民法ゼロから民法 論文

損害賠償の範囲②(填補賠償・算定の基準時・損益相殺と過失相殺)

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ゼロから民法 論文/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

事例

【事例】3人の関係——AがBに特定のギターを売り、そのギターをCにも売って引き渡した

前編では、416条の物差しで、事実でつながった損害のうち、どこまでが賠償の範囲に入るかを見ました。今日は、範囲に入った損害を、いくらで払わせるのか、そこから何を引くのか、を見ます。登場人物は3人です。Aは古い楽器の売買をしている店の主人で、売主です。Bはプロの弦楽器奏者で、買主です。Cは、あとからAのところへ買いに来た、別の客です。9月2日、AはBに、製作者Xが作った特定の1本のギターを、800万円で売りました。同じ物は他にありません。引渡期日は10月20日です。Bは、自分の演奏に使うために買い、契約の日に、代金800万円を全額払いました。AはX製の楽器を、いつも扱っています。

契約の時点では、X製の楽器の相場に、目立った動きはありませんでした。ここを、覚えておいてください。

設問1の時系列——9月2日売買、9月25日回顧展の発表、10月10日にCへ売却して引渡し、10月20日引渡期日、翌年6月口頭弁論終結

時間の順に見ます。9月25日、ある美術館が、Xの回顧展を開くと発表しました。これをきっかけに、X製の楽器の値段は、上がり続けます。Aは、9月28日と10月6日の2回、自分の店のX製の楽器の値札を引き上げました。そして10月10日、Aは、Cからギターを売ってほしいと頼まれました。Bとの契約を告げないまま、1,000万円で売って、引き渡しました。CはAB間の契約を知りません。この日のギターの時価も、1,000万円です。Cが先に引渡しを受けたので、BはCに所有権を対抗できません。178条です。Aは、ギターをBに引き渡せなくなりました。その後も値段は上がり続けて、Bが起こした訴訟の、事実審の口頭弁論終結時、つまり判決の前の最後の審理の時、翌年6月には、ギターの時価は1,400万円になっています。

ギターの価値を、いつの時点の値段で測るか。これが、今日の山のひとつです。山は3つあります。1つめは、この請求が、履行に代わる損害賠償、つまり填補賠償にあたるか。2つめは、ギターの価値を、いつの時点で測るか。値上がりが続いているので、時点で金額が変わります。3つめは、Bが代わりのギターに払った費用から、払わずに済んだ費用を引くこと、Bの落ち度をどう扱うか、そして、どちらを先にやるか。順序でも金額が変わります。

設問1

設問1の問い——BがAに履行不能による損害賠償としてギターの価値を請求、いくらの請求が認められるか

設問1です。問題文を読みます。BはAに、履行不能による損害賠償として、ギターの価値の賠償を請求しました。いくらの請求が認められるか。Bの落ち度は、設問2で扱います。設問1では考えません。答案は、請求の特定から始めます。ここで、問いです。Bが求めているのは、ギターを引き渡せ、ではなく、ギターの価値を払え、です。この2つは、同時に認められるでしょうか?考えてみてください。答え合わせです。同時には認められません。ギターを受け取った上に、その価値のお金までもらったら、同じ価値を二重に手に入れることになります。二重取りです。ですから、ギターの価値の賠償は、債務の履行と両立しない損害賠償です。これを、履行に代わる損害賠償、填補賠償と言います。

前編のリース料や違約金は、機械が結局届いたあとの請求でしたよね。あれとは違うんですか。違います。機械は届くので、受け取りながら、遅れた分の損害も請求できます。履行と両立するので、遅延賠償です。分かれ目は、履行と両立するか、です。

填補賠償——債務の履行と両立しない損害賠償、415条1項の要件に加えて2項各号のいずれかが必要

填補賠償が認められる条件は、板のとおりです。415条1項の要件に加えて、2項の各号のどれかが要ります。2項を読みます。

条文民法415条

民法第415条第2項 2 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。 一 債務の履行が不能であるとき。 二 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。 三 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。

履行に代わる賠償を請求できるのは、1号、履行が不能なとき。2号、債務者が履行を拒絶する意思を、はっきり示したとき。3号、契約が解除されたか、解除権が発生したとき、です。どれも、本来の履行に戻れない場面です。各号に、解釈で足す所はありません。答案では、どの号にあたるかを、事実で示せば足ります。Bの請求は、引き渡されるはずだったギターの価値を、お金で求めるものです。履行と両立しません。填補賠償にあたりますから、1項の要件に加えて、2項各号のどれかを検討します。

設問1

設問1の要件——債務、不履行、損害、因果関係、責めに帰することができない事由を端的に流し、2項1号に当てる

まず、1項の要件です。1項は前編で全文を読みました。債務、不履行、損害、因果関係、そして免責事由がないこと。今日の厚い所は、このあとの、金額の算定です。ですから、ここは端的に流します。1つめは、債務です。9月2日に、AB間で、ギターを800万円、引渡期日を10月20日とする売買契約が成立しています。Aは、Bにギターを引き渡す債務を負います。555条です。2つめは、不履行です。Cが先に引渡しを受けたので、BはCに対抗できません。同じ物を2人が買ったときは、先に引渡しを受けた方が、自分が持ち主だと相手に言えるからです。ギターはCの物と決まり、Bは取り戻せません。Aは、Bにギターを引き渡せない。社会通念に照らして、履行は不能です。根拠は、412条の2第1項です。3つめは、損害です。Bは、ギターを手に入れられず、その価値を得られませんでした。事実としての損害です。4つめは、因果関係です。AがCに売らなければ、Bは引渡しを受けられました。事実的因果関係があります。そして、売買の目的物の価値は、引渡債務が履行されなかったときに通常生ずる損害です。416条1項で、範囲に入ります。前編の物差しです。ただし、その価値を、いつの時点で測るかは、次の所で見ます。5つめは、免責事由です。Aは、契約があると知りながら、ギターをCに売っています。責めに帰することができない事由とはいえません。そして、Aの債務は履行不能ですから、2項1号にあたります。Bは、填補賠償を請求できます。

設問1

基準時の問い——履行不能にした10月10日の時価は1,000万円、口頭弁論終結時の時価は1,400万円、契約の9月2日は値上がり前

ここからが、厚く書く所です。入る前に、前編の要点を一問。特別の事情によって生じた損害は、誰が、いつの時点で、その事情を予見すべきであったときに、賠償の範囲に入るのでしょうか?債務者が、債務不履行のときに、です。今日は、この物差しを、もう一度使います。問いを立てます。ギターの時価は、履行不能にした10月10日が1,000万円、口頭弁論終結時が1,400万円です。填補賠償の額は、どちらの値段で測るのか。条文は、基準時を決めていません。ですから、解釈で立てる所です。入口の問いにします。値上がりが続いているとき、債務者が負うのは、10月10日の1,000万円でしょうか、いまの1,400万円でしょうか?考えてみてください。答え合わせです。原則は、10月10日の1,000万円です。ただし、例外があります。規範を、板で見ます。

算定の基準時——原則は処分当時の時価、値上がりという特別の事情を知っていたか知りえたときは騰貴した現在の時価

原則は、債務者が目的物を処分して、履行不能にした当時の時価です。例外は、目的物の値段が上がりつつあるという特別の事情があり、しかも債務者が、履行不能にしたとき、その事情を知っていたか、知りえたとき。この場合は、騰貴した現在の時価で測ります。条文の言葉に置き直します。特別の事情は、416条2項の特別の事情です。知りえた、は、予見すべきであった、と読みます。Aの立場で注意していれば知ることができた、つまり、知っているべきだった、という意味で読むからです。原則の時価は、通常生ずる損害を、履行不能の時の値段で測るものです。履行不能になると、ギターを渡せという権利は、お金の賠償を求める権利に変わります。変わるその時にBが失ったのは、その時点のギターです。だから、原則はその時の値段です。例外は、特別の事情による損害で、債務者が予見すべきであったときに限って入ります。さきほどの物差しと、同じ形です。見るのは債務者、見る時点は履行不能にした時です。

判旨が、理由を述べています。

判例最高裁判所判決 昭和37年11月16日(民集16巻11号2280頁)

騰貴した価格による賠償の理由 けだし、債権者は、債務者の債務不履行がなかつたならば、その騰貴した価格のある目的物を現に保有し得たはずであるから、債務者は、その債務不履行によつて債権者につき生じた右価格による損害を賠償すべき義務あるものと解すべきであるからである。

債務不履行がなければ、Bは、値上がりしたあとのギターを、いまも持っていたはずです。その値段の損害は、Aが賠償すべきだ、ということです。この「現在」は、口頭弁論終結時、裁判所が値段を確かめられる最後の時です。例外にも、条件があります。3つ見ます。1つめ。値上がりの前に、債権者が他に処分しただろうと予想されるときは、騰貴した値段は取れません。その処分した値段で止まります。2つめ。いったん上がって、そのあと下がったときです。途中で一番高かった値段を、中間最高価格と言います。これを基準にするには、その高かった時に、転売などで利益を確実に取得しただろうと予想されることが必要です。たとえば、ギターが12月に1,600万円まで上がり、いまは1,200万円に下がっていたとします。1,600万円で測るには、Bが12月ごろに、売るなどして、その利益を確実に手にしただろうと予想されることが要ります。3つめ。いまも上がり続けているときです。この場合は、いま債権者が他に処分するだろうという予想は、必ずしも要りません。判旨を読みます。

判例最高裁判所判決 昭和37年11月16日(民集16巻11号2280頁)

中間最高価格と、現在なお騰貴中のとき また、目的物の価格が一旦騰貴しさらに下落した場合に、その騰貴した価格により損害賠償を求めるためにはその騰貴した時に転売その他の方法により騰貴価格による利益を確実に取得したのであろうと予想されたことが必要であると解するとしても、目的物の価格が現在なお騰貴している場合においてもなお、恰も現在において債権者がこれを他に処分するであろうと予想されたことは必ずしも必要でないと解すべきである。

今回のギターは、口頭弁論終結時にも上がり続けているので、3つめにあたります。

基準時の分かれ道——履行不能、値上がりが続く特別の事情があるか、債務者が不能にした時に予見すべきだったか、はいなら終結時の時価、いいえなら不能時の時価

あてはめます。板の道筋で行きます。まず、原則です。Aは、契約があるのに、ギターをCに売って引き渡しました。債務者が、目的物を処分して、履行不能にした場合です。履行不能にした10月10日の時価は、1,000万円です。原則なら、1,000万円です。例外に進みます。1つめは、特別の事情があるか。9月25日の回顧展の発表のあと、X製の楽器の値段は上がり続けています。値上がりが続くこと自体は、ふつう見込めない事情です。特別の事情にあたります。2つめは、Aが、履行不能にした時に、それを予見すべきだったか。拾う事実は、4つです。Aは、X製の楽器を継続して扱う専門の店であること。9月25日の発表のあと、X製の相場が上がり続けていたこと。Aは、9月28日と10月6日の2回、値札を引き上げ、10月10日には、契約の代金800万円を上回る1,000万円でギターを売っていること。そして、9月2日の契約のときには、値上がりの兆しがなかったことです。評価します。相場を日々見ている専門店が、値札を2度上げて、契約の代金より高く売っています。相場が上がり続けていることを、10月10日までに、現に知っていたといえます。履行不能にした時に、Aは予見すべきでした。

契約のときには、値上がりの兆しがなかったんですよね。それでも、予見すべきだったことになるんですか。なります。予見すべきかを見る時点は、契約の時ではなく、履行不能にした時です。前編の、債務不履行時と同じです。履行不能では、不能にした10月10日が、債務不履行の時です。引渡期日の10月20日ではありません。理由も前編と同じで、Aは、その時にCへ売るのをやめれば、Bの損害を避けられたからです。契約の時を基準にしたら、予見すべきには届きません。時期が、結論を分ける所です。当てます。Aは、特別の事情を予見すべきでした。例外にあたり、騰貴した現在の時価、口頭弁論終結時の1,400万円で測ります。もう1つ。Bは、ギターを、他に売るためではなく、自分の演奏に使うために買っています。転売するつもりがなくても、同じでしょうか。

判例最高裁判所判決 昭和47年4月20日(民集26巻3号520頁)

自分で使う目的の買主でも同じ そして、この理は、本件のごとく、買主がその目的物を他に転売して利益を得るためではなくこれを自己の使用に供する目的でなした不動産の売買契約において、売主がその不動産を不法に処分したために売主の買主に対する不動産の所有権移転義務が履行不能となつた場合であつても、妥当するものと解すべきである。

事案は不動産ですが、理由は、債務不履行がなければ、値上がりしたあとの物を現に持てたはず、ということでした。ギターでも変わりません。外れるのは、転売目的という条件だけです。債務者が予見すべきだったか、という条件は、残ります。Aは予見すべきでしたから、結論は変わりません。最後に、取り違えやすい所を。契約が解除された場合の填補賠償は、基準時が違います。415条2項3号の場面です。

判例最高裁判所判決 昭和28年12月18日(民集7巻12号1446頁)

解除した場合の基準時 次に、本件の如く売主が売買の目的物を給付しないため売買契約が解除された場合においては、買主は解除の時までは目的物の給付請求権を有し解除により始めてこれを失うと共に右請求権に代えて履行に代る損害賠償請求権を取得するものであるし、一方売主は解除の時までは目的物を給付すべき義務を負い、解除によつて始めてその義務を免れると共に右義務に代えて履行に代る損害賠償義務を負うに至るものであるから、この場合において買主が受くべき履行に代る損害賠償の額は、解除当時における目的物の時価を標準として定むべきで、履行期における時価を標準とすべきではないと解するのを相当とする。

解除の場合の基準は、解除当時の時価です。履行不能なら、不能にした時。解除なら、解除の時。手がかりは、給付を求める権利が、賠償を求める権利に変わる時、です。解除の要件そのものは、別の回で扱います。

設問1の結論——ギターの価値は、値上がりが続く特別の事情を予見すべきだったので、口頭弁論終結時の時価1,400万円

設問1の結論です。BのAに対する請求は、1,400万円の限度で認められます。原則の1,000万円ではなく、1,400万円です。Bの落ち度は、設問2です。

設問2

設問2の時系列——設問1の軸に10月8日のAB間の電話と、10月20日から翌年3月20日までの代わりのギターを借りた5か月を足す

設問2です。設問1とは別に、Bが、ギターの引渡しを受けられなかった間に支出した費用の賠償を請求した場合を考えます。設問1の事実に、次の事実を足します。Bは、10月20日以降、演奏会で使う楽器を用意するために、ほかの店から別のギターを借りました。翌年3月20日までの5か月間に、借受料・輸送費・保険料として、合計400万円を支出しています。これを、代替費用と呼びます。一方、Bは、ギターの引渡しを受けていれば、その5か月間、演奏会で使う楽器の調整・輸送・保険を、専門業者に月額定額で委託するはずでした。委託料は、合計200万円になります。ギターがなく、この委託をしなかったので、Bは200万円を払っていません。これを、免れた委託料と呼びます。10月8日、AはBに電話をかけ、こう尋ねました。「Cというお客さんから、ギターを高く買いたいと言われています。20日にはお引き取りに来られますか」。Bは、「その日は海外公演の準備で立て込んでいる。うまく処理しておいてくれ」と答えました。Aは、これを「他に売ってよい」という意味だと受け取りました。書面などで確かめることなく、10月10日にCに売りました。Bは、売ってよいと言ったつもりはなく、契約を解消する意思もありませんでした。Bの過失は、2割と評価できます。代替費用が賠償の範囲に入ること、賠償を求められる期間、設問1の請求との重複は、問題が前提として与えています。答案では論じません。

問いは、Bの請求は、どの範囲で認められるか。金額を示して論じなさい。代替費用の400万円は、そのまま認められるでしょうか。Bの手元を見ます。Bは、代わりのギターのために400万円を払いました。一方で、ギターがあれば払うはずだった委託料の200万円は、払わずに済んでいます。問いです。この200万円は、賠償額から引くべきでしょうか?考えてみてください。答え合わせです。引きます。債務不履行で、損害を被ると同時に利益を受けたときは、公平の観点から、その利益を損害額から引きます。これを、損益相殺と言います。条文はありません。

引く利益には、いくつかの型があります。今回の型は、免れた支出を引く、です。払うはずだったのに払わずに済んだお金を引きます。引けるのは、同じ種類の費用どうしのときです。これを、同質性と言います。代替費用も、免れた委託料も、どちらも、演奏会で使う楽器を用意するための費用です。同じ目的の費用が、片方は余分にかかり、片方は要らなくなった。損害と利益が、同じ事情から、裏返しの関係で生じています。だから引きます。計算します。400万円から200万円を引いて、200万円です。確かめます。約束どおりなら、Bは自分のギターを持ち、委託料200万円だけを払っていました。いまは、借りたギターで400万円を払っています。余分にかかったのは、差し引き200万円です。200万円の賠償を受ければ、約束どおりの場合と同じ所に戻ります。400万円を全部受け取ると、Bは約束どおりの場合より得をしてしまいます。

設問2

過失相殺の条文の対比——418条は責任と額を必ず考慮、722条2項は額を考慮できる

次は、Bの落ち度です。根拠は、418条です。全文で読みます。

条文民法418条

民法第418条 債務の不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める。

要件は、条文どおりです。債務の不履行、またはこれによる損害の発生や拡大に関して、債権者に過失があったこと。効果は、裁判所が、これを考慮して、損害賠償の責任と、その額を定める、です。不法行為の過失相殺と比べます。722条2項は、被害者に過失があったとき、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる、という形です。表のとおり、違いが2つあります。1つめは、考慮の仕方です。418条は、定める。債権者の過失があれば、必ず考慮します。722条2項は、定めることができる。考慮するかどうかは、裁判所が決めます。2つめは、効果です。418条は、責任そのものをなくすことも、額を減らすこともできます。722条2項は、額を減らすだけです。不法行為の詳しい所は、別の回で扱います。もう1つ、判例が決めている所があります。

判例最高裁判所判決 昭和43年12月24日(民集22巻13号3454頁)

過失相殺の職権考慮と立証責任 民法四一八条による過失相殺は、債務者の主張がなくても、裁判所が職権ですることができるが、債権者に過失があつた事実は、債務者において立証責任を負うものと解すべきである。

債務者が言い出さなくても、裁判所が、自分で債権者の落ち度を見られます。ただし、債権者に落ち度があった事実を示す責任は、債務者が負います。あてはめます。拾う事実は、4つです。10月8日、Aは、Bに、他の客から買いたいと言われていることを告げ、20日に引き取りに来られるかを尋ねたこと。Bは、「うまく処理しておいてくれ」と答えたこと。Aは、これを「売ってよい」と受け取り、確かめずに、10月10日に売ったこと。Bは、売ってよいとは言っておらず、契約を解消する意思もなかったことです。評価します。他の客の話が出て、引取りの可否を聞かれたのに、「うまく処理しておいてくれ」と答えれば、売ってよいという意味に受け取られかねません。Bは、そう受け取られないよう、確かめることもできました。Bの返答は、Aが売った一因になっています。債務の不履行に関して、債権者に過失があったといえます。

Bは、売ってよいとは言っていません。それなら、Aの責任はなくなるんですか。なくなりません。Bは、Aの責任を免除したわけではありません。418条は、責任そのものを否定することもできます。ただ、今回、不履行の主な原因は、契約を知りながら確かめずに売ったAの側にあります。ですから、責任は否定せず、額で考慮します。当てます。Bの過失は、2割として考慮されます。

設問2

賠償額の計算——代替費用400万円から免れた委託料200万円を引いて200万円、過失2割を考慮して160万円。順序を逆にすると120万円

最後の山です。200万円を引くことと、2割を考慮すること。どちらを先にやるかで、金額が変わります。先に200万円を引くと、400万円から200万円を引いて200万円。その8割で、160万円です。先に2割を考慮すると、400万円の8割で320万円。そこから200万円を引いて、120万円です。差は、40万円です。問いです。200万円を引く計算と、過失の2割を掛ける計算。どちらを先にやると、判例の考え方に合うでしょうか?考えてみてください。答え合わせです。200万円を引くほうが、先です。判例を見ます。事案は、火災で使えなくなった施設の代わりに、ごみの処理を外に頼み、そのために払った費用、代替処理費から、使わなくなって免れた運転の費用、運転管理費を引いてから、過失割合による減額をする、と判断したものです。不法行為の事案です。

判例最高裁判所判決 令和8年7月7日(令和6年(受)第1694号)

損益相殺と過失相殺の先後 上記不法行為に基づき賠償すべき額を定めるに当たっては、公平の観点から、損益相殺として、本件代替処理費相当額から本件運転管理費の支出を免れたことによる利益を控除すべきであり、控除後の残額が上記不法行為によって粗大ごみの処理について上告人が現実に被った損害となるのであるから、上記利益の控除は、過失割合による減額に先行して行うのが相当である。

決め手は、控除後の残額が、被害者が現実に被った損害になる、という点です。先に現実の損害を確定して、そこに被害者の落ち度を見る。順序は、この筋で決まります。判決が判断したのは、不法行為です。債務不履行について判断したものではありません。ただ、判決の理由は、公平の観点から免れた支出を引くこと、控除後の残額が現実に被った損害であること、の2つです。どちらも、不法行為だけに当てはまる理由ではありません。債務不履行でも変わりません。答案では、判決の理由が債務不履行にも当てはまる、と自分の言葉で書きます。ただし、型を見分けてください。第三者から受けた保険金などを引く型は、別です。労災保険給付の事案では、過失相殺をしてから引く扱いで、給付の趣旨で先後を決めます。今回の委託料は、Bが払わずに済んだ支出で、第三者から受けた給付ではありません。だから、引くのが先です。あてはめます。400万円から、免れた委託料200万円を引いた200万円が、Bが現実に被った損害です。その200万円に、Bの過失2割を考慮します。200万円の8割で、160万円です。設問2の結論です。BのAに対する請求は、160万円の限度で認められます。

完成答案

完成答案① 第1 設問1——Bの請求の範囲(問題の所在と填補賠償の規範) 図:完成答案① 第1 設問1——Bの請求の範囲(問題の所在と填補賠償の規範)

ここまでを、答案の形にしました。動画を止めて、見てみてください。まず、設問1の前半です。請求を填補賠償と特定するところを、確かめてください。

完成答案①の続き 第1 設問1——Bの請求の範囲(415条1項の要件と2項1号) 図:完成答案①の続き 第1 設問1——Bの請求の範囲(415条1項の要件と2項1号)

続きです。厚く書くのは金額の算定なので、要件は端的に流し、2項1号にあてるところを、確かめてください。

完成答案② 第1 設問1——Bの請求の範囲(算定の基準時の問題の所在と規範) 図:完成答案② 第1 設問1——Bの請求の範囲(算定の基準時の問題の所在と規範)

設問1の後半です。算定の基準時の規範を、416条の言葉に置き直すところを、確かめてください。

完成答案②の続き 第1 設問1——Bの請求の範囲(あてはめ・原則と例外) 図:完成答案②の続き 第1 設問1——Bの請求の範囲(あてはめ・原則と例外)

続きです。契約の時ではなく、履行不能の時で見て、原則と例外を当てるところを、確かめてください。

完成答案②の続き 第1 設問1——Bの請求の範囲(値上がりの継続と結論) 図:完成答案②の続き 第1 設問1——Bの請求の範囲(値上がりの継続と結論)

続きです。値上がりが今も続いている点を拾って、1,400万円を出すところを、確かめてください。

完成答案③ 第2 設問2——損益相殺 図:完成答案③ 第2 設問2——損益相殺

設問2の前半です。免れた委託料200万円を、同質性で引くところを、確かめてください。

完成答案③の続き 第2 設問2——過失相殺 図:完成答案③の続き 第2 設問2——過失相殺

続きです。Bの返答を、過失として拾うところを、確かめてください。

完成答案④ 第2 設問2——損益相殺と過失相殺の先後、結論 図:完成答案④ 第2 設問2——損益相殺と過失相殺の先後、結論

設問2の後半です。損益相殺が先、過失相殺が後、と順序を置き、160万円を出すところを、確かめてください。

今日の地図(保存版)

答案の運び——填補賠償と特定、1項の要件、2項各号、算定の基準時、損益相殺、過失相殺、先後、結論の金額

最後に、答案の運びを、1枚の図で確かめます。請求が、履行と両立しない損害賠償なら、填補賠償です。1項の要件に加えて、2項各号を検討します。要件は端的に流し、厚く書くのは、金額の算定です。算定の基準時は、原則が履行不能の時、値上がりが続くなら、債務者が履行不能にした時に予見すべきだったかで、騰貴した現在の時価になります。代わりにかかった費用を請求するなら、払わずに済んだ同じ種類の費用を引き、債権者の過失を考慮します。順序は、先に引いて、あとで落ち度です。結論は、設問1で1,400万円、設問2で160万円でした。

参照条文

  • 民法415条
  • 民法418条

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