民法 ゼロから民法 論文

動産の二重譲渡と即時取得のあてはめ(占有改定・192条)

古道具商Bが同じ動産(望遠鏡甲)をA・Cに二重に売り、Aが先に占有改定を受けた事例で、①二重譲渡と対抗要件(178条・占有改定も引渡し)でCを無権利者と確定し、②即時取得(192条)の6要件を一つずつ当てはめて結論を出す実演ノート。受験生がつまずく④「占有を始めた」と占有改定の可否(最判昭35.2.11)、⑤⑥善意・無過失の判断時期を厚く扱い、発展として折衷説で結論が逆転することまで。

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ゼロから民法 論文/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

「即時取得とは何か」は理解回・別動画にゆずります。このノートはその先——実際の事例で要件を一つずつ当てはめ、所有権を取得できるかの結論を出すところを実演します。題材は動産の二重譲渡と即時取得(192条)で、受験生が一番つまずく④「占有を始めた」と占有改定の可否、そして⑤⑥善意・無過失の判断時期を厚く扱います。土台として動産物権変動の二段構え(176条 意思主義 → 178条 対抗要件)と引渡しの4類型を最初に押さえ、最後に折衷説なら結論が逆転することを発展で示します。

出発点はこの一文——「対抗要件の”引渡し”と、即時取得の”占有を始めた”は、別物。占有改定では、即時取得は始まらない。」 同じ「引渡し」でも、178条(対抗)では占有改定を含み、192条(即時取得)では占有改定を含まない。この截然区別が答案の背骨です。


事例 〔主役事例〕

古道具商Bが望遠鏡甲を二重譲渡|A4/1占有改定→C5/1占有改定→6/1午前にC悪意→午後 現実引渡し

古道具商を営むBは、店に一点物のアンティーク天体望遠鏡「甲」を所有していた。4月1日、常連客Aが甲を気に入ってBから甲を買ったが、当面置き場所がなく「引っ越しが済むまで店で預かってほしい」と頼み、BがAのために甲を保管し続けることにした(=占有改定)。5月1日、別の客Cも甲を気に入ってBから甲を買い、やはり引き取りまで間があるので、BがCのために店で保管することにした(=占有改定)。6月1日午前、Cは共通の知人から「その望遠鏡は4月にもうAが買っていたらしい」と聞き、Aの先行購入を知った。同日午後、Cは店に行き、Bから甲を現実に受け取って持ち帰った(=現実の引渡し)。そこでAがCに甲の返還を求めた。

問い:Cは、自らが取得した所有権を主張して、Aへの甲の返還を拒めるか。

Aの請求は所有権に基づく返還請求。勝敗はCが所有権を取得したかで決まる。Cが取得する道は二つ——問1:売買による取得(二重譲渡と対抗要件)。問2:即時取得(無権利者から買った者を救う制度)。この二段で順に検討します。

請求の枠組み 〔答案の出だし〕

Aの請求=所有権に基づく返還請求/争点=Cが所有権を取得したか/取得の道は2つ

答案はいきなり192条から書かない。まずAの請求の正体を確かめる。Aの「甲を返せ」は所有権に基づく返還請求(物権的返還請求権)である。Aは所有者Bから甲を買って所有権を得ており、甲を現に持つCに返還を求めうるようにみえる。これに対しCは「甲の所有権は自分が取得した、Aにはもう無い」と反論する。だから争点は一つ——Cが所有権を取得したか。Cが取得する経路は、問1 売買による取得(二重譲渡・対抗要件178条)と、問2 即時取得(192条)の二つ。問1で「Cは無権利者からの取得者」と確定し、問2で「即時取得で救われるか」に絞る。この切り分けが出だしです。

動産物権変動の地図 〔意思主義176・対抗要件178〕

物権変動は二段|176条 意思主義で移転 → 178条 引渡しで第三者に対抗(動産の公示=占有)

問1の土台。物権の変動は二段で考える。

  • 176条=意思主義:物権は当事者の意思表示だけで移る。「売ります/買います」の合意だけで所有権は動く。だが内側で移っただけでは、外から誰の物か分からず第三者が困る。
  • 178条=対抗要件:動産は、引渡しがなければ第三者に「自分の物だ」と対抗できない。なぜ「引渡し」か——動産は公示の手段が占有しかないからである(不動産なら登記=177条、動産は占有=引渡し)。

意思で移し、引渡しで対抗する。この二段が土台になります。

条文を引く(176・178) 〔意思主義と対抗要件〕

民法176条・178条 全文|「意思表示のみ」=意思主義/「引渡しがなければ…対抗できない」=対抗要件

条文をそのまま引く。176条——「物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。」178条——「動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない。」176で移って、178で対抗する。さきの二段に対応している。

引渡しの4類型 〔対抗要件としての引渡し〕

引渡し4類型|現実182①・簡易182②・占有改定183・指図184=全部178の引渡し(最判昭30.6.2)/でも192とは別

「引渡し」には4類型ある——①現実の引渡し(182条1項)=物を手から手へ/②簡易の引渡し(182条2項)=相手が既に物を持つとき合意だけで/③占有改定(183条)=渡す側が「以後あなたのために持つ」と表示し、物は動かず立場だけ変わる/④指図による占有移転(184条)=第三者に預けた物を「以後この人のために」と命じる。

この4類型はすべて178条の「引渡し」に当たり、どれでも対抗要件になる。占有改定でも対抗できる(最判昭30.6.2)。——ただしここに伏線。後で出る192条の「占有を始めた」は、これとは別である。同じ「引渡し」でも扱いが変わる(覚えておく)。

条文を引く(182・183・184) 〔引渡しの方法〕

民法182条1項2項・183条・184条 全文|183条=物は動かず意思表示のみ(占有改定)

4類型の条文を引いておく。182条1項「占有権の譲渡は、占有物の引渡しによってする。」(現実)2項「譲受人又はその代理人が現に占有物を所持する場合には、占有権の譲渡は、当事者の意思表示のみによってすることができる。」(簡易)183条「代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したときは、本人は、これによって占有権を取得する。」(占有改定)184条「代理人によって占有をする場合において、本人がその代理人に対して以後第三者のためにその物を占有することを命じ、その第三者がこれを承諾したときは、その第三者は、占有権を取得する。」(指図)——183条だけ物が動いていない。ここが後で効く。

問1 二重譲渡と対抗要件 〔解説〕

問1|二重譲渡→176で両者取得しうる→178で引渡しの先後→Aが4/1占有改定で先に対抗要件→Cは無権利者からの取得

問1——Cは、売買で所有権を取得したか。

  • 規範:Bは甲をAにもCにも売った(二重譲渡)。このとき176条で両者とも所有権を取得し「うる」。だがAとCは同じ甲を取り合う関係だから、178条で引渡しの先後で優劣が決まる。そして占有改定も178条の引渡しである(最判昭30.6.2)。
  • あてはめ:Aは4月1日、Bが「以後Aのために保管する」と合意した=占有改定(183条)により引渡しを受け、4月1日に対抗要件を備えた。これはCが買った5月1日より前である。
  • 結論:Cが買った時点で、Bは既にAに対抗される立場=無権利者であった。よってCは売買によっては甲の所有権を取得しない。だから次の問2、即時取得に進む。

問1 答案の型 〔文言で書いてみる〕

問1の答案|【問題提起】→【規範】176/178・占有改定も引渡し→【あてはめ】A4/1先行対抗要件→【結論】Cは売買では取得せず

今の問1を答案の言葉で書くと——【問題提起】Cは、Bから甲を買って所有権を取得したか。【規範】物権は意思表示によって移転する(176条)。もっとも、動産の物権変動は引渡しがなければ第三者に対抗できず(178条)、二重譲渡では先に引渡しを受けた者が優先する。そして占有改定も178条の引渡しに当たる。【あてはめ】Aは4月1日、占有改定により引渡しを受けて対抗要件を備えた。これはCの購入より前であるから、Cが買った時点でBは無権利者であった。【結論】Cは、売買によっては甲の所有権を取得しない。

条文を引く(192) 〔即時取得〕

民法192条 全文|取引行為・平穏・公然・動産・占有を始めた・善意・無過失=要件が条文に6つ

問2——無権利者から買ったCを救う制度が即時取得。192条「取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。」——要件が条文に6つ詰まっている(①取引行為②平穏③公然④占有を始めた⑤善意⑥無過失)。これを一つずつ当てる。

即時取得の趣旨 〔規範の土台〕

趣旨|動産の公示は占有のみ→占有と権利が乖離→占有に公信力(取引安全=動的安全と静的安全の調整・権利外観法理の動産版)

要件の前に趣旨。動産は公示の手段が占有しかないため、持っている人と本当の権利者がずれることがある。だが、いちいち疑えば取引が止まる。そこで占有という外観を信じて取引した人を守る=占有に公信力を与えた。ここで二つの利益がぶつかる——取引に入った人を守る取引の安全(動的安全)と、本当の権利者を守る静的安全。即時取得はこの二つを調整する制度であり、権利外観法理の動産版である。だから対象は動産だけ(不動産は登記で公示でき94条2項類推で別処理。登録自動車・金銭・有価証券も対象外=登録が公示の役目を果たす=最判昭62.4.24/逆に未登録自動車は対象に入る最判昭45.12.4)。

成立要件を確認する 〔即時取得の6要件〕

成立要件カード|192条に明記の6要件=①取引行為②平穏③公然④占有を始めた⑤善意⑥無過失(⑤186①推定・⑥188推定)

即時取得(192条)が認められるのは、①取引行為によって、②平穏かつ③公然と、④動産の占有を始めた者が、⑤善意かつ⑥無過失であるとき。趣旨(外観を信じた人を守る)から戻せば、「信頼に値する取引で、占有という外観を得て、前主の無権利を知らず知り得なかった」だけのこと。⑤善意は186条1項で推定⑥無過失は188条から推定される。逐語で固定するのは採点キーワードだけ。

あてはめ ①②③ 〔取引行為・平穏公然・動産〕

あてはめ前半|①取引行為○②平穏公然○(186①推定)③動産○/④の占有開始候補=占有改定5/1と現実引渡し6/1午後

あてはめの型は「生の事実を拾う → 評価する → 要件に当てる」。軽い要件はメリハリをつけてサッと通す。

  • ①取引行為:Cが占有を得た原因はBC間の売買=取引行為。①○。
  • ③動産:甲は望遠鏡=動産。③○。
  • ②平穏・公然:186条1項で推定され、覆す事情もない。②○。

問題は④「占有を始めた」。これに当たる候補が二つある——5月1日の占有改定と、6月1日午後の現実の引渡し。どちらが「占有を始めた」か。ここが今日いちばんの山場。

④の規範 〔占有改定の可否〕

④「占有を始めた」(理由付け込み)=趣旨(取引安全↔静的安全)→要保護性→一般外観上、従来の占有状態に変更を生ずる場合に占有を始めたといえる(最判昭35.2.11)|178引渡し○↔192で外れるのは占有改定だけ

④「占有を始めた」とは何かを規範化する。問題提起=④は占有改定によって認められるか、それとも現実の引渡しを受けて初めて認められるか。これを趣旨から決める。即時取得(192条)の趣旨は、取得者の取引の安全の確保と、原権利者の静的安全の保護という2つの利益の調整にある。そうだとすれば——

規範:「占有を始めた」というためには、取得者に原権利者の静的安全を奪ってもよいといえるだけの要保護性が備わっていることを要する。そこで、一般外観上、従来の占有状態に変更を生ずる場合には、「占有を始めた」といえると解する(最判昭35.2.11)。

ここで伏線が回収される。178条の引渡しには占有改定が含まれるが、192条の占有開始には占有改定は含まれない。4類型のうち192条で外れるのは占有改定だけで、現実・簡易・指図は外観が動くので占有開始に当たる。同じ「引渡し」でも条文の趣旨が違うから結論が割れる——この対比が論点の心臓部です。

あてはめ ④ 〔本番その1・占有を始めたか〕

あてはめ④|占有改定183=意思表示のみ・外観に変更なし→占有開始に当たらず/現実引渡し6/1午後に初めて占有開始○

  • 候補1=5月1日の占有改定:占有改定は当事者の意思表示だけで成立し(183条)、物は店に置いたまま外から見える様子は何も変わらない(事実)。一般外観上、従来の占有状態に変更がない(評価)。だから占有改定では「占有を始めた」とはいえない(該当)。④はまだ×。
  • 候補2=6月1日午後の現実の引渡し:CはBから甲を現実に受け取り、占有の外観がはっきり動いた。この時点で初めて「占有を始めた」といえる。④○。

ここが決まると、次の善意・無過失の基準時も決まる。

条文を引く(186①・188) 〔善意・無過失の推定〕

民法186条1項・188条 全文|186①=善意等の推定/188=占有者の権利推定(無過失推定の根拠)

推定の条文を引く。186条1項「占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。」(⑤善意の推定)188条「占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定する。」(⑥無過失を導く根拠)——特に188条の使い方が技あり(次の二段推定)。

あてはめ ⑤⑥ 〔本番その2・善意無過失と判断時期〕

あてはめ⑤⑥|判断時期=占有開始時(6/1午後)/⑥無過失は188の二段推定/⑤善意は同日午前に悪意→欠く→不成立

  • 判断時期(規範):⑤善意・⑥無過失の基準時は占有を始めた時。外観を信じて取引に入ったその瞬間を見る。本問の占有開始は6月1日午後だった。
  • ⑥無過失(二段推定):188条で前主Bが権利を持つと推定される → その結果、Bを信じたCにも過失がないと推定される。Cは無過失を自分で立証しなくてよい(Cに有利)。
  • ⑤善意:基準時は6月1日午後。ところがCは同日午前にAの先行購入を知っている。つまり占有開始の時点で既に悪意。だから⑤善意を欠き、推定はこの事実で覆る。
  • 結論:即時取得は成立しない。——占有改定の時(5/1)は善意だったが、占有改定では占有を始めておらず、基準はあくまで占有開始=現実引渡しの時(6/1午後)。その時、Cは悪意だった。

✍️ 完成答案(フル全文・主役事例)

完成答案|第1 枠組み/1 売買(無権利者)/2 即時取得(④占有改定×→現実引渡し○→⑤悪意→不成立)/結論 返還請求認容

下の「📝 論文の型」が、第1/1/(1)/ア・イ の法的三段論法の階層で全文化した正本です。


📝 論文の型(フル論証・正本)— 動産の二重譲渡と即時取得(192条・占有改定)

CLAUDE.md ⑦に従い、第1/1(問題提起→規範→あてはめ→結論)/(1)/ア・イ の法的三段論法の階層で全文化する。問いが複数(問1 売買取得/問2 即時取得)あるので各論点に三段論法をフルに立てる。あてはめは事実→評価→該当(○/×) の三点セット、消極要件は例外まで潰して結論を確定する。

【事例】 古道具商Bは一点物のアンティーク天体望遠鏡甲を所有していた。4月1日、AがBから甲を買い、置き場所がないため「引っ越しまで店で預かってほしい」と頼み、BがAのために甲を保管し続けることにした。5月1日、CもBから甲を買い、やはりBがCのために店で保管することにした。6月1日午前、Cは知人からAの先行購入を聞いて知った。同日午後、CはBから甲を現実に受け取って持ち帰った。Aが甲の返還を求めている。


第1 Aの請求と争点

Aの「甲を返せ」との請求は、所有権に基づく返還請求(物権的返還請求権)である。Aは所有者Bから甲を買って所有権を取得しており、甲を現に占有するCに対し返還を求めうる。これに対しCは、自らが甲の所有権を取得したと反論する。したがって本問の争点は、Cが甲の所有権を取得したかにある。Cが所有権を取得する経路は、①Bとの売買による取得(二重譲渡・対抗要件)と、②即時取得(192条)の二つであるから、以下この順に検討する。

第2 売買による所有権取得の有無(問1)

1 問題提起 Cは、Bとの売買により甲の所有権を取得したか。Bは甲をAにもCにも売っており(二重譲渡)、両者の優劣が問題となる。

2 規範 物権の設定及び移転は当事者の意思表示のみによってその効力を生ずる(176条)から、二重譲渡においては両譲受人とも所有権を取得しうる。もっとも、動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ第三者に対抗することができない(178条)。ゆえに二重譲渡では、先に引渡しを受けて対抗要件を備えた者が優先し、他方はその者に対抗されて無権利者からの譲受人となる。そして占有改定(183条)も178条の「引渡し」に含まれる(最判昭30.6.2)。

3 あてはめ

  • (1) Aについて。Aは4月1日、Bとの間で「以後AのためにBが甲を保管する」旨を合意した。これは占有改定(183条)であり、178条の引渡しに当たる。よってAは4月1日に対抗要件を備えた
  • (2) Cについて。CがBから甲を買ったのは5月1日であり、Aが対抗要件を備えた後である。したがってCが甲を買った時点で、BはAに対抗される立場にあり、甲につき無権利者であった。

4 結論 よってCは、Bとの売買によっては甲の所有権を取得しない。Cは無権利者からの譲受人であるから、次に即時取得の成否を検討する。

第3 即時取得の成否(問2)

1 問題提起 無権利者Bから甲を買ったCは、即時取得(192条)により甲の所有権を取得しないか。

2 規範 動産は公示の手段が占有に限られ、占有と権利が乖離しうる。そこで占有という外観を信頼して取引した者を保護し、取引の安全(動的安全)と原権利者の保護(静的安全)を調整するのが即時取得である(権利外観法理の動産版)。すなわち、①取引行為によって、②平穏かつ③公然と、④動産の占有を始めた者が、⑤善意かつ⑥無過失であるとき、その動産につき行使する権利を即時に取得する(192条)。⑤善意は186条1項により、⑥無過失は188条によりそれぞれ推定される。

3 あてはめ

  • (1) ①取引行為・②平穏・③公然・③動産。Cが占有を得た原因はBC間の売買であり取引行為に当たる(①○)。甲は望遠鏡であり動産である(③[客体]○)。平穏・公然は186条1項で推定され、これを覆す事情はない(②○)。
  • (2) ④「占有を始めた」か。
    • ア 規範。即時取得(192条)の趣旨は、取得者の取引の安全の確保と原権利者の静的安全の保護という2つの利益の調整にある。そうだとすれば、「占有を始めた」というためには、取得者に原権利者の静的安全を奪ってもよいといえるだけの要保護性が備わっていることを要する。そこで、一般外観上、従来の占有状態に変更を生ずる場合には、「占有を始めた」といえると解する(最判昭35.2.11)。同じ「引渡し」でも、178条(対抗要件)の引渡しには占有改定が含まれるのに対し、192条の「占有を始めた」には占有改定は含まれない。4類型のうち外れるのは占有改定のみで、現実・簡易・指図は外観が変動するため占有開始に当たる。
    • イ あてはめ。Cは5月1日に占有改定(183条)を受けたが、占有改定は当事者の意思表示のみで成立し、甲は店に置かれたまま外観上の占有状態に変更がない(事実→評価)。ゆえに5月1日の占有改定では「占有を始めた」とはいえない(④×)。これに対しCは6月1日午後にBから甲を現実に受け取り、占有の外観が現実に変動した。よってCは6月1日午後に初めて「占有を始めた」といえる(④○)。
  • (3) ⑤善意・⑥無過失。
    • ア 判断時期。⑤⑥は、占有という外観を信頼して取引に入った瞬間を基準とすべきであるから、その基準時は占有を始めた時である。本問では6月1日午後である。
    • イ ⑥無過失。188条により前主Bが甲につき権利を適法に有すると推定される結果、Bを信頼したCにも過失がないと推定される(二段の推定)。Cは無過失を別途立証する必要がなく、これを覆す事情もない(⑥○)。
    • ウ ⑤善意。基準時たる6月1日午後の時点で、Cは同日午前に既にAの先行購入を知っており、Bが無権利であることにつき悪意であった。よって186条1項の善意の推定は覆り、Cは⑤善意を欠く(⑤×)。なお、占有改定を受けた5月1日には善意であったが、その時点では「占有を始めた」とはいえないから、善意の基準時とはならない。

4 結論 よってCは⑤善意を欠き、即時取得(192条)も成立しない。Cは甲の所有権を取得しない。

第4 結論

Cは売買によっても即時取得によっても甲の所有権を取得しない。甲の所有権はAにある。よってCはAの所有権に基づく返還請求を拒むことができず、Aの返還請求は認められる


📌 ★コア規範(逐語で覚えるのはここだけ)

二重譲渡の優劣(178条):動産の物権変動は引渡しがなければ第三者に対抗できず、先に引渡し(対抗要件)を備えた者が優先する。占有改定も178条の引渡しに含まれる(最判昭30.6.2)。 即時取得(192条)①取引行為②平穏③公然④占有を始めた⑤善意⑥無過失で成立。⑤善意=186条1項推定、⑥無過失=188条推定(二段の推定)。 ④「占有を始めた」(趣旨=取引の安全と原権利者の静的安全の調整→原権利者の静的安全を奪ってよいといえる要保護性を要する)=一般外観上、従来の占有状態に変更を生ずる場合に「占有を始めた」といえる(最判昭35.2.11)。占有改定はこれに当たらない(178条の引渡しには含まれるが192条の占有開始には含まれない=同じ”引渡し”でも趣旨が違う)。 ⑤⑥の判断時期占有を始めた時

🔑 復元キー(趣旨から再構成する鎖)

  1. Aの請求=所有権に基づく返還請求 → 争点=Cが所有権を取得したか → 経路は問1 売買/問2 即時取得の二段。
  2. 問1=176条で両者取得しうる→178条で引渡しの先後。動産の公示は占有のみ=だから引渡し。占有改定も引渡し(最判昭30.6.2)→Aが4/1占有改定で先行→Cは無権利者からの取得
  3. 問2の趣旨=動産の公示は占有のみ→占有と権利が乖離→占有の公信力(取引安全=動的安全と静的安全の調整・権利外観法理の動産版)。だから対象は動産だけ(登録自動車・金銭等は対象外)。
  4. ④の規範は趣旨から戻す=原権利者を覆すには外観が現実に動いた要保護性が要る→「一般外観上、従来の占有状態に変更を生ずる」(最判昭35.2.11)→占有改定は外観が動かず×/現実引渡しで○
  5. ⑤⑥の基準時=占有開始時(外観を信頼して取引に入った瞬間)。④の結論(占有開始=現実引渡し時)と連動する。⑥無過失は188条の二段推定、⑤善意は現実引渡し時に悪意で欠く

⚠️ ここはひっかかる(短答)

  • 同じ「引渡し」でも178条と192条で結論が割れる:178条(対抗要件)の引渡しには占有改定を含む(最判昭30.6.2)が、192条(即時取得)の「占有を始めた」には占有改定を含まない(最判昭35.2.11)。4類型のうち即時取得で外れるのは占有改定だけ
  • 即時取得の対象は動産のみ登録自動車・金銭・有価証券は対象外(登録自動車=最判昭62.4.24)/未登録自動車は対象(最判昭45.12.4)。不動産は94条2項類推で別処理。
  • ⑤善意は186条1項で、⑥無過失は188条で推定される(無過失は前主の権利推定→取得者の無過失推定の二段推定)。取得者が無過失を立証するのではない。
  • ⑤⑥の判断時期は占有開始時。占有改定の時に善意でも、占有改定は占有開始に当たらないから基準時にならず、現実引渡し時に悪意なら不成立
  • 折衷説を採ると、占有改定の時に一応占有開始を認め基準時が占有改定時にずれる結果、本問では善意・無過失となり結論が逆転しうる(下記)。本問は基準時の対立を試す出題。
  • 二重譲渡では先に対抗要件を備えた者が優先し、後れた者は無権利者からの譲受人=即時取得で救えるかが次の問題になる、という流れを外さない。

〔発展〕折衷説——基準時の対立

本問の答案は判例(否定説)の立場:占有改定では「占有を始めた」といえず、占有開始は現実の引渡しの時とする。これに対し折衷説は、占有改定の時にいったん占有開始を認め、後に現実の引渡しを受けた時に即時取得が確定すると説く(二段構え:善意・無過失の基準時は占有改定の時、成立確定は現実引渡しの時)。折衷説では善意・無過失の基準時が占有改定時(本問では5月1日)になり、その時点ではCはまだAの先行購入を知らず善意・無過失であるから、即時取得が成立して結論が逆転する。どの立場でも、規範を趣旨から立てられることが答案の決め手になる。

参照条文

  • 民法176条
  • 民法178条
  • 民法183条
  • 民法192条

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