、あとからひっくり返せることにすると、その状態を前提に動いてきた人まで巻き込まれます。本問でいえば、Bが何年も甲地に住み、使い続けてきた事実がそれにあたります。この趣旨から見ると、大事なのは「長く占有し続けたこと」です。「その物が元々自分の物だったか、他人の物だったか」は本質ではありません。また、自己物だからといって、時効取得を認める必要がないとも言い切れません。Bのように、対価を払って正式に買った人がいます。でも、登記の手続きだけが遅れることがあります。この後見るとおり、別の第三者に登記で先を越されると、所有権を主張できなくなる場合があります。そういう人を、長期間の占有継続という事実によって救う実益があるんです。
図:規範と答案の型:問題提起→規範→あてはめ(自己物の時効取得)
そこで立てるのが、この規範です。
⭐ 論文で書く規範:自己物の時効取得 時効制度の趣旨は、永続した事実状態を尊重し、社会の法律関係の安定を図る点にある。そうであれば、永続した事実状態こそが重要であり、対象物が自己の物か他人の物かは重要でない。また、自己の物であっても、その所有権取得を第三者に対抗しえない等の理由で、時効取得によって保護する必要がある場合がある。したがって、自己の物についても時効取得できると解する。 (規範(参考:最判昭42・7・21))
覚え方は、いま話した順にたどることです。趣旨は永続した事実状態の尊重。だから自己物か他人物かは関係ない。対抗できず保護が要る場面もある。だから自己物にも時効取得を認める。この順を繰り返せば、結論の言葉は自然に出てきます。登記を備えていなくても、占有を続けてきた事実の重みは変わりません。では、あてはめです。162条の6つの要件は、条文どおりの成立要件です。善意無過失をいつ判断するかといった細かい話も、取得時効そのものを扱う回で扱います。Bは対価を払ってAから買い受けています。そう信じたことに落ち度もありません。善意無過失の10年で問題ありません。ここで争うべきは、規範の部分だけです。
Bの占有は、途切れません。BはCに貸したのであって、手放したわけではないからです。借りている人が使っている間も、貸した側の占有は、その人を通じて続いていると扱われます。Bは自己物である甲地について、長期間占有を継続しています。時効制度の趣旨は、この占有にそのまま当てはまります。また、Bは甲地の登記を備えていません。その点で、なお保護の必要があります。よって、Bは甲地について取得時効を主張できます。ただし、ここで安心してはいけません。時効取得も、甲地という不動産についての「物権の変動」の一種です。さきほど確認した177条を、覚えていますか。
177条は、登記を先に備えた方が勝つという対抗要件の規定でした。時効取得で得た所有権も、この対抗の枠組みから逃れられません。Bは甲地の登記を一度も備えていません。それでもDに対抗できるのかを、次の論点②で検討します。
論点2の規範〔判例型・核心〕:取得時効と登記
図:177条:不動産の物権変動は登記なくして第三者に対抗できない
さきほど確認した177条を、もう一度思い出してください。不動産の物権変動は、登記なくして第三者に対抗できない、という原則でした。②の問題はこうです。Bは時効取得によって甲地の所有権を得ました。登記を備えないまま、そのことをDに主張できるでしょうか。実は、ここは単純な二重譲渡とは少し違います。時効完成の前に現れた第三者か、後に現れた第三者かで、結論が180度変わるんです。ここが今日いちばんの核心です。まず、なぜ分かれるのか、理由から見ていきましょう。時効完成前に現れた第三者を考えてみます。Bが甲地を占有している途中、まだ時効が完成する前だとします。そのときAが別の人にその甲地を譲渡したとしましょう。この第三者は、Bが時効を完成させた瞬間に、権利を失う立場にあった人です。
時効が完成した時点で甲地の所有者になっていたのは、その第三者です。つまりBは、その人から権利を取り上げる形になります。もとの所有者Aとほとんど同じ立場、いわば「当事者」に近い存在なんです。さっきの177条をもう一度見てください。登記を求めているのは「第三者に対抗する」場面だけです。当事者どうしの間では、登記がなくても権利を主張できます。だから、時効完成前の第三者に対しては、Bは登記なくして対抗できるんです。時効完成後に現れた第三者はどうでしょうか。この第三者は、Bが時効を完成させたあとに、Aから甲地を譲り受けています。つまり、Bも、この第三者も、Aという同じ大元から権利を得ようとした者どうしです。
二重譲渡と同じ構造の対抗関係に立ちます。177条どおり、先に登記を備えた方が優先します。だから、時効完成後の第三者に対しては、Bは登記なくして対抗できないんです。そもそも登記の制度は、誰の物かを外から見えるようにして、それを見て取引した人が安心できるようにするためにあります。
図:規範と答案の型:問題提起→規範→あてはめ(取得時効と登記)
この理屈を、規範としてまとめます。
⭐ 論文で書く規範:取得時効と登記(時効完成前後の第三者) 永続した事実状態の尊重という時効制度の趣旨と、公示による取引の安全の確保という登記制度の趣旨との調和を図る必要がある。そこで、時効取得者は、時効完成前の第三者に対しては、時効取得を登記なくして対抗できるが、時効完成後の第三者に対しては、時効取得を登記なくして対抗できない、と解する。 (規範(判例)――完成前=大判大正7・3・2/完成後=大連判大正14・7・8)
太字の対句は、一字も崩さないでください。「登記なくして対抗できる」「登記なくして対抗できない」。ここを取り違えると、結論が正反対になります。ここも導き方は同じです。完成前は当事者に類似するから、登記は要らない。完成後は二重譲渡に類似するから、登記が要る。もう一度、Bの事案に即して整理しましょう。大事なのは、Bの時効完成と、第三者の登場、どちらが先かです。Bの時効完成より前に第三者が現れていれば、当事者類似の関係。Bの時効完成より後に第三者が現れていれば、二重譲渡類似の関係。では、実際の年で確かめてみましょう。
図:完成前後の分かれ目——Bの時効完成2025年、Dの譲受2027年
では、あてはめです。Bが甲地の占有を始めたのは2015年でした。善意無過失の占有ですから、10年後の2025年に時効が完成しています。2027年は、Bの時効完成である2025年よりも後です。ですから、Dは時効完成後の第三者にあたります。Bは甲地の登記を一度も備えていません。Dは登記を備えています。ですから、Bは登記なくして時効取得をDに対抗できません。時効取得そのものは認められるのに、登記が無いためにDに負ける。これが、Bの主張が退けられる最大の理由です。ちなみに、もしDの譲受が2027年でなく2024年だったらどうでしょう。2024年は、Bの時効完成である2025年より前です。その場合、Dは時効完成前の第三者として扱われます。Bは登記なくして対抗できていたはずです。
実は、時効の完成時期を都合よくずらすことはできません。
判例最判昭35・7・27
取得時効の起算点 占有者は、自己に有利なように占有の起算点を自由に選択することはできない。取得時効の起算点は、現実に占有を開始した時に固定される。
起算点は、現実に占有を始めた時点に固定されています。あとから都合よく選び直すことはできません。本問では、Bが甲地の占有を始めたのは2015年という事実が動かない前提です。だから、この事実をもとに、2025年という完成時期も動きません。以上より、②の結論として、Bは時効取得をDに対抗できません。
論点3の規範〔判例型〕:建物収去土地明渡請求の相手方
図:Bは乙建物をCに譲渡した——それでもBは相手方から外れないのか
最後に③です。②までの検討で、Dとの関係では、Bは甲地の所有者として扱われないことになりました。Aから見て、所有者はDのままです。ここでBは、こう反論します。「乙建物は、2018年にもうCに譲渡した」。「今の自分は建物の所有者じゃないから、相手はCであって自分ではない」と。通るでしょうか。ここでもう一度、登記に注目してみましょう。Bは、乙建物をCに譲渡したあとも、登記の名義をBのままにしていました。自分で保存登記までしたのに、Cに名義を移していない。ここが③の核心です。「もう建物を手放した」という主張は、実はある物権変動の主張にほかなりません。「所有権が、自分からCへ変動した」という主張です。物権の変動をDのような第三者に主張するには、登記が必要でしたね。
ここで、177条の核心をもう一度確かめます。177条が言っているのは「物権変動を第三者に主張して認めさせるには登記が要る」ということです。二重譲渡は、その典型例の1つにすぎません。核心は、変動を第三者に対して通すには登記が要る、という一点です。そう捉えると、本問はその応用だと分かります。Bが言っているのは「所有権を失った」という主張ですよね。取得ではなく、喪失の側の変動です。そして、その喪失は登記に反映されていません。名義はB名義のままだからです。だからBは、「喪失した」という物権変動をDに対して主張できない。結果として、Dとの関係ではBはなお所有者として扱われ、収去義務を負います。
177条のロジックを、喪失の主張に応用した形です。
図:規範と答案の型:建物収去土地明渡請求の相手方
規範としてまとめると、こうなります。
⭐ 論文で書く規範:建物収去土地明渡請求の相手方 建物収去土地明渡請求の相手方は、原則として、現に建物を所有することにより土地を占有し、土地所有権を侵害している建物所有者である。もっとも、土地所有者と建物譲渡人の関係は、土地所有者が地上建物の譲渡による所有権の喪失を否定してその帰属を争う点で、建物の物権変動における対抗関係(177条)に類似する。そこで、自らの意思に基づいて建物所有権取得の登記を経由した者は、引き続き登記名義を保有するかぎり、建物所有権の喪失(譲渡)を主張して建物収去土地明渡義務を免れることはできないと解する。 (規範(最判平6・2・8)――177条の対抗関係の考え方を応用したもの)
登記に名前が残っている限り、Dとの関係ではまだ所有者として扱われます。今日3回目の、同じ発想の登場です。では、あてはめです。Bは、2015年に乙建物を建てた際、自らの意思で保存登記を経由しました。先ほど確認したとおりです。そして、2018年にCへ建物を譲渡したあとも、登記名義をCに移していません。B名義のまま保有し続けています。この名義は、他人が勝手に付けたものではありません。B自身が申請して手に入れ、Cに売ったあとも、自分の意思で持ち続けているものです。もし譲渡のときに名義をCへ移していれば、Dから見て建物の持ち主はCになり、Bは相手方から外れていました。
よって、Bは登記名義を保有する限り、建物所有権の喪失をDに主張できません。収去義務を免れません。登記に名前が出ているかどうか、それが今日の1本の軸でした。では、ここまでの流れを、正式な答案として通しで読んでみましょう。
答案構成を完成させる
図:完成答案① 第1 Bの主張/1 Dの甲地所有権取得の否定
最後に、最初に立てた答案構成へ戻ります。あの枠に、いま3つの論点で埋めた中身を入れてみます。それだけで、答案は完成します。まず1つめの主張、その(2)が論点①です。空欄だった「規範」に、自己物でも時効取得できるという規範が入りました。「あてはめ」には、Bの占有と善意無過失、そしてCを通じた占有の継続が入ります。「結論」は、2025年に時効取得した、です。
図:完成答案② 1 Dの甲地所有権取得の否定(つづき)
(3)が論点②です。「規範」は、完成前なら対抗できる、完成後なら対抗できない、の対句。「あてはめ」で、Dの譲受2027年が完成2025年より後だと確認します。「結論」は、登記が無い以上Dに対抗できない、です。
図:完成答案③ 2 建物収去義務の相手方/結論
そして2つめの主張、論点③です。「規範」は、登記名義を保有するかぎり喪失を主張できない、という判例の規範。「あてはめ」で、Bが自分の意思で登記し、譲渡後もB名義のままだと確認します。答案構成のときに置いた空欄が、そのまま答案の段落になっています。先に構成を作るのは、いきなり書き始めると、書く場所が決まっていないまま、規範を思い出すことと、文章を組み立てることを同時にやる羽目になるからです。先に枠を置いておけば、あとは1つずつ埋めるだけになります。迷いが減るぶん、あてはめに時間を使えます。結論です。Bの主張はいずれも認められません。甲地の時効取得をDに対抗できず、乙建物の登記名義を保有する以上、収去義務も免れない。
今日の地図(保存版)
図:今日のまとめ——実体でなく登記が第三者との関係を決める、3つの場面
今日のまとめです。Bの主張は2つ、その中に3つの論点がありました。①自己物でも時効取得はできる。しかし②時効完成後に現れた第三者には、登記なくして対抗できない。そして③登記名義を持ち続ける限り、所有権を手放したという主張も対抗できない。結果として、Bの主張はすべて退けられました。民法は、本当に権利を持っているかどうかだけで、第三者との関係を決めません。登記に名前が出ているかどうかが、その関係を決める場面がある。これが今日の1本の軸でした。Dが信じたかどうかは、今日は一度も理由に使っていません。効いていたのは、登記に名前が出ているかどうかだけです。
Cについては、Bとはまったく異なる主張が絡んできます。不動産賃借権の時効取得という論点です。
参照条文
- 民法177条
- 民法162条
- 民法145条