取消しと第三者①(取消し前の第三者)
印刷のコツ
プリンターでは次の設定がおすすめです。
- 用紙:A4 / 向き:縦
- 拡大縮小:「実際のサイズ」(フィット縮小しない)
- 両面印刷:オン、とじ方は「長辺をとじる」(左綴じ)
- モノクロ印刷OK(強調は色でなく太字なので白黒でも読めます)
ゼロから民法 論文/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
事例
図:【事例】2つの取引——Bから買ったCに、取消しをしたAが「返せ」と言う
Cは、不動産業者のBから土地を買いました。相場の範囲の3,400万円を払い、引渡しも受けて、資材置場として使い始めています。何も悪いことはしていません。ところが、あとから持ち主のAが現れて、こう言います。「Bに騙されて売った。取り消したから、土地を返せ」。Cは、完全に巻き込まれただけですよね。それでも返さないといけないんですか。そこが今日の問いです。守られる場合と、守られない場合があります。分かれ目は、3つの確かめです。Cが「第三者」にあたるか。善意でかつ過失がないか。登記が無くても守られるか。この順に、答案の中で確かめていきます。事例は2つあります。どちらも、同じ形です。AがBに売り、BがCに転売し、そのあとでAが取り消します。1つめは、Bに騙された、詐欺の場合です。2つめは、Aが自分で思い違いをしていた、錯誤の場合です。2つめは、1つめの運びを借りて、どこが変わるかだけを見ます。

時間の順に見てください。Cが買ったのは6月3日です。Aが取り消したのは、そのあとの7月15日です。つまり、Cが現れたのは、取消しの前です。今日は、この「取消しの前」に現れた人を扱います。取消しのあとに現れた人は、別の枠組みになるので、続きの動画に回します。
設問1

設問1です。問題文を読みます。Aは、郊外の甲土地を所有しています。時価は約3,600万円です。4月10日、不動産業者のBは、Aにこう告げました。「この一帯は来年、市の区画整理で道路予定地になり、売ろうにも買い手がつかなくなる。いまなら私が引き取る」。区画整理の計画は実際には無く、Bはそれを知りながら嘘を言いました。Aはこれを信じて、同じ日に、甲土地をBに1,500万円で売りました。B名義の所有権移転登記もされました。6月3日、BはCに、甲土地を3,400万円で売りました。Cは代金を全額払い、引渡しを受けて、資材置場として使い始めました。C名義への移転登記はまだで、登記はB名義のままです。Cは、買う前に、登記簿でBが所有者であることを確かめました。近隣の取引事例と比べて、3,400万円が相場の範囲内であることも確かめています。Bは取引実績の多い不動産業者です。Cは、AとBの間の経緯を知らず、Aにも直接は確認していません。7月15日、Aは区画整理の話が嘘だと知り、AB間の売買を取り消す旨を、Bに通知しました。AはCに対し、所有権に基づいて、甲土地の明渡しを請求しました。問いは、AはCに明渡しを請求できるか。変形は、あとで読みます。

答案は、請求の根拠から始めます。Aは、所有権に基づく返還請求として、明渡しを求めています。認められるには、Aが甲土地の所有権を持っていることが必要です。Aは、4月10日にBに売って、所有権を失いました。ところが、Bの詐欺で売ったのですから、Aは取り消せます。条文を、全文で読みます。
条文民法96条
詐欺又は強迫 第九十六条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。 2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。 3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
1項は、詐欺か強迫で意思表示をした人は、取り消せる、という定めです。2項は、第三者が詐欺をした場合の定めで、今日は使いません。今日の主役は、3項です。取消しを、善意でかつ過失がない第三者には、対抗できない、という定めです。「対抗できない」とは、その人に向かっては、言えない、ということです。もう1つ、3項に書いてある大事な語があります。「詐欺による」です。強迫による取消しには、この3項がありません。強迫の場合は、善意で過失がない第三者にも、取消しを言えます。次に、取り消すと何が起きるか。121条です。
条文民法121条
取消しの効果 第百二十一条 取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。
取り消した行為は、初めから無効だったものとして扱われます。時間を巻き戻す効果で、遡及効と呼ばれます。すると、Bは最初から、甲土地の持ち主ではなかったことになります。BがCに売った6月3日の時点でも、Bは無権利者でした。無権利者から買っても、原則として所有権は取れません。ですから、Cは原則として、甲土地を取得できず、所有権はAにある。ここまでは、Aの勝ちです。日本の登記には、公信力がありません。登記簿の名前を信じても、それだけでは持ち主になれないのです。そこで、Cを守る条文として出てくるのが、96条3項です。答案では、ここで「Cは、善意でかつ過失がない第三者として、取消しを対抗されないのではないか」と、問題を立てます。ただし、条文の文言だけでは、答えが出ない所が2つあります。1つめは、「第三者」とは誰のことか。2つめは、Cは登記を備えていないが、それでもよいのか。この2か所が、今日の解釈の山です。「善意でかつ過失がない」は、条文どおりに当てるだけです。
設問1
図:「第三者」の意義——趣旨から、取消し前に新たな法律上の利害関係を持った者
1つめの山です。「第三者」とは誰か。まず、条文の趣旨に戻ります。取消しには、遡及効があります。すると、取消しの前に、有効な契約を信じて取引に入った人が、あとから巻き込まれて、損をします。96条3項は、そういう人を守る条文です。問いを立てます。Cは、96条3項の「第三者」にあたるか。
⭐ 論文で書く規範:96条3項の「第三者」の意義 96条3項の趣旨は、取消しの遡及効により害される者を保護し、もって取引の安全を図る点にある。 そこで、96条3項の「第三者」とは、当事者およびその包括承継人以外の者であって、詐欺による取消し前に、新たな法律上の利害関係を有するに至った者をいうと解する。 (規範(通説))
1文目が趣旨です。害される者を守るのが、この条文の目的です。2文目が、そこから導かれる定義です。守る相手は、まず、当事者と、その包括承継人以外の人です。包括承継人とは、相続人のように、当事者の地位をそのまま引き継ぐ人です。当事者本人や相続人は、巻き込まれた第三者ではありません。次に、「取消し前に」です。取消しのあとに現れた人は、巻き戻しで害されたのではなく、別の問題になります。最後に、「新たな法律上の利害関係」です。「新たな」とは、AがBに売る意思表示をした、そのあとで、ということです。つまり、意思表示のあとから、取消しの前までの間に、その土地について新しく権利を持った人です。買った人や、抵当権を付けてもらった人が、これにあたります。
取消し前の第三者が含まれることに、争いはありません。ですから、答案では、ここを厚く書きません。端的に認定します。厚く書く所と、薄く流す所の配分が、答案の力になります。あてはめます。Cは、AB間の売買の当事者でも、包括承継人でもありません。6月3日にBから買っていて、これは4月10日の売買のあと、7月15日の取消しより前です。AB間の売買で生じた法律関係について、新しく利害関係を持ちました。したがって、Cは「第三者」にあたります。
設問1
図:無過失の拾い方——拾う事実、評価、当てを並べる
次は、条文どおりに当てる所です。「善意でかつ過失がない」。善意とは、詐欺があったことを知らないことです。過失がないとは、取引で求められる注意を尽くしても、詐欺の事実を知ることができなかった、ということです。言い換えると、疑うべき事情を、見落としていない、ということです。94条2項は、善意だけでよかったですよね。どうして、96条3項は、無過失まで要るんですか。本人の責任の重さが違うからです。94条2項の本人は、自分で嘘の外観を作った人です。96条3項の被詐欺者は、騙された側で、責任は小さい。その分、守る第三者には、厳しい条件を付けています。善意は、簡単です。Cは、Bの詐欺を知りませんでした。善意です。問題は、過失です。ここで、問いです。Cは、登記簿を見て、相場も確かめました。でも、Aには、直接確かめていません。これは、過失でしょうか。考えてみてください。答え合わせです。過失にはなりません。拾う事実は4つです。登記簿でBが所有者だと確かめたこと。代金3,400万円が、近隣の相場の範囲内だったこと。Bが取引実績の多い業者だったこと。Aに直接、確認していないこと。評価します。相場どおりに、業者から買っています。異常に安く買ったのではありません。区画整理の話は、AとBの間で出た話で、Cが買うときに接した説明には、出ていません。疑う契機が、ありませんでした。Aに確かめなかった点も、疑うべき事情がない以上、過失とはいえません。ですから、Cは、取引で求められる注意を尽くしています。過失がない、と当てます。
境界のすぐ外を見ます。変形です。Cが、買う前に、Bから「Aさんには1,500万円で買った。区画整理で売れなくなると信じて、急いで手放してくれた」と聞かされていたとします。それなのに、区画整理が本当にあるのか、市役所にもAにも、確かめなかったとします。市役所に問い合わせれば、計画が無いと分かりました。疑うべき事情があったのに、見落としています。過失があります。この場合、Cは「善意でかつ過失がない第三者」にあたらず、96条3項で守られません。AはCに、取消しを対抗できます。事実が1つ違うだけで、結論が反対になります。
設問1
図:登記の二つの意味——対抗要件としての登記と、権利保護資格要件としての登記
2つめの山です。Cは、まだ登記を受けていません。それでも、守られるのでしょうか。その前に、少し思い出してみましょう。解説の動画で見た、94条2項の類推適用です。他人が作った不実の登記を、知りながら放置した本人に対して、第三者が守られるとき、第三者に登記は要りましたか? その理由は何でしたか?登記は要りませんでした。本人と第三者は取り合う関係ではないことと、本人の責任が非常に大きいことが、理由でした。今日は、この2つのうち、片方の理由が変わります。どちらが変わるか、見ながら進めます。登記には、2つの意味があります。分けて考えるのが、この山の肝です。1つめは、対抗要件としての登記です。177条の登記で、同じ土地を取り合う二人のうち、どちらが勝つかを決めるものです。条文を、全文で読みます。
条文民法177条
不動産に関する物権の変動の対抗要件 第百七十七条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
二重売買が典型です。AがBにもCにも同じ土地を売った。先に登記を備えたほうが勝ちます。取り合う関係だから、登記で順位を決めるのです。2つめは、権利保護資格要件としての登記です。権利保護要件、とも呼ばれます。取り合う関係でなくても、守ってもらう資格として、登記まで済ませておく必要があるか、という意味です。今日の事例でいえば、Cが登記を移していれば守られ、移していなければ守られない、という線を引くかどうかです。条文は、この点に何も書いていません。解釈の問題です。問いを立てます。Cが登記を備えていなくても、「第三者」として保護されるか。
図:登記の要否——対抗要件としての登記と権利保護資格要件としての登記の、どちらも不要
⭐ 論文で書く規範:96条3項の「第三者」と登記の要否 この点、96条3項の「第三者」は承継取得者に近く、本人とは非両立の関係に立つものではないから(前主と後主の関係)、対抗関係には立たない。そうだとすれば、対抗要件としての登記(177条)は不要であると解される。 また、被詐欺者には詐欺されたことにつき少なからず帰責性が存する。さらに、「第三者」は善意無過失の者にすでに限定されていることからすれば、利益衡量上、権利保護資格要件としての登記も不要であると解される。 したがって、96条3項の「第三者」は、登記を具備している必要がないと解する。 (規範(対立型・不要説))
2つの段で、どちらも「不要」と言っています。1段目が、対抗要件としての登記です。AからBへ、BからCへと、続いていく関係です。CはBから買った人で、Aの持っていたものを、Bを通して受け継いでいます。AとCは、同じ土地を取り合う二人ではありません。前主と後主の関係です。ですから、対抗関係に立ちません。177条の登記は、要りません。1段目は、94条2項の類推のときと、同じ理由で説明できます。変わるのは、2段目です。2段目が、権利保護資格要件としての登記です。こちらは、釣り合いの話です。本人の責任が小さいなら、それに見合って、守られる第三者にも重い条件を課して、釣り合いを取る。登記まで求めるのは、その重い条件の1つです。94条2項では、本人の責任が非常に大きいので、第三者に重い条件は要りませんでした。96条3項の被詐欺者は、そこまで責任は大きくありません。そこで、ここでは登記を求める、という立場があります。不要の立場は、こう答えます。被詐欺者にも、少なからず責任がある。そして、重い条件は、もう課してあります。第三者を、善意でかつ過失がない人に絞ったことです。その上に、登記まで重ねて求めなくてよい。この2つを合わせて、不要と支えるのです。判例も見ます。
判例最高裁判所判決 昭和49年9月26日(民集28巻6号1213頁)
96条3項の第三者の範囲 おもうに、民法九六条一項、三項は、詐欺による意思表示をした者に対し、その意思表示の取消権を与えることによつて詐欺被害者の救済をはかるとともに、他方その取消の効果を「善意の第三者」との関係において制限することにより、当該意思表示の有効なことを信頼して新たに利害関係を有するに至つた者の地位を保護しようとする趣旨の規定であるから、右の第三者の範囲は、同条のかような立法趣旨に照らして合理的に画定されるべきであつて、必ずしも、所有権その他の物権の転得者で、かつ、これにつき対抗要件を備えた者に限定しなければならない理由は、見出し難い。 ……そうすると、被控訴会社は、以上の意味において、本件売買契約から発生した法律関係について新たに利害関係を有するに至つた者というべきであつて、民法九六条三項の第三者にあたると解するのが相当である。
事案から言います。農地を騙して買った人が、農地法の許可を条件とする所有権移転の仮登記を得ました。その人が、この権利を債務の担保として、事情を知らない人に譲り、仮登記も、その譲受人の名義に移されました。売主は、詐欺を理由に取り消して、その登記の抹消を求めました。最高裁は、その譲受人を96条3項の第三者にあたるとして、請求を退けました。仮登記は、解説の動画でも見た、本登記の順番だけを先に押さえておく、予約のような登記です。農地は、農地法の許可が無いと、所有権が移りません。許可が出るまでは、仮登記で順番だけを押さえていたのです。判旨の前半は、第三者の範囲は、趣旨に照らして合理的に決める。必ずしも、対抗要件を備えた者に限る理由は、見出し難い、と述べています。登記がなくても保護されそうに読めます。
それなら、この判例で「登記は不要」と書いていいんじゃないですか。そこは、慎重に使います。この事案の譲受人は、仮登記を移してもらってはいますが、本登記は受けていません。そして判決は、権利保護資格要件としての登記が要るかどうかを、独立には論じていません。ですから、「判例が、登記不要と言い切った」と読めるかは、読み方が分かれます。答案では、判例を決め手にしません。先ほどの2つの理由づけで書きます。判例は、第三者の範囲を趣旨から決めるという方向を、支える材料として添える程度です。なお、この判決の当時の条文は、「善意の第三者」だけでした。今は、「善意でかつ過失がない第三者」です。

あてはめます。1段目、対抗要件としての登記です。先ほどのとおり、AとCは前主と後主の関係で、対抗関係に立たないので、不要です。2段目、権利保護資格要件としての登記です。拾う事実は、Aが、区画整理の計画が本当にあるかを、市に確かめないまま、時価約3,600万円の土地を、1,500万円で売ったことです。評価します。市に確かめれば、嘘だと分かったはずです。確かめなかったのですから、詐欺に遭ったことについて、Aにも少なからず、落ち度があります。さらに、Cは、善意でかつ過失がない人に、すでに絞られています。当てます。Cは、権利保護資格要件としての登記も、備える必要がありません。Cは、登記がなくても、「第三者」として保護されます。分かれ道も、言っておきます。被詐欺者の責任が小さいことを重く見て、無過失に加えて登記まで求める立場に立てば、Cは未登記なので保護されず、結論が反対になります。
どちらの立場でも、一貫して書けばよい、と考えられています。今日は、不要の立場で組みました。
設問1

結論です。Cは、善意でかつ過失がない第三者で、登記がなくても保護されます。AはCに、取消しを対抗できません。Aの請求は、認められません。ここで、答案に要る一文が、もう1つあります。保護されたあと、所有権は、誰から誰へ移ったと書くか、です。Cが守られたら、取消しは、なかったことになるんですか。違います。96条3項は、「対抗することができない」と書いています。取消しを、なかったことにするのではありません。AとBの間では、取消しは有効なままです。変わるのは、Cとの関係だけです。Cに向かっては、取消しを言えません。ですから、Cとの関係では、Bが持ち主だったものとして扱われ、所有権は、AからB、BからCへと移った、と書きます。別の書き方もあります。Aから直接Cへ、所有権が移ったとする構成です。構成は分かれますが、答案では、1つに決めて書けば足ります。どちらを採るかで差が出るのは、取消しのあとに、さらに別の人が現れた場合です。ここは、続きの動画で扱います。変形の結論も、並べておきます。Cが疑うべき事情を見落としていたなら、Cは保護されません。Aは取消しをCに対抗でき、甲土地の所有権はAにあって、Aの請求は認められます。
設問2

設問2です。同じ型を、錯誤で確かめます。問題文を読みます。Aは、駐車場として使っている乙土地を所有しています。時価は約2,800万円です。Aは、調査会社に頼んだ土壌調査の報告書に、「土壌汚染があり、浄化に多額の費用がかかる」とあるのを信じました。報告書は誤りで、実際には汚染は無かったのです。9月1日、Aは、Bに「汚染があって浄化費用がかさむので、安くても手放したい」と話しました。Bは、それを聞いたうえで、乙土地を1,400万円で買い、B名義の所有権移転登記がされました。Bは嘘を言っておらず、Aを欺いてもいません。9月20日、Bは乙土地をCに2,700万円で売りました。Cは代金を全額払い、引渡しを受けて、駐車場として使い始めました。C名義への移転登記はまだで、登記はB名義のままです。Cは、買う前に、登記簿でB名義を確かめ、現地も見ました。Bから、「Aさんは相続した土地を整理するために手放した」と説明を受けています。代金は時価に近く、Cは、Aが何かを誤解していることをうかがわせる事情には、気づきませんでした。10月25日、Aは、別の調査会社の再調査で、報告書が誤りだったと知りました。そして、AB間の売買を錯誤を理由に取り消す旨を、Bに通知しました。AはCに対し、所有権に基づいて、乙土地の明渡しを請求しました。問いは、AはCに明渡しを請求できるか。運びは、設問1と同じです。違いは、前に、取消しが成り立つかどうかが付くことです。
請求の根拠は、所有権です。Aは、9月1日にBに売って、所有権を失いました。ここで、錯誤の取消しを、1文ずつ確かめます。条文を、全文で読みます。
条文民法95条
錯誤 第九十五条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。 一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤 二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤 2 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
ここまでが、1項と2項です。続いて、3項と4項を読みます。
条文民法95条
錯誤(3項・4項) 3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。 一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。 二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。 4 第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
取消しの成立から、1文ずつ流します。Aは、汚染があるという誤った報告書を信じて売りました。法律行為の基礎とした事情についての認識が、真実に反しています。1項2号の錯誤です。その事情は、Bに話されていました。つまり、動機を相手に伝えていたので、基礎とされていることが表示されていた、といえます。2項です。汚染が無ければ、時価約2,800万円の土地を、1,400万円で売ることはなかったはずです。この錯誤は、重要です。さらに、Aは調査会社の報告書を信じたのですから、重大な過失があるとはいえません。3項です。ですから、Aは取り消せます。取り消した行為は、初めから無効とみなされます。Bは初めから無権利者で、9月20日にCに売った時点でも、Bは無権利者でした。Cは、原則として所有権を取れません。そこで、4項です。錯誤の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に、対抗できない。96条3項と、同じ形です。

規範は、新しく立てません。96条3項で立てた規範の、条番号を読み替えて、取消しの原因を錯誤に入れ替えて、当てます。「第三者」です。95条4項の趣旨も、取消しの遡及効で害される者を守ることで、96条3項と同じです。Cは、当事者でも、包括承継人でもありません。9月20日にBから買っていて、これは9月1日の売買のあと、10月25日の取消しより前です。「第三者」にあたります。善意でかつ過失がない、です。Cは、Aが誤った報告書を信じて手放したことを、知りませんでした。善意です。過失はどうか。拾う事実は、登記簿でB名義を確かめたこと。現地を見たこと。代金2,700万円が、時価に近いこと。Bから、相続した土地を整理するため、と説明を受けたこと。Aの誤解をうかがわせる事情は、何も無かったことです。疑うべき事情が無いのですから、Cは、取引で求められる注意を尽くしています。過失がありません。登記です。Cは未登記です。ここでも、2段で考えます。1段目、対抗要件としての登記は、設問1と同じです。AとCは前主と後主の関係で、対抗関係に立ちません。不要です。2段目、権利保護資格要件としての登記です。ここが、変わる所です。ここで、問いです。錯誤は、詐欺より、表意者の責任が大きい場面です。これは、登記が要らないという結論を、強めますか。弱めますか。考えてみてください。答え合わせです。不要の理由は、むしろ強まります。94条2項の本人と比べれば、錯誤者の責任も小さい側です。だから第三者には、無過失まで求められています。それでも、詐欺と比べれば、Aが錯誤に陥ったのは、A自身の認識の誤りによるもので、Bが働きかけたのではありません。欺かれた場合より、責任が大きいのです。しかも、Cは、善意でかつ過失がない人に、すでに絞られています。ですから、Cは、権利保護資格要件としての登記も、備える必要がありません。
結論です。AはCに、取消しを対抗できません。乙土地の所有権は、AからB、BからCへと移ったことになります。Aの請求は、認められません。設問2で、変わったのは3つです。前に、取消しの成立が付いたこと。条文が、95条4項になったこと。そして、詐欺と比べて、錯誤者の責任が大きいことです。第三者の枠組みは、変わりません。
完成答案
図:完成答案① 第1 設問1——AのCに対する明渡請求
ここまでを、答案の形にしました。動画を止めて、見てみてください。まず、設問1の前半です。取消しで原則Cが取れない所から、「第三者」の意義までです。
図:完成答案①
- 続き
- 第1 設問1——AのCに対する明渡請求(善意でかつ過失がない)
続きです。善意と、過失がないことを、事実から当てているところを、確かめてください。
図:完成答案② 第1 設問1——AのCに対する明渡請求(登記の要否)
設問1の後半です。登記を、2段に分けているところを、確かめてください。
図:完成答案②(続き) 第1 設問1——AのCに対する明渡請求(結論から変形まで)
続きです。結論の書き方と、変形で過失ありに変わるところを、確かめてください。
図:完成答案③ 第2 設問2——AのCに対する明渡請求
設問2です。取消しの成立を、1文ずつ流しているところを、確かめてください。
図:完成答案③(続き) 第2 設問2——AのCに対する明渡請求(95条4項の規範)
続きです。95条4項の規範が、96条3項と同じ形で書かれているところを、確かめてください。
図:完成答案③(続き) 第2 設問2——AのCに対する明渡請求(あてはめと結論)
設問2の後半です。あてはめと結論を、確かめてください。
今日の地図(保存版)

最後に、答案の運びを、1枚の図で確かめます。請求は、所有権に基づく返還。取消しで、初めから無効になり、Bは無権利者、Cは原則取れない。ここまでが、原則です。そこから、「第三者」にあたるか。取消し前なので、端的に認定します。次に、善意でかつ過失がないか。疑うべき事情を、見落としていないかを、事実から拾います。そして、登記は要るか。2つの意味に分けて、どちらも不要と書きます。結論は、取消しをCに対抗できず、所有権は、AからB、BからCへと移ります。錯誤でも、取消しの成立が前に付くだけで、運びは同じです。ここまでは、Cが、取消しの前に現れた場合でした。では、Aが取り消した後に、Bが別の人に転売したら、どうでしょう。その人は、96条3項や95条4項の、条文の外にいます。そこでは、今日見た177条のように、登記を先に備えたほうが勝つ、という別の枠組みを使います。続きの動画で、見ていきましょう。
参照条文
- 民法96条
- 民法121条
- 民法177条
- 民法95条