民訴ゼロから民訴#10

訴えの3つの型——給付・確認・形成

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第1章 訴訟の開始 ⑩/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

3つの相談——これは、どんな訴えになるのか

3つの相談——これは、どんな訴えになる?ボード 図:3つの相談——これは、どんな訴えになる?ボード

1つ目。「Cが、中古のオートバイをDに80万円で売ったのに、Dが代金を払ってくれない。」ここからの3つは、この回だけの登場人物で見ていきます。2つ目。「祖父から譲り受けたはずの田んぼを、遠縁のFが『実は自分の土地だ』と言い出した。」3つ目。「性格の不一致で、5年前から別居している配偶者と、離婚したい。」今日の問いは、これです。この3つは、裁判所に何を書いて出すと、『訴え』になるのでしょうか。

訴えなければ裁判なし

訴えなければ裁判なし——当事者主義・処分権主義ボード 図:訴えなければ裁判なし——当事者主義・処分権主義ボード

民事訴訟には、大原則があります。訴えなければ、裁判なし、です。刑事事件なら、検察官が動きます。でも、民事訴訟は違います。私人——さっきのCやDのような当事者——が、申し立てて、はじめて動き出します。民事訴訟が扱うのは、当事者どうしが自由に処分できる権利をめぐる争いだからです。貸した金を返してもらうかどうかも、土地の所有権を主張するかどうかも——当事者自身が決めてよいことです。当事者主義の回で見た、処分権主義です。当事者が決められることは、大きく3つあります。1つ目、訴訟を提起するかどうか

2つ目、訴訟のテーマを何にして、どんな解決を求めるか。80万円を求めるのか、土地の所有権を求めるのか——それを決めるのも当事者です。3つ目は、どう終わらせるかです。判決以外の終わらせ方もあります。あの回で見た訴えの取下げ訴訟上の和解です。当事者が、自分で幕を引くこともできます。その細かい要件は、専用の回で扱います。今日の射程は、1つ目と2つ目です。この2つが分かれば、「訴え」が何かも見えてきます。

訴えの提起——訴状に書くこと

訴状に書くこと——請求の趣旨と請求の原因ボード 図:訴状に書くこと——請求の趣旨と請求の原因ボード

では、「訴える」とは、具体的に、何をすることでしょうか。裁判所に行って事情を話す、ではありません。訴状という書面を、裁判所に提出することです。手続の流れを見た回で、Aが最初に出していた、あの書面です。今日は「何を書くか」の側から見ます。条文を見てください。

条文民事訴訟法134条

民事訴訟法第134条(訴え提起の方式) 訴えの提起は、訴状を裁判所に提出してしなければならない。 2 訴状には、次に掲げる事項を記載しなければならない。  一 当事者及び法定代理人  二 請求の趣旨及び原因

1項を見てください。訴えの提起は、訴状を裁判所に提出してするのが原則です。2項を見てください。訴状に必ず書くべきことが並んでいます。大事なのは、二号です。請求の趣旨及び原因請求の趣旨は、「何について、どんな判決を求めるか」という結論部分です。オートバイの相談なら、「被告は原告に対し、金80万円を支払え、との判決を求める」という1文です。請求の原因は、その結論を支える、請求の具体的な中身です。なぜ80万円を求められるのか——オートバイを売ったのに払われていないから、という事情です。

請求の原因を、どこまで細かく書くべきかには、それ自体、議論があります。そこは、後の回に譲ります。今日、大事なのは、この請求の趣旨のほうです。この1文の文型を見るだけで、訴えの種類が分かるからです。

3つの型を、請求の趣旨の実物で見分ける

訴えの3つの型——請求の趣旨と、生まれる力ボード 図:訴えの3つの型——請求の趣旨と、生まれる力ボード

この表を見てください。訴えには、大きく3つの型があります。給付の訴え確認の訴え形成の訴えです。1つずつ、見ていきましょう。まず、オートバイの代金の話です。請求の趣旨は、こうなります。「被告は原告に対し、金80万円を支払え、との判決を求める。」これが、給付の訴えです。金銭の支払、物の引渡し、作為、不作為、意思表示——何かをさせる、あるいはさせない判決を求める訴えです。実際、民事訴訟の大部分を占めます。この判決が確定すると、何が生まれるか——さっきのおさらいですが。

判決は「何かをせよ」と命じています。従わない相手には、国の力で実現させます。だから、執行力が要るんです。ここで、少し補足します。「給付」は、お金だけではありません。物を引き渡させることも、何かをしないよう命じることも、給付です。たとえば、騒音や悪臭をやめさせる、差止めの請求です。これも給付の訴えです。登記の手続を求める請求も、実は給付の訴えです。申請するという行為を求めているからです。給付は、命令の中身がいろいろある、と覚えてください。今すぐ払えという請求と、将来の分まで求める請求の違いは、後の回で扱います。さて、ここで1つ、考えてみてください。もし、Dのほうが「もう払った」と主張したいとします。Dは、どんな訴えを起こせばいいでしょうか?

少し考えてみてください。「払う義務なんてない」と、はっきりさせる訴え——それが、確認の訴えです。「存在しない」ほうを確認するので、消極的確認と呼ばれる型です。請求の趣旨は、こうなります。「原告の被告に対する金80万円の支払債務は存在しないことを確認する、との判決を求める。」訴えるのはDですから、ここでは原告がD、被告がC——向きが入れ替わります。確認の訴えは、特定の権利や法律関係が、存在する、あるいは存在しないことを宣言してもらう訴えです。命令する訴えではないので——確認判決に、執行力はありません。

蒸し返しを禁じる力——それだけが残ります。取り立てる力は、生まれません。Dが勝っても、Cから何かを取り立てられるわけではありません。争いを、はっきりさせること自体が目的だからです。確認の訴えには、もう1つの型があります。田んぼの相談を、思い出してください。「別紙土地目録記載の田につき、原告が所有権を有することを確認する、との判決を求める。」こちらは「存在する」ほうなので、積極的確認。さっきのDの例が、消極的確認でした。ここで、1つ注意してほしいことがあります。確認の訴えは、対象がとても広がりやすい訴えです。何でも確認を求められるわけではありません。

たとえば田んぼの相談で、「相手が本当に遠縁かどうか」を確認してもらっても——田んぼの争いは、1ミリも片づきません。そこには、確認の利益という絞り込みが働きます。細かい基準は、後の回でじっくり扱います。今日は、「なんでも確認できるわけではない」ということだけ、押さえてください。最後に、3つ目の型です。離婚の相談を、見てください。「原告と被告とを離婚する、との判決を求める。」これが、形成の訴えです。既に存在している権利や法律関係を、変動させる判決を求める訴えです。発生させたり、変更したり、消滅させたりする判決です。

ここが生む力は、形成力です。届出などの、あとの手続を待つ必要がありません。判決の確定と同時に、離婚という関係が生まれます。ここまでの3つを、表のいちばん右の列で見てください。給付判決には執行力確認判決には既判力だけ形成判決には形成力さっき見た力が、ちょうど、ここに戻ってきます。請求の趣旨の文型です。「支払え」なら給付、「確認する」なら確認、「変動させる」型の言い回しなら形成。中身を覚えるより先に、文型を見る癖をつけてください。

形成の訴えは、法律の規定がある場合に限られる

形成訴訟法定主義——「変動させたいから」では通らないボード 図:形成訴訟法定主義——「変動させたいから」では通らないボード

さて、離婚の話に戻ります。ここで、1つ、大事な限定があります。形成の訴えは、法律に規定がある場合に限られます。「権利関係を変えたいから、形成の訴えを起こそう」とは言えません。これを、形成訴訟法定主義と呼びます。形成判決は、確定した瞬間に、法律関係そのものを変えてしまう力を持っています。しかも、その影響は、当事者2人だけにとどまらないことが多いんです。離婚なら子どもや親族に、会社の決議取消しなら株主全員に関わります。だからこそ、法律があらかじめ「この場面なら変動させてよい」と、要件を絞っておく必要があるんです。離婚の場合、条文を見てください。

条文民法770条

民法第770条(裁判上の離婚) 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。  一 配偶者に不貞な行為があったとき。  二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。  三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。  四 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。 2 裁判所は、前項第一号から第三号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

「性格の不一致で別居している」という相談は、四号にあたる、という主張になります。条文が、あらかじめ場面を限定しているんですね。ほかにもあります。認知の訴え、会社の設立無効の訴え、株主総会の決議取消しの訴え——いずれも、法律に根拠があります。実体法——初回に、手続法と並べて見た言葉です。その実体法の上の形成権、たとえば取消権や解除権は——意思表示だけで効果が生じます。訴えは要りません。ここを、しっかり分けてください。見分け方は、条文の書きぶりです。さっきの770条は「離婚の訴えを提起することができる」——裁判所を通せ、と書いてありました。一方、解除の条文——民法540条1項は「その解除は、相手方に対する意思表示によってする」。裁判所が出てきません。

形成の訴えと形成権——4つの違いボード 図:形成の訴えと形成権——4つの違いボード

この表を見てください。形成の訴えは、法律が認めた場合だけ、判決の確定を待って、初めて法律関係が変わります。形成権は、条文に沿って、意思表示ひとつで、その場で効果が生じます。「訴えなのか、意思表示なのか」——ここを取り違えると、答案では致命的な誤りになります。

給付の訴えの、もう1つの姿——引換給付判決

オートバイの引渡しと代金——同時履行の抗弁ボード 図:オートバイの引渡しと代金——同時履行の抗弁ボード

ここで、オートバイの話に、もう一度戻ります。Cが「金80万円を支払え」と訴えたとします。すると、Dが、こう反論しました。「まだオートバイを受け取っていない。先に払う義務はないはずだ。」物を渡す義務と、代金を払う義務です。売買のような双務契約では——どちらの義務も、相手が義務を負っているからこそ引き受けたものです。だから原則として、どちらかが先に履行しなければならない理由はありません。この主張を、同時履行の抗弁権と呼びます。この場合、裁判所は、Cの請求をそのまま全部認めるわけにはいきません。かといって、Dの言い分だけを認めて、Cの請求を全部退けるのも公平ではありません。

こういう判決になります。「被告は、原告からオートバイの引渡しを受けるのと引換えに、金80万円を支払え。」これを、引換給付判決と呼びます。Cの「無条件に払え」という請求は、100パーセントは通りませんでした。でも、「オートバイと引換えになら払え」という形で、一部は認められています。この位置づけを、一部認容判決と呼びます。引換給付判決が、なぜこの形で認められるのか、その理論的な位置づけは、少し込み入っています。そこは、後の回に譲ります。今日は、「給付の訴えには、こういう姿もある」という地図だけ、持ち帰ってください。

今日のまとめ——給付・確認・形成、3つの型

訴えの3つの型まとめ——給付・確認・形成ボード 図:訴えの3つの型まとめ——給付・確認・形成ボード

では、今日の話を、1枚に畳んでおきましょう。訴えには、大きく3つの型がありました。給付——支払え、と命じる型。確認——存在する、存在しない、を宣言する型。形成——法律関係を変動させる型。定義を丸暗記するより、実物の言い回しを見る癖をつけてください。判決の力も、もう一度、確認しましょう。給付判決には執行力確認判決には既判力だけ形成判決には形成力。今日、地図だけ置いて送ったものも、たくさんあります。訴えの中身にあたる訴訟物は、後の回です。請求の趣旨・原因をどこまで細かく特定するかも、後の回です。訴状の実物の書き方も、後の回でじっくり扱います。その訴えに判決を出す意味があるか——訴えの利益。さっきの確認の利益は、その一種です。誰が訴えれば意味があるか——当事者適格です。訴えの終わらせ方の3つ目——取下げと和解の細かい要件も、専用の回です。引換給付判決の理論的な位置づけも、後の回です。3つの力のもっと細かい中身も、それぞれ専用の回に譲ります。

ただ、1つだけ、気になることが残っていませんか。今日、こう言いましたね。形成の訴えは、法律に規定がある場合に限られる、と。では、こう聞かれたら、どう答えますか?訴えの規定はあるのに、「どういう場合に変動させてよいか」——その要件だけが、法律に書かれていない。そんな訴えがあるとしたら?実は、あるんです。形成の訴えの中に、変動の要件そのものが法律に書かれていない、という箱があります。今日の話と矛盾しているように見えて、そうではありません。代表例は、境界確定の訴えです。

参照条文

  • 民事訴訟法134条
  • 民法770条

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