民法ゼロから民法 論文

取消しと第三者②(取消し後の第三者)

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ゼロから民法 論文/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

事例

【事例】取消しの後に現れたC——Bから買ったCに、取消しをしたAが「返せ」と言う 図:【事例】取消しの後に現れたC——Bから買ったCに、取消しをしたAが「返せ」と言う

前編では、取消しの前に現れた第三者を扱いました。今日は、取消しの後に現れた第三者です。Cは、建築会社を営むBから、建ててから年数のたった丙建物を2,300万円で買いました。代金は全額払い、引渡しも受けて、店舗として使っています。買う前に、登記簿でBが所有者であることも確かめました。ところが、元の持ち主のAが現れて言います。「Bに騙されて売った。取り消したから、建物を返せ」。形はほとんど同じです。違いは1点だけ。Cが買ったのが、Aの取消しの前か後か、です。前編では、Cは取消しの前に買っていました。だから96条3項という条文で、守れるかどうかを確かめました。今日のCは、取消しの後に買っています。

設問1の時系列——3月6日にAがBへ売却、5月20日にAが取消し、6月10日にBがCへ売却、6月12日にC名義へ登記

時間の順に見てください。3月6日にAがBに売り、5月20日にAが取り消しました。Cが買ったのは、そのあとの6月10日です。登記がC名義になったのは、6月12日です。取消しの線の右側にCがいる。これが前編との差です。条文が使えないなら、Cは守られないんですか。そこが今日の山です。条文の外にいる人を、どんな考え方で守るのか、あるいは守らないのか。答えを先に言うと、取消しの後のCは、善意かどうかではなく、先に登記を備えたかどうかで決まります。答案の中で解釈が要るのは、ここ1か所です。

設問1

設問1の時系列——3月6日にAがBへ売却、5月20日にAが取消し、6月10日にBがCへ売却、6月12日にC名義へ登記

設問1です。問題文を読みます。Aは、建ててから年数のたった2階建ての丙建物を所有しています。店舗兼住宅で、時価は約2,400万円です。3月6日、建築会社を営むBは、Aにこう告げました。「丙建物は土台がシロアリに食われていて、いつ傾いてもおかしくない。直すにも壊すにも数百万円かかる。いまなら私が引き取る」。Bは、事前に点検して土台に傷みが無いと知りながら、嘘を言いました。Aはこれを信じて、同じ日に、丙建物を代金800万円でBに売りました。B名義の所有権移転登記もされました。5月20日、Aは、別の建築士の調査で土台に問題が無いと知りました。そして、AB間の売買を詐欺を理由に取り消す旨を、Bに通知しました。Aは、その後も、登記を自分の名義に戻す手続をとっていません。6月10日、Bは丙建物をCに代金2,300万円で売りました。Cは代金全額を支払って引渡しを受け、店舗として使い始めました。Cは、買う前に登記簿でBが所有者であることを確かめました。AB間の経緯も、取消しも、知りませんでした。6月12日、BからCへの所有権移転登記がされました。6月30日、AはCに対し、所有権に基づいて丙建物の明渡しを請求しました。問いは、AはCに明渡しを請求できるか。変形は、あとで読みます。

原則から反転の入口へ——取消しで初めから無効、Bは無権利者、Cは原則取得できない、しかし不都合

答案は、請求の根拠から始めます。Aは、所有権に基づく返還請求として、明渡しを求めています。認められるには、Aが丙建物の所有者であることが必要です。Aは、3月6日の売買で、いったん所有権をBに移しています。ここで「いったん」と書くことを、覚えておいてください。あとで効いてきます。ただ、Bの詐欺で売ったのですから、Aは取り消せます。取り消すとどうなるか。121条です。

条文民法121条

取消しの効果 第百二十一条 取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。

取り消した行為は、初めから無効だったものとして扱われます。時間を巻き戻す効果で、遡及効と呼ばれます。すると、AB間の売買は、初めからなかったことになります。BがCに売った6月10日の時点でも、Bは無権利者でした。無権利者から買っても、原則として所有権は取れません。ですからCは、原則として丙建物を取得できず、所有権はAにある。ここまでは、Aの勝ちです。日本の登記には公信力がありません。登記簿の名前を信じても、それだけでは持ち主になれないのです。だからこそ、Cを守る別の根拠が要ります。

設問1

96条3項は取消しの前だけ——取消しの前に利害関係に入った人を守る条文、Cは取消しの後

取消しをした人に対して、買主を守る条文といえば、96条3項です。その前に、前編を思い出してみましょう。取消しの前に現れたCは、96条3項で守られるのに、どんな条件が要りましたか? 登記は要りましたか?善意でかつ過失がないことが要りました。登記は、要りませんでした。では、その3項を読みます。

条文民法96条

詐欺又は強迫(3項) 3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

問題は、この「第三者」が誰かです。前編で見たとおり、3項の趣旨は、取消しの遡及効で害される人を守ることです。だから「第三者」は、取消しの前に、新しく利害関係に入った人に限られます。Cが買ったのは、5月20日の取消しの後です。取消しで巻き戻される前の世界で取引した人ではありません。遡及効で害される人ではないので、3項の「第三者」にあたりません。ですから、条文では守れません。ただし、守られないと決まったのではありません。別の枠組みが要る、ということです。

設問1

取消し後の第三者——取り消すまでは有効、取消しでBからAへ復帰、Bを起点に2本の流れ、先に登記を備えた方が勝つ

問いを立てます。取消しの後に現れたCは、どのような法律構成で保護されるか。考える出発点は、先ほどの「いったん」です。取り消すまでは、AB間の売買は、有効でした。

⭐ 論文で書く規範:取消し後の第三者の法律構成 この点、取り消すまでは意思表示は有効であるから、取消しにより、相手方から取消権者への復帰的物権変動が生じたといえる。 そこで、178条(不動産なら177条)の趣旨にかんがみ、取消後の第三者は、引渡し(登記)を受けた場合には保護されると解する。 (規範(対立型・復帰的物権変動の構成))

1文目から順にたどります。取り消すまでは、売買は有効です。だから、3月6日に、所有権は確かにAからBへ移っています。5月20日に取り消すと、その所有権が、BからAへ戻ります。これが、解説の回で見た、復帰的物権変動です。一度Bに移った権利が、取消しでAに戻ること、と言い換えられます。取り消すまでは、売買は有効に成立していたからです。その有効な売買で動いた権利が、取消しによって戻る、と見るのです。ここで図を見てください。Bを起点に、道が2本あります。1本は、取消しでAへ戻る道。もう1本は、6月10日の売買でCへ進む道です。同じ起点から、2人に向かって権利が動いています。

取消しで、建物はAに戻ったんですよね。Bは、どうして、まだCに売れるんですか。登記が、B名義のまま残っているからです。Aへの戻りは、登記を戻すまでは、第三者との関係では、まだ不完全です。Bのもとにも、処分できる立場が残ります。Bが、同じ建物を、AとCの二人に譲ったのと同じ形、つまり二重譲渡の形です。同じ物を二人が取り合う関係は、不動産なら177条、動産なら178条の対抗問題です。だから、先に登記(動産は引渡し)を備えた方が保護される。登記や引渡しは、先に立てた方が勝つ旗のようなものです。2文目は、その結論です。決め手は2つです。1つは、登記という画一的な物差しで決められて、取引の安全に役立つこと。もう1つは、Aは取り消した後、すぐ登記を自分に戻せたことです。

取消しの前のCと、取消しの後のCで、何が変わるんですか。比べてみます。取消しの前のCは、善意でかつ過失がないかどうかで決まりました。登記は要りませんでした。取消しの後のCは、善意かどうかではなく、先に登記を備えたかどうかで決まります。ここで要る登記は、前編で分けた2つのうち、対抗要件としての登記です。取消しの直前に買った人が、登記を持たずに守られたとします。取消しの直後に買った人は、先にAが登記を戻せば負けます。買った日が数日違うだけで、物差しが入れ替わります。取消しの線が、分かれ目です。反対の考え方も、1つだけ触れておきます。取消しの遡及効を貫いて、取消しの後の取引も、他人のものの売買だとみる立場です。この立場だと、不動産は94条2項の類推で、動産は即時取得で保護するかどうかを考えます。判例も、取消しの後の第三者との関係は、登記の先後で決めています。今日は、この判例の筋で組みます。

設問1

登記の先後——Aは取消し後も登記を戻さず、Cは6月12日に登記、先に登記を備えたのはC

ここで、問いです。Aは取り消しました。でも、登記はB名義のままです。そのあと、BがCに売って、Cが先に登記を備えました。誰が勝つでしょうか。考えてみてください。答え合わせです。Cです。条文を、全文で読みます。

条文民法177条

不動産に関する物権の変動の対抗要件 第百七十七条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

登記をしなければ、第三者に対抗できない。ですから、AとCは、登記で順位を決める関係になります。まず、Cが「第三者」にあたるか。177条の「第三者」とは、当事者とその包括承継人以外で、登記がないことを主張する正当な利益がある人です。Cは、AB間の売買の当事者でも、包括承継人でもありません。丙建物の所有権を買って取得した人で、Aの登記がないことを主張する正当な利益があります。「第三者」にあたります。あてはめます。拾う事実です。Aは、5月20日に取り消しましたが、登記はB名義のままで、戻す手続もとっていません。Cは、6月10日に買い、6月12日に、BからCへの登記を備えました。評価します。不動産の優劣は、登記という、外から見える形で決まります。Aは、取消しの後に、すぐ登記を戻せたのに、戻しませんでした。当てます。先に登記を備えたのは、Cです。したがって、CはAに、丙建物の所有権の取得を対抗できます。Aは所有権を失っており、明渡しの請求は認められません。

設問1

登記先後の反転——Aが6月11日に先に登記すればAの勝ち、Cが取消しを知っていても結論は同じ

変形を2つ見ます。1つめです。Aが、6月11日に、Bの協力を得て、登記をB名義からA名義に戻していたとします。Cは、登記を備えられませんでした。同じ取引なのに、結論が変わるんですか。変わります。先に登記を備えたのは、Aです。Cは、取得をAに対抗できません。Aの請求は認められます。取消しの事実は変わらないのに、登記の先後で、結論が反転します。2つめです。Cが、買う前に、Bから「Aさんは取り消すと言っているが、登記は私の名義のままだから大丈夫だ」と聞かされていたとします。登記は、6月12日のままです。

前編のCなら、守られませんでした。善意でかつ過失がない人だけが、守られるからです。ですが、取消しの後のCは、善意かどうかで決まりません。177条は、自由な競争の範囲で、取引の安全を図る規定です。ここでの競争は、AとCの、どちらが先に登記を備えるかの競争です。Aは、取り消したあと、いつでも登記を戻せました。Cは、取消しを知っていても、先に登記を備えました。知っていただけで負けるなら、登記で順番を決める意味がなくなります。だから、悪意の人も「第三者」にあたります。ただし、自由競争の範囲を逸脱して、信義則に反するほどの人、たとえば、相手を害する目的で買った人は別です。Cは、通常の取引として、2,300万円を払って買っただけです。Aを害する目的は、ありません。結論は変わらず、先に登記を備えたCが勝ちます。この背信的悪意者の話は、深く立ち入りません。

設問2

設問2の関係図——7月8日にAがBへ売却、8月20日にAが取消し、8月25日にBがCへ売却、8月30日にBがAへ返す

設問2です。今度は、動産で確かめます。取消しの原因は、制限行為能力です。問題文を読みます。Aは、7月8日、17歳のときに、親権者の同意を得ないまま、自分の腕時計を、Bに代金25万円で売りました。この腕時計を、本件時計と呼びます。時価は約60万円です。Aは、同じ日に、本件時計をBに引き渡しました。Aは8月に18歳になり、8月20日、Bに対し、未成年者のときにした売買だから取り消すと伝え、本件時計を返すよう求めました。8月25日、BはCに、本件時計を代金50万円で売り、Cは代金全額をBに支払いました。BとCは、「本件時計は9月末にCへ持っていく。それまではBが預かっておく」と約束しました。Cは、AB間の事情を知りませんでした。8月30日、Bは、Aの求めに応じて本件時計をAに返し、Aはこれを受け取りました。9月5日、CはAに対し、所有権に基づいて、本件時計の返還を請求しました。Aの代金返還の問題は、考えません。問いは、CはAに返還を請求できるか。変形は、あとで読みます。

未成年者の取消し——同意の無い売買は取り消せる、取り消すと初めから無効、Bは無権利者

今度は、請求する側がCです。Cの所有権は、AB間とBC間の、二つの売買から来ています。これに対して、Aが反論します。17歳のとき、親権者の同意なしに売った、と。5条です。

条文民法5条

未成年者の法律行為 第五条 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。 2 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。

同意のない売買は、取り消せます。Aは、すでに18歳ですが、売ったのは17歳のときです。行為のときに未成年者だったAが、取消権者です。120条1項で、取り消せます。8月20日に取り消すと、売買は初めから無効です。121条です。Bは、8月25日にCに売った時点でも無権利者でした。Cは、原則として所有権を取れません。そして、取消しの後に現れたCについては、制限行為能力による取消しでも、同じ枠組みで考えます。取り消すまでは売買は有効で、取消しでBからAへ復帰する。BからCへの売買と、二つの流れが出る。対抗問題です。ただし、動産なので、対抗要件は登記ではありません。引渡しです。

設問2

動産の対抗要件——178条は引渡し、占有改定は183条、外から見えなくても占有権を取得する

動産の対抗要件は、何でしょうか。現実の引渡しだけでしょうか。まず、条文を読みます。

条文民法178条

動産に関する物権の譲渡の対抗要件 第百七十八条 動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない。

引渡しがなければ、第三者に対抗できません。取消しの後の第三者は、先に引渡しを受けた方が保護される。さきほどの枠組みを、動産に置き換えただけです。問題は、Cが受けた引渡しの中身です。Cが受けたのは、Bが9月末まで預かる、という約束だけです。本件時計は、現実には、ずっとBの手元にあります。これでも「引渡し」といえるでしょうか。考えてみてください。答え合わせの前に、条文を読みます。解説の回で見た、占有改定です。

条文民法183条

占有改定 第百八十三条 代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したときは、本人は、これによって占有権を取得する。

占有改定とは、Bが「以後Cのために預かります」と言うことです。物は動かないのに、Cは、占有権を取得します。見た目は、何も変わりません。旗が箱の中にしまわれていて、外から見えないだけです。旗を立てたことには、変わりありません。判例を見ます。

判例最高裁判所判決 昭和30年6月2日(民集9巻7号855頁)

占有改定と対抗要件 売渡担保契約がなされ債務者が引き続き担保物件を占有している場合には、債務者は占有の改定により爾後債権者のために占有するものであり、従つて債権者はこれによつて占有権を取得するものであると解すべきことは、従来大審院の判例とするところであることも所論のとおりであつて、当裁判所もこの見解を正当であると考える。 ……上告人(被控訴人)は昭和二六年三月一八日の売渡担保契約により本件物件につき所有権と共に間接占有権を取得しその引渡を受けたことによりその所有権の取得を以て第三者である被上告人に対抗することができるようになつたものといわなければならない。

事案から言います。映画館の設備を、借金の担保として売り渡す形にして、債務者がそのまま使い続けていました。担保を受けた債権者が、その所有権を第三者に対抗できるかが争われました。最高裁は、占有改定により占有権を取得し、所有権の取得を第三者に対抗できるとして、原判決を破棄して差し戻しました。判旨は、債務者が引き続き占有する場合でも、占有改定で債権者は占有権を取得し、引渡しを受けたことで所有権の取得を対抗できる、と言っています。判旨の「間接占有権」は、人に預けて、その人を通して持っている形の占有のことです。

事案は売渡担保です。ですから、そのまま売買に当てるのではありません。183条の理由づけと合わせて使います。占有改定のあと、Bは、時計を、Cのために預かって持っています。Cは、Bを通して、時計を持っている扱いになる。これが、占有権を取得する、ということです。物を支配する立場がCに移る点では、現実の引渡しと変わりません。だから、178条の「引渡し」に含めて差し支えない。この理由づけがあるから、売買にも広げられます。

設問2

引渡しの先後——8月25日にCが占有改定、8月30日にAが現実の引渡し、先に引渡しを受けたのはC

ここで、問いです。いま、本件時計を持っているのは、Aです。それでも、Cが勝つことはあるでしょうか。考えてみてください。答え合わせです。あります。あてはめます。拾う事実です。8月25日、BとCは、Bが9月末まで本件時計を預かる、と約束しました。これは、Bが自分の占有する時計を、以後Cのために占有する意思の表示で、Cは占有改定で引渡しを受けました。Aは、8月30日に、Bから現実の引渡しを受けて、いま本件時計を持っています。評価します。占有改定は、外から見えません。でも178条の引渡しです。178条が見るのは、現に持っているかどうかではなく、どちらが先に引渡しを受けたかです。Aの引渡しは8月30日で、Cの引渡しの8月25日より、後です。当てます。先に引渡しを受けたのは、Cです。CはAに、所有権の取得を対抗できます。Cは所有者で、Aは権原なく占有しているので、Cの請求は認められます。

設問2

178条の引渡しと192条の占有——占有改定は178条では引渡しにあたるが192条では占有を始めたにあたらない

変形を見ます。Aが、8月21日、Bとの間で「本件時計は、これからBがAのために預かる」と合意したとします。時計は、そのままBのもとにあり、8月25日のBCの約束は同じです。AがCに対し、時計の所有権が自分にあることの確認を求めたとします。Aは、8月21日に占有改定で引渡しを受けています。Cの8月25日より前です。先に引渡しを受けたのは、Aです。Aは、取消しによる所有権の回復を、Cに対抗できます。即時取得の条文を、見ます。

条文民法192条

即時取得 第百九十二条 取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。

「占有を始めた」が要ります。192条は、本当の持ち主から権利を奪うことを、正当化する条文です。だから、外から見て、それまでの占有の状態が変わるほどの占有の取得が要ります。Cは、占有改定を受けたにとどまり、時計は終始Bのもとにあって、外から見た様子は変わっていません。ですから、占有を始めたといえず、Cは即時取得もできません。Aの確認請求は認められます。ここが、見分けどころです。178条の「引渡し」は、占有改定でも足ります。178条は、同じ物を争う者どうしの順番を決めるだけだからです。192条の「占有を始めた」は、占有改定では足りません。この違いは、即時取得の解説の回で見たとおりです。

完成答案

完成答案① 第1 設問1——AのCに対する明渡請求(問題の所在から96条3項の外まで) 図:完成答案① 第1 設問1——AのCに対する明渡請求

ここまでを、答案の形にしました。動画を止めて、見てみてください。まず、設問1の前半です。取消しで原則Cが取れない所と、96条3項が使えない所を、確かめてください。

完成答案② 第1 設問1——AのCに対する明渡請求(取消後の第三者の保護と規範) 図:完成答案② 第1 設問1——AのCに対する明渡請求(取消後の第三者の保護と規範)

続きです。規範の太字と、そのあとの一文を、確かめてください。

完成答案③ 第1 設問1——AのCに対する明渡請求(あてはめから結論まで) 図:完成答案③ 第1 設問1——AのCに対する明渡請求(あてはめから結論まで)

設問1の後半です。登記の先後を、事実から当てているところを、確かめてください。

完成答案④ 第1 設問1——AのCに対する明渡請求(変形) 図:完成答案④ 第1 設問1——AのCに対する明渡請求(変形)

変形です。Aが先に登記した場合と、Cが取消しを知っていた場合を、確かめてください。

完成答案⑤ 第2 設問2——CのAに対する返還請求(問題の所在) 図:完成答案⑤ 第2 設問2——CのAに対する返還請求(問題の所在)

設問2です。Cは原則として取れない、というところから問題を立てているのを、確かめてください。

完成答案⑤ 第2 設問2——CのAに対する返還請求(取消後の第三者の保護と規範) 図:完成答案⑤ 第2 設問2——CのAに対する返還請求(取消後の第三者の保護と規範)

復帰的物権変動から178条へつなぎ、占有改定も「引渡し」にあたる、としているところを、確かめてください。

完成答案⑤ 第2 設問2——CのAに対する返還請求(あてはめから結論まで) 図:完成答案⑤ 第2 設問2——CのAに対する返還請求(あてはめから結論まで)

占有改定を事実から拾って、引渡しの先後を当てているところを、確かめてください。

完成答案⑥ 第2 設問2——CのAに対する返還請求(変形) 図:完成答案⑥ 第2 設問2——CのAに対する返還請求(変形)

変形です。192条の占有を始めたにあたらない理由を、確かめてください。

今日の地図(保存版)

答案の運び——請求、取消しと遡及効、96条3項の外、復帰的物権変動、177条と178条の先後、結論

最後に、答案の運びを、1枚の図で確かめます。請求は、所有権に基づく返還。「いったん」Bに移ったあと、取消しで初めから無効になり、Bは無権利者、Cは原則取れない。ここまでが、原則です。そこから、96条3項は取消しの前だけなので、取消しの後のCは外にいる、と書きます。次に、取り消すまでは有効で、BからAへ復帰的物権変動が起きる、と規範を立てます。あてはめでは、不動産なら登記、動産なら引渡しの先後を、事実から拾います。占有改定も引渡しです。結論は、先に備えた方が勝ちます。では、取消しの前に買った人と、取消しの後に買った人が、同じ物をめぐってぶつかったら、どうなるでしょうか。

参照条文

  • 民法121条
  • 民法96条
  • 民法177条
  • 民法5条
  • 民法178条
  • 民法183条
  • 民法192条

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