民訴ゼロから民訴#29

同じ裁判を二度はできない——訴訟係属と二重起訴の禁止

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第1章 訴訟の開始 ㉙/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

訴訟係属とは何か——送達で始まる

訴訟係属の定義と発生時点の板(訴えが提起され、訴状審査を経て事件が受理され、特定の裁判所で当事者間の特定の事件が審判される状態を訴訟係属という。発生時点は訴状が被告に送達された時。提出した時ではない) 図:訴訟係属の定義と発生時点の板

まず、今日の主役になる言葉を確認します。「訴訟係属」です。ある事件が、特定の裁判所で、当事者どうしの争いとして、現に審理されている状態のことです。訴状を提出した時点で、もう係属していると思われがちですが、そこが間違えやすいところです。訴訟係属が始まるのは、訴状を提出した時ではありません。訴状が、被告に送達された時です。訴状を出してから、裁判長の審査を経て、受理され、相手に届く。この最後の一歩で、初めて係属が生まれます。訴訟は、原告と被告が裁判所をはさんで向き合う形で進みます。被告が訴えの存在を知らないうちは、その向き合う関係が、まだできていません。送達で初めて、被告に、応じるかどうかを決める機会が開きます。そこから先が、争いとして現に審理されている状態です。前回、訴状が相手に届いたことにするやり方を見ましたが、どんな形がありましたか?

手渡しのほか、同居の人に渡す形、正当な理由なく拒まれたときに置いてくる形、発送で足りる形、それに掲示による形と、システムを使う形でした。あの手続の線が、ここで初めて効果に変わります。

訴訟係属の2つの効果、そして2つの基準時

訴訟係属の効果の板(実体法上の効果=時効の完成猶予。訴訟法上の効果=関連裁判籍7条・重複訴訟の禁止142条。時効の完成猶予の基準時は訴え提起の時。訴訟係属の発生時点である送達の時とは異なる) 図:訴訟係属の効果の板

訴訟係属が生まれると、2種類の効果が発生します。1つは、実体法上の効果です。時効の完成が、猶予されます。時効が完成してしまうことを防ぐための効果が、時効の完成猶予です。

条文民法147条1項

民法第147条第1項柱書・第1号(裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新) 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。 一 裁判上の請求

ここで、注意してほしいことがあります。この時効の完成猶予は、訴えを提起した時から生じます。時効の完成猶予の基準時と、送達の時は、別物です。訴訟係属そのものが始まるのは送達の時。時効の完成猶予が始まるのは、訴えを提起した時。同じ回の中に、基準時が2つ出てきます。ここを混ぜないでください。提起した時点で、権利を行使する意思は、もう裁判所に表れているからです。送達が遅れたことの不利益を、原告に負わせる必要はありません。もう1つは、訴訟法上の効果です。1つは、関連裁判籍。すでに係属している訴訟に関連づけて、別の請求についても管轄が認められる制度です。条文は7条ですが、中身はすでに扱った管轄の回のものと同じです。もう1つが、今日の本題、重複訴訟の禁止です。142条に定めがあります。

142条——なぜ、重ねて訴えられないのか

142条の要件・趣旨・効果の板(裁判所に係属する事件について、当事者はさらに訴えを提起できない。趣旨は3つ。審理の重複による訴訟不経済・被告の応訴負担・矛盾した判決による混乱の防止。効果は後訴の却下) 図:142条の要件・趣旨・効果の板

ここで、さきほどの事案に戻ります。AがBに100万円を貸し、返してもらえないので、東京地方裁判所に返還を求める訴えを起こした。その裁判が続いている間に、同じ100万円で水戸地方裁判所にも訴えた——この形でした。条文を見てみましょう。

条文民事訴訟法142条

民事訴訟法第142条(重複する訴えの提起の禁止) 裁判所に係属する事件については、当事者は、更に訴えを提起することができない。

短いですが、この後の話は全部、この条文の読み方にかかっています。まず、なぜこの禁止があるのか。理由は3つあります。1つ目は、同じ事件を2つの裁判所が審理すると、労力が重複して、訴訟経済に反すること。2つ目は、被告が2つの手続に応じなければならず、負担が増えること。3つ目は、両方の裁判所が違う判断をしてしまうと、矛盾した2つの判決が生まれかねないことです。だから、効果はこうなります。重ねて提起されたほうの訴え、つまり後から出した訴えを、不適法として却下します。先に生きている手続をそのまま使えば足りるので、後から割り込んだほうを消す、という考え方です。冒頭のAで言えば、先に起こした東京地裁の訴えは残り、後から起こした水戸地裁の訴えが却下されます。

同じ事件とは何か——当事者の同一性

当事者の同一性の板(142条の係属する事件とは、当事者と請求の双方が同一の事件をいう。原告と被告の地位が入れ替わっていても当事者は同一とみる。115条1項により確定判決の効力を受ける者も当事者と同一に扱う) 図:当事者の同一性の板

ここまでは「同じ事件」という言葉を、当たり前のように使ってきました。ここからは、何をもって同じ事件とみるかを、正確に見ていきます。事件の同一性は、当事者が同じかどうかと、請求が同じかどうか、この両方で判断します。AがBを訴えている間に、Bのほうから、Aを訴え返したとします。原告と被告が、入れ替わっています。原告と被告の立場が入れ替わっても、別の事件にはなりません。当事者は同一とみます。両方の手続が最後まで進んでしまうと、片方はAの言い分を認め、もう片方はBの言い分を認める、という矛盾した判決が出かねないからです。立場が入れ替わっていても、同じ紛争を裏表から見ているだけなら、当事者は同一です。さらに、当事者の同一性は、もう一歩広がります。

条文民事訴訟法115条1項

民事訴訟法第115条第1項(確定判決等の効力が及ぶ者の範囲) 確定判決は、次に掲げる者に対してその効力を有する。 一 当事者 二 当事者が他人のために原告又は被告となった場合のその他人 三 前二号に掲げる者の口頭弁論終結後の承継人 四 前三号に掲げる者のために請求の目的物を所持する者

中身の詳しい話は、別の回で扱います。今日は、この条文が言っていることを、1つだけつかんでおいてください。訴訟の当事者になっていなくても、確定判決の効力を受ける立場にある人は、当事者と同じに扱われる、ということです。そういう場面が、実際にあります。債権者代位訴訟です。

債権者代位訴訟の関係図(債権者Cは、債務者Dが第三債務者Fに対して持つ債権を、Dに代わって行使し、Fを訴えることができる。この訴訟の判決効は、115条1項2号によりDにも及ぶ) 図:債権者代位訴訟の関係図

債権者Cが、債務者Dの代わりに、第三債務者Fを訴える場面です。Dが持っている、Fに対する債権を、Cが代わりに行使します。この訴訟の判決の効力は、115条1項2号によって、Dにも及びます。だからこそ、115条によって、Dは当事者と同一に扱われます。もし、Cの訴訟が係属している間に、Dが自分でFを訴えたら、どうなるでしょうか。当事者の同一性が認められ、二重起訴にあたります。これが、いまの通説の理解です。なお、以前は、代位訴訟が始まると、Dは自分の権利について処分ができなくなる、という理由づけもありました。ただ、いまの民法では、Dは代位訴訟の途中でも、自分で取り立てたり処分したりできます。ですから、いまは、判決効がDにも及ぶこと、この一点で説明します。

同じ事件とは何か——請求の同一性

請求の同一性の板(かつては訴訟物が同一かどうかで判断していた。冒頭のAB間の貸金返還請求は、この典型例。訴訟物の範囲は旧訴訟物理論と新訴訟物理論で異なり、新訴訟物理論のほうが範囲は広くなる) 図:請求の同一性の板

当事者が同じでも、争っている中身が別なら、二重起訴にはなりません。そこで、請求の同一性を見ます。かつては、請求の同一性も、訴訟物が同一かどうかで判断していました。冒頭のAとBの話が、まさにこれです。同じ100万円の返還を求める訴訟物が、東京と水戸に、そのまま重なっています。ただ、これは分かりやすい典型例で、実際には、両方の訴えの請求がぴったり重なる場面のほうが、むしろ稀です。訴訟物の範囲そのものが、旧訴訟物理論と新訴訟物理論のどちらに立つかで変わってくるからです。ひとまとめに数えるほうが、訴訟物1個の幅が広くなるので、別の訴えと重なる場面も増えるわけです。一般に、新訴訟物理論のほうが、訴訟物をまとめて広く捉えるので、そのぶん、二重起訴にあたる範囲も広くなります。

争点共通型への拡張の板(訴訟物が異なっていても、請求の基礎や主要な争点が共通し、紛争が実質的に同一といえる場合には、142条の禁止範囲を広げる近時の傾向がある) 図:争点共通型への拡張の板

さらに、近時は、もう一歩踏み込む考え方も出てきています。訴訟物は異なっていても、請求の基礎や、審理の中心になる争点が共通していれば、142条の禁止の範囲に含めていく傾向です。その訴えのもとになっている、事実関係のまとまりのことです。

売買契約の争点共通型の関係図(売主Xは買主Yに対して売買代金請求訴訟を提起し係属中である。その最中に、買主Yが売主Xに対して同じ売買契約に基づく目的物引渡請求訴訟を提起した。訴訟物は異なるが、売買契約が有効に成立したかという争点が共通する) 図:売買契約の争点共通型の関係図

具体例で見てみましょう。売主Xが、買主Yに対して、売買代金の支払いを求める訴訟を起こし、係属中だとします。その最中に、買主Yのほうから、同じ売買契約に基づいて、目的物を引き渡せという訴訟を起こしました。代金請求と引渡請求は、確かに訴訟物が違います。ですが、どちらの訴訟でも、売買契約がそもそも有効に成立したかどうかが、審理の中心になります。ここで両方の手続をそのまま進めると、一方は契約が有効だと認め、もう一方は無効だと判断する、といったことが起こりえます。だからこそ、この場合まで、142条の禁止範囲に含めていく近時の傾向があるんです。ただし、ここには注意が必要です。範囲だけ広げて、効果は却下、と機械的にあてはめるとどうなるでしょうか。

Yの引渡請求は、審理されないまま、却下されてしまいますね。Yは、自分の請求について、判決をもらう機会を、まるごと失います。Yにも、裁判を受ける権利があります。範囲を広げるなら、効果の面でも、却下するだけでいいのか、考える必要があります。この点を意識しながら、近時の有力な考え方では、場合によっては、次に見る併合によってバランスを取ることが視野に入ります。

同じ事件だったら、どうするか——同一手続に入れる道

冒頭に立てた問いの板(Yの目的物引渡請求は、どうなればYの裁判を受ける権利が守られるだろうか) 図:冒頭に立てた問いの板

ここからが、重複訴訟の処理の話です。ここで、142条の読み方に戻ります。もう一度、条文を見てください。「更に訴えを提起することができない」とだけ書いてあります。ただし、それは「別訴」を起こせない、という意味であって、同じ手続の中に請求を持ち込むことまで禁じているわけではありません。

条文民事訴訟法143条1項

民事訴訟法第143条第1項(訴えの変更) 原告は、請求の基礎に変更がない限り、口頭弁論の終結に至るまで、請求又は請求の原因を変更することができる。ただし、これにより著しく訴訟手続を遅滞させることとなるときは、この限りでない。

先行する訴訟の原告のほうから、請求を書き加えたり、書き換えたりできる制度です。訴えの変更といいます。訴えの変更は、142条には反しません。同じ手続の中にとどまっているので、係属は1つのままだからです。詳しい要件は、また別の回で扱います。Aが、水戸地裁に新しく訴える代わりに、東京地裁の同じ手続の中で、たとえば利息の請求を書き加えるなら、これが訴えの変更です。訴え自体は、1本のままです。

条文民事訴訟法146条1項

民事訴訟法第146条第1項(反訴) 被告は、本訴の目的である請求又は防御の方法と関連する請求を目的とする場合に限り、口頭弁論の終結に至るまで、本訴の係属する裁判所に反訴を提起することができる。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。 一 反訴の目的である請求が他の裁判所の専属管轄(当事者が第十一条の規定により合意で定めたものを除く。)に属するとき。 二 反訴の提起により著しく訴訟手続を遅滞させることとなるとき。

今度は、先行する訴訟の被告のほうから、関連する請求を持ち込む制度です。反訴といいます。たとえば、Bが東京地裁の手続の中で、Aに対して別の貸金の返還を求めたいなら、新しく訴える代わりに、反訴として持ち込めます。Xの本訴に対して、Yが反訴として引渡請求を持ち込めば、1つの手続の中で、両方の請求がまとめて審理されます。詳しい要件は、また別の回で扱いますが、今日はこの道が開かれていることを、押さえておいてください。

論文で書く規範:142条が禁じるのは「起訴」ではなく「係属」である 更に訴えを提起することを禁じているのであって、同一の訴訟手続の中で請求を追加すること(訴えの変更・反訴)までは禁じていない。禁止の対象は、同じ事件が2つの手続に分かれて生きている状態そのものにある。 (142条の読み方(この回の核心))

ここまでの話を、1つの読み方としてまとめておきます。142条が止めているのは、訴えを起こすという行為の回数ではなく、同じ事件が2つの手続として同時に生きている、という状態です。では、別々の裁判所に、すでに係属してしまっていたら、どうなるでしょうか。

別裁判所への対応の板(別々の裁判所に係属した場合、後訴裁判所は17条により前訴裁判所へ移送でき、移送を受けた裁判所は152条1項の弁論の併合によって1つの手続にまとめることができる) 図:別裁判所への対応の板

条文民事訴訟法17条

民事訴訟法第17条(遅滞を避ける等のための移送) 第一審裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合においても、当事者及び尋問を受けるべき証人の住所、使用すべき検証物の所在地その他の事情を考慮して、訴訟の著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るため必要があると認めるときは、申立てにより又は職権で、訴訟の全部又は一部を他の管轄裁判所に移送することができる。

条文民事訴訟法152条1項

民事訴訟法第152条第1項(口頭弁論の併合等) 裁判所は、口頭弁論の制限、分離若しくは併合を命じ、又はその命令を取り消すことができる。

冒頭のAとBのように、東京と水戸、別々の裁判所に係属してしまった場合です。後訴を受けた裁判所が、17条にもとづいて、前訴を審理している裁判所へ、事件を移送できます。あの17条が、ここでもう一度出てきます。そのうえで、東京地裁が、152条1項にもとづいて、2つの訴えの弁論を併合すれば、1つの手続にまとまります。訴えの変更、反訴、そして移送プラス併合。この3つの道が、142条の下でも開かれています。

それでも、縛られない——移送・併合は裁量にとどまる

裁量性の限界の板(移送も併合もあくまで裁判所の裁量であり、当事者が求めても裁判所を拘束しない。反訴が提起されても、裁判所が弁論を分離することは152条1項のもとで禁じられていない) 図:裁量性の限界の板

同じ事件なら必ず1つの手続にまとまる、と考えるのは、いちばん誤解されやすいところです。移送も、併合も、あくまで裁判所の裁量です。当事者が申し立てても、裁判所は必ずしもそれに従う必要がない、ということです。152条1項をもう一度見てください。併合だけでなく、分離も、同じ条文の中に並んでいます。一度、反訴として1つの手続に入っても、裁判所が弁論を分離することは、禁じられていません。だから、さっきの争点共通型の話を思い出してください。ですが、まとまるとは限りません。移送も併合も裁判所の裁量ですし、Yが反訴として引渡請求を出したとしても、裁判所が弁論を分離することは、152条1項のもとで禁じられていないからです。142条の禁止の範囲を広げれば、いつも審理が1つにまとまる、というわけではないんです。

争点の共通性という基準は、訴訟物のようにあらかじめ特定されているものではなく、どこまでが共通かの線引きも簡単ではありません。被告からすれば、本来、反訴にするか、別に訴えるかを自由に選べるはずなのに、範囲を広げる運用の下では、実質的に反訴を強いられる形にもなりかねません。だからこそ、裁判所には、請求や証拠がどれだけ関連しているか、別訴のままにすることが当事者にとって公平かどうかを考えて、柔軟に対応することが期待されています。併合できなくても、たとえば後訴の審理を、いったん止めておく、といった対応も含めてです。

あたらない側の例で、輪郭をつかむ

あたらない例の対比板(元本請求と利息請求は別の訴訟物であり142条にあたらない。前訴で抗弁として主張しただけの権利関係を後訴の訴訟物にすることも、原則あたらない。既判力は主文の判断にしか生じない) 図:あたらない例の対比板

ここまでは「あたる」場面を見てきました。輪郭をはっきりさせるために、こんどは「あたらない」場面を見ておきましょう。1つ目は、元本の返還請求と、利息の請求です。元本の返還請求と利息の請求は、同じ貸し借りから出ているように見えます。ですが、利息の約束は、元本の消費貸借契約とは別の特約です。訴訟物が違うので、142条にはあたりません。2つ目は、前訴で抗弁として主張しただけの権利関係を、後訴で正面から請求することです。

条文民事訴訟法114条1項

民事訴訟法第114条第1項(既判力の範囲) 確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する。

既判力は、判決の主文で判断した事項にしか生じません。抗弁として審理されただけの事項、いわゆる理由中の判断には、及ばないんです。そして3つ目は、もう見てきたとおりです。反訴と、訴えの変更。同じ手続にとどまる限り、適法です。

二重起訴の効果について、もう少し

効果の周辺の板(142条違反は職権調査事項。看過して判決が確定してもそれだけでは再審事由にならない。ただし2つの確定判決が矛盾した場合は、後に確定したほうの判決に対して再審が認められる) 図:効果の周辺の板

短答で狙われやすい、細かい知識も押さえておきましょう。142条に違反していないかは、当事者が主張しなくても、裁判所が自分で調べます。職権調査事項です。それだけでは、判決をひっくり返す理由、つまり再審事由にはなりません。

条文民事訴訟法338条1項

民事訴訟法第338条第1項柱書・第10号(再審の事由) 次に掲げる事由がある場合には、確定した終局判決に対し、再審の訴えをもって、不服を申し立てることができる。ただし、当事者が控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき、又はこれを知りながら主張しなかったときは、この限りでない。 十 不服の申立てに係る判決が前に確定した判決と抵触すること。

再審事由にならない、という原則の例外は、1つだけあります。2つの確定判決が、内容として矛盾してしまった場合です。この場合は、後に確定したほうの判決に対して、再審を申し立てることができます。条文も、前に確定した判決と抵触すること、を事由にしていて、先に確定したほうを基準に置いています。先の判決には、すでに既判力が生じていて、当事者はそれを前提に動いています。あとから食い違う判決が出たからといって先のほうを崩すと、確定した判決は動かない、という土台そのものが揺らいでしまいます。だから、先を動かさず、後を是正します。看過しただけでは動かないのに、矛盾が現実になった場合だけは動く。ここの対比が、よく問われます。

判決の前と後——既判力との対比

二重起訴と既判力の対比板(142条は判決が確定する前、事件が係属している間の重複を止める。既判力は判決が確定した後の蒸し返しを止める。同じ「一つの紛争は一つの手続で」という発想が、時間軸の前後を担っている) 図:二重起訴と既判力の対比板

最後に、今日の話を、少し先の話とつないでおきます。冒頭のAとBの事案で、時間を少し動かしてみましょう。東京地裁の裁判が、まだ続いている間に、Aが水戸地裁にも訴えた。これが、今日ずっと見てきた場面です。ここでは142条が働いて、水戸地裁の訴えを止めます。そのときは、142条は出てきません。東京地裁の裁判は、もう終わっていて、係属していないからです。何度でも訴えられるわけではありません。今度は、別の道具が蒸し返しを止めます。それが、既判力です。142条が止めているのは、判決が確定する前、事件が係属している間の重複です。

確定したあとに、また同じ内容を蒸し返すのを止めるのは、既判力という別の道具です。中身は、また先の回で扱います。どちらも発想は同じです。「一つの紛争は、一つの手続で、一度きりに決着させる」。この発想が、判決の前と後、それぞれの時期を担当する道具に分かれて、実現されているんです。

今日の地図(保存版)

今日の一本の線の板(142条が禁じるのは、二度目の起訴ではなく二度目の係属。事件の同一性=当事者×請求。同一手続に入れる道=訴えの変更・反訴・移送プラス併合。ただし移送も併合も裁量にとどまる) 図:今日の一本の線の板

今日の話を、1本の線で振り返っておきましょう。訴訟係属は、訴状が送達された時に始まります。時効の完成猶予の基準時、訴え提起の時とは、別物でした。そして、142条が禁じるのは、二度目の起訴ではなく、二度目の係属。事件が同じかどうかは、当事者の同一性と、請求の同一性、両方で見ます。請求のほうは、訴訟物の同一から、争点共通型まで、範囲を広げる傾向があります。だからといって、同一手続にまとまることが約束されているわけではありません。「142条を広げれば、それで全部解決する」という考え方は、成り立ちません。最後にもう1つ。以前扱った、一部請求の話を覚えていますか。明示された一部請求なら、残りの部分は別の訴訟物として、あとから訴えられる、という結論でした。

ここまでが、今日の1本の線です。なお、今日は訴えの提起について話しましたが、抗弁として相殺を主張することは、訴えの提起そのものではありません。では、相殺の抗弁は、二重起訴の禁止とどう関わるのか。

参照条文

  • 民法147条1項
  • 民事訴訟法142条
  • 民事訴訟法115条1項
  • 民事訴訟法143条1項
  • 民事訴訟法146条1項
  • 民事訴訟法17条
  • 民事訴訟法152条1項
  • 民事訴訟法114条1項
  • 民事訴訟法338条1項

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