民法ゼロから民法 論文

取得時効と登記②(不動産賃借権の時効取得・なぜ結論が逆転するか)

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ゼロから民法 論文/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

答案構成

【問】Cの主張として考えられるものを、答案構成で示せ 図:【問】Cの主張として考えられるものを、答案構成で示せ

条文民法177条(前回の条文・再掲)

不動産に関する物権の変動の対抗要件 第百七十七条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

まず、前回も確認した177条の原則を、もう一度思い出しておきましょう。不動産の物権変動は、登記がなければ、第三者に対抗できません。この原則は、今日も土台になります。ただ、今日はBのときと少し違う形で効いてきます。まずは、答案の骨組みを見ていきましょう。ここでも、いったん手を動かしてもらいます。Dの請求に対して、Cの主張として考えられるものを、答案構成で示してください。前回と同じく、文章にする必要はありません。全体のフローだけで構いません。そのヒントが、実は罠でもあります。ここで動画を止めて、手元で書いてみてください。書き終えたら、再生を再開してください。では、答え合わせです。

答案構成:第2 Cの主張——1 まず賃借権を主張するが 図:答案構成:第2 Cの主張——1 まず賃借権を主張するが

答案は、「第2、Cの主張」と大きな見出しを立てます。同じ問題に対する2人分の答案なので、続き番号で書きます。まず1、Cは、BC間の甲地賃貸借契約に基づく賃借権を主張します。もっとも、この主張はそのままでは通りません。理由はあとで見ますが、賃借権は契約の当事者にしか主張できない権利だからです。

答案構成:2 そこで、Cは甲地賃借権の時効取得を主張する 図:答案構成:2 そこで、Cは甲地賃借権の時効取得を主張する

そこで2、Cは、甲地賃借権の時効取得を主張します。ここが今日の本題です。この2が、(1)と(2)に分かれます。(1)まず問題提起。163条は所有権以外の財産権も時効取得の対象にすると定めていますが、賃借権のような債権にもこれが使えるのかが問題となります。論点④です。ここも答案の型どおり、ア規範、イあてはめ、ウ結論。(2)そのうえで、時効取得した賃借権を、登記なくしてDに対抗できるかが問題となります。ここも同じく、ア規範、イあてはめ、ウ結論です。1つずつ、これから埋めていきましょう。

賃借権そのものの主張が通らない理由

BC間の賃貸借契約——なぜDには通じないのか 図:BC間の賃貸借契約——なぜDには通じないのか

先ほど答案構成で少し触れた理由を、ここでもう一度確認しておきましょう。契約は、契約を結んだ人どうしの間でしか効力を持たないからです。BC間の賃貸借契約が生むのは、Cの、Bに対する債権です。「特定の人に対してしか主張できない権利」でしたね。契約に基づく権利は、契約の外にいる人には、そもそも及びません。だから、Cがどれだけ正当にBと契約していても、その効力はDには届きません。契約上の権利という意味では、そうなります。Dとの関係でCは、法律上の権原なく甲地を占有している、不法占有者にすぎません。実は、ここはまだ177条の対抗の話ではありません。対抗というのは、物権の変動を第三者に主張して認めさせられるかどうかを、登記の有無で判断する場面のことです。でも、Cの賃借権は、契約から生まれた相対的な権利にすぎません。物権の変動そのものではないので、そもそもDに対して主張する場面まで来ていないんです。

ここを混同すると、答案の筋が変わってしまいます。対抗要件の有無ではなく、賃借権という相対的な権利の効力がどこまで及ぶか、という問題です。打つ手が無いわけではありません。ここで少し考えてみてください。Cが甲地に居座り続けられる理由を、賃貸借契約そのもの以外で1つ挙げるとしたら、何が思いつきますか。

論点④の規範〔判例型〕:不動産賃借権の時効取得

163条は「財産権」の時効取得を認めるが、賃借権(債権)でも使えるのか 図:163条は「財産権」の時効取得を認めるが、賃借権(債権)でも使えるのか

Cが持ち出すのは、時効取得です。前回、Bは自己物にも時効取得を使えると分かりましたね。今日Cが狙うのは、所有権ではありません。甲地の賃借権そのものを、時効取得できないか、という主張です。出発点の条文を見てみましょう。

条文民法163条

所有権以外の財産権の取得時効 第百六十三条 所有権以外の財産権を、自己のためにする意思をもって、平穏に、かつ、公然と行使する者は、前条の区別に従い二十年又は十年を経過した後、その権利を取得する。

163条は、所有権以外の財産権も時効取得の対象にすると定めています。そう見えますね。でも、そう単純ではありません。なお、163条で時効取得できる権利には、地上権や地役権もあります。その一覧と、二十年と十年の使い分けは、163条そのものを扱う回に譲ります。今日は賃借権1本に絞ります。ここが今日最初のひっかかりです。時効取得は、物を継続して使い続けたという事実に効果を与える制度です。でも、賃借権のような債権は、性質が違います。それに加えて、もう1つ特徴があります。債権は、ふつう1回の行使で終わる権利です。

たとえば、お金を貸した債権なら、返してもらえばそれで終わりです。継続して行使し続けるという状態を、あまり想定していません。1回で終わる権利には、継続という時効取得の土台がうまく乗りません。普通の債権なら、そう考えるのが自然です。でも、賃借権には1つ特別な事情があります。賃借権は、占有を要素とする権利です。賃借人は、目的物を継続的に使い続けます。Cが2018年からずっと甲地に住み続けているのと同じです。占有を通じて、継続した状態を作り出す債権なんです。ここが、他の債権とは違うところです。そこで判例は、賃借権にも時効取得の余地を認めます。

規範と答案の型:問題提起→規範→あてはめ(不動産賃借権の時効取得) 図:規範と答案の型:問題提起→規範→あてはめ(不動産賃借権の時効取得)

そこで立てるのが、この規範です。

⭐ 論文で書く規範:不動産賃借権の時効取得 債権は、通常1回の行使によって消滅する権利であるから、永続した事実状態の尊重という時効制度の趣旨になじまない。もっとも、不動産賃借権は、占有を要素とし、不動産の支配を通じて永続した事実状態を観念しうる。したがって、不動産賃借権は163条にいう「財産権」にあたると解する。もっとも、真の権利者(所有者)の時効の更新の機会を確保する必要があるから、その要件として、①目的物の継続的な用益という外形的事実が存在し、②それが賃借の意思に基づくことが客観的に表現されていることが必要と解する。 (規範(最判昭43・10・8))

ただ、覚え方は今話した順にたどることです。債権は1回で終わるから、時効制度になじまない。でも賃借権は占有を要素とする。だから財産権にあたる。ただし所有者の保護も要る。だから2つの要件を課す。この順を繰り返せば、結論の言葉は自然に出てきます。なお、いまの2つの要件は、163条を読んでも出てこない規範です。他方、あとで出てくる10年という期間は、162条2項がそのまま定める成立要件です。ここは前回と同じ区別です。では、2つの要件を確認しておきましょう。1つめ、目的物の継続的な用益という外形的事実。2つめ、それが賃借の意思に基づくことが客観的に表現されていること。

たとえば、Cが賃料を払い続けていれば、自分は借りているつもりだという意思が、外から見て分かりますよね。逆に、賃料を一度も払わず、ただ住み着いているだけでは、借りているつもりだという意思が外に表れません。所有者の立場から考えてみましょう。所有者は、自分の土地に誰かが住み着いていたら、時効を止める手を打つ機会が必要です。でも、賃料を受け取っている所有者からすれば、賃貸借契約が続いているだけとしか見えません。だから、2つの要件がそろって初めて、所有者の保護とのバランスが取れる、と判例は考えているわけです。では、あてはめです。Cは、2018年から甲地を継続的に占有し、乙建物に居住・使用しています。十二年にわたって建物に住み、土地を使い続けている——外から見て、途切れなく用益していると分かる状態です。まず1つめ、目的物の継続的な用益という外形的事実、これは満たされています。

Cは、BC間の賃貸借契約に基づいて、Bに賃料を支払い続けています。これは、自分は賃借人のつもりだという意思が、客観的に外へ表れている事情です。よって、Cは2つの要件を満たし、甲地賃借権を時効取得できます。期間は、前回と同じ162条2項の準用です。準用というのは、もともと別の場面向けの規定を、性質の許す範囲で借りて使うことです。善意無過失なら10年。2018年の占有開始から10年後、2028年に完成します。なお、時効の主張には145条の援用という手続きも必要でしたね。援用というのは、時効の利益を受けます、と相手に主張することです。Cもこの要件は満たしているので、今日はここを争点にしません。

ちなみに、もしCが一度も賃料を払わず、ただ住み着いているだけだったらどうでしょう。その場合、賃借の意思が外から見えません。2つめの要件を欠き、賃借権の時効取得は認められません。ただし、ここでもまだ安心はできません。その前に、さっきの話と何が変わったかを確かめてください。でも今度Cが手に入れるのは、契約から生まれた権利ではありません。甲地そのものについて、時効で成り立った権利です。だから今度は、Dの所有権と正面からぶつかります。賃借権そのものは物権ではありませんが、時効による取得は、甲地という不動産についての物権の変動に準じる扱いを受けます。つまり対抗の土俵に乗る。前回の177条の理屈から、また逃れられません。前回立てた規範を、もう一度思い出してください。

時効取得者は、時効完成前の第三者に対しては登記なくして対抗できる。時効完成後の第三者に対しては、対抗できない。完成前に現れた第三者は、時効が完成した瞬間に権利を失う立場の人です。もとのAとほとんど同じ、いわば当事者に近い存在だから、登記は要りません。完成後に現れた第三者は、Bがもう時効を完成させたあとに、同じAから権利を得ようとした人です。これは二重譲渡と同じ構造なので、登記の先後で決まります。では、今度はCの時系列に当てはめてみましょう。

完成前後の分かれ目——Cの時効完成2028年、Dの譲受2027年 図:完成前後の分かれ目——Cの時効完成2028年、Dの譲受2027年

Cが甲地の占有を始めたのは2018年でした。善意無過失の占有ですから、10年後の2028年に時効が完成しています。2027年は、Cの時効完成である2028年よりも前です。ですから、Dは時効完成前の第三者にあたります。

Cへのあてはめ・結論——登記なくして対抗できる 図:Cへのあてはめ・結論——登記なくして対抗できる

Cは、登記を備えていません。でも、この場面では、それは問題になりません。よって、Cは登記なくして、賃借権の時効取得をDに対抗できます。まとめると、論点④の結論はこうです。Cは2つの要件を満たし、甲地賃借権を163条・162条2項により時効取得した。完成は2028年。そして、Dの譲受は、その時効完成より前だから、Cは登記なくして、賃借権の時効取得をDに対抗できる。認められます。Cは、Dの明渡請求を退けることができます。

答案構成を完成させる

完成答案① 第2 Cの主張/1・2(1)論点④の可否 図:完成答案① 第2 Cの主張/1・2(1)論点④の可否

最後に、最初に立てた答案構成へ戻ります。あの枠に、いま論点④で埋めた中身を入れてみます。それだけで、答案は完成します。まず1、賃借権そのものの主張が通らない理由が入ります。そして2の(1)、論点④の前半です。空欄だった規範に、不動産賃借権は163条の財産権にあたるという規範が入りました。あてはめには、Cの占有継続と賃料の支払いが入ります。結論は、2028年に時効取得した、です。

完成答案② 2(2)論点④の後半——対抗関係 図:完成答案② 2(2)論点④の後半——対抗関係

2の(2)が論点④の後半です。規範は、前回と同じ、完成前なら対抗できる、完成後なら対抗できない、の対句。あてはめで、Dの譲受2027年がCの完成2028年より前だと確認します。結論は、登記なくして対抗できる、です。

完成答案③ 結論 図:完成答案③ 結論

最後に、結論です。以上より、Cの甲地賃借権の時効取得の主張は認められる。Cは、Dの明渡請求を退けることができる。いえ、板の一部は見出しや箇条書きの形になっています。実際に書くときは、これを地の文の答案に組み立て直してください。規範の言葉、あてはめの事実、結論——中身はすべてここに入っています。

総括:なぜB・Cで結論が逆転するか

なぜB・Cで結論が逆転するか——同じD、同じ177条 図:なぜB・Cで結論が逆転するか——同じD、同じ177条

さて、ここでもう一度、前回のBと並べてみましょう。前回、Bの主張はすべて退けられました。今日見たCとは、正反対の結末です。なぜそうなったのか、2人を並べて確認しましょう。Bは、2015年に占有を始め、2025年に時効が完成しました。Cは、2018年に占有を始め、2028年に時効が完成しました。そして、Dが甲地を譲り受けたのは、どちらの場合も2027年です。Bにとって2027年は、時効完成の後です。だからDは、時効完成後の第三者——二重譲渡と同じ構造で、登記の先後が勝負を決めます。Bは登記を持っていません。だから負けます。Cにとって2027年は、時効完成の前です。だからDは、時効完成前の第三者——当事者に類似する扱いで、登記なくして対抗できます。だからCは勝ちます。

177条の規範そのものは、1つしかありません。完成前の第三者には登記は要らない、完成後の第三者には登記が要る。この1つの物差しを、2人分の年表に当てはめただけです。規範を、正しい年表に当てはめて初めて、結論が出ます。今日、Cの答案を書きながら確認してほしかったのは、まさにこの当てはめる力です。

今日の地図(保存版)

今日のまとめ——同じ規範が、時系列の違いで正反対の結論を導く 図:今日のまとめ——同じ規範が、時系列の違いで正反対の結論を導く

今日のまとめです。Cは、まず賃借権そのものの主張を試みましたが、これは契約の相対的な効力によって通りませんでした。そこでCは、甲地賃借権の時効取得を主張しました。賃借権は占有を要素とする権利だから、163条の財産権にあたる。2つの要件を満たせば、賃借権も時効取得できる。そして、Dの登場はCの時効完成より前だったから、Cは登記なくして対抗できました。2回にわたって見てきたのは、1つの規範を、2つの時系列にあてはめる練習でした。規範を丸暗記するだけでは、答案は書けません。事案の年表のどこに、その規範が刺さるのかを見抜く——それが、今日と前回で伝えたかったことです。

参照条文

  • 民法177条(前回の条文・再掲)
  • 民法163条

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